この腹黒主人公に祝福を!   作:ユキシア

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討伐の翌日

ベルディアとの戦いが終えて無苓は泉で釣りをしていた。

「平和ですね……」

『平和ボケしてるわね、ムレイ』

腰に携えているエアリエルが紅玉から姿を現して無苓の肩に乗る。

「ベルディアの報奨金も手に入りましたから無理する必要はありませんし、それに私はこのまま戦うことなく平和に過ごしたいんですよ」

魔王軍の幹部ベルディアを討伐して全冒険者はその報奨金を受け取った。

元々ある分も加えてそれなりに潤っている無苓は無理してクエストに行く必要性にない。

それに無苓は元々魔王を討伐する気概はない。

第二の人生を楽しく生きれたらそれでよかった。

『ムレイに比べてカズマ達は大変だもんね~』

「そうですね」

アクアが召喚した大量の水により、街の入り口付近の家々が一部流され、損壊し、洪水被害が出てしまい、和真達は三億四千万の弁償金額が科せられてしまった。

ベルディアを倒したMVPとして特別報酬の三億が消え、残った四千万の借金が和真達は残っている。

是非とも借金返済を頑張って欲しいものだ。

『ムレイはさ、変わっているよね』

「何がです?」

唐突にそう言ってくるエアリエルは無苓の肩の上で足をブラブラと動かしながら口を動かす。

『平和に過ごしたいって言っている割にデュラハンと戦おうと誰よりも速く決断していたじゃん。ただ平和で生きたいのなら他にもやり方があるのにムレイはそれをしない。矛盾してない?』

相手は魔王軍の幹部。

間違いない強敵相手に無理して戦う必要はないにも関わらず無苓は前へ出て戦うことを誰よりも速く決断した。

結局はベルディアの配下を倒しただけでベルディアは和真達が討伐したが、エアリエルの言葉通り、他にやり方があったはずにも関わらずに無苓は逃げることもせずに戦うことを選んだ。

「矛盾していませんよ、私は英雄でも勇者でもない。特殊な力を持った一般人。世界を救えるような心構えもなく、魔王を倒す勇気もないただの臆病者」

『じゃあ、何で戦うの?』

「自分の手が届く友達と仲間を守る為ですよ、戦えない人間が戦わない理由にならないように友達と仲間を守る為に私は武器を手に取るのです」

それが刈萱無苓の第二の人生における最低限の覚悟。

もう後悔をしない為にも無苓は戦うべき時は戦いに赴く。

そのちっぽけな覚悟を聞いたエアリエルは笑みを浮かべていた。

『魔王を倒すのはムレイだったらいいのにな~』

「勘弁してくださいよ、エアリエル」

笑うエアリエルに嘆息する無苓。

「ムレイさ~ん!」

遠くから聞こえてきた声に二人は振り返るとゆんゆんが手を振りながらこちらに駆け付けて来ていた。

『ふぅ~』

そんなゆんゆんに向けてエアリエルは息を吐いて突風を発生させてゆんゆんのスカートを捲らせて下着を晒させる。

「ピンクですね」

「きゃああああああああ!?エ、エアリエル!急に何するのよ!?」

地面に座り込んで涙目で叫ぶゆんゆんにエアリエルは平然としている。

『ムレイがゆんゆんのパンツ見たいかなって思って』

「どちらかと言えば下着が周囲に晒されて羞恥で顔を真っ赤にするゆんゆんの顔の方が見たいですね」

「もう!二人のエッチ!いじわる!」

怒るゆんゆんだが、二人にとっては怖いと思う以前にゆんゆんの怒る顔も可愛いと思いながら黙って怒られた。

「すみません、それでどうかしたんですか?セルティさんとアリッサさん達はいないようですが?」

この場に来たのはゆんゆんだけの同じパーティーメンバーである二人の姿は見えない。

「セルティさんは新しい剣を慣らしてくると実家に戻りました。アリッサさんは報酬金をエリス教に寄付すると教会に行かれましたよ」

『つまり、一人寂しかったゆんゆんはムレイを探しにきたと』

「ち、違うよ!私はただ………そう、ムレイさんは何をしているのかなって思ってきただけよ!!」

「………無理しなくていいんですよ、ゆんゆん。寂しい時はいつでも私の胸に飛び込んできてください」

「や、止めてください!そんな慈愛に満ちた目で私を見ないでください!!」

酒場で一人、何もすることもなくぽつんと席に座っているゆんゆんの姿が容易に想像できてしまった無苓は優しい目でゆんゆんを見ていたがゆんゆんは慌てながら否定するがその説得力はゼロだった。

「そう言えばセルティさんは少し重たいと言っていましたね」

ベルディアとの戦いで無苓が盗賊スキルのスティールで奪ったベルディアの大剣はセルティが持っている。

相当な業物らしく売るよりも前衛職であるセルティが使った方がいいと判断してセルティの得物となっている。

だが、今のセルティに少し重たかったらしく得物を馴染ませる為に実家で鍛錬を行う。

アリッサは家族皆がエリス教徒で女神エリスを深く信仰している。

その中でもアリッサはアークプリーストとして時折は教会に呼ばれて活躍している。

「………改めて思えば私達は真面目で努力家ですけど微妙に報われていないですね」

ゆんゆんは優秀のアークウィザードだが、魂レベルのボッチ。

アリッサは根も優しく支援回復共に活躍できるほどの腕前だが、幸運値に恵まれていないせいか非常にネガティブ思考。

セルティは勇敢で努力家で周囲に信頼されているがモンスターを見ると殺したくなる残念嗜好の持ち主。

『ムレイは紳士そうに見えるドSだもんね』

「否定はしません。特にゆんゆんの前では」

「ど、どうして私の前では否定しないんですか?」

「ゆんゆんを見ると虐めたくなるんですよ」

『あ、わかる』

「やめてください!本当に怒りますよ!?」

今にも掴みかかってきそうなゆんゆんを宥めて無苓は釣竿を消してゆんゆんと一緒に街へ戻る。

隣で歩くゆんゆんはどこか楽しげにしているがそれはそれで微笑ましかった。

「そういえばゆんゆんとめぐみんさんの生まれた紅魔の里とはどういうところなんですか?」

「え、え~と………に、賑やかなところですよ」

言いたくないのか、それとも言うのが恥ずかしいのか目線を泳がせながら必死に答えた。

生まれた里を悪く言うこともできないゆんゆんは思いついた告げると無苓は苦笑しながらゆんゆんの頭を撫でる。

「いつか案内してくださいね」

まだこのアクセルの街しか知らない無苓は何時かはこの世界を見て回ろうと考えている。

その最初がゆんゆんの生まれ故郷である紅魔の里にしたいと告げるとゆんゆんは嬉しさ半分恥ずかしさ半分で首を縦に振る。

「……はい」

「ゆんゆんの御両親にも挨拶しておきたいですしね」

「え!?」

同じパーティーを組んでいる仲間として一言挨拶をするのは礼儀だろうと考えていた無苓とは反対にゆんゆんは頬を染めて胸元で指を絡ませていた。

「あ、あの……私はまだ13ですし、まだそれは早いと思いますけど………それにまだちゃんとお付き合いを…………」

小言でごにょごにょと口走るゆんゆんに無苓は首を傾げる。

「早い?ああ、確かに私達はまだ出会って一ヶ月程度ですけど時間は関係ありませんよ。私達の仲じゃないですか」

同じパーティーメンバーとして寝食を共にしてきた無苓達に時間など関係ない。

既に互いが信頼できる仲間と無苓は思っている。

「私達の仲……!?そ、そうですよね……私とムレイさんの仲ですよね……でも、やっぱりもう少ししてからの方が………」

この国では16歳から20歳の間に結婚するのが普通で結婚自体は14歳からできる。

無苓は今年で17歳、結婚してもいい年齢になっている。

ゆんゆんはまだ13歳だが、もうすぐ14歳になる為結婚もできる。

「もちろん今すぐという訳ではありませんよ。もう少しこの街でゆっくりしてから行きましょう」

「は、はい!私からもムレイさんの事を父に紹介します!」

「ええ、その時はよろしくお願いしますね」

「はい!えへへ……」

幸せそうに微笑むゆんゆんは無苓の言葉の意味を知るまで数時間後。

しばらくの間、部屋へ閉じこもってしまった。

 

 

 


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