「ゆんゆん、聞きましたか?魔王軍の幹部が街の北外れの廃城にいるみたいですよ」
「はい、私も他の冒険者の方の話を聞きました」
街中を歩きながら無苓はゆんゆんに魔王軍の幹部がアクセル街付近に来ているという情報を共有し合った。
魔王軍の幹部がどのような理由でこの街に来たかは不明だが、警戒の為に無苓達はしばらくの間はクエストは控えてそれぞれ自由に暇をつぶしていた。
「めぐみん達大丈夫だといいけど……」
「流石に魔王軍の幹部にちょっかいを出したりはしないと思いますよ」
友達兼ライバルのめぐみんを心配するゆんゆんに無苓は苦笑気味に言葉を投げる。
「それよりもよかったのですか?めぐみんさん達と一緒にいても良かったんですよ?これから行うのは私事ですので私一人でも問題はありませんが……」
「わ、私と一緒は嫌だったんですか……?」
「そんなことはありませんよ。ただ、退屈するのではと思いまして」
道端で捨てられた子犬のように無苓は苦笑しながらゆんゆんの頭を撫でる。
可愛いと思いつつ無苓達は魔道具店に足を運ぶ。
「いらっしゃいませー」
ドアについている小さい鐘が涼しげな音をたて入店を店主に告げると店主は微笑みながら挨拶をする。
茶色の髪をした女性店主に無苓は微笑みながら挨拶を返す。
「どうも、店主様でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。店主のウィズと申します」
柔和な微笑みをする店主ウィズに無苓は本題に入る。
「本日は店主様と商談を交える為に足を運ばせて頂きました」
無苓は以前から考えていた商品の売買を行う為にウィズ魔道具店に足を運んだ。
冒険者だけでは収入は不安定というのは明白。
その為に地球で身に着けた知識と技術を駆使してそれを商品にしてその利益を得ようと考えてその第一歩を踏み出しに来た。
「商品ですか?拝見してもよろしいでしょうか?」
「はい、この三点にあります」
無苓が店主の前に置いたのは一つは以前ダクネスの時に自称した幸運値を上げるブレスレット。
残りは懐中電灯と双眼鏡。
懐中電灯は魔力を送ると光を発生する鉱石を使用して作製に成功。
双眼鏡はアーチャースキル《千里眼》を知って思いついた。
「このブレスレットはプリーストの支援魔法『ブレッシング』と同じ幸運を上げる効果があります、実証も終えておりますので問題はありません。これは懐中電灯と申しまして暗闇なら遠くの方まで光を当てることが出来て、こちらの双眼鏡はアーチャー職の《千里眼》を元に考えたものでして」
商品の長所を告げる無苓にウィズも真剣に頷く。
説明が終えるとウィズはその商品を手に触り、拝見する。
「どうでしょう?もしよろしければこちらの商品を貴女様のお店で販売して商品の売れた利益の二割を頂ければこちらとしては十分です」
「確かにこれは素晴らしい商品です。しかし、八割もこちらが頂いてもよろしいのでしょうか?」
「貴方様のお店で販売して欲しいと懇願しているのはこちらです。貴女様が頷いて下さなければ私は売ることさえできません。これぐらいの譲渡はさせてください」
無苓は微笑みを崩さず言い切る。
予めこの魔道具店の情報は掴んでいる無苓はこの店が赤字続きだということは知っている。だけど、美人店主と噂があるウィズと無苓の商品が合わさればそれなりの利益はあると踏んでいる。
仮に駄目だったとしても商品の出費は殆どない。
殆どは《物質創造》で創り部品を組み合わせただけなのだから。
「わかりました。取り合えずは半年で契約をさせてください」
「商談成立ということで、こちらにサインをお願いします」
商談が成功して契約書にサインするウィズに無苓は目的が達成した。
「さて、ではギルドに行って以前のキャベツの報酬を受け取りに行きますか」
「はい」
数日前のキャベツ狩りのクエストの報酬を受け取りにギルドに向かう二人はキャベツの報酬をどうするか考えていた。
「私はマナタイト製の杖を買おうと思います。その……少しでも皆さんのお役に立ちたいですし」
「ゆんゆんは優しいですね。私は半分は貯金で残りは本でも買おうと思ってます」
ゆんゆんはパーティーメンバーの為に魔法の威力を向上する杖を買おうと考えて無苓はこの世界の知識を得る為に本を買おうと考えている。
それぞれの欲しい物を言いながらギルドに到着すると既にセルティとアリッサは報酬を受け取っていた。
「やっと来たか二人とも。私達はもう報酬は受け取ったぞ」
「さ、先に受け取ってしまってごめんなさい……」
セルティは三十万エリスでアリッサは十万エリス。
ちなみにアリッサはいくつかレタスも交ざっていたらしい。
「見てください、七十万エリスです!」
ゆんゆんも貰った報酬を見て嬉しそうにはしゃいでいた。
そして無苓は。
「お待たせしました、ムレイさん。報酬の四百万エリスです」
「ありがとうございます」
四百万エリス稼いだ無苓にゆんゆん達は絶句した。
特典と盗賊スキルを使いまくって荒稼ぎした無苓は和真達のところに足を運ぶ。
「おや、雌豚が随分と綺麗になっていますね。まぁ、豚は綺麗好きですから当然と言えば当然ですが」
「くぅ……平然と雌豚呼ばわりしてくるとは……ッ!」
罵倒されて悦びに浸かるダクネスを無視して無苓は和真が装備を変えている事に気付く。
「新しい装備が買えてなりよりです。スキルの方は順調ですか?」
「おう、取りあえずは魔法剣士のスタイルで行くつもりだ」
「あの~ムレイさんは今回のクエストの報酬はおいくら万円?」
「四百万エリスですがどうしました?」
その言葉に和真達は絶句する。
和真でも百万ちょいしか稼げなかったのを無苓はその四倍稼いでいた。
「ムレイ。私の信者である貴方なら敬愛している私にお金を恵んだりしてくれるわよね?」
「申し訳ありません、女神様。私は無信教者ですのでこれで」
爽やかに去ろうとする無苓にアクアはしがみついてきた。
「お願いよ、ムレイ!お金を貸してちょうだい!!私、クエストの報酬で相当な額になるって踏んで、この数日で、持っていたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金が入ってくるって見込んで、ここの酒場に十万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど」
半泣きでしがみついてくるアクアに無苓の笑みは崩れないどころかより深まる。
「それは大変ですね、女神様」
「そうでしょ!?私を助けると思ってお金を貸して!?」
「しかし下界には自業自得という言葉がありますよ?」
「お願いしますムレイ様!!どうか卑しい私にお恵みを下さい!!」
ついに泣き始めるアクアに和真達は軽くその光景に引いてダクネスは喜んでいた。
「あいつ、絶対わざとしてるだろう」
「ええ、アクアが泣き叫ぶ姿を見て楽しんでいますよ、あれ」
「はぁはぁ、やはりムレイはいい攻めを知っている。私にもして欲しいぐらいだ」
好き勝手言う和真達に気にせず無苓はそろそろ頃合と判断してアクアにお金を見せびらかす。
「ほらほら、女神様。貴女の必要なお金ですよ。懇切丁寧にお願いすれば恵みましょう」
「ははー!ムレイ様。どうか私にお情けをお恵み下さいませ」
その場で綺麗な土下座を披露するアクアに無苓は膝を折ってアクアの肩に手を置く。
「顔を上げてください、女神様」
その言葉に待ってましたかと言わんばかりに勢いよく顔を上げるアクアの眼前には一枚の契約書がある。
「ここにサインして頂ければ十万エリス耳を揃えてお貸ししますよ」
「わかったわ!」
「おいちょっと待て!何の契約書だ!」
契約書に名前を書こうとするアクアに和真は急いで止めに入って契約書に目を通すが特に変なことはない。借用書と同じだった。
「流石に和真さんが想像するようなことはしませんよ」
苦笑を浮かべる無苓にアクアは契約書にサインをして無苓から金を借りた。
「では、私はこれで」
去って行く無苓はゆんゆん達のところに戻る。
「めぐみんさん達元気そうでしたよ」
「そうですか」
ほっとするゆんゆん。
「今日はどうしますか?」
「そうだな、屋敷の掃除でも終わらせるか?まだ全部は終えていないだろう?」
無苓達が住んでいる屋敷は広い。
四人で住むには十分と言える程の広さを持っている。
「それがいいですね。では今日は普段は使わない部屋の掃除を終わらせましょう」
ギルドを出て無苓達は自分達の屋敷に帰る。