彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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ねんねんころりです。
ようやく一章の四話、投稿と相成りました。
今回も場面転換の連続で引き出し少ないなと今更悔いております。

紅魔館での物語もいよいよ佳境です。
予定では次回で終了とみておりますが、行き当たりばったりの思い付きで話を進めるせいで書いてる自分が混乱する有様…そして今話は主人公の出番ナシという。
重ねて申し上げます、今回主人公の出番は一切ございません!
コウの活躍を期待してくださっている読者様、誠にすみません。それでも読んでくださる方は、ゆっくりしていってね。


第一章 四 心に光を抱く者

♦︎ 霧雨 魔理沙 ♦︎

 

 

『おいおい…コイツはちょっと、いや大分おかしな事になってきたぞ』

 

私は誰も聞いていないだろう台詞を呟き、今目の前にある現状を改めて分析する事にした。

結論から言えば、私としてはかなり面白くない状況だ。

 

弾幕ごっこは基本的に一対一がセオリーだと思っているが、あの美鈴とかいう門番、さっき大見得張っただけの事はあると認めるしかない。

 

奴は常に霊夢と私を射線上に捉えつつ、拳法みたいな構えと共に休むことなく弾幕を放ち続けている。

勿論私も霊夢も当たらないように避け続けるわけだが、不定期に両翼に大型弾幕を展開されるおかげで、奴の直線に誘い込まれた私と霊夢を、更に虹色の光線みたいな弾幕で纏めて狙い撃ちといった戦法を取ってきた。

 

『あの気迫は本物って事かーーいよっと!』

 

私は何とか美鈴の弾幕を躱し、門の上に上昇して抜けようとするが、これがどうも上手くいかない。

まるでこっちの動きを察知して戦われてるみたいで、実に面白くない。

 

『虹符ーー《彩虹の風鈴》!』

 

虹色の小型弾幕が幾重にも連なり、風鈴が風に揺られて回転する様な渦巻き型の波状弾幕。

これを使われてから随分経っているが、霊夢と私はこれを捌きながらアイツの近接攻撃というか、弾幕を纏った突進みたいな攻撃も併用されているせいで反撃が非常に難しい。

 

『夢符ーー《封魔陣》』

 

霊夢もスペルカードを宣言し、御札を飛ばしながら結界網で美鈴をとり囲もうとするが…アイツはそれも織り込み済みとばかりに躱し様に弾幕を放ったり時には打撃で霊夢の弾幕を消してくる。

 

正直、異常とも言える猛攻に霊夢はスタミナ切れを狙いつつ攻撃を加えて拮抗、私に至っては弾幕を避けながら美鈴を抜く方策を見出せず膠着状態である。

 

このまま私も美鈴を倒すのに協力すべきか?

いいや…それじゃダメだ。弾幕ごっこにおける私の流儀に反するし、何より目的が変わってしまう。

 

私が美鈴に吐いた言葉は、アイツを抜いて館内に入る事。

なのにいい方法が思い浮かばない…無理に行こうとすれば思わぬ事故に見舞われるかもしれないし、霊夢は直接やり合ってるから良いかもしれないけど、私としては二人の弾幕ごっこそのものを邪魔する気がそもそも無い。

 

『うっーーーー!? あっ…く!』

 

その拮抗は唐突に終わりを告げる。

やはり、妖怪とはいえ二人を同時に相手して長く保つ筈がない。

加えて美鈴はこれまでの分析から近接主体の妖怪である事も判明した。

 

妖怪の体力は人間に比べて無尽蔵に近いが、不得手な弾幕ごっこになってはさしもの門番も息が荒くなる。

先程までは空中を駆けながら霊夢と一進一退を演じていたが、私の事も阻みながらとなるとその難易度は計り知れなかったろうな…。

 

『はっ…はぁ…はぁ…まだ…!』

 

一時間…一時間休むことなく、美鈴は動きっぱなしの弾幕打ちっぱなしだった。驚嘆に値するって…こういう時に使うんだろうな。

大健闘と言って恥ずかしくない結果なのに、それでも美鈴は諦めていないらしい。

 

『ねえ』

 

不意に、霊夢は空中に浮いたまま立ち尽くし、美鈴に向かって声をかけた。

 

『魔理沙だけでも行かせたら?』

 

『はぁ…はぁ、それは、出来ない相談です…誓いを破ることになる。それだけは出来ません…!』

 

『もうどれだけ経ってるか分かってるでしょ? 凄い弾幕と近接の合わせ技だけど…今や息も絶え絶えで、致命打も二人相手じゃ望めない。このままじゃあんた、妖力が尽きて死ぬわよ?』

 

霊夢の言葉に、美鈴は沈黙で返す。

息を整え、弾幕も撃たず回復に努めているのは明白だ。

私たちは異変を止めに来た立場でも、殺し殺されをやりに来た訳じゃない。私も霊夢も、敢えてそれを見送った。

なのに…

 

『私が例え、ここで力尽きても…私の立てた誓いは守られる! 私は誇り高き紅魔の門番だッ!! ここを通りたいのなら、決死の覚悟でかかって来いッッ!!』

 

倒れかけながら、限界寸前の身体に鞭を打って膝を屈さず、目の前の妖怪は勇ましく吠えた。

 

『そう…面白いやつね、美鈴だっけ? あんた…私が今まで遭った妖怪の中でも、指折りの変わり者だわ。主従ってだけの間柄の相手に…そこまで出来るなんて』

 

そう言って、霊夢は一つ高い空域へ飛翔した。

これで決まるかもな…アイツ、当たりどころが悪くて死ななきゃ良いんだが。

 

私にはもう、この戦いを見ずして先へ行く気は完全に失せてしまっていた。

何だろうな…多分、綺麗だったからだよな。

弾幕も、それを撃つアイツも、その真っ直ぐなやり方も。

 

『霊符ーー《夢想封印》』

 

霊夢のスペルカードが宣言される。

光の玉が霊夢から幾多も放たれ、美鈴を取り囲む軌跡を描いて寄り集まっていく。

 

霊夢も大概不器用だよな…アイツ運が悪けりゃ死ぬかもしれないのに、それでもかかって来いなんて啖呵切られてその通りにしてやるんだからさ。

 

『申し訳ありません…お嬢様。お先に、失礼致します』

 

光に飲まれる美鈴の口からは、尚主人を慮る言葉だけが紡がれていた。

なんだろうなぁ…なんかさ、スゲー複雑な気分だ。

悪い奴じゃないって分かっちまっただけに、死んでませんようになんて…どっかで祈ってる自分がいる。

 

『ーーーー誰の許しを得て、暇を貰おうとしているの? 美鈴』

 

『なんだ…!?』

 

何処からか聞こえた女の声が、美鈴が今まさに霊夢のスペルカードの前に沈むって時に聞こえてきた。

 

霊夢の放った夢想封印の光が収束して行く。

その後には、倒れているであろう美鈴の姿は何処にも無かった。

 

『この場は、貴女たちの勝利です。ご覧の通り、門は開いておりますので、どうぞ中へ』

 

『『ーー!?』』

 

声がした方向に眼を向けると、そこには給仕のような衣服を纏った女が一人。

見た目は私と霊夢の一つ上か二つ上か、もしかしたら同い年かもしれない。

だがそれよりも…あんなヤツ、一体いつから門を開けてあそこにいたんだ?

 

『………』

 

気配も何も無かった。

流石の霊夢も突然の新手の出現に警戒レベルをかなり引き上げている。

私たちの思案を他所に、門前で客に対する様に姿勢を崩さない女は再度言葉を発する。

 

『異変解決者の御二方、どうぞ館の中へお入り下さい』

 

『そう…気が利くのね』

 

『メイドですので』

 

言うだけ言って、給仕…いやさメイドの女は先を歩いて行ってしまう。

美鈴がどうなったのかとか、どうやってあの女は門の前に現れたのかとか知りたい事は山ほど有ったが、霊夢は促されるままついて行ったので私もそうすることにした。

 

門を潜り、庭を抜け、館の中にようやく入ることが出来た。エントランスホールは館の外観よりもなお広く、そして壁紙も絨毯も赤一色に揃えられていた。

 

『魔法使いのお客様は、こちらの道を真っ直ぐ行かれますと図書館へ続く下りの階段が御座いますので、其方へ』

 

『図書館?』

 

『左様でございます。当館の図書館には様々なジャンルの蔵書があり、中でも外の世界では大変貴重な魔道書や魔術書が多くーー』

 

『魔道書!?!?』

 

『はい。ですので、ご興味がおありでしたらーー』

 

『ありがとうだぜ〜〜〜!!』

 

私はメイドの話を聞き終える前に、一目散に指示された道を箒に跨って飛んだ。

待ってろよ! まだ見ぬ貴重な魔導書たち!

 

 

♦︎ 十六夜 咲夜 ♦︎

 

 

 

『どういうつもり?』

 

私の前に残ったのは、紅白の巫女服を着た少女。

異変解決を生業とする博麗の巫女一人。

彼女は私の持て成しに対して不審げに問いを投げてきた。

 

『どうもこうも無いわ。ただ、邪魔な魔法使いには別の催しを用意しただけだもの』

 

『ちょっと? さっきの馬鹿丁寧な言葉遣いは何処へ行ったのよ?』

 

『当たり前よ。貴女だけは、私に嫌でも付き合って貰う』

 

私の先程とは対照的な反応にも、眼前の巫女は怯みもしない。怯むどころか、むしろ当然といった風な面持ちで佇むのみだった。

 

『私の時間は私のモノ、貴女の時間も私のモノよ。お嬢様が貴女を迎える前に、貴女にはこの館を彩る赤いシミの一つになって頂くわ』

 

『あんた人間よね? ただのお世話係に相手が務まるほど、私は甘くないわよ?』

 

博麗の巫女は私の言葉に一つも揺らぐ事無く、右手に持ったお祓い棒を静かに構えた。

 

『いいえ、私は紅魔のメイド長。お嬢様方の完全で瀟洒なただ一人のメイド。ネズミの掃除も私の仕事よ』

 

ネズミと巫女に吐き捨てて、私の側に何十という数のナイフを展開する。巫女は頭を二、三度搔き毟り、ウンザリしたような素振りで宙を舞う。

 

『ネズミって…招き入れたのはあんたでしょうが!』

 

これにて開戦。

私と巫女は互いに敵意剥き出しのまま、睨み合いながら弾幕ごっこへ突入した。

 

『美鈴の事で貴女を恨んでいる訳ではないわ。あの娘は自分の立てた誓いの為に戦い破れた。だから私も、私の立てた誓いの為に貴女を倒す!』

 

『どいつもこいつも…やり難いったらないわ!』

 

博麗の巫女にとっては、予備動作なしのナイフの雨。

空間に突如として出現し、その射程の長さと連射性によって動きを制限し体力を削る。

 

右と見れば左、前と見れば後ろから…私の《能力》がナイフの軌道と密度の分析をより困難にしていた。

 

『私の世界で自由なのは私だけ…貴女に入り込める余地は無いわ!』

 

『さっきから言ってる事が訳わかんないのーーよっ!』

 

博麗の巫女はお祓い棒で宙空から射出される無数のナイフをいなし、身体を器用に捻って次のナイフを躱す。

手刀で、蹴りで、ナイフを弾きつつ私へ的確に御札を放ってくる。

 

だけど無駄。

私に大概の攻撃は通用しない、それこそが私の《能力》による副産物。

私にコレがある限り、お嬢様以外の誰も、私の時間については行けないーー!

 

『幻世ーー《ザ・ワールド》!』

 

時よ止まれ。

この世界の何処にも…普遍のモノなど存在しない。だからこそ、止まった時の中でなら…私の世界の中でのみ、あらゆるモノは美しい。

 

『……これが幕引きよ、博麗の巫女。貴女が幾ら強かろうと、時の流れには抗えない。それは時間そのものが動いていようと、止まっていようと同じこと』

 

私の力、《時間を操る程度の能力》。

その名の通り、私は何秒間か世界の流動を停止させられる。五秒か六秒か…使っている私も変な気分だけど、それくらいの時間を止めていられる。

 

その中で、唯一私だけが自由に動ける。

使用の条件もインターバルも必要ない…ただ余り使い過ぎると、私の身体は止めた時間分の反動に耐えられなくなる為、お嬢様から連続での使用は控える様に厳命されている。

 

『ナイフの数は自由自在、ナイフが存在する狭い空間を固定化しナイフだけを取り出せば…その数は倍々に増やせる。貴女に向けられた切っ先は計六十四本。全方位のナイフの結界に沈みなさい』

 

博麗の巫女を取り囲む形で配置したナイフ。

それらには指向性を持たせ、標的に向かって何度か屈折する仕様にした。

貴女の敗北は必至…死なないことを祈ってるわ。

 

『時は動き出す』

 

一つ指を弾き鳴らし、止まっていた時間が動き出す。

時間を再び動かした時、私は動いた分の運動エネルギーを消費する。

 

巫女の眼には一瞬にして無数のナイフが現れたようにしか見えていない。

ナイフは彼女の半径数十センチ以内に巡らせている。

これでーー

 

『《空を飛ぶ程度の能力》』

 

『なっ…!?』

 

どうして…どうして反応出来たの?

いや、それよりも今何をした?

彼女に向かったナイフが今、身体を貫かんとした刹那…巫女の中をすり抜けたーー!?

 

『博麗の巫女…貴女、なにをしたの』

 

『なにって、能力でナイフの攻撃から浮いたのよ。いきなり目の前にやたら出てきたから思わず使っちゃったわ』

 

攻撃から、浮いたですって?

なるほど…それが博麗の巫女の能力なのね。

思わず使ったという口振りから、私の止めた時間そのものを認識している訳では無いようだけど…これは不味い事になってきた。

 

『そう。厄介ね』

 

外面の上では何とか平静を取り戻して、巫女を打破する為の材料を洗い直した。

能力、体術、弾幕、地の利…どう再計算しても、今一歩巫女への決定打を見つけられない。

 

『あんたも大概でしょ。ナイフが急に現れたり瞬間移動したり…しかも私が気付かない間に。それも能力? だとしたら、空間を弄ったり時間でも操ったり出来る代物でなきゃ到底成し得ないわ…そっちこそ厄介よ』

 

おまけに感も鋭いときている。

確証がある訳でも無いでしょうに、そういうものだと彼女は勝手に結論づけた。

 

使用後の態度や呼吸のリズムから、巫女の能力にはリスクや条件にこれといったものは無いと分かる。

此方は時を止める度に反動を受けるのに、相性だけで言えば可もなく不可もなく。

けれど、使用限界がある私の方が不利だと悟った。

 

『あと…さっきから巫女巫女って、私には博麗霊夢って名前が有るのよ。冥土の土産に憶えておきなさい』

 

『霊夢…ね。名乗られたからには私も答えるわ…私は十六夜咲夜。貴女なら、天に召されても雲みたいに浮いていられるのかしら?』

 

視線が交じり合い、互いにふと笑みを零し合う。

不思議な気分…この戦いは私が力尽きるか、彼女の反応が遅れるかの千日手になるかも知れないのに、私には譲れないモノが有るのに。

 

『ちょっと楽しくなって来たわ!!』

 

『当たり前でしょ? 弾幕ごっこは、楽しいのが一番の醍醐味よ!』

 

ナイフと御札、時間と浮遊、それぞれの力と技、弾幕の嵐が激突する。

 

お嬢様…もし、貴女と私たちの誓いが果たされて、それでもなおこの楽園で生きられたなら。

私にとって…これ以上の幸せは無いかもしれません。

 

 

 

♦︎ パチュリー・ノーレッジ ♦︎

 

 

 

爆音と衝撃、それらが絶えず館に響き始めてから約三時間。異変と私たちの趨勢を決める戦いが、今もこの紅魔館で続いている。

 

『パチュリー様? 行かれなくてよろしいのですか?』

 

『ええ、小悪魔。咲夜が言っていたでしょう? 此処で待っていれば、咲夜が侵入者の片割れを図書館に誘導してくれるわ』

 

小悪魔は侵入者の報せを聞いてから挙動不審だが、私はそれを宥めつつ咲夜の言った片割れとやらの登場を待っていた。

 

『と〜〜〜〜〜〜ちゃくっ!!』

 

噂をすれば影。

奇声を上げながら、古めかしい魔女の装いの少女が私の前に現れた。

 

『此処がメイドの言ってた図書館だな!? うおおおおおおおお! すっげ、すっげえ! マジで本だらけーーーーん?』

 

『ようこそ、侵入者さん。貴女も本がお好き?』

 

そう告げて迎えると、デスクに座った私と小悪魔を交互に見て、彼女は抜けるような笑顔で応答した。

 

『ああ! 本は大好きだぜ、特に貴重な魔導書とかな!』

 

やはり、彼女も魔道に身を寄せる者なのね。

同業者には暫く出逢っていなかったから、少しくらいもてなしても良いかも知れない。

 

『それは気が合うわね。良かったら、何冊か読んでみるかしら?』

 

『良いのか!?』

 

『構わないわ…私も魔法を研究して、魔女になってから随分経ったけど、気持ちはよく分かるもの』

 

不器用ながら微笑んで返すと、箒に跨って飛んできた少女は望外の喜びのように跳んで跳ねていた。

 

『それに、丁度お茶を飲んでいたの。貴女も飲む?』

 

『頂くぜ!』

 

『そう……ならこっちに座りなさいな』

 

『ど、どうぞ…私が淹れた紅茶なので、その…粗茶ですが』

 

小悪魔がおずおずと白黒の少女にカップを差し出す。

図書館の備品として置いてあった椅子に彼女は腰を下ろし、出された紅茶を一口、二口と嚥下した。

 

『私は霧雨魔理沙。赤い霧を起こした原因が此処だって分かったから来たんだが…どうやら私の出番はないみたいだぜ』

 

『パチュリー・ノーレッジよ…それは何故かしら?』

 

『うん…一つはまあ、私の友達がいるからかな。アイツ滅茶滅茶強くてさ。あの門番、美鈴…だよな? 弾幕ごっこと言ったって、美鈴の攻撃に掠りもせずソイツは圧勝だったわけよ…私も負けたくないから色々やってるけど、まだ勝てたこと無くてさ』

 

美鈴が、一発も当てられずに負けた…?

拳法や武器といった近接が主体の美鈴が、幾ら弾幕ごっこが苦手とはいえ。

 

『まぁ…正確には、美鈴が私とその友達、霊夢って言うんだけどさ? 私たち二人を相手にするって言い出してな。結局、私は弾幕を避けるだけで何もしなかったんだが』

 

『……馬鹿ね、美鈴。貴女一人で背負うようなモノでもなかったのに…頑張って、くれたのね』

 

私は魔理沙を前にして、堪えきれず目頭が熱くなってしまった。側に控えてくれている小悪魔も、今にも溢れそうな涙を必死に耐えている。

 

『それでさ…最初は私も無謀だなあとか他人事みたいに思ってたんだけどーー』

 

『だけど?』

 

『うん。異変解決しに来といて何考えてんだって話だけどさ…綺麗だったんだよな、アイツの弾幕。妖力尽きかけて死ぬかもしれないってのに、私たちを通すまいとして必死にさ。苦しくても辛くても譲れないって叫んだ美鈴が、カッコイイなって思っちまったんだよ。そしたらさ、弾幕も撃ち返さずに避けるだけ見てただけの私なんて……戦う前から負けてるじゃねえか』

 

美鈴…本当に、本当に馬鹿な娘。

愚直で、妖怪の癖に情に篤くて…実に見事だわ。

それこそ…紅魔の門番に相応しい大活躍だったのね。

 

『ありがとう、霧雨魔理沙。美鈴の勇姿を、私たちに教えてくれて』

 

『ひぐっ…うっうぅ…! 美鈴ざぁん!!』

 

『お、おい! 美鈴はメイドが間一髪のところで助けたみたいだからさ! そんな泣くなよ!?』

 

はたと横を見ると、小悪魔はもう顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまっている。

語ってくれた魔理沙も小悪魔の余りの号泣ぶりに慌ててしまっている始末だ。

 

小悪魔が泣き止むのを待つこと数分。

涙鼻水塗れの顔を洗って来ると告げて小悪魔は席を離れ、図書館には私と霧雨魔理沙の二人きりになった。

 

『参ったぜ…直接見てた私より感情移入されちまった』

 

『当然と言えば当然よ。私たちは生まれも育ちも違うけど…紅魔に住まう者は皆、お互いを家族として見ているから。勿論私もね』

 

『そっか…家族か』

 

私の言葉に、霧雨魔理沙は否定も肯定もしない。

ただ彼女の眼は何処か遠くを見つめていて、此処にいない誰かを想っているようでもあった。

 

『それで…最初の話に戻るのだけど、霧雨魔理沙』

 

『魔理沙でいいよ。私もパチュリーって呼ぶから』

 

『じゃあ、魔理沙。貴女は、今後此処の蔵書を無条件に閲覧して構わない。此処で読むも良し、自分の工房に持ち帰るも良し…けれど、一つだけ提案が有るわ』

 

魔理沙には、この提案を是非飲んで貰いたい。

美鈴の姿に感じ入るものがあった貴女だから、他者の努力と奮戦を認められる貴女だから。

人も妖怪もない…心の光を汲み取れた貴女なら。

 

『異変解決を諦めるってのは、無理だぜ? もうこの異変は完全に霊夢の管轄だ。かと言って私は、今更パチュリー達に手を貸すことも出来ない』

 

『いいえ、魔理沙…貴女にはーー』

 

貴女は美鈴の姿を見て、その勇姿を認めてくれた。

友人の強さを知っていて、自分が追い掛ける側だと貴女は正直に語ってくれた。

だからこそ、魔理沙。そんな心の強さを持った貴女にーー

 

 

 

『フランドールを…私たちの家族の心を、貴女に救って欲しいの』




今回はこれまでより文字数少なめでお送り致しました。
コウの出番がないとこんな風になるのですね…。
次回が明らかに長くなりそうでしたので、切り上げられるところでやっておかないとと言い訳を少々。

気合い入れて、次回を執筆したいと思っております!
読んでくださった方、誠にありがとうございます!

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