城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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大変お待たせいたしました!
けっきょく2週間間をあけてしまい申し訳ありません!


第54話【闘技場の怪物】

あの事件の後、姉妹は名前を捨て、俺達の仲間となったーー

 

姉の詩音はシヴァ。

 

妹の鈴音はリヴァ。

 

もちろん命名、俺!

 

シヴァは同じ剣士、真面目のバハと意気投合し、互いを高め合う仲に…。

 

リヴァは持ち前の明るさでうまく溶け込み、同じ女の子の曽和さんとは特に仲が良くなっていた。

 

 

そして15歳になった夏の夜ーー

 

「わー見てください翔様!」

 

俺達はとある町の夏祭りへと来ていた。

 

「満姫ちゃん、なんだか元気ねぇ!」

「ああ、王都も毎年夏祭りしてんだよ…もう王都を離れて4年だしね…ずっと旅してばっかだったし、それもあってだと思うよ…」

 

リヴァを歩きながら先で手を降る曽和さんを見る。

 

他の皆もそれぞれ祭りを楽しんでもらっている。

 

「なるほどねー…翔くんもしかして気にしてるの?」

「…まあ一応は」

「はぁ…あのね?嫌だったらついてきてないよ!満姫ちゃんも、私も、みんなも…きっと!」

「…そっか、そうだといいな…ありがとうリヴァ!」

「いいえ!…とりあえずそろそろイフくん止めなくていいの?」

 

そう言ってリヴァの指差した先には、射的屋で景品を総取りして店の人を泣かせているイフがいた。

 

「…はぁ」

「あははは」

 

 

「ーーにしても本当に綺麗だなあ」

「はい!イルミネーションが幻想的です!」

「この町は光の都って言われる程、イルミネーションが綺麗で有名らしいよ!前に仕事で何度か来たことあるんだ!」

「「へー!」」

 

リヴァの説明を受けながら3人で町を散策する。

 

 

「翔様あれ美味しそうでーーへう!?あ、ご、ごめんなさい!」

 

はしゃぎすぎて通行人の男の人とぶつかる曽和さん。

 

ぺこぺこと謝る曽和さんに対し、その人は一度頭を下げて、人混みに消えていった。

 

「大丈夫?曽和さん…でかい人だったね…」

「は、はい!…なんだか壁にぶつかったかと思うほどにたくましい人でした…」

「うん、2人ともそれ普通に失礼♪」

 

そう言って笑うリヴァ。

 

「けど、あの男の人どこかで…」

「「え?」」

 

ーーーーーーー

 

「あ?メイドにリヴァじゃねえか!お前らがこんなとこにいるとは意外だな…」

 

イフ、満姫、リヴァの3人は祭りの催し物の闘技大会へと来ていた。

 

「あらイフくん♪…まあ、色々あってね…」

 

苦笑いを浮かべながら指を指すリヴァの先には…

 

「…なにしてんだよ、あいつ…」

 

笑顔で手を振る翔がいた。

 

「それがねえーー」

 

 

「ーー怪物、ねぇ…」

「ええ。満姫ちゃんがぶつかった男の人、どこかで見た事あると思ったら…」

 

 

怪物

 

そう呼ばれて恐れられる男の名は、丹原(たんばら)

 

何者も寄せ付けぬ怪力で相手を退ける、元・雇われ傭兵。

 

その名前と、彼がこの大会に出場することを知り、今回翔も出場した。

 

「…んで強いのか?」

「そりゃ、ね。かなりできるって噂よ?…って、まさか!あなたも戦いたいとか言わないわよね?」

「そりゃ戦ってはみてえけど、体術の戦闘に関しちゃ俺らの中で一番は確実に翔だ…俺の出る幕はねえよ」 

「ふーん…」

「…んだよ」

「いや、意外に冷静なんだなぁと…」

「ほっとけ!」

「イフさんは戦いの事だけは冷静ですからねぇ」

「だけってなんだよ!俺はいつでも冷静だ!」

「ひぃ!ごめんなさいぃ!」

「ちょっと!満姫ちゃんいじめないでよ!…それよりほら!始まるみたいよ!」

 

リヴァの言葉に全員が闘技場に目を向ける。

 

ちなみにもう既に決勝戦だ。

 

『皆様お待たせしました!いよいよ決勝戦です!』

 

司会の言葉に会場に歓声がわく。

 

『それでは選手の登場です!その剛腕で数多の選手を凪ぎ払ってきた丹原選手!そして、軽い身のこなしのスピードと凄まじい攻撃力をあわせ持った桜庭選手!』

 

「…桜庭(さくらば)って誰だよ」

「本名だと色々面倒だからってさ…」

「ああそう…にしてもメイドはこう言うの平気なのか?大好きな主がボロボロになるぞ」

「まあ…翔様の無茶は毎度の事ですし、この旅で何度も危険な場面をご一緒してきたので、もう馴れちゃいました!」

「最初の頃は毎度毎度おろおろになってたのにな」

「き、気のせいです!」

 

 

そんな会話をしているうちに、

 

『それでは!試合開始!』

 

試合開始の鐘が鳴り同時に翔が駆け出す。

 

 

この大会のルールはいたって簡単。

 

武器は自身の肉体のみ。

 

相手を戦闘不能または降服させれば勝ち。

 

 

丹原の目の前で飛び上がり、丹原の顔の横目掛けて、空中で回し蹴り。

 

この人間離れした超人的動きに歓声があがるが…

 

「あのバカ、初手を防がれやがって…」

 

丹原は片手でそれを受け止めていた。

 

そして、そのまま翔の足を掴み、

 

「がはっ!ーーうぉ!?」

 

地面に叩きつけ、壁に向かってぶん投げた。

 

『な、なんという力だぁ!桜庭選手は大丈夫かぁ!?』

 

「翔様!?」

「人ってあんなボールみたいに投げ飛ばせるもんかよ普通…」

「大丈夫よ満姫ちゃん!ほら…」

 

凄まじい勢いで飛ばされ壁に叩きつけられた翔だが、

 

「やーびびったぁ…」

 

平気な顔をして立ち上がった。

 

ーーーーーーー

 

「やるねぇ…怪物傭兵、さん!」

「!?なぜその名を…?」

「連れに情報通な子がいただけだよ…あなたと話をしてみたかったんだ」

「そうか、けど…」

 

瞬間、丹原に一気に間合いを詰められ、

 

「俺は何はも話すことはない」

 

ーー速っ!?

 

顔面を殴る勢いで地面に叩きつけられた。

 

「っー!その巨体でなんて速さだよ!」

 

しかし、ギリギリ両手の掌で受け止める。

 

「…今のを受け止めるとは…君は一体…?」

「あなたと同じ志しを持つ者、さ!」

「な!?ーーぐ!」

 

そして倒れていた状態から丹原の首に足をかけ、背後に回り込み、頭をつかんで顔面から地面に落とす。

 

「とりあえず仕返しね」

「…この程度で…!」

 

ーーな!?

 

急に力が増した…!?

 

背中から押さえ付けていたのに力ずくで吹き飛ばされーー

 

「ーーぐはぁ!?」

 

鳩尾を殴られそのまま吹き飛ぶ。

 

「がはっ!げほっ!」

 

やば、もろにはいった…。

 

そう思いながら相手に目線を向けようとするが

 

!?

 

気づけば背後を取られており、ギリギリの所でかわす。

 

「ちぃ!そう、なんども…!」

 

攻撃をかわしながら相手との間合いを詰め、

 

「食らうか!」

「ーー!」

 

拳と拳がぶつかり合う。

 

「ぐぅ…うわっ!?」

「…!?」

 

力負けし吹き飛ばされる。

 

丹原は少し後退りしただけ。

 

 

ーー痛ぇ!

 

なんだあの固さ!?

 

いくら打ち込んでも逆にこっちの拳が壊れそうだ!

 

 

その後、互いに一歩も譲らぬ攻防が続いたが、

 

 

やっべ、もう限界だ…。

 

意識がとびそうだ…。

 

 

互いにボロボロになり疲れ果てながらも、先に限界を迎えたのは俺だった。

 

 

…また、敗けるのか?

 

 

薄れゆく意識の中、夜叉王の墓での事を思い出す。

 

敵の眷属器使いの能力で、意識が薄れていった時の事を…。

 

あの日以来、修行にもさらに力を入れてきた。

 

あの時、イフが来てくれてなかったら確実に殺られていた。

 

あれは完全に俺の敗けだった…。

 

リヴァを守ると言っておきながらも夜叉王に助けられ…

 

守るために力をつけてきたはずがイフに助けられ…

 

限界…?

 

知ったことか!

 

限界迎えようがなんだろうが、

 

俺は、もっと…

 

「ーー強く!」

 

前に倒れそうになるのを踏ん張り、相手に向き合う。

 

「…」

 

相手もこちらを見ている。

 

お互いに理解した。

 

ーー次の一撃で最後だ!

 

互いに距離を詰め合い。

 

「もう、負けらんねえ!」

 

拳が交差するーー

 

ーーーーーーー

 

「ーー強く!」

 

翔がそう踏ん張った時、

 

「「「!?」」」

 

翔の体が藍色に輝いていたのにイフ、リヴァ、満姫、丹原の4人だけ気づいていた。

 

「なにあれ!?」

「あれは…王家の方々が特殊能力を使う際の光ですね」

「翔の能力は王の剣だろ?何も出てねえぞ?」

「…王の剣ではない他の能力、ってこと?」

「そんな!本来は1人1つのはずですよ!」

「けど、前例がないわけじゃねぇだろ…」

「祖王様ですか…」

「…まさか、ね…」

 

ーーーーーーー

 

「……ん?」

「あ!目が覚めましたか?翔様!丹原さん起きましたよ!」

「はいよー」

 

曽和さんに呼ばれて丹原の寝る部屋へ行く。

 

「や、どうも!」

「え…怪我は?俺もか…」

「うん、あの大会の後、気絶したあなた運ばせてもらって俺の能力で治させて貰いました」

「…やはり君は王族か…?」

 

怪我は賢王の能力で治させてもらった。

 

普段は軽い怪我なら曽和さんに手当てしてもらうけど、今回はお互いやり過ぎてボロボロだったし能力を使った。

 

高速治癒の能力は疲れるからあまり使いたくないのだけど、いつまでも放置しておくと曽和さんがうるさいからな…。

 

「…あれ?なんでわかったんですか?」

「…王族専門の傭兵だったから…それでだ…」

「なるほど!」

「しかし、櫻田家に雇われたことはないな…君は放浪中の第一王子だろ?名前を聞いて納得が言ったよ…」

「それは話が早くて助かります」

 

 

それから全てを話し、全てを聞いた。

 

なぜ俺達が旅をしているのか、なぜ傭兵をやめたのか。

 

俺は知っていた。

 

 

丹原は傭兵時代、稼いだお金を施設に寄付していた。

 

丹原は孤児だった。

 

そんな自分を育ててくれた施設、さらには他の孤児院にまでお金は寄付していた。

 

そんな彼を俺は昔、噂話で知った。

 

尊敬してすらいた。

 

けどある日引退したと知った。

 

その理由がどうしても知りたかった。

 

理由は簡単だった。

 

一度、施設の子供達に何の仕事をしているのか、と聞かれたそうだ。

 

その時、胸を張って言えなかったらしい。

 

善だろうと悪だろうと雇い主を守る仕事。

 

悪だとわかっていても従うしかない仕事。

 

それを子供達には胸を張れず、むしろそのお金を寄付する事すら恥ずかしくなり、そんな自分に限界がきたらしい。

 

いまはその力を利用して建設現場で仕事をしつつ、今回のようにいろんな大会で賞金を集めているらしい。

 

 

なら話は早い、

 

「それなら俺に力を貸して欲しい!」

 

 

こうして、この日、丹原が仲間に加わった。

 

「あ、なら名前つけないとな!丹原、たん、ばら…タンだな!」

 

ーーーーーーー

 


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