城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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学園祭3日目です


第33話【学園祭 3日目】

「お客様、お茶のおかわりはいかがでしょうか?」ニコッ

「お、お願いします!/////」

 

例によって翔のテンションは高い。

 

 

「やっほー!遊びに来たよー!!」

「おー!翔兄似合ってるねー!」

「やあ翔兄さん」

「兄様!カッコいいです!」

「兄さま、素敵!」

「おーお前達、いらっしゃい!」

 

学園祭最終日、今日は可愛い妹弟達が遊びに来てくれた。

光、輝、栞が行きたいと言い出し、岬と遥はそのお守りとしてついてきたらしい。

 

「お前達何にする?ここは俺の奢りだ!」

「ちょっとしょうちゃん!私達お客だよ!なに?その口の聞き方は!」

「そうだよ翔兄!ちゃんと接客して!」

「これは大変申し訳ありませんでした!お飲み物いかがなさいましょうか?」

 

光と岬に怒られ言い方を改める。

 

「うむ、よろしい!じゃあ、私オレンジジュース!」

「私コーラ!」

 

満足したのか笑顔でそれぞれ注文をする二人。

 

やれやれ、家のわがまま姫達は…。

 

 

その後、しばらくして休憩に入った葵に連れられてみんなは他の模擬店をまわりに行った。

 

その時に俺も一緒にと岬と光に駄々をこねられたけど、まだ仕事も残っていたし、残念なことに先約もあったので断った。

 

何も言わずこちらを見つめる栞の潤んだ瞳で精神的大ダメージを負ったのは言うまでもない。

 

今度またどこか遊びに連れて行ってあげよ。

 

 

「それじゃあ今日はよろしくお願いしますね!」

「ああ、こちらこそよろしく早乙女さん!」

「まさか翔さんが引き受けてくれてくれるなんて思いませんでしたよ!ロミオ役!」

 

そう、先約とは演劇部の手伝いだ。

 

演劇部の早乙女さんに頼まれてロミオとジュリエットの劇に出演することになったのだ。

 

「まあ、せっかくだし色んなことして楽しみたいじゃん?けど、俺なんかが主役やらせてもらっていいの?」

「はい!むしろ翔さんにやってもらいたいので!これは部員全員の意見ですよ!」

「そうなの?ならいいけど…」

 

この目を輝かせる早乙女さんの気迫に負けたというのも、1つの理由だったりするんだけどね…。

 

しかもその早乙女さんは衣装担当だし、出ないし…。

 

最終打ち合わせの為、舞台裏でそんな話をしていると、

 

「きゃあ!」

「「!?」」

 

舞台から悲鳴と物音が上がった。

 

「なに!?どうしたの!?」

 

慌てて舞台の方へ見に行くと、どうやら小道具が倒れてジュリエット役の子が下敷きになったらしい。

 

運良く大事には至らなかったものの足を捻って出演は難しいとのこと。

 

「どうしよう!いまから代役なんてーー」

 

ざわめく現場。

 

俺もここまで来て中止は避けたいからな、

 

「それなら1人心当たりあるんだけどーー」

 

最強の助っ人を呼ぼう。

 

 

 

「ーーそれで…事情はわかったけど、なんで私なの?」

「そんな怖い顔すんなよ葵ちゃん。似合ってんぞ衣装」

「そういう問題じゃなくて…」

 

ジュリエットの衣装のドレスを着た葵が恨めしそうにこちらを睨んでくる。

 

そう、俺が呼んだ最強の助っ人とは葵だ。

 

「仕方ないだろ?いまから台詞全部暗記できるのなんて葵ぐらいだからな…完全学習(インビジブルワーク)、だっけか?」

 

 

葵の能力は本当は完全学習(インビジブルワーク)ではない。

 

それは国でも一部の人間しか知らない。

 

下の兄弟達ですら知らない情報。

 

それを知る数少ない一人でもあるの俺は、笑顔でわざとそう言う言い方をする。

 

 

「…もう!翔くんのいじわる!」

「はーはっは、なんとでも言え!」

「…はぁ…わかりました。衣装まで着ちゃったから劇には出ます。ただ、帰ったら少しお話ししましょうね?」

「いやー…あははは、は……はい」

 

笑顔で承諾する葵だが、この笑顔はやばい。

 

奏の黒い笑顔とは比べ物にならない…。

 

今日こそ死んだな、俺。

 

 

「葵様、急にお願いしたのにごめんなさい!」

「ううん、今回は仕方ないし大丈夫だよ!」

 

頭を下げる早乙女さんに笑顔で答える葵。

 

あれ?この人誰?さっきまでのドス黒いのどこ行った!?

 

 

 

「葵様!そろそろ出番ですので準備お願いします!」

「はーい!じゃあ行ってくるね翔くん!」

「ああ、頼んだよ!」

 

手を振って舞台袖へ向かう葵にこちらも手を振って答える。

 

 

そして舞台の幕が上がり、本番が開始する。

 

「にしても凄いな…本当に一字一句間違わずに覚えたのか…」

 

葵の本当の能力を知ってる身としては、その嘘を本当にするだけの、あの葵の記憶力には毎度素直に驚かされる。

 

「はい!それにしても、まさか葵様にも出てもらてえるなんて!感激です!何回誘っても断られてたので…」

「そなの?」

 

そういや、葵は色んな部から勧誘されてるって茜が言ってたな。

 

 

そして俺も自分の番が来て、舞台へ上がる。

 

あ、兄弟全員…それに卯月、静流、菜々、花ちゃん、瞳ちゃん、花蓮まで…知り合い勢揃いかよ。

 

知り合い達が一番前の列を陣取ってた。

 

ーーーーーーー

 

翔と葵。

 

二人が演じるのは王子様とお姫様。

 

実際に本物と言うだけあり、違和感の感じさせないほどの見事な演技を交わす。

 

国民からの指示も1位、2位を独占するその二人。

 

それもあってか、さらに会場は二人の演技に飲み込れていった。

 

 

そしてクライマックス、ラストのキスシーン。

 

二人の演技に魅了され、静まり返る会場。

 

 

今回のこの劇では、毒を飲んで死んだジュリエットを見て嘆き悲しんだロミオが後を追うため、自らも毒を飲みジュリエットにキスをして、幕が降りる。というオリジナルのラストとなっている。

 

翔と葵が演じるとなって瞬時に監督の子が台本をいじってそうなったのは余談。

 

 

倒れる葵の横に涙を流しひざまづき葵の手を取る翔。

 

そしてゆっくりと葵の顔へ自分の顔を近づける。

 

もちろん本当にキスはしない。

 

 

はずだったのだが…

 

「「!?」」

 

ひざまづいた時に自分の衣装のマントを踏んでしまっていた翔がそのマントで滑り、その拍子に二人の唇が重なった。

 

「「「ーーきゃー!!/////」」」

 

このハプニングには会場全体が大盛り上がり。

 

特に女性客は顔を赤らめ大興奮していた。

 

 

二人を良く知る者達は、顔を赤らめる者、良いネタを手にしたと笑みを浮かべる者、「あー!」と絶叫する者、といったそれぞれのリアクションをしていた。

 

誰がどれ、とはあえて言わないでおこう。

 

 

「「/////」」

 

こうして、翔と葵、二人にとって一生忘れられない劇の幕が閉じたーー

 

ーーーーーーー

 




ラストの誰がどのリアクションかは聞かれればお答えしますが、みなさんのご想像にお任せしますね!

次回は明日です!

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