彼は幻想を愛している   作:ねんねんころり

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遅れまして、ねんねんころりです。
今回は軽めの後日談と、次章への布石を少々。
この物語は駆け足の展開、空回りしているモチベーション、厨二マインド全開でお送りしています。

それでも読んでくださる方は、ゆっくりしていってね。


第三章 終 招待状

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

 

 

後に春雪異変と射命丸が名付けた二度目の異変から、早くも数日が経過した。昨日冥界で行われた宴会は盛大の一言で、冥界で関わった者は勿論…紅魔の面々や伊吹、射命丸、幽香にメディスン、アリスに無関係な者も数え切れぬ程の顔触れが揃っていた。

 

『楽園の少女達は、余程宴会が好きらしい』

 

中でも意外だったのは、霊夢、魔理沙、十六夜、妖夢の四名がいつの間にか意気投合し個人で交流を持つに至った。

 

人間だからこそ通じ合う物も有ったのか…各々が特別仲が悪い訳でも無いが、各勢力の代表を務めるレミリア、伊吹、紫、西行寺、幽香は目に見えぬ火花を散らしていたのを憶えている。

 

私が理由を尋ねると…多くの者が跋の悪い表情で茶を濁して酒を勧めて来る。

 

『そういえば、今日はまた冥界に顔を出す約束だったな』

 

話は宴会の最中に遡る。

西行寺が突然私の背後に腕を回し酔っ払いもかくやといった風な口振りで、

 

『九皐さまー? お願いしたい事がありますので、明日もどうか白玉楼へいらっしゃって下さいなぁ』

 

と誘われたので…今は冥界の白玉楼で西行寺と共に妖夢を待っている。

 

『して、妖夢を待つのは良いが…何故私を呼んだのだ?』

 

『来て頂いたのは、妖夢の事です。あの子は、今でこそ庭師及び私の剣術指南役を立派に務めていますけど…先の異変でも九皐様だけでなく魔法使いの、魔理沙ちゃんとも引き分けたのを内心気にしているみたいで』

 

なるほど…いや、全く分からん。

そも魔理沙と妖夢では土俵が違う。魔理沙は魔法やそれに纏わる道具を弾幕ごっこに用いるが、妖夢の剣術は他者を護り、時に殺める事態も想定して研鑽を積んだモノだ。

 

近接戦の技術は、スペルカードルールの決闘で有利に働く機会は殆ど無い。西行寺もそれらを承知していて尚妖夢の話を切り出したとなれば。

 

『…私に妖夢の稽古に付き合えと』

 

『お嫌ですか?』

 

長らく冥界の管理者として座す筈の西行寺は、困り果てた様な、何も知らぬ素直な子供が残念がっている様な顔で此方を見詰めて来る。

 

態とか素なのか…彼女の要求には異変での馴れ初めも有って断り辛い。かといって今日は特に予定も無いので、彼女の頼みを聞くのも吝かでない。

 

『構わない。しかし…何故私なのだ? 相手になるだけなら他にも候補は居ただろうに』

 

『それは九皐様が、妖夢相手では死に様も無い上に暇かなと思ったからですわ』

 

内容は兎も角、歯に衣着せぬ物言いは好ましい。

華やかで嫌味の無い笑顔が、言葉と相まって凄まじい落差を生じさせる。

 

個性的な亡霊だと感慨に耽っていた所に、件の妖夢が刀を携えて現れた。

 

『お待たせしました! 本日は、御足労頂いてありがとうございます!』

 

『気にするな。早速相手をしよう…場所は庭で良いのか?』

 

『はい! 宜しくお願いします!』

 

快活な返事は実に心地良い。後は、彼女が今日だけで何か掴めるかが肝要だが。

 

枯山水の端、屋敷の正門にほど近い場所で妖夢から距離を取る。冥界で再び遭遇した時と同程度の距離感…彼女の抜き放った二刀は見事な造りで、此方を相手取るにも充分な代物だと窺える。

 

『二度目にお逢いした時、私の一刀は貴方を討ち取るどころか傷さえ付けられませんでした…己の未熟に恥じ入るばかりです』

 

『そう捨てた物ではない。踏み込みの速さと抜刀術には眼を見張るものが有ったぞ』

 

『恐縮です…』

 

事実、妖夢は決して弱くない。むしろ魔理沙や霊夢と遜色無い実力を持っているが、如何せん謙虚過ぎる。

自信という部分が欠如しているのだ。

 

『問答は此処までだ、来い』

 

『全力で行きます!』

 

彼女から鋭い剣気が放たれる。纏う意気は申し分無い…後は持てる技をどう形にするかだが。

 

『う…くっ』

 

『どうした? 遠慮するな、集中しろ。私以外のモノは意識の外へ流せ…剣身一体とせよ』

 

私の発する気配に震える手元に力を込めて、妖夢は奔った。やはり初動は迷いが無い…真っ直ぐ此方へ向かって切り込んで来る。

 

『せやっ!!』

 

『その調子だ』

 

二刀を交互に振るい、俊速の剣撃が繰り出される。

それ等を素手で受け止め、妖夢の癖を私も見定める。

 

『やあああっ!!』

 

鉄同士が弾き合う様な音が腕と刀の間で生じるも、彼女は怯まず休まない。時に半霊を突進させて此方の反撃を阻害し、本体である妖夢の間隙を埋める。

 

しかし、気になる所を見つけてしまった。

動きが素直なのだ…剣の型の多さから判断は難しいが、攻撃ばかりで単調と言い換えても良い。

 

剣、剣、半霊、剣、剣、剣と一定の間隔で半霊による多方面からの追撃が織り交ぜられている。

 

まるで、敵の反撃を察知した途端無理やり潰しているかの様だ。

 

『妖夢、それでは駄目だ』

 

『えっ!? きゃあっ!』

 

半霊の突撃を右肩に喰らったまま、たじろいだ半身を利用して右脚から回し蹴りを見舞った。

腰を横薙ぎにされ妖夢は吹き飛ぶが、空中で体勢を直して何とか着地する。

 

『はぁ…はぁ…駄目というのは…どの部分が』

 

『君の動きは、少々自分勝手だ。相手に攻撃を仕掛け続ける事と、反撃を恐れて我武者羅になるのとでは意味が違う』

 

『私は…半分は霊体ですが、半分は人間です。肉体は脆いのに、これ以外にどうしたら…』

 

『基本的な事だ。反撃されたなら、躱した上で攻撃すれば良い』

 

脇腹近くに受けた蹴りを反芻する妖夢は、得心がいったのか何度か頷き、再度二刀を構えて私を見据える。

 

『君なら可能だ。剣術だろうと、弾幕ごっこだろうと同じ事。成功すれば、死角から一撃を与えるのは容易だ…死中に活路を見出せ』

 

今度は私から距離を詰め、まともに当たれば生死を彷徨う程度の力に抑えて突きを放つ。恐怖に打ち克たねば敗北は必至、如何にして応えるか…妖夢の真価が試される。

 

『集中…集中…集中!』

 

答えは直ぐに返ってきた…先程までなら無理に押し切るか距離を取るかしていた所を、意を決した彼女は深く踏み込み超至近距離で拳に剣を合わせる。

 

『はああああああッッ!!!』

 

カウンターという言葉の通り…攻め込む時も攻められる場合も相手の挙動を注視し後の先に至る。私の懐、即ち必殺の間合いで二刀が振るわれる。

 

『……物覚えの良い娘だ、見事だったぞ』

 

『ーーーーあ、ありがとうございます!』

 

最終的に…彼女の二刀による一閃は刃を鷲掴みにされた事で届かなかったが、私の手には僅かに赤黒い血が流れ出していた。

 

『その感覚を忘れるな。人間相手ならば今ので事足りるが、妖怪の中には殊更頑丈な者や再生する者も居る』

 

『はい! 先生!』

 

『……先生とは私の事か?』

 

『あ! いえ、その…これはですね!』

 

思わず呼んでしまったのか、妖夢は頬を赤らめながら不審な身振り手振りで誤魔化している。

 

『ふふ…妖夢ったら』

 

『君の好きにしてくれ。先生でも、いっそコウと呼び捨てでも良い』

 

『いえ! せ、先生は先生です!』

 

縁側で座っている幽々子は、何処か昔を懐かしむ眼差しで妖夢を見守っていた。

 

『そうか…では、以上の教訓を踏まえてもう一度』

 

『はい!』

 

白玉楼で行われた妖夢との稽古は楽しくも瞬く間に過ぎ去り、帰る頃にはすっかり日も暮れて真夜中の帰宅となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ レミリア・スカーレット ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼の裏で浮かび上がる映像…断片的で、取り留めも無い幾つかの場所、何時かの時間、何某かの人物。

 

私の見る未来…可能性により分岐する運命はとても数が多い。千は下らず、万にも届く…なのに、此れ迄とは全く違う一つの流れが今回は有った。

 

七日後に起こる、確実に起こる或る出来事。それを止める事は可能だが、間違いだ。事前に止めれば…未来の道筋は更に混沌としたモノに変貌する。

 

兆しは、明らかとなるまで見送るしかない。

映像の中では、多くの者が彼の意図を計りかねて困惑していたが…唯一運命を見得る私だけが真意を知っていた。

 

【永き夜、今宵私は…万象喰らう禍と化そう】

 

紡がれた言葉は温かくも突き放す様で…それは誰の発した声なのか。映像に映る大いなる者は…何者かの抱く悲しき運命を嘲笑い、否定する。

 

空に吠える、静かで抗い難い深淵の意思は…いと高き月を心から蔑み訴えた。

 

【我こそが禍。我こそが深淵…此の身に宿る力に触れて、貴様等の蛮行を悔やむが良い】

 

彼の日、私達は…私と咲夜は選択を迫られるだろう。

彼の思惑に乗るか、反るか。答えなど端から決まっている…彼は強く、禍々しく、月光よりも輝く銀を備えた…私達に救いの手を差し伸べた男。

 

彼の者に助けを出さずして、どうやってこの想いを遂げられるものか。誰にも邪魔はさせない…異変の場に逸早く駆け付けて、開かるもの皆打ち倒し、彼の座す所へ辿り着く。それこそがーーーーーー。

 

 

 

 

『お姉様…何してるの?』

 

『…ん? ……フランか。ちょっと…不可解な運命の糸を手繰り寄せたのよ』

 

妖怪の山の麓、湖畔の先に居を構える紅魔館。

自室でふと垣間見た未来の予兆に頭を悩ませていると、最愛の妹がおずおずと訪ねて来た。

 

『お姉様の見る運命って、操ろうとしなかったら可能性として在るだけで…殆ど不確定なんじゃなかったっけ?』

 

『そうなのだが、今回は全く毛色が違うみたいでね』

 

そう答えると…妹は興味津々と言わんばかりに満面の笑顔で執務机に身を乗り出し、私を凝視する。

近頃、フランドールは日々が実に楽しそうだ…望んで止まなかった本当の宝を手に入れた。妹の心の平穏、得難い友、そしてーーーー大恩に報いるべき、気高き殿方を。

 

『何が見えたの!?』

 

『うむ…これは恐らく、次の異変ね』

 

『次? 春がどうのって異変が終わったばかりなのに…』

 

フランの言う事は最もだが…異変の開幕は直ぐ其処まで迫っている。そう思わずにはいられない…私の勘が告げているのだ。私の勘は霊夢と違って、不吉な事柄だけは妙に当ててしまう。

 

しかもこの異変…先の春雪異変と同じく人の手に余る何かが隠されている。面倒で、難解な、とても面白そうな何かが。

 

『決めたわ』

 

『わっ! 何なのいきなり…』

 

『咲夜! 今すぐ来なさい!』

 

『ーーーーはっ、如何されました? お嬢様』

 

急な呼び掛けにも即座に現れる、私の瀟洒なメイド長。

咲夜は部屋の中心に佇み、私が二の句を告げるのを伏して待っている。

 

『七日後、異変が起こるわ』

 

『異変…もしや、何かお見えになられたのですか?』

 

『そうよ…次の異変、私達も参加する! これは運命だ!』

 

高らかな宣言に目を丸くする妹と従者は、また何かやらかすのかと言いたげな雰囲気で私に視線を投げかけてくる。

 

『えー…また霊夢にボコボコにされちゃうよ? コウも怒るよ? きっと』

 

『違うわよ! 接戦だったし! …異変に加担するのじゃなくて、解決するの!』

 

『解決…お嬢様がですか?』

 

『無論…私と、咲夜でだ』

 

今度は呆れ果てた空気を漂わせる二人は、理解不能という表情のまま無言で返してきた。突き刺す様な冷たい空気は極めて居心地が悪いが、私とて酔狂で喋っているのでは無い。

 

『気紛れではない…必要な事だ』

 

発する言葉に剣呑な重さが加わると、咲夜とフランも漸く神妙な面持ちに切り替わる。

 

『主命とあらば、咲夜は何処までもお供致します』

 

『違うぞ咲夜』

 

天然気味で見当違いな可愛い従者に、率直な否定と注釈を付け加える。

 

『異変を解決するのは人間の役目だ…咲夜、お前が矢面に立ちなさい! 次の異変解決に失敗は許されない。故に私が、お前に手を貸してやる! 十六夜咲夜の勇名を…楽園中に轟かせよ! 良いな!』

 

『御心のままに、十六夜咲夜…必ずや解決してご覧に入れます!』

 

私の叱咤激励に触発され、自慢の従者は宣誓する。

七日後の夜が楽しみだ…月に関わる異変とあらば、我等に負ける道理は無い。

 

夜の王とその僕が月明かりの下で舞い踊り、華麗なる幕引きを演出するのだ。そう…運命は私達の手中に在る。

 

『……あの、二人とも…分かってると思うけど、まだ七日間も空いてるよ? ずっとその調子で過ごすの?』

 

『ーーーーーー』

 

『ーーーーーー、さて…咲夜。食後のお茶を頂ける?』

 

『あ、私もー!』

 

『………畏まりました、お嬢様方』

 

部屋から消え去る間際の咲夜は口元が緩んでおり、アレは恐らくツボに入って影で大笑いしていると私に予感させる。

 

欠点らしい欠点など無い瀟洒なメイド長だが…天然気味で笑いのツボが良く分からなくて、それでも健気で働き者だから。

 

家族の前でくらい無邪気に笑っても良いのに…変な所で真面目なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎ 九皐 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

稽古を始める前とは別人の様に自信を取り戻した妖夢から夕餉を勧められ、有り難く馳走になって屋敷へ帰ると…扉の前に一通の書面が差し込まれていた。

 

特段、気になる見て呉れの手紙では無い。白い封筒に、地図らしき紙面と本文を記した手紙の計二枚。

簡潔に、宛先である私に読めと物語っている様だ。

 

『手紙か…貰うのは何千年振りか、差出人はーー』

 

 

 

【拝啓 九皐様 春の陽気が幻想郷を包む今時期、いかがお過ごしでしょうか。突然ですが、誠に勝手ながら貴方様を我が家へ御招待したいと存じます。これをお受け頂けるならば、七日後の明朝に《迷いの竹林》へとお出で下さい。竹林への道程は地図を同封させて頂きます。それより先は私どもが遣わす者に案内をさせますので…どうか、《永遠亭》への御来訪を心よりお待ちしております。 八意 永琳(やごころ えいりん)

 

 

 

うむ…差出人の名は八意永琳なる者らしい。何時の時代かに聞き及んだ気もする。

 

顔と名前が一致しないのは歳の所為か、又は印象に残らぬ人物だったか…名に用いられた字や響きから女性だというのは分かるが、どうにも思い出せない。

 

達筆であり礼儀も弁えた手紙だが、竹林へ来いとは何事なのか。心より待つと書いてある為、青々として立ち並ぶ竹の雄々しさを、緩りと見て回る余裕も無さそうなのは惜しい。が…それは置いておこう。

 

手紙からは送り主の滲ませる《負》の要素が感じられない。悪意を以って書かれたモノなら、適当に遇らって終わりに出来たというのに…文面通りの真摯さが伝わって来るのが不可解だ。

 

一体…八意永琳と私は、何時何処で出逢ったのだろうか。

何れにせよ、私の勘違いか物忘れかは…永遠亭へ行けば分かる事。

 

『七日後か…私に宛てた手紙故、誰かに見せて確認するのも居た堪れない。行ってから、八意某の意図を探るとしよう』

 

独り呟きながら扉の取手に触れた直後…意識が別に向いていた事も有ってか、中に何者かの気配が感じられるのにたった今気が付いた。

 

よく見れば居間の辺りに光が灯っている。

気配の主を直ぐに解明すると、何の疑いも無く扉を開けた。

 

『お帰りなさい、コウ』

 

『ただいま…幽香。どうして君が?』

 

芳しい花の香りと手元に置かれた日傘、肌を撫でる膨大な妖力。其れ等を併せ持つ美しい少女は、柔らかな笑みで私を迎える。

 

『貴方の家を、一度見てみたくてね。夜分に失礼とは思ったけれど…いけなかったかしら?』

 

『何を言う…君に出迎えられて、私はとても幸せだ』

 

『ーーーーッ!! もう! そんな言い方…狡いわよ』

 

狡いとは何の話か…素直な心情を述べただけだが、彼女は紅潮した顔で外方を向いてしまう。

 

『どうせなら、今日は泊まって屋敷を回ると良い。何せ部屋は多いからな』

 

『えっ!? そ、それってーーーー』

 

『くぉらあああああああッッ!!! 人型移動要塞の分際で! コウ様と一つ屋根の下、ど、ど、同衾とは! 絶対に許しませんわッ!!』

 

見物ならと気を遣った所に、紫が声を荒げてスキマから出現した。私は呆気に取られて声も出なかったが、眼前の幽香は唐突な罵声を聞いて額に青筋が走っている。

 

『誰が、人型移動要塞ですって…? この腐れ覗き魔があああああッッ!!! 同衾とか妄想激しい上に一々言い回しが古いのよ! お生憎様、誘われてない変質覗き魔は尻尾巻いて帰りなさいッ!』

 

この二人は会う度に戯れ合っているのは気のせいか?

同衾などと口にするが、客を泊める時の為に伊吹や天狗達が予備の寝具を揃えてくれているのを紫は忘れているらしい。

 

『部屋と寝具は空いているのだ。紫も、泊まりたければ用意するぞ?』

 

『へっ!? そそそそそそんな、嫌ですわコウ様! でも、何と魅力的なご提案でしょうか!? ああ! また不可思議な体の火照りと動悸が…』

 

『ちょっと! 私との遣り取りは何だったの!? 巫山戯てるなら容赦しないわよ!!』

 

幽香の怒りの矛先は、何故か私に変わってしまった。

彼女の隣では紫が恍惚とした表情であらぬ方向へ視線を彷徨わせている。

 

阿鼻叫喚とは正に今の光景が相応しい。そろそろ、独りで一日を漫然と浪費する自堕落な生活も恋しくなって来るが…

 

『どうするのよ!?』

 

『如何致しますの!?』

 

『ーーーーもう、二人とも泊まって行け』

 

大した持て成しは出来ないが、茶の一杯や風呂なら沸かせば間に合うだろうか。

 

平穏無事な異変の後は、姦しくも麗しい少女達と談笑する楽しみが有る。

 

『それなら、まあ…仕方ないわね』

 

『妥協致しましょうか…コウ様のご厚意で泊めて貰えるなんて幸運ね! 感謝しなさい!』

 

『なんで紫が得意げなのよ? ほんと…肝心な所で都合良く現れるわね』

 

只中に居る男は私だけなので、お手柔らかに願いたいものだが…当の紫と幽香はお構い無しに、その日の夜は更けて行く。

 

 

 

 

後日…気付けば川の字になって眠りこけていた私達を、久しく新聞を売りに来た射命丸が見つける事態となる。

 

下卑た笑みと嫌らしい視線が混ざる彼女の顔は、愉悦を堪え切れない様に高笑いを浴びせて空へ逃げて行った。

 

『うひゃひゃひゃひゃひゃ! 大スクープの特別号ネタ発見ですよおおおおおッッ!!』

 

幽香と紫は羞恥に頬を染めながら、鬼の形相で追いかけて行ったが…私は酒と肴に散らかった居間を見やり、独り溜息を零したのだった。

 

 

 

 






今回で、妖々夢編はひとまず終わりとなります。
冥界にコウが赴く理由を残しつつ、いよいよ次回から永夜抄編となります。

萃夢想? 萃香のリベンジ? はっはっはっ…ご勘弁を。

長くなりましたが…最後まで読んで下さった方、誠にありがとうございます!

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