この腹黒主人公に祝福を!   作:ユキシア

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ネガティブなアークプリースト

ゆんゆんとパーティーを組んだ次の日。

無苓はゆんゆんと一緒にテーブルに座って溜息を吐いていた。

「……来ませんね」

「そうですね……」

新たな仲間を募集する為に張り紙を出してから既に三時間が経過したが誰一人集まらなかった。

 

『パーティーメンバー募集。盗賊とアークウィザードの二人です。前衛職、僧侶(プリースト)を探していますが基本職の方でも構いません。一緒に冒険をしませんか?』

 

無苓が張り紙にそう書いて張り出して貰ったがまだ誰も来ない。

無苓は盗賊、ゆんゆんはアークウィザードの為、バランスを良くするために前衛職と僧侶(プリースト)を優先に募集の張り紙を出した。

もちろん、基本職の冒険者でも構わないのは本当だ。

全ての職業のスキルを取得できるという点は基本職の冒険者の長所。

それを活かせれることが出来れば十分に冒険者でも活躍できる。

「私のせいでしょうか……私がパーティなんて組んだせいで……」

「それは違うと思いますが……」

仲間が集まらないことを自分のせいにするゆんゆんに何故そうなると疑問を抱いた無苓。

そもそも仲間を募集しようと言い出したのは無苓の方であってゆんゆんはそれに同意してくれただけ。

募集内容を書いたのも無苓の為ゆんゆんが悪い要素は一つもない。

「そろそろ昼ですし、食事をしてもう少しだけ待ってみましょう。それでも駄目でしたら今日はクエストに行きましょう」

表情を暗くするゆんゆんの気分を変える為に食事にする。

腹も膨れれば気分も多少なりはよくなるだろうと思い、注文を取る。

「あ、あの……」

小さい声に二人は反応して声がする方を向くと銀髪の少女が立っていた。

シスター服に身を包まれた少女の手には無苓が書いた仲間募集の張り紙を持っていた。

「パーティーに入ってくれるんですか!?」

「ぴぃ!ごめんなさいごめんなさい!!私なんかが声をかけてしまってごめんなさい!」

仲間候補が来てくれたことに喜ぶゆんゆんに怯えて頭をペコペコと下げる少女。

それを見てゆんゆんは怖がられているとショックを受けた。

「謝る必要はありませんよ、私の名前は無苓。パーティーに入って頂けると嬉しいのですが」

「あ、はい……ごめんなさい、私なんかがパーティーに入ろうとしてごめんなさい。お詫びにお昼ご飯のお金を出しますので許してください」

「募集しているのはこちらです。謝る必要も食事をおごる必要もありません。よろしければ食事をしながら話でもしませんか?」

何度も謝り倒す少女に無苓は表情を変えずに取りあえずは一緒に食事を取ることに成功した。

「アークプリーストのアリッサさんですね」

「はい、ごめんなさい。私なんかが上級職でごめんなさい」

「あ、謝らないで……」

アリッサの冒険者カードを拝見して上級職のアークプリーストだと判明した。

そんな凄い職業についていることがおこがましいかのように謝るアリッサにゆんゆんはオロオロしながら止めさせようとする。

しかし、僧侶(プリースト)の中で上級職であるアークプリーストが来るとは予想以上だった。

幸運が平均と無苓とボッチのゆんゆんにとってこの巡り会わせには感謝しなければならないほど素晴らしいものだった。

無苓は冒険者カードをアリッサに返して問いかける。

「失礼ながらアリッサさんはどうしてこのパーティーに?上級職のアークプリーストならどのパーティーにも誘われると思うのですが」

あらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなし、前衛にも出れる万能職。

それが何故このパーティーに入ってくれたのかが疑問に思った。

「えっと、その…ごめんなさい!!」

「謝らないで!お願いだからこれ以上謝らないで!」

何度も謝るアリッサにゆんゆんはとうとう涙目になって止めに入る。

無苓はアリッサが訳アリと判断してそれ以上の追求はしなかった。

アークプリーストであるアリッサがパーティーに入ってくれるならとやかく聞くつもりはない。

それに今の謝り方に無苓は違和感があった。

これだけは話したくないのかそこだけは強い拒絶を感じた。

アリッサには誘われないもしくはすぐに止めさせられる何かがあるのではないかと推測した無苓はある案を閃いた。

「せっかくですのでこの後一緒にクエストに行きましょう」

それが一番の近道と判断した無苓は二人にそう言った。

今日も平原地帯でジャイアントトード、カエルを討伐に来た無苓は腰にかけているホルスターから拳銃を取り出すとゆんゆんはそれを興味深そうに見る。

「ムレイさん。それはなんですか?」

「拳銃という遠距離で攻撃が可能とする武器ですよ」

ゆんゆんの質問に爽やかに答える無苓は昨晩の内にもう一つの特典である《物質創造》を使って拳銃を創造してみた。

試し撃ちはこれからだが、いい感じにできていると思っている。

復讐の為に様々な知識を身に着けた一環で拳銃の構造も把握している。

正直無駄知識だったが異世界で活躍するとは思いもよらなかった。

すると、ゆんゆんが突然無苓に抱き着いて来た。

「捨てないでください!私、何でもしますから!!」

「どうしてそうなるんですか?安心してください、これは筋力が低い私の護身用のようなものですから」

魔法使い職のゆんゆんの存在を奪う拳銃にゆんゆんはもういらない子と思い泣きつくが無苓がその気がないことに安堵する。

「ごめんなさい!私なんかがパーティーに入ろうとしたせいで……!カエルに食べられて消化されてきますので許してください!」

「ちょっ!待ちなさい!お願いですから単身でカエルに向かわないでください!!」

自分のせいで無苓達が喧嘩をしたと思ったアリッサは単身でカエルに突っ走る。

それを見た無苓は止めようとしたが止まらずロープを取り出してスキルを発動する。

「『バインド』!」

「ぴぃ!」

盗賊スキルにより、アリッサを縛り付ける無苓だがアリッサは危機は変わらない。

カエルが舌でアリッサを捕まえたからだ。

「ぴぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」

「『バインド』!!」

《物質創造》によりもう一つロープを創造してアリッサを縛ってカエルと綱引き状態になる無苓は隣にいるゆんゆんに助けを求めた。

「ゆんゆん!魔法で倒してください!」

「はい!『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」

ゆんゆんの魔法により無事に助けることが出来た。

「ひぐ……うぅ……ごめんなさい……」

「いいのよ。怖ったよね?もう大丈夫よ」

涙を流すアリッサを優しく慰めるゆんゆんに無苓はどうして他のパーティーに誘われなかったのか納得した。

自虐してモンスターの餌になろうとしてそれを助けるのに色々苦労したのだろうと今までアリッサとパーティーを組んできた者達に同情した。

アリッサのネガティブ思考と上級職のアークプリーストと相まって苦労と嫉妬も含めてパーティーに誘わなかったのだろう。

「大丈夫ですよ、アリッサさん。私達は貴女を見捨てるようなことも囮に使うようなことは決してしません。そうですよね?ゆんゆん」

「私とムレイさんで何度もアリッサちゃんを助けるからアリッサちゃんも私達を助けてね?」

諭すように優しく告げる二人にアリッサは泣くのを止めて顔を上げる。

「本当……ですか?こんなカエルの餌になるしか取り柄のない私がパーティーにいてもいいんですか?」

「悲しいこと言わないで……」

「同感です。もう少し自分に自信を持ってもいいんですよ」

無苓は逆にどうしてそこまで自分を自虐できるのか気になったがその事は胸にしまっておいた。

そんな話をしているなかでカエルが何匹が近づいてくることを敵感知で察知した無苓は気を取り直して拳銃を取り出す。

カエルに照準を合わせて引鉄(トリガー)に指をかける。

そして、引鉄(トリガー)を引くと暴発した。

「~~~~~~ッッ!!?」

声も出せない程の激痛が走る。

「ムレイさん!?」

暴発した拳銃により、右腕は大火傷を負って指は辛うじてついている状態。

突然の爆発に二人は慌てて無苓に近寄ってアリッサは慌てて回復魔法を施す。

「『ヒール』!」

「「おおっ!」」

アリッサの回復魔法により傷が治った。

瞬く間に傷が治ったことに驚嘆の声を出す二人は慌てて近づいてくるカエルの存在を思い出した。

「幻惑!」

「『ライトニング』!」

魔眼で動きを止めて魔法で瞬時に倒せて一安心すると二人はアリッサに視線を向ける。

「凄いよ、アリッサちゃん!あっという間に傷を治すなんて!」

「ありがとうございます。アリッサさんのおかげで右腕は無事です」

褒めるゆんゆんに礼を言う無苓にアリッサは首を横に振る。

「お礼なんていりません。私も……助けていただきましたので………」

ゆんゆん同様にいい子なのだろう。

ネガティブ思考で暴走しなければきっと他のパーティーに入れて貰って活躍しただろう。

だからといってここでアリッサを手放すつもりは無苓にはなかった。

無苓は視線をアリッサに合わせて話しかける。

「アリッサさん、これからも私達のパーティに留まっては頂けませんか?貴女ほど優秀なアークプリーストを手放したくないのです」

「わ、私なんか……」

「謙遜は美徳ですがいきすぎる謙遜は嫌味にしかなりませんよ。必要以上に自分を貶すは止めた方が良い。それは自分だけでなく他の方も傷付けてしまう」

「そ、そのつもりは……」

少々言葉を強めに言う無苓にアリッサは怯えながらそのつもりはないと言おうとしたがその言葉よりも無苓が先に口を開く。

「そのつもりはないことは私達はわかっています。ただ、もう少し自分に自信を持って頂きたいのです。私達がアリッサさんのことを自慢できる仲間と自信を持って言えるように。ゆんゆんもそう思いませんか?」

「ア、アリッサちゃんはもう大切な私達の仲間だよ!私は自信を持ってめぐみん、友達にアリッサちゃんのことを自慢したい!」

「―――ッッ!?」

ゆんゆんの言葉に顔を赤く染め上げてフードを深く被って顔を隠すアリッサに無苓は微笑みを崩すことなく告げる。

「私達の言葉を信じては頂けませんか?友達として同じパーティーの仲間として」

「……………はい」

小さい声で確かな肯定を獲得した無苓は優しくアリッサの頭を撫でる。

そこでにゅるりとぬるぬるしたものがアリッサに巻きつかれて勢いよく引っ張られた。

「ぴぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

「ア、アリッサちゃーーーーーーーんッッ!!」

いつの間にか舌の範囲内にいたカエルによってアリッサは捕食された。

無苓も思わず敵感知を忘れる程に気が緩んでいた。

頭からぱくりと捕食されたアリッサを見てそういえばとアリッサの冒険者カードで幸運が凄く低いことを思い出した。

しかし、今はそれは置いておいて。

「ゆんゆん!助けますよ!」

「はい!」

二人は慌ててアリッサの救助に向かった。

クエストを終えた無苓は《物質創造》で大きめのタオルを創ってアリッサの身体に付着した粘液を拭いて街に帰った。

帰りの道中でアリッサは泣いていたがあれは泣いてもいいと思った無苓だった。

正直、自分もカエルに捕食されたら泣いてしまう自信があった。

「あの、私はアリッサちゃんと一緒に大衆浴場に行きますね」

「ええ、報告は私がしておきます」

「ぐす……ごめんなさい、カエル臭くてごめんなさい……」

粘液は落としたが服に染みついた臭いまでは落とせずに二人は大衆浴場に向かい無苓は討伐の報告の為にギルドに向かう。

報告と報酬を頂いた無苓は二人が来るまでテーブルに座って拳銃がどうして暴発したのかを考える。

「すまないが、少しいいだろうか?」

「はい、何でしょうか?」

拳銃の反省を考えようとした時、一人の女性が声をかけて来た。

金属鎧に身を包んで腰には剣を携えている赤い髪をした女騎士。

「パーティー募集を見させて貰ったがまだ募集しているだろうか?」

「勿論です、私の名前は刈萱無礼。職業は盗賊。今は一人ですが他にもアークウィザードとアークプリーストの二人がいます。もしよろしければ貴女のお名前を窺っても?」

「失礼した。私の名はセルティ、ソードマスターを生業としている者だ」

セルティは一息開けて無苓に告げる。

「私をパーティーに加えては頂けないか?」

 


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