城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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切りよくしておきたかったので今回は3話投稿しました



第9話【葵】

懐かしい賑やかな食事の後、

 

「…うーん、どうしたものか…」

 

風呂から上がった俺は階段を上がった先で腕を組んで悩んでいた

 

「翔君どうしたの?」

「ん?あー葵か。いや、俺はどこで生活すれば良いのかと思って…」

 

そう言ってそれぞれの部屋を指差す

 

それぞれの部屋の扉には修・輝、茜・光、岬・遥、奏・栞と書かれていた

 

それぞれ部屋の真ん中をカーテンで仕切って生活しているようだ

 

ちなみに2階は兄弟の部屋のみ、両親の寝室は1階にある

 

 

「あーそういうこと?それならほら」

 

そう言って葵は5つある内の残りの部屋を指差す

 

翔・葵

 

「翔君の物は昔のまま残ってるよ?あ、定期的に掃除はしてあるから安心して!」

「え、いや、そこじゃなくて…」

 

いや、気づいてたよ?そりゃあ、ちゃんと気づいてたさ

 

けどそう改めて言われると本当にそれで良いものなのか?

 

兄妹といえど、年頃の男女が同じ部屋というのは…

 

いや待てよ?そんなこと言ったら岬と遥はどうなる?

 

二人は中学生、思春期真っ只中じゃないかーー

 

「なに気にしてるか知らないけど私はなにも気にしてないよ?」

「うーん…やっぱリビングのソファでーー「ダメです」…はい、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

こう見えて葵は頑固だ

 

言い合いになった場合、意地でも絶対に退いてはくれない

 

そんな葵は数少ない俺の弱点の1つでもある

 

 

その後、部屋に入った俺は一回部屋を見渡し椅子に腰掛け机に手をのせる

 

「…なにも変わってないな、ほんと懐かしい」

「うん、あの頃のままだよ」

「いや、部屋もそうだけど、家族やこの町がだよ…」

 

「6年前から何も変わっていない。暖かくて、居心地が良くて…俺は本当に帰ってきたんだな…」

「…うん、そうだよ。ちゃんと帰ってきてくれた…」

 

そこで初めて葵が涙を見せた

 

「ごめんな、葵。お前にはほんと色々心配かけた」

「…うん、ほんと、心配したんだから…」

 

俺に抱きつき泣きじゃくる葵の頭を撫でながら、俺もそっと葵を抱き締める

 

「けど、もう大丈夫。約束通り帰った来たから…もうどこにもいかないから」

「約束だよ…お兄ちゃん」

「…!あぁ約束だ!絶対にどこにもいかない」

 

 

葵は小学1年まで俺の事をお兄ちゃんと呼んでいた

 

いまでは翔君と呼ばれているけど

 

本当に弱ったときや慌てた拍子には昔の呼び方に戻る

 

 

心の底から心配してくれてたんだな…

 

「…って葵?…寝ちゃったか」

 

泣きつかれて緊張がとけたのか、葵は気づいたら俺の腕の中で眠っていた

 

いままでの不安が晴れたような明るい顔だった

 

あぁ…俺は本当に葵に弱いようだ…

 

 

「…ただいま、葵」

 

そう呟いて、葵の頭を一回撫でた

 

ーーーーーーー

 

余談だが、

 

俺と葵が同じ部屋で生活していくことを知った奏と岬が部屋に乱入してきて葵を抱きしめているのを見られ大騒ぎになった

 

その騒ぎで目を覚ました葵と共に二人の誤解を解くのと部屋の説得をするのが大変だったというのは…言うまでもないな

 


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