彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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遅れまして、ねんねんころりです。
戦闘メインが続きますが、最後にはハッピーな終わりが良いと思って後半部分を書き直しました。

稚拙な文、唐突な場面転換、御都合主義、厨二マインド全開でお送りしています。

それでも読んで下さる方、ゆっくりしていってね。


第二章 弐 いつか咲く花の為に

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

「アッハハハハハハハーーー!!」

 

耳朶を揺らすのは少女の笑い声と爆音の波だった。

彼女の持つ日傘と身体を起点に破壊が形となって降り注ぐ。弾幕と似た性質のそれ等は一つ一つに規格外の妖力を秘めていた。

 

空間を絶えず唸らせる程の魔弾の雨は、数えただけでも千を超えてからは幾つ放たれたのか分からない。

 

「そうら! 弾幕だけじゃ終わらないわよッ!!」

 

彼女の展開した魔方陣は中空へ留まり、自動式で彼女の操作無しでも妖力を媒介に魔弾を放つ仕組みだ。時に光線を、時に包囲する網目の様に変化が加えられ、遠距離を埋められた私は至近距離での継戦を余儀なくされる。

 

「腕力も、速度も申し分ない。組み立ては荒いが動きに無理がない…流石だ」

 

「これでも大妖怪、らしいから。これくらいはね!」

 

彼女は我流なのだろうが…其処には体幹を意識した無駄の無い突き、蹴り、得物による間合いの調整と追撃といった一つの流れが有った。

 

妖力や肉体の強さだけではない…実戦で研磨された独自の型が有り、法則が有り、それらは千変万化の様相で次々と繰り出される。

 

「ーー! うむ…今のは少し焦ったぞ」

 

「フン、汗ひとつかいてない癖に!!」

 

突きを受ければ衝撃が伝わり、蹴りを捌けば鋭さに重みが上乗せされ、攻守の入れ替わらない現状は正に拮抗していた。

 

尤もそれは、私が全てにおいて受ける側だからなのだが。

攻め続ける彼女もまた、息一つ乱していない。

 

「驚いたわ…貴方、一体なんなのよ? 天狗の新聞には詳細不明の妖怪としか書いてなかった。貴方と同じ気配を何度か感じていたけど…異質ね」

 

なるほど、彼女程の実力をして私は異質と評されるのか。

恐らく紫と同等、能力が絡めば分からないが、単一の妖怪としては間違いなく最高峰である花の少女は、鋭い視線と言葉を投げかけてくる。

 

「私はただの逸れ者だ。ただーー」

 

姿勢を低く、蛇がのたうつ様な軌跡を描いて距離を詰める。これまでの彼女が見せた速さより一段上の機動を設定して肉薄し、寸でで受けられる程度の蹴りを放つ。

 

「がっ…!?」

 

受け止めきれず、得物越しの少女は嗚咽を漏らしながら後退った。両手に痺れが残っているのか、震えた手をだらりと垂らして得物も落としてしまった。

 

「な、なによこれ…手が震えてる? 私が?」

 

力が入らない手で、無理に拳を握ろうとする度彼女は驚愕を露わにした。

 

妖怪の体構造は、人型であるにしても人間とは似て非なるモノだ…彼女に見舞った蹴りの威力は、初撃で振るわれた日傘と同程度。

 

自分と拮抗する者の蹴り一つで彼女が狼狽しているのには、実は仕掛けが有る。

 

「なにを…私の手になにをしたッ!?」

 

美しい花の主人は、初めて怒り叫ぶ姿を私に見せた。

痛みだけではない…痺れだけではない。その手に刻まれたモノの正体はーー、

 

「何も…強いて言うならば、今君の手には妖力が通っていないだけだ」

 

「馬鹿げてる…! 私を誰だと思っているの、能力か何か知らないけど…ただの蹴りで、こんな!」

 

彼女は動かぬ手の代わりに足を使い、目一杯跳躍して飛び蹴りを敢行した。

 

「止めておけ」

 

「くっ…! 足から、力が…またなの!?」

 

必死に見舞った蹴りも難なく受け止められ、膝から崩れそうになる身体に更なる負担が掛かる。それでも意地か憤怒故か、膝が笑うのも構わず彼女は立っていた。

 

最早弾幕を維持する妖力も奪われ、静寂の世界には二人だけが其処に在る。

 

仕掛けとは、単純な事だ…彼女の肘と膝から下は妖力を奪われている。関節が力無く、手足が、骨が、筋肉が…満足に動かないのは力の源を断たれたからに他ならない。

 

「では聞くが、君は私を誰だと思っているのだ?」

 

「なんですって…!」

 

彼女は大きな思い違いをしている。

先にも感じていた事だが、私と彼女では存在の根本から違う。私は妖怪ではないし、ましてや人間でもない。

 

私は竜だ…それも極めて悪辣な部類の。

彼女は侮り過ぎた。楽しみ過ぎた。相手をただ骨のある強敵に過ぎないと注意を怠った。それが、私の意思無くば指一つ動かなくなった己の有り様だ。

 

「まさか、私の妖力を喰ったと言うの?」

 

「慧眼だ…端からその洞察力が有ったなら、今迄私が受けに徹していた理由も早めに気付けた事だろう」

 

そして私は、また一つ力の封を解いた。

この深淵だけが広がる場所なら、三割までなら易々と受け入れてくれる。

 

「ーーっ、こんなの…知らない。こんな力…!!」

 

「重ねて問おう…君こそ、私を誰だと思っている? だから腕が動かない程度で狼狽える羽目になる。必要なら手足を捥いでから生やせ、妖力を奪われたならまた創り出せ」

 

「なにを…言ってるのよ」

 

「君が戦うと決めた相手は、そういう類のモノだ。紫や藍には悪いが、妖怪が油断したまま勝てる程、私という闇は浅くは無い」

 

私は、拮抗していたとはいえ防戦一方だった。

距離を詰められ、願うべくもない方法で戦うことを強いられた。

 

私の身体に触れるほど、四肢からは妖力が生皮を剥ぐ様に乖離していく事に気付かずに。得物が有った分、足を多用しなかったのは幸運だろう…だからこそ立っていられる。

 

「私が、貴方を同格に見ていたことが誤りだったと…」

 

これがフランドールの様に手足を振り回すだけだったなら、彼女は今頃地に伏していた。大妖怪、最高峰…その評価に間違いは無い。

 

だが、それは楽園に限った話ではないか。

私の様に何かの間違いで産まれた存在が幻想郷に来るわけが無いと、どうして言い切れる。

 

「いやーーそれは違う」

 

「何が違うのよ! 貴方を侮った私が無様を晒した、それが全てじゃない…! 私はまだ戦えたんだ…!! やっと、やっと見つけた相手をーー」

 

美しい花の主は悔しげに目を伏せ、続く言葉を飲み込む事しかしなかった。

彼女は、彼女は二つ思い違いをしている。

 

私は初めから彼女の驕りを咎めるつもりも、このまま終わらせる気も無いというのに。

 

「最初に言った筈だ」

 

「………」

 

「私は、君の願いを心ゆくまで叶えよう…と」

 

「…え?」

 

彼女は心踊る強敵との闘争を望んでいた。

ならば、まだ終わりではない。

彼女諸共この領域から再び転移し、色鮮やかな花の丘へと連れ戻した。

 

「出来るのだろう? 君は大地から、自然の力を吸い上げ操れる筈だ…さあ、花にも勝る美々しき者よ。この私に、大いなる再誕の唄を聞かせてくれ」

 

「ーーーー、褒め過ぎよ。でも、良いわ…認めてあげる」

 

彼女は緩やかに両の手を地に浸けて、内に秘められた力の全てを曝け出した。

 

背には極光を纏う翼、彼女の美しさと恐れの象徴が姿を現した。三対六枚の緑の羽根は、彼女が元はどんな存在であったかを如実に語っていた。

 

「…君はやはり」

 

君は、そうなのだな。

自然と共に在る者、其処から生まれ落ち…自然の有る限り保たれる命。即ちーーーー《妖精》。

長い時が…多くの季節が流れ去り、尚生き続け力を蓄えた。最期にはその枠組みから脱し、花の主という一個の妖怪と成った存在。

 

「本当の私を見つけてくれた貴方には…最後まで付き合って貰うわよ。ねえ? 暗がりに棲む銀のヒト」

 

私に柔らかな声で語る彼女の顔は、眩しい陽射しよりも輝いている。この焦がれる程の輝きに、私は礼を尽くして応えなくてはならない。

 

「ああ…良いとも。君と出逢えた幸運に、必ず応えよう」

 

激突の瞬間は…空気の壁を突き抜け、風と衝撃に舞い散る花びらが伝えてくれた。

嬉々とした彼女の、剣よりも鋭い爪。

あどけない笑顔の、爆撃じみた拳。

必勝を誓う意気の、嵐にも似た蹴り。

 

それらは例外なく私を捉え身を穿って行く。

私は彼女に殴られれば同じだけ殴り返し、蹴られれば同じだけ踏み付けた。

 

「ぐっ! うふふ…あはははははははーーっ!!」

 

「く…クク、フハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

お互いが太陽の畑を憂うように空へと上がり、お互いが高らかに笑う。深緑の太陽と深淵の銀が一挙手一投足を弾き合い、返しざまにまたぶつかってを繰り返す。

 

私が彼女の妖力を奪えば、彼女は大地から力を吸い上げ再起する。永遠に等しい刹那の時を…私は彼女と共に駆け抜けている。

 

深緑の六枚羽から無数の光線が撃ち出され、身体から溢れ出す銀の奔流がそれらを喰らう。口元から血を滲ませ、軋む骨と肉を叩き、視線で喜びを訴えた。

 

「楽しいわ! 本当に楽しい!! 貴方に…貴方にずっと逢いたかったーーッ!!」

 

「私も、久し振りに浮かれている。もっとだ、もっと私に君を感じさせてくれ…ッ!!」

 

この時ばかりは、空の頂は私達の独壇場だった。

超高高度に浮かぶ雲は戦いの余波に引き裂かれ、青々とした景色が二人を讃えるように陽の光で照らす。

 

互いを幾度も打ち据え、想いを交わした歓喜の闘争は、しかしながら…間も無く終わりの時を迎えようとしていた。

 

「はぁ…! はぁ…これが、有りっ丈の一撃よ…!」

 

「来いーー私は力尽きるまで、君と踊り続けよう」

 

吹き飛ばされて離れてしまった距離…彼女は突き放す様に右手を、私は左手で掴み取らんばかりに掌を翳す。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー《月に叢雲、華に風》ーーーー!!!!」

 

「ーーーー《負極(ふきょく)燐光(りんこう)》ーーーー」

 

 

 

 

 

美しい花に風が吹けば、そのものの鮮やかさを損なってしまう。夜空の月を不穏な雲が隠せば、闇の中の導を失う。至上の時、素晴らしい出来事は長続きしないとはよく言ったものだ。

 

彼女が放つ極大の光線は、当たれば楽園諸共砕きかねない威力を伴っている。終わらせるのが惜しいと心から思う。

 

だが…これ以上は彼女が保たない。天を衝く勢いを物語る渾身の技は、夕暮れ時を影が塗り潰す様に私の放った銀の波濤に飲み込まれて行く。

 

「これでも…届かないのね。届かないのに」

 

凛々しく温かみの篭った少女の声は、悔いなど微塵も感じさせない満ち足りたものだった。

 

「凄くーー気分が良いわ」

 

精魂尽き果て、翼の掻き消えた少女は落下して行く。

私は浮遊する体を即座に降下させ、彼女を優しく抱き止めた。見た目に違わず軽い花の主は、意識こそ残っていたが…暫くは身動き出来ないものと考えて抱えておく事にした。

 

「ぁ…どう、して」

 

「君との戦い、実に楽しかった。今はまだ…このまま休んでいると良い」

 

「ええ…抱えられるなんて初めてだけどーー不思議と、悪くないわ」

 

その言葉を幕切れに、彼女は静かに寝息を立て始める。

ゆっくりと…起こさぬように注意を払って、丘の上の家まで続くなだらかな道を歩き出した。

 

 

 

 

 

♦︎ ??? ♦︎

 

 

 

 

 

私は揺りかごの中の赤子に似た感覚を覚えながら、自分が夢を見ているという朧げな認識を持っていた。

 

温かく、心地良い深淵に身を委ねている。

そして夢の中の光景は…私の身体を包み込む温もりとは打って変わって、酷く物悲しかった。

 

「何故だ…何故私を、我を裏切る?」

 

夢の中で聞こえる声には憶えがあったけど.私の知る声の主とは姿形が全く違っていた。

 

鎧と皮膚が混ざった様な異質な身体。

鋭く禍々しい圧倒的な存在感に、美しいという矛盾した感想を抱いていた。

 

「人も、人ならざる者たちも皆我を恐れ、我が力に媚び働い最後には裏切られた」

 

太い血管の様な器官が翼、胸、手足、首筋に奔った黒い竜。全身から立ち上る銀光は力の証か、深い闇の中でただ一つ…その竜だけが確かな存在で。夢として見ている自分が、記憶には無い何かを覗いていると分かってしまう。

 

「負を、深淵に係るあらゆるモノを我が与えたというのに…背後から弓引かれた」

 

声は段々と冷たく、暗く落ち込んでいる。

その竜は涙一つ流していないのに…怒りより、憎しみより、哀しみだけを湛えていた。

 

悲しまないで、泣かないでと…無関係な筈の私が声を荒げそうになる。

 

「だがーー」

 

それでも黒い竜は諦めていなかった。

多くの時代を幾度となく下衆な連中に利用されながら、望む者の為、救いを求めるナニカの為に力を振るう。

 

正義の味方を気取りたい訳じゃ無かった。

ただ、深淵にすら縋り付く救い無き命の為にと。

 

【殺せ! 人心を惑わす竜を殺せ!】

 

【追い出せ! ニンゲンが住処を荒らしに来たのはアイツのせいだ!】

 

【許すな! 奸佞邪智を弄する、あの黒竜を討て!】

 

そうして最後には…黒い竜は住んでいた世界の何処からも追い立てられ、流れ流れた深淵の領域で眠りに着いた。

 

「それでも我は…人間を、幻想を愛している」

 

彼は幻想を愛している。妖精も、妖怪も、神も悪魔も…彼の前では等しく無力で、愛おしい存在だったのに。

 

彼は人間を愛している。肌の色も、言葉の違いも、思想の違いも…彼の前では等しく正され、故に忌み嫌われた。

 

夢はそこで途切れてしまう。

温かい深淵の揺りかごから、馴染みのある寝台のような感触に切り替わる。

 

「今は眠れ…君には、我の記憶など目の毒だ」

 

夢の中にいる筈なのに…暗転する視界の真ん中に座す竜は、私に語り掛けていたような気がした。

 

 

 

 

 

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

 

「すぅ……すぅ」

 

彼女の家に辿り着き、非礼とは思いつつ屋内へと入った。

整理整頓され、生活を彩る家財と育てているらしい鉢植から生活の規則正しい事が窺える。

 

居間の先に寝室が有り、吹き抜けの間取りのお陰で直ぐに発見した。ベッドの上に彼女を横たえさせ、漸く一息つける時間が生み出される。

 

可愛らしい寝息とともに眠る花の主の寝顔は無垢で、起きている時の凛々しさとはまた違った愛嬌を見せる。

背丈は私より頭一つほど小さいが、健康的に発育した身体と長命な妖怪の発する強い生命力が更に魅力を引き立てていた。

 

一個の種として完成された元妖精。

そういえば、未だ名前も聞いていない…惜しい事をした。彼女が起きればあらぬ誤解と疑いによって再び吹き飛ばされるのだろうが、生憎と打ち倒した淑女を置いて逃げるなどという醜態を晒す気も無い。

 

「大人しく殴り飛ばされて終わるのが妥当、か」

 

幸いにも戦闘による疲れは皆無…頑丈過ぎるのも考えものだ。自分も疲れて眠ってしまったと言い訳も出来ない。

 

「…ん?」

 

不意に…彼女をベッドに寝かせた後、閉めた玄関の先、扉の向こうから新たな気配を察知した。

 

「ーーうーーーいのぉ?」

 

耳を峙てると、やはり玄関の外から声を発する者がいる。

恐らく今眠っている少女の知人だろう。

私は眠る彼女から踵を返し、声の主を確認するため扉を入り口の扉を開けた。

 

「あ! なんだ居るんじゃない! 頼まれてた調べ物…を……だれ??」

 

扉の前に立っていたのは、金髪に青い瞳の幼女だった。

赤いリボンを頭に結んだ幼女は、私を上から下までよく観察し終えた途端固まってしまった。

 

「アナタ…幽香の知り合い?」

 

「先ほど出逢ったばかりだが、そうか…彼女は幽香という名前なのか。教えてくれて助かった」

 

「どうしたしまして? って、そうじゃなくて! アナタ何なの!? この家は幽香の家よ! まさかーー泥棒!?」

 

泥棒扱いとは中々思い切った判断だが、強く否定しきれないのも事実だ。状況証拠にはこと欠かないのが悔やまれる。

 

「待つんだ。今、彼女は疲れて眠っている…此処は落ち着いて、静かに話し合おう」

 

私は道を開けて屋内へ促すと、彼女は怪訝な視線をそのままに居間へと歩いて行った。

 

強張った表情でテーブルに備えられた椅子に腰掛けた幼女に倣い、対面の椅子に自らも座る。

 

「で? 泥棒じゃないならアナタ誰なの? 幽香に変なことしようものなら毒殺するからね」

 

「恐ろしいな…それに、愛らしい見た目と違って用心深い。まずは自己紹介させて欲しい所だ」

 

彼女は憮然とした態度を崩さず、腕組みながら私の話を聞き始めた。

 

「私は九皐。此処には森を抜けてやって来たのだが、来た時は驚いた…あの花畑は実に美しい」

 

「当然よ! 幽香にお花の世話をさせたら世界一なんだから。私の鈴蘭畑も幽香に最初は手伝ってもらったの!」

 

なるほど…この幼女は、今眠っている幽香という少女と同じく植物を育てているのか。

 

得意げな顔で必要以上に情報を与えてくれるのは、まだまだ幼女が見た目相応に精神が幼いからだろう。

 

「鈴蘭か…確かその植物には、毒が有ったな」

 

「うん! でも私と幽香には関係ないわ! 私は《毒を操る程度の能力》があるし、幽香にも《花を操る程度の能力》があるから平気よ!」

 

彼女の、幽香の能力は花を操るのか…尤も、先ほどの戦闘を考えればそれ以上の力も有しているのは分かっている。

加えて眼前の幼女は毒を操るという…綺麗な花には棘があると言うが、二人は全くその通りの人物らしい。

 

「ちょっと…勝手に私のことまで話さないでよ、メディスン?」

 

談笑とまではいかないが、いつの間にか私が幼女の聞き役になっていれば、話題の当人が居間にゆらりとした足並みで現れた。

 

「幽香! 無事だったのね!?」

 

無事といえば無事だろうが、彼女…幽香は起き抜けの所為か芳しくない顔付きだった。

 

「目が覚めたか、失礼とは思ったが…寝室に運ばせて貰った」

 

「そう…余計な気を使わせたわね。メディスン? 悪いけど、この…あれ、まだ名前聞いてなかったわね」

 

「知り合いじゃないの!?」

 

「君は幽香という名前だったのだな。良い名だ…申し遅れたが、私は九皐という」

 

「こっちも!? なんなのよーーー」

 

「メディスン? 騒がないの。ほら、三人分のお茶を用意して頂戴?」

 

「ぶー…分かったわよぉ」

 

騒ぐ幼女、メディスンは幽香の頼みを聞いて近くの台所に走って行ってしまった。

 

「私が起きるまで、あの子の相手をしてくれたのね。喧しかったでしょう?」

 

「利発な子だ。発する気配や幼さの割に相手をよく見ている。将来は大物になるやも知れん」

 

率直な意見を述べると、幽香は朗らかな笑みで返した。

台所で湯を沸かすメディスンという幼女は、幽香にとって力の差や種族の違いを越えた繋がりが有るのだろう。

 

「あの子はね…人形の付喪神なのよ。外の人間に捨てられ忘れられた人形の周りに、偶然鈴蘭が植えられていて、付喪神として生まれ変わった時に毒を操る能力も手に入れた」

 

メディスンという付喪神の起源を語る幽香の面持ちは複雑なものだった。人の心を慰め孤独を埋める人形は、最後には飽きられ放逐された。誰の記憶からも居なくなり楽園に流れ着いたメディスンの過去とは、その力と種族に因んだ仄暗さを宿している。

 

「付喪神になって間もないあの子を偶然見つけて、放っておけなくてね。気付けば、住処の鈴蘭畑を世話した後は毎日のように来られているわ」

 

「……優しいのだな、君は。美しい花を咲かせられる者の心は、同様に美しいモノだと私は思う」

 

「さっきも言ったけど、褒め過ぎよ。ただの気紛れで、私の身勝手であの子を側に置いているだけ…人間があの子にした事と変わらないわ」

 

彼女は大妖怪に相応しく、聡明で強く美しいが…少しばかり視野の狭い考えを持っているらしい。

 

幽香の感慨など、それこそメディスンにとっては些細なものだ。扉の向こうで彼女を呼んでいたメディスンの声は弾んでいて、幽香に会った際の親愛が篭った笑顔はとても眩しかった。

 

「あの子は花だ」

 

「…どうしたの?」

 

「理由はどうあれ、あの子は楽園に落とされた一つの種子だ。付喪神として生まれ変わり、君の導きによって心安らかに彼女は蕾となった。今はまだ小さいが、幼いあの子も何れ大輪の花を咲かせるだろう…幽香ーーーー」

 

私の言葉は陳腐で、彼女にこの胸の内を全て伝えるのは難しい。だが、言わねばならない…二人の絆が永久に続く事を願い、それを何より尊いと感じているから。

 

「君とあの子の在り方こそが、この楽園で最も美しい。それは懸けがえのない…何にも代え難いモノだ。私は君とあの子に出逢えて、とても幸せだ」

 

「ちょ…!な、なによ急に!? そんな言い方じゃまるでーーーー!!」

 

「お茶淹れたよー! あれ? 幽香どうしたの? 顔が真っ赤だよ? ふふ…鬼灯みたいに真っ赤っか!」

 

お茶の入ったポットとカップを運んできたメディスンは無垢な笑顔で、心底楽しげに彼女を見ている。

揶揄われたと思った幽香は更に頬を紅潮させ、慌てて逃げ出すメディスンを追いかけ始める。

 

二人の表情は和かで、年の離れた姉妹のように睦まじく微笑ましい。

私は不器用な笑みを浮かべて、この景色に溶け込めるようにと…自らカップに茶を注いだ。





以上が二章の序といった感じです。
ゆうかりん可愛いよゆうかりん。
バトルマニアなのに、世話焼きでド親切な彼女を妄想して書きました。
完全に自己満足です。

次回も戦闘メインになる予定ですが、予定は未定です。行き当たりばったりで作っております。

長くなりましたが
読んで下さった方、誠にありがとうございます!

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