誰が為に華は散る【鉄血のオルフェンズ外伝】   作:deburi

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第12話:親友(前編)

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 数週間後、アスナたち月輪の鷹団はテイワズの本拠地である歳星にいた。大型惑星間巡航船の名前は伊達でなく、全長七キロメートルという巨大空間の中に回転重力区を持ち、内部には市街地が広がっている。

 

 圏外圏でその名を知らぬ者はいない、木星圏を拠点に活動する複合企業テイワズ。自衛の為に独自のモビルスーツを開発し所有しており、地球圏にも多大な影響力を持つことから、ギャラルホルンでも迂闊に手出しできない組織であった。これほどの組織を月輪の鷹団は敵に回していたというのだから、恐ろしい話だ。

 

「……まさか直接会うことになるとは」

 

 アスナはそんな歳星の居住区、その中でも一際大きな屋敷の前にいた。屋敷の前には広大な庭が広がっており、荘厳な造りの屋敷はアスナが住んでいたところと同じぐらいかそれ以上に大きかった。周囲に人の気配はないのは、早朝だからか。それとも気配を消して黒服のエージェントみたいなのが潜んでいるのか。どんな無法者でも気を引き締めざるを得ない緊張感がそこにはあった。

 

 月輪の鷹団の今後の処遇についての話し合いのため、アスナはテイワズの代表マクマード・バリストンの住む屋敷に招待されていた。

 

 黒のジャケットスーツに白のカッターシャツを着込んだアスナは、深い赤色のネクタイを締め一歩踏み出した。裏社会は男たちの世界だ。女だからと舐められないように、長かった髪はバッサリと切っておいた。下もスカートではなく、パンツスーツを履いている。

 見ようによっては中性的な青年にも見える外見になったアスナは、両開きの扉に手をかける。

 

(いや、いきなり扉を開けるわけにはいかない。まずは三回ノックだ。違う、まずはインターホンを、インターホンはどこだ!?)

 

 しかしアスナは緊張のあまり、屋敷に入る前から狼狽えてどうすればいいかわからなくなってしまった。そうしていると、自動で扉が開いて中にいた黒いスーツの男性数名に中を案内された。赤い絨毯の上を歩くことが久々で緊張しながらも、まるで美術館のように骨董品が並んだ屋敷の中をアスナは歩く。

 

 圏外圏で絶大な権力を持つ男、マクマード・バリストンとはいかなる人物だろうか。話では聞いたことがあるが、実際にどんな人間かは知らない。オルガ曰く、器のでっけぇ人らしいが、実質マフィア同然な企業の代表と聞けばどうしても気後れしてしまう。

 

(指詰めろとかあるのかな、やっぱり……)

 

 スッゾオラー、ザケンナコラー、テメェオトシマエツケロヤゴラァ、などとアスナの脳裏にありとあらゆる罵声と怒号が響き渡る。覚悟を決めなければ、と両手を握り締め、マクマードのいる部屋へと入っていく。

 

「よぉ、指定した時間よりも三〇分も早かったじゃねぇか」

 

 圏外圏一恐ろしいとされる男は、部屋の奥の椅子に深く座っていた。立ち上がるとアスナの方を向いて、静かに言葉を発する。ヒゲの伸びた初老の男性だったが、堂々とした立ち姿は老いをまるで感じさせないものだった。アスナたちコロニーに住む人間にはあまり馴染みのない和服を着たその男こそが、マクマード・バリストンその人だった。

 

「あまり早く来すぎると、かえって相手に気ィ遣わせるから心得ておきな」

「は、はいぃ!」

 

 オルガよりもさらに、別次元の迫力をもったマクマードにアスナは心臓を掴まれたかのような感覚に陥ってしまう。

 

「まぁ座れ」

「はい!」

 

 マクマードが座ると、テーブルを挟んで向かい側のところにアスナも座った。

 

「返事のでけぇ奴だな。気に入った」

「はい!」

「まぁ、そんな緊張しねぇでも指詰めろとか言わねぇから普通でいな」

「は、はい……」

 

 アスナの様子がおかしかったのか、少し笑みを浮かべたマクマードは続けた。

 

「マリーメル家の一人娘だったか。元気なお嬢さんだ」

「父上のことをご存知で?」

「ああ、昔は商売相手だったからな」

「……今回の件は、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

 

 深々と頭を下げたアスナの頭をマクマードは掴んで、上げると静かに言った。

 

「おめぇさんに謝られても、どうしょうもねぇことだ。そうへこへこ頭下げるもんじゃねぇぞ」

「しかし……」

「今回の件は、フィゲル・マリーメルとライオネル・ランスローが起こした案件だ。報告書にはそう書かれていたしな」

 

 あくまでもアスナは戦闘中に指揮権を奪って投降しただけ、と報告書にはなっていた。事実そうなのだが、団長という意味では責任があると思いアスナは謝罪したのだ。それにフィゲルは実の父親。親の起こした厄介事の尻拭いは、子である自分がするのが当然であるとアスナは考えていた。

 

「アスナ・マリーメルの頭は、月輪の鷹団の頭でもあるんだからな。軽くしちゃいけねぇもんだ、それは」

 

 マクマードの言うことはもっともだった。組織の代表である自分が軽々しく頭を下げるということは、相手が何も言う前に自分の組織が全面的に悪かったと言うようなものである。そうなれば、相手のほうにも過失があった場合であっても、責任の全てを押し付けられてしまいかねない。

 結果としてしわ寄せが来るのは、月輪の鷹団の皆だ。

 

「もっと胸張っていきな。おめぇさんは肝の据わった女だって、オルガからも聞いているぞ」

「肝の据わった……」

「それとかな」

 

 彼はアスナの口元を見て、言った。アスナの前歯はライオネルに殴られて抜けた時のままになっていた。失礼になってはいけないと、慌ててアスナは口元を両手で隠そうとするが、そんな彼女にマクマードは語った。

 

「意地張ってできた傷ぐらい、誇りな」

 

 そうだ。これは皆を守るために傷だらけになっても立ち上がり、命を賭けて立ち向かった証でもある。マクマードという男はそれを理解し、その上でアスナの行動を認めていたのだ。今まで接してきたどの人間よりも大人だと、アスナは感じた。

 切った張ったの世界で生き残るには、それ相応の生き様がある。

 

「はい!」

 

 対するアスナはまだ知らないことだらけだ。バイオリンの弾き方は知っていても、この世界での生き方はまるで知らない。自分もまだ子供だ。きっとマクマードから見て自分は、拳で握ったフォークでハンバーグを食する幼子だろう。

 

「で、だ。話はここからだ。月輪の鷹団としての責任は全部とってある。そうだな?」

「ええ……全て」

 

 賠償金は暗礁宙域で鹵獲した敵モビルスーツとライオネルが所有していたモビルスーツと戦艦を売却することで完済できた。特にガンダムフレームは市場で高騰していることもあり、高値で取引することができた。それもこれもタービンズの名瀬という人物が、月のコロニー群での競り市を手配してくれたおかげだ。

 

 ライオネルが雇っていた傭兵たちも責任の所在はライオネル本人にあるとし、不問になって解放される予定だ。生き残ったヒューマンデブリの子供たちは月輪の鷹団のほうで一時的に預かっている。

 

「これからどうするつもりだ?」

「月輪の鷹団を傭兵団としてまとめあげて、彼らの居場所を作っていきます」

「にしても、後ろ盾がねぇとな」

 

 そのとおりだ。何の後ろ盾もない無名の傭兵団となれば、受けられる仕事は限られてくる。それこそ安い護衛依頼か、危ない依頼ぐらいだ。

 

「そこでな。俺はおめぇさんらを見込んで、契約を結ぼうと考えている」

「契約、ですか」

「テイワズと契約を結んだ傭兵団となりゃ、食いっぱぐれはしねぇだろ」

 

 後ろ盾があればそれだけ信頼度が上がり、傭兵団としての名も売れる。たしかにテイワズからの依頼を最優先にしなければいけないという制約はあるものの、逆に言えば輸送の護衛をはじめとして仕事は山ほどあるということだ。おそらくテイワズ関係の依頼だけで十分、やっていけるだろう。

 

「二年前のエドモントンでの一件は知っているだろ。あれからギャラルホルンの権威は失墜し、各国は独自に軍備を増強させるようになった。それは圏外圏でも同じことよ。今、テイワズは軍備拡張を推し進めている真っ最中だ。ともなりゃ、月輪の鷹団のような存在は敵に回せば厄介だが、味方にすりゃ心強いってもんだろう。それにちょうど今、やって欲しいこともあるからな」

「本当に、いいのですか」

「ああ、テイワズとしても利になる話だ。傭兵団として契約を結ぶってんなら、うちの連中も文句は言えねぇ。おまぇさんらとテイワズは立場の違いで敵対しちまっていたようなもんだからな」

 

 そうなれば月輪の鷹団の今後は保障されたということになる。この先どうなるかは分からないが、少なくとも今までのような逃げ回る生活からはおさらばできる。それこそ組織間の面倒なやり取りや、駆け引きは起こってくるだろうが、命を常に狙われている状況よりはよっぽどマシだ。

 

「これで団員の奴らにも美味い飯食わせてやれるだろ」

 

 マクマードはそう言うと、アスナの肩に手を置いて深い笑みを浮かべた。

 

 

 

     2

「皆、元気にやってるねぇ……」

 

 ジャックは格納庫の手すりにもたれかかって、眼下に立ち並んでいるモビルスーツたちを眺めながら呟いた。テイワズでは独自のモビルスーツ開発を行っており、その本拠地である歳星には巨大な工廠が存在する。彼は今そこにいた。

 

 現在、ゴードンのゲイレールと鉄華団のショッキングピンク色のグレイズが向かい合って、戦闘シュミュレーションの真っ最中だ。これで二〇戦目だが、ゴードンは一度も勝利を手にしていない。それどころか、相手に傷を負わせることもままならない。

 

 それもそうだ。ジャックと違い、ゴードンがモビルスーツに乗り始めたのは暗礁宙域での一件からである。実戦となると、鉄華団との戦闘が初めてだった。阿頼耶識で操縦に関する知識は補えているものの、それでもモビルスーツ戦の経験は浅い。負けて当然だ。

 

「もう一回お願いします!」

「げぇ!? まだやるのかよ……」

 

 向こうから気合に満ちたゴードンの声と、疲弊しきった青年の声が聞こえてきた。この前の戦いでは敵に手も足も出せずにやられてしまったのだから、余計に気合が入っているのだろう。

 

「ついこの間まで敵同士だったっていうのに、ツラ見せ合って話せば何ともないもんだ」

 

 モビルスーツという兵器を使って殺し合いをしていると、相手の顔が見えなくなる。顔が見えないということは、相手が人間であるということを感じにくいということだ。怖いぐらいすんなりと、相手を『敵』だと認識できる。

 逆に言えば、顔を見せ合って殺し合いをしていないぶん、敵味方の関係が変わった状況にも順応しやすいのかもしれない。

 

「敵対していたとはいえ、立場は俺らと似たようなものだったからな」

「……だな」

 

 ジャックは隣にいる、筋肉質なガタイの良い上半身裸の青年に返事をした。肩にかけたタオルで全身の汗を拭っている。

 

「そこの汗臭い兄ちゃん」

「昭弘アルトランドだ」

「ん、ああ、悪い。そういやお互い名乗りあってなかったな。俺はジャック・ヒューゲル。でだ。何で昭弘は汗だくなわけ?」

「筋トレに決まっているだろう」

「何でよ」

「筋肉がないといざって時に不便だろう。モビルスーツ戦は体力勝負でもあるんだ。それこそ持久戦になれば、どれだけ疲弊していても敵は待っちゃくれねぇ。体でぶつかっていかなきゃな」

「違うね。余計な筋肉があると繊細な動作がしづらくなる。いくら照準を感覚で補正できるからって、最後の一手間は手動だ。手先の器用さが大事で、指先がごっつくなっちゃ本末転倒だぜ」

「それでも筋肉のほうが大事だろう」

「いや、器用さだ」

 

 細身で必要最低限の筋肉しかないジャックと、全身が筋肉の塊のような昭弘は互いに一歩も引くことなく激論を繰り広げる。しかし狙撃手と近距離から中距離をメインに戦う前衛とでは話が噛み合わず、議論は平行線をたどっていた。

 

「あんたとは性格合わなさそうだ」

「お前も、もう少し筋肉をつければ違う世界が見えてくるというのにな」

「はいよ……とりあえず逃走時の為に、足の筋肉はとけておきますよっと」

「飲め」

「さんきゅ」

 

 ジャックは昭弘からプロティン入りの特製ドリンクを受け取って、ストローを突き刺して飲み始める。プロティンというもの自体初めてで、これが何を意味するのか彼にはさっぱり分からなかった。ただ一つ、昭弘という人間が持っているのだから筋肉が関係しているのではないだろうかという推測だけはできた。

 

「美味いね。これ飲むと筋肉つくの? 足にしてよ。腕とかは嫌だから」

「筋トレした後に飲むと効果があるぞ」

「意味ねぇじゃん……」

 

 男二人、プロティン入りドリンクを飲みながら格納庫を眺める。

 

「あんたさ。何で俺のこと助けたの?」

「お前は死ぬべき人間じゃない。そう思ったからだ」

「弟のことか」

「ああ。俺も似たようなものだからな」

「分からねぇ」

 

 たしかに自分と同じような立場の人間が敵で、そんな存在に対して戦っている最中に何かを思うことは分かる。敵に同情する気持ちも理解できた。

 

「戦争で敵のことを思いやる人間なんて初めて見たぜ。あんただけじゃない。鉄華団の人たち皆、俺らが敵だったことを何とも思ってないように接してくる。それどころか、俺らを助けてくれるんだから不思議なんだよ」

 

 ジャックの弟であるコスターに関してもそうだった。コスターは今まで医療設備もろくにない艦内で過ごしてきた。衛生状態も決して良いとはいえない。そんな彼を鉄華団は歳星に到着してすぐ、ちゃんとした病院のベッドの移してくれたのだ。賠償金の件もまだ完全にカタがついたとは言えない状況でだ。

 

「お人好し、だと思うか」

「まぁ正直に言えばそうなるね。ましてや圏外圏で名を知らぬ者はいないと呼ばれる、武闘派組織だろ。ますます意味分からねぇ」

「手の届く範囲でならどうとでもなる。なら助けるのが道理ってもんだろ」

「そういうものかね……まったく―――」

 

 ジャックは昭弘から視線を逸らして言った。

 

「こういう時、素直に「ありがとう」って言えない自分が嫌いだね」

 

 自称天才でも理解できないことは山ほどある。知識的なものは本を読めば大体は解決するが、こういうことは今までの価値観をひっくり返して考えなければいけない分、かなり面倒だなとジャックは思った。

 

「んでさ、あの獅電のパイロットのねーちゃんとはどういう関係よ」

「ラフタのことか?」

「へぇー、ラフタちゃんって言うんだ……。遠目に見たけどめちゃ可愛い子じゃん」

「お前……」

「なにその憐れむような目は!? 君のガールフレンドとかじゃないんだったら、俺が狙っちゃおうかなってさ! ほら、俺って天才だし美少年じゃん。やっぱり惚れられちゃうかな、と思うのよね。我が世の春がきたりって―――」

「あのな」

 

 昭弘はジャックの肩に手を置くと、ゴホンと咳払いをして語った。

 

「あいつには既に相手がいるんだぞ」

「へ?」

「残念だったな」

 

 よくよく考えれば、ラフタという少女もジャックにとっては敵だった存在だ。そんな人間を可愛いと思える自分がいることに気づいてしまう。よくよく考えるとやはり不思議な話だ。そう思いながら彼は静かにプロティン入りドリンクを飲み干し、「どうしていつも……」と嘆きの声を喉の奥から漏らした。

 

 

 

     3

 歳星の居住区に立つ豪勢な屋敷は、テイワズの商業部門を担当するJPTトラストの代表であるジャスレイ・ドノミコルスの所有物だ。部屋には彼と数名の部下がおり、向かい側の椅子にはカズマが座っていた。いつものようにアロハシャツを着込んだ軽装でありながら、黒スーツの部下たちと比べても緊張感のある眼差しでジャスレイの前にいた。

 

「いちおうは月輪の鷹団に関する面倒事は片付けられた。が、あまり旨味のねぇ結果に終わっちまったなぁ」

「月輪の鷹団は正式にテイワズと契約を結んだ傭兵団としてやっていくらしいです」

「こいつがまた気に食わねぇ」

 

 ジャスレイはウィスキーを一口飲むとテーブルに置き、ビターチョコレートを口に入れて噛み砕きながら言った。

 

「一度はうちに楯突いた組織だ……落とし前はつけたんだろうが、契約まで結ぶとなりゃ話は別だろう。なぁ、カズマ?」

「それに加えて、テイワズと契約を結んだ傭兵団となれば、マクマードが自由に動かせる戦力にもなっちまいます」

「ああ、それもあったな。今後の為にも消しておきてぇところだが……」

 

 ナイフを手に取ったジャスレイは、銀色に鋭く光る刃先を眺める。彼はいざとなれば権力で人を殺せる人間であった。今までそうやって上り詰めてきたし、これからもそうしていくつもりだろう。それが彼にとっての裏社会で生きる術であるのなら。

 

「むしろ利用しちまいましょう」

「どういうことだ?」

「如何に傭兵団とはいえテイワズと契約したとなりゃ、お目付け役がいて当然でしょう。その役を俺が引き受けます」

「なるほどなぁ。本当、おめぇはタチの悪い男だぜ」

 

 カズマが月輪の鷹団の監視役となれば、必然的に彼の所属するJPTトラストに反発することはできなくなる。契約相手がよこした監視役の所属する組織なのだ。依頼に関しても優先的に受けなければならなくなるだろう。

 

 ここでカズマを監視役にしなければ、マクマード側から監視役が選ばれる可能性が高い。そうなればジャスレイの言うとおり、月輪の鷹団は完全にマクマードの私兵と化す。テイワズ代表の地位を狙うジャスレイにとっては面白くない展開だ。

 

「そうと決まれば明日の会議で、俺が名乗り出ますぜ」

「頼めるか」

「叔父貴のためなら俺は何でもやる男です。任せてください」

 

 何の地位もなく、奪った食物で生きながらえることしかできなかったカズマに目を付け、世話役にしてくれたのは目の前の男だ。最初は冷たい飯ばかりだった。しかしそこからカズマは成り上がり、叔父貴と呼べる地位まで手に入れた。おそらくジャスレイという男がいなければ、自分は冷たい土の上で野垂れ死んでいたことだろう。

 

「お前の悪知恵には昔から世話になっているからなぁ。欲しいものがあるなら言ってみろ」

「欲しいもの、ですか」

「ああ、何でもいいぞ。女ならいくらでも用意してやる」

 

 カズマの脳裏に浮かぶのは、一機のモビルスーツ。暗礁宙域に美しく舞う妖精にも見えたが、同時に鉄華団の悪魔と対等にやりあう鬼神でもあるそれは―――アスモデウス。

 

「ガンダムフレーム……サブナック、とかいいましたっけ。月輪の鷹団が賠償金のために売却したってやつ。アレですかね」

「そんなものでいいのか?」

「はい。ワガママを言ったつもりなんですけどね」

 

 カズマはタブレットに映ったサブナックの鹵獲時の写真をジャスレイに見せて、静かに微笑んだ。

 

「しっかし、理由はなんだ? 性能面でいうならギャラルホルン製の量産型でも十分に事足りるはずだろう」

「強いて言うならば、惚れた女に会うので立派な服を着て行きたい……ってところですかね」

 

 ガンダムフレーム機には底知れない可能性がある。それを引き出してみたいとカズマは思った。そう、彼が恋したガンダムフレーム乗りのように。


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