城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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第59話【はじまりの日】

「ーーとまぁこんな感じかな…あれ?みんなどうした!?」

 

全てを話し終え、みんなの方を見ると全員が泣いていた。

 

感動して涙する者、興奮のあまり涙する者。

 

さすがに覇王の怪我やケンダツバの最期など、危なかった話はそれとなく誤魔化したものの、それでも心配で涙する者それぞれ。

 

 

「ーーあれ?じゃあ翔ちゃんが最初に手にしたっていう剣は?」

 

あの後、兄弟達、特に妹達に無茶な事は控えろとこっぴどく叱られ、ようやく落ち着いた所で茜が問いかけてくる。

 

「ん?ああ、賢王の剣のことか?それはーー」

 

この件について、下の兄弟達は何も知らない。

 

事情を知る葵と修だけが少し暗い顔をしたのを見逃さな買った。

 

「ーーたまたま森で拾ったんだよ!」

 

ここは適当に誤魔化しとくか。

 

「えー何それー!」

「本当に偶然森で見つけたんだから仕方ないだろ?」

 

その出来事がきっかけで旅に出ることになったのだが…。

 

「さ、話はここまで!もうすぐ夕飯の時間だ!みんな母さんの手伝いしてあげようか!」

「「「はーい!」」」

 

なんとか話をそらし、アルバムを片付ける。

 

 

その日の夜

 

「…翔くん、起きてる?」

「ん?ああ、どうした?」

 

皆が寝静まる時間、部屋を仕切るカーテン越しに葵が話しかけてくる。

 

「さっきの話の最後の事…」

「ああ、茜が言ってた賢王の話か?ーー」

 

ーーーーーーー

 

ーー6年前、11歳の4月

 

俺と葵は学校のイベントに参加して登山体験へと来ていた。

 

「…まったく…誰よ登山なんてしようって言い出したのは…?」

「菜々でーす」

「翔でーす」

 

「卯月ちゃん、大丈夫?」

「はいです!今日は体調も良いですし、たまにはこういう運動も必要です」

 

もちろん、卯月、静流、菜々緒のいつもの3人も一緒にだ。

 

「まあ、任せろ!なんかあったら俺が卯月おぶるから!」

「翔だと、熊でも素手で倒せそうだよなー」

「うーん、熊はまだ無理かなー…猪くらいなら!」

「あの…冗談だったんですけど…」

「「「…」」」

 

そんなこんなで、山を登り始める俺達。

 

「おい菜々!早すぎだ!」

「え?そんなわけ…あれ?」

「どうした?…あれ?」

 

気づいたら皆とはぐれてましたーー

 

ーーーーーーー

 

同行する教師と共に登る小学生の集団内。

 

「まったく、菜々緒と翔は何をしてるんだか…ね、2人とも…あれ?葵?卯月?」

 

ーーーーーーー

 

「大丈夫?卯月ちゃん!」

「はいぃ…」

 

集団から少し遅れた位置に葵と卯月はいた。

 

「葵さん、すいません」

「ううん!大丈夫だよ!ゆっくり行こ!」

 

体力的についていけていない卯月の付き添いだ。

 

「さすが凄いですねあのお2人は」

「さすがに菜々ちゃん1人じゃ心配だしね…」

 

本当は安全面を考えるとこの場に翔もいるとベストなのだが、1人で先を行く菜々を追いかけ、現在絶賛はぐれ中だ。

 

 

そへから少し歩いたところで、

 

「…卯月ちゃん、そのまま落ち着いて聞いてね?」

「え?はい?」

「さっきから私達のあとをつけている人達がいる…」

「え!?はぅっ!」

 

驚いて大声を出そうとする卯月の口をふさぐ。

 

「いい?卯月ちゃんは走ってこの事を皆に伝えて」

「え?でもそれじゃあ葵さんは?」

「私は大丈夫だから。あの人達の目的はきっと私だから、頼めるのは卯月ちゃんしかいないの。お願いーー」

 

 

しばらくして3人の男が目の前に現れた。

 

「お初にお目にかかります葵姫」

「貴方達は?」

「なぁに、ただの金に飢えた男共ですよ」

「なるほど、私を人質に身代金目的ですか」

「さすがは秀才と聞く第一王女様、話が早くて助かりますね」

「…」

「平静を装っても、どうしました?震えていますよ?」

「!?」

「そういえば、もう1人いましたね…」

「!?貴方達の目的は私のはず、あの子は関係ないはずです!」

「ええ、確かに関係ありませんが、我々の計画の前に邪魔されては困るので…」

 

そして話していた男は仲間の1人に指示をだし卯月を追わせる。

 

「ま、待ってーー」

「おっと、あなたはこちらですよ!」

「!?」

 

そういう男に催眠薬を吸わされ、意識が薄れていく…。

 

 

お兄、ちゃんーー

 

ーーーーーーー

 

「はぁ…はぁ…」

 

はやく!

 

はやくみんなに伝えなきゃ!

 

山道をひたすら走る。

 

 

だめ…体力が…!

 

「やっと見つけたぞ」

「!?」

 

そんな!?

 

もう追いつかれた!?

 

「所詮は子供の足、大人には勝てないぞお嬢ちゃん」

「そんな…!葵さんは!?」

「姫様なら今ごろ俺の仲間が捉えたとこだろ」

 

!?

 

だめ!

 

そんなのだめ!

 

急がなきゃ!

 

はやくみんな、翔さんに知らせなきゃ!

 

「おっと、逃がさねぇよ?」

 

先を急ごうとするも、回り込まれる。

 

「嬢ちゃんに罪はねぇが、俺達の邪魔をされても困るんでね…」

 

そういって近寄ってくる男の人。

 

「ーー!」

 

恐怖で目をつぶる。

 

しかし、いっこうに何も起きず、

 

「がは!?」

 

聞こえてきたのは鈍い音と男の人の短い悲鳴。

 

「…え?…あ!?」

 

恐る恐る目を開けると、そこにはーー

 

ーーーーーーー

 

「すきだらけだおっさん」

「しょ、翔さん!?」

 

襲われていた卯月と男の間に入り、腕を横に振り男のあごを殴った。

 

男はその衝撃で脳が揺れ、気絶した。

 

体術で相手をとらえたいならあごを狙え。

 

師匠とラムさんの教えだ!

 

急所ぐらいしっかり守っとけばか野郎!

 

 

それより、

 

「卯月、無事か!」

「はぁはぁ…はい!ありがとう、ございます…!」

「心配になって引き返して来てみたら、誰だこいつは…?あれ?葵は?」

「あ!そ、そうです…!あ、葵さんが!」

「葵がどうした?もう少し落ち着いて話してくれ」

「はぁはぁ…拐わ、れて…!」

「!?」

 

 

走る、ひたすらに走るーー

 

 

「ーーごめんなさい!私何も出来なくて、この事を知らせることしか…!」

「そんな事ないさ、卯月はこうしてここまで来てくれた。それだけで十分さ!」

「本当に、ごめんなさい!私が、歩くの遅かったせいで…」

 

持っていた登山用のロープで気絶した男を木に縛り付けながら、泣き続ける卯月をあやす。

 

「そんな事ないよ!油断して2人を放置してしまった俺の責任だ、むしろごめんな、こんな怖い思いさせて」

「いえ!そんなことは…!」

「ありがとう…あとは俺に任せて!卯月は先生達にこの事を伝えてくれ!」

「は、はいです!でも翔さん1人じゃ…あ!」

 

そして卯月の言葉も最後まで聞かずに俺は飛び出したーー

 

 

ーー葵!

 

どうか無事でいてくれーー

 

 

はぁ…はぁ…

 

どこだ!?

 

どこにいる!

 

 

誘拐された葵を追って、卯月が来たという道をひたすら走る。

 

しかし、山の中

 

ここから見つけ出すのは至難の技だ。

 

その時、

 

あれは…!?

 

 

「これは…葵の水筒!」

 

ってこはこの辺りか!

 

 

しゃがんで地面に手をつき、目を瞑る。

 

 

集中しろ!

 

微かな音すら聞き逃すな!

 

 

風が草木を揺らす音、動物の音、川の流れる水の音ーー

 

「ったく、山は歩きにくいな!なんでこんな所なんだよ!」

「けどそのおかげで、人目に触れず計画を遂行できた」

「運のねぇ姫様だな!」

「さ、急ぐぞ」

 

 

ーー見つけた!

 

立ち上がり、その方向に走り出すーー

 

 

この時、俺の体が藍色に輝いていたことを俺は知らない。

 

 

川沿いを歩く2人の男。

 

「ーーそれにしても、遅いな…」

「まさか!しくじったんじゃねぇよな!?」

「そのまさかだよーー」

「ーー!?」

 

1人の男を背後から押し倒し、動きを封じる。

 

「な!?この、ガキ!」

「動くな、的確な場所さえ知ってれば、子供の俺でも人の腕ぐらい簡単に折れるぞ」

「ぐ!い、痛ぇ!?」

 

押さえ込んだ男の腕を少し曲げて、葵を担いだもう1人の男を睨む。

 

葵は!?

 

よかった…どうやら眠らされているだけのようだな。

 

「悪いけど、妹は返してもらうぞ!」

「これはこれは…第一王子の翔様までいらしていたとは…。しかし、噂通りお強いですねぇ…王女の方を狙って正解でした」

「あ?あぁ、なるほど。国王から身代金でも貰おうってことか…?」

「おまけに鋭いときますか」

「ごたくはいい…はやく妹をおろせ。こいつがどうなってもいいのか?」

「…何か勘違いしていませんか?私はそいつがどうなろうも知ったことではない。けど、あなたはこの方に何かあれば困る…違いますか?」

「「な!?」」

 

そう言ってゲスな笑みを浮かべ、葵の頭に拳銃を突きつける。

 

「自分の立ち位置を考えた方が懸命ですよ?」

「く…ちぃ!」

 

舌打ちをしながら押さえ込んでいた男を解放する。

 

「ありがとうございます。では…」

「…え?」

 

瞬間、その男は俺に押さえられていた男に向けて発砲した。

 

「!?おい!あんた!大丈夫か!?」

「俺の計画にお前はもういらないな…」

「しっかりしろ!…お前!仲間じゃないのかよ!?」

「子供ごどきにしくじるようなら計画には不要。邪魔物を消すのは当然の事ですよ王子」

 

そう言ってもう一発発砲され、当たり所も悪く、男は完全に息を引き取った。

 

「…!」

「おや?なんですか、その目は?」

 

こいつ…!

 

「あー、安心してください。葵様はしっかりと私が面倒を見ますよ」

「なに?」

「身代金を頂いても帰すわけないじゃないですか。あと数年もすれば良い具合に成長するでしょう。だから私が責任をもって引き取らせて頂くんですよ」

 

そう言ってゲスな笑みを浮かべる男。

 

「!?お前!葵に何かしてみろ!?その時はーー」

「ーーこの様に殺しますか?」

 

そう言う男は俺に向かって銃口を向けていた。

 

「…え…?」

 

右の脇腹に手を当てると濡れていた。

 

「…血?ぐふぅ!」

 

掌を濡らしたのは自らの血液。

 

瞬間、激痛が走り、口からも血を吐く。

 

「貴方がいけないんですよ?私の邪魔をするからです。私の計画にあなたは不要だ。ここで消えてください」

「くっ!」

 

痛みで傷口を押さえうずくまりながらも、相手を睨む。

 

「…まだそのような目が出来ますか。本当にただの小学生ですか?その意思の強さには感服しますね」

「…へ。お前、も…礼儀、はしっかり、してんのな…」

「ーー!?減らず口を!」

「ぐっ!」

 

顔を蹴られる。

 

「…ぅう…ぅ…?」

 

その時、葵の目が覚めた。

 

「ーーん?…んんんんー!!」

 

口をふさがれ、体を縛られた葵が血だらけの俺を見つけ、涙を流しながら暴れだす。

 

「暴れないでください。めんどくさいでしょ?」

「」

「んん!?」

「あ、おい…!?」

「んんんん!!」

「私の言葉は一度で聞いてください!」

 

そう言って担いでいた葵を地面に叩きつける男。

 

「ん!?」

「て、めぇ…!」

「!?その傷でまだ立てるのか!?」

「ぐぁあ!?」

「んんんんーー!?」

 

立ち上がり睨み付ける俺を見て動揺した男に次は足を撃たれる。

 

けど、

 

知ったことか!

 

「葵を、返せ…!」

「!?化け物ですかあなたは!?」

「ぐっ!」

 

男に蹴り飛ばされ川の中へ落ちる。

 

「私だって子供を手にかけたくはないんですよ。せめてそこで自然死してください」

 

川の水が赤く染まる。

 

体に力が入らず沈んでいく。

 

 

先程の衝撃で口をふさぐテープがはがれたのか、

 

「ーーお兄ちゃん!」

 

最後にそう聞こえた気がした。

 

 

葵ーー


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