真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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そういえばこれこっちに投稿しておりませんでした。
チャーハンはお好き? 結構。僕も大好きです。


我が愛と青春のチャーハソ①

 ───ある日、ふと、一人になった。

 自分がそうしようと思ったわけでもなく、ただ偶然と偶然が重なって、そうなった。

 日々を忙しく生きていると、急に訪れる静寂に心細くなるものだけど、今日はまた違った。

 何故って、別に孤独がどうとかって意味でもない。

 自分は日本に居て、自分の家に居て、自分の部屋に居て、五体満足だからだ。

 

「───……珍しいもんだよなぁ」

 

 呟いた声を拾う者は居ない。

 本日は全員が全員、用事やら仕事やらで家に居ないからだ。

 俺だけがフランチェスカ自体が都合により休校、なんてことになったため、一人学校から戻り、誰も居ないことに気づき、なんだかこう……「へー……」なんて声を漏らしていた。

 実際珍しかったからだ。へー、こんなことあるもんなんだなぁ、って意味での“へー”だった。

 なもんだから、学校に行くって意識からも解放されたかった俺は、早速着替えると部屋着になって、今日一日を珍しくもだらだらと消費することに決めたのだ。

 

「……うん。今日は鍛錬も勉強もしない。気力充実のOFF日ってやつだなっ」

 

 むんと胸を張って頷いた。

 じゃあ何をしようかって話に自然と向かうと───

 

「………」

 

 向かうと…………

 

「………」

 

 むかう……

 

「…………いやいやいや」

 

 ははははは待っておくれよジョニィ、まさかっ、まさかだろう? この僕が休日の潰し方も思いつかないなんて。誰だジョニィ。謎のココロの安定剤は孟徳さんで間に合ってますよまったく、あはははははかなり大爆笑。

 

「久しぶりに漫画を読む! とか! 小説とかも───OH」

 

 いざと本棚を見てみれば、がらんとした本棚。端っこに勉強のための本などがナナメに立てられていた。

 それ以外? なにもございません。何故って鍛錬に集中するために全部及川や彰仁やその他の友人に貸してしまったからだ。期限無しで。……最初にあの世界から弾かれた時、本とかゲームとかがあると誘惑に負けそうだからって、娯楽系のほぼは手放しちゃったんだよなぁ……。

 妹が持ってるものを借りて、雪蓮たちが遊ぶことは出来るには出来るけど……俺の、無し。

 

「わあ」

 

 いよいよもって何も無い。あ、いや待て、新たなるケータイでネットサーフィンなどを……───そういえばネットサーフィンなんて言葉もあんまり聞かなくなったよなぁ。

 はふぅと溜め息を吐きつつケータイをいじってみれば、一通の重要メールとともに、何故かオンラインに繋げないケータイ。なにごとかとメールを開いてみれば、本日メンテナンスのため、インターネットが繋げないんだとか。

 

「…………なんで今日に限ってなんだよぅ」

 

 こういう時って、会社にとっても理不尽とわかっていてもツッコミたくなる。

 おのれプロバイダー、なんて言っても始まらないし、インターネットカフェに行ってまで繋げたいわけでもない。

 じゃあなにをするかって話なんだけど。…………うん。

 

「…………いい天気だ───」

 

 カララ……と窓を開けて、遠い目で空を見上げた。

 はっはっはっはー……おかしいなぁ。俺、こうまで無趣味だったっけー。

 

「趣味、と聞いて思い浮かぶものはなんですか?」

 

 1に鍛錬2に鍛錬! 3・4に勉学5に種う───違う種馬違う!

 そこは買い食いとかサボリとか他になにかあるだろ! なんで流れるように種馬思い浮かべてるんだよ!

 

「……でもサボリとか買い食いって言ってもな。サボる何かがあるわけでもないし、買い食い……ああ、朝メシをめちゃくちゃ軽くしか食べてないから、食欲はあるんだよな」

 

 例によって皆様に囲まれて登校準備が遅れたこともあって、朝食を摘む程度しか食べられなかった。よろしくない。

 けれども買ってまで食べたい何かがあるわけでもない。コンビニとかスーパーに行けば、それだけで食べたいものとかごろごろ発見できるんだろうけど……贅沢は敵である。

 なので食べるのなら、家にある適当な材料で、軽く小腹を満たす程度だ。

 妹には“なにそのお腹! 腹筋バッキバキじゃん! あてつけ!? ぷよってしてきた私へのあてつけなの!?”なんて言われたりもしたけど、とんでもない。日々の成果、当たり前の賜物です。うっうー。

 

「じゃあ、まずは冷蔵庫になにがあるかで決めよう」

 

 なにかがあっても米が無ければアウト。無ければ麺類? インスタントなんて果たしてこの家にあるかどうか。

 じいちゃんがインスタントをあまり好まないため、保存食系には彩りを感じない。

 カップメンでもあれば嬉しいものの、望みは薄そうだ。

 

「小腹を満たす……いや、満たすまでいかなくてもいいなら、コンビニでブタメンでも……いや、野菜もちょっとは欲しいよな。いやいや、なんでも買って食おうと判断するのはいけない」

 

 自分が作るものが普通だからって、そこは買い物に逃げてはいけません。自分が作る……自分、自分?

 

「あ」

 

 ふと、ピコンと閃きを覚える。

 おお、そうだそうだ、アレがあるじゃないか。

 あるじゃないかなんて大層なものじゃないけど、きっと誰もが時折胸に抱くソレ。

 

「よーしよし、多少固まってきたならまずは冷蔵庫、っと」

 

 ゴパチャアと冷蔵庫特有の開閉音を耳にしつつ、冷蔵庫を開く。

 目当てのものはー───あった。卵よしニラよし長ねぎよし、ベーコンよし、と。

 ご飯はどうだろうか……炊飯ジャーの中身は炊飯前のお米のみ、と。となると冷蔵、または冷凍に……よっしあった! 冷やしたご飯!

 ……あ、関係ないけどジャーっていうのは、英語で瓶のこと。日本では魔法瓶的な意味で捉えるコトが多いらしい。炊飯ジャーはつまり、炊いた上に保温まで出来ますよって方向での名前だそうだ。華琳に様々なものの意味を訊ねられた時、頑張って調べた結果だ。一緒に俺も賢くなった。

 

「あとはこれとこれと……フライパンと、油と……調味料も傍に置いて、手を伸ばせば届く位置に全部を置いて……ふふふっ」

 

 準備をしていく。作るものはもちろんチャーハソ。炒飯ではない、チャーハソ。

 流琉や他の料理上手のみんなが作るものが本場の炒飯だとするのなら、俺が作る超絶普通の焼き飯なんてチャーハソで十分だ。

 けど、いろんな美味しい店を知っていようと、美味しく作れる人が傍に居ようと、時折……むっしょーに“自分が作った、普通だけどちょっぴり美味しく出来た俺料理”とか、食べたくなることは無いだろうか。

 俺にとって、それが今なのだ。

 流琉の料理は美味しい。華琳の料理も祭さんの料理だって、そりゃもう当然ってばかりに美味しいことは知っている。

 でも違うのだ。時折にとてつもなく食べたくなるモノといったら、手間もかかるし面倒だなぁなんて思っても、何故か自分が作ったちょっぴり上手に出来た普通の料理だったりする。

 ……そんなこと、ありませんか?

 

「~♪」

 

 なので料理開始。

 まずは熱したフライパンに油を適量。正確には測らず、男の料理は目分量で勝負である。なにせ食べるのが俺だけなのだから。

 で、いい具合にフライパンに馴染んで、溶いた卵を箸でちょいと垂らしてみて、いい具合にブヂュブヂュと音を立てたならGO。───の前に! 危ねぇ! ニラとかベーコンとかまだ切ってないぞ俺!

 

「準備はしっかり確実に……! 焼いてる途中で調味料が傍に無いとか、出来上がったのに皿がないとか、自分の好みの焼き加減を愚かにも捨て去るようなもんだ……!」

 

 深呼吸をひとつ、徹底的に準備をしていく。

 やがてひとつひとつの確認が終わると、調理を開始した。

 

……。

 

 デレレレー♪! チャーハソが出来上がった!

 

「んっふふふふ~♪ この、誰に食べさせるでもない自分のための手間、自分のための量……! ちょっぴり多く作りすぎた気がしないでもないのに、これくらいならいけるいけるって思ってる自分がくすぐったい……!」

 

 出来たそれを炒飯が映える皿に盛る……わけでもなく、適当な丼にモシャっと入れる。乱暴でも構いません。男の料理に遠慮は無用。

 取り繕っても味は知れているのだ、格好付けたってしょうがない。

 

「……よし、いただきます」

 

 早速テーブルに一人、両手を合わせて食事を開始。

 一口食べてみれば、「あぁ~っはぁ~……!! これこれ……! この普通さ……!」なんて言葉が出るくらい、染み渡る普通。でも求めてたのがこれ、っていうおかしな話。

 誰に気を使うでもなく、スプーン山盛りにチャーハソを掬って、口に運んではモムモムと咀嚼。そのたびに広がる味にほっこりする。

 流琉の美味しい炒飯じゃ、なんだかもったいなくて出来ない“乱暴かつ周囲の人に気を使わないだらだらとした食べ方”。こういうのがたまに欲しくなる。

 

「ズズゥ」

 

 一緒に作ったスープを飲んで、ほぅと息を吐く。

 これもまた、最高に美味、なんて言えない味。なのにこのチャーハソにはこれじゃなきゃダメなのだ。面白いもんだよなー、料理って。これにはこれ、っていうこだわりが、多少慣れてるだけだってのにどうしようもなく出てくる。

 チャーハソ、スープ、チャーハソ、スープ……繰り返すように交互に食べるものの、すぐにスープを口にしたらチャーハソの味が流されてしまう。ので、しっかり味わいしっかり咀嚼してからスープ。

 唾液とチャーハソが完全に混ざり合って、チャーハソ特有の濃い味付けが甘く変わってきたら、そこにスープを混ぜるように。この合わさった味がまたB級っぽくてたまらない。

 華琳へは出せない味だな。鈴々だったら一緒に食べたい。そして愛紗が立ち上がったらたとえ相打ちになろうとも命懸けで止める。おやめなさい、炒飯に生魚は要りません。

 

「~♪」

 

 スープが先に少なくなれば、口に含む量を減らしてチャーハソは山盛りのまま頬張って。カリカリベーコンに醤油の漕げた部分が付着していて、それがまたベーコンとともにいい味を出したり、時折ふわっと香るニラの風味にほっこりしたり。

 そうしたことを頬を緩ませながら続けて、やがて食事を終えた。


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