真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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 タイトルで既にネタバレしてる。
 今さらだけどこのサブタイトルものっそい失敗だったんじゃないかしら。
 関係ないけど“サブ”って書くのと“さぶ”って書くのとじゃ、なんか意味が違って見えますよね。角刈りの男性が表紙飾っ(略)


01:三国連合/一年越しの願い①

02/一年越しの“願い”

 

 物語には終わりがない。

 “お祭りがずっと続けばいいのに”と少年少女が願うように、誰かが願えば物語は幾重にも存在出来る。

 たとえばここに、大陸の覇王になることを夢に見、願った少女が居たとして───

 その少女が願ったように、彼女が覇王になることで夢が終わるというのなら、再び願えば物語は続くのだろう。

 どんな些細な願いでも、それが真に願われたことならば───

 

 

    ───じゃあね! “また会いましょう”、一刀!───

 

 

 ……願われし外史の扉は、再び開かれるのだろう───

 

 

 

───……。

 

……。

 

 ガチャッ。

 

「ふぅ、さっぱりした。さてと、及川もうるさいしちゃっちゃと出かける準備をし……て───」

「……ふぇ?」

 

 ………………思考が停止した。

 ……あれ? と首が傾ぐ。

 呆然としながら、視界の先の……服を脱ぎかけていた誰かさんを見やった。

 ああいや、正しく言えば脱がされていたというか、なんというか。

 ……その服にはシミらしきものがついていて、お茶かなんかをこぼしたか、他の誰かがつけてしまったのだろう、洗うために脱いでいたらしい…………まあその、信じられないんだが……

 

「え……りゅ、劉備、さん? え? あれ!? え、なんで日本に───」

「……! ……!」

 

 声をかけるも、侍女二人にお召し物の替えを用意してもらっていたらしい劉備さんは、顔を真っ赤に染めていき、口をパクパクと開けたり閉じたりして………………視線の先、なんとなく気に入ったから、シャワーを浴びたあともつけていたオーバーマンマスクな俺を見て───

 

「きゃぁああああーっ!!」

 

 爆発した。

 

「えぁあっ!? ななななんだか知らないけどごめんっ!!」

 

 慌てて部屋から飛び出て、後ろ手に扉を閉めて一息……つくと、更衣室だったはずのそこが、今の自分じゃ見慣れていない通路に変貌していた。

 あれ? と再び首を傾げるが、この雰囲気、この空気、この建物、この色このツヤ、そしてこのコク……! いやコクは関係ないけど。

 

「───……!!」

 

 ようやく、頭が現在と現実と状況への理解に到達する。

 理解したんだ。自分が今何処に立っているのかを。

 …………そう、ようやく理解した。

 

「桃香様!? 桃香様ぁっ!! 今の悲鳴は───なにっ!?」

「あ」

 

 ……自分が、蜀の王の着替えを偶然とはいえ覗いてしまったことを。

 走ったままの勢いで滑りこんできた関羽を前に、外国人スマイルを(マスクの所為で強制的に)浮かべた俺は、フランチェスカの制服と剣道着が入ったスポーツバッグ(黒檀木刀も差さってる)を手に、着替えた私服の状態で慌てるほかないわけで。

 ええ……っと。とりあえず挨拶は必要だよね。

 

「Yes! We! Can!!」

「くせものぉおおおおっ!!」

「キャーッ!?」

 

 喋った途端にくせもの扱いだった。

 というかそもそも挨拶ではありませんでしたすいません。

 裂帛の気合を真正面からブチ当てられた俺は、思わず女の子のような悲鳴をあげて逃げ出し、戻ってこれたことへの感動もブチ壊しなままに走り続けた。

 

 

 

-_-/魏

 

 主催者が曹操なのか劉備なのか実はわからないままの立食ぱあていの最中。

 そこへの賊侵入の報せは、この数だ、あっという間に広まった。

 

「なにぃ!? 賊が侵入した!?」

「それは本当なのか、流琉」

 

 話を耳にし、大慌てで春蘭秋蘭のもとへ駆けつけた季衣と流琉は、聞いてきたこと全てをそのまま聞かせる。

 当然いい顔をする者など居るはずもなく、二人はあからさまに機嫌を悪くした。

 

「今は愛紗さんと思春さんが追っているそうなんですが……!」

「やれやれ、こんな日に侵入なんてついてませんねー、その賊さんも」

「風の言う通りです。三国の武将のほぼ全てが集まる今日というこの日に、よりにもよってこの城に侵入するなど」

「捕まえたら稟ちゃんの命令の下、きっととんでもない罰がくだされますよー」

「当然です」

 

 そしてその機嫌の悪さは、その後ろからやってきた二人も同様だった。

 

「それで季衣、その賊というのはどんなやつなんだ?」

「はい春蘭様。なんかずっとにこにこしてるへんなやつです」

「…………笑ってるのか?」

「はい、笑ってましたよ? ねー流琉」

「はい、笑ってました。……あ、ほら、丁度あんな感じの……」

 

 流琉に促されるままに春蘭と秋蘭が視線を向ければ、凪と思春と明命に追われている……変わった服装の男。

 確かに慌てているようなのだが、その顔は危機的状況においても笑顔のままであり、その眩しさは(かげ)ることを知らない。

 

「ちょ、ちょたっ……たんまっ! うわっ! ちょまっ……! 今これ外すか───うわなんだこれ! 湯気と汗でしっとりフィットして取れない! た、たすけてパーマーン!!」

 

 よくわからない言葉を叫んでは、しかし追って放たれる攻撃を巧みに躱し、宴の席である中庭を駆け抜けていった。

 

「……あれが侵入者か?」

「みたいですね……」

「うむ……しかしあの三人に追われて、それでも逃げていられるとはなかなか……」

「でもあのおっちゃんおかしな格好だったねー」

 

 そう、見たこともない格好だった。

 しかし最近は国も豊かになり、華琳や沙和の案もあって、服の意匠もいろいろと凝ったものが出されている。

 ならばあれは自分達の知らない新しい服なのかもしれない、と軽く流すことにした。

 

「姉者、行かないのか?」

「ああっ、華琳様がここに居ろと(おっしゃ)ったからなっ」

「……? 華琳様はどちらに?」

「はい秋蘭様、なんでもお酒を飲みたい場所があるとかで、一人森の奥へと」

「なにっ!? 聞いていないぞそんなこと!」

「姉者が訊こうともしなかったんだろう?」

「うむ! 華琳様はここに居ろとだけ仰ったからな!」

「…………」

「………」

「………」

「…………」

「な、なんだ? どうしてそんな目で見るんだ?」

 

 少しだけ哀れみの空気が流れた。

 そんな中で風が歩を進め、とことこと歩きだす。

 

「風?」

「風も少し静かなところに行きたいので、外しますねー」

「ぬ? 何処に行くんだ?」

『おうおうねーちゃん、それは訊くだけ野暮ってもんだぜー』

「…………なあ秋蘭。私は野暮なのか?」

「姉者はかわいいなぁ」

 

 賊の侵入があったというのに、平和なものだった。

 それは仲間たちの能力を信じての暢気(のんき)だったから、誰も責めるはずもなく……宴は、変わらず続いていた。

 

 

 

-_-/一刀

 

「まっ! 待て待てっ! 待てって言ってるのにーっ!!」

 

 拳や蹴りを木刀で逸らし、散々と逃げ回った現在。

 ふと気づけば城壁を背にして、目の前には凪、といった状況が完成していた。

 オーバーマンマスクを取れば一発で止むであろう攻撃も、こうして向かい合っているからこそ気を抜けない状況にあるわけで。

 それこそオーバーマンマスクに手を伸ばそうものなら、凪の一撃であっさり昇天である。

 甘寧と周泰の姿は途中から見なくなった。

 恐らく先回りをして、別の方向を封殺しているんだろう。

 つまり、逃げるなら凪をなんとかして、来た道を戻らなければ……あの、神様? これはなんという名前の試練でしょうか。

 過去に打ち勝てという試練と、俺は受け取らなければいけないんでしょうか。

 

「っ……はぁあああああああっ!!!」

「───!」

 

 待て凪、と言いたいところだが、オーバーマンマスクな俺が真名を呼ぼうものならそれこそ瞬殺されかねない。

 ならばまずはなんとしてもオーバーマンマスクを取らなければならないんだが、取りたくても取れない状況にあるのだから……仕方ないね。

 

「はぁっ───!!」

 

 放たれる、左右の拳の連撃からの連続回し蹴り。

 それらを黒檀木刀や身捌きでいなし、力を殺してゆく。

 こちらの無力化が狙いなのか、殺す気でこないだけ大助かりだ。

 

「何者だ貴様……! ただの賊ではないな……!?」

 

 ここで北郷一刀だ、と言ったら信じてくれるだろうか。

 ……いや、なんか信じてくれない気がする。

 それどころか“隊長を侮辱するなぁあああ!!”とか怒号を高鳴らしそうな気が……それはそれで嬉しいけど素直に喜べない。

 

「いや……貴様の目的がどうであれ、隊長が託してくださった警備隊の名にかけ、賊の勝手を許すわけにはいかない!」

「……!」

 

 不覚にもグッときてしまった。

 思わず手を伸ばし、抱き締めたくなるほどに。

 しかし……やはりこのオーバーマンマスクがそれを許してはくれなかった。

 

「……くそ、歯痒いなぁ……!」

 

 こんな嬉しいことを言ってくれた凪と戦わなければいけないアホな状況に、頭を掻き毟りたくなる。

 及川……とりあえずとても素晴らしいプレゼントをありがとう。オーバーマンには罪はないけど、あとで八つ裂きにさせてもらうよ。

 

「……すぅ…………ふっ!」

 

 息を吸い、丹田に力を込める。

 意識を集中させ、黒檀木刀を正眼に構え、いつでも動けるように相手を凝視して。

 ……これで顔がオーバーマンじゃあなければ、もっとサマになっていたんだろうけど。

 

「だぁあっ!!」

「───」

 

 凪が気合いとともに、篭手に包まれた右拳を突き出すのを半歩横に動くことで躱す。

 反撃───いや。次いで即座に振るわれた左拳を、木刀の腹で己の身を逃がすように逸らし、場を入れ替えるように足を捌き、凪の後方へ。

 結果的に背後を取ったが、反撃には───移れなかった。

 気迫が消えていない……そう感じた途端に振るわれた振り向きざまの上段蹴りが、まさに風を斬るように俺の鼻を掠めていったのだ。

 反撃をしようものなら、左頬が大変なことになっていただろう。

 だがここに隙は生じた。

 最高の一撃を決めるつもりだったのだろう、大振りだった蹴りを外した凪は体勢を立て直すのに多少の時間を要し、俺は今こそ───……踵を返して逃走した。

 

「なっ───!? ま、待て貴様!!」

 

 勇敢に戦わないのかって? 冗談じゃない、俺はここに戦うために戻ってきたんじゃない。

 味方と戦うためにこの一年を費やしてきたんじゃない。

 

(今はとにかく、このオーバーマンをなんとかしないと……!)

 

 フィットしすぎてて、走りながらでは取れそうもなかった。

 それにしても凪相手に、鞄を引っ掻けながらよく戦えたなぁと感心する。

 殺す気で来なかったからだといえばそこまでだろうが。

 

 

───……。

 

 

 そうして走って走って…………森を抜け、辿り着いたのは川のほとり。

 さらさらと流れる川を前に、呼吸困難になりながらもとりあえずは追手がないことを確認して、自由になった両手でオーバーマンマスクをバリベリと力任せに引き剥がす。

 

「ぶはっ……! は、はぁっ! はぁっ……!!」

 

 マスクをつけながら走るのは、ちょっとした地獄だったといえる。

 それでも逃げきれた自分に拍手。ありがとう修行。ありがとうおじいちゃん。及川、お前はいつか殴る。

 

「はぁ……」

 

 息切れによる疲労はそう長くは続かず、ふぅ、と長く息を吐いて、吸ったあとは普通に戻っていた。

 そうしてから改めて、自分の服が汗まみれだという事実に気づく。

 鍛えて代謝能力が上がったからだろうか、そう臭くはない汗をかいた俺は、目の前の川を見て思案。

 

「……まあ、久しぶりに会うのに汗まみれっていうのも……なぁ」

 

 決定だった。

 バッグを地面に置くと私服を脱ぎ捨て、どうせならここで洗ってしまおう、と剣道着と私服を手に川へ。

 ひんやりとした冷たさと、どこか懐かしい匂いが胸一杯に広がる気分だ。

 

「………………帰って…………これたんだよな」

 

 しみじみと言う。……まあその、裸で。

 一応腰に汗拭き用のタオルを巻いてはいるが、そんなもの、濡れてしまえば大して意味をなさない。

 それでも巻くのは……ほら、やっぱり隠したいじゃないか。

 

「……うん」

 

 剣道着と私服を洗い、汗も流したところで川から出て、よく絞った衣服を岩肌に貼り付けるように置いたり、木に掛けるなりして乾かす。

 俺自身は代えの下着と……フランチェスカの制服を着て、川の水面に映る自身を見て、深く頷く。

 これでこそ帰ってきた、と胸を張れる……そんな気がしたのだ。

 自然と笑みがこぼれるのも仕方ない。

 

「ははっ……なんて締まりのない顔してんだよ、まったく」

 

 ……水面に映る自分の笑顔を笑い飛ばして、草むらに身を預けた。

 服が乾くまではこうしていようか。

 早くみんなに会いたい……けど、覗きは僕でしたとか帰って早々死にかけたとか、そんな感想言いたくないし。

 

「…………しまった。木刀だけでバレバレだ」

 

 溜め息と同時に、あっちゃあ……と自分の手が視界を覆うことを止めることなど出来なかった。

 

「………」

 

 服が乾くには時間がかかる。

 ……ええい寝てしまえ、寝て起きればいいことあるさ。

 

 

───……。

 

 

 …………ぺろり。

 ……ぺたぺた。

 ………………ふにふに………… 

 

(…………?)

 

 どれくらい眠っていたのだろう。

 ふと意識が浮上すると、顔や体を触られている感触。

 目を開けるでもなく、んん……と身じろぎしてみると、触れられる感触が止まる。

 が…………少しして、またぺたぺたぺろぺろ。

 頬をくすぐられて、くすぐったくて、なんだか体が心地よい重さを感じている気がして……あれ? なんか前にもこんなことがあったような……。

 

(…………ああ)

 

 なんとなく解った。

 もしこのあとに“にゃーん”とか鳴いてくれたら、俺は迷わず抱き締めるのだろう。

 むしろそう続けてほしいと願っている自分が居た。

 ………………果たして、その願いは───

 

「わふっ」

 

 …………犬の鳴き声にて、ゴシャーアアと崩れ去った。

 

「っ!?」

 

 慌てて目を開けて自分の胸の上を見やれば、なんのことはない……赤い布を首に巻いた犬が、きょとんとした顔で俺を見つめていた。

 次いで、まだ幼い肉球で頬をペタペタ。それが終わるとペロペロと舐めてくる。

 

「…………えぇ…………っと…………」

 

 俺の期待を返してください。

 なんて願っても仕方のないこと……とはいえ、がっくり来たのは確かで。

 

「あぁああ……もう…………」

 

 よく解らないけど尻尾を振っている犬の頭から背中にかけてを撫でさすり、持ち上げていた首を再び寝かせると同時に溜め息が出た。

 

「日向ぼっこは好きかー……?」

「わふっ」

「そっかそっかー…………」

 

 ……なにも言うまい。

 一気に気が抜けた俺は、そのまま目を閉じると再び眠りについた。

 すぐにみんなに会いたい気持ちはあるが、慌しいながらもみんなを見ることは出来た。

 焦ることはないだろう……ここに居る理由がなんであれ、きっと自分は必要とされたからここに居るのだろうから。

 

 


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