無苓達は昼頃にギルドに向かっていた。
遅めの昼食といいクエストがあれば受けようと考えてギルドに足を運ぶと無苓は前に話しかけた同じ転生者の和真に声をかける。
「和真さん、こんにちは」
「おう、ムレイ。お前も飯か?」
「ええ。ん?隣にいる方は?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
和真の隣に座っていたゆんゆんと同じ紅魔族の少女がマントを翻して高らかに名乗り上げる。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者………!」
「という頭がおかしい子なんだ」
「おい、誰の頭がおかしいのか詳しく聞こうじゃないか?」
追加でめぐみんの補足説明をする和真。
「め、めぐみん!ここで会えるなんて流石は私の運命のライバル!さぁ、今日こそ長きに亘った決着をつけるわよ!」
友達であり、ライバルであるめぐみんにゆんゆんは嬉しそうに指を突き付ける。
「………どちら様でしょう?」
「ええっ!?」
何気なく言った言葉に驚きの声を上げるゆんゆん。
「わ、私よ私!ほら、紅魔の里の学園で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番で!あなたに勝負を挑んだ……!」
「それは私の自称ライバルであるゆんゆんです。貴女がゆんゆんなわけないでしょう。ゆんゆんはぼっちです。他の誰かと一緒にいるわけないでしょう」
「自称じゃないよ!ちゃんとしたライバルよ!それと私はもうぼっちじゃないのよ!今はムレイさん達とパーティーを組んで一緒に屋敷に住んでいるのよ!」
無苓達を指しながらめぐみんの言葉を訂正するゆんゆん。
するとめぐみんは遠い目で天井を仰ぐ。
「ああ、ゆんゆん。ぼっちの貴女はどこに行ってしまったのですか?どこでもいいですが」
「ひ、酷い!そんなに私がパーティーを組んでいるのがおかしいの!?あと、どこでもよくないよ!!」
今にも掴みかかっていきそうなゆんゆんを無苓達は宥めながら無苓はめぐみんに挨拶する。
「我が名は無苓!盗賊を担う者にしてこのパーティーのリーダーを務める者也!!」
拳銃を片手に持ち、ポーズをとって紅魔族の名乗りで挨拶する無苓にめぐみんの目が輝く。
「おおっ!まさか紅魔族の挨拶で返してくれるとは思いませんでした!どこかの変人ぼっちにも見習ってほしいものですね」
「私のこと!?今、私を見て言ってよね!?」
呆れながらチラリとゆんゆんを見てつぶやいためぐみんに無苓はそろそろフォローに入ることにする。
「めぐみんさん。ゆんゆんは私達の大切なパーティーメンバーなのでからかうのは今日はこのくらいでお願いします」
「別にからかってはいません。弄っているだけです」
「同じよ!!」
胸を張って言うめぐみんにゆんゆんが叫ぶ。
「さて、お遊びはこのくらいにして和真さん、冒険者生活は順調ですか?」
仲が良い紅魔族の二人を置いて無苓は和真に声をかける。
「順調もなにも取りあえずはスキルを取得してみないとわからねえもんだな。なぁ、ムレイ。盗賊スキルってどんなものがあるんだ?スキルポイントが3ポイントで取得できるおとくなものってあるか?」
「ええ、盗賊スキルは取得にかかるポイントは少ないのでお得と言えばお得ですよ」
無苓は既に盗賊スキルを全て取得している。
「そうそう、盗賊スキルはお得だよ!」
活発な声に二人は振り返るとそこには同じ職業のクリスと金髪の騎士がいた。
セルティはその金髪の騎士に声をかける。
「ダクネス、久しいな」
「ああ、貴女の噂は私も聞いている。いいパーティーに恵まれて友として嬉しく思うぞ」
「ありがとう、そういうダクネスはどうなんだ?」
「私も…ハァハァ、良いパーティーを見つけた」
途中で息を荒くして和真に視線を向けたダクネス。
和真は凄く嫌そうな顔をしていたが無苓はわからなかった。
「まずは自己紹介しとこうか。ムレイはもう知っているけどあたしはクリス。ムレイと同じ盗賊だよ。で、こっちの不愛想なのがダクネス。職業はクルセイダーだよ」
「ウス!俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」
冒険者ギルドの裏手の広場。
和真に盗賊スキルを教える為にやってきた。
「よろしくお願いしますね、ダクネスさん。私のことがムレイとお呼びください」
「こちらこそよろしく頼む。私の事もダクネスと呼んでくれ」
手を握って握手を交わす二人はクリスと和真のやり取りを見学していた。
本来なら無苓が和真に盗賊スキルを教えようとしたが和真はクリスがいいと即断した。
その気持ちはわからなくもない無苓はそれを了承した。
「ダクネスはセルティさんとお知り合いで?」
「ああ、幼い頃からの知人だ………ところでセルティのことは」
「ああ、安心してください。知っていますから」
「そ、そうか」
モンスターを見ると豹変することを知った上でパーティーを組んでいることを知って安堵するダクネス。
「セルティは幼い頃にモンスターに母親を殺されて以来、あのように変貌してしまうんだ。し、しかし!それ以外は大丈夫だ!私が保証する!だから……!」
「安心してください、セルティさんは私達の大切な仲間です。追い出そうとは思ってもいませんよ」
友達であるセルティを心配するダクネスに無苓は笑みを浮かばせながら答える。
友達の事を心配するダクネスはいい人だなと思った。
「ねぇ、ダクネス!ちょっと手伝って!」
「ん?……ああ、わかった」
ダクネスに手伝って貰いながら盗賊スキルを教えるクリスは最後に盗賊スキルである『
先程教えたスキルで奪う勝負。
何を奪われても文句は言わないクリスの誘いに和真は乗ってスキルを取得する。
しかし、『スティール』は幸運値に依存して奪えるものが変わる。
どんなスキルも万能ではないが為に対応策がある。
「よし、やってやる!俺は昔から運だけはいいんだ!『スティール』ッ!」
一発で成功するあたり和真の幸運値が高い。
そして、和真が奪った物は一枚の白い布切れ。
「ヒャッハー!当たりも当たり、大当たりだあああああああああああ!」
「いやああああああああああ!ぱ、ぱんつ返してええええええええええええええっ!」
クリスは自分のスカートの裾を押さえながら、涙目で絶叫。
涙目で必死に和真からパンツを返してもらおうとするクリスの顔がたまらなく可愛いと思うのは自分はサディストなのだろうかと考えてしまう。
「何という鬼畜!流石は私に見込んだ男だ!!」
恍惚な顔で叫ぶダクネス。
それを見てしまった無苓は少し試した。
「どうしました?そんな嬉しそうな顔をなされて……もしかしてダクネスは人前でパンツを取られることに悦びを感じる変態なのですか?」
「ち、違うぞ!これはだな……ッ!」
「そうですよね、これは大変失礼な発言をしてしまい申し訳ありません。まさか騎士である貴女がそんな変態のようなことをなさるわけありませんよね」
「う、うむ!私は騎士だ!そのようなことに悦びはしない!」
「ではどのようなことなら悦ぶのです?」
「そうだな、激しいぐらい攻撃を受けるのも気持ちいいが………ハッ、誘導尋問!?」
「そうですか、ダクネスは生粋のマゾヒズムなのですね」
あっさりと自分がドMだと暴露してしまったダクネスは悔しそうに呻く。
「クッ……!これをネタに辱めようとするつもりだろう!いいだろう!しかし、私の体は好きに出来ても心までは自由にできると思うなよ!」
「そんな興奮しきった顔で何を言っているんですか?発情期の雌豚は四つん這いでぶひぶひ言っていなさい。和真さん、そろそろクリスさんを許してあげたらどうですか?」
「罵倒しておいて放置プレイだと!?ブ、ブヒ―――――――――!!」
「おい、パンツ返すからあの変態を止めさせてくれ。友達なんだろう?」
「う~~~ん、友達なんだけどな………」
四つん這いで豚の鳴き声を真似するダクネスに和真とクリスは引くと視線を無苓に向ける。
「ね、ねぇ……ダクネスを止めさせて。流石にあれは……」
「ああ、本気で引くぞ」
責任者である無苓にダクネスの変態行動を止めさせようと促す。
「はぁ……はぁ……見られている……それもいいぶひ………」
「幸せそうですから放置しましょう」
恍惚な顔をしているダクネスを見て無苓は表情を崩すことなく言い切った。
「いやいやいや!俺は嫌だぞ!あのままあいつがギルドに戻ったら他の人達に白い目で見られちまうだろう!!」
「そうだよ!あたしだって嫌だよ!!」
「仕方ありませんねぇ………」
二人の必死の説得に無苓は折れてポケットからブレスレットを取り出して右手につける。
「それは?」
「ちょっと思いついて創ってみたマジックアイテムです」
「……お前の特典はそんなものまで創れるのかよ」
羨ましいと小さくぼやく和真に無苓は早速それを試してみる。
「『スティール』……成功ですね」
「お前…………ッ!?」
「なっ!?」
「えっ!?嘘!?」
驚く三人の視線の先にはピンク色の布切れが握られている。
ダクネスは咄嗟に自身の下腹部を確認してあるはずのものがないことに気付いて顔を赤く染め上げる。
「成功ですね」
無苓が身に着けたブレスレットのマジックアイテムは幸運値を上げる効果がある。
《物質創造》の特典を使ってマジックアイテム的なものは出来るのかという思案から物は試しに創って実証。
結果は成功に終わった。
「わ、私のパンチュ……!?」
噛みながら立ち上がって無苓からパンツを取り返そうと動く。
「おすわり」
その一言で座り込むダクネス。
「くぅ……命令に逆らえない自分の性癖が情けない……!」
「ダクネス。これを返してほしければ今すぐ豚の真似事は止めなさい。もし、私の命令に逆らうというのであれば私にも考えがあります」
「ど、どんな………?」
目を潤わせて頬を染めるダクネスに無苓は微笑みながら告げた。
「どこかの変態に貴方の名前入りで百エリスで売りつけます」
「や、やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
ギルドの裏手の広場でダクネスは嬉しそうに叫び声を出した。