「ーー折れてますね」
「…へ?」
あの戦闘の後、曽和さんに怪我の手当てをしてもらっているイフ。
「だから、折れてます」
「…」
「…」
最後の羽原の攻撃を受け止めた腕はやはり折れていたらしい。
でしょうね、バキッっていってたもの。
「どんまいイフ!ま、頑張ったんだしいいじゃんか!」
そう言って笑顔でイフの左手を取り、ぶんぶんと握手する。
「いっでぇ!なに笑顔で折れた腕振り回してんだよ!?鬼か!」
「やだなぁ、イフさん。悪童とまで言われたあなたが骨折ぐらいで」
「それは俺じゃねえ!勝手に流れた俺の偽者だ!」
「そうですぞ主。イフはどちらかと言うなら“山猿”がぴったりでしょう!」
そう言って話に合流するラムさんと爆笑する。
「…お前ら…腕が治ったら覚えてろ?今度は物なんか挟まず、至近距離で直接脳天ぶち抜いてやっからなぁ!」
「動かないでください」
「いだっ!」
いまにも突っかかってきそうなイフだが、包帯を巻いていた曽和さんに怒られ、包帯が強く締まり悶える。
ぷぷ、ざまあねえな。
「ーーんで、あいつはどうなんだよ?」
そう言って、駆けつけた地元の救急隊に運ばれて行く、気絶した羽原を顎で指すイフ。
「ああ、とりあえずは治療だろうね。けど、その後の判断はわからない。地元の警察達の判断だろうね。これだけの事をしたんだ、ただの道場破りじゃ済まされない。…唯一の救いは、まだ未成年だってことかな…」
「…そうか」
「…まるで昔の自分を見ているようだったって?」
「!?」
「ま、確かに1人で力を求めて、周りが見えなくなってる辺りは昔のイフ、一二三にそっくりかもね…」
「…」
「…ただ…忘れるな。いまのお前は1人じゃない。仲間を信じ、仲間に頼りな!もう1人で無茶する許さない!」
そう言って笑う。
曽和さんとラムさんも笑顔でイフを見つめる。
「…け!言われなくてもわかってるよ!」
悪態をつくイフだが、笑顔だった。
「ーーまあ、今回イフが無茶したのは主の命令で、主にも責任があるんですがね」
「…う」
「ーーさあ、やってきました慈王の墓!」
翌日、俺達は慈王の墓がある建物へと来ていた。
道場の人達が毎日掃除していたらしく、外も内部とても綺麗だ。
昨日はあの騒ぎでそれどころじゃなかったし、詳しく知る師範も気を失っていたからな。
入院している師範には悪いけど、さっき病院に行って話を聞いてきたのだ。
その時、
「本来、王の墓をお守りする身にも関わらず、この醜態!本当に申し訳ありません!」
と何度も頭を下げられて困ったものだ。
「ーーんで?どこにいんだよ、昔の王様ってのは…」
「こら、イフよ!ここは神聖な場だぞ!わきまえろ!」
「だから!怪我に触れんなっつってんだろぉが!」
「2人共お静かに!」
騒がしいイフを抑えようと、三角巾をしたイフの左腕を掴むラムさんと、そんな2人を叱る曽和さん。
そんな3人を見て、やれやれと思っているとーー
『あらあら、元気な子達ですねぇ』
奥から女性が歩いてきた。
「「「!?」」」
んなぁ!?
腰まである髪に、泣きぼくろ、ボン・キュッ・ボンッ!…だと…!?
誰もが振り向く、笑顔が素晴らしいおっとり超絶美人さんが現れた。
『待っていましたよ、選ばれし王の器よ。あなた達はこの子の従者かしら?』
そう言って笑顔で3人の方を向く女性。
「ひゃ、ひゃい!」
…は?
あははは!まじかよラムさん!
緊張して裏返ってんじゃん!
よし、奥さんに報告な。
「ぴゃい!」
…お前もかよ!
ぴゃいってお前…。
おもしろすぎだろイフ。
「あ、あわ、あわわわ」
曽和さんに至ってはこの有り様。
…
もういいよお前ら…。
「はぁ。…あなたが慈王ですか?」
『ええ』
慈王には悪いけど、
俺は葵が一番の美人だと思ってるからな。
このアホ達みたく動揺はしないぜ!
『…そういえば、伏竜王に追い返されたそうですね?』
「あ、はい。…いまのお前ではダメだ、足りないと言われました」
「まったく…あの子には困ったものですねぇ」
そう言って困った顔をする慈王。
「足りないってのがなんの事かさっぱりでして…力の事なのか、他の王達の武器の事なのか…」
『あぁ、それでしたら…あら、その前にお客さんですね』
俺達の奥を見る慈王。
そこには、
「「「!?」」」
「羽原!?てめぇ、なんでここに!?」
病院で入院中のはずの羽原が立っていた。
「…まだ終わってない…」
昨日イフにやられた左腕と右足、頭には包帯を巻いて、片手に松葉づえを持ち、ふらふらな状態でこちらを睨んでいる羽原。
「…誰でも良い、俺と戦え…」
「のやろう!つけてーー「待てイフ」!?」
前に出ようとするイフを止めて、羽原に向き合う。
「俺が話す。…ってことでちょっと待っててもらって良いですか?」
『はい。かまいませんよ』
「…本気?そんな体で」
「ああ…」
「…そうか…なら、仕方ないな」
そう言って武器を構えようとすると
「あれ?」
武器が出ない!?
…まさか!?
『ふふ』
慈王の方を見ると、意地悪そうに笑っていた。
…
この人の仕業か。
『私の前で武器は使わせませんよ。…やはりどうせなのでこのまま私の試練も付け加えますね!さあ、彼相手にあなたは素手でどうします?』
そう言って目を細めてこちらを見てくる。
!?
この人は…
見かけによらず、やはり王か。
慈愛で民に愛された王とはいえど、時に冷酷になれなきゃただの人だ。
それじゃ、全ては守れやしないからな。
素手で羽原と?
いくら昨日の怪我が残っていても、昨日の戦いを見ているからな…勝てるかどうか…。
これ以上羽原の体を痛め付けるのもあれだしな…
「なあ、羽原、聞いて良いかな?」
「…なんだ?」
「あんたがそこまで強さを求める理由ってなに?」
「…俺は…」
「…?」
「…お前には関係ない!」
そう言って松葉づえを木刀がわりに振り回してくる羽原。
「…関係…なく…ない!…意味もなく…戦えない!」
羽原の攻撃をかわしつつ言葉を続ける。
「…俺は…俺は強くならなきゃいけないんだ!」
しかし攻撃の手を緩めない羽原。
『…彼の母親はいま病に伏しています。…父親は彼ができたことを知り逃走。1人で育ててくれた母親は入院。しかし医療費はない…』
慈王がたんたんと説明する。
「!?…なぜそれを…」
羽原は動きを止め慈王を睨む。
『あなたが毎日こうしてここへお祈りに来てくれるものですから』
そう言って慈王は微笑む。
「!?…そうさ…そうだ!けど大人達はこんな不良、誰も相手にしちゃくれない。母さんを救うには金がいるんだよ!だから俺は王都に行き、国の軍に入れてもらう!…その為に力がいるんだ!」
…なるほど。
だからここまで力に執着しているのか。
けど…
「…国はお前みたいなのは必要としていない」
「な!?」
「お前は何もわかっちゃいない。そんな奴はいらない」
「お前に…!お前なんかに、何がわかるってんだよ!」
そう言って振るわれた羽原の横凪ぎ攻撃が脇腹に入る。
「翔様!」
「主!」
「翔!」
すかさずそれを腕で掴んで、近寄ろうとする3人を制止する。
「…わかるさ!お前みたいな何も見えてない奴を戦場に立たせれるわけねえだろが!!」
「ーー!?」
俺の怒鳴り声が建物内に響きわたる。
「そんな自分1人突っ走って、自分の体も労れない奴に、国を守る仕事が勤まるわけない!」
「!?…だったら…俺は…」
俺に確信をつかれたその場に座り込む羽原。
「国を守る仕事はそんな簡単な事じゃない。一人突っ走る奴がいたら、仲間はどうする?お前を守るためにさらに被害が拡大するかもしれない。そんな原因を作るような奴を集団には置けない。その分ではいくら力があろうがお前が一番弱い」
「だったら!俺はどうすればいいんだよ!」
俺を見上げ睨んで来る。
「仲間を頼れ!!」
「!?」
「1人で抱え込むな!集団ってのは協力しあってこそだ!個の力がいくらあろうがチームワークの取れない組織はないも同然。お前の勝手が全滅に導く」
「…けど、いまさら…こんな俺に仲間なんか…」
「なら、俺と来い!」
「!?」
そう言って羽原に手を差し出す。
「俺達がお前の仲間になろう。お前の力になろう。だからお前も俺達の為に力を貸してくれ!」
『…敵に情けをかけるつもりですか?』
いままで黙ってみていた慈王がこちらを見てくる。
「情けのつもりはない。目的は変わらない俺は守る力が欲しい、羽原は救う資金が欲しい。なら答えは1つでしょ?俺の元で雇えば良い」
『ですが、彼は道場の者達を襲ったのですよ?』
「確かにその事実は変わらない。だから償ってもらう。羽原は力の振るい方や振るう場所を間違えたんだよ。だからこれからは俺のため国のためその力を振るってもらう」
『…信用できるのですか?』
「…出来ますよ!人となりはわかったし、この意思の強さはなによりも信頼できる。…それに…あなたが気に入っている。それだけでも十分でしょ?」
そう言って慈王を見る。
『ふふふ!良いでしょう!その冷静な判断力と洞察力。優秀な人材を見分ける観察眼と敵をも迎え入れる懐の大きさ。…良いでしょう!合格です!あなたの王の器を認めましょう!』
「どうも!」
2人で笑う。
『そして羽原。あなたがこれから王の力になると言うなら力を与えます』
「…え?」
『王の器よ。賢王の剣をーー』
言われた通り賢王の剣を出す。
『では、羽原。王の器の前にひざまづいてーー本来なら私が力をあげたいところですが、力を振るう羽原の剣と私の盾じゃ性質が違うので…でもきっと賢王様ならお力を貸してくれるはずですよ』
そして言われた通りに剣を羽原に向けて掲げ、
「羽原、俺はこの国を守りたい。だから俺にその力を貸してくれ。これからはその剣、俺の為に振るえーー」
「我が主の御心のままにーー」
目の前にひざまづき両手を掲げる羽原に賢王の剣を手渡す。
「「!?」」
その瞬間、賢王の剣が輝き羽原の体の怪我が全て治った。
『ふふ。無事、賢王の眷属として認められたようですね』
「…眷属?」
『はい。王の器に惹かれ、互いに認め認められた者にのみ宿る王の加護とでもいいましょうか。羽原の怪我が治ったのもそれが理由です』
賢王の能力、
生き物の回復力を活性化し、怪我の回復を早める能力。
『ふふ。いつもボロボロの羽原にはうってつけの能力ですね!』
そう嬉しそうに笑う慈王。
『いまはまだ無理かもしれませんが、いずれ賢王の力を使いこなせるようになるかもしれませんね。とりあえずは王の器と同じように自分の武器にワープぐらいは出来ると思いますの?』
本当に羽原がお気に入りのようだ。
『王の器よ。これが先ほど話していた、伏竜王があなたを追い返した理由です。あの子は歴代で一番眷属を引き連れた者ですからね。…これに関してはうるさいかも知れませんね。羽原1人じゃ認めてもらえるかどうか…もう少し眷属を増やしてから行くことをおすすめします』
「わかりました」
『そして羽原。これでお別れですね。毎日顔を見せに来てくれてありがとう。これからは王の器の中からあなたを見守っていますね。どうか王の器とその従者にご加護があらんことをーー』
そう言って羽原の頭を撫で、祈りながら消えていった。
そして、無事慈王の盾を回収ーー
「ーーってちょっと待てよ!なら俺の腕も治せるだろ!」
あーー
眷属については皆さんお察しの通り
マギの眷属器がモデルです。
次回は明日です!