彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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遅れまして、ねんねんころりです。
今回から神霊廟の導入と箸休め回となります。
といっても、あまり箸休めにはなっておりません。

この物語はご都合展開、稚拙な文章、厨二全開、レミリア便利過ぎる。といった要素で構成されています。
それでも読んで下さる方は、ゆっくりしていってね。





神霊廟編
第九章 壱 嵐の前の


 

 

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

聖白蓮をめぐる異変が収束し、暫しの時が流れた。

ひと月程で諸々の事に処理がなされ、聖白蓮とその門弟達は晴れて幻想郷の仲間として認められるに至る。

 

「コウ様、本日は聖白蓮達の住まいとなる寺が開かれる日。ご足労頂いてありがとうございますわ」

 

「紫、構わんさ。経過を見るのも関わった者の役目だからな。寧ろ君には細かい部分を根回して貰って、いつも助かっている。ありがとう」

 

私達は今、聖達が建てた《命蓮寺》なる寺へ向かっていた。当初は二人で出向く予定だったが、屋敷から出がけに暇を持て余した幽香が訪ねてきたことで、三人で空を飛んでいる。

 

「いいえ。コウ様のお望みとあらば、如何なる難題もこの八雲紫が遂行してみせましょう! どの道新参を各陣営に触れ回っておくのは避けられませんから、お気になさらず」

 

「そうそう。面倒な雑用は紫に任せておけば良いのよ。そういうちまちました作業は得意なんだから」

 

「貴女なんて、見るからにそういうのは不得手そうですもんね? コウ様のお役に立てないからって僻んでますの?」

 

「黙りなさい陰湿粘着女」

 

「脳みそ筋肉」

 

「ストーカー妖怪」

 

「畑狂い」

 

「……やれやれ」

 

二人が子供のような悪口で互いを貶し合っている。それは兎も角、実際紫の手腕によって、先の異変が霊夢達に解決されたこと。そして新たな徒の参入に各々は大いに湧いていた。病み上がりの聖達を博麗神社に招き、歓迎と称して酒と料理を浴びるほど摂ったのが先週のこととなる。

 

挨拶を兼ねて今日出向くにあたり、居合わせただけの幽香も急遽自宅に戻って鉢植えを一つ拵えてくれた。二人も

 

「それはいいけど、俄かには信じられないわね。コウが負けたなんて話」

 

「事実だ幽香。私は異変を起こした者達と共謀し、霊夢達の足止めを買って出た。結果は敗北…それについては揺るがない」

 

「みんな宴会の時凄い騒いでたわよ? 手心を加えたといえ、弾幕ごっこにしても貴方が負けたんだから」

 

「ああ。永琳や鈴仙などは、霊夢達を鋭く睨んでもいたな。十六夜と妖夢も、いつか私の仇討ちをすると息巻いていた」

 

『随分と慕われてますのね(るのね)』と、何故か二人は神妙な顔つきになっているが私としては喜ばしいのだ。今となっては…弾幕ごっこならば霊夢や魔理沙、早苗が総出でかかって敗れるような手合いはいなくなったというのだからな。

 

妖夢と十六夜の鍛錬も、ひとつの佳境に入り今は自主鍛錬ということで規定の日にちを除き私の屋敷に来るのは控えさせている。

 

「次は、十六夜や妖夢の出番も作ってやらねばな。天子が来た時の催しから、二人は一段と強くなった。実力においては、三人に引けを取らんだろう」

 

「それこそまさかですわ。コウ様が手ずから指導しているのですから、個としての力量は疑いようもありません」

 

「へえ? 弾幕ごっこ以外でもマシになったなら、私が遊んであげても良いわよ?」

 

二人にとっては願ったり叶ったりだろうな。

二人は異変の際に霊夢達と戦い、その後は修行に移ったのも相まって後塵を拝していた。近々二人を異変解決に向かわせるか、または私の手伝いをして貰う事で今の実力を再認識させるのが良かろうか。

 

「是非頼みたい。うむ…聖達の寺が見えてきたな」

 

眼下には、清貧な印象の寺社が正門を開けたまま建てられている。三人で門前に着地し、家人が出迎えてくれるのを待つこと数分。見慣れた顔が一人二人と姿を現した。

 

「これは、九皐殿! お久しぶりです!」

 

「こんちはー。アンタがお客様第一号だね、歓迎するよ。コウさん」

 

「星か、元気そうだな鵺…いや、ぬえも調子が戻ったようだな」

 

ぬえと星が最初に私達を出迎えてくれた。ぬえとは異変解決の後、宴会の場で初顔合わせをしたが、当のぬえは私の気配を察知して直ぐに船内に乗っていた内の一人だと気付いたらしい。

 

私にも船を襲ったことを謝りつつ、それから和解して聖達の一党に加わると聞いて私も素直に受け入れられた。その時聖達が寺の建造を紫に打診したことで、協力を名乗り出た八坂神奈子が河童達を人員として手引きし、伊吹がたまたま話を聞いていた事からこれだけ早く寺が立つに至った。

 

星達の使っていた船から飛倉の欠片を一部流用し、特殊な加護を持った命蓮寺は、鬼と河童の技術でもって足早に完成を見る。本日は寺のお披露目として、異変が恙無く進むよう動いていた私と紫を最初に招きたかったという。

 

「お! コウさんじゃないか! ささ、紫さんとお友達のヒトもどうぞ上がってってよ! お茶菓子くらいはだせるからさ!」

 

縁側から顔を出した村紗が紫と幽香を手招きし、二人は友達という言葉に釈然としない表情をしながらも先に屋内へ上がっていった。

 

「コウ様、私は先に聖白蓮の元へ行って参りますわ」

 

「私も行くわよ。聖ってのに興味あるし」

 

「ああ、頼む。私はもう少し、皆と話をしてから行こう」

 

二人を見送り、改めて星とぬえに視線を移した。

 

「此度の件、重ね重ね本当にありがとうございました。貴方のお力添えがなくば、これだけの結果には至らなかったでしょう」

 

「私も、一応ありがと。アンタが皆を手伝ってなかったら、私はあのまま独りで馬鹿やったままどっかでのたれ死んでたかもね」

 

「いや、そんなことは無い。君がこうしていられるのは、君を説得した仲間とそれを受け入れた君の勇気が有ったからこそだ」

 

ともあれ、ぬえも命蓮寺の皆も平穏そうで申し分ない。暫し雑談に興じていると…寺の裏側から一輪と雲山、そしてナズーリンが揃って私達のいる場所まで向かってきた。

 

「九皐さん」

 

「九皐殿、御無沙汰している。件のおりは本当に助かった。有力者の方々に話を通して貰えたことで、我々も安心して此処で暮らしていけそうだ」

 

「うむ。私の伝手で話が落ち着いたなら言うことは無い。一輪も、良かったな」

 

「うん…姐さんが帰ってきて、此処でも寺を開きながら暮らせるなんて。最初は夢のまた夢だと思ってた。ありがとう…本当にありがとう」

 

一輪は被りを深くして、僅かに赤面しつつ礼を述べてきた。傍らの雲山も満足そうで、諸手を上げて二の腕に力こぶを作っている。

 

「さて…そろそろ行くとしよう。紫と聖の話も、ひと心地ついた頃だろう」

 

「八雲殿は、聖と何の話をしておられるのです?」

 

星の問いかけに、私は答えようか少しだけ迷う。何分込み入った話が混じっているので、ありのまま伝えるには時間がかかり過ぎてしまう。それに…折角平和な生活を手にしたばかりなのだ。余計な気苦労をさせたくないのもある。

 

「うむ…。まだ確定ではないのだが、近々新たな異変が起こる予兆があってな。それに関しては私達だけで対処するのが最適だと考えている。聖と命蓮寺の面々には人里の者や野に散る妖達のために、いざという時に避難場所として門を開けて欲しいと頼みに来た」

 

「私達は勿論、聖も承諾されると思いますが…宜しいのですか? もし助けが必要なら」

 

「いや、気持ちだけ受け取っておこう。今は余計な事は気にせず、勝ち取った平穏を噛み締める時だ。安心せよ。既に手は打ってある」

 

「まあ、アンタなら大丈夫か。なにせ…ねえ」

 

「そうだな。病み上がりの我々に心配されるほど、この地の地盤は緩くはないだろう」

 

「でも、もし必要なら遠慮なく言いなさいよね! 私…私達も、九皐さんを助けるから!」

 

「ああ。ありがとう…その時は、頼りにさせてくれ」

 

星の提示をやんわりと断って、心配無用だと不敵に笑ってみせた。各々の反応から、この場は納得してくれたようで、屋内へ歩み出した私を見送ってそのまま別れた。

 

 

 

 

 

紫と幽香、そして聖の気配を追って縁側を歩き、客間へと続くだろう曲がり角で村紗とすれ違う。二、三言言葉を交わしてから、行き先を教えて貰って襖の閉じられた客間へと辿り着く。

 

「私だ。入っても良いか?」

 

「あ、はい。今開けますのでお待ちを」

 

襖を開けられて、眼前には木漏れ日の光を束ねたような長髪の女性が立っている。初めて見た時よりも随分顔色が良く、優しげな視線が彼女の人柄が生来穏やかなものであると教えてくれる。

 

「壮健か? 聖白蓮。この度は招いてくれて、ありがとう。寺の皆とも、先程挨拶してきたところだ」

 

「はい。その節はどうもありがとうございます。さ、どうぞ此方へ」

 

聖に促されて、紫と幽香が座る畳の間へと通される。私も二人に倣って正座で座ると、聖もちゃぶ台越しに私達の対面へ座った。

 

「コウ様、如何でしたか?」

 

「今回はあの娘達と組んだんでしょ? 何か感想とかある?」

 

「む…そうだな。強いて言えば、全員心なしか表情が明るくなっていた。やはり、うら若き娘御は快活でなくてはな」

 

「だそうだけど?」

 

「くすくす…ええ、お二人にお伺いしたままの御仁ですね」

 

聖は、私が此処に来るまでに二人に何やら吹き込まれたらしい。内容がとても気になる所だが、乙女達の秘密の会話を探るのも気が引ける。此処は知らぬふりで、余計な思考は交えないでおこう。

 

「ふふ…さて。本日はご足労頂き、ありがとうございます。改めまして、命蓮寺の住職を務めることとなりました、聖白蓮と申します。九皐様におかれましては、以後お見知り置きのほど宜しくお願いいたします」

 

丁寧な前振りの後、深々と頭を下げて私に名乗った。

此方も会釈し、私達の挨拶が終わると共に双方の視線が交差する。

 

「やはり…綺麗な瞳をしております」

 

「私の眼が、気になるか?」

 

「はい。鈍く光る銀の瞳が美しいと思います。ですが、そこから窺える為人に大変感服しております。紫さんと幽香さんが、貴方様のお声に応えて動かれたこと。これまでの御活躍についても少々お聞きしました。こうして直接見えまして、お二人が協力なさってきたのにも得心がいっております」

 

長らく高位の仏法僧として過ごしただけあって、彼女の言葉には強く胸に響くものがある。触りの段階ながら…私と彼女、互いの考えや有り様を深く理解し合えた気がする。

 

「そう言って貰えると、私も捨てたものでは無いと安堵した。では、本題に移ろうか」

 

「はい…紫さんからは、有事の際にて命蓮寺を幻想郷の人妖を守護する避難所の一つとすること。必要とあらば、紫さんと貴方様の呼び掛けに応じ助成すること。いずれも異存なく承りました」

 

「ありがとう。人と妖、双方の架け橋となれる命蓮寺の設立は願ってもない事だ。君達に助けが必要な時は、私もまた力を貸そう。遠慮無く言って欲しい」

 

そう返すと、聖白蓮は和やかに笑って私の言葉を受け取った。紫はそれを認めると、聖に向かってもう一つの本題を切り出す。

 

「聖さん。今回伺わせて貰ったのには、もう一つ理由があるのですわ」

 

「……この寺の地下、ですね」

 

その言葉に私と紫…そして大妖として楽園の広範囲に気配を探れる幽香も、聖の反応には少し意外なものがあった。只人から魔道を極めた者として、聖白蓮もまた一廉の強者であると再確認した瞬間だった。

 

「成る程…貴女も、それに気付いてて敢えてこの地を選んだわけね」

 

「あら、貴女にしては良い勘よ幽香。聖さんはこの地が曰付きと知っていて、尚この場所に命蓮寺を建てた。それはつまり…」

 

「封印…または結界といったところか」

 

この地は…命蓮寺の建つこの場所には私と紫、そしてひと月前に盟約を結んだ霍青娥しか詳細を知らない或るモノが存在していた。

 

「要の部分こそ別の空間に有るようですが…地下と別空間、そのどちらにも存在している建造物らしきものが埋まっておりました。それを発見した折、命蓮寺の建設とともに封印式を施して今は様子を見ているのが現状です」

 

「私も気配くらいは感じるけれど。建物って…つまりどんなものなのかしら?」

 

「そうですね…私も視認した訳では有りませんが、魔法で解析した構造や外観としては《廟》のような代物に近いかと」

 

廟とは、死した偉大な先人を祀る宗教的な施設のことだ。墳墓、神殿…楽園の成り立ちからすれば霊廟と称するのが妥当か。そういったモノがなんの理由も無く、況して地下に眠っているなどあり得ない。そんな不気味な建物を発見したのは、偶然にもこの地に妙な違和感を感じて地脈を探ったナズーリンだったという。

 

「廟ってことは…何か? というか、誰かが祀られてるってことよね」

 

「その通りです。しかも…日に日に地下からの気配は濃くなっているのです。寺の基礎に築いた封印も、そう遠くない内に破られることでしょう。幸い、物理的な干渉で此方の結界を脅かしている訳ではないようで…私どもに被害は無いと思いますが」

 

「破られた封印から一体なにが出てくるのか、それが気になるという事ですわね?」

 

聖は紫達の言葉に頷いて、それからは沈黙を貫いた。幽香は聖と同様の見解を示している事から、同じクラスの妖力を持つ者にはこの地の違和感にいずれ気付いてしまうのは明白だった。紫に目配せをし、彼女は扇子を開いて私の意図を汲み取ったという合図を出す。

 

「出て来れば良い」

 

「…コウ?」

 

「九皐様?」

 

自身の双眸で聖の瞳を深く射抜いて、私は泰然とした風に口を開く。

 

「仮に何が出てこようとも、問題は無い。異変ならば霊夢達に解決させる。彼女らはそれだけの力を付けた。だが…」

 

ほんの一瞬…一瞬だけ己の気配を強めて、自分の言葉を確たるものとして聖に伝える。

 

「もし楽園の不利益と判断したなら、私が手ずから葬ってやろう。跡形無く、一切の慈悲無く。完膚無きまでに撃ち砕けば事足りる」

 

言い終わると同時に気配を押し込める。一呼吸置いてから、呆然と此方を見やる聖の肩に手を置いてもう一度語りかけた。

 

「心配は無い。この件に関しては、封印が解かれるまでは静観していてくれ。命蓮寺の力が必要になるのは、力無き人と妖を護るべき時だ。それまでどうか、私達に任せてくれないか?」

 

「は、はい…分かりました」

 

それから間もなく、私達は命蓮寺を後にした。聖は暫く不思議なものを見る目で私を眺めていたが、私達が飛び去る頃には皆で手を振って送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ 聖 白蓮 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「あーあ、コウさん達行っちゃったね」

 

「もっとゆっくりしていかれれば良かったのですが」

 

「彼らにも日々こなさねばならない用向きがあるのだろう。噂によれば、彼は一週間の殆どをこれまで関わった人妖との交流に費やしているとか」

 

「え? それって家に帰れないじゃん! ちゃんと休んでるのか?」

 

「それは私達が呼びつけても一緒よ。あんまり派手にやると、彼が出て来ることに変わりは…姐さん?」

 

後ろで談笑する皆を余所に、私は彼に対してある印象を抱いていた。これまでの振る舞い、纏う気配から全く隙の無い立ち姿。どれをとっても…今の私でもまともに戦いになるかどうか。

 

それだけ隔絶された実力を持つモノが、自陣の勢力と呼べる者達を控えず、あくまで一個の存在として幻想郷の為に働いているという。彼が出向くまでに、八雲さん達と話していた事を反芻した。

 

『あれほどの力を持ちながら、彼には野心や個人の益となる思惑が見えませんね。心を持ち、生きているならば誰もが持つだろう…ほんの少しの邪心も覗かせない。まるで最初から持ち合わせていないような』

 

『俄かには信じられない? そうでしょうね。だって彼は、その気になれば全てを手に入れられる。けれどそうしない。これまでの異変で彼が得たモノは数々の出逢いだけ。寧ろそれだけで充分とお考えなのですわ』

 

『奇特なヤツなのは確かね。欲しいものは力で奪う。生きる為なら他者を蹂躙する。そんな生物としての不文律を、コウは初めから課せられていないのよ。文字通り、生まれた時からね』

 

それは何かが欠けていても気にしない…というより、満ち足りる為の生き方を心得ているとも思える。今あるものが一番大切で、故にそれらを全力で護ろうとする。

 

安寧を共に過ごすことこそ最大の報酬…そんな風に胸を張って、彼は今まで戦い抜いてきたのだろう。過去を認め、未来を見据えて現在を維持する。それはとても簡単なようで、とても難しいことだから。

 

「失う事を嫌う、覇者の傲慢でしょうか。いいえ…それも違いますね」

 

総ては美しき、価値あるモノのため。その志を裏切らないことが彼の生き様だと、私には感じられた。

 

「あなた達が、ヒト伝いにも九皐様を頼って地上に出たのも頷けます」

 

「む? そうだね、聖。一度は頼みを拒まれ、それでも折れないか我々の覚悟を試された。意を決して再び彼の屋敷を訪れた時には…」

 

「笑ってたよねー。そうこなくちゃ! みたいな顔してたと思うよ」

 

「うう…あの時は本当に生きた心地がしなかったよ。姐さんの為とはいえ、あの気配をまともに浴びちゃったんだから」

 

「すみません一輪。初めから皆で行ければ良かったのですが」

 

「お、なんだなんだ? アイツに助けて貰う時になんかあったのか?」

 

皆の笑顔に包まれた閑談を聴いていると、改めて彼への尊敬か深まった。ただ無機質に救われただけならば、これだけの穏やかな時間を手にすることは出来なかったでしょう。

 

「承知いたしました、九皐様。貴方様の御心のままに、この聖白蓮も微力ながらお手伝いします」

 

今は姿も見えない彼に向けて、私はこれからの自分の進み方を宣言した。彼と、彼の周囲に集う人々と共に…多くの魂が救われる未来を探していこう。そうすることが私達の返せる報恩であり、正しき道だと信じて。

 

「みんな、近々幻想郷の主たる陣営にご挨拶周りに行きますよ! 宴会の時にも顔合わせはしましたが、それはそれ。これはこれです!」

 

「礼を尽くせば、相手も礼節を保ってあたってくれる…ですね!」

 

「よっしゃー! 殴り込みじゃー! ド派手な挨拶はこのキャプテン村紗にお任せあれ!」

 

「バカ。殴り込んでどうするのだ。我々も立派な仏教徒だぞ? 余計な不和を招くのは止せ!」

 

「客人として挨拶に行けば、宴会の時みたいにまたお酒とか飲めるかなあ? ぐふふ…甘露甘露」

 

「おい一輪、凄いだらしない顔してるぞ…雲山も呆れてるじゃんか」

 

全く…緊張感のないことです。

ですが、これはこれで良しとしましょう。さて、早速準備に取り掛からねばなりません。まずは方々へ挨拶に行き、我々命蓮寺の存在を更に強く印象付けよう。その上で仏教に改宗して頂ければ尚のこと良し! うふふ…なんだか楽しくなって参りましたよ!

 

 

 

 

 

 

♦︎ 十六夜 咲夜 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「せい!」

 

「良いですね、咲夜さん! これまでとは見違えるほど鋭い動きですよ!」

 

妖夢と一緒に九皐様に師事してから、私は美鈴の言う通り見違えて強くなった。と思う。今は美鈴を相手に、どれだけスムーズに力の行き先を読んで投げや絞め技に持ち込めるかを確かめている。所謂模擬戦、組手とも言う。

 

「ぬおっ!? い、今のは危なかったですよ…捻られた方に宙返りしてなかったら、腕が千切れているところでした…!」

 

「この手の技は、人型の妖怪なら問題なく効きそうね。ありがとう美鈴。今日はもう充分よ」

 

「はい! それでは私も庭の手入れがありますので、一先ず失礼しますね」

 

陽気に微笑んだ美鈴は、極められそうになっていた左腕をぷらぷらと振りながら物置の方へ歩き去って行った。あの様子だと、腕を少し痛めたみたい。彼女には悪いけど、技の効果を知れてとりあえずは満足出来た。

 

「ふぅ…私も汗を流したら、夕飯の支度を始めないといけないわね」

 

妖怪と比べ非力な人間の私は、腕力に頼った戦い方は向かない。相手の力を利用して反撃し、これを制する。彼が言うには、私が身に付けた技術の多くは《合気》・《逮捕術》・《柔術》という三つの護身術から着想を得たという。

 

この一ヶ月余り…弾幕ごっこでは使う機会のほぼ無い、あくまで能力を使用しない前提での戦い方を教わってきた。対人、対妖怪、能力を使用した総力戦でも手札の一つとして充分実用に耐え得る術理。幻想郷での決闘や私闘において、人間の私には何から何まで網羅した夢のような戦闘技能。

 

それだけでも信じ難いのに…彼は私が屋敷へやってきた初日からこれらを習得させる為にあれこれ種を蒔いていたと語ってくれた。

 

『十六夜…君には少々特殊な訓練を受けて貰うことになる。疑問に感じたり、妖夢と比較して積んでいく修練には無意味に見えるものも多いだろう。だが、私が教えている間は心の隅に置いていてくれ。私を信じて付いてきて欲しい』

 

真剣な眼差しで言葉を放つ彼に、私は二言なく頷いた。

修行していた間は、何度か抱いた疑念を振り払えずに打撲や捻挫に泣かされもした。しかし…彼が施した布石が芽吹いたのは、妖夢との素手対刃物という異質な組手の最中だった。

 

「相手が勝手に、地面や空中へ転がって行くイメージで」

 

こう、こう…と。独り言を漏らしつつまた反復する。蛇のように絡みつく手の動き。相手の体制を崩す足掛けと踏み込み。滑り込むように自然な重心移動。腰と肩、背中と下半身にかかる回転…遠心力を活かしてコマにも似た動きから繰り出される技の収束点が、あの時の感覚を鮮明に再現させる。

 

そうして一人で夢中になっていると、背後からパチパチと拍手する誰かの姿があった。

 

「あ…お嬢様」

 

「コウにつけて貰った鍛錬は見事に実を結んだようだな、咲夜。私も原理は分からないが、あの美鈴が一杯食わされたとボヤいていたぞ?」

 

優雅にして苛烈。そんな印象を抱かせる我が主、レミリアお嬢様は誇らしげに呟いた。

 

「ありがとうございます。彼の御方には、能力やナイフよりずっと心強い武器を頂きました」

 

「クックック…それほどのものか。結構なことじゃないか! コウがお前に、特別な力を与えてくれたのだ。日々精進を怠るなよ? 身一つで磨いた技は怠ければ直ぐに錆び付くからな? その力でもって、我らが紅魔の勇名を遍く轟かせるのだ! その為には、給仕や掃除など些末と知れ!」

 

などと、お嬢様は邪悪にして可愛らしい笑みを浮かべている。だが…。

 

「ですがお嬢様、私は紅魔のメイド長です。その私がお嬢様方のお世話をしないとなると…いったい誰が三時のおやつを用意されるのでしょうか?」

 

「……あ」

 

「それにお洗濯やお風呂の準備もしないとなりますと…」

 

そこまで告げると、お嬢様の顔がみるみる青ざめていく。先程までの美麗な立ち居振る舞いは完全に失われ、ピタリと停止する。やがて大仰に身体を動かして、我が主は再起動した。

 

「待て、それはまずい…! 不味いぞ咲夜! 今のは取り消しだ! 三時のおやつが無くなったら、フランの機嫌が斜めどころか真っ逆さまに急降下してしまうぞ!」

 

そしてタイミングの悪いことで…お嬢様と同じく昼下がりに日傘を差してたった今表に出てきた妹様が、怒気を孕んだ声を上げた。

 

「どうゆうコト? お姉サマ? サクヤが三時のおやつ…作ってクレナイノ?」

 

「ま、待て…! 私はただ咲夜に、それくらいの気持ちで頑張れと」

 

「そんな事にナッタラ…お姉様のこと、キライになっちゃうんダカラ!!」

 

ガーン。

ガーーン。

ガーーーン。

そんな擬音が飛び出てきそうな勢いで、お嬢様は呆然とした表情で地に膝をついてしまった。この世の終わりの如き衝撃が、お嬢様の身体を貫いていることだろう。

 

「…あ、あぁ……」

 

「ともかく、そんなの絶対許さないからね!」

 

最後にそれだけを吐き捨てて、妹様は屋内へと戻って行かれた。残されたのは対処に困った私と、日に当たってもいないのに燃え尽きそうな悲しい姉だけだった。

 

しばらく頭を撫でて慰めていると…一つ咳払いをしたお嬢様が緩やかに立ち上がった。

 

「まあ、うん…フランの件は後でなんとかしよう。誤解を解けば機嫌も直る筈だ…。それで、咲夜」

 

「はい」

 

お嬢様の瞳が、陽の下でなお光を浴びて赤々と輝いた。

こういう時のお嬢様は、とても頼もしく恐ろしい。加えて、ご自身の能力による預言が降りてきていると相場が決まっている。

 

「またもや異変だ。しかも、今回はお前も出向く事となろうよ」

 

「私が、ですか?」

 

「そうだ。しかもその異変は、コウがお前と亡霊の従者にある密命を与える段階から本格化するらしい」

 

九皐様が、私と妖夢に秘密の指示を?

それ自体は良いのですが、異変解決は霊夢と魔理沙…そして新たに加わった東風谷早苗が行う筈。何故ここで私と妖夢が?

 

「詳細は省く。コウにはどうやら、異変中に裏で手を回しておきたい事があるらしい」

 

「…分かりました。この十六夜咲夜、紅魔の誇りに懸けて彼の御方をお助けいたします」

 

「よく言ったぞ咲夜! ならば時を待て! 我らとコウは一連托生、まさに運命共同体である! 大恩ある徒の為、その力を存分に振るうが良い!!」

 

こうして、新たな異変の兆しが伝えられた。

その翌日…九皐様が紅魔館を訪れた。お嬢様の預言通りにある事柄をお願いされて、私と妖夢を伴って三人で《あの場所》へ行くことになったのです。

 







最後まで読んで下さいまして、ありがとうございます。
次回も頑張って書き上げたいと思います! まだ全然プロットできてないけど!

重ねて、ありがとうございました!

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