城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

58 / 75
第53話【夜叉王の眷属】

「!?」

 

どこかよそ見をしていた鈴音がふいに倒れた敵につまずき転んでしまう。

 

「「鈴音!」」

 

俺と詩音が一斉に駆け出す。

 

 

けど、この距離はまずい!

 

間に合わない!

 

 

1人の男が鈴音に剣を振り下ろす。

 

 

守るとから言っておいてこの様かよ!

 

情けねえ!

 

くそぉ!

 

 

その時ーー

 

『やれやれ本当に情けない奴だな。守りたいものがあるなら手の届く範囲にとどめとけ』

「「「!?」」」

 

夜叉王がその男を吹き飛ばした。

 

「夜叉王!?あんた!」

『今回だけはこの巨乳の姉ちゃんに免じて特別だ』

「「…」」

 

あ、やっぱこの人あほだった。

 

少しでも見直した俺が間違いでした。

 

「…困りますねぇ夜叉王殿。こちらも貴方は手を出さないと思っていたのですが?」

『俺もそのつもりだったんだけどな、事情が変わった。…お前、何者だ?』

 

そう言って急に真面目な口調で指揮官の男を睨む夜叉王。

 

「なんの事ですかな?」

『俺を前にとぼけんなよ…お前からは王族に近い気配を感じる、誰の眷属だ?』

「「「!?」」」

 

夜叉王の言葉に驚く俺達。

 

 

何!?

 

眷属!?

 

どういうことだ!?

 

こいつの言っていた主ってのは王族?

 

そいつが俺の邪魔を?

 

 

「ははは、もちろんそれは内緒と言うやつですよ」

 

やばい急展開過ぎて困惑してる。

 

『…まあ死んでる俺には関係ないことだからな、なんでもいい。…どちらにしろ俺はこれ以上介入できない。後の事は次代に託すさ…と、その前に…』

 

夜叉王は鈴音の剣に触れると、

 

『これは俺からだ。お前なら使いこなせるだろ…うまく使えよ?』

 

鈴音の剣が6本の短刀に変わった。

 

「え?」

『お前をあいつの眷属として認めるって事だ』

「…なんで?」

『なんでってさっき話したろ?眷属としての条件、お前とあいつの信頼関係は既に出来上がっている』

「ありがとう…ございます!」

 

そう言って短刀を手に取り立ち上がる鈴音。

 

よかった…怪我はないみたいだ

 

『お前は俺とあいつの能力を持ったんだ、他の眷属と比べて特別だぞ』

「…はい!夜叉王様!」

 

夜叉王の言葉に何かを察したような鈴音。

 

そういや、みんなもなんか言ってたな。

 

最初、頭の中に能力の使い方のイメージが流れてきたとか。

 

 

まあ、何はともあれ、

 

「反撃開始だ!」

 

 

しばらくして、黒服は全滅。

 

鈴音の得た能力は俺と同じ王の剣。

 

他の眷属はワープしか出来ないのに比べ、武器の呼び寄せまで出来るようになっている。

 

夜叉王と俺の王の剣が合わさって能力が増えたのか。

 

特別ってのはそういうことか。

 

 

「…んで、残すのはあんた1人だけど…?」

 

残った指揮官の男を睨む。

 

「本当に、困りましたねえ…眷属まで増やされては…」

 

そう言いつつも表情を変えない男。

 

「…しかし、さすがに面倒ですね…」

 

男のかけていた片眼鏡が光る。

 

「まとめて眠ってもらいますか…」

「「「!?」」」

 

何!?

 

急に眠気が!?

 

「…これ、は…!?」

『…眷属器か』

「おや?まあ、やはり死者には効きませんか」

 

笑う男。

 

「…く、そ…!」

 

薄れていく意識の中相手を睨む。

 

 

その時ーー

 

 

「ーーやっと見つけたぜ、主よ」

「!?」

「…イ、フ…!?」

 

俺達と男の間に、轟音と共に雷が落ち、そこにはイフが立っていた。

 

「たっく、世話のかかる主だな…んで…?」

 

そして男を睨み、

 

「うちの主をやってくれたのはお前か…?」

 

右手に雷を宿すイフ。

 

「翔様!ご無事ですか!?」

 

そして、バハ、ラム、曽和さんの3人が追い付き走ってくる。

 

バハとラムはイフと共に男を囲むように構える。

 

「翔様!意識はありますか?しっかりしてください!

「うん…曽和さん…イフのおかげで、なんとかーーごはぁ!?」

「ーーいいですか!寝ちゃダメですよ!」

 

返事をしてるのに必死なのか聞こえておらず、ビンタされたり揺すられたり…

 

「…ちょ…やめ…本当に…死ぬ…」

「わぁあ!?すいませぇん!」

 

心配してくれたのは嬉しいんだけどね…。

 

「…参りましたねぇ、ここまで眷属の方々に揃われては。…時間切れですね…」

 

そう言ってため息をつく男。

 

「あ、そうそう。そこの姉妹に朗報ですよ。あなた方の両親を殺した者を私は知っている。…というより我々の機関のメンバーの1人、と言ったところですかね。…あなた方が生き残った場合教えるよう本人から言伝てを預かっていました」

「「!?」」

 

男の言葉に驚く2人。

 

「確かに伝えましたよ。…では、選ばれし王の器とその眷属の皆さん、また会う日まで精々お元気でーー」

「「「な!?」」」

 

男はそう言うと自身の影に吸い込まれるように消えていった。

 

「消えた!?」

「どうなってやがる…」

「他にも仲間が近くにいたのか…?」

 

 

それから3人には周辺の安全確保を、曽和さんには国王軍を呼んでもらい黒服達の拘束を頼み、俺と姉妹は少し休んでいたーー

 

ーーーーーーー

 

「本当に申し訳ありませんでした殿下」

「ご、ごめんなさい」

 

お姉ちゃんと一緒に翔くんに頭を下げる。

 

「うん、いいよ!…なにが?」

「!?こ、今回の件です!」

 

翔くんの気の抜けた返事に慌てるお姉ちゃん。

 

「今回私達のせいで巻き込んでしまって…これが私達が貴方を陥れる罠だったかもしれない、とは思わないんですか?」

「…うーん…その時はその時、かな?」

「…はぁ?」

 

呆れるお姉ちゃん。

 

「それに考えがなかった訳じゃないよ…2人と行動してれば自然とこいつらが出てくるだろうとは思っていたし…」

「え?それじゃあわざと…!?」

「守るって言ったろ?…だからむしろ俺が2人を利用したみたいになっちゃったね」

 

そう言ってごめんねと笑う翔くん。

 

あ、夜叉王様と同じ顔だ。

 

「なぜ、初対面の私達にそこまで?」

「俺も魔女の噂は聞いた事があったからね…町長の事、今回の戦闘、人を殺さず制圧する力を持ってる2人に興味があったんだ」

 

守りたいものの為に2人の力を貸してくれ!

 

と頭を下げる翔くんに驚くお姉ちゃん。

 

「…申し訳ありません。有難いお誘いなのですが私達にはーー「お受けします」鈴音あなた!?」

「ごめんねお姉ちゃん。けど私疲れちゃったんだ。…復讐に囚われて生きていくのに…」

「…鈴音」

「けど復讐を諦めた訳じゃないよ!お父さんとお母さんを殺した奴は絶対に許さない!…けど今回改めて気づいちゃったんだ、私達2人の力じゃ限界があるって…」

「…」

 

「あの男の仲間ってことは、そいつも能力を持ってるかもしれない…だから翔くん、いえ、殿下!あなたを私達の主と認めるにあたり、いくつか条件があります…」

「…力と両親の仇ってやつの情報の提供ってことでいいかな?」

 

やっぱり見透かされてるか…。

 

「はい」

「深くは聞くつもりはない…けどその条件を呑もう。恐らく今後俺達の敵になるかもしれないからね…そのまま2人がそいつの能力で何も出来ずにやられちゃっても困るし」

「ありがとうございます」

 

どこまでも私達の心配をする翔くん。

 

「…ダメよ鈴音!私達は散々罪を犯してきたのよ!いまさらそんな表に立つなんて…!」

 

いままで黙っていたお姉ちゃんが怒鳴る。

 

「…それでも、私は新しい生き方をしてみたい!翔くんならそれを叶えてくれると思うの!翔くんの目指す先にそれがある気がするの!」

 

真っ直ぐにお姉ちゃんを見つめる。

 

「…そう思えたから夜叉王様も私を眷属にしてくれたんだと思う…」

 

遠くで1人暇そうにしている夜叉王様を見ると、こちらに気づき笑顔で手を振ってくれる。

 

「…わかった」

「ありがとうお姉ちゃん!」

「あの…そこまで信用してくれるのは嬉しいけど、なんで?」

 

少し照れ臭そうに聞いてくる翔くん。

 

「私が眷属になれたから、かな…。夜叉王様が言ってたよ、結局は最後に選ぶのは主である翔くんだって!眷属は主従同士が信頼関係にないとなれないんでしょ?…つまり翔くんが私達を信じてくれているから、私はあなたを信じれる」

「…私も鈴音と同じ理由です。強いて言うなら、こんな鈴音だけど初めてわがままを言ったからです」

「…お姉ちゃん…」

「幼くして両親を亡くしてこの道に入って、わがまま1つ言わなかったあなたが初めてわがままを言った、それを叶えてあげたいと思うのは姉として当然よ」

 

「そうか…わかった!2人の気持ちはよくわかった!…俺にも双子の妹がいてね…その子ももわがままを言わない子なんだ、だから詩音の気持ちは凄くわかるよ!」

 

そう言って笑う翔くん。

 

「ありがとうございます…ですが、やはり我々が表で生きていくには…」

「そうだね…とりあえず2人には死んでもらうしかない…」

「「!?」」

 

やっぱり…

 

「ま、正確には名前を捨てて貰う、かな」

「「え?」」

「さすがに裏の世界の暗殺者を匿えるほど俺の力はないんだ…だから裏の世界の2人には死んで貰うしかない、悪いとは思ってる…」

 

ごめん、と頭を下げる翔くん。

 

そんなことか…

 

「ううん!大丈夫だよ!私達暗殺者に取って名前なんて最初からあってないようなもんだし!」

「もともと本名を名乗っていたのも両親の仇に近づくためですし…」

「そうか!ならよかった…」

 

そう言って翔くんは笑顔で自分のことのように喜んだ。

 

本当に変わった人だなあーー

 

ーーーーーーー

 

「…眷属、全員揃いましたけど…?」

 

みんなと再度合流して夜叉王に向き合う。

 

『…』

「夜叉王様」

 

難しい顔をする夜叉王にラムが口を開く。

 

「…我々は貴方の眷属とは違う!決して主を裏切ったりはしませぬ!」

 

そのラムの言葉に真っ直ぐ夜叉王を見るみんな。

 

『…』

 

そうか…夜叉王は眷属に…。

 

「…あのーー『見りゃわかるよ』え?」

 

言葉をかけようとすると夜叉王に遮られた。

 

『お前達の覚悟や意思は見てればわかる…合格だよ。言ったろ?後の事は次代に託すって…』

 

そう言うと笑う夜叉王。

 

『…それとな、勘違いするな?…俺はこの歳で死んじまったけど、別に眷属を恨んじゃいねえよ!』

「え?」

『結果それで民のみんなが救われたんだ。俺はそれはそれで良かったと思ってる。…だからお前も、お前達も自分の生きたいように生きればいい!』

 

この人は…。

 

ふざけてる部分が目立ってわからなかったけど、やはり王様なんだ…。

 

きっと立派な王だったんだろうな…。

 

…俺は…この人みたいに先代達のようになれるだろうか…。

 

いや、

 

「「「はい!」」」

 

夜叉王の言葉に真っ直ぐ返事をするみんなを見て、

 

俺は俺らしく、俺の出来ることをしよう。

 

何があってもこいつらがいる、俺は1人じゃない!

 

俺は俺だ、俺が思うやり方で家族を、国を守ろう、そう思った。

 

 

『それと、お前、鈴音と言ったか?』

「なぁに?夜叉王様!」

『良いおっぱいをありがーー「「はやく逝け!」」』

 

俺と詩音に遮られながら消えていった夜叉王。

 

 

絶対にこの人みたいにならない、そう再認識した。

 

あの人、眷属に裏切られたんじゃなくて、女性問題で背後から刺されたの間違えだわ、きっとーー

 

ーーーーーーー

 

遠い廃墟にてーー

 

「ーー申し訳ありません主よ、仕留め損ねました…」

「…いや、いいさ…どうせ何もできやしない…」

 

潜む8つの陰ーー

 

「櫻田 翔、かーー」

 

主と言われた男は笑うーー


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。