彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

7 / 55
早く纏めると言っていたのに、時間がかかって申し訳ありません。ねんねんころりです。
後編はほぼ登場人物たちの関係性を整理したので終わってしまいました。
まとめきれなかった部分もあるかもしれませんが、それでも読んでくださる方、ゆっくりしていってね。


第一章 終 紅い夜に 後編

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

霧雨魔理沙、フランドールの弾幕ごっこを見届けた後、改めてそれぞれが互いの名と持ち得る情報を教え合い、館の外へ出た。二人は飛行して先に行くと言っていたが、私が館外の座標を解析して転移してみせると暫し怪訝な表情で見られた。

 

そんなやり取りも束の間…上空から爆音と何かが打ち消しあう様に弾き合う音に気が付く。見上げると二つの影が競り合っているのを視認し、影の片割れが身体中から血を噴き出しながら落下していった。

 

「お姉様!?」

 

「おいおい!? もしかして遅かったのか!? なあフラン、吸血鬼の再生力なら大丈夫なんだよな!?」

 

魔理沙に問われるも、フランドールは悲痛な面持ちでレミリア嬢の落下する地点へ一目散に駆け出した。

 

「おねえさまぁぁああああああーーッ!!!」

 

堪らず叫び出す妹君は、躓きそうな身体を圧して致命傷の姉を受け止める。

 

「お姉様! 目を開けてよ! ねぇ、ねえ!?」

 

「うっ…! がぁ…っ!! フ、フラン…? どうして、お前が此処に」

 

一歩遅れて近寄ると、レミリアは意識こそあるものの満身創痍の状態だ。血塗れの身体もそうだが、右腕や片足といった部分が炭化して無くなってしまっている。

 

「ごめんなさい…フラン。お前に…お前にもう少しで、もう少しで、この幻想郷を…!」

 

「どうして…どうして傷が治らないの!? こんなの、お姉様なら直ぐにーーーー」

 

「騒ぐんじゃないわよ…身体中ボロボロで、血も足りなくて頭が痛いんだから」

 

レミリア以外の全員が新たな声の主を見つけると、同じく満身創痍と言って差し支えない状態の人間が立っていた。

この少女が、紫の話してくれた博麗の巫女本人なのは明らかだ。

 

紅白の装束だったものは所々切り裂かれ血に汚れ、彼女自身も傷と痛みを庇っているのが分かる。しかし彼女の語気は何処か穏やかで、レミリア嬢を見つめる視線は彼女を讃えている様な節さえ有った。

 

「あなたね…あなたがお姉様を…ッ!」

 

「そうよ? だからなに? お互いに手加減出来ない相手だったから二人して血みどろなんでしょうが。少しはこっちの事も労って欲しいくらいよ、ねえ魔理沙?」

 

「あ、ああ…そうなんだけどさ。此処までやられたお前を見るのは初めてだったから、思わず呆けちまったぜ。つかお前ら、その傷は命に関わるレベルだろ!? 」

 

霧雨魔理沙は回復や治癒の魔法は不得意なのか、手に灯した光も弱々しいものでしかない。

フランドールも真似てレミリア嬢に使ったのだが、やはり芳しくない結果に終わる。

 

「大丈夫よ、フラン…どんなに時間が掛かろうと、傷は治してみせる…ヴァンパイアは日光以外で死ぬ事など…うっーー!」

 

レミリア嬢の言葉は、この場にいる誰にも嘘だと悟られている。霊力は純粋で高濃度である程妖怪には毒だというのに、これほどの傷を負っても尚妹を気遣う彼女は…未だ死に体とは思えぬ毅然とした気迫を放っていた。

 

「そ、そうだ…パチュリーだ! コウ、さっきの転移だかでパチュリーを連れて来てくれ! 頼むよ!」

 

「大丈夫よ、もう連れてこられたわ」

 

「「パチュリー!!」」

 

フランドールと魔理沙の声が重なる。

図書館に座していた彼女を連れて来たのは正解だったらしい。どの道魔理沙が思い付いていたならば、結果は変わらなかっただろうと自分を納得させる。

 

「ちょっと…二人とも死にかけじゃないの!」

 

パチュリーの治癒の魔法は魔理沙のモノとは比較にならない量の光を手に灯し、フランドールの使用したモノより格段に洗練されていた。これならばもう心配は無い…魔法を掛けられたレミリア嬢と博麗霊夢の傷は驚異的な速度で塞がり、レミリア嬢の無くなった腕と足も生え始める。

 

「ふう…漸く楽になってきたわ。一応礼を言っておくわね、見知らぬ魔女さん」

 

「すまないわね、パチェ…もう大丈夫よ」

 

仰向けのまま妹君に抱えられていたレミリア嬢は蹌踉めきながら立ち上がり、それに合わせて博麗霊夢は彼女に向き直る。

 

「私の…負けだ。博麗の巫女」

 

「ええ、私の勝ちよ。でもそうね…あんたがもうちょっと卑怯な奴だったら、立場は変わってたかも。中々やるじゃない、吸血鬼」

 

博麗霊夢の言葉に、レミリア嬢は自嘲を湛えて静かに笑う。然もありなん、勝ったのは巫女の方だろうに…その言葉は余りに他人事の様に語られ、しかし自らも全霊を賭けたと確かに認めた物言いだった。

「遅れたけど…ようこそ幻想郷へ、吸血鬼とその愉快な使いっ走りども。あんたたちの来訪を、そこそこ歓迎するわ」

 

「誰が愉快な使いっ走りよ…人の魔法で傷治させといて」

 

「そうだそうだ! 今度は私がお姉様の仇を取ってやるんだから!」

 

「それよりもフランドール、お前の狂気はどうなった…?」

 

「あ! もう全然平気だよ! コウが取ってくれたの! あと、魔理沙との弾幕ごっこも楽しかったわ! それでねーーー」

 

レミリアの問いに、妹君は和かに答える。彼女は魔理沙との弾幕ごっこを通して、他者と触れ合うことへの恐れを克服した。それはレミリア嬢が思っていた以上の結果だったのか、彼女は瞳を潤ませて妹の話を聞いていた。

 

「そう…私の願いは、ただの傲慢だったのかもしれない……お前は既に、自分の力で乗り越える勇気を身に付けていたのね」

 

「レミリア嬢、それは違う」

 

だからこそ…レミリア嬢には答えてやらねばならない。

彼女が楽園を求め辿り着き、異変を起こしそれを手伝った者たちがいたからこそ、フランドールは狂気から解放され、自分で前に踏み出す勇気を手に入れたことを。

 

「君が楽園に来たからこそ、妹君は私と出逢い、魔理沙と出逢えた。君の想いは…決して間違いなどでは無かった」

 

「コウ…本当にありがとう。フランの狂気を取り除いてくれて…言葉では言い表せない位、貴方には感謝しているわ」

 

「何だかよくわからないけど、間違ってたわけじゃ無いんじゃない? 異変なんて、新参者がまた来れば起こるし。そいつらにも色々と事情はあるだろうし。その、つまり…負けてからうだうだ言うんじゃないってのよ!」

 

何故だろうか…博麗の巫女は最初はレミリア嬢を遠回しに励ましていた様な口振りだった筈だが、偉く強引に纏めてきた。

 

「分かっているわ。ええ、もう大丈夫…何だか深く考えるのが馬鹿らしくなってきたから」

 

その落差に、思わずレミリア嬢も破顔する。そこにはもう自嘲や葛藤は無く、どこか晴れ晴れとしたものが浮かんでいる。

 

「よし! そうと決まれば、やる事は一つ! 皆の傷が癒えたら、今回の異変に関わった奴ら全員で宴会だ!! 場所は博麗神社! 費用は今回の異変を起こした紅魔館持ちな!」

 

「おい其処の白黒、何を勝手な事をーー」

 

「良いこと言うわね魔理沙。美味い料理にお酒…一仕事終えた後のお酒は格別だわ…というわけで、宜しくね負け犬さん?」

 

「くっ…調子に乗りやがってこの巫女…!」

 

「良いじゃないお姉様! 宴会って凄く楽しいんでしょ? 私もやりたいなあ宴会!」

 

「フラン!? ぬ、ぬぬぬぬぬ…!」

 

「これは宴会で決まりかもね。レミィは昔から、フランドールのお願いを断れた事が無いのだから」

 

「パチェ!? くっ…これは、孤立無援か…!!」

 

突然の魔理沙の提案に、各々の反応は十人十色。

だが、きっと上手く行くだろう。異変は終わった。博麗霊夢は紫の話していた通り、最後には高潔な心根と寛大な処置で紅魔の皆に歩み寄ってくれた。

 

魔理沙の功績も実に大きい…私では成し得なかった、フランドールに自由を勝ち取る為の切っ掛けを与え、導いた末に彼女の心の光を目覚めさせてくれた。私からも、感謝の念に堪えない。

 

「コウ! 宴会だよ宴会! 私初めてだからワクワクするよ!」

 

「そうだな…楽しんで来ると良い」

 

「なに言ってんだよ? コウだって、私が来る前にフランの狂気だかを取っ払ったんだろ? もう充分関わってるじゃんか! 楽しく飲もうぜ!」

 

「しかし…私は紫にーー」

 

「あら? 私が何ですの? コウ様」

 

此処には居ない筈の人物の声が聞こえ、私の真横から聞こえた声の主を確かめる。

 

「……紫、事後処理というのはもう終わったのか?」

 

「勿論ですわ! 何よりコウ様が私の名前を呼んで下さいましたから、最優先で飛んで参った次第です!」

 

「そうか…君には度々気を遣わせている。紫、やはり君は容姿だけでなく、心まで美しいのだな」

 

「ふぇ!? そ、そそそんな…! イヤですわコウ様! そんな事言われたら私、何だか動悸が激しくなってしまいます!! も、もしかして…病気なのかしら!?」

 

私に満面の笑みで話かけ、今は顔を赤らめながら自問自答しだした紫を見た面々は、思い思いの感想を述べ合っていた。

 

「ねえ、紫どうしたのかしら…何かいつもより猫被りが凄すぎて気持ち悪いんだけど」

 

「きっとアレだ…コウに気に入られたくて自分を見失ったんだぜ」

 

「ねえ、パチェ…昼間にコウと一緒に来た時も薄々思っていたのだけど、八雲紫のコウに対するアレは何なのかしら? 私が会合の時に対面した奴とはまるで別人だ」

 

「まあ、本人が言う通りある種の病気ね。害のない病気だけど…きっと本人は気付いていないのね、あの様子だと」

 

「なんだろう…あの紫さんって妖怪のコウを見る目が危ない気がする。しかも鼻息荒いし」

 

紫は平静を欠いている為か聞こえていないようだが、各々の彼女への批評は惨憺たるものだった。彼女は賢者と呼ぶに相応しい知と力に加え、私の認識では相当の好人物なのだが。

 

「まあいいわ。私はそろそろ神社に帰るから、霧は今日中に消しときなさいよ? あと、宴会の日程決めたら咲夜でも寄越してちょうだい。ええっと」

 

「レミリア・スカーレットよ、博麗の巫女。そう言えば、まだ互いの名前も知らなかったわね…状況が状況だっただけに仕方のない事だけど」

 

「あっそ…それじゃあねレミリア。私にも霊夢って名前が有るから今度からはソレで頼むわーーーーまたね」

 

「ええ…またね、霊夢」

 

言うだけ言って、博麗霊夢は神社の方向へと飛び去ってしまう。名を告げられた当のレミリア嬢は、満更でもない表情で紅白の巫女を見送っていた。

 

「へへ…一件落着って感じだな! 私もそろそろ帰って寝るぜ、流石に疲れたからな! じゃ、またなパチュリー! 今度図書館に遊びに行くよ」

 

「いつでもいらっしゃい。序でに魔法の何たるかも教授してあげるわ。フランドールを助けてくれたお礼よ」

 

「おう! んで、またなフラン! 次に私と遊ぶ時までには、もう少し弾幕ごっこの勉強しとけよな!」

 

「なによー、引き分けた癖にー! でも…またね、魔理沙!! 次は絶対勝つんだから!!」

 

三人はそれぞれ暫しの別れを告げて、魔理沙は博麗霊夢とはまた別の方角へと飛んで行った。

 

「ふむ…何とも、美しい光景だな」

 

「そうですわね…人も妖怪も隔たりなく、別れを惜しみ未来を約束し合う。これが幻想郷の、有るべき姿だと思います」

 

紫の皆を見詰める視線は優しく、目の前の光景を愛おしく見守っていると分かる。だからこそ…あの時言えなかった言葉を一刻も早く伝えたかった。

 

「紫…私は君との約束を反故にしてしまった。中立の立場を逸脱し、紅魔の皆に肩入れする様な真似までした。君の管理者としての立場は充分に理解していたというのに…君の厚意を無碍にして。本当に、申し訳ない」

 

私は心から詫びていると示すため、目を伏せて深く頭を垂れた。彼女は今のどんな表情で、何を思うのだろうか。

推し量れない沈黙が、彼女の言葉で破られるのを静かに待った。

 

「コウ様…」

 

「…うむ」

 

「頭をお上げになって下さい。私も、落ち度が無かったと言えば嘘になります…貴方が私たちを慮って、身に宿る力を抑えてどれほど窮屈な思いをされていたか」

 

「違う、私の我儘を君が受け入れてくれたからだ。君に倣うべきであったというのに、それを無視して先走った…君に落ち度など、有る訳も無い」

 

「いいえコウ様。私は貴方の強大過ぎる力ばかりに気を取られ、本来のお優しい心を鑑みずに蔑ろにしたのです…私でも気付いておりますわ。人化するのは不可欠だったとしても、生来の性質を抑えるのは困難である事は…それは言うなれば、身体から絶えず発せられる熱を無理やり留めておくようなもの」

 

私は姿勢を正し、紫の顔を見据える。

眉間に皺を伴った面持ちはとても辛そうで、彼女は後悔しているようにも感じた。そこまで見抜いていたとは…私が我慢弱い所為で更に気を遣わせてしまった。全て私の未熟故に招いたことだ…だから君は、君は間違ってなどいない。

 

「身体で抑え続ける熱は、やがて痛みに変わります。無限に膨れ上がる力を押し込めた貴方の身体には、想像を絶する負担と痛みが襲っている筈。ですからコウ様」

 

駄目だ…そんな事をすれば、この楽園に余計な火種を生む事になる。彼女の考えを覚った私は反論しかけるも、彼女は私を手で制し二の句を許さなかった。

「お力を、また一つ箍を外して開放して下さいませ。そして私が、この楽園の遍く者に貴方の存在を知らしめます。大小問わず諍いは起きるでしょうが、貴方が傍観者ではなく真に幻想郷に受け入れられるには…それしかありません」

 

「私は、また君の優しさに甘えることになるのだな」

 

「構いません。むしろ、そうさせて下さいな…責任は、私が取ります」

 

「いや、紫。私にも、その責任を背負わせてくれ…ほんの少しでも良い。これは誓いだ…私は幻想郷に流れ着いた者として、いつでも君の力になろう。君が私にそうしてくれたように…だから紫ーーーーーーありがとう」

 

やっと伝えられた。

彼女は私を受け入れ、そしてまた今回も、私の浅慮を許してくれた。万感の想いがやっと形に出来た気がする。

 

私は紫の提案通り、私から漏れ出さぬよう抑え込んでいたモノの封を一つ外した。それは闇の性質を持つ銀光。

湧き出る私の力の象徴。それは目に見える以外の影響をすぐさま楽園に及ぼし、紫を含むこの場に残った者みな身震いしていた。

 

「す、凄まじい限りね…! 私の病気やフランの狂気を取り除く程の力を行使出来たのも頷けるわ。図書館で感知した時の比じゃない…!」

 

「不快では無いが、闇の気配が濃すぎるな…この時点で既に私では相手にならないと分かってしまう。コウには、是非紅魔に身を寄せて欲しいところだ」

 

「地下で狂気を取って貰った時のゾワゾワがずっと続いてる…! でも、何だか温かい」

 

紅魔館の皆は、私が力を使った時の当事者であり、居合わせたからか少しは耐性を得たらしい。段階としては二割程度だが、これまでの身を焼く様な感覚は今後無くなるだろう。

 

「これで…コウ様の発する力が今朝方に感じたモノと同じであると、幻想郷の名だたる人妖たちも気付いた事でしょう。私の伝手からコウ様の幻想入りを喧伝させ、コウ様には建前上独立した勢力として活動して頂きます。その活動内容はーー」

 

「楽園を巡業し、見聞を広めに来たとでもするか。 なるほどな…それは良い考えだ」

 

「チッ…八雲紫め、一時的とはいえコウをウチで預からせておいてその日に独立とは。これでは彼を紅魔に置けないじゃないの」

 

レミリア嬢は紫の方針に毒づくが、この場に彼女を残した上でこの話をしたのも想定の内の様だ。大異変を引き起こした紅魔館の主が私を認め、かつ博麗霊夢に敗れた事実が先立つ為に反目することも許さないといったところか。強かだが、賢者の采配としては申し分の無い内容だ…その前提が有ると分かるからこそ、レミリア嬢も紅魔には置けないと渋々納得してくれた。

 

「この際仕方ないわ。レミリア・スカーレットの名において、彼の幻想入りと独立の立会人となろう。彼は私たちにとって大恩有る人物よ、喧伝するならそれくらいは融通して頂戴、八雲紫」

 

「分かっていますわ。博麗の巫女に敗れはしても、貴女はこの幻想郷では間違いなく有力な存在ですもの…コウ様も、何かお困りのようでしたら紅魔館に訪れるのが良いでしょう」

 

「二人が証言してくれるのは、私からすれば大層な幸運だ。有り難く頼らせて貰う」

 

こうして、此度の赤い霧の異変は終わりを迎えた。

紆余曲折あったが、この異変に関わった者の数を思えば、妥当な落とし所と言えるだろう。

 

レミリア嬢は紫の承諾を得た後、赤い霧を一片残さず晴らしてから館へ戻った。私もフランドールやパチュリーに奨められて館に一泊する事になり、何とかその日の寝床を手に入れた。

 

館の正面玄関には、十六夜と美鈴がレミリア嬢の許で紅魔館の進退を見届けようとしていたらしいが、レミリア嬢が二人とも寝ている間に終わったと告げると心底残念そうな面持ちであった。

 

だが、それ以上に喜ばしい事実が二人には有る。

パチュリーの持病が治ったことと、妹君の狂気を私が取り除き、魔理沙との交流を経て自身の迷いすら克服したことだ。その報せに、従者であり家族として過ごして来た十六夜と美鈴が人目を憚らず号泣してしまう事態となる。

 

異変が終わり、日付が変わって外が寝静まっても…その日の紅魔館の喧騒は朝方まで続いた。妹君とパチュリーの快気を総出で喜び、レミリア嬢の奮戦を皆が讃える。異変の最中に起きた様々な出来事は、これからの紅魔の絆をより強固にするだろう…彼女らは家族の、友への、主人への想いを胸に戦い、一人も欠ける事なく再会を果たしたのだから。

 

 

 

 

 

 

「コウー! 宴会ってすっごく楽しいね! あれ? もしかして酔っちゃったの??」

 

「おーい! 何一人で物思いに耽ってんだよ! 宴会はまだ始まったばかりだぜ!?」

 

「ん? ああ…魔理沙と妹君か、すまないな。あの日の事を、思い出していてな」

 

そして、今日は皆が待ちに待った宴会当日。

歌え踊れの大騒ぎに紫が手配した上等な酒と料理の数々。勿論レミリア嬢はあの日の約束を守り、異変に関わった全員が楽しめるようにと費用の全額を紅魔館で負担した。

 

「コウ! 何をしているの? せっかく私たちが主催したのだから、存分に楽しみなさい!」

 

「そうだー! 飲めー! 騒げーっ!!」

 

「霊夢…貴女さっきからその調子だけど、次の日どうなっても知らないわよ?」

 

「まぁまぁ…咲夜さん、今日ばかりは無礼講ではありませんか。ほら、私たちも今日くらいは飲んで食べて楽しみましょうよ!」

 

続けて私を呼ぶのはレミリア嬢と博麗霊夢だ。

二人は出逢って日も浅いというのに、戦いを通して意気投合してしまったらしい。異常な盛り上がりを見せる主人と巫女を諌める十六夜だったが、美鈴にも勧められて結局は四人で飲み出している…他にも、異変に関わった者から全く見知らぬ者たちまで、神社の境内を埋め尽くさんばかりの人数が揃っていた。

 

「コウ様…今日という日を楽しまれるのは、やはり今日しか御座いません。さあ、私たちも飲みましょう?」

 

「ああ、そうだな。今行く」

 

私の色褪せる記憶の中に、決して変わらない輝きを放つ思い出が、一つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

 




ようやっと紅魔郷編が終わりましたね。
次回からは作品の時系列を無視してコウの楽園回りが始まります。
予定ではコウや新たな東方キャラクターのバトルがメインとなる予定です。

それでは、次話投稿めざして頑張りたいと思います。
読んでくださった方、誠にありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。