彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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長い長い間、お待たせいたしました。
ねんねんころりと申します。相も変わらず遅筆で稚拙な文章ですが、それでも続きを待っていて下さった方は、ゆっくりしていってね!


第九章 参 蠢く夜の輝ける城

♦︎ 博麗 霊夢 ♦︎

 

 

 

ある朝、紫が魔理沙と早苗を引き連れて神社に顔を出した。

このメンツで話す事といったら、世間話より異変絡みの話題の方が多いってものだ。案の定三人を茶の間に招いて紫の反応を待つと、訥々といつもの胡散臭い調子で喋り出した。

 

「異変ですわ。日時は今夜、場所は命蓮寺地下の洞窟広場…《夢殿大祀廟》と目されます」

 

「ユメドノダイシビョウ…って、なんだか大仰な名前の地下ですね?」

 

早苗がそう返すと、紫は右手の扇子を開いてひらひらと弄び始める。

 

「事実そうなのです。大仰にして荘厳。何とも奇妙な現象を引き起こしている異変の中枢なのですから」

 

「具体的には何が起こってるんだ? ちょっと前なら空が赤くなったり春が来なかったり、つい最近じゃ船に魔界ときたもんだ。そう何度も驚かないぜ?」

 

魔理沙の言葉に、紫は愉快そうに微笑んで続けた。

 

「この度は、その大祀廟に神霊が引き寄せられているみたいなの」

 

「神霊ですって…? ちょっと、それ間違いなく大事じゃない!」

 

神霊と聞いて思わず声を大にしてしまったが、紫はそれでも笑みを崩さず私を宥めながら遠くを見やっていた。こいつ…近頃は輪をかけて機嫌が良さそうだから、優しめに対応されると逆に不気味に感じてくるってのよ!

 

「まあまあ、話は最後まで聞きなさいな。神霊といっても、性質が近いだけのやたらとチャチな小心霊ばかりでね? もう笑っちゃうくらい一つ一つがしょっぱいのよ」

 

「ですが…異変なんですよね? 霊が集まるくらいなら、お墓や寺社でも珍しくないですけれど」

 

「ええ…間違いなくこれは異変よ。一つ一つは小さくとも、まともに数えていられない程に量が多いんですもの」

 

「数はどれくらいだ?」

 

魔理沙が尋ねると、紫は指を三本立てて心底面倒そうに私達の前に突き出して見せる。

 

「三本…三十くらいか?」

 

「いいえ。三百から数えるのをやめましたわ」

 

「さ、三百以上ですか!? 一体どうしてそんな数の霊が…」

 

「それを、私らに調べて来いってこと?」

 

二度三度と頷いて、肯定の意を示す幻想郷の賢者は途端に神妙な顔つきで私達に視線を合わさた。こういう時は、大概ロクでもない事態になってるから気をつけろってサインだったりする。

 

「コウさんは…」

 

早苗の問い掛けに、紫は何も答えなかった。まあ、当然よね。前回も異変を起こす側の手助けをして、尚且つ私達にはそれを解決しろってんだからおめおめと顔は出さないと思ってたけど。

 

「助っ人は期待出来ないみたいだぜ? 霊夢」

 

「あら、期待してたわけ? あんだけ扱かれてまだお爺ちゃん離れできないって言うなら屋敷に行ってみる?」

 

「冗談だろ! 助けてもらう度に異変中に修行とか試練だとか言われんのはもうゴメンだね!」

 

「私は…むしろそっちの方が」

 

うわ、本気なの早苗。この娘ったらコウの話になるといつも見境い無くなるんだから! 魔理沙も言ったけど、手伝って貰ったらその分後がキツくなるんだから勘弁して欲しいわよ!

 

「さて…行ってくれるのかしら? 三人とも」

 

「当たり前だろ!」

 

「はい! コウさんに笑われないように頑張って解決してみせます!」

 

「コウの事は兎も角…私も勿論行くわよ。新入りだってんなら、挨拶の一つもしてから異変起こせって文句言ってやりたいもの」

 

決まりとばかりに三人で意見が合った。今夜なら話が早いわ…ちゃっちゃと殴り込んで、さっさと退治して月見酒といきたいところね。

 

「承ったわ。それじゃあ三人とも、後は宜しくお願いね?」

 

自分の役目は終わったとばかりに、紫はそのままスキマを通って何処ぞへと消えていってしまった。まともに情報も残さないってことは、あいつにも詳しくは調べられなかったのか。それとも…

 

「まさか…既にあいつが絡んでるってんじゃないでしょうね?」

 

「どうだろなあ? ま、気にしても仕方ないって! 私らはいつも通りやるだけだからな!」

 

「何の話か分かりませんが、そうですね! 皆で異変解決、頑張りましょう!」

 

なーんか引っかかるのよねぇ。咲夜とか妖夢とか、他の連中も私らにだけ隠し事してるような空気だし…根拠はないけど。でも、私の勘は外した試しが無いから頭の片隅には置いておこう。

 

コウについて敢えて触れない紫、様子がおかしい周りの奴ら。そして…この異変にもきっと関わっている、あいつの動向とか。気にしたって仕方ないけれど…まず間違いなくコウも一枚噛んでるわね。紫との付き合いが長くて助かったわ。頭の片隅に置いておけば、いざという時に慌てずに済むんだから。

 

 

 

 

♦︎ ??? ♦︎

 

 

 

 

「太子様!」

 

「進捗の程はいかがですか?」

 

臣下二人の呼び掛けに応じて、集めた神霊を集めて生前の肉体へと転化し目の前に現れてみせる。そうすると、屠自古と布都は嬉々とした表情で此方を出迎えてくれた。

 

「おお! あと一息というところですな!」

 

「これも恙無く二人が事を勧めてくれたおかげです。青娥殿も、色々と手を回してくれたようですね?」

 

「はい。同盟を組みたい相手がいると聞いて、少しばかり不安になりましたが…この分なら彼奴の成果も馬鹿には出来ないかと」

 

昔からだが、屠自古の青娥への評価はあまり高くない。邪仙殿は奇癖があるせいで信用はされていないが、きっちりと手柄を立ててくれる良い導師様なのですがね。

 

「お召し物をどうぞ!」

 

「ありがとう。ふむ…?良い羽織ですね? 私の趣味にあっています」

 

「当然です。我々も、長い付き合いになります故」

 

仮の肉体とはいえ、服もまともに無いのでは締まらないと言われては仕方がない。屠自古や布都はこういった所に凄く気の利く臣下で助かります。

 

「それで、彼の御仁の調べはつきましたか?」

 

彼というのは、先日私達に同盟を申し出てきた九皐なる妖怪のことだ。青娥殿の推挙もあって良きに計らえなどと大仰に返したが、どうも気を悪くした様子もなく連れの非礼を諌めもしたらしい。屠自古が問いかけた事柄に対し、彼の返答がどことなく私に似ていた…と屠自古の心が伝わってくる。

 

「ご報告申し上げます。件の妖怪…九皐殿は種族は竜とのこと。周囲からの評価も高く、僅か数ヶ月で名実ともに幻想郷の顔役の一人となっているとか」

 

「ほう…竜ですか、人格的にも大層立派な方なのですね。しかし竜とは…これまたやけに強大な」

 

「太子様! 我からも報告します! 守矢神社なる教団の神々によれば、古の時代には確固たる覇者として君臨していたとか。どこまで本当かは存じませんが、あの力を見る限りはあながち嘘ではないかと!」

 

それについては私も知っている。

神をも恐れぬ、まさに絶対的強者。生まれながらにして竜…混沌の存在でありながら理知に富み、力は今もなお底が知れない。人と妖双方からも畏敬を抱かれるなどそう聞ける話ではない。二人とも、良い情報を持ち帰ってくれた。

 

続いて明かされた我々の起こす異変…その収束の方法についても二人から教えてもらう。敗北は必至だが、負け方によっては此方の要望はほぼ通るとみて間違いない。同盟相手がこちらより明らかに強者であるのに、無償というのは何故かと聞けば簡単な話であった。

 

楽園の掟さえ犯さなければ、妄りに敵を作って追い立てられることも無くなり、新たな勢力としての威さえ示せば永住も認められると。

 

「なるほど。敢えて敵の土俵で戦い、害意がないと伝われば良いわけですか…なんともはや」

 

都合の良い話に聞こえるものです。

従属も略奪も無く、かといって強要もしないとは。それは偏に、力ある者達が争わずに済むようにと手を尽くした今があってこそなのでしょうか。

 

外界では叶わなかった事が此処では実現できる。我等は人を超越せんと目論み、道半ばで復活の目を残したまま幾星霜を過ごした。それが起きてみれば安寧はすぐ目の前とは…なんと。

 

「良きかな。これこそ和を以って貴しと為すの理想そのものです」

 

「は…しかし」

 

渋面を湛えて、屠自古は口ごもった。

ふむ…? なるほどなるほど。そういう事ですか。

 

「心配は要りませんよ屠自古。此処に我々が在るということは、九皐殿には我々の価値を示せたということ。それで良いではないですか」

 

屠自古は、彼の御仁が我々と真に対等ではないことを懸念しているのだ。一定の信頼はあっても、それがいつ覆るか分からない。慎重な臣下は、この同盟がいつか反故にされ…走狗の如く煮られるのを恐れている。

 

「そう…思いたいのですが」

 

「良いですか屠自古。真の理と力を知る者は皆、誰しも無暗な支配は行わないものです。此処からでも聞こえますよ…彼を知る楽園の皆の声が」

 

 

 

 

 

『次はコウとどんな遊びをしようかなあ? お姉様はカッコつけてるから素直には言わないけど、毎日楽しみで仕方なさそうだし。私もコウを呼ぶ理由を一杯かんがえないと!』

 

『そろそろ、また派手な喧嘩でもして一花咲かせたいねぇ…。でもなあ…満足のいくやつといったらアイツしかいないだろうしどうしたもんか。今度萃香と組んで日が変わる毎に挑んでみるか? いやいや、それじゃあ四天王の名折れってもんだ…どうにかして上手く誘い出す方法を』

 

『最近幽香が退屈そうだわ…この前はウキウキで出かけていったけれど。私もお花の世話を一緒にしたいのに。ううん! 全然! 寂しくなんかないわ! その気になればいつでも会えるんだから!』

 

『お空の身体も調子が良くなってきましたね。こいしは次いつコウさんが地底に遊びに来るかばかり聞いてきますし。いえ、此方から屋敷の方へ伺えば良いのですけど…それじゃあ他の方達が良い顔をしないか。うーん…困りましたね』

 

『師匠がこの前も、九皐さんに逢いたいって呟いてたな…。近頃は薬売りや診療所が忙しいから、息抜きに休診日でも作っては? と提案したら凄いはしゃいでたし。これはまた他の勢力の人達と揉めそうな事態になってきました…この前の催しのせいで、ただでさえ会いに行けるのは週一で我慢しなきゃいけないのを、まさかこっちの都合で逢いに行けなくなってるんですから上手くいかないですね…頑張れ師匠! 春はそう遠くない筈です!』

 

『まったく下界のチビガキどもにも参るわね!私が一歩外へ出たら、やれ独楽遊びだの、メンコだの、忙しいったらないわ!』

『ふふ…しかし総領娘様、この前はその子らと一緒に足の悪いお爺さんを家まで荷物を運んで送ったじゃありませんか。お嫌いですか?』

『そ、そんなわけないでしょ!』

 

 

 

こんなに…暖かな心で満たされた声を聞くのはいつ以来だろうか。

虚飾や嫉妬のない声は、この聞こえすぎる耳にも心地よさを与えてくれる。理不尽な人の死に抗おうと人間を超越せんとした我々は、その実誰よりも人間への猜疑心に満ちてしまっていた。妖怪の中にもこれだけ暖かい声があるのに、人の世は幻想を暴くにつれて無垢な信仰や隣人への感謝を蔑ろにしてしまっていた。

 

「けれど…ここはそう捨てた物ではないみたいですよ、屠自古? 堂々と妖怪が人の町を練り歩き、人々もまた妖怪との共存を畏敬と親愛を共に新しい風を感じています。それが答えではありませんか? 彼の御仁たちが日々努力を重ねた結果でしょう」

 

「それは…分かってはいるのですが」

 

「太子様。我々も為せるでしょうか? 人をやめて尚、人と並び歩める場所を作ることが」

 

「支配…とはまた違うでしょうね。言うなれば互恵関係。ですが良いのです。結果としてより多くの声に歓びと安寧が宿るなら、手段は別になんでも良かったのですから」

 

だからこそ…この耳だけでなく目と心で確かめたい。彼らの作り上げた今が、その歴史を知らぬ我々の興りをどのように対処するのか。たとえ私達が敗れても…それは私達ではなし得なかった望みが別の形で果たされたという事。しかし、もし解決者が私達に挫かれようものなら。

 

「この私が…豊聡耳神子が、新たな秩序でもってこの幻想郷に安寧を齎しましょう」

 

私の言葉に布都と屠自古は強く頷き、私もまた確固たる意思を二人に示した。時は満ちた。異変解決者達も動き出した。後は、

 

「我らの踊る舞台の裏で、何処の誰が何を起こすのか。後半はしっかり見物させて頂きますよ? 九皐殿」

 

 

 

 

 

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

夜風の寒さが俄かに感じられるようになった季節。今宵、十六夜と妖夢を伴って、私達はとある森の奥深く…その真上に来ていた。

かねてより包囲網を敷いていた《鬼人正邪》の動向を紫が押さえ、その様子を向こうからは悟られない遥か上空から見ることにした。

 

「師よ、あれらがそうなのですか?」

 

「うむ…見たところ確かに名のある妖怪は非常に少ない。指揮をとっているのはごく少数。それに連なる者達はみな下級か、中級妖怪が精々と言って良いだろう」

 

「九皐様がよく転移に使われる孔が、妖怪達の集会場を囲んでおりますね。あちらの内容が筒抜けなのは良いのですが…よもや音まで具に拾えるとは思いませんでした」

 

なにしろ、今までそういう方法で用いた事は無かったからな。十六夜と妖夢が首を傾げるのも無理はない。さて、そろそろ此度の集会を開いた主役達が出てくるようだ。

眼下の妖怪達はわかり易く色めきだち、集会場として森に設けられた急増の壇上に登ってくる影を捉える。一人は黒髪に赤を混じらせた、小さな一対の角を生やした小柄な少女。此方が恐らく情報にあった鬼人正邪だろう。その肩に、二人目の更に小柄な…人の腕一つ分にも満たないような、お椀のごとき被り物をした小さな少女が座っていた。

その二人の更に背後には、他の妖怪達とは少しばかり気配の違う三名が控えており、前を歩く二人を眺めていた。

 

二人が壇上に上がり終えると、肩に乗ったお椀の少女が、鬼人正邪が恭しく傅きながら頭上に添えた手の上に更に登った。声が伝い聞こえてくる。

 

「皆みな、よくぞ集まってくれた! これで我らの会合は、都合六度目となる。何度も繰り返してきたが敢えて言おう、時は満ちた!! 弱き者、儚き者、小さき者と嘲笑われた私達は、ここに至るまで数々の艱難辛苦に耐えてきた!! だがそれも、今日この日を以て全てが決する!! 虐げられた我等の怒り、哀しみは…今宵喜びと勝利の栄光に変わるであろう!!」

 

「「「「オオオオオオオオーーーーーッッ!!」」」」

 

気迫と戦意に満ちた妖怪達が鬨の声を発する。すかさずお椀の少女は、腰に挿した針のようなモノを高らかに掲げた。

 

「我が名は《少名針妙丸》!! 汝らと共に夜を駆け、革命の夜明けを齎す者なりッ!!」

 

「シンミョウマル様!!」

 

「俺達の小さくも、偉大なる首魁よ!!」

 

「解放ヲ! 革命ヲッ!! 強きモノらに復讐をォッッ!!」

 

ある者は武器を手に取り天に、またある者は硬く握った拳を振り上げ、壇上の針妙丸と名乗る少女の勇ましさに応える。それを見て満足げに頷くと、鬼人の添えられた手から再び肩へと乗り換える。それを合図にしたように、鬼人正邪はゆっくりと立ち上がった。

 

「姫の御言葉、大変有り難く存じます。今日ここに皆が欠ける事なく集まったのも、偏に貴女様のお陰にございます。なあ…そうだろォ!? お前らァ!?」

 

皆を焚き付けるように鬼人が強く発する。それにも違わず、集った妖怪達は応えるように唸り声を響かせ、武器と足踏みで何度も地を震わせた。

 

「長かったよなぁ? 苦しかったよなァァ…だが! 私らの長い長い雌伏の時は漸く終わる!! そして始まるのさ! 弱者が強者を挫き、驕り昂る者らを根こそぎ振い落とし、幻想郷に新たな秩序が……革命の時代が、此処から幕開けるんだァッ!!」

 

「「「「ウォォオオオオオオオーーーーーッッッ!!! 針妙丸様、万歳!! 鬼人正邪、万歳ィィィッッ!!」」」」

 

私達は眼下のそれらが、燻り今にも燃え拡がらんとする大火にも感じられた。針妙丸という弱き者らにとっての希望を火種に、それを言葉という強い風で以て鬼人正邪が燃え上がらせる。

 

「おーっとお前ら、まだまだ此処で元気を使うんじゃない。それはこの後のお楽しみに取っておくんだ! 私達の計画、準備は入念にして万全だ! もはや私らを阻むモノは無くなった! それは何故か!? そう……私らにはコレがあるからさ!!」

 

左手を後方の空へ翳した正邪が、針妙丸に一瞬目配せをした。互いに頷き合うと同時に、鬼人正邪は何処からか取り出した金色の小槌を一度振るう。その刹那。

 

 

 

 

「な…? 師匠、アレは一体…!」

 

「成る程ですね。九皐様、彼女等の準備は万全とは…こういう事でしたか」

 

「ああ…詰まりは本気という事だろう。青娥等の一党が異変を…いや、切っ掛けはなんでも良かったのだ。異変解決者や、紫達の様な強い勢力の気が何処かに逸れている状況を見計らっていたのだ。無論、此方も察知してはいたが…流石にアレの存在は掴めなかったな」

 

私達の真正面…正確には少名針妙丸と鬼人達の更に後方、上空に突如聳え立つ巨大な城が出現した。

ソレは意匠こそ豪奢で荘厳なモノであったが、何より奇抜なのは石垣から城の天辺まで全てが逆しまに浮かんでいる事だった。

異質な光景を見せられた我等を他所に、孔を通じて再び妖怪達の咆哮と鬼人達の言葉が伝わってくる。

 

「そら、どいつもこいつも乗り込みな!! この城は、姫が貸し与えて下さった小槌が創り出した本物の城…その名も《輝針城》だ!! 逆さまなのは小槌を振るった私の趣味だが、中に入れば見た目と中身も逆さまさ! コレに乗って、いよいよ今から人里の真ん前まで押し掛ける! 人間どもはおおわらわ、それに釣られてやって来る管理者ヅラした異変解決者も、後になって物見に来やがる大妖怪どもも一網打尽にしてやるんだ!!」

 

そう言って、針妙丸を伴う鬼人正邪は背後の三人と共に空へ飛び立つ。加えて小槌をもう一振りすると、集まった妖怪達は小槌と同じ金色の光に包まれながら浮かび上がり、続々と城の中へ乗り込んで行く。

 

「一網打尽ッ! 良い言葉だァァ!!」

 

「空も飛べてェ城も俺達のモンだなんて、夢の様だナァ!?」

 

「万歳! 針妙丸様、鬼人正邪、万歳ィィィ!!」

 

「共に征こう、同志達よ! この少名針妙丸の名において、お前達を必ずや掬い上げてみせる!!」

 

「聞いたかお前らぁ! 私らの夜明けは目の前だァ! さあ、弱者が見捨てられない楽園を、私らの手で創り上げるぞォォォッッ!!」

 

「「「「「オオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

そうして…孔を通した彼女等の決起を見届けた。

紫の話では、自らもまた矮小な妖怪であると、同じく幻想郷の妖怪の中でも日陰者とされた者達を巧みに操る奸雄の相であると聞いていた。が……、

 

「師よ、本当に見逃して良かったのでしょうか? あの者達が本気で革命を起こすと言うなら、勝敗は兎も角幻想郷全体に甚大な被害が出るんじゃ……」

 

「この十六夜も、妖夢の言う事は尤もだと考えます。例えどれだけ強固な城、どれだけ数を揃えようとも私達の勝利は揺るがないでしょう。ですが…」

 

二人の懸念は当然だろう。

仮にどれ程の武具、戦力、拠点を構えようとも、異変解決者とその後ろに居る我々に打ち克つにはまるで足りていない。だがそれは我々だけの話であって、人里に住む人々や、争いとは直接関わりのない妖怪にとっては違うのだ。それを判っていて尚見逃したのは何故なのか? そういう質問を二人は投げかけてきている。

 

「窺っていた話とは…少し違った様だったのでな」

 

「師匠、なにか紫様のお話とは違う部分がお有りなのですか?」

 

「確か、八雲紫の話では弱者を嗾ける悪辣な天邪鬼だとお聞きしましたが…九皐様には、何が見えたのです?」

 

まだ、確たる事は述べられなかった。

だが…私ははっきりと感じ取っていた。彼等の、彼女等から発せられる《負》の感情から漏れ出た一雫。それは決して、少名針妙丸を旗印とした鬼人正邪の、衝動的な煽動によるものだけではないと。そして妖怪達を率いる当の天邪鬼でさえ、その心には確かな一つの道筋が建てられているという事を。

 

「直ぐに戻ろう…表の異変は予定通り霊夢達に任せる。が、此方は私達で迎え撃つのだ。情報を修正せねばならない。紫を通して霊夢達三人を除いた、関わりのある全員にこの事態を共有する」

 

私の言葉に二人はただ首肯し、次の言葉が紡がれるのを待っていた。

鬼人正邪から発せられたモノが果たして真実ならば…我等もまた、勝つだけでは駄目なのだろう。その事を、皆が知っておく必要がある。

 

「良かろう…鬼人正邪、そして少名針妙丸の一派よ。お前達が、尋常の遣り方では届かぬ夜明けを求めるのなら、此方とてまた一つの答えを示してやる。妖夢、十六夜」

 

「はい!」

 

「何なりとお申し付け下さい」

 

「今回、鬼人正邪達の引き起こした異変を解決するのは…彼女等を退治するのは君達二人だ。構わないな?」

 

「……! 必ずや、貴方の期待に応えてみせます…!」

 

「お嬢様から頂いたこの機会、そして九皐様よりの此度の御指示、どちらも完璧にこなして見せましょう」

 

即座に転移の孔を開き、二人と共に紫の下へと戻っていく。

闇の中へと融けながら、静謐ながらも淡い金光を纏って動き出した輝針城を、私達三人はその巨影が見えなくなるまでじっと見据え続けていた……。

 

 

 

 




次回は戦闘が多めになる回の予定です。
重ねて、お待たせ致しました。次回も亀更新となりますが、ゆっくりお待ちくださいませ!

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