城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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先に魔女の姉妹の話だけ終わらせてスッキリさせておきますね!


第52話【夜叉王】

「ーーところで、1人で来ちゃって良かったの?」

 

あれから鈴音に受け取った本を元に夜叉王が眠る墓の場所に向かっていた。

 

「1人じゃないだろ?2人がいる」

 

そう、姉妹と共に…。

 

「え?私達はただ殿下に先程の事を伝えたかっただけでして…」

「そうだよ!私達といたら翔くんも危ないんだよ!」 

「…だから?」

「「…はぁ…」」

 

 

先程、鈴音がくれた紙は、今回の依頼主の情報が書かれて紙だった。

 

俺達が歴代王の墓をまわっているこのタイミングでの依頼、ましてやそれに関する書物という特定の物の回収。

 

この事から俺の行動を阻止する者の犯行ではないかと考えた姉妹は、その事を俺に伝えるためにも来てくれたらしい。

 

 

「つまり俺が2人を守ればいいんだろ?」

「私達の心配ではなく殿下がーー」

「あー…なら2人が俺を守ってよ!」

「「!?」」

 

そして目的の夜叉王の墓がある岬たどり着く。

 

 

『ーーダメだ』

 

いきなり建物の前で門前払いされた。

 

『なぜ眷属達をおいてきた?』

「まあ、色々ありまして…」

『ダメだ。つれてこい』

「えー」

『お前1人では認められない』

「…そこをなんとか!」

『ダメだ』

「お願いします!」

『ダメだ』

「…」

『ダメだ』

「まだ何も言ってない!」

 

『ダメなものはダメだ。悪いが出直してくれ』

「ちぃ!」

『おい、あからさまに舌打ちをするな』

「14の俺より小さいくせに!けちかよ」

『身長は関係ないだろ!俺の武器の性質上、こっちの方が小回りきいていいんだよ!』

 

当時14歳の俺の身長は170あった。

 

それに比べ夜叉王は…150あるかないかくらいかな?

 

ぷ…ちっさ!

 

『おい、お前絶対いま失礼なこと考えてたろ…』

「…いーえ」

『…なんだいまの間は!?俺はこれでも18だぞ!』

「わお!?」

『むかつく驚き方をするなー!』

 

それは素直に驚きだわ。

 

 

しかし、まいったな…こんなことならバハかイフでも連れてくるべきだったか。

 

 

ぽかぽかと叩いてくる小さいのの頭を抑えながら考えていると。

 

「なら私達が翔くんのけんぞく?になればいいんじゃないの?」

 

夜叉王を抱き寄せ、頭を撫でてあやしながらそういう鈴音。

 

詩音と鈴音の姉妹はスタイルが良い。

 

2人とも165前後ぐらいだろうし、夜叉王完全に子供扱いだわ。

 

『む?簡単に言ってくれるな娘。さっきこいつと会ったばかりのお前達を歴代王達が認めるわけないだろ…たとえ豊満な胸を持っていてもな!』

 

そう言って鈴音の胸に顔をうずめながら腕を組む夜叉王。

 

 

「…すいません殿下。私この王様なんか好きじゃないです」

「なんかごめん!本当にごめん!」

 

自身の胸を隠しながら夜叉王を睨む詩音に即答で全力で謝る。

 

同じ血筋として、ほんと申し訳ない気持ちで一杯だわ。

 

 

『いいか?ーー』

 

(バシッ

 

『眷属と言うのはな?ーー』

 

(バシッ

 

姉妹に眷属のなんたるかを語りながらも鈴音の胸に手を伸ばす夜叉王と、それを阻止する為弾き続ける詩音。

 

 

本当にごめんなさい!

 

『つまりなーーやれやれ…お前達、大勢のお友達を連れてきたもんだな…』

「「「え?…!?」」」

 

夜叉王の言葉に振り返ると、黒服の集団がぞろぞろと現れ始めた。

 

目の前は林、後ろは崖のこの岬。

 

その目の前を囲うように迫ってくる黒服達。

 

完全に逃げ場を塞がれたか。

 

「あいつら!?」

「じゃああいつらが2人の命を狙ってるっていう?」

「はい」

 

本当に申し訳ありません…と俯く詩音。

 

「んじゃ俺の敵でもあるな」

「「え?」」

『まあ俺は既に死んでるし、手出す気ないから、頑張れ』

 

本当に適当だな夜叉王。

 

 

そんな中、1人の指揮官らしき男が前に出る。

 

「おや?おーこれはこれは第一王子の翔様ではありませんか!」

「!?」

 

こいつ俺を知ってる!?

 

2人が言っていた俺の行動を阻止しようとしてるってのはあながち間違えじゃないのか。

 

「…そういうあんたは?俺を誰だか知っても引く気はなさそうだな」

「我々はただの使いパシりですよ」

 

ははっと笑う男。

 

「今回の任務は情報を知るそこの姉妹の抹殺、それと夜叉王の武器の回収だったのですが…貴方がいなくなれば話は速いですからねえ、きっと我が主もお喜びになるでしょう…逃げられたときはどうしようかと思いましたが、姉妹には感謝ですね」

 

 

こいつは何を言っているんだ?

 

任務?

 

主?

 

俺が武器を集めることで何か困る奴がいるのか?

 

 

「…それでは王子よ、我が主の為に散ってくださいーー」

 

そして周りの者達に指示を出し、黒服達が一斉に向かってくる。

 

「…仕方ない、やるか」

 

闘王の豪拳を呼び出す。

 

肉弾戦を得意とする俺からすれば、この籠手はよく馴染むし扱いやすい。

 

眷属だけじゃなく俺にも武器との相性は存在するらしい。

 

「私達が招いた始末、必ずこの場から脱出させます!行くわよ鈴音」

「う、うん!お姉ちゃん!」

 

そう言って、詩音と鈴音も自分の剣を抜き駆け出す。

 

 

「ーー凄いな…」

 

敵をいなしつつ2人の動きを観察している。

 

 

詩音が振るう双剣は確実に敵の急所を捉える。

 

なんて速い!

 

相手にガードさせる隙すら与えていない。

 

目には自身がある俺ですら、やっと目で追えるかどうかの速さだ。

 

そして、剣を振るう鈴音。

 

あれは…蛇腹剣か!

 

振るう度に剣が9つの関節に別れ、変幻自在の攻撃で相手を翻弄している。

 

さらに、剣で切りつけながらも、遠くの敵を長い袖に隠したクナイの様なもので攻撃している。

 

なるほど、暗姫の由来はこっちか。

 

長い袖はそれを隠すための物だったんだな。

 

何より、

 

それを一撃一撃正確にこなしていき、一撃で相手を戦闘不能にする2人の実力に驚きを隠せない。

 

俺も闘王の怪力超人の能力で相手を一撃で気絶させれる程の力を身につけているけど、2人は確実に達人と言えるだろう。

 

まるで舞っているかの様な2人の動きに思わず見惚れてしまいそうになるな。

 

さすがプロ。

 

俺も負けてられないなーー

 

ーーーーーーー

 

ーー綺麗…

 

敵を倒しながら、翔くんの戦闘が目に入った。

 

向かってくる敵の攻撃を全てかわしたり、その力を利用して確実に潰していっている。

 

でも…

 

なんで笑顔なんだろう?

 

戦闘を楽しんでいるようには見えない。

 

自分の強さに酔っているようにも見えない。

 

楽しんでいるというよりは、自分が強くなって行くことを喜んでいる?

 

わからない。

 

何故あそこまでの強さを求めるんだろう。

 

何が彼をあそこまで強くするんだろう。

 

 

私達姉妹は子供の頃からずっとこの仕事の為に育てられてきた。

 

暗殺者。

 

口にするのは簡単だけど、ひどく血塗られた仕事だ。

 

相手の殺すことでしか生きていけない、そんな暗殺者と暗殺者の生まれたのが私達。

 

そして、そのまま暗殺者に育てられた私達は生まれながらの罪人だ。

 

それでも私達に愛情をもって育ててくれた両親には感謝しているし、私達もまた大好きだった…。

 

けれどある日、両親は別の1人の暗殺者に殺された。

 

優秀すぎた2人は、かえって危険と判断され殺されたのだ。

 

私達が強さを求めるのはその為…。

 

両親を殺した奴に復讐する。

 

ただそれだけ。

 

暗姫なんてのは名ばかりで、私達は殺しではなく盗みの仕事専門にしている。

 

私達が誰かを手をかける時は、そいつに復讐する時だ。

 

人を信用すれば情が生まれ、余計にツラくなる。

 

もしかしたらそいつが犯人かもしれない。

 

誰かわからない、誰も信用できない。

 

だから誰にも心を許しちゃいけない。

 

唯一心を許せるのは姉の詩音だけ。

 

私達はもうこの裏の世界で復讐に生きていくしかない。

 

そう思っていた…。

 

この日まではーー

 

 


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