城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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第40話【鬼ヶ島】

修羅王の墓から2か月後、12月ーー

 

俺達はとある港町を訪れていた。

 

「ーー王様の墓、ねぇ…」

「はい。この辺りにあると聞いたのですが…」

「聞いたことないねぇ…」

「そうですか…ありがとうございました」

「すまないね」

 

「ーー手がかりなしかぁ…」

「そう上手くは事は運びませんな…」

「文献によるとこの辺りで間違いないはずなんですけどね…」

 

町について聞き込みをしてみたものの、何一つ情報を得られず、休憩がてら海岸に座って海を眺めていると、

 

「お主達、王の墓を探してるとな?」

 

髭のはえた老人が話しかけてきた。

 

「…あなたは?」

 

少し警戒しながら相手の出方を待つ。

 

「おっと、これはすまんのぉ!会話が聞こえてきたものでや。なに、儂は漁師をしておるただの爺じゃよ」

 

別に怪しい感じはしないな…大丈夫か。

 

「…そうか。それで、さっきの話なんだけど、お爺さんは王の墓について何か知ってるの?」

「うむ。王の墓と関係があるかどうかはわからぬが…100年ほど前に、王族の方々があの島を訪れ、何かを置いていったらしい…」

 

そう言って少し離れた小島を指差す老人。

 

100年か…。

 

この辺りにあるとされる墓は、11代目、鬼王の墓。

 

つまり、俺の曾祖父にあたる人だ。

 

年的にもまず間違えないか…。

 

曽和さんとラムさんを見ると2人も同じ考えなのか、頷いてくる。

 

「…なるほど。ありがとうございます。ならあの島についてもう少し調べてまわる必要があるな」

 

そう言って立ち上がり、聞き込み再開しようとすると、

 

「待たれよ!」

 

俺達を引き留め困ったような顔をする老人。

 

「教えておいて悪いんじゃが、あの島には近づかんほうがよい…」

「え?それはどうして…?」

「あの島には鬼がおる…」

「…鬼…ですか…?」

「うむ。あの島には一度は足を踏み入れれば二度と出られぬ洞窟があってな、来るものを取り込み食らう事から鬼が巣食う洞窟と言われておるじゃ。…その為、この町の者も誰もあの島にすら近づこうとはせんのじゃ…」

「なるほど…鬼、ねぇ…。なら漁船に頼むのは無理か…どうすっかなぁ…よし、泳ーー「ぐ、とか言いませよね?」…も、もちろん!」

「…え?」

 

服を脱ごうとしたところを曽和さんに止められる。

 

横で同じく、自分の服に手をかけていたラムさん。

 

ほら、ラムさんも泳ぐ気満々だったじゃんか。

 

「ふぉっふぉっふぉっ!面白いのぉお主達!気に入った!どれ、言い出した者として儂が連れてってやろう!」

「…え?」

 

こうして俺達は老人の船で小島へと向かうことになった。

 

 

「いやーしかし、ご老人。なんとも立派な船ですなぁ」

「なーに、ただの歳よりの見栄じゃよ」

 

笑いながらそういう老人だけど、本当に立派な船だ。

 

そこらの漁船が霞んでるぞ。

 

そんなことを考えてる俺達だけど、

 

「ラムさん!誰が余所見して良いと言いましたか?」

「め、面目ない!」

「まあまあ、曽和さん落ち着きなよ…」

 

先程の事をまだ怒っている曽和さんに船の上で説教されていた。

 

「いつもいつも適当な翔様がいけないんですよ!だいたいいま12月ですよ!?真冬ですよ!?死にますよ!?」

「…はーい、ごめんなさーい」

「なんですかその返事は!」

「ふぉっふぉっふぉ!怖い娘さんを連れておるなぁ」

「お爺様?なにか言いましたか?」

「ふぉ!?…な、なんでもないわい…」

 

初対面でも容赦ねえな。

 

そしてなんとか小島に到着。

 

「さて、目指すは洞窟だな…お爺さん場所ってわかる?」

「うむ、わかるぞ。案内してやろう…が、しかしじゃ!」

 

そう言って急に真面目な顔をし、

 

「よ、酔った…」

「あんた漁師だよな!?」

 

 

「ーーすまんのぉ」

「いいよ、島に連れてきてもらって、案内までしてもらってるわけだし。ま、俺が背負ってるわけじゃないんだけどねー」

 

さすがにまだ11の俺じゃ無理なので、ラムさんが老人を背負って洞窟を目指していた。

 

「いやいや、若いのにその気持ちだけでもありがたいわい…ほれ見えたぞ、あれが鬼の巣食う洞窟じゃ」

「うはーでけぇ!」けぇけぇけぇけぇ…

 

何十メートルもある巨大なら洞窟の入り口。

 

にしても凄いな!

 

声こだまして響いてんじゃん!

 

「これぞ、冒険って感じだよな!」

「翔様、遠足か何かと勘違いしてませんな?」

「そんなわけないだろ曽和さん。目的は見失ってないさ!」

「ふぉっふぉっ!仲が良いのぉ…しかし、すまんが案内できるのもここまでじゃ。儂もまだまだ死にたくないのでな、船で待っておるぞ」

「うん!ここまでありがとうお爺さん!あとは俺達で行くよ!」

「では、またあとでな…」

 

そう言って来た道を戻っていく老人。

 

「んじゃ、行くか…」

「…やっぱり入るんですか?」

「当たり前じゃんか」

「…で、ですよねー…」

 

 

「ーー思ったより明るくてよかったなー」

 

洞窟の中は一定の間隔で灯りが設けられており、やはり、人工の手が加わっているのが見てとれる、

 

「…にしてもおかしいな…」

「…ですな…」

「え?なにがです?」

「ここ、さっきも通ったんだよ」

「それどころか、ずっと同じところをぐるぐると回っている」

「え!?全然気づきませんでした!も、もしかして噂通りこのまま私達、出られないんじゃ…」

「うーん、それは困るなぁ」

「まあ原因は、十中八九この気味の悪い霧でしょうな…」

 

そう、この洞窟に入ってしばらくして出てきたこの霧。

 

視界を奪うわけでもなく、うっすらと立ち込めるその霧は確かに気味が悪くて仕方がない

 

「や、やっぱり鬼の仕業なんですよぉ!」

「かもねぇ」

「なんでそんな呑気なんですか!?」

「いや、落ち着いて曽和さん。鬼は鬼でも鬼王の話だよ」

「ふぇ?鬼王、様ですか?」

「うん。曽和さん、塩ある?」

「え?はい、ただいま!…でもお塩なんて何に使うんですか?」

「んー、確認かな…」

 

そう言って曽和さんに手渡された塩を舐める。

 

「…ラムさんはどう思う?」

 

ラムさんにも塩を渡し、舐めてもらう。

 

「!?苦い、ですな…」

「苦い?そんなはずは…辛っ!?」

「2人はそう感じたのか…ちなみに俺は甘く感じた」

「え?つまり、どういうことですか?」

「…恐らく俺達は今、鬼王の能力下にある」

 

相手の五感を支配し惑わせる能力、感覚支配(ザ・ファントム)

 

普段は温厚で誠実だった鬼王だが、戦場に立てばこの能力を使い相手を惑わせ鬼の様に容赦ない攻撃で追い詰めたといわれている。

 

「えぇ!?じゃあどうするんですか!?」

「このままでは無限に同じ道を通るだけですな…どうなさいますか、主よ」

「鬼王の能力が影響されるのは生物のみ…だったら無機物に頼むしかないだろ」

 

そう言って修羅王の刃を呼び寄せる。

 

「あーやっぱり、修羅王みたく全身に纏わせるのはまだ難しいな…」

 

呼び寄せられた鎖鎌の鎖は足まで上ったが力不足で地に落ちてしまった。

 

武器と共に能力を手に入れても、扱いきれなければ意味がない。

 

練習あるのみだな。

 

「主ならいまに習得出来るでしょう!」

「毎晩練習してますしね!」

「ばっ!2人共、知ってたのか!?」

 

隠れて修行して驚かせようと思ってたのに意味ないじゃん!

 

「もういい!とりあえず先を急ぐぞ!」

 

そう言って鎖鎌に地面を這わせる。

 

一応、この程度の操作なら出来るようにはなっている。

 

 

しばらく進んでいると、鎖鎌は壁の方へ進み出す。

 

「え?翔様、そっちは壁じゃ…」

「俺らの感覚なんて最早宛になんないよ…」

 

そう言って鎖鎌を信じて壁に向かって歩くと、そこには壁など存在せず通り抜けることが出来た。

 

「やっぱり、壁だと思い込まされていたのか…」

「やりましたな主よ」

「あ、霧も晴れましたよ!」

「そのようだね…ということだわ、お爺さん」

 

『ふぉっふぉっふぉ!いやはや気づかれておったか』

 

俺の言葉に答えるように、奥から笑いながらここまで案内してくれて老人が歩いてくる。

 

「え!?先程のお爺様!?」

「なるほど、ご老人が鬼王様でありましたか」

『いかにも。して、いつ頃からバレておったのかの?』

「最初から、かな」

『なんと!?』

「怪しい点はいくつかあった…。まず1つ目、港の人達に王の墓について聞いた時さ、墓について本当に知らなくても、昔、王族がこの島に寄ったって事が少しぐらい話に出てきてもいいはずなのに全員が知らないと答えたんだ」

『なるほどの…』

「次に2つ目、この島について調べようとした時、貴方は俺達の事を止めた。他の人に聞かれたくないことでもあったんでしょうね…たとえば能力でこの島の存在自体を隠していた、とか」

『!?』

「あこで海を見てた時、おかしいと思ってたんだ。漁船の船たちが島へ向かったと思ったら急におかしな動きをして引き返してた。あれも貴方の能力の仕業では?」

『むぅ…』

「そして最後に、そんな不可解な状況下で、貴方一人だけが詳しすぎた…」

『…ふぉっふぉっふぉ!なるほど、誘い込んだつもりがまさかこちらが案内させられていた、そう言うことか!』

「ま、そういうことですかね…それで、やはり貴方とも戦わなきゃいけないんですかね?」

 

そう言って鎖鎌を握る。

 

戦場では鬼と謡われた人だ、一筋縄じゃいかないだろうな。

 

そんなことを考えて、警戒していると、

 

『安心せい!その必要もなく、文句なしの合格じゃよ!』

 

と、俺の心配もよそに豪快に笑う鬼王。

 

『それだけの推理力、能力を破られた時点で儂の敗けじゃ!そして何より、従者との信頼関係。お主らを見ていればわかる…。互いに認め信頼した目をしておる。自分を慕ってくれる者は大切にしなさいーー』

 

最後にそう言って笑って鬼王消えていった。

 

大切な国の為、心を鬼にしてまで戦い抜いた王だからこその言葉だったんだろうな…。

 

 

そして、そのまま奥へ進み、無事、銅像の間へと到着。

 

銅像が手に持つ拳銃に手をかざし、鬼王の砲筒が継承される。

 

「うぅむ、やはり継承の瞬間は見ていてゾッとしますな…」

「そうですか?私は神聖な儀式だと割り切る事にしましたよ?」

 

その一連を静かに見守っていた2人が話し出す。

 

そんな2人を見て、改めて大切にしようと思う。

 

本当に良い仲間に恵まれたな…。

 

 

さてーー

 

 

「帰りだけど、船運転できる人いる?」

「「…あ」」

 

 

結局、あの船も幻でただの小さなモーターボートだった為、ラムさんが運転でき、帰ることが出来たーー

 

「あの狸爺め!」

 

2つ目の墓、鬼王の試練、突破ーー




次回は明日です!

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