「本日より城内での翔様の身辺警護と鍛練の相手を担当することになったーー」
「吉良村と申します。よろしくお願いします翔王子」
楠殿に紹介され当時7歳の主に挨拶をする。
「身辺警護?城内で?」
「はい。いつ何時、なにがあるかわかりません。私も仕事がある身ゆえ、鍛練の時しかご一緒出来ませんので」
「ふーん、鍛練の相手って事はこの人強いの?俺もう城内だと師匠しか戦う相手いないんだけど…」
そう言う主は当時、どこか冷めた目をしていた。
挨拶の前に、軍の訓練に混ざり組手をする主を見せてもらった。
軍の者達も王子だからと決して手を抜いていたわけではない、しかしそれらを圧倒するだけの力が7歳のこの少年には既にあった。
強すぎるゆえの孤独…。
幼い身でありながら周りとの違いを実感し、絶望してしまったのだろう。
「ええ、強いですよ。翔様よりもずっと…。相手の力量がわからない内は翔様もまだまだです。強いだけでは意味はありませんよ。鍛練不足ですね。…それと、師匠はやめてくださいと何度も言っているはずですよ…」
「…む」
楠殿の言葉にむすっとする主。
軽いことで機嫌を損ねるのは辺りは年相応か。
「吉良村さん、だっけ?…なら俺と手合わせしてよ」
「は、はあ…。承知致しました」
敵意を剥き出す主と向き合う。
お互いに素手だ。
どうやら主は体術での近接戦闘を得意とする様だ。
向き合う7歳の少年からは凄い気迫を感じる。
今回主のお側におかせていただくにあたり、前もって楠殿に聞かされていた事。
当時の主はまだ王族としての特殊能力を持ち合わせていなかった。
産まれつき能力がないと言われてきた主にとって、能力を持ちながら産まれてくる他のご兄弟達はコンプレックスに感じついたそうだ…。
それでも正義感の強かった主はそれでも自分は長男だからと兄弟を守るため強くあろうとした。
その為にとんでもないほどの努力を重ね、今の強さを手に入れたと…。
しかし、いざ強くなったらどうだ。
国の軍隊で主に勝てるものはもういなくなっていた。
脅威から守るために手に入れた力。
しかし、その脅威もこの程度かと主は思ってしまったらしい。
能力も持たない普通の自分で勝てるなら、自分が強くなる必要すらなかったのでは…?
自分の存在意義や目的を失った成れの果てが、いまの主の冷めた目の理由だと。
「…確かにお強いですね翔様」
「…吉良村さんは思ったより強くないね」
手合わせをしていくなかで、主の強さを改めて実感する。
なにより、驚いたのは目の良さだ。
ただ良いだけじゃない、こちらの動きを冷静に観察し、かわす。
それだけならまだいい。
こちらの力の流れを利用する為にあえてその場に合わせにいく、この動きは最早、先読みの領域にすらありつつあった。
恐ろしい。
この歳でこの少年はどれだけの覚悟を持ちこの力を得るために努力してきたのか…。
なら、こちらも全力で迎え撃つのが礼儀。
「…では僭越ながらこちらも本気をださせていただきます」
そう言って自身の槍を手に持つ。
「…棒術、槍術が私の得意分野でして」
「ふーん、なんでもいい…倒すだけだから」
「…ではーー」
共に駆け出す。
初撃の横凪ぎを紙一重でかわされ、カウンターをしかけてくる主を、槍を回し石突きで迎撃。
それすらかわす主にすかさず槍で足をかけようとする。
「無駄だよ。全部見えてる」
それをバク転でかわし、そのまま地面に手をつき足技を繰り出されるも、なんとか槍で防ぐ。
「…では、これは見えますかな」
そう言って槍を構え直し、一気にーー
突く!
「ーー!?」
主の顔の横を槍が通過する。
何も出来ずに立ち尽くす主。
「…見えましたか?…わざと外しましたが、今のが実践なら貴方は間違いなく死にましたね」
槍を引きながらわざと少しキツい言い方をする。
この若さでこの才能を潰すのは惜しい。
だからまだ上には上がいることを教えてあげなくては。
「…負け、た…?…俺が?」
「ええ。貴方の負けです翔様。どうですか?私以外に負けたご感想は…」
「…悔しい。ここでは俺が師匠の次に強いと思ってましたから…」
「…確かに貴方はお強い。しかし、まだまだ未熟だ」
「吉良村さん…」
「なんでしょうか?」
「吉良村さんよりももっと強い人っているんだよね…」
「はい。楠殿もその一人ですしね。…世界は広い。貴方が見たことのない武術や武器を扱う者もいるし、貴方より強いものはごまんといる」
「…そうか。…ありがとう吉良村さん!俺新しい目標が出来たよ!」
「?」
「もっともっと強くなる!とりあえずまずは妥当吉良村さんだ!」
「はっはっはっ!そう簡単には負けませんよ!」
これが私と主の出会いだったーー