151/151を憩いと読みたいけど内容までは上手くはいかない。そんな辛さを時に語りたくなる僕らの人生。
お菓子だった。
流琉のクッキーが各国に広まりつつある昨今、果物の果汁を使って作ったお菓子が、霞の言うお土産だった。
さくりと食べてみれば口内にお菓子独特の食感と味、そして主張しすぎない程度の果汁の風味が溶け出し、なんだか懐かしい気持ちになる。天でもあるような味なのだ。
どうやって作ったのかといえば……ドラム缶風呂の要領で、使わなくなった中華鍋などを叩き、小さな窯のような形に形成。それを、火力は少ないが焚き火で炙ってクッキーを焼く……と、そんな感じらしい。
どうせ使わなくなったものだからと、捨てるよりは再利用をという考えまで広まったようだ。ドラム缶風呂からそこまで広がる事実に、なにがきっかけで人がどう動くのかなんてわからないもんだなぁと素直に感心した。
とは言ってもやっぱり手探りは手探りらしく、作った窯もどきでは焼け具合が激しくバラつくようで、丁度いいのもあればカーボンのように炭化するものもあるんだとか。
「へぇえ……! 美味しいなぁ、これ」
「せやろー? ウチも一発で気に入って、これなら一刀喜ぶやろなー思て分けてもらってきてん」
「で、笑顔で中に入ってみたら事後だったとっ」
「その通りだけど少し空気読もうね七乃さん!!」
さて、霞が戻ってきた現在。
場所はそのまま自室で、着崩れしていた美羽の衣服は正した状態で寝かせてあり、俺と霞と七乃がそれぞれ円卓の椅子に腰掛けて向かい合っている。
俺が止めようとする間もなくバーンと扉を開けてしまった七乃によって、強制的に事後現場を目撃した霞だったが……特に珍しい反応をするでもなく、猫耳でも頭に生やしたかのようなきゃらんとした顔で寝台の上で慌てる俺を見ていた。
で、そのまま中に入ってきてお土産を広げては、笑いながらこうして話をすることになったんだが……
「やー、華琳から聞いとったけど、一刀、ちゃんと手ぇ出せるようになったんやな」
「霞。その言い方はいろいろと不能的な疑いをかけられてそうな気分になるんだけど」
「帰ってきてから今まで、可愛い女に囲まれとるっちゅうのにてんで手ぇ出さんかったんやもん、疑いたくもなるってもんとちゃう?」
「いや……まあ……こっちだっていろいろと我慢してて大変だったんだぞ?」
「やったらすぐに手ぇ出してまえばええのに」
「いろいろと事情があってねー……」
遠い目をして何処とも取れぬ場所を見つめた。壁があるだけだった。
「ほんでほんでっ? 一刀もうそういうこと出来るようになったんやったら、」
「ごめんなさい勘弁してください」
「えぇー!? なんでー!? ウチ今まで散々我慢しててん、ご褒美くれてもええやろー!?」
尻尾を振る犬のように笑顔で寄ってきた霞に両手を挙げて降参宣言。当然霞は納得いかないと、挙げた俺の腕を下ろしてまで抱きついてくるのだが……
「確かに支柱としての行動にそれは含まれるんだろうし、俺も霞とはそういうことをしたいとも思うけどさ。……そればっかりに溺れて、自分の立場を忘れたくないんだ。あ、“だからその立場が行為をすることだろ”って言葉は勘弁してほしい。霞のことは好きだし大切な人だと思ってるけど、それと支柱の仕事とはやっぱり別にしたいんだ」
「う、うー……難しいことはわかられへんけど……」
「好きな人を代わる代わる抱くだけが御遣いと支柱の仕事じゃないって言いたいんだって。“求められたら抱く”って自分から離れたいんだ」
「というかですね、一刀さん。本当に求められるだけ抱いていたら、民からの信頼がひどいことになりますよ? 最悪支柱の地位を剥奪、別のものへ置き換えることにもなりかねません。同盟の証ならば、一刀さんじゃなくても三国で大事に思える置物でもいいんですから」
「そうだとしても置物が代わりなのは勘弁してほしいな……」
俺の代わりに置物……なんでか、あるわけもないのに信楽焼きが頭に浮かんだ。なんでだろ。……ともかく、それらを三国の宝にする各国の王たち…………路地裏で一人寂しくT-SUWARIをする俺。そんな映像が頭の中で上映された。
「お、俺っ! 仕事しっかりやるよ!」
「はいっ♪ では早速各地の邑などでの問題点を纏めたものをこちらに」
「えっ…………い、今から?」
さすがに遅くまでアレだった上に、さっきまで美羽と七乃とアレだったから疲れてるんだけど。
なんて弱音が出そうになった時、七乃がにこりと笑って「来年にはこの部屋には置物が置かれているんでしょうねぇ」なんてことを仰ってああああもう!!
「やる! やります! だから置物はやめて!?」
「はーいっ頑張ってくださいねー、この食べ物は私とお嬢様が責任をもっていただいてますから」
「ひどい! なんてひどい!」
でもやる。
頭の中をリラックスモードから仕事モードに切り替えるように頬を叩いて、円卓の隣の仕事机へ移動。霞はといえば、椅子に座るなり早速仕事を始めてしまった俺を、口を少し尖らせながら見つめていた。
んー……
「霞」
「!」
苦笑を噛み締めつつ名前を呼んでみると、また猫の耳でも現れたかのような笑顔をもらす霞。その様子は猫っぽいのに、俺を見つめる姿は尻尾を振る犬っぽかった。
そんな彼女に軽く椅子を引いて、さあさと膝をぽむぽむと叩くと……“エ?”とばかりに首を傾げられた。
……。
視察などの仕事や状況報告などを簡単に纏めるには何が一番必要か。
それはもちろん自分の目で見て知ることなんだろうが、それが出来なかった場合は見てきた人に細かく聞くことだと思う。
そういったことを書類に纏めるのが上手い人が居るのなら、その人が纏めたものを提出するだけで十分だとも思うものの、提出される側が俺の場合は、それを自分で纏めなければいけない。
なのでこの中で状況を知る霞を足の間に座らせると、そのまま書類整理を開始。
「~♪」
口を尖らせていた誰かさんはとっくに上機嫌だ。
説明の部分では随分と唸ってはいたものの、そこは七乃がフォローすることで詰まることもそうそうなく作業は進む。
「うぇ~……一刀はいっつもこんな仕事やってたん? 文字ばっかで目ぇ回る~……」
言いつつも語調は楽しげだ。
そんな霞の肩越しに見る竹簡には、渡された書類に書かれたものを今後のことに役立つ案とともに書き連ねた文字がある。というか今も連ねている。
報告だけ受け取ってはい了承了承じゃあ、民の声も、それを外から見た人の意見も見えてこない。
だからきちんと目を通して、時間があるなら自分でも視察しなきゃいけない。
「あ、そういえばなー一刀ー。なんや視察行ってる中ずっとな? 甘寧ちんが変やったんやけど、一刀知っとるー?」
「いや、急に言われてもな……べつに普通だった……気がするぞ?(惚れ薬のことを置いておけば)」
「なんや一刀の名前が出るたびにぴくりぴくり肩が動いてなー? 気になることでもあるんかーって聞いたら“なにもない”の一点張り。なー? これへんやろー?」
「……あんまりつつかないように頼むな。思春がなにもないって言ったらなにもないんだろうから。つつきすぎると俺にいろいろとばっちりが来るかもだから」
「それを受け止めてこその男やん」
「刃物突きつける人を受け止めたくないよ!? 首飛んじゃうよ俺!」
話しながらも続ける。
一人一人の物事の見方なんてものは違うんだから、こればっかりは頭と足で知らなきゃいけないものだ。
で、知ったら知ったで書き連ねた予定書類と照らし合わせて、何が最善かを考えて、それを行なったらその先でどうなるのかも考えて、それを軍師に話してみて、反応が良好だったら落款。
軍師に訊いてばっかなのはどうかと言う人も居るだろうし、俺もそう思うのだが……困ったことに、それが軍師の仕事なのだ。相談されなかったらなんのための軍師かわかったもんじゃない。むしろ相談しなかったら怒られることさえあるのだ……少し理不尽を感じないでもない。
「……ん、よしっ、と。あとは……七乃、確認してもらっていいか?」
「珍しいですね、私に確認を頼むなんて」
「それが、華琳に間違いを指摘されてねー……少し不安だから一応」
自信が溢れているときこそ怖いものだ。
なのでハイと渡した竹簡を、七乃が確認してゆく。
「銘菓、ですか?」
「うん。せっかくあんなお菓子が作れるなら、いっそもっと大々的に取り上げてみたらどうかなって。この邑ではこの果実がよく採れるみたいだし、作ったものをその邑の名物にするんだ」
「うーん、街ならともかく邑ではどうでしょうねぇ……作るのはそれは構わないかもしれないですけど、邑で限定的に売るとなると買い手が邑の人しか居ませんよー?」
「そんな時こそ片春屠くん! 作ってもらったお菓子は俺が受け取って、街で売ってみるのはどうだ? 味が良ければ知られていくだろうし、行商に話がいけば仕入れてくれるかもしれない。……問題は保存料なわけだが」
行商が街から街、邑から街など移動する中、果たしてその菓子が味を保っていられるかが問題だ。
「お手製の窯の焼き具合も考えなければいけませんからねー……これは趣味として置いておくのが一番だと思いますよ? なんでしたら作った分を纏めて都で買って、ここで売るという方法もありますけど。もちろん売れなければ都の赤字は確定ですが」
「うぐっ……そうなんだよな」
それはもちろん考えたんだが。
現物だけ貰って都で売って、売れた金を邑まで届ける……じゃあ、ちょっと効率が悪いし邑の人のやる気にはあまり繋がりそうにもない。
なにせ自分らで食べようと作ったものなのだから、売れた分だけの金を貰って、売れなかったら捨ててしまう、もしくは冷めたそれを食べる、では作ったほうががっくりする。
それなら最初から買ってしまい、こちらで売れば……と。仕入れと販売だな、ようするに。
「むぅ、いい案だと思ったんだけどな。気持ちが先走って失敗するケースか。もっと感情を制御できるようになったほうがいいなぁ」
誰かが喜んでくれるんじゃ、とか思うとすぐにそれをしたくなって、考えが最後まで至らないのは困った癖だと思う。それを止めてくれる人が居るっていうのは幸せなことだ。
俺がこんな調子なら、自他ともに認められるほど似ていると思う桃香は…………もっとすごいんだろうなぁ。想像できるのが少し悲しい。
マア! 100話ですョ100話!
……え? 既に280話越えてる? いやいやこれ100話だから。これ以上ないってくらい超100話してますすからこれ言っときますけど。
などと無駄に100話を喜んでみますが……これを無事に終えたとして、天地空間を修正、UPとなるといったい何話になるのやら。
エート、変わらぬノリで約1000話近く書いたから───……のんびり行こう。
そういえばハーメルンって、ひと作品を何話まで投稿できるんでしょうね。限界とかあるんでしょうかとふと思いました。
はい、無駄話をしちゃいましたね。では続きをどうぞです。
あ……ちなみに昨日、改めてとある番組でカカオポリフェノールが高いチョコは体にいいという情報を得て、家族の買い物に合わせて車を走らせ、カカオ95%チョコを買いに行ったんですよ。
そしてお目当てのチョコをゲットして、会計に通す時、なんでかあたたかな視線。
ワッツ? と思いつつ会計を済ませてレジを通り過ぎた時……スーパーにさ、ほら、籠から袋に詰めるための台がある場所、あるじゃないですか。
そこに重ねられたチラシがありまして。それが目に入った途端、女性レジスターの暖かな視線の意味に気づきました。
バレンタァアーーーッ!! な、なんたること! “バレンタインデーに男がチョコを買う”をやってしまった!!
ええその……とっても恥ずかしい思いをしてしまいましてね? いや男子高校生でもあるまいにとか思ったりはしたんですよ? でもこの感覚って歳がどうこうじゃなくて、男だからなんだなぁとか地味に痛感しちゃいまして。
たとえばほら、「あっはは漫画みたいなことやってら、普通ねーよ」なんて気取ってたら正月に餅を喉に詰まらせて、ヨシタケ……ヨシタケェェェェ!! と友人に助けを求めてしまう方向の種類といいますか新年早々の恥の上乗りとかそんな切なさと寂しさと心細さと。
なのでそんな恥ずかしさをチョコレート効果の苦味で忘れました。おお苦い。