城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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これで王の剣編完結です!

次回からは兄弟達とのドタバタな日常の再開です!

お楽しみに!


第60話【選定そして前進】

ーー暗い。

 

ここは…?

 

ああ、水の中か…。

 

撃たれて、川に落とされたんだっけか…。

 

思ったより深かったのな、この川。

 

水面が遠くに見えるや…。

 

ははっ、深すぎ…海かって。

 

こんな状況でこんなくだらないこと考えれるもんなんだな。

 

時の流れが長く感じる。

 

ああ、死ぬってこんな感じなのか…。

 

 

ごめんな葵。

 

助けてやれなくて。

 

弱くて本当にごめんな…。

 

卯月は、ちゃんと伝えてくれたかな?

 

そうなら、必ず父さんや国がお前を助けてくれるから…。

 

もう少しの辛抱だよ。

 

 

俺はどうやらここまでだけど…

 

最期に葵の声が聞けて、昔みたく兄と呼んでくれて、

 

嬉しかったよーー

 

 

ーーあれは…?

 

薄れゆく意識の中、底に光る何かを見つけた。

 

…剣?

 

光も届かない暗い水の底なはずなのに、

 

なぜかそこだけ光の差し込み照らされた台座の上の剣。

 

なんでこんな所に…?

 

『問おう。汝、何故力を求める?』

「え…?」

 

突如、声が聞こえてくる。

 

『問おう。汝、何故力を求める?』

 

繰り返される同じ質問。

 

 

…俺は大切な家族を、大好きなこの国を守りたい。

 

『それが、どの様な道となろうとも?』

 

あぁ、それでも俺は大切なものを守りたい。

 

『その為に、どの様な犠牲を払おうとも?』 

 

それでも、俺はその全部を背負っていく。

 

『…自身の全てを犠牲にしてもか?』

 

そんなもの、俺の全てで済むならいくらでもくれてやる。

 

『…自己犠牲の果てに得られるものは孤独。それを受け入れる覚悟があるのか?』

 

大丈夫、俺は1人じゃない。

 

大切な家族がいる。

 

それにこれから色んな出会いもあるだろう。

 

そこで出会う仲間達がいてくれる限り、俺は道を間違える気はない。

 

『もし道を違えたとしたら?』

 

その時は、時代が俺を殺すだろう。

 

それか…そうだな、あんたが俺を殺してでも止めてくれ。

 

『ふ…覚悟は出来ているようだな。…よかろう、ならば汝に力を貸そう』

 

その瞬間、剣の輝きが増す。

 

『歴代の王より受け継がれし力』

 

剣が俺に向かって飛んでくる。

 

『汝ならうまく使いこなせるだろう』

 

そのまま俺の胸を貫く。

 

『若き王の器よ。汝の未来見せて貰おう』

 

!?

 

脇腹と足の銃で撃たれてできた傷が治っていく。

 

『賢王の名の元、汝を次代の器として認めよう』

 

全身の感覚が戻ってくる。

 

そして、先程俺を貫いた剣が手元に現れる。

 

脳裏に直接映像が流れ込んでくる。

 

これはーー

 

ーーーーーーー

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「もういいでしょう?あなたの兄は死んだんです。さぁ諦めて大人しく来てください」

「いや!」

「物分かりの悪い子供は嫌いですよ!」

「痛っ!離して!」

 

 

暴れる葵に激情し、葵の髪を引きずって連れていこうとする男。

 

その時、

 

「「ーー!?」」

 

物凄い勢いで水しぶきをあげて、川の底から翔が飛び出した。

 

『翔べ、次代の子よーー』

 

 

刹那。

 

本当に一瞬だった。

 

男が瞬きをした一瞬。

 

その一瞬で、空中にいたはずの翔は手にした剣で、葵の髪を掴む男の腕を切り落とした。

 

「な!?ぐ、ぐぁあああ!う、腕がぁ!!」

 

痛みに絶叫し腕を押さえ暴れる男。

 

その男を無言で睨む翔。

 

「何すんだてめぇ!!」

 

痛みをこらえながらも銃を発砲する男。

 

しかし、その全てを剣で弾きながら近づく翔。

 

「な!?く、来るなぁ、化け物が!」

 

その男の制止も聞かず、男に向かって剣を投げつける。

 

「は、はは!どこ狙ってーー」

 

その剣は男の横を通過していく。

 

それを見て笑う男だが、

 

「…え?なん、で…!?」

 

いつの間にか背後にいた翔に背中を切りつけられ。

 

そのまま息を引き取り、その場に倒れた。

 

 

「葵!翔!無事か!?」

 

しばらくして、ようやく駆けつけた国王である父総一郎と楠、ラムが目の当たりにしたのは、

 

血を流し倒れる2人の男と、同じく意識を失い横たわる翔に抱きつき必死に翔の名前を呼び続ける葵がいたーー

 

ーーーーーーー

 

「…ここ、は…?」

 

城、か…?

 

「お兄ちゃん!」

「兄さん!」

 

泣きながら抱きついてくる葵と修。

 

 

俺はどうやらあの後意識を失い、偶然城にいた修の能力で飛んできた父さん、楠さん、ラムにここまで運ばれたらしい。

 

「よかった!本当によかった!」

 

泣き続ける葵。

 

「葵…そうだ!怪我は!?大丈夫なのか!?」

「うん、お兄ちゃんが助けてくれたから!けど…」

 

そういって暗い顔をする葵と修。

 

「翔!目が覚めたか!?」

「陛下、落ち着いてください」

 

その時、父さんと楠さんが部屋に入ってくる。

 

「葵、修。悪いが翔と話がしたい、少し席をはずしてくれるか?」

「でも…!」

「わかった。姉さん落ち着いて、ここは父さんに任せましょう」

 

そう言って、動揺で冷静さを失っている葵を連れて部屋から出ていく修。

 

2人が出ていったことを確認して、話を始める父さん。

 

「翔…。今回だがーー」

「ーー俺は人を殺した、そうだろ?」

「!?」

 

あの時の事は、あまりよく覚えていない。

 

けど、手には人を切った感触が残っている。

 

何とも形容しがたいこの感覚、感情。

 

当然気分の良いものではない。

 

「翔、お前は人を殺めた。その事実は変わらない…」

「…うん」

「しかし、お前は結果、葵と自分の命を救った。何をしたのかじゃなく、何が出来たか、考えなさい」

「今回、翔様のご年齢と状況から翔様に非はありません。幸い、事実を知るものは陛下、私、ラム、葵様、修様のみです。しかし、人の命を奪ったという事実を今後あなたは背負って生きていかなくてはなりません」

「うん…わかってるよ師匠。その覚悟は出来てる」

 

あの時にも誓ったから…。

 

「ならば私からあなたに言うことはございません。ですが、その呼び方はやめてください」

「まあまあ、楠。重い話は置いておいて…翔!無事でよかった!」

 

そういって俺を抱き締める父さんと笑顔の楠さん。

 

「葵から聞いたぞ?撃たれたって!」

「あぁ、そうなんだけどーー」

 

「ーー傷が塞がった?」

「うん。この剣を手に入れた時に…」

 

そう言ってあの時の剣を手元に呼び出す。

 

何故か不思議とこの力の使い方がわかる。

 

「これは…!?翔…お前、川の底で何を見た…!?」

「えっとーー」

 

急に真剣な表情になる父さんに少し気圧されながら、あの時の事を説明した。

 

「ーーそうか…。お前が、選ばれてしまったのか…」

「え?」

「翔、お前は能力に目覚めたんだよ」

「え?俺は能力がないはずじゃ…もしかして傷を治す能力?」

「そうであって少し違うなーー」

 

それから父さんから俺のこの王の剣という能力について説明を受けた。

 

 

王の器に相応しい者から選ばれる。

 

先代に同じ能力を持った者が2人いたこと。

 

歴代の王達の力を使うことが出来ること。

 

まだ未完成であること。

 

そして、

 

「翔、お前にはこれから歴代の王達の墓をまわり武器を集めてきてもらう必要がある…」

 

この能力者が世に現れたということの重大さを。

 

その時代に能力が出現したということは、いずれその時代に何らかの大きな脅威、変化が訪れる。

 

その為に、武器を集め、力を蓄える必要があることを。

 

「すまない…お前にばかり背負わせてしまって…」

「大丈夫だよ父さん!力が手にはいるならむしろ好都合だよ」

 

こうして、俺の旅は決まった。

 

 

それに、わかっていたからーー

 

あの時、脳裏に流れてきたのは能力の使い方だけじゃない。

 

それは…この能力が辿ってきた歴史。

 

悲しみ、憂い、怒り、憎しみ、恐怖

 

ありとあらゆる負の感情が押し寄せてきた。

 

これが先代達の背負ってきたもの。

 

これだけのものを背負う覚悟があるのか?と問われた気がした。

 

正直、まだわからない。

 

けど、俺は進まなくちゃいけない。

 

みんなを守る為に力を求める以上、立ち止まるわけにはいかないんだ!

 

 

あの後、部屋に来た、ラムと話し、旅の支度をした。

 

そして、今回旅に同行することになったラムと曽和さんを引き連れ、城門に来ていた。

 

父さん、葵、修、楠さん、初姫さんが見送りに来てくれている。

 

 

「翔君…ごめんなさい。私のせいで…」

 

ああ、なるほど。

 

葵は自分のせいで俺を人殺しにしてしまった、旅に出なくちゃいけなくなったと思っていたのか…。

 

「葵。俺は大丈夫だよ!心配いらない!」

 

何も言わなくてもわかるよ。

 

なんたって、

 

「俺は葵の兄ちゃんだからな!」

 

そう言って、葵を頭を撫でて

 

「修。俺がいない間、家族を、みんなを頼むぞ!」

「兄さん…。はい!必ず!」

「おう!頼むな!」

 

そして、父さんの方を向き、

 

「では、陛下行って参ります」

「ああ、気を付けてな!母さん達には俺から言っておくが、たまには連絡しなさい?」

「はい!」

 

こうして、俺は旅に出た。

 

守るための力を得る旅にーー

 

殺めた命の分まで生き抜く罪滅ぼしの旅にーー

 

ーーーーーーー

 

あの日、俺は人殺しになり、王の剣の使命を背負った。

 

俺の手は既に汚れている。

 

だから国の、世界の裏の事情は俺が全て引き受ける。

 

他の兄弟達は知らなくていい。

 

だから俺は国王ではなく、その剣として国を守りたい。

 

これが俺が王を目指さない理由。

 

 

あの日以来、葵は俺の事をずっと気にしているようだ。

 

俺自身は吹っ切りているけど、葵はいまだに抱えている。

 

だから、

 

「もう、気にする必要はないよ」

「うん…けど、翔君1人に抱え込ませて追い込んだのは私。けど…!」

「…!葵…?」

 

その時、カーテンを開けて俺の前に立ち、まっすぐ俺の目をみてくる葵。

 

「私ももう前に進もうと思うの!いままでずっと翔君に頼りっぱなしだったけど、私ももう逃げない!この前の私の能力暴走期間のこと覚えてる?なぜかわからないけど翔君に私の能力は効かなかった。私嬉しかったんだ!翔君はそうやって、いつも私達の前で何事もないかの様に平気な顔して手を引いてくれる。けどこれからは私も翔君と並んで生きていきたいの!」

「葵…」

「能力が効かないなら尚更!ううん…私達は兄妹、双子なんだから、これからは私も翔君の力になりたい!」

 

あーあ、そんな真剣な顔でそんなこと言われたら、断れるわけないだろ…。

 

「…はぁ。わかったよ!けど無茶だけはするなよ?」

「ありがとう!」

「ああ。でもいつもちゃんと葵には支えられてるし力をもらってるんだぞ?」

「そうなの?」

「本当だ!そうだ、修にはこの事伝えとけよ?気にしてくれているみたいだったから」

「うん、修君にも色々心配かけさせちゃったね…」

「そうだな…まあ、改めて、これからよろしくな葵!」

「ーー!?うん!お兄ちゃん!」

 

そう言って抱きついてくる葵の勢いに負け、ベットに倒れこむ。

 

「ちょ!葵!?」

「今日だけでいいから…久しぶりに一緒に寝よ?…だめ、かな…?」

 

やめなさい、その上目遣いは反則です。

 

それに今日だけと言わず、むしろ毎日ウェルカムです!

 

とは、言わないでおこう。

 

とりあえず、ここは兄の威厳を保ちつつ、

 

「前進むんじゃなかったのか?昔のお兄ちゃん子に逆戻りじゃないか」

「いいの!今日だけだもん♪」

「ったく…」

 

か、可愛い…!

 

やはり、この世で一番は葵だ。

 

そう思いながら俺達は眠りについたーー

 

 

 

翔の腕枕で眠る葵はとても晴れた笑顔で眠っていた。

 

そして、翔もまたどこか安心した顔だったーー

 

 

余談だが、この6年間溜まりに溜まった憂いを晴らすことの出来た2人は安心の余り、2人ともに寝坊。

 

いい加減、お越しに来た茜が2人が共に眠る姿を見て、興奮し発狂。

 

それに駆けつけた、奏と岬が絶叫。

 

その日1日櫻田家が大変だったのは言うまでもないーー

 

 

 


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