三好春信は『元』勇者である   作:mototwo

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このお話には原作アニメのネタバレ、原作そのままの台詞、おかしな改変が含まれます。



第20回 初めてのデート!

今日はデート。

春信の心は浮かれきっていた。

 

大赦からは

 

巫女のお告げで暫く敵が来ない事がわかっている。

次に備えるためにも羽を伸ばせ。

 

そう言われた。

 

戦いが終わっていないのに遊びに行くのは。。。

 

という春信に、

 

休めるときに休むのも戦士たちの仕事だ。

それは体だけじゃなく、心こそ休める必要がある。

 

そう言われてやっと休みを受け入れた春信だった。

しかし…

 

「どこ行こうか?」

 

「どこでもいい。どこだって楽しいよ。夏凜ちゃんとなら。」

 

「バカね、兄貴は。」

 

そう、妹とのデートである。

夏凜は単に骨休めのつもりでいたが、春信の浮かれ様は周りが引くほどであった。

 

「それじゃ、行って来ま~す!」

 

食堂に挨拶に来た三好兄妹の後姿を見送る人々。

 

「このお休み、けっこう春信に声かけようって女の子もいたんだけどねぇ。」

 

チーフが(ひと)()ちると、周りのスタッフも呆れたように言う。

 

「仕方ないっすよ、アレは本物ですから。」

 

「本物って?」

 

「本物のシスコンっすよ。」

 

「本人は家族愛だって言い切ってるけどねぇ。」

 

「周囲からしたら心配になるレベルですよね。」

 

「そういう部分も、ちゃんと教育しとけば良かったかねぇ…」

 

そんな事を言われているとは露知らず、三好春信の浮かれた一日が始まった。

 

「遊園地って行った事ないわね。」

 

「そうだね!」

 

「食事も少しはいいとこで食べたいわよね。」

 

「うん!」

 

「映画もいいかしら。」

 

「いいね、いいね!」

 

「デザートとか…」

 

「きっとおいしいよ!」

 

「兄貴…」

 

「ん?どうしたの?夏凜ちゃん?」

 

「私にばっかり考えさせて、何にも下調べしてないの?!」

 

「あ、あう~」

 

そう、前日から浮かれていた春信は何も考えられず、

着ていく服すら、出る直前になって夏凜に決めてもらっていたのだ。

 

「そんなんで本当のデートとかになったらどうすんのよ!」

 

「やだなぁ、僕が夏凜ちゃん以外とデートなんてするわけないじゃないかぁ。」

 

「はあぁっ…」

「誰も誘う相手がいないって言うから」

「仮想デートの相手として付き合ってあげてんのに…」

 

「ええ~、そんな話だっけ~?」

 

「そんな話だったわよ!忘れてんなら帰るわよ!」

 

「ああ!思い出した!そうでした!そういう話でした!」

 

「もうっ、ちゃんとやってよね。」

「戦いが終わっても、兄貴は大赦の勇者なんだから!」

 

そう、戦いは終わった。

夏凜にはそういう事で伝わっていた。

春信が大赦側に今後の戦いの事は教えないよう、お願いしたのだ。

 

(僕が動けなくなってしまったら夏凜ちゃんもさすがに気付くだろう。。。)

(でも、せめてそれまでは。。。)

 

「ホント、勇者ってワガママだよな。」

 

「まったくよ!」

 

「ところで夏凜ちゃん?」

 

「なによ!?」

 

「なんでいまだに”兄貴”呼ばわりなんですかね?」

「昔みたいに”お兄ちゃん”って呼んでくれるようになったんじゃ。。。」

 

「甘えるんじゃないわよ」

「あれは頑張った”兄貴”へのご褒美よ。」

「中二にもなって”お兄ちゃん(はあと)”なんて誰が呼ぶのよ!」

 

「え~そんな~」

 

「そのワガママは通らないわよ。」

 

「じゃあじゃあ、このデートで僕が頑張ったら、また呼んでくれる?」

 

「ふぇ?ま、まあ、頑張って私を喜ばせたら…」

 

「よっしゃぁ!気合入れていくぞ!夏凜ちゃん!」

 

「どこに頑張りどころを持ってくるのよ、アンタは…」

 

「ふふん!もうアンタや兄貴なんて呼ばせないよ!」

 

「はいはい、じゃあ、とにかく私をエスコートしなさい。」

 

「OK!」

 

春信は張り切って夏凜の手を取り、駆け出していった。

 

遊園地でご当地キャラ、カレーネコと一緒に記念撮影

お昼はホテルのレストランで食事

映画館で夏凜の好きそうなアクション映画鑑賞

昼下がりにイネスのジェラートを満喫

 

「ねえ…」

 

「なに?夏凜ちゃん、楽しくない?疲れた?」

 

ジェラートを食べながら淡白に問いかける妹に心配顔の兄

 

「いや、まあ楽しいし、疲れてもいないんだけど…」

 

「やったぁ!じゃあ、”お兄ちゃんカッコハアト”って!」

 

ドン!

夏凜がフードコートのテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「このコース、私が朝言ったのそのまんまじゃない!」

 

「だって、夏凜ちゃんの口から出たんだから、きっと行きたいだろうって…」

 

「確かにそうだけど、自分で考えなきゃ意味ないでしょーが!」

「相手によって行き先変えないと、女の子は皆、私とおんなじじゃないのよ!」

 

「いやだなぁ、夏凜ちゃんと同じ女の子なんているわけないじゃないか。」

 

「だったら!」

 

「夏凜ちゃん以外とデートなんてしないから、いいんだよ~」

 

「帰る。」

 

妹にデレデレの兄の姿に、さすがにきびすを返す夏凜。

 

「ああ~待って待って、今のは冗談だから!」

「ちゃんとこの後の事も考えてるから!」

 

ピタリと足を止め、振り返る。

 

「本当でしょうね。」

 

「う、うん、本当だよ。。。」

 

「今、考えてるんじゃないでしょうね!」

 

「そそそ、そんな訳ないじゃないか!」

 

「なんで・そんなに・うろたえてんのよ」

 

「か、夏凜ちゃんが怖い顔で睨んでくるからだよぉ。」

「本当だよぉ。」

 

ふうっ、と溜息をついて椅子へ戻る。

 

「じゃあ、コレ食べ終わるまでにちゃんと考えなさいよ。」

 

ジェラートを指差し食べ始める夏凜。

春信は胸を撫で下ろして良い返事をした。

 

「うん!」

「。。。ってアレ?」

 

夏凜に全て見透かされていることに気付くまで、暫くかかる春信だった。

「で、考えた末が大赦の神社なの…」

 

はあっ、と溜息をつく妹に必死で説明する。

 

「い、いや、今回は夏凜ちゃんが相手だから!」

「夏凜ちゃんとの思い出の場所に来ようと思って!」

 

「思い出の場所?」

 

「覚えてない?昔この神社で遊んでいたとき、猫に餌をやったの。」

 

「ああ…よく覚えてたわね、そんな昔の話。」

 

「忘れるわけないよ、夏凜ちゃんとの思い出だもん。」

 

「うっ…///」

 

「どうしたの?」

 

「い、今のはなかなか良かったわよ、相手との思い出を大切にって。」

 

「ほんと?!」

 

「ええ、意中の相手に言われたら結構、グッと来ると思うわ。」

 

「そっかぁ、夏凜ちゃんの心にグッと来たかぁ!」

 

「べ、別に私がどうとか言ってんじゃないわよ、一般論よ、一般論!」

 

「じゃあ、”お兄ちゃんカッコハアト”って!」

 

「なに、まだそんなバカな事言ってんの?」

 

「バカな事って。。。」

 

ニャー

 

「あ、次郎丸」

「三郎丸も」

 

「アンタたちも私たちのこと覚えてくれてたの?」

「ほ~ら、ヨシヨシ」

 

ポリポリポリ

 

「煮干。。。持ち歩いてたんだ。。。デートで。。。」

 

「何よ、文句ある?」

「ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA、煮干は完全食よ!」

 

『光ト闇ガ両方ソナワリ最強ニ見エル』

 

「え、塩分は高いから食べすぎには気をつけてね。。。」

 

『暗黒ガ持ツト逆ニ頭ガオカシクナッテ死ヌ』

 

「なんですってぇ!」

 

「な、なんでもないです、はい」

「お前が余計なこと言うからだぞ。。。」

 

精霊に愚痴る春信であった。

「覚えてる?ここに来てた女の子が呼んでるの見て、この子達の名前知ったんだけど。」

 

「あれ、あの子が勝手につけてただけで、野良猫だったのよね。」

 

「そうそう。」

 

「あ、太郎丸!」

 

「え?」

 

もう一匹の猫が仔猫を連れてやって来た。

 

「餌が貰えるとわかるまで出てこない、変わんないわね~、アンタも。」

 

ニャー

 

「でも子供も出来てたんだね、もう随分経つものね~」

 

「ねえ、夏凜ちゃん、その猫って。。。?」

 

「何言ってんの、太郎丸、次郎丸、三郎丸」

「いつも3匹一緒だったじゃない。」

 

「そ、そうだったっけ?」

 

「あ~、太郎丸だけいつも遅れて出てきてたから、忘れてたんでしょ!」

 

「ああ、そう。。。なのかな?」

 

「5点減点よ、思い出の場所に来たのにド忘れなんて。」

 

「困ったな、それじゃぁ95点になってしまうぞ。。。」

 

「どっからくんのよ、その自信は…」

 

「ははは、僕はいつだって夏凜ちゃんの100点満点だからね!」

 

「よく言うわ、無職のニートだったくせに。」

 

「うぐっ!む、胸が痛い。。。」

 

「でもまあ、最後にここでこの子達と会えたのは嬉しかったわ。」

「なかなかのチョイスだったわよ、兄貴。」

 

「だったら!」

 

「甘えるんじゃないの、5点減点って言ったでしょ。」

 

「そ、そんなぁ~」

 

「しょげてないで帰るわよ、ちゃんと最後までエスコートしなさい。」

 

「ふわ~い」

 

「また今度も付き合ってあげるわよ、”お兄ちゃん”に彼女が出来るまで。」

 

「また、今度かぁ。。。」

「って今?」

 

それ以上何も言わず、にこやかに境内の階段を駆け下りる夏凜。

春信は嬉しそうに、その後ろ姿を追いかけて行った。

それはそれは嬉しそうに。

 




次のバーテックス襲来までの幸せの時間。
ん?前もこんな後書き書いたような…

ええ、布石です。
今回少なくとも2箇所、フラグが立ってます。
私の書く春信は基本アホなんで、気付いていませんが。

ではまた次回。


<番外編7>
《イネス主催、『第一回 ご当地辛い物早食い合戦』~!》

「ねえ兄貴、大丈夫?」

「大丈夫だよ、夏凜ちゃん!」

「でも、辛い物苦手だったんじゃ。」

「僕ももう大人だからね!」

(ふっふっふ、満開の後遺症で味覚はない!)
(どんなに辛いものでも軽く完食してみせるぜ!)

《それでは第一回のメニューはこちら!》
《激辛カレー2000倍!》

オオー!(歓声)

《レディー…》
《スタート!》

《勢いよく食べ始める参加者達。》
《次々とギブアップしていく中、最後まで完食したのは~》

《優勝は結城友奈さん、中学2年生です!》

「いっえ~い!まっかせんしゃ~い!!」

《はしゃいでますね~》
《いかがでしたか?2000倍カレーの辛さは》

「とっっっっても、おいしかったです!」

《さすがは優勝者、まだまだ余裕の発言です!》

《では、一口で脱落していった人達にもインタビューしてみましょう!》
《唇腫らしてるお兄さん、どうでしたか、辛さは?》

「辛くはなかった。。。」

《え?》

「辛くないのになんでこんなに痛いんだ~!」
「唇も喉も食道も胃も、(ただ)れるように痛い!」

「だから言ったのに、ホントのデートではこんなバカやるんじゃないわよ。」

(辛さは痛覚を刺激してるんだって昔ネットで見たことあったっけ。。。)

こんな筈じゃぁなかったのに~!
そう叫ぶ春信の声は歓声に紛れ、友奈の耳には届いていなかったそうな。



<番外編8>
「夏凜ちゃんってさ。。。」

「なによ」

「性格キツくなってない?」

「いきなりね」

「だってさ、おにいちゃんって呼んでくれないし」

「中二にもなれば普通よ」

「怒りっぽくなってるし」

「兄貴がバカな事ばっかり言ってるからよ」

「昔は『お兄ちゃんのお嫁さんになる~』って言ってくれてたのに。。。」

「なっ?!///」
「言ってない、勝手に捏造(ねつぞう)すんじゃないわよ。」

「え?あれ~?ゲームのヒロインの台詞だったかな~?」

「ニート時代が長いと現実とゲームの区別もつかなくなるのね」

「うぐっ。。。」

「考えてみれば、今も勇者として働いてるわけじゃないのよね」

「あの。。。」

「無職でニートの兄を持つと妹は苦労するわ」

「そろそろ。。。」

「どうしたの?働かない人?」

「もう、このネタやめませんかね。。。?」

「やめないわよ。」

やめないよ


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