城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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第55話【獅子王の眷属】

初めは妹のわがままだった…。

 

鈴音の言うことには一理あったし、目的に近づく為なら良いと思ってた…。

 

 

最近鈴音はよく笑うようになった。

 

前から明るい子だったけど心からの笑顔を見せたのはいつぶりだろうか…。

 

確かにこの場所は居心地がいいけど…

 

今まで私が生きてきた世界に比べたら、

 

「シヴァじゃねえか。出掛けんのか?美味そうなもんあっなら教えてくれ」

 

「シヴァか気をつけてな」

 

「あ、シヴァさん!ここの温泉、お鍋出るみたいですよ!夕飯の時間までには帰ってきてくださいね!」

 

「…いってらっしゃい…」

 

「シヴァ、今朝は敗けたが明日は敗けんぞ!」

 

「あ、シヴァ!買い物?付き合おうか?」

 

この場所はあまりにも眩しすぎるーー

 

 

「ーーそれで…なぜついてきてるんですか?殿下…」

「え?暇だったから?」

 

1人で大丈夫だからと言ったのに…。

 

「いいじゃん!同じ双子の上の仲じゃんか!」

「…理由になってないです」

 

 

それからしばらく買い物をし、ベンチに座って休憩をしていると、

 

「…シヴァさぁ…俺らといるのなんか無理してない?」

 

!?

 

「あ、違ってたらごめんね!けど、なんかまだ壁を感じるなって…」

「…いえ…私は…すいません、まだわかりません…」

「…そっか。けどあんま無理しんなよ?…家族や国を守る為に仲間を集めといて、その仲間が笑顔じゃなかったら元も子もないからな…少しずつ馴れていってくれればいいよ…」

「…はい。ありがとうございます…」

   

この人は良く他の人を見ている。

 

確かに目はいい人だと思っていたけど、人の感情の変化や長所や短所を見抜く目を持っている。

 

それゆえに、あの日も私達を受け入れてくれたんだと思う。

 

初対面の私達の本質を見抜き、信頼をおいてくれた。

 

けど、

 

「さ、とりあえず今日はもう帰ろう!夕飯に遅れると曽和さんはうるさいんだ」

 

そう笑う殿下。

 

「…はい」

 

私は、この人に何をしてあげれるだろうーー

 

 

それから数日が経ち、私達は獅子王様が眠るお墓があるという洞窟へと来ていたのだけど…

 

「あ、やば!ごめん、翔くん!私つっかえちゃって通れそうにないや!」

 

細い通路を抜ける際に鈴音の胸がつっかえた。

 

「なん…だと…!?」

 

はぁ…殿下、またですか?

 

やはり男の人は胸なんですか?

 

大きさなんですか?

 

こういうところは夜叉王様そっくりですね。

 

自覚ないんでしょうけど…。

 

 

ところで、

 

「…殿下、セクハラですよ?死んでください」

 

チラッとリヴァと私の胸を見比べた殿下を睨む。

 

「死!?」

「おいシヴァ!お前、翔様になんて事言うんだ!」

「なんですかバハ。パワハラですか?死んでください」

「死!?」

 

そして爆笑してあるイフ。

 

…このメンバーの男性はうるさい人しかいないのかしら?

 

 

結局、その通路をラムとタンも抜けれず、少数精鋭と言うことで殿下、私、バハ、イフの4人で奥に進むことになった。

 

 

それにしても…

 

…普通に通れた私ってなんなんだろう…。

 

 

「だあ!めんどくさい!なんなんだよこの光!」

 

しばらく歩いていると、前方から光の筋が飛んできた。

 

「獅子王の斬撃を空間にとどめて飛ばす能力、閃光解放(ライトニング)の斬撃だろうな…間違っても当たるなよ?さすがに首が飛んだら俺の能力でも治せん」

「さらっと怖え事いうなよ!」

 

 

「いいか、俺とバハであの斬撃の軌道をそらす。その隙にシヴァが奥の元を絶ってくれ。イフはもれた斬撃の処理でシヴァの援護を、相手は王の能力だ。出し惜しみせず最初から眷属器で迎え撃て!」

「「了解!」」

 

岩に隠れての作戦会議。

 

了解、じゃなくてーー

 

「ちょっと待ってください!なぜ私なのですか?」

「この中じゃシヴァ一番足が速いから」

「それなら殿下でもいいじゃないですか」

 

 

「いまだ行け!シヴァ!」

 

結局こうなるのね…。

 

行けじゃないわよ、バハ。

 

明日の朝の稽古、覚えてなさい。

 

 

あれ?明日の朝…?

 

いつから私はここでの未来を考えるようになったんだろう…。

 

 

けど、

 

「頼んだシヴァ!」

 

なぜだが殿下(あなた)に頼られるのは悪い気はしません。

 

「ーー!」

 

2人の言葉と共に駆け出す。

 

すると目の前からさらに2本の斬撃が飛んでくる。

 

仕方ない、防ぐしかないか…。

 

と、思いながら自身の剣を抜こうとしたら、

 

「お前の援護が俺の役目だ…」

 

雷鳴と共に私の左右を雷が横切り、斬撃を相殺した。

 

振り返ると右手に雷を纏わせていたイフが弓を構えていた。

 

本当、眷属器の能力って便利ね…。

 

「…行け」

 

そうして次々と飛んでくる斬撃を相殺していくイフ。

 

戦闘となると口数は減るし冷静。

 

普段の短気な姿からは想像がつかない…。

 

きっと二重人格者なのね。

 

 

…けど、これなら殿下とバハは必要ないんじゃ…

 

「とう!」

 

「はっ!」

 

「せいやー!」

 

「…って!?お前らそれただ素振りしてるだけじゃねぇか!」

「いや、だって俺らのとこまで来ないし?」

「翔様のお手を煩わせずに済むし、俺も楽で助かる。その調子で働け」

「俺の眷属器もいい加減持たねえよ!」

 

…見なかったことにしよう。

 

 

そしてどんどんと奥へ進むと、さすがに皆の援護も届かなず、自力でなんとか奥まで辿り着く。

 

『ーーふむ、私の元に辿り着いのが眷属でもないただの小娘とはな…』

「…私だってそんなつもりではありませんでしたよ」

『…まあ良い。私を止めに来たのだろう?見たところ私と同じ双剣使いか。楽しませてくれるのだろうな?』

「別に私に意味はありませんが…仕事ですので、そうさせていただきます!」

 

互いの剣がぶつかり合う。

 

 

『ーーそろそろ諦めてはどうだ?』

 

強い。

 

なんて強さなの?

 

能力を使わずにこの強さ。

 

それに私と戦いながらも後方の殿下達への追撃も止めてない。

 

通りで、いっこうに殿下達が合流できないはず。

 

なんて人なの…!?

 

底が計り知れない。

 

『お前じゃ私には勝てんよ』

「…その様ですね…」

 

ここで諦めたら殿下は叱るだろうか…?

 

二度と期待してくれないだろうか…?

 

いや、殿下の事だ、恐らくどちらもないだろう。

 

 

「お姉ちゃん、最近よく笑うようになったね!お姉ちゃん笑顔見るのなんて何年ぶりかな!私すごく嬉しいよ!」

 

以前、買い物行く前に鈴音に言われた言葉。

 

最初言われたときは、私が?むしろそれはあなたの事でしょ?、と思ったけれど…

 

…そっか…

 

私もいつの間にかこの環境がたまらなく大切になっていたんだ。

 

仲間と過ごす日々が…仲間の暖かさが…

 

闇に生きてきた私を変えてくれたんだ。

 

なにより、あの人がそんな私達を、私を救ってくれた…。

 

 

だから!

 

「我が主の期待に応えたいので引くわけにはいきません!」

 

剣で体を支えながら獅子王様を睨み付ける。

 

『…そうか、ならば…』

 

剣をこちらに向ける獅子王様。

 

『…合格だ!』

「…え?」

 

その瞬間、私の剣が輝き、獅子王様と同じ双剣になった。

 

これは…!?

 

「…眷属器…!?」

『やつはわかっていたのだろうな。お前の心の揺らぎを…。だから今回お前をここは寄越したのだろう。…結果、眷属が1人増えたが…どこまでが計算の内か…』

 

そう言って笑う獅子王様。

 

『やつは間違いなく王の器だ…それも先天的にな。さすが賢王殿が選んだだけはある…。お前はそんなやつの期待に応えた。もともと私の元に辿り着ければ合格だったのだ…。その眷属器はおまけだ…お前なら上手く使いこなせるだろう…』

 

そう言って消えていく獅子王様を見ながら、静かに頭を下げて見送った。

 

 

「ーーシヴァ!無事か!?」

 

それからすぐに殿下達が合流した。

 

「ありがとう!よくやってくれたよ!お疲れ様!」

 

そう、心から喜んでくれる殿下。

 

そうだ、言わなくては…

 

「殿下、先日の答えですが…」

「…迷いは消えたみたいだね!」

 

私の言葉に察してくれた殿下は笑顔でそう言った。

 

本当に、どこまでも見透かす人だ。

 

それもあって、余計に人の為に動いてしまうのだろう…。

 

だからこそ、私は…

 

「はい。私も、大切なものを見つけました。…これからは貴方様のご意志と夢の為、お供させていただきます!」

 

そう言って臣下の礼をとる。

 

「そうか!これからもよらしく頼むよシヴァ!」

「仰せのままに(マスター)!!」

 

この方と、みんなと歩んでいきたいーー

 


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