城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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すいません!

私事ながら仕事が忙しくて遅れてしまいました!

今日中にもう一本投稿する予定ですが時間は未定です

待ってくれているみなさまには申し訳ないです!


第41話【悪童】

鬼王の墓からさらに4ヶ月が過ぎようとしていた頃ーー

 

 

「桜めちゃくちゃ綺麗だなぁ!こりゃ写真も止まらないわー!…あ、曽和さんそこ立って!」

「え?あ、はい…」

「うん!いいねえ!」

「は、はあ…?」

 

俺達は桜の名所の山を訪れていた。

 

「ひゃー水も美味い!やっぱ湧き水が良いんですかねえ!」

 

観光地というだけあり、色々な店が建ち並び、見渡す限りの山すべてが桜一色!

 

これはテンションが上がらずにはいられない!

 

…のに、

 

「…なんで俺らしかいないんですか?」

 

そう、桜の名所として有名なはずなのに、先程から誰一人と他の見物人を見ていない。

 

「…悪童のせいですよ」

 

店主がため息をつきながら答える。

 

「…悪童?」

「…はい、数年前にこの山に住みだした子供がいてね…そいつが山の動物や植物を狩って生活するもんだから、山中動物の死骸やらなんやらで、観光客も寄り付かなくなってしまったんですよ…私達も何人かで移住の抗議をしに行ったんですけどね、子供とは思えない強さで追い返されまして…」

「国には報告を…?」

「はい、もちろん。…しかし、その住居や狩り場がその子の所有地だったらしく、国も何も…」

 

なるほどな…。

 

けど、国もそんな子供一人をほおっておくはずは…。

 

国の者まで追い返して頑なに動こうとしない理由、か。

 

「んじゃ行ってみるか!」

「えぇ!?い、行くんですか!?」

「なにビビってんの曽和さん。俺ら鬼退治まで経験済みじゃんか!」

「それとこれとは話が別です!」

「諦めろ満姫殿。こうなった主は止められぬ…」

 

こうして俺達一行は鬼の子と話をつけに向かった。

 

 

「たのもー!」

 

山の中にある悪童が住んでいるらしい1つの建物。

 

見たところ水道と電気もちゃんと通っているっぽいな。

 

「想像してたより綺麗だね…俺もっとこう、小さい小屋を想像してたわ…」

「私は洞窟を想像しておりました…」

「…お2人ともそれは偏見ですよぉ…」

 

キャンプ場のコテージの様な家の前でそんな会話をしていると、

 

「ーー誰だ!?」

 

後ろから声がし、振り返る。

 

そこには山菜の入った籠を担いだ、高校生ぐらいの1人の男がこちらを睨みながら立っていた。

 

「おっと、これはどうも。俺達はただの観光客でして…」

「へー、その観光客が家になんのようだ…?」

「悪童退治…と言えばわかってもらえます?」

「!?」

「しょ、翔様!?直球過ぎますよ!」

「あっはっは!主はいつでもまっすぐですなぁ」

「ラムさんも笑ってないで!」

 

俺の言葉にさらに警戒心を高める相手。

 

「なるほど。あこの店の連中にでも頼まれたか?俺をここから追い出そうとしても無駄だぞ…怪我したくなかったら帰れ」

 

そう言って持っていた弓を構える男。

 

「…そうですか…では帰ります」

「!?」

「えぇ!?帰っちゃうんですか!?」

「うん。ほら、行くよーー」

 

俺の言葉に一瞬驚くも警戒心だけは緩めない相手をよそに2人を連れてその場をあとにしたーー

 

 

「ーーよかったんですか?帰ってきちゃって…」

「うーん、よくはないんじゃない?」

「…うぅ…もうわけがわからないですぅ…」

 

あの後、今日は山の麓の旅館に泊まることにして、案内された部屋で曽和さんと会話していた。

 

ラムさんには別に少し調事をしてもらっている。

 

 

「…やはり、主のお考え通りかと…」

 

しばらくして合流したラムさんから報告を受ける。

 

「…そうか。ありがとうラムさん。お疲れ様、先に温泉つかってきなよ、俺はもう少し用事済ませてから曽和さんと入るから」

 

そう言って曽和さんを見る。

 

「…?」

 

真顔だ。

 

 

あれ?

 

おかしいな…。

 

これじゃあ俺が1人ですべった上、女の子と一緒に風呂はいる宣言した恥ずかしい奴じゃないか!

 

「…あ!承知しました」

 

何かに1人で納得したラムさんは笑顔で部屋を出ていった。

 

待って!なにいまのあ!って!?

 

やめて!変な誤解しないで!違うから!

 

「…あの、曽和さん?」

「はい。なんでしょうか?」

「…ツッコんでは、くれないの?」

「なにがです?」

 

きょとんとした顔で首をかしげる曽和さん。

 

嘘だろ、おい!

 

「え、いや、だって…一緒に風呂、だよ?おかしくない?」

「どこがです?主のお背中をお流しするのも仕事の一環ですので何ともーー(バンッ! え!?しょ、翔様!?」

 

ダメだこの人、どこまでもメイドさんだわ。

 

机に頭を打ち付け突っ伏したまま、二度とこういう冗談は言わない、そう誓わずにはいられなかった。

 

それから温泉から戻ったラムさん共々誤解を解き本題へと移る。

 

その時2人が「なんだつまらん」という顔をしていたのは見なかったことにしよう…。

 

 

「そ、それじゃあラムさん。詳しく話してもらっていい?」

「はいーー」

 

ラムさんの話によると、

 

 

今日会った彼、名前が一二三(ひふみ)、17歳。

 

両親は幼少時に他界しており、年前に亡くなった祖父に育てられてきた。

 

あの山は元々、その祖父の所有地で、そのまま相続したらしい。

 

元は弓道部で全国にいくほどの腕前でその推薦で高校に進学。

 

しかし祖父が亡くなった事で、その高校も中退。

 

昔からやんちゃだったが、気が荒れ始めたのはそれかららしい。

 

好物はタケノコご飯。

 

「…最後の必要あります?」

 

 

翌日、俺達は彼の行動を監視してみることにした。

 

朝起き朝食を済ませた後、木を的に弓の練習をし出した、

 

「へー上手いな…百発百中じゃね?」

 

彼の射る矢は全て的の中心を捉えていた。

 

「ラムさんも弓出来たよね?同じことできる?」

「まず無理でしょうな。あれと同じことが出来る者は世界に何人いることやら…」

 

その後、汗を流し、山菜採りに山へ。

 

道中、猟師の罠にかかったうさぎを発見。

 

彼のものかと思ったが、罠をはずし手当てまでして森へ帰していた。

 

「見かけによらず優しいんだな」

「でも動物を狩ってるって…噂と違いますね」

 

昨日のラムさんの報告と俺の思い当たる節からまさかとは思ってたけど…とうとう噂も胡散臭くなってきたな…。

 

 

そして、夕方

 

彼が帰宅したところで彼もとを訪れていた。

 

「…また来たのか?昨日諦めて帰ったんじゃねえのかよ!」

「いや、諦めてはないですよ」

「ああん!?どちらにしろ俺はここから動く気はねえぞ!」

「…そうですか。…なら今晩俺を泊めてください」

 

 

「「「…はあ!?」」」

「な!?急になに言い出すんだお前!!」

「そうですよ翔様!冗談にもほどがありますよ!」

「主よ、今回ばかりは満姫殿と同意見ですぞ」

「え、いやだって動く気ないんでしょ?なら仕方ないし俺はあなたと話がしてみたい。だから泊めてください」

「はあ!?そんな身勝手な話があるか!嫌に決まってんだろ!」

「…わかりました。なら俺ここにいるんで、気が向いたら出てきてください」

 

そう言って家の前の丸太に腰かける。

 

「ーー!?好きにしろ!俺には関係ねえ!」

 

そして家に入っていく一二三さん。

 

3人いるとそれはそれで迷惑だと2人を無理矢理帰し、1人で夜を過ごしてきた。

 

「へきし!…やっぱまだ4月だし寒いな…」

 

曽和さんが置いてってくれた毛布だけじゃ追い付かねえ!

 

 

そして時刻は11時頃、動きがあった。

 

「…お前、まだいたのか…」

「ん?あ、話し相手になってくれる気になりました?」

「なんねぇよ!家の前で凍え死なれちゃ迷惑なんだよ!」

 

そう言って暖かいスープを渡してくる。

 

「え?これって…?」

「いらねえならいい!勝手に死ね!」

「いえ!ありがとうございます!ーー美味い!」

「ふ、だろ?この山の山菜は栄養も豊富でそこらのより味がいいんだ!」

 

そう言って笑う一二三さん。

 

「いやーやっぱ見かけによらずいい人ですね一二三さん!」

「うるせえよ!つかやっぱりお前ら俺の事探ってやがったな!」

「あれ?ばれてました?」

「あたりまえだ!」

 

なんでも昨日素直に帰った俺達が怪しくて後をつけてたら、ラムさんが聞き込みをしていたのを見たらしい。

 

「だいたいなんなんだよお前…さっきの2人を見る限りじゃ、どっかの良いとこの坊っちゃんかなんかだろ?」

 

へー、意外に冷静に見てるんだな…。

 

「ええ、まあ一応、そこそこには…」

「け!ボンボンかよ!見たところガキじゃねえか!」

「はい、12です。あ、ちなみに名前は翔です」

「聞いてねえ!…だいたい良いとこのガキがこんなとこで何してんだよ」

「まあ、色々ありまして…俺守りたいものがあるんですよ…けど何分力がない。だからその修行の旅、って感じですかね」

「…んだそりゃ…」

「あれ?守りたいという意思は同じだと思ったんですけど…違いましたか?」

「ーー!?お前、そんなことまで!」

「いえ、これはただの俺の勘です」

「!?」

「…本当の事を話してくれませんか?」

「……ついてこい」

 

そう言ってなにかを決心した一二三さんに連れらて、昨日俺達がいた麓とは別の麓に案内された。

 

「ーーこれは!?」

「見ての通り工場さ。しかも許可を得てない違法のな」

 

そこには黒い煙や汚水を出す巨大な工場が建っていた。

 

昨日気づかなかったのも無理はない、桜の名所からじゃここは完全に視角だ。

 

「見ろ、あの汚ねえのを!あいつのせいでここらの草木は死に、あの水を飲んだ動物が次々と死んでってる」

「じゃあ、噂の動物の死骸というのは!?」

「ああ、あいつらのせいさ。…じじいが死んでからだ、あこの連中が家に来てこの土地を譲れと言ってきた。理由を聞いたらこの工場の拡大だとぬかしがる!この有り様を知ってた俺はもちろん断ったさ…それからというもの奴らは動物の死骸を山に棄て、俺のデマの噂を流した。俺をここから追い出すためにな!」

 

そう言って横の木を殴る一二三さん。

 

なるほどな…そう言うことだったのか。

 

でも、これで今日の彼の行動とつじつまがあった。

 

「やっぱり一二三さんは優しい人でしたね。安心しました」

「あ?なに言ってーー」

「だって昨日だって、俺達を脅したとき。あえて矢じりの潰れた矢で威嚇してきましたよね。今日の昼間の矢を使えばいいものを…」

「!?お前、見てたのかよ!?」

「そんな睨まないでくださいよ…おかげで俺も決断することが出来たんですから」

 

あなたに手を貸すって決断がーー

 

「あ?なに言ってーー」

「ま、ここじゃなんですし、とりあえず戻りましょう!」

 

そう言って無理矢理帰路についたまではよかった。

 

が、しかし、俺達が戻るとーー

 

 

「おい!どういうことだよ!どうなってやがる!」

 

 

一二三さんの家は燃えていたーー

 

 


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