真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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143:IF2/罪と罰と喋る粘液④

 いろいろと悩みながらも授業をする俺を見ている子供たちを見る。

 今は男も女もないって感じで付き合っている彼ら彼女らだが、大人になればいろいろと変わってくるのだろう。

 少年達……強く生きなさい。この蒼天の下の女性は強いぞ。

 などと応援せずにはいられない。

 ……もし自分の周りに、たとえばここだろうが天だろうが、どこでもいい。親しい存在に子供が出来たら……それが男の子だったら。女性に囲まれても強く在れるよう、生き方を教えてあげたい。

 

(……あれ? それって、俺が教えて参考になるのかな)

 

 ふと思ったことを煮詰めた状態で未来を予想。

 ……戦闘能力は高いのに、キャーキャー叫んで女性に振り回される男の子の姿が頭の中に浮かんだ。

 ああうん。だめだこれ。

 

「なぁ桂花」

「なによ粘液」

「粘液で固定されてる!? あ、ああいや、まあ今はいいや。えっとさ」

「とうとう認めたわねこの粘液! 汚らわしいから寄るんじゃないわよ! ああ怖い、きっとねっちょりとひっついて、触れた女全てを妊娠させるに違いないわ……!」

「だーっ!! ひとまず話をしようってスルーした人の気持ちをちょっとは考えろこの罵倒観音(ばとうかんのん)!! 男に罵倒を飛ばすことに使命感でも持ってるのかお前は!!」

「ひっ……喋ったわ!」

「喋るわぁっ!!」

 

 そしてまた始まる言い合い。

 子供たちが笑う中、ギャースカと互いの残念な部分を指摘し合う。

 互いの残念なところに詳しすぎることもあって、よくもまあこれだけあるもんだと自分の残念な部分も受け取りつつ、やがて言い合いも一周して───声をかけたきっかけを思い出して口にしたのだが。

 

「だぁから! 俺はただ、産まれてくる子供が男だったらどうするつもりなのかを訊こうとしただけで!」

「……? なに言ってるの? あんたの女にだらしのないいやらしい子種から、男が産まれるわけないじゃない」

「───、……えぁっ!? いやいやいやそんなわけないだろ! そこまでいくと人としてどうなんだ!?」

 

 とんでもない返事でしばし呆然。

 ていうか危ない! 今本気で“あーそうかも”って思った!

 いやあの……うん、俺の所為じゃないよな? 男の子が産まれないの、俺の所為じゃないよな?

 

「……あんた、今自分で認めそうになったわね? 自覚があるなんてそれだけで汚らわしいわ」

「やめて!? ちょっとシャレになってないからやめてください!?」

 

 だだだ大丈夫、俺べつにそういった遺伝子しか持ってないとかそういうのじゃない…………よね? 違うよね!? どうしてかはっきりと否定出来ないのが悲しいけど、違う……といいなぁ。

 頭を抱えて自分の遺伝子について苦悩。

 そんな俺へと、子供たちのきらきらした好奇心いっぱいの瞳が突き刺さるわけで。

 

「みつかいさまー、こだね、ってなにー?」

 

 投げかけられた質問は、もう笑顔で涙したいほどにキツイものでした。

 

「……なぁ桂花。指に氣をたっぷり込めてデコピンしていいかな。もうこれ、コウノトリじゃ納得出来ないところまで説明しないと引き下がらないレベルだろ。むしろなんでそっち方面にばっか興味が向いてんですかこの子たち。日々の勉学の成果? そっかそっかー」

「な、なによ! まだなにも言ってないわよ私!」

「今までのこと考えれば簡単に想像つくわ! むしろこれどう説明するつもりだよ! こ、子種!? 子種のソフトな説明の仕方って……!」

「大人になる過程で勝手に知るわよ。別に今知る必要はないとか言っておけばいいじゃない」

「頭を鍛えることを目標としてるこの授業で、今知る必要はないって言葉がどれだけ適切じゃないか、少しは考えて発言してください」

「だったら私に訊いてないで自分で考えなさいよ!」

「子供の前で子種言ったのきみなんですが!?」

「ねぇねぇみつかいさまー? おとこのこがうまれるって、こだねがあるとこどもがうまれるのー?」

『───』

 

 停止。

 どう答えたものかと、桂花と俺とで石のように固まった。

 

「ア、アー……えっと。べつのこと勉強しよう! な!?」

「えー? やだー。わからなくてもがんばってかんがえようっていったの、みつかいさまだもん」

「ギャアア俺の馬鹿ぁああーっ!!」

 

 ハイ、たとえばここで子供の問いに真っ直ぐに答えるとします。

 すると子供たちは親たちに、自分の知識を自慢するように全てを口にします。

 それを聞いた大人たちの反応やいかに?

 

「桂花……この私塾、今までよく無事だったな……」

「? どういう意味よ」

 

 そのまんまの意味ですが。

 なんかもうとんでもないことを教えてる場所として、潰れていても不思議じゃない気がするのです。や、そりゃね、他にも教えることもあるし、教師もその度変わるんだから、潰れるとすればよっぽどのことだろうけどさ。

 

「みつかいさまー、こだねー」

「こだねおしえてー?」

「子種の意味を知らない子達が、子種子種と…………なんか俺、今自分が汚れているような気がしてならない」

「は? なに? 今頃気づいたの? 自覚のない馬鹿なんて最悪じゃないの」

「元の原因であるお前にだけは言われたくないわ脳内桜花爛漫軍師!」

「私だってあんたにだけは言われたくないわよ全身子種男!」

 

 結局。

 子種のことは……ヘンにぼかすと親に“こだねってなにー?”とか訊きそうだったので、壮大なストーリーとともに別の喩えで誤魔化しました。

 おしべとめしべ的なもので。

 うん、植物の話なら安心だ! 最初からこうすればよか───

 

「みつかいのにーちゃーん。なんで“しょくぶつ”のはなしなのに、さっきはおとこがうまれるーとかいってたんだー?」

 

 ───ちっとも安心出来ないよ!

 なんかもうやだ! 逃げていいかな! 俺もう旅に出ていいかなぁ!

 

「け、桂花サン。僕用事思い出したカラこれでサヨナ離してぇええっ!!」

「ふざけるんじゃないわよ! こんな状況残して自分だけ逃げようったってそうはいかないわよ!?」

「ほぼ自業自得だろ!? 元からそっち方面のことばっか教えてなければこんなことにはならなかったろ!?」

「あんたが産まれるだのなんだの言うからでしょ!?」

「み、みつかいさまもぶんじゃくさまも、けんか、めーなのー!」

「ほっとけって。うちのとうちゃんもかあちゃんもこんなふうにいいあってるけど、さいごはちゅーしてなかなおりするんだぜー?」

「えー!? ちゅーするのー!?」

「なっ……!? し、しなっ───ふぐっ!?」

「こほんっ! ……ええっと、桂花? こういう時に勢い任せで子供に怒鳴るのはよろしくないぞー」

 

 話の流れからして、そうなりそうだったから咄嗟に桂花の口を塞ぐ。……手でだ。ああもちろん手だとも。

 

「はぁ……こういうのも予想して動けるあたり、それだけ苦労してるってこ痛ァァアアアーッ!?」

 

 噛まれた。

 しかも噛んでおきながら、ぺっぺって唾吐くみたいなことしてる!

 室内だからさすがに本気で唾吐いたりはしてないけど!

 

「急に触るんじゃないわよ! 妊娠したらどうしてくれるのよ!」

「だから手で触れただけで妊娠なんかするかぁっ!! お前の中じゃ俺は何処まで全身白濁液男なんだよ!」

「………」

「じと目で沈黙とかやめよう!? “本気でわからないの?”みたいな態度やめてくれほんと!」

 

 むしろわかってたまるか! 触れただけで妊娠なんて無理だからね!?

 というかだ。

 そもそも華琳からの罰で妊娠しなさいとか言われているんだから……って、そういう問題でもないよな、こういうのって。

 だから、俺からすれば“ごめん”を何度だって言いたい気分だ。

 

(あー……)

 

 確かに罰ではあった。注意を聞かずに落とし穴を作り続けた桂花が悪い。

 でもなぁ、嫌いな人の子供を身籠るって、女性としてはとてもとても辛いことだろう。

 いつもの調子でこんなやり取りをしてはいるものの、時々沈黙しながら俺を見る桂花のことだ、俺がそういった……その、申し訳なさを抱いていることなんて、とっくに気づいているだろう。

 その上で散々と馬鹿白濁だの粘液だのを言えるあたり、もうなんというかさすが桂花としか言いようが無い。まあ、相手のことが嫌いなら言えて当然か。

 

「はぁ」

 

 溜め息ひとつ。

 なんだかんだと授業を進めて、「今日はここまで」を伝えたあとは、どっと疲れが出てくる。ええ、もちろん精神的なものでございます。

 しかも終わるや子供たちに囲まれて、「にーちゃんあそぼー!」とか誘われる始末で。いや、始末って言い方だと悪いことみたいだな。誘われるのは嬉しいが、出来ればそういうことは丕とかにこそしてほしい。この子たちとは年齢離れてるけど、たぶん喜んでくれると思うのだ。……子桓さまって呼ばなきゃ、だけど。

 

「ごめんな、これから城に戻って別の仕事が……あるけど、昼餉を急いで食えばなんとか遊べる! ようし子供たち! 急いで遊ぶぞ!」

「さっすがにーちゃん! はなしわっかるーぅ!」

「ほかのしょーさまって、いそがしーから、ばっかだもんなー!」

「や、忙しいのは事実なんだから、そういうこと言っちゃだめだぞ? って、言ってる暇があったら遊ぶぞ! それで、なにで遊びたい?」

『にーちゃーん!』

「いつから遊び道具になったんだ俺は」

 

 男女問わずの、子供たちからの笑顔の返答に真剣な顔でツッコんだ。

 授業中は出来る限り御遣い様で通すようにって言ってはあるけど……や、先生って呼んでくれっていっても聞いてくれないんだ。だから御遣いさま。なんでか様付けには軽く同意してくれたんだ。子供って結構、“様”とかつく呼び方って好きだよね。

 でも授業が終わればにーちゃん。

 丕も、こんなノリで子桓さま呼ばわりされても体当たりしていけば……もっといろいろ違ったのかもしれないなぁ。そういうことを教えてやれなかったかつての自分が情けない。

 

「ねーねーにーちゃんにーちゃん、おはなししてー?」

「え? 遊びはいいのか?」

「あそびながらー!」

「難度高いなおい! あ、あー……よし、わかった。無理だと思うよりやってみよう精神だ。で、どんなお話がいいのかなー……?」

「まえにぶんじゃくさまがいってた、おしろにいるおばけのおはなしー!」

「お化け? へぇ、桂花が怪談話なんて珍しいな」

 

 ちらりと桂花を見る……と、なにやら教材を慌しく整頓、それを手に私塾を出て行くところで───

 

「わたししってるよー? おしろには、さわると、えーと、にんしんする、まっしろなおばけがいるって」

「けぇえええええいふぁぁああああっ!!」

 

 ───その後を追いながら絶叫。

 俺の服を引っ張っていた子供たちを腕に抱え、罵倒をこぼしながら逃げる軍師さまを追った。

 

「わー! はやいはやいー!」

「すっげー! にーちゃん、あしはえー!」

「すごいすごい! ひといっぱいなのに、ぜんぜんぶつからないー!」

 

 ……本日も良い天気。

 涼しくなってきた空の下、日差しに負けない温かさを持つ賑わいの中、軍師と御遣いが賑わいに相応しくないことを言い合いながら駆けていたという事実が覇王さまのもとへと届き、二人して罰を受けることになるのは……もう少しあとのことでした。

 

 




 次回から最終章になります。
 ラストのために必要なお方が追加されますが、かつてもそうでしたが意見は分かれるのでしょうなぁ。
 二次創作等で転移するのは一人だけでいい、と今でも思っている凍傷ですが、やっぱりこれだけはどうにもなりませんゆえ、どうぞしょうぉおおお~~がねぇなぁあ~~~っ! とホルマジオのごとく我慢してやってください。
 なお、追加キャラは数話だけの活躍です。
 やっぱりね、たとえ原作に居たとしても、あっちに居るのとこっちに居るのとじゃあ心の反応って変わりますよね。

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