「
唐突に目の前にいる水色の髪をした女性に人生終了を告げられた無礼は体の力を抜くように息を吐いてその言葉に納得した。
いじめを受けてようやく自分をいじめてくる奴等に社会的死を与えられたその日。
舞い上がり周囲の警戒を疎かにして車が目の前に来ていたことまでは覚えていた。
「……そうですか、死んでしまったのなら仕方ありませんね」
「あら、随分あっさりしているのね?大抵ここに来た人は慌てるか落ち込んだりしてるのに」
「思い残すことは果たせましたので」
改めて冷静に考えれば復讐を終えた自分はその先何を持って生きればよかったのだろうかと考えてしまう。
復讐に毎日を明け暮れていた自分に復讐を取り除ければ何もないではないか。
「まぁいいわ。私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。あなたには二つの選択肢があるわ」
アクアと名乗る女神は無礼に二つの選択肢を説明した。
一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩む。
もう一つは、天国に行くか。
ただし日向ぼっこか世間話ぐらいしかすることしかない。
「では……」
無苓は後者の天国に行くことにした。
前者で生まれ変わって新たな人生を歩むのも一つの手だと考えたがせっかく死んだのだからのんびりと暮らしたい。
「安心なさい。あなたの考えはわかっているわ。そんなあなたに三つ目の選択肢を上げる!」
「………」
何もわかっていないというか話を聞けよと内心で愚痴を溢すが今は黙っておいた。
アクアが出した三つ目の選択肢は異世界への転生。
ゲームなどに登場する魔王。
そして、魔王軍の侵攻により世界はピンチ。
そこで無苓のような若くして死んだ者を肉体と記憶をそのままで更には向こうの世界に好きな物を持って行ってもいいという。
異世界で人生をやり直せる。
確かに魅力的な提案に無苓も納得する。
「……よろしいのでしょうか?」
「何が?」
「貴女様が女神ならご存じのはずです。私は最低な人間です。復讐に囚われて私をいじめて来た者達に社会的死を与えてきました。その私が人生をやり直してもよろしいのでしょうか?」
無苓の言葉にアクアは手元に資料らしき紙の束を出してペラペラと見た後、破り捨てた。
「ムカつくわね!いいわ!女神の名においてあなたの罪を許します!というかどうせなら精神的死も与えなさいよ!」
「は、はぁ……」
態度が急変するアクアに戸惑う無苓だが、アクアはまったくと言いながら無苓を指す。
「あなたがやったことは正しいわ。例えそれが人を欺き、騙したことだとしてもあなたのおかげでその先に犠牲者は出なかった。もっと自分の行動に誇りを持ちなさい」
アクアのその言葉に無苓は力なく笑った。
無苓をいじめてきたリーダーの親が強い権力を持っていた。
告訴しても権力でなかったことにされてきた。
誰もが逆らわなかったなかで無苓は動いた。
自分もその被害者であるが故の復讐として親子やそいつらから甘い汁啜ってきた者達の悪事や弱みを見つけ出してそれを世界に広めた。
ニュースなどでも話題になってその親子は逮捕された。
復讐が果たせたその日に無苓は事故で命を落とした。
「……そうですね。ありがとうございます、女神様。貴女様のおかげですっきりしました。貴女様のお言葉通り私は私の行動に誇りを持とうと思います」
「ええ、そうしなさい。それでどうするの?」
「異世界へ行こうと思います。また私のような人を生み出さない為にも」
異世界に行くことにした無苓にアクアはカタログのようなものを渡す。
「なら選びなさい。たった一つだけ。あなたに、何者にも負けない力を授けましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界に持って行く権利をあげましょう」
アクアの言葉にカタログを見る無苓。
どれもが強力な能力や武器が記されている中で無苓はアクアに尋ねた。
「女神様。質問なのですがここにあるもの以外でもよろしいのでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
即答で返すアクアに無苓は一枚に用紙にアクアに見せる。
「女神様。この《魔眼》というのはどのような能力があるのでしょう?」
「ないわ。それは自分で五つまで能力を設定することができるの」
「設定の仕方はどのようにすれば?」
「自分がしたい能力を念じたら設定可能よ」
つまり能力次第ではチートになると納得する無苓は少し考えると決断した。
「女神様。決まりました。この《魔眼》それと物質を創り出せる名付けて《物質創造》を私は異世界に持って参りたい」
「……え?」
無苓の言葉が一瞬理解出来なかったアクアは特典は一つにしなさいと言おうとしたがその前に無苓が手で制した。
「御多忙の女神様に不躾なお願いをしているのは重々承知しております。ですが女神様、どうか私の話に耳を傾けては頂けませんでしょうか?」
「いいわ、言ってみなさい」
発現の許可を貰い深々と一礼した後に無苓は語る。
「職務を真っ当に忠実に行われている女神様は私のような方達を何人も送られたはずです。ですが、私がここにいるということはまだ魔王は倒されてはいないと思われます」
「ええ、私も長くこの仕事をやってきたけどまだ魔王は健在ね」
「ですが、ここで私を異世界に転生したとしても結果は変わらないでしょう。私もせっかく女神様のおかげで生まれ変わった命を無駄にはしたくありません」
「……まぁ、私も命を無駄にしてほしくはないわね。だって女神ですもの」
頬をポリポリと搔きながら無苓の言葉に同意するアクアに無苓は微笑む。
「慈悲深い女神アクア様。どうか私を助けると思い、私のお願いを聞き入れては頂けませんでしょうか?この通りです」
深々と頭を下げる無苓にアクアはどうするかと唸りながら思考を働かせること数秒後。
「わかったわ!あなたの願い聞き入れましょう!慈悲深い私に感謝を忘れないように!」
悩んだアクアだが、ここまで自分に敬う無苓の願いを無下に扱うことは出来なかった。
「もちろんです、女神様。貴女様と出会えたことを忘れはしません」
アクアは無苓の懇願を聞き入れて特例として二つの特典を持って転生することが決まった。
無苓の足元に、青く光る魔法陣が現れる。
「刈萱無礼さん。あなたをこれから異世界へ送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々から贈り物を、どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げます」
慈愛に満ちた表情でこれから異世界に旅立つ無苓を見送ると無苓の眼が一瞬だけ痛みが走る。
「さぁ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。………さぁ、旅立ちなさい!」
光に包まれていく中で無苓は感謝と嘲笑を込めて。
「ありがとうございます。チョロイ女神様」
アクアのおかげで生前の自分の行動に誇りを持てるようになった無苓はアクアを言い包めて二つの特典を持って異世界に旅立つ。