彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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遅れまして、ねんねんころりです。
今回から緋想天編を始める事となりました…此処まで来れたのも御愛顧下さる皆さんのお陰、深く御礼申し上げます。

この物語は、今回はかなりコミカルな話の構成、場面転換多し、厨二?全開な稚拙な文章でお送りします。

それでも読んで下さる方は、ゆっくりしていってね。


緋想天編
第六章 壱 各々、欲を掲げた舞台で


♦︎ レミリア・スカーレット ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーー以上が、本日取り決めました内容の総括で御座います』

 

『それで決まりとしよう。では、これにて会議を閉会する…皆戻って頂戴』

 

咲夜の報告と最後の纏めが終わり、紅魔館の主だった面々の内何人かが戻って行く。残ったのは私と咲夜、そして美鈴の三名…パチェとフランは魔理沙と約束がある様で、そのまま図書館へと行った。

 

『宜しいんですかね? 八雲さんは快く了承して頂いたみたいですが…殺傷以外は何でも有りだなんて』

 

『どうした? 紅美鈴とも在ろう者が、自らの土俵で戦えるというのに』

 

明日に控えた変わった催しを前に、我が家の代表の一人である門番は些か乗り気で無いらしい。対して私と咲夜は意気軒昂、半ば勝利を確信してさえいる。

 

『いえ…この様な機会にお誘い頂けたのは光栄なのですが、霊夢さんや魔理沙さんも出るのに』

 

『私や妖夢、鈴仙だって出るわ…細かい事は気にせず腕試しと思って臨みましょう?』

 

催しというのは、コウの一週間の生活サイクルの内僅か二日間をどう手に入れるかというモノだ。各陣営毎に、彼に長らく自分達の側に留まって欲しい理由を持っている…太陽の丘から風見幽香、永遠亭から優曇華院という兎と蓬莱山輝夜、守矢神社からは東風谷早苗、白玉楼からは魂魄妖夢、加えて伊吹萃香の参戦も実しやかに噂され…そして博麗神社からは八雲紫と、奴に巻き込まれる形で霊夢と魔理沙が出場する上に秘密の参加者二名が加わるとの事。

 

しかし我々からは、一線級の戦力が三名も出せるのだ。勝利は粗決まっている…フランドールは能力の都合で不参加が本人から表明されたのは痛いが、問題は無い。

 

『仮に実力のある何名かの選手と当たっても、我らの内一人が最後に立っていれば自ずと結果は見える…クックック、景品は貰ったぞ』

 

『ですがお嬢様、懸念されている風見様、八雲様、伊吹様は兎も角…他の出場メンバーも油断大敵です』

 

『分かっているさ、だからと言って後退は無かろう?』

 

あともう二名、八雲紫からは秘匿されている人物が居る。素性も定かで無い不確定要素の塊だが、総数十四名で鎬を削ろうとも紅魔館が勝利する…コレは運命ではない、確固たる決意だ。

 

『クックックックッ…負け犬共の吠え面が眼に浮かぶわ』

 

『あのー、咲夜さん…何でお嬢様はこんなに自信たっぷりなんですかね? 資料を見る限り、どう考えても一筋縄じゃ行かない面子ばかりなのに』

 

『大丈夫よ…私達は負けない。今回は勝てるわ』

 

『ええー……』

 

来たる催しの日の為、八雲紫には私の土俵である夜を日中に再現する事も許可させた。ルールを決める折に、他の陣営の進言も有ってその手段は一度しか使えないが…唯一度、一度で良い、数居る楽園の徒の中で誰が夜の支配者であるのかを示せれば。

 

威を示す事こそが私の、我々の勝利。各陣営の戦力を比較すれば、私は妖怪の中では未だ若輩ながら恵まれた友、強き家族を有するアドバンテージが有る。この要素を活かさぬ手は無い…風見幽香、八雲紫、鬼に亡霊に異変解決者が何する者ぞ。殺し合いさえしなければ…私には日中に行われる事以外が有利に働く条件しか残っていない。

 

『見せてやる…産まれながらに罪深く、忌まわしき者と称されたヴァンパイアの有り様をーーーークックックックッ…クッハッハッハッハッハッハッ!!』

 

運命は定まらぬも、催しの結末が往々にして楽しくなるのは分かっている。手繰り寄せる未来は何れもが紅魔にとっては都合が良い。

 

戦け、竦め、西洋妖怪最強種族の逸話は伊達では無いぞ。喉元に喰らい付かれる時を伏して待つが良い。あわ良くば二日分の彼との時間を全て紅魔で独占してやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほんっとーに大丈夫なんですか? お嬢様は』

 

『……何だか心配になって来たわ』

 

『そこ! 要らぬ茶々を入れるんじゃない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ 鈴仙・優曇華院・イナバ ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま戻りました』

 

『お帰り鈴仙、明日の催しの件だけど…姫様だけでなく貴女も出場するって事で決まったから』

 

『はぁ…やっぱりそうなりますよね』

 

師匠は、何方かと言えば実力はコウさん側なので参加は許可出来ないと八雲さんから言い渡された。門前払いされた手前、師匠の性格からして私と姫様を出すに決まってますよね…妹紅さんには断られたみたいだし。

 

八雲紫さんが、西行寺さんとレミリアさん主導で考えた催しの報せを各勢力に向けて出したのが…直近の守矢神社で起こった異変からひと月ほど経ってからだった。

 

永遠亭は今では幻想郷で公認の薬局、医療機関という立場を確立して…生活はこれまで以上に安定した。私にとっては平穏が手に入ったのも束の間、姫様と師匠が催しの内容を前に凄くやる気になってしまったのがウチの事情だ。

 

 

 

【九皐様宅の管理体制に難有り 原因は日毎に行われる各陣営の無差別な彼の召還であるとし、以上の理由を以って彼のヒトの生活圏の安定と心安らかな日常の確保の為、以下の催しに参加する陣営から上位三名に宅の管理と補助を任せる 催しの内容は参加者同士の一対一の真剣勝負 勝ち抜けにより選出を行い、敗退した者は後の管理体制に直接関与を不許可とする ルールは簡単 弾幕、格闘何でも有り 殺傷のみ硬く禁ずる 各人奮って参加されたし】

 

 

 

という書面がにべもなく、何処からかスキマなる裂け目を通って送られて来たらしい。文面だけならコウさんを助ける事になるが、要は彼と一緒に居たいヒト達が彼の僅かな一人で過ごせる余暇を占有する為に行われる残虐ファイトといった所だ。因みに師匠と姫様は、

 

『由々しき事ね、彼の自由をこれ以上遮るのは捨て置けないわ』

 

『全くよ! 他の連中は手籠めにしたいのか知らないけど、これじゃあんまりじゃない!』

 

などと義憤に満ちた言葉を吐いてはいたが…私は知っている。首位を独占した暁には彼の自由時間を確保した上で自分達との交流をどれだけ多くして貰うかを夜な夜な話し合っている事実を。どっちもどっちで傍迷惑な事この上ない。

 

『かわいそうです…コウさん。飢えた女豹どもにこれ以上蹂躙されるかもしれないなんて』

 

『何か言った? 鈴仙』

 

『いいえ何も!』

 

妹紅さんは、送られた書面の内容を知るや否や永遠亭を飛び出して《女って怖ぇ…》という捨て台詞と共に何処かへ走り去ってしまった。貴女も立派な女性でしょうに…ウチは名目上は彼の自由を守らんとする意思の下参加するので…そう悪い結末にはならないーーーー筈だ。頼むから師匠と姫様には自重して欲しい…姫様と一緒に出場するのは私な訳だし、何より個人をモノ扱いするのは頂けない。

 

『師匠…私から一つお願いが』

 

『何かしら?』

 

『私が三位以内に入れたなら、コウさんにはお一人でゆっくりする時間をちゃんと差し上げたいです…余りにも不憫で。どうか聞き届けて貰えませんか?』

 

私の意図を理解してくれた様で、師匠は顎先に手を当てて暫く考え込む様な仕草を見せると…思ったよりすんなりと私の意を汲んでくれた。

 

『そうね…確かに悪巫山戯も良い催しだから、貴女が上位に食い込めたら好きな様になさい』

 

『あ、ありがとうございます!』

 

思い立ったが吉日、そうと決まれば早速準備しなければ! 道具の持ち込みや薬品の所持は禁止されていなかったから、アレもコレも色々と必要になる。

 

『待っていて下さい! 私達が必ずや首位を獲り、コウさんの安息を守ってみせます!!』

 

参加者がどんな顔触れか知らないけど、近代戦術の基本は情報と物量と作戦の出来で決まる! 誰と当たっても勝つ為に自室の押し入れから何かしら引っ張り出さなきゃ!

 

『若いわねえ…本人がやる気なのは良いけれど、あの娘昔からくじ運が悪いから怪我しないか心配ね』

 

遠巻きに師匠が何かを呟いていたが、この一ヶ月ちょっとで成長した自分をコウさんに見せる為、何より彼をお救いしようと駆け出した私には…当日にぶち当たる事となる相手の強さなど知る由も無かった。

 

『よおおおし! 元軍人舐めんなよぉおおお!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ 魂魄妖夢 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫様から送られてきた文から、先生の一大事で有ると今更になって私は焦っていた。一ヶ月ほど前…咲夜と一緒に先生のお屋敷へ行って、先生にもっと稽古を付けて貰おうと帰ってから幽々子様に相談を持ち掛けたのが完全に裏目に出てしまったのだ。

 

文の内容にはレミリアさん、紫様の個人的な思惑が窺い知れ…それには幽々子様も一枚噛んでいそうな素振りだったのが私の罪悪感に拍車を掛けた。

 

『勝てば…首位に残れば、先生の御為に決定権を得られるのか』

 

『妖夢…まだ悩んでいるの?』

 

屋敷の縁側で、呑気にも茶を啜りながら此方を見てくる幽々子様は私の懊悩を見透かしたが如く口を開く。

 

『はい、私が勝ちさえすれば…それで丸く収まるとはどうしても思えません。何か、別の意図も見え隠れしている様な』

 

『ふふ…貴女も私が知らない間に、随分と聡くなってくれたのね? 嬉しいわ』

 

幽々子様の仰った言葉の意味は良く分からなかったが、こんな気持ちでは確かに勝てるものも勝てない。先生も言っていた…謙虚さは美徳だが、時には大胆不敵に笑って見せるのも必要だと。ならばーーーー

 

『フフフ…あっはっはっはっはっ!』

 

『え、なになに!? どうしちゃったの妖夢!? 何か悪いモノでも食べたの!?』

 

『違います!』

 

幽々子様では無いのだから、人の目を盗んで摘み食いして可笑しくなる訳有りません! 兎も角…無理矢理にでも笑った所為か細かい悩みは一先ず頭の隅に流せた。結論から言うと先生はやはり偉大な方で、そんな先生の少ない自由時間を奪わんとする輩は私が斬って捨てれば良い。此度の催しは真剣による直接的な攻撃も殺しさえしなければ有効なのだ…この機を逃す手は無い。

 

『勝ちます!! 魂魄妖夢が必ずや、先生の自由と更なる稽古時間を手に入れて見せます!!』

 

『ああ…成る程、頑張ってね妖夢! 私も応援するわ!』

 

『はい!! 妖怪が鍛えし我が剣と、先生の偉大なる教えの前に…斬れない物など殆ど有りません!!』

 

『わーわー!!』

 

大きな拍手で締めてくれた幽々子様に、失望されない成果をご覧に入れねば…先ずは明日に向けて素振り千回、屋敷周りの走り込み二十週、その後は幽々子様の御夕飯作りです!

 

『あ、そうだわ妖夢…何だかね、紫に直談判して急遽参加する事になった人達があと二人居るらしいの。今の貴女なら余程の相手で無い限り遅れは取らないでしょうけど、気を付けてね?』

 

『お任せ下さい! それでは、此れから稽古致しますのでーーーー失礼します!』

 

催しの開催は明日…稽古と家事の後は確りと眠って身体を休めなくては、身元不明の二人の参加者、誰であろうと関係無い。鬼も吸血鬼も太陽の丘の大妖怪も…紫様は……否、打ち勝つ他無し! 皆須らく倒す! 咲夜も霊夢も魔理沙も降して、先生と平和に稽古出来る今まで通りの日常を手に入れる!

 

『此処は大事を取って、型の反復練習も追加です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、とある催しによって博麗神社に招かれて今に至る。広々とした境内には、今日の為に集まった見知った者達によって周囲を取り囲まれている。宴会では無いとだけ聞き及んでいたが…如何やらこの集まりの発端は私に有るらしい。

 

『して、射命丸よ…何故君と私は席に座って、彼方の少女達を眺めている?』

 

『ええと、それはですね…九皐さんの御自宅の管理を、どの陣営が御手伝いするかという議題で揉めたみたいで』

 

『何だそれは…何故私の知らぬ所でその様な問題が起きた?』

 

『とにかく!! 最早止める術は御座いません! 此処は一つ、私と一緒に今回の不毛なーーーーいやさ、面白いーーーーいえいえ! 皆さんの健闘を観戦しようでは有りませんか!! あ、この席では私が実況、九皐さんが解説ですよ! 頑張りましょう!!』

 

捲し立てられた言葉の半分も理解出来なかったが…境内の中心で集まっている皆は催しとやらの参加者だと言う。解説という役は私が担う様だが、恐らく…彼女達は戦うのだろう。集まりの前には紫が居る事から、厳正な決まりを設けて行われると見た…暫し見守るとしよう。

 

『御集り頂いた、今回の催しの参加者には始まる前にくじ引きを行って貰います。ルールは書面に載っていた通り、弾幕、武器や素手による直接攻撃は殺傷しない範疇なら何でも有りです…それでは、早速対戦カードを決めましょう』

 

粛々とした妖怪の賢者の声に、皆が並んで籤を引くという奇妙な光景が完成する。私は完全に蚊帳の外だが…一部の者が私に向ける視線の熱が激しいのを考えると、屋敷の管理手伝いとは別に豪華な景品の一つでも進呈されるのか。

 

『全員引き終わりましたわね』

 

『なあ紫…何かクジ引きが余ってないか?』

 

『これで良いのよ…それでは天狗さん? 抽選結果を読み上げて頂戴』

 

列の前方で控えていた伊吹が紫の手元に残った籤を見て進言したが…構わず射命丸にスキマから一枚の紙が送られた。中身を改めた彼女の表情が、瞬く間に歓喜と恐怖、憐れみと愉悦の入り混じった度し難い顔に豹変する。

 

『で、では読み上げます! 一回戦、東の方ーーーー紅美鈴さん!!』

 

『お、おお? いきなり私ですか…緊張するなぁ』

 

周囲から歓声と、雰囲気に呑まれた故か一部狂気の沙汰とも思える絶叫が上がった。美鈴か…彼女の稽古にも度々付き合っているが、格闘有りの条件で彼女と当たるのは初回から難行と言える。

 

『続いて西の方ーーーー東風谷早苗さんです!!』

 

『え!? 私ですか!? うう、知らない妖怪さんです…こんな事なら最初から能力で奇跡のシード権を手に入れておけば…』

 

『紫さんから頂いたルール表によると抽選による引き直し又は故意の改竄は失格案件となるのでやめて下さい! それでは進めて参りましょう! 一回戦第一試合、紅美鈴対東風谷早苗、両選手入場です!』

 

射命丸の円滑な仕切りによって、呼ばれた両名以外の選手は皆境内に設置された舞台から遠ざかる。真四角の舞台端に白色の線が縁取られており、試合開始後に舞台からの退場は失格となる……と射命丸の持つ冊子に記載されている。

 

『第一試合ーーーーーー試合開始!!』

 

何時から用意していたのか…藍が片手に持った撥を太鼓に打ち付け、快音と一声の下に試合が開始された。しかしながら…急遽始まった試合を前に双方の反応は対照的だった。美鈴は俯瞰した視線を早苗に投げ掛けて緩やかに構えを取り、早苗は美鈴を視界に捉えてはいるものの挙動不審だ。

 

『あわわわ…もう始まっちゃいました…』

 

『ーーーーーー行きます』

 

『ふぇ??』

 

十尺程の距離を置いた立ち位置から、美鈴の迅速な行動から火蓋が切られる…構えは静かに、されど動きは俊風の如く。疾駆する門番の威圧感に早苗は硬直していた。

 

『ちょっと痛いかも知れません』

 

『くっ…秘術ーーーー』

 

早苗が手元に出した一枚の札が輝いた直後、美鈴の姿が早苗の視界から消え失せる。低く、相手の腰より頭を低くして下方から突き上げる様に繰り出される拳術家の掌底が早苗の腹部に届いた。

 

『内勁ーーーーーーちょっと弱め!』

 

『うきゃあああああああああッ!?!?』

 

腹部に添えた掌から発せられる勁力…即ち気が風を巻き起こし早苗を吹き飛ばす。対応が遅れた早苗は飛行する間も与えられず場外へ躍り出た。

 

『おっと…相手が近接に長けた相手だったのは、運が悪かったね早苗』

 

『うきゅー……』

 

『ーーーーそれまで! 勝者、紅美鈴!』

 

地面に飛来する早苗を受け止めたのは、私と同じくこの場に呼び出された八坂神奈子。一方場外に出された早苗は意識こそ絶たれたものの、発気により対象の気の循環と均衡を崩されただけで外傷は無かった。

 

『じょ……! 場外!! 早苗選手此処でまさかの敗退です! というより相手が悪過ぎたか? いやいやそれよりもどんな手品だ!? 伏兵とは正に彼女、紅魔館の紅美鈴選手! 余裕の一回戦突破だああああああああ!!』

 

射命丸の声に煽られて、周囲から歓声が再び上がる。参加者の中には目元を鋭く美鈴を睨む者、揚々とした態度を崩さず流し見て彼女を観察する者と様々だ。

 

『解説の九皐さん! 一瞬の出来事でしたが、何か感想などは有りませんか?』

 

此方に御鉢が回ってきたな…美鈴の本来の実力を知らない者が多い観客には、見所が無かったので茶を濁せという振りか。

 

『うむ…相手の心理状態が整っていなかった為に成功した奇襲だが、一連の動きを可能にしたのは美鈴の実力だ。相手の虚を突き、一撃を可能にしたのは日々の鍛錬と、己の能力を熟知しているからこそ』

 

『す、凄い高評価ですね…意外とは申しませんが、美鈴選手は斯様に実力をお持ちで?』

 

『当然だ。スペルカードルールだけならいざ知らず、美鈴は遠近熟せる素晴らしい門番だ。本人も武を極めているのに加え、気を操り読む事の出来る能力…早苗が気後れして生まれた刹那の隙が勝敗を分けたな』

 

私が粗方話し終えると、周囲の空気が俄かに硬くなるのを感じる。評された当事者は照れ臭そうに舞台で会釈を済ませて、控えに待っているレミリア嬢達の方へ向かって行った。

 

『流石は我が家の門番ね。滑り出しは実に快調よ』

 

『ありがとうございます! 二回戦も頑張りますので、お嬢様と咲夜さんも御武運を』

 

『格好悪い姿は見せられないわね…でも、私は四試合目だから出番はもう少し先よ。その時になったら頑張るわ』

 

紅魔館の陣営は気合十分…この催しに対する想いが三者の掛け合いからも伝わって来る。早苗は神奈子に担がれ、諏訪子に介抱されつつ境内の端に陣取られた床敷きで眠っている。

 

『早苗選手も反応は悪く無かったですがねー、いやはやとても残念です。さて! 続いての第二試合の対戦カードを読み上げます! 先ず東の方ーーーーこれは!?』

 

『何だ何だ? 空から何か降って来るぞ?』

 

『鳥か!?』

 

『虫か!』

 

『いや…アレは人間、なのか?』

 

突如として…空から小さな影が一つ、二つと降りて来た。一人は変わった見て呉れの剣を片手に青みがかった長髪を靡かせて悠々と仁王立ち、もう一人は長髪の彼女に寄り添う形で静かに着地した。

 

『こんにちは皆さん! 私達は此度のイベントに招かれた、歴とした参加者よ!』

 

『総領娘様…? 元気なのは大変宜しいのですが名乗りませんと、ほら、皆さん唖然としてますよ?』

 

『ん? そうだったわね…初めまして、《比名那居 天子(ひななゐ てんし)》よ!!』

 

『お目付役の《永江 衣玖(ながえ いく)》と申します…以後お見知り置きを』

 

『という訳だから、飛び入りの二人の番号も後で読み上げて頂戴』

 

天子と衣玖…長髪に桃が付いた奇抜な帽子の少女と、羽衣に似た何かを纏う此方も帽子を被った少女二人は自らを参加者だと告げて、紫もまた疑い無く認めた。

 

『は、はあ…では仕切り直して、第二試合東の方ーーーー博麗霊夢さん!』

 

『私か…だるいなあ』

 

『続いて西の方ーーーー鈴仙・優曇華院・イナバさん!』

 

『ひいいい!? ど、どうして行き成り霊夢さんと…!!』

 

予想よりも、早い登場となった霊夢に対するは鈴仙と相成った。二人は永夜異変の折に戦う機会こそ無かったが、多くの異変を解決して来た霊夢の相手が鈴仙というのは…明らかに鈴仙が不利と見るべきだ。

 

果たして…全く読み辛い対戦表の連続に催しは完遂出来るのだろうか、不安を禁じ得ない。一際目を惹くのは…藍に連れられて控えの座敷に着いた二人の来訪者。

 

『ふふん…さっきの登場、ばっちり決まったわね』

 

『そうですね、でももう少し大胆に決めポーズ等を交えても宜しかったかと愚考致します』

 

天子と衣玖…定かでは無いが、双方の纏う気配は妖怪でも無ければ人間とも言い難い。だのに天子なる少女の持つ剣が酷く私の興味を唆る。

 

『ひょ!? ねえ衣玖…なんか解説って立て札の席に座ってるヒトが私を見てるわーーーーも、もしかして評価が下がったりするのかな!?』

 

『いえいえ、きっと余りにも見事な登場だったので…総領娘様が戦われるのが待ち遠しいのですよ』

 

うむ…強ち間違いとも言えないが、催しの規定に評価点などというモノは存在しない。自信に満ちた喋り口に反して面白い事を言う…傍らの凛然とした衣玖なる少女も中々洒落が効いている。

 

新たな徒にばかり気を取られていたが…射命丸の合図によって直に二試合目が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

『ではでは! 一回戦第二試合、博麗霊夢対鈴仙・優曇華院・イナバーーーーーー開始です!!』

 

 

 

 

 

 

 





如何だったでしょうか。正直な所淡々とした文章を書くのは苦では無いのですが、コミカルだったりクスリと笑いを誘う文章には全く自信がありません。

ピーマンちゃん可哀想でしたね…美鈴はこの物語では弾幕ごっこ以外ではかなりの実力者という設定です。これからまだ美鈴の見せ場が増えますので、暖かい目で見てやって下さい。

原作緋想天から今話への切り口を掴めず、だったら最初からオリジナル展開で行こうと考えてこうなりました。

長くなりましたが最後まで読んで下さった方、誠にありがとうございます!

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