真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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132:IF2/愛を育みたい人々①

184/乙女心、奮い立つ

 

-_-/幕間

 

 ───都の、とある一室。

 普段は使われていないそこ。

 時は夜。

 守衛も欠伸をするほどに平和な現在の中、気配を殺してその場へ集う人々の姿が。

 べつに見られようがどうしようがどうということもない筈なのだが、心境としては必要な行動であるから皆そうした。

 

「それでは、連合会議を始めたいと思う」

 

 集った人物の数は……数えるのも面倒というほどでもないが、大勢という言葉で括ろう。

 開始の合図を唱えた人物は美しい長い黒髪をひと房結わった女性であり、他の者たちはその言葉にごくりと息を飲みつつ頷いた。

 

「さて。ようやく皆の意思がひとつになった本日、こうして集えたわけだが。皆、心に偽りはないな?」

「……ねねが居ない」

「こ、こら恋っ、名は出すなとあれほどっ……!」

「愛紗も喋っちゃってるのだ」

「うぐっ!? そ、そういう鈴───お前だってだな……!」

「やれやれ、開始早々に先が思いやられる会議だ。酒の一献でも持ってくるべきだったか。……そうなるとメンマは外せんな。また主に大麻竹のメンマを作ってもらわねば」

「星っ! もとはといえばお前がいつまでも友だ友だと渋っているから───!」

 

 もう滅茶苦茶であることは、集った全員が確信していた。

 様々なところで苦笑と溜め息が漏れ、普通に笑っていた一人が暢気に声をあげる。

 

「それで、具体的にはどうするのよ。一刀を襲う? 襲うにしたって、ここ8年も子供のこの字も掠りもしなかったのに。蓮華には先を越されちゃったけど、王じゃないとはいえ私も子供は欲しいって思うし」

「産むのは勝手だが、面倒はきちんと見るんだぞ」

「冥琳よろしく」

「名前を出すなと美髪公が言ったばかりだが」

 

 言ってしまえばこの集い、子を産んでいない、または子を孕んでいない将の集いである。

 北郷一刀に対してそういった感情を抱いていない者は来てはいないが、それも今や音々音と焔耶だけである。猫耳フードの軍師は度外視するとして。

 

「しっかしよくもまあこれだけ揃ったものよね~。一刀は幸せ者ね。ね? 最近よく一刀のことをちらちら見てる冥琳?」

「……そうか? これだけの人数を相手にする先を思えば、必ずしも幸福とは受け取れそうにないが」

「むしろこの人数とほぼ毎日やっても子供が出来ないほうがどうかしてるんじゃない。で、どうなの他の子たちは。吐き気がしたーとかそういうの、ないの?」

「吐き気? 何故吐き気がしますの?」

「ちょ、麗羽さまっ……それはほらっ、ああいうことだから……っ!」

「? 猪々子さん? 言いたいことがあるのならはっきりと仰いなさい」

「だ~か~ら~っ、子供が出来るとほらっ……!」

「うほほっ、麗羽姉さまは遅れておるの。女性は子供が出来ると、浮かれて酒を飲みすぎて吐くのじゃ! ……の! 七乃!」

「さっすがお嬢様! 間違った知識をそうまで胸を張って言ってのけるところなんて最高ですっ!」

「なんじゃとーっ!? 前に訊いたらそういうことじゃと言うておったであろ!!」

「はっ!? あぁんまたやってしまいましたぁっ! ただでさえ数少ないお嬢様をからかえる事実を自分で潰してしまうなんて、七乃、一生の不覚ですっ!」

「や、“また”やってしもたゆーとったやん……。なんべん一生の不覚を取んねん。……んで、凪ー? こっちじゃどないなんー?」

「知りたいなら自分で調べる努力をしてくれ……。とりあえず、魏側ではそういった話は聞いていないな。皆健康そのもの。妊婦を不健康と言うわけではないが、つわりが来ないというのも……」

「うんうん、原因はやっぱり、真桜ちゃんが言ってた通りだと思うのー」

「原因?」

 

 がやがやと言葉が飛び交う中、一人の声に皆が静まる。

 原因というものがあるのなら、それを改善させればどうにかなるかもしれない。

 全員がそう思ったからだ。

 

「やっ、ちょっ……沙和っ……! それはっ……!」

「隊長の白いあれが、水っぽいのが原因だって」

『───』

 

 聞いた途端、場は一気に凍りついた。

 一人だけが真っ赤になって、目から滝のような涙をたぱーと流して恥ずかしがっていたが。

 

「違うゆーとるのにぃ……! 風がゆーとっただけやのにぃ……!」

「おぉ……それなら確かに言った覚えがありますねー。子供が出来ない直接の原因がそれかどうかはわかりませんがねー」

「……確かに水っぽく、量も少ないと感じはしましたが」

「……あのさ。もうちょっとぼかして喩えてくれない? さっきから月が真っ赤で困ってるんだけど」

「へぅぅう……!!」

「これ以上どうぼかせと?」

 

 メイド服を着た女性の願いに対し、眼鏡をクイッと直しながら彼女は返した。

 返したが、先ほどから鼻に詰めている紙がどんどんと赤く染まっていっている。

 

「ともかく。もういい加減、私たちもいい歳だ。……認めたくはないが、一般的に子を産む時期など過ぎてしまっている」

「ふむ? べつに産めれば問題なかろうに。愛紗よ、お主は少々一般常識にこだわりすぎではないかな?」

「真っ赤になりながら“主は友だから”だのと逃げていたお前が言うか。もし誘われなければ年老いても子が居なかったんじゃないか?」

「はっはっは、私がその気になれば───」

「ご主人様以外の子を産むか?」

「───ないな。うむ、それはない。すまんな愛紗、少々強情だった」

「星が謝ったのだ!」

「お、おいおい星、大丈夫なのか? 華佗、呼ぶか?」

「お姉様っ、ここはお兄様を呼んだほうが面白───! あ、違った。と、とにかくそっちのほうがいいって!」

「ばかっ! なんのために秘密会議やってると思ってるんだっ!」

「星ちゃん……? 無理は体に毒よ……? なんだったらそこの寝台で横になっていても……」

「……素直に謝ってみればこの反応……。愛紗よ、これは新手の苛めというものか? 天ではよくあると聞くが……」

「素直に苛められる性格でもないだろう」

「ふむ。まあ、それはそうだが」

 

 釈然としないものの、誤魔化そうとした自分を悪と素直に受け止め、彼女は目を伏せて息を吐く。

 メンマを通じて友となり、神と崇め、やがて真に気安い相手になり、いつしか“子を為すのならこの者と”と考えるまでになっていた。

 武に生き趣味に笑み、好物に幸福を抱き、しかし“女としての何か”は未だに。

 ならばそんなことが出来なくなってしまう前に、出来る限りの全てを興じてこそ人生。

 友との酒も悪くはない。

 だが、それこそ至高と唱えるには、自分は女としての喜びを知らなすぎた。

 知らないのなら? ……知ればいい。

 そんな考えに到るまで、彼女は必死に自分の気持ちを“友として”と誤魔化してきたわけだが……ここ数ヶ月、子とともに楽しく過ごす主を見ていて、自分も何かを残したいと思えた。

 書物で何かを残すのではない。

 見て聞いて、自分の様々を受け止めて覚えてくれるなにかを。

 

「生きていれば、自分の考えなどころりと変わってしまうのだなぁ。……ふふっ、どれほど武に生きようと、結局は私も女であったか」

 

 小さく呟き、暗がりの中でくすりと笑った。

 その小さな笑みを拾った隣の女性が、「笑ったりして、どうしたのだ?」と訊ねる。

 

「いやなに。戦も終わり、武官はただ平和な時代に埋もれ、活躍の場もなく消え去るのみかと思っていたが……」

 

 まだまだ出来ることがある。

 それを思うと、女として産まれたことを感謝したくなった。

 もっとも、子を産むということが容易いことではないことなど、各国の王や呉の将を見て知っているわけだが。

 主の前では余裕の態度を取っていた彼女らだが、それ以外では随分と苦しんでいた。

 

(……苦しいのだろうなぁ。だが、苦しんでいるところで命を狙われるわけでもない)

 

 平和になったものだ。

 隣の女性への返事も半端なままにそうこぼし、適当に誤魔化して会議の続きを待った。

 

「というわけで、その道に詳しいことで有名な二人の軍師に協力を仰ぐことにした。伏龍殿、鳳雛殿、前へ」

「はわっ!?」

「あわっ!?」

 

 名は伏せているが、バレバレな呼称をされた二人の肩が跳ねる。

 途端におろおろと周囲を見るが、皆様“なるほど”という顔で二人を見ていた。

 ……二人は隠せていたと思っていたが、艶本のことなど当然周知である。

 

「さあ、今まで溜め込んだその知識、存分に披露されませい!」

「そそしょっ……しょんなっ、大げしゃに言わないでくだしゃいっ……!」

「あ、愛紗さんだって、なんと破廉恥なと言って取り上げたあと、見てたじゃないですかっ……!」

「ぎっ……!? い、いやっ、私はっ……というか名前をだなっ……!」

「いいから話、進めましょ? それで? 朱里、雛里、子を簡単に孕む方法とかってあるの?」

「あはっ♪ 雪蓮姉様ってばだいたーん♪」

「雪蓮……もう少し慎みというものをだな……」

「だって話がちっとも進まないんだもん。今さら小さなことで恥ずかしがるような覚悟でここに集まったわけじゃないでしょ?」

『───』

 

 皆が静まり、こくりと頷く。

 さすがは元王であるとばかりに、その場を仕切る彼女はにっこり笑って続きを促した。

 

「は、はい、ではしょのっ……まま、まずはっ、房中術の話から始めましゅ───!」

 

 そして説かれる、艶本から得た知識の数々。

 最初こそ艶本の知識なんかでと困惑していた者も居たのだが、それが名軍師の口から事細かに語られてゆくと、いつしか皆が皆、息を飲んで静聴していた。

 

「このように、生理が始まって一週間後から十日後あたりから───」

 

 語っていた軍師も一周回って恥ずかしさを超越したのか、真っ赤になりながらも噛まずに説明を続け───

 

「男性の白いあれが蓄えられるのが、約三日とのことなので───」

 

 確実に妊娠するには。

 それぞれが頷き、それぞれが自分のあの日についてを照らし合わせ───

 

「その周期にある人が、三日ごとに一人ずつ───」

 

 ……女性達の計画は、男性に知られることなくゆっくりと進められていた。

 

 

 

185/そんな中で彼は今

 

-_-/かずピー

 

 み、妙ぞ……こは如何なること……?

 

「………」

 

 それはよく晴れた日のことでした。

 朝、目が覚めると普通に起きて普通に体操をして体をほぐして、身支度をして部屋を出た。うん、ここまではいつも通り。

 で。

 出たところに流琉がいらっしゃいました。

 困惑はしたものの挨拶をすると、きちんと挨拶を返してくれて……そのまま厨房へ連行された。

 どうせ水を飲むつもりだったからいいんだが、着いたら着いたで座らされ───

 

「………」

 

 ───現在に到る。

 目の前には朝から重過ぎるってくらいの量の料理、料理、料理。

 “え? 朝から宴会?”ってくらいの量。

 なのに座ってるのは俺だけ。

 

「流琉、他の人は?」

「? これ、全部兄様のですよ?」

 

 朝っぱらからすごい無茶振りが来た!!

 え、ど、どうしたの何事!? 俺の数少ない良き理解者のキミが、突然どういった経緯でこんな!?

 

「ほら、兄様最近疲れてたみたいでしたから。過労で倒れたこともありましたし」

「そうだけどさ……………………それで、この量って……」

 

 朝からこれって……。

 細身のお方に牛丼特盛り四杯食えって命令するよりキツそうなんですが……?

 あ、でも、量は多いけど、一つ一つは胃にやさしそうなものばっかりだ。

 ……なるほど、量に驚いたけど、本当に俺の体を心配しての料理みたいだ。

 はぁ、なにやってるんだか俺は。驚いたり拒否しようとする前に、もっと素直に受け入れようって思わなきゃなぁ。

 

「じゃあ、いただくよ。でもこれ食べたら昼はいらなそうだな。ははっ」

「え? いえ、昼は斗詩さんと月さんと詠さんがしっかり作るそうなので、是非」

「……エッ!?」

 

 こっ……これを食し、昼も食せと!?

 ぬ、ぬういったいなにが起こっておるのだ、これはなんたる試練ぞ……!?

 でも“いただくよ”って言っちゃったし、退けぬ……もはや退けぬのだ、北郷……。

 

「イタッ……イタダキ、マス」

「はいっ、残さず召し上がれっ♪」

「ハーイ……」

 

 頭の中でヘーベ○ハウスが紳士的に挨拶をしていた。

 どんな時でも帽子を取っての挨拶……素晴らしい。じゃなくて、喰らう。

 一口目で口から感動が溢れ、そうなってしまったらもうペース配分がどうとかはどうでもよくなっていた。

 美味しいなら……いいじゃないか。

 食べられる喜びを噛み締めようぜ……? 素直になれよ、一刀……。

 

……。

 

 そして昼。

 

「へんだな……あれだけ食べたのに、腹が……」

 

 なんだか唐突に。腹が…………減った。

 朝食後は胃が浄化されたみたいに“スッキリさん”で、鍛錬をしている間も体が生き生きしているみたいだった。

 そんな早く吸収されるわけがないのに。

 多分味覚からの喜びに体が驚いたのだろう。

 なので散々と動き回ったら……腹が。

 

「うぅ……いらないとか言っておきながら、これじゃあなぁ」

 

 言いつつも厨房へ。

 すると斗詩が笑顔で迎えてくれて、卓に案内されて……相変わらずのメイド服姿の月と詠が料理を運んできてくれて、俺が何を言うでもなく召し上がれを告げられた。

 

「………」

 

 もしかして何かが動き始めている? もしくは既に動いている真っ最中?

 過労で倒れたっていっても……うん、もう結構経ってるよな……。

 なのに今さら健康管理とか言われても……やっぱり妙ぞ。いかなることかと疑いたくもなる。

 が、わからないので食う。

 どうせ訊いてもはぐらかされるだろうし、喰らう。

 

「ほあっ……わおお……!」

 

 で、美味しいわけだ。

 腹が空いて、ご飯が美味しいとくれば、一体何を迷う必要がありましょう。

 手が動く。顎が動く。喉が動く。

 じっくりゆっくりと味わって食べたいのに、どうにも箸が止まってくれない。

 うおォンとか言いたくなるような心境の中、次々と運ばれてくる料理を喰らい続け、結局はまた、無理だろうと思うほどの量を食べてしまった。

 料理の数は、積み重なった皿の数が示している。

 いったい俺一人で何人前を食べたのか。

 鈴々と同じくらい? はたまた恋と同じくらい?

 考えるだけで気が遠くなりそうだが、入ってしまった。

 

(……スゴイね、人体)

 

 某・トラサルディーさんの料理を食べてみたいと思っていたことがあった。が、まさか食べれば食べるほどお腹が空く料理なんてものが、実際にあったとは……感動させていただいた。

 これはあれか。満腹中枢を刺激しない食べ物か、それともそっち方面の感覚を鈍らせるものが入っていたのか。

 薬膳料理……なんとも奥が深い。これが薬膳料理であったかなど、俺にはわからなかったが。

 けどね、入ったは入ったけど、苦しいです。

 どれだけ満腹中枢を鈍らせようが、物理的な限界というものは当然あるわけで。

 だが言おう。いや、頭の中で響かせよう。

 苦しくなろうが、この味を舌に味わわせたことに後悔はない。これでいいジョルノ……これで。気にするな、みんなにはよろしく伝えてくれ。

 ……なんて思ってみると、偉そうな感じでいやだなぁ。

 食材と調味料、作ってくれた人への感謝。これで十分だ。あとジョルノ関係ない。

 

「ごちそうさま、美味しかった」

 

 素直にこう言える料理を食べたのって、この時代に降りてからくらいじゃないだろうか。

 美味しいものはそりゃああったけど、食べたところで“うまかったー”で終わる気がする。

 作ってくれた人に感謝出来る時代に感謝……ってことでいいのだろうか。

 と、感謝をする俺の言葉は届いたのかいないのか、三人はじぃいいーっとこちらを見てくる。

 ……思えば、本当にこの時代の女性って外見年齢変わらないよなー。

 鈴々とか璃々ちゃんとか、元から小さかった子はもちろん成長したけど……うん、月も詠も変わったんだけどさ。

 

「………」

「?」

 

 斗詩……変わらないなぁ。

 アレか。野菜星人のように、長く戦えるように若い姿の期間が長いとかいうアレなのか。

 ていうか俺、なんで見られてるんだ?

 ……ハッ!? もしかしてこれ、俺だけで食べちゃマズいものだったとか!?

 

「ご、ごめんっ! 美味しくてつい全部っ……! みんなの分もあったんだよな! あぁあ……普通の味でいいなら俺が作るからっ! ほんとごめんっ!」

「あ、いえ、全部ご主人様のためのものだったので、それはいいんですが……」

「エ?」

 

 それはそれでちょっと待てとツッコミたいのですが。

 ああいや、それよりも。食べてよかったっていうのに、“それはいいんですが”ときた。

 他になにか、じぃっと見つめる理由があるに違いない……!

 

「じゃあ、他になにか……? じいっと見てくる理由とか、あるんだよな?」

「や……ほら。作っておいてなんだけど、まさか本当に全部食べられるなんて。あんたの胃袋ってどうなってるの?」

「え、詠ちゃんっ……!」

「………」

 

 訊ねてみたら、胃袋の性能を疑われた。

 いたって普通だと思う。むしろ普通じゃなきゃ怖い。

 

「はぁ……そっか、よかった……。ちょっと引っかかるけど、食べてよかったなら安心だ。けど……はは、この分だと今度こそ、夕餉は入らないな……」

「あ、あの……ご主人様? 夜は呉の黄蓋さんが、青椒肉絲を作ると───」

「ちょっと運動してくる! うおおおおおおおおっ!!」

「へぅうっ!?」

 

 好物には弱い……それってきっと、男の弱みと繋がると思うのだ。

 厨房から飛び出して運動。

 仕事の時間になれば、多くはない仕事をして、終わるや再び運動。

 ともかく消化を急ぎ、夜の美味のためにと体を動かしまくった。


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