しかしながら、まあその、なんだろう。
食いすぎるとほら、腹を空かせることが出来ようが、なんだか気持ち悪くなるものなのだ。
頭がぼーっとするというか、妙な気持ち悪さだ。
季節がら、夕餉時でもまだ明るいと思える空の下、祭さんに呼ばれ、やってきました厨房の卓。
「ほれ北郷、たーんと食えぃ」
「いただきます!」
そして喰らう。
え? 気持ち悪さはどうしたかって?
……そんなもの、目の前の美味の前には関係ございません。
むしろ食事を前にしたら、食欲が勝りましたとも。
こうなると、昼の薬膳料理の中身が気になるところだけど……もういいや、美味しい。
「んんっ、んまーいっ! やっぱり青椒肉絲っていったら祭さんだよなぁっ! 親父のも美味いけど、ガツガツ食うなら祭さんのだっ!」
「かっかっか、応、まだまだそこらの料理人に負けるつもりはない」
「けど急にどうしたの? 子供が出来てからは滅多に作らなかったのに」
「うむ……それがな。策殿が急に北郷に馳走してやれと言い出してのう。まあ久しぶりだったこともあって、二つ返事で引き受けたわけじゃが……」
「………」
雪蓮が、俺に?
ウワー、絶対にコレ、なにかアルー。
雪蓮が考え無しに人のプラスになることをやる筈がない。
むしろ今日一日の食事事情……絶対ヘンだ。
「祭さんは何か聞いてない? 朝餉から夕餉まで、今日に限ってやたらと豪勢なんだよ。記念日ってわけでもない筈なんだけどさ」
「今日に限ってか。策殿に訊いてはみたが、“面白いことをしている”としか答えなんだ」
うわぁあああァァァァーッ!! やっぱりなにかあったァアアーッ!!
え、やっ、な、なに!? 何が起きてるんだ!? 怖い! なんか怖い!
もしや食事になにか!? いやっ、だとしたら何も知らない祭さんに頼むのはおかしい!
ああそれにしても美味しい! 考えながらも箸が止まらない!
「むぐんぐんぐ……んぐっ。……そういえば祭さん、柄は? 今日一日、見てないんだ。いつもなら邵と中庭に居るんだけど」
「うん? ……いや、儂も見ておらん。朝に飛び出ていったきりじゃのう」
部屋を飛び出て、果たして何処へ行ったのか。
ただ遊びに行った~とかならいいんだが……天ではこういう時に油断すると、なんらかの事件や事故が起こったりするからなぁ。
……よし、食べ終わったら運動がてらに探そうか。
とか思っている間に完食。
(…………)
自分の胃袋にここまで驚かされた日はなかった。
よく入ったなぁ……本当に。
よしっ、じゃあ探しに行こうか。
「祭さん、ごちそうさま。ちょっと気になるから柄を探してくるよ」
「心配性じゃのう。何事かに襲われようとも、襲われるままになど育てておらんぞ?」
「だとしても、鍛錬と実際とじゃ違うよ。天でもそういってなにかしらを過信するから事件が絶えないし」
「ほぉ、そうか。天というのも案外物騒じゃのう」
言いながら笑わないでよ祭さん。
……まあ、きっと平和続きで退屈してるから、何か起こってほしいってことなんだろうけど。
起こったら起こったで、相当心配するんだろうなぁ。
こう言うのもなんだけど、妙なところで性格がじいちゃんに似てるからなんとなく予想出来る。
……。
さて、厨房を出て、いざ探索。
完全に暗くなる前に見つけられるといいんだが。
「柄~」
呼べば、何処で聞いていたのかすっ飛んでくることもしばしばな柄だが。
「柄~?」
今日は現れない。
見張りをしていた兵に訊いてみれば、今日は見ていないとのこと。
「んー……」
行動範囲を考えて、中庭に出てみるも、やっぱり居ない。
「柄~」
一応声を放ってみても反応無し。
ただ、城壁の上の見張りが、親切にも今日は見てませんよと教えてくれた。
次だ。
「柄ー」
城内を探し終えたので外へ。
この時間に外に出るのは珍しい。
物騒なことなどそうそう起こらない昨今だが、だからといって平和を信じ切るのは難しい。
足も自然と速くなり、早歩きのような状態で探し回った。
「おぉ? そこを奇妙に駆けるのはお兄さん。なにやらただならぬご様子。何事ですかー?」
と、街中で風と遭遇。
人々が夕餉だ夕餉だと賑わう中で会うとは、珍しい。
「風、柄を見なかったか? 祭さんに訊いても知らないって言うんだ」
ちょっと見えないくらいで大げさだとはよく言われることだ。
が、しすぎるのは確かにやりすぎかもしれないが、かといって心配しないのは違う。
「柄ちゃんですか。柄ちゃんでしたら邵ちゃんと、猫を追うべく駆けてましたねー」
「やっぱり外か! で、で!? どっちに!?」
「外れの方へ駆けていきましたよ。お昼のことですがね」
昼のことなの!?
じゃあもう高い確率で居ないのでは……?
いやいやっ、貴重な情報なんだ、居ないと予感が走ろうが、そこを目指すことに意味がある! 居るかもしれないし!
「そっかっ! 情報ありがとなっ!」
「あぁちょいとそこゆくお兄さん。風は少し歩きすぎて、足が痛いのですが。どこかに心の優しいお兄さんが居たら教えてくれませんかねー」
「思いっきり“お兄さん”って言っておいて紹介ってなに!?」
「ちょっと言ってみただけです。暇なので風も連れていってくれると嬉しいのですよ。今ならお礼に飴をあげましょう」
『おぅにーちゃん、女の尻ばっかり追いかけてねーで、たまにはおれっちと仲良くしよーや』
「…………まあ。久しぶり、宝譿」
どうやっているのか、ソイヤーとばかりにペロペロキャンディを突き出してくる宝譿さん。
一応それを受け取って、じゃあとばかりに風に背を向けてしゃがむと、乗ってきた風とともに道を駆けてゆく。……走ってるの俺だけだな。
……。
やってきた街外れ。
猫がよくうろついているそこにて、
「柄ー!」
声を上げてみるも、いらっしゃらない。
「既に去ったあとでしたかー」
「去ったなら城に居てもいいよな……! ま、まままままさか誘拐……!?」
「町人で柄ちゃんに勝てる人が居るなら、ですがねー」
「いやもしかしたら食事に誘われて食べちゃって料理の中に睡眠薬とかが入ってて眠ってる間にアワワワワァアアーッ!!」
「お兄さん、ちょっと落ち着きましょうねー……はいとんとんー」
「ふがふが……ってべつに鼻血は出てないから!」
でも少し落ち着いた。
そうだ、ここで焦りすぎても、なにかしらの情報を見逃してしまうかもしれない。
落ち着こう、より一層。
ということで……
「にゃー」
『にゃーお』
夜。目が光る猫に、暢気に語りかけている風さんに、その猫の心情を訊ねてみた。
「彼……なんて?」
「夜の物陰、黒猫の我輩は目を閉じれば何人にも見つからない。ただし自分も前が見えない。と仰っておりますよー。ちなみに“彼”ではなく“彼女”です。さすがお兄さんですねー」
「いろいろツッコミどころありすぎるなぁもう!」
あの“にゃーお”ひと鳴きにどこまで情報が詰まってるんだよ! 冗談だろうけど!
「じゃあもう行きそうなところを片っ端にだ! 風、いこう!」
「おぉっ……今日のお兄さんはとても元気ですねー。なにかありましたか……?」
「料理食べたら体が元気! それだけだ!」
そんなわけで走った。
時にキャンディーを舐めつつ、時に騒ぎつつ。
「柄ー!?」
呼びかけることも忘れずに、ただただ探し回る。
「柄ーっ!」
町人に情報を訊くことも忘れずに。
大体がモノを食べていたという情報ばかりなのは……まあ、子供だものなぁ。
「柄ぃいいいっ!!」
しかしこうなればこちらもヤケになるもので。
探せば探すほど、訊けば訊くほどメシを食っている情報ばかりで、心配よりもツッコミばかりが増えると、もうとりあえず見つけて息を吐きたい気分になっていた。ていうか脇腹痛い。食ってすぐのダッシュは辛すぎた。
まあ俺のことはどうあれ、実際、聞こえてくる声など……
「おっ、兄ちゃん。どしたいこんな時間に。……? 柄ちゃんかい? ここで豚まん食べて、向こうへ行ったな」
「あっち!? よしっ! ありがとおっちゃん! 柄っ! 柄ー!」
とか、
「───ん? 柄ちゃん? ここでラーメン食べて向こうへ行ったけど……」
「あ、あっちか……柄ー!?」
とか、
「柄ちゃんならここで邵ちゃんと猫の話をしたあと、城に戻るって。……え? ええ、ついさっきだったかしら」
「柄……」
……終いにはそんな有様で。
で、城の厨房に戻ってみれば、祭さんと会話をしている娘を確認。
「HEEEEEEEEEEEYYYYYYYY!!!!!」
そんな、“あァァァんまりだァアァァ!!”とか叫びたくなる状況に辿り着くわけで。
走った時間だけ無駄をした。そう思わずにはいられなかった。
が、娘が無事だったことに何を嘆く必要がありましょう。
俺は走った分だけ安心を得られた……それが勝利なんだ。
それでいいジョルノ……それで。
「ど、どうしたんだ、父……!」
ところで叫んでしまったからにはもう遅いんだジョルノ。
どうしたらいいジョルノ。教えてくれジョルノ。
「へ……柄。今まで何処に……?」
「え、っと……外で食べ歩きを……。父こそどうしたんだ……? そんなに息を切らせて……」
「へ? あ、あー……」
焦って探すあまり、氣で体をコントロールするのを忘れていた。
「祭さん、言ってないの?」
「それはそうじゃろう。儂は最初から心配なぞしとらんかったからな」
そうでした。
言っても“北郷が探しておったぞー”くらいで、どうして探していたのかなんて説明するとも思えない。
基本、面倒臭がりとは言わないけど自由な人だもんなぁ、祭さん。
「あーほら。その、あれだ。朝から見てなかったから、心配だから探してた」
で、俺はといえば別に隠すことでもないからと正直に。
ぽかんとしていた柄だったが、少しすると吹き出して、元気に笑った。
「父は妙なところでおかしいなぁ。私が誘拐されるとでも思ったか? されそうになったところで返り討ちにしてくれようっ!」
「そっかそっかー! じゃあ父さんが今から誘拐犯役をするから、上手く対処しろなー」
「応! どーんと来いだうひゃあああーっ!?」
あっさり捕まえた。
で、米のように肩に担ぐと溜め息ひとつ。
その過程で降りてもらった風が、「おおっ、さすがはお兄さん。娘であろうと女の子に手を出す速度が普通ではありませんねー」……ってべつにそういう理由で捕まえたわけじゃないんですが!?
い、いや、ここで慌てたら風の思う壺だ。冷静にいこう、冷静に。
「じゃあ祭さん、この自称・誘拐犯キラーさんを風呂に放り込んでくるから」
「おう、遠慮せずぶちこんでやれぃ」
「こ、このっ! ずるいぞ父よっ! あんな一瞬で捕まえにくる誘拐犯なんて居るわけがないだろう!」
「馬鹿だなぁ柄。今この場でこの北郷が支柱を辞めて誘拐犯になったらどうするんだ」
「───はっ!? い、言われてみれば……!」
「納得する前にツッコみなさい」
ぺしりと額を叩いてみる。
漫画とかだとよく自分の向く方向に下半身がくるように担ぐが、あえて逆にした。
べつに大した理由はなく、掴んだ途端に暴れたから回転させながら担いだ結果だ。
「おおっ、つっこみですか。そうですねー……お兄さんが支柱をやめたら、同盟が崩壊してそれはもう大変なことになりますねー……」
「そうかな。べつに俺一人が抜けるくらいでどうにかなったりはしないだろ」
「各国の王や将がお兄さんの正妻の座を巡って血で血を洗う戦争を───」
「よぅし柄、父さんまだまだ頑張るぞぅ? だだだだだ大丈夫、大陸の平和は僕がマモル」
「おおぅ……ある意味で間違ってなさそうなので、言った風も少し罪悪感ですよ……」
風……たとえ多少違っていたとしても、結構大事になることがあるんだ……。
たとえば俺が支柱をやめたとして、じゃあ俺についてきてくれる人って何人居るだろう。
多いか? 少ないか?
……惨めになりそうであまり考えたくないけど、恋は来てくれそうな気がするわけでして。
三国無双様がデスヨ? それってもう本当に一騎当千で、誰かとぶつかりあったらただではすまないわけで。
ヤヤヤヤヤッパリ大陸の平和はいつの間にか俺に……!
「なぁ風。ぶっちゃけた話……俺が支柱を下りたとして、なにか変わるのかな」
「お兄さんが出ていかない限り、なんにも変わりませんよ。同盟の証として認められているからこそ、お兄さんは今ここに居るのですから。もっともお兄さんが、三国の王や将に子供を産ませた上で逃げ出すような男だったのなら、そうする前に死んでいると思いますけどねー」
「俺もそう思う」
そんな男に騙されるほど、この時代の人は平和に浸っていない。
そんなことを企んで近づこうものなら、華琳に見破られて春蘭に両断されたり、愛紗に見破られて両断されたり、雪蓮に見破られた上で散々玩具にされたあと思春に寸止め無しの鈴音で斬られたり、ろくな死に方はしないだろう。
それを思えば、俺はむしろ助かった未来を歩んでいると言っていい。
余計な事情なんて知らないほうがいいのだ。
数多の外史の中、降りた俺があっさり殺される軸を望んだ人だって居るのかもしれないんだし。
「じゃ、柄の無事も確認出来たことだし───」
「早速お風呂ですねー。人を抱えて散々と走って、お兄さんは最初からそのつもりだったのですか?」
「……たまに七乃と言動がかぶるから、そういうこと言うのやめようね? あと負ぶってくれっていったの風だからな?」
ともあれ。
ばたばた暴れる柄を担いだままに浴場へ。
一緒に入ることはせず、風に任せて浴場をあとにした俺は、自分がのんびり入れる時間になるまで適当に体を動かすことにした。
お待たせしました、編集を再開いたします。
いやー……6月はいろいろありました。
SS書いたり、ずっとやめていたブラウザゲームに再びドハマリしたり、SS書いたり、精霊の魂とか出ないにもほどがある! 覚醒させる気あるのかウィーバー!! と心震えたり、SS書いたり、それでも根性で覚醒したり、SS書いたり、なんか丁度イベント始まったからこのまま285レベルにしちゃおうと張り切って極限クエスト終わらせたり、SS書いたり、なんか忘却のアカドラトとか経験値めっちゃ入るんですが……え? 精霊の神殿で苦労しながらレベル上げてた僕の時間の価値は……? え? ここ一時間ぽっちで1レベル上がっちゃうんですが……? とそのまま290レベルまでいってみたり、SS書いたり、プラバ防衛線であっさりブチコロがされたり、SS書いたり……花騎士やる時間が極端に減りました。
あ、花騎士といえばアプリ版が出たり、なんでもアニメ化まで噂されているとか。
事前登録? ええ、しましたとも。
……そして投稿したと思ってたら投稿できていなかった悲しみ。
ワンモアタァイム! ゴー!!