Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた 作:白鷺 葵
・結絆の辿った『セブンスドラゴンⅢ』+絆クエスト進行中のダイジェスト風味。
・フレーバーとしてノーデンス13班が登場。外見とCV、職業は以下の通り。
尚、『百花繚乱クロニクルセブン』のゲストキャラが2名ほど出張。
オルガ・ベルフェクス=ルーンナイト♀A-Collar3/CV.女性M=斎賀みつき :ルーンナイト
メイユ・クリュティエ=フォーチュナー♂A-Collar2/CV.男性D=浪川大輔:フォーチュナー
ユリノア・セイラム=フォーチュナー♀B-Collar2/CV女性P=豊崎愛生.:デュエリスト
フレデリック・エイゼンハインツ=メイジ♂A-Collar1/CV.男性S=石川界人:一刀サムライ
シエラレオネ・レイアス・シエスタ=メイジ♀A-Collar2/CV.女性N=早見沙織:メイジ
ヴェスタ・ドミニク=バニッシャー♀B-Collar3/CV.女性K=日笠陽子:バニッシャー
・登場するサーヴァントの人選は趣味。方言は適当。
・第6真竜のみ。コイツのみなのに(書き手にとってはかなり)長い/文字数が多い。
・ヘイズに宝具風演出がつく。対象技は無印のトラウマ。
・『ある話題』を極力避けたのは、次回で一気に回収するため。
【参考・参照】
『命にふさわしい』(歌:amazarashi)
拙作感想欄および活動報告への書き込み(Gen-Gさま、M95マスクさま、アイディアありがとうございました)
どこからか、誰かの笑い声が聞こえてきた。その声を追いかけるように出所を探せば、見覚えのある白い制服を身に纏った青年――結絆の後ろ姿がちらついた。彼は数人で連れ立っている。穏やかに笑う横顔からは、同行者たちに親しみを感じている様子だ。
青年の行く方角には、先に同じ方向へと進んでいた人影があった。銀髪で色白の肌の少女と、金髪で色黒の肌の少女。彼女たちは同じ服を身に纏っていた。青年は彼女たちを追い越し、どこまでも駆けていく。少女たちは顔を見合わせたが、青年のことなど気にせず歩き出した。
そんな幻を見たのは一瞬のこと。次の瞬間には、世界は一瞬で塗り替わっていた。
眼前には、産業革命を迎えつつあった近代ヨーロッパを連想させるようなレンガ造りの街並みが広がっていた。街灯の光が淡いオレンジ色に瞬き、逢魔が時を彩る。
太陽は既に沈み、空には星が瞬きつつあった。アトランティス王国では美しい蒼穹が広がっていたと考えると、幻影都市には時間経過の概念があるのだろうか。
「……ここはどこなんでしょう? 街並みは近代ヨーロッパとよく似ていますが、なんだか雰囲気が違います」
「あの街灯、魔術が使われてるみたいだね。しかも、現代のものとは原理も体系も違うみたいだ。それが違和感の1つなんだろう」
マシュがきょろきょろと街並みを見回す。ロマニは感心したように頷き、街並みを照らす街灯へ視線を向けた。若葉色の瞳はすっと細められる。
流石、嘗ての魔術王――魔術の祖となる基盤体系を整えた男だ。魔術に造詣が深くて当然であろう。通信越しからダ・ヴィンチも同意した。
『確かこの世界は真竜来襲が原因で、事実上、2020年までに積み重ねられてきた文化体系は1度“リセットされた”んだよね? ……だとしたら、私たちの知っている魔術体系も同様、更地レベルまで破壊されたと考えていい』
「真竜が食い荒らしたのは日常だけじゃなかったんだね。……『
意外なところで魔術の存在を知らされた彩羽は、『
……正直な話、あの世界に魔術が存在していたかどうかも疑問である。『
『
最終的に、『
元々『
新宿にいたのは、『
「――ああ、いました! いましたよ~!」
不意に、前の方から誰かの声が聞こえてきた。彩羽たちは思わず声の方向に視線を向ける。
そこにいたのは、眼鏡をかけて外套を羽織った青年だった。軽装、且つ、充実した鞄を持つ彼の姿からして、前線で戦うタイプのようには見えない。良くて後衛担当か非戦闘員だ。
青年を見て真っ先にムラクモ新総長――技術者兼医療従事者だったキリノを思い出したのは、彼らの瞳で燃え滾る学者根性を見出したためだったのだろう。
「サイラス! またお前は単独行動を……!」
「ジル、ナギリ。2人とも早く来てください! この人たち、エーグルやナガミミたちが言っていた特徴と一致してますよ」
間延びした口調で話す青年に対し、後からやってきた2人の女性たちは彼を咎めようとして、一端止まった。2人は目を瞬かせる。
見るからに重装備の鎧に身を包んだ赤い髪の女性と、軽装であるが侍装束に防具を装備し刀を腰に下げている。どちらも前線で戦うタイプだ。
2人は青年の言葉と彩羽たちの姿を何度か確認するように目を瞬かせた。幾何の間をおいて状況を理解したのだろう。侍装束の女性が納得したように頷く。
「成程。そういうことですのね」
「ナギリ? 何がどういうことなんだ? 説明してくれ」
「ええ、そういうことです」
「サ、サイラスまで……!? だから、私にも説明してくれ!」
「ではみなさん。僕たちについてきてください」
サイラスと呼ばれた青年は彩羽の手を取ると、ぐいぐい歩き始める。半ば引きずられるような形になり、それを見たロマニが咎めるように声を上げた。
青年は何も気にせず、ずかずかと進む。背後の方から聞こえてきたロマニの声が暫し遠のいたが、次の瞬間には背後からぐいっと手を引かれた。
その拍子に、青年との手が離れた。強い力で抱き寄せられる。振り返れば、ロマニが威嚇するようにして青年を睨みつけていた。青年は振り返ってきょとんと首を傾げる。悪気や敵意など一切感じないのが逆に癪に障ったらしい。ゲーティアとマシュも警戒態勢に入る。
「サイラス、説明無しじゃみなさんが困惑するのも無理ありませんの。案内人が不審者扱いされるなんて本末転倒ですの」
後から追い付いてきたのは、他の面々からナギリと呼ばれた女性だ。
彼女はサイラスを引き留める。ナギリの言葉に反応したのはダ・ヴィンチだった。
『案内人? ……ということは、キミたちが?』
「あ。そういえば、僕たち自己紹介まだでしたっけ~?」
「自己紹介を始める前に、サイラスが勝手に走り出してしまったんですの。本当に後先考えないんだから……」
「なあ、2人とも! どういうことなのか説明してくれ! それと、私をのけ者にするのはやめてもらえないかッ!?」
「ジルはさっきの話を思い出してほしいですの。そして、それを踏まえて状況を理解してほしいですの」
こてんと首を傾げたサイラスを見て呆れたナギリだが、2人の後を追いかけてきた騎士装束の女性の様子を見て深々とため息をつく。
ジルと呼ばれた彼女は、案内人の中で唯一状況が理解できていない様子だ。ナギリやサイラスに何度も何度も説明を求めている。
彼/彼女らの間で繰り返される軽快なやり取りは、見ていてなんだか楽しくなってきた。いつもこの調子なのだろう。
「……その、なかなかに、愉快だな」
「私たちは幼馴染のようなものだからな。サイラスはいつも勝手に行ってしまうし……」
「それを言ったらジルだってそうでしょう? 来客をいきなり成敗しようとするとか、平和も平等もないですよね~」
「あ、あれはだな! その、不審者だと思い違いを……! ――お、お前こそ! レデイン探索時は結絆たちの制止も聞かず突っ込んでいって、マモノに襲われかけていたじゃないか!!」
「全く騒がしいですの。サイラスもジルも、中間で調整する私の苦労を考えたことはあるんですの?」
女三人揃えば姦しいという諺は知っているが、それが幼馴染でも適応するとは思わなかった。
完全に置いてけ堀状態になった彩羽は、茫然と彼らの姿を眺めていた。
第三者である自分が突っ込む隙など見当たらない。本当にこれ、どうしてくれよう。
「こ、これが幼馴染力ってヤツですか……!? こんなに軽快なやり取りができるなんて、ちょっと羨ましいです」
「羨ましい、と言えるやりとりなんですの? これが? ……私、ちょっと信じられないですの」
「付き合いが長くて、お互いのことを熟知して、お互いにお互いの気質を受け入れられるからこその関係なんですよねー」
「……なあ、忘れてないか? 未だに、現状に対する説明がないんだが……」
ゲーティアやマシュが零した感想にも、3人は纏まって喰らい付いてきた。互いの信頼と親しみ、および付き合いが深いからこそ、彼らはこんな調子で会話ができるのだろう。
1を零せば3以上が帰ってくるやり取りにゲーティアはたじたじになったけれど、幼い頃から仲が良い人々の姿に何か思うところがあるらしい。羨ましそうに目を細めた。
人としての生を謳歌し始めたゲーティアや無菌室育ちのマシュにとって、幼馴染の関係を持つ人間の姿は珍しいのかもしれない。カルデアスタッフや英霊たちの関係性とは、また違う繋がりのカタチだ。それを言ったら、成人男性の姿で
「……本当に、愉快だな」
「今の私と先輩の関係性が不満という訳じゃないんです。不満ではないんですけど、ああいう形から学ぶことは多いですね」
「竹馬の友……う、羨ましくなんかないぞぅ。ボクには、ボクには素敵な恋人が……!」
彩羽たちそっちのけで幼馴染同士の会話が響く中、ゲーティア、マシュ、ロマニが3人の姿を見守る。対抗意識が燃えているように見えるのは何故だろうか?
『なかなか酷いぞロマニ。私はキミの友達ではないのかい?』とダ・ヴィンチのボヤキが聞こえたけれど、2人の友人関係は、誰が見ても3人のような関係とは程遠いように思う。
形は違うけれど、ロマニとダ・ヴィンチの友情も『竹馬の友』組と同じように強固だ。彩羽も時折羨ましいなと思うくらいには、ロマニとダ・ヴィンチは親しかった。閑話休題。
「ところで、貴方たちの名前は?」
「「「あ」」」
彩羽の指摘によって、3人は「自分たちが自己紹介をしていなかった」ことを思い出したらしい。
3人は誰が悪いのかの議論を始めようとして――それが不毛なことであると悟ったようだ。
不満はあるが致し方なしと言わんばかりに、互いを見てため息をつく。そして、3人は己の名を告げたのだった。
「僕はナ・サイラスリヒト・シヴィラティカ。学術都市プレロマという街で星学者をしています。トゥキオンの人には『科学者』と言った方が近いんですかね? ――あ、名前が長いので、僕のことはサイラスとお呼びくださいー」
「私はブリジルド・ブレイクニー。ミロス連邦と呼ばれる国で騎士団長をしている。ジルというのは、私の愛称だな」
「私はナギリ・ナズナ。エデン最古の国家アイゼン皇国のサムライですの。幼い頃からエメルさまの元に師事し、竜に関する知識や戦い方を学んできましたのよ」
◇◇◇
情報統制で隠していた『世界滅亡までの足音』が、ついに隠し切れなくなる。天を翔る数多の竜、咲き始めた赤い葬送花――色濃くなった終わりの気配に、多くの避難民がノーデンスへと保護された。あちこちに、不安そうな人々の姿がちらつく。
アトランティスではともに作戦行動を取ったISDFは、東京に跋扈し始めたドラゴンたちを掃討するために駆り出されることとなった。ISDFの援護が見込めない中での作戦行動は無謀であると主張するナガミミとジュリエッタだが、アリーは首を振った。
「Code:VFD――計画の頓挫だけは、絶対に避けなくちゃいけない。今回の作戦は13班だけで行ってもらうよ」
本来ならばそうする予定だったのだとアリーは語った。
思えば、アリー・ノーデンスはノーデンス13班への援助を惜しまなかった。ありとあらゆる手段を講じて、ありとあらゆる方法を用いて、結絆たちをサポートしてくれた。
技術開発による武器提供もその一環だったし、会社施設の一部を13班含んだ一般向けに開放したり、施設の一部を13班員に向けて優先的に使わせてくれたりした。
「成長し続ける命を愛している」と語ったアリー。うっとりと笑う女性の言葉に
「東京の帝竜は俺たちに任せてください。すべて倒し次第、すぐに合流します」
「決めた。オレもユウマたちと一緒に戦う! 結絆はオレたちの故郷であるアトランティスを救ってくれたんだ。今度はオレたちが、結絆の故郷である東京を守る番だ!」
計画を滞りなく進めてほしいと訴えたのは、社長のアリー・ノーデンスだけではない。
先のアトランティスで共同戦線を張ったISDFやクラディオン自警団の長、アリーによってノーデンスへ招集された
「アリーの言う通りだ。人類の滅びを防ぎ、未来を手にするためにも、Code:VFDを頓挫させるようなことはあってはならない」
「ゲーティアおじさま!? どうしてここに!?」
「嘘!? ま、まさかこの子が、アンタが溺愛して憚らない甥っ子なの!?」
ノーデンスの会議室に現れたのは、結絆が居候している部屋の主にしておじのゲーティアだった。
意外な場所で出会ったおじから、ノーデンスと彼の“意外な関係”が明かされる。
なんと、ゲーティアはジュリエッタと旧知の仲だったのだ。その縁で、ノーデンスと関わりがあるらしい。
「ゲーティアからは彼個人として、かなりの額を援助してもらっていたのよ」
「その大半が使い潰されたがな。この間も、子会社3つ設立するための資金が欲しいと言うから費用の4割を提供したが、それら全部潰しただろう」
「一応成果は出したもの! ゲーティアだって納得してたじゃない!!」
見知った人との再会は、会議フロアにやってきたゲーティアだけではなかった。
ノーデンスに避難してきた避難民たちの中に、結絆が慕ってやまない2人の姿があった。
「職場と自宅が避難区域に指定されたものだから、こっちに来たんだ。今、医療関係のスタッフとして、ノーデンスの医務室を間借りさせてもらっている状態だよ」
「アイドルは引退したけれど、アイドルじゃなくてもみんなを元気づける方法はあると思ったんだ。ここは私たちに任せて、結絆は結絆の為すべきことを成しなさい。おばあちゃん、結絆のこと応援してるからね!」
「……はい! 行ってきます、彩羽おばあさま! ロマニおじいさま!」
尊敬する人々から激励を受け、結絆は仲間たちと共にCode:VFDの第2段階へ挑む。
次に示された座標は5000年後の未来。タイムマシンポータルに飛び乗った6人の視界は光に包まれた。
眼前には、産業革命を迎えつつあった近代ヨーロッパを連想させるようなレンガ造りの街並みが広がっていた。街灯の光が淡いオレンジ色に瞬き、赤を帯びた空を彩る。
アトランティスに比べると文化的に進んでいる印象を受けるが、東京に比べると些かレトロな街並みのように思う。東京が電気の街なら、ここはマナによって灯りを得る街だ。
ここはまごうこと無き5000年後の未来だというのに、東京の方がメカメカしい印象を受ける。赤レンガを見て連想するのは、大正3年に建造された丸の内駅舎のような建物だろう。
周辺はフロワロの花で覆われている。汚染はかなり深刻だ。住民の中には咳き込んでいる者もちらほら存在する。
「……ここが、未来なのか? 東京と比べると、あちらの方が栄えているような印象を受けるんだが……」
「東京の建造物が『こんくり』だとして、ここは『れんが』でできているんだな。私の記憶が間違いでなければ、東京では『れんが』造りの建造物は古いものが多いと聞いたぞ?」
「ここにいる人々の服装も、東京の人々と比べれば、中々にファンタジックな服装ですよね。図書館で見た『どれす』や『まんと』を連想します」
『UE.77年から5000年も先の未来だぜ? そりゃあ、文明も一巡り二巡りしてもおかしくないだろ』
アトランティス出身一同――オルガ、モルス、ユリノアがきょろきょろと周囲を見回していた。東京の街並みと比べるとどこか古めかしい街並みに、「ここが未来である」という実感を抱けなかったためだろう。それは、結絆たち東京組にも言えることだ。
だが、人類史における文化的な方面から考えると、1000年単位の違いで文明にも大きな違いが出ている。その中には文明の発展ではなく、止むを得ぬ退行――主に真竜襲撃等による大災害――もあったはずだ。
2020年に発生した竜戦役で、東京は大打撃を受けた。80年かかって、ようやく東京は当時の文化に立ち返ろうとしている。
更地になった文明を再興させることもまた、ある意味では『文明の発展』と呼べるだろう。この世界も、そんな風に立ち直りかけているのかもしれない。
5000年後の未来――エデンでは、2度も真竜が来襲していたらしい。ここでも苛烈な戦いが繰り広げられ、人類が勝利を勝ち取ったという。
当時の人類は片方の竜殺剣にヘイズを封印し、その剣でもう片方の真竜を討ったそうだ。だが、終戦後、長い時間が経過したことで封印が弱まりヘイズが復活。結果、この街のフロワロ汚染が深刻になったという。
『ヘイズは完全に復活したというワケじゃなさそうだが、油断は禁物だぞ』
「分かりました。いつも通り、情報収集ですね」
『おう。まずは、目の前にある巨大な遺跡に関する情報が欲しいな。遺跡の最奥にはデカい真竜反応がある。言うまでもなくヘイズのモンだ』
ナガミミの言葉に従って前を向けば、街の奥に佇む巨大な遺跡があった。相当高層なのだろう。頂上付近は紫の雲に覆われていてよく見えない。
結絆たちはエデンの街並みを散策する。街には真竜討伐の話を聞いて、カザンに集結した
彼らから情報を聞いていた結絆たちは、「ギルドハウスで真竜討伐の人材を集めている」という噂話を耳にする。それを頼りにしてギルドハウスに足を踏み入れた面々を迎え入れたのは、楽園の大地を奪還しようとする人々だった。
「私はエメル。プレロマの学士長であり、カザン奪還作戦の指揮を執る者だ。……
「もしかして、2021年、ムラクモ機関の総長代理を務めていた……」
「……ああ、そうだな。嘗ては、そんな肩書で呼ばれていたこともあった」
80年前、国会議事堂に攻めてきたフォーマルハウトと相打ちになったムラクモ総長代理エメル。
長い流浪の果てに地球へ辿り着き、人類に竜と戦うための術を伝えたヒュプノスの巫女――その片割れ。
結絆は嘗ての英雄である祖母から「彼女のおかげで、2021年の戦いに勝つことができたのだ」と聞かされていた。
――だから、だろう。
結絆たちは、当時の英雄を助けたエメルを信じたのだ。
そして、エメルと共にカザン奪還作戦に挑む若者たちと出会う。
「我が名はブリジルド・ブレイクニー! 平和と平等を愛するミロス連邦の騎士として、貴様らを成敗する!」
「あっ、僕の名前はナ・サイラスリヒト・シヴィラティカ。長いのでサイラスで良いですよ?」
「ナギリと申します」
ミロス連邦の若き女騎士ブリジルド、『エデンの頭脳』と呼ばれるプレロマの学士サイラス、アイゼン皇国の女
彼らと共に巨大遺跡入り口を調査した結果、この巨大遺跡がアトランティス時代の建造物――レデインの神殿跡地であることを突き止める。この遺跡の扉は固く閉ざされており、どんな手を使っても空けることが不可能だったそうだ。しかも、この遺跡の最上階にヘイズが居座っている。
アトランティスのオリハルコンを扱えるのは、アトランティスの王族だけだ。そこで、結絆たちノーデンス13班は思いつく。丁度、アトランティスの避難民の中に、アトランティス最後の女王がいるではないか――と。善は急げと言わんばかりに、結絆たちはウラニアへ協力を仰いだ。
丁度そのタイミングで、ISDFからの経過報告が入った。東京に大量発生した帝竜たちの掃討がもう少しで終わるとのこと。ヨリトモやユウマを筆頭としたISDF隊員や、彼らと同行していたエーグルも大活躍しているらしい。彼らは満面の笑みを浮かべ、もうすぐ合流できることを告げた。
東京のドラゴンは彼らに任せ、結絆はウラニアと共にエデンへ戻る。
古の海洋国家の女王と邂逅したエデンの面々は、みな驚きに目を見開いていた。
「初めまして。私は古の海洋王国アトランティスの女王、ウラニア・テ・クアンブルです」
「貴女が、世界を竜から救った古の巫女――ウラニアさまですの!?」
「御伽噺のお姫様を連れてくるなんて……お前たち、一体何者なんだ……!?」
「すごい、すごいすごいすごい! この構造、この術式、この素材! どれもエデンでは考えられないようなものばかりですよ~!!」
「サ、サイラス!? あの馬鹿、勝手に先へ進んだのか!?」
驚愕に打ち震える面々を尻目に、『エデンの頭脳』という肩書を背負う科学者は好奇心に負けたらしい。勝手に遺跡内部へと突撃し、好き放題に見て回っていた。そんなサイラスに半ば振り回されるような形で、幼馴染集団とノーデンス13班およびウラニアは探索を開始する。
塔と化したレデインには、マモノだけではなく多くのドラゴンが跋扈していた。好奇心によって危機を迎えたサイラスを助け、ドラゴンを討ち果たした面々を見たブリジルドも、ついに結絆たちを信じることを選んだ。本当の意味で信頼を勝ち取ったノーデンス13班の面々は、本格的に探索を開始した。
そんなときである。レデインの中腹に辿り着いた面々は、存在が希薄な女性と邂逅した。青い髪の女性は虚ろな目をして誰かを探している。彼女の姿が掻き消えたとき、大量のドラゴンが襲い掛かってきた。面々は戦略的撤退を選び、どうにかカザンの街へと戻る。
「――なら、人員を増やせばいい。この街には腕利きのハントマンや学者、武芸者たちが多く集まるからな。お前たちが望むなら紹介してやろう」
行く手を阻むように現れたドラゴンたちを退ける手段を考えた結絆たちに、エメルは戦力増強を申し出る。彼女は何枚かの用紙と睨めっこした後、腕利きの面々を3名見繕った。
「お前たちがヘイズを狩ると息巻く過去からの来訪者どもか。ボクはフレデリック・エイゼンハインツ。……言っておくが、ボクの足を引っ張るような真似はしてくれるなよ」
青い帽子と外套に身を包んだ青年――フレデリック・エイゼンハインツは、自身の得物である刀を手入れしながら、こちらを値踏みするような眼差しで睨みつけた。彼はカザン共和国に家を構える名門貴族の若き当主であり、エデンを真竜から救った英雄の子孫でもあるらしい。故に、今回の一件――ヘイズの復活に対して、人一倍息巻いている様子だった。
「フレディのこと、あまり悪く言わないであげて。本当は、とっても優しい人なんだ。――ああ、自己紹介遅れました! わたし、シエラレオネ・レイアス・シエスタ。シエラでもレオネでも、お好きな方で呼んでくださいね!」
赤と白基調の洋服に身を包んだルシェの少女――シエラレオネ・レイアス・シエスタは、フレデリックのフォローをしながらぺこりと頭を下げた。彼女はネパンプレス王家と関わりある豪商の娘で、プロレマの学士だ。サイラスとは同期なのだという。フレディとも旧知の仲らしい。
「キミたちがヘイズを狩ろうとする戦士たちか。ふふ、会えて嬉しいよ。私はヴェスタ・ドミニク、旅の傭兵だ。我が槍で、キミたちの道を切り開いてみせよう」
赤い鎧に身を包んだ長髪の女性――ヴェスタ・ドミニクが力強く笑い、大きな武器を指示した。この武器は機甲槍といい、槍と砲撃を掛け合わせたエデン特有の武器だという。対流戦闘を前提として作られており、竜特攻も折り紙付きだとのことだ。
新たな仲間を加え、ノーデンス13班はレデイン攻略を開始する。途中に居座る帝竜を倒し、発生した
最上階には青いフロワロが咲き誇っている。エメルと対峙するのは、竜殺剣から無理矢理実体化しようと試みる第6真竜ヘイズ。一番年若い真竜は、高笑いをしながら蠢いていた。背中に背負った大砲が重いらしく、常に動いていないとバランスが保てないらしい。
そんなニッチなものを背負っていようとしたのは、この武器に込められたエントロピーがヘイズの好みに合ったためだ。
奴は数多の星を滅ぼしては、その星の文明が有していた兵器を蒐集し、自分のモノ――身体の構成要素にしていた。
尚も高笑いしながら13班を見下していたヘイズだが、奴の体はがくりと崩れ落ちる。下手人は――サイラス。
「『逆流くん』、起動~! あとはよろしくお願いします、13班!」
サイラスが開発した『逆流くん』は、ヘイズを竜殺剣に戻すための兵器である。ヘイズは竜殺剣のエントロピーを自分の方に流すことで、実体化しようとしていた。実際、全盛期並みの力で実体化しつつあった。
奴が実体化のために用いた原理を応用すれば、『竜殺剣とヘイズの間にあるエネルギーの流れを逆転させれば、ヘイズは実体化を保てなくなり竜殺剣へ封印される』ということになる。それを実践したのが、サイラスの『逆流くん』だ。
「これしきの小細工で……このオレを御せると思うなよ! 家畜がァ!!」
体中を構成する武器を打ち鳴らし、第6真竜ヘイズが吼える。戦いの火蓋が切って落とされた。
◇◇◇
「――そうして、結絆たちノーデンス13班は、第6真竜ヘイズを打ち倒したんですの」
そうしてナギリは、結絆の軌跡を締めくくった。
彼女の視線の先には、レデイン最上階に続く道がある。
おそらくこの先でヘイズが待ち構えているのであろう。
「……それにしても、これだけのことを話すのに、時間をかけすぎた気がしますの」
ナギリは深々とため息をつくと、咎めるような眼差しでブリジルドを見つめた。
「だった仕方ないだろう!? サイラスが好奇心を発揮して、あっちこっち行くから!」
「いや~、前回は色々あって調べられませんでしたから~。……でも、ジルだって似たようなモノじゃないですか。『古の時代に活躍した英霊と戦ってみたい』とか言って機甲槍振り回して突撃するとか、平和と平等を愛する騎士のすることじゃないと思いますけど」
「そ、それは……! だって、5000年前のトゥキオンに伝わっていたとされる勇者たちが、どんな方法を使ったか全然知らないが、
サイラスとブリジルドが言い合いを開始した。前者は科学者の学術的興味から、後者は武人としての興味関心および憧れから、ことあるごとに話を脱線させてきた。誰もがそれぞれの理由を掲げて好き放題している。これが、愉快な幼馴染たちの日常なのだろう。ナギリがやれやれと肩をすくめているあたり、苦労しているらしい。
本題から逸れたことを察したナギリはため息をつき、軌道修正を行うために2人を窘めた。サイラスとブリジルドはお互いを「暴走系アクセルモンスターで、自分がその専属ブレーキだと確信している」ようだ。それは間違っていなかったけれど、実際は非常に似た者同士である。結局、暴走した2名を引きもどすのはナギリの役目だった。
愉快な幼馴染のやり取りは、何度見ても部外者の介入を許す気配がない。どんなときでもこの3人が同じ場に揃う限り、愉快なやり取りは壊されないだろう。
彩羽はちらりと仲間たちに目線を向けた。嘗て人理復元のために戦った日々が脳裏をよぎる。マシュがいて、ロマニがいて、ダヴィンチがいて、仲間たちがいた日々。
今では新しい仲間――ゲーティアが増えて、日常のやり取りも彩られているように思う。……けれど、やはり、少し寂しい。結絆がいないという事実が。
ロマニとマシュも、何となくそれを感じ取ったのだろう。カルデアの日常に触れたばかりのゲーティアも、思うところはあったらしい。ほんの少しだけ、寂しい影が滲んだ。
幼馴染同士の愉快な言いあいも終わったらしい。
ブリジルドが咳払いし、ナギリが肩をすくめ、サイラスがへらりと笑う。
「この先に待ち構えているのが第6真竜ヘイズ。奴は竜殺剣から無理矢理実体化し、この塔の最上階に居座っています。“頭に竜殺剣を生やしている”ように見えるかもしれませんが、実際は“竜殺剣にヘイズが生えている”と言った方が正しいですね~」
『聞くだけだと凄まじい絵面だね、それ。“剣から生える”って』
「……うわ、想像したら気持ち悪くなってきた。それ、軽くグロ注意じゃないのかい?」
サイラスの比喩表現に、ダ・ヴィンチとロマニは何とも言い難い顔をした。
確かに、この表現は少々異常さを醸し出しているように思う。
武器から生える竜。……想像してみたが、何とも言えない気持ちになった。
「ついでに、以前襲来したときより動きが鈍くなっています。千人砲と呼ばれる兵器を取り込んだ結果、飛行能力を完全に失い、平衡感覚を保つことすらおぼつきません。ですが、全身武器庫とはよく言ったもので、身体を構成するありとあらゆる
「奴はあらゆる
「なんて厄介な……」
ゲーティアの言う「厄介」は、戦術的な意味か、相手の性格的な意味か、もしくはその両方なのか。しかめっ面をして嫌そうな顔をしているあたり、恐らく双方の意味から述べているのだろう。
「ですが、貴女たちなら大丈夫でしょう。彩羽さまは、エメルさまが見出した“狩る者”なのですから」
「……そうですね~。僕らの心配は杞憂だったかなあ」
「まあ、あの結絆殿が憧れていた猛者なのだから、当然だろう」
3人は言うなり、顔を見合わせた。全員笑顔である。6つの瞳は「彩羽がヘイズを降す」と信じて疑わない。
「蛇足になりますが、竜殺剣で斬られた竜は、たとえ生き残ったとしても修復不能のダメージを負います。右翼を切り裂かれ、再生されなかった真竜もいるらしいですよ~?」
「それって、先程わたしたちが倒した第3真竜ニアラのこと?」
「残念ながら、僕たちの時代では名前が残されていないんですよ。襲来して倒されたという事実だけが残っています。推測の域を出ないんですが、結絆たちが1万2000年前にニアラを倒したことが影響してるんじゃないでしょうか~?」
「うわぁ。敵ながら、アイツ超不憫……」
サイラスから第3真竜の話を聞かされ、彩羽は思わず同情したくなった。2020年に来襲し、タケハヤを
先程の戦闘でも『盲目状態になったニアラが、見当違いな方向に攻撃を繰り出した』なんて哀れな姿を目の当たりにしたばかりだと言うのに。2020年に『
「もしかしたら、竜殺剣に封じられていたヘイズにもダメージが蓄積されているのかもしれませんね。結絆が戦う以前のヘイズに関する記録によると、当時は大人しい性格だったとありましたから」
「……サイラスさん。貴方が真顔になってしまう程、その変り様は凄まじかったんですね?」
マシュの問いに、サイラスは真顔で頷いた。
「『言動は粗暴であるが、意外と武人気質だったので驚いた』、『森にパーツを展開させるという戦術を用いるあたり、知的な一面有り』、『戦術上の影響か、本体より盾の方が強かった』云々と記述されていたのですが、結絆たちが相対峙したヘイズは一切そんな素振りもなく……」
「ちょっと待てサイラス。確かに、結絆が戦ったヘイズの戦術は純粋な力押しだったが、アレは本当に凄まじい戦いだったぞ。……もし、あの破壊力に加えて、絡め手まで用いて大規模侵攻を仕掛けてきたとしたら……」
「それ程の知性を失っていたのが、逆に功を奏したのかもしれないですの」
大昔の記録を引っ張り出して肩をすくめたサイラスに触発されたらしく、ブリジルドは顔を青くして『もしも』を述べた。彼女の表情からして、その可能性はあまり考えたくないものだったのであろう。そんな2人を横目に、ナギリが粛々と締めくくった。
3人の瞳はどこか憂いに満ちている。何か言いたいことはあるけれど、それを口に出すことが憚られると言わんばかりの様子だった。
そういえば、と、彩羽は思い至る。未来の時代にいたエメルの話について、サイラスも、ブリジルドも、ナギリも、話題を濁していたように感じた。
彩羽が感じた違和感の状態はそれなのか――己の心に問いかけたとき、愉快な幼馴染たちは意を決した様子で彩羽を見返す。そうして、ブリジルドが祈るように口を開いた。
「彩羽殿、約束してほしい。……何が起きても、どんなことがあっても、決して足を止めないと。これから先に直面するであろう絶望にも屈しないと、約束してくれ」
「勿論。どんな奴が相手でも、わたしは負けるつもりなんてないよ」
彩羽は力強く笑って見せる。それを見た愉快な幼馴染一同は、安心したように微笑んだ。
真竜を狩るというのは、2020年に死闘を繰り広げた『
自分たちが駆け抜けた人理修復も死闘やピンチの連続だったけれど、今回の一件よりはまだマシだったかもしれない。のど元過ぎた影響もあるかもしれないが。
結絆に課せられたミッションは『時空を超えて、その時代にいる真竜を倒して検体を手に入れろ』。Code:VFD開始時点で、該当数は4体だ。考えるだけで気が遠くなる。
でも、結絆はやり遂げた。やり遂げて、人類を滅びから救ってみせた。そんな素晴らしい孫は、何の力もない彩羽を祖母として慕ってくれた。力を貸してくれた。
彼と絆を結び直すために、彩羽たちは結絆の旅路を辿っている。――そうだ、ここで立ち止まるつもりはない。
彩羽は自分自身にそう言い聞かせた後、近くにあったレイポイントを作動させ、共に戦う英霊の編成を始めた。
人と竜の物語 B
幻想暴刀 西暦7000年相当 カザン共和国・古代遺跡レデイン
「ヒャッハァァアアアア! 武器だ、武器を寄越せェェェェェェ!!」
所謂『妖怪“首おいてけ”』はカルデアにいる。所謂『武器の蒐集家』もカルデアにいる。今、彩羽たちの眼前にいるのは、双方が複合した真竜ヘイズ――所謂『妖怪“武器寄越せ”』だ。
図体も完全に妖怪のそれである。4本の脚は剣や鎌の刃部分で構成されているし、側面には機関砲が幾つもむき出しになっている。背中には巨大な大砲――サイラスたち曰く「千人砲」――を背負っていた。
無茶苦茶な蒐集は平衡感覚にも異常を発生させているようで、何をするにも小刻みに動かないと倒れこんでしまうようだ。最も、奴は即座に武器を展開して弾幕を張り、すぐ立ち上がってしまうが。
今だって、サーヴァントたちの攻撃によって大きく態勢を崩されたにもかかわらず、機関砲を複数展開して弾幕を張る。
彩羽ですら回避しきれず喰らってしまう程の弾幕。文字通りの“雨あられ”だ。全身武器庫と呼ばれる戦闘力は伊達ではない。
「あの弾幕を止めないと……! ――つかまえたっ!」
「わかったよ。――これはどうかな?」
「よろしおす。――そおら!」
彩羽は移動速度を上げる陣を組んだ。エルキドゥと酒呑童子が一気に駆け出す。ヘイズの機関砲や頭に刺さった竜殺剣の刃による攻撃を難なく避け、エルキドゥは鎖を展開した。
体を縛られて体勢を崩したヘイズの隙を突き、酒呑童子が飛びかかる。彼女は鬼の力を容赦なく振るい、ヘイズの横っ腹を蹴り飛ばした。追撃とばかりに、後方から射出された武器や魔術由来の光弾がヘイズに降り注いだ。
「甘く見るなよ、家畜がァ!!」
「うわッ!?」
「くっ!」
ヘイズは高らかに咆哮すると、エルキドゥの展開した鎖による拘束を振り払った。抜け出したのは脚一本だが、奴にとってはそれでも充分らしい。
鋭利な刃が酒呑童子に振り降ろされる。寸でのところで回避した酒呑童子は忌々しそうに舌打ちした。追撃されては敵わないと思ったようで、彼女は一端離脱する。
だが、ヘイズの狙いは酒呑童子ではなかった。奴は目をぎらつかせてエルキドゥを視界に捕らえる。ヘイズの口元が、一際醜悪に歪んだ。
普段はあまり焦りを見せないエルキドゥが、ゾッとしたように口元を引きつらせる。彼は展開していた鎖を離そうとし――次の瞬間、ヘイズは思い切り鎖を自身の方に引っぱる。爛々と輝く竜の双瞼は、エルキドゥを標的に定めていた。
「鎖……オマエ、武器だな!?」
「ッ!?」
「しかも、この上質なエントロピー……! 素晴らしい、素晴らしいぞ! オマエのような武器は、オレが蒐集するに相応しい!!」
「……うわぁ。僕、キミのものになるのは、絶対に嫌だなぁ……!!」
己の本質を言い当てられ、しかも蒐集対象とみなされたエルキドゥは眉間に皺を寄せた。その様は、悪質なストーカーを目の当たりにした被害者のようだ。
ヘイズは嬉々としてエルキドゥを自分のモノにしようと鎖ごと引きずり込む。エルキドゥは踏ん張ろうとするが、純粋な腕力はヘイズの方が上だった。
だが、この場にいる
「その汚い四肢と口で
次の瞬間、ヘイズの頭上から大量の武器が降り注いだ。天を覆うのではと思う程の武器、武器、武器。こちらもまた、文字通りの“雨あられ”だ。
出所は端正な顔を凶悪なまでに歪ませた英雄王ギルガメッシュである。普段の戦闘時に射出している数と桁が1つ違うのは、親友の貞操の危機を察知したためだろう。
王の財宝に体を貫かれても尚、ヘイズは嬉々とした態度を崩さなかった。武器を愛する武器マニア故、奴にとってギルガメッシュの攻撃はご褒美にしかなり得なかったらしい。
「ヒャーッハッハッハ! 武器だ、武器だ、武器だァァ! もっと寄越せェェ!!」
「うええええええ!? 突っ込んできたぞアイツ!?」
「なんと悪食な……!」
感極まったように叫び散らしたヘイズは、脚の金属をガチャガチャ打ち鳴らしながら高速で突っ込んでくる。まるで
自分の知らぬ武器の数々を目の当たりにできたことがマニアの心を擽ったらしい。こんな極まり方をしたマニアなんて嫌だ。あまりの行動に、ロマニとゲーティアが戦慄した。
これには、怒り心頭だったギルガメッシュも若干引いている。方向性の違う蒐集家同士、酒呑童子も同じ気持ちのようで、ヘイズを見る目は渋いままであった。
体液を派手にまき散らしながらも、
ヘイズは頭に突き刺さった竜殺剣(注:実際はヘイズの方が竜殺剣に生えている)をぶんぶん振り回す。一見すると無造作に振っているように見えるが、その太刀筋は的確且つ重い。
ドライアイスをばら撒き、奴の目を潰したとしても、確実にこちらに傷を与えてくる。それはヘイズの戦闘力が成せる力押しであり、奴が命を狩り尽す際に用いた戦術でもあった。
「はああああっ! ――音量、解放!」
「ぐぬゥ……!」
至近距離から大音量の音波を叩きつけられ、ヘイズは舌打ちして飛びずさる。
バランスを取るように、刃の脚ががちゃがちゃと派手な音を鳴らした。
「なんやの、あれ。えげつないわぁ……! 蒐集品の雅さなんて気にも留めてのうし、扱いもなっとらんし。アレで蒐集家を名乗ること自体おこがましいんとちゃう?」
酒呑童子は心底嫌そうにひとりごちた。彼女の眼差しは、気持ち悪い動きを繰り返すヘイズに向けられている。蒐集家根性が辿り着く取捨選択の結果だろうが、流石に酷い。
いくら平衡感覚が壊滅的だからとはいえ、常に動いていないとバランスを保てなくなるような装備を許容するなんてどうかしている。しかも、蒐集物の保存もおざなりだ。
生粋の蒐集家たちが嫌そうな顔をするのも当然と言えよう。せめて、自己合体による蒐集ではなく、ギルガメッシュの宝物庫のような形で保存されていたらマシだっただろうに。
武器を寄越せと吼える真竜を眺め、ギルガメッシュが呆れたようにため息をついた。
「あの
「あんさんの言う通りやわぁ。審美眼も最悪。図体ばかりでかくて、鉄と油臭いんやもの。おまけにえばり腐っておってからに……ほんま、何様のつもりなんだか。どこぞの牛と乳臭い年増の方が全然マシやなんて、真竜はみんなどうなっとるのぉ」
蒐集家としての方針が反目しているギルガメッシュと酒呑童子であるが、「ヘイズの蒐集っぷりは悪食の極みである」という意見はぴったり一致した様子だった。
数多の
『竜殺剣に封じられたせいで知性を失った』等と揶揄されていたヘイズであったが、家畜が零した自身への悪口を拾い上げる程度の聴覚は健在だったらしい。
がちゃがちゃと音を響かせて、毒を吐いていたギルガメッシュと酒呑童子に向き直る。次の瞬間、奴は高らかに咆哮し、自身の取り込んだ武器を撃ち放ってきた。
彩羽は即座に防御の陣形を固めた。多種多様の文明を滅ぼして喰らい、そうしてまた文明と惑星を喰らうために振るわれた生きる武器庫。破壊力は折り紙付きだ。
「ヒャハハハハハ! どうだ、思い知ったか!」
「くそ、なんて破壊力だ……!」
「……成程な。文字通り、存在自体が生きる兵器か……!」
この場にいる全員をぼろ雑巾のような身なりへと変貌させたその威力に、ロマニとゲーティアが舌打ちした。
「生きる兵器、あるいは生まれながらの兵器。……その在り方は、僕と似ている。けれど、僕はやっぱり、キミのことは好きになれないや」
ややよろめきながらも、エルキドゥが体を起こす。彼は不敵な笑みを崩すことなくヘイズを睨みつけていた。緑の双瞼に宿るのは、惜しみないヘイズへの敵意。
“大地に寄り添い、人間より花や動物たちを優先的に守る”という行動指針を持つエルキドゥにとって、大地も命も
ニアラに対して怒りを募らせているという点では、エルキドゥの隣に立つギルガメッシュも同じだ。
いや、もうしてる。赤い瞳が「魔力を寄越せ」と訴えている。
彩羽がギルガメッシュの考えを察していることも分かっている。
――そして、己の宝具開帳を彩羽が指示することも、分かってる。
「ギルガメッシュ」
「何だ、雑種」
「最高の花道を飾るから、もう少し待ってくれる? 黄金Pの足元にも及ばないかもしれないけど、
「――ふん。興が乗った。付き合ってやろう」
許可は得た。あとは、花道を整えて、盛大に大盤振る舞いするだけである。
まずは下準備だ。彩羽は仲間たちに指示を出した。
「ダビデ、演奏頼める?」
「僕の竪琴で良ければ喜んで」
彩羽の申し出を快く受けて、ダビデが治癒の竪琴を奏で始める。それに合わせ、彩羽はバラードを歌った。ダビデの竪琴と彩羽の歌が仲間たちの傷を癒していく。
何やら複雑そうな眼差しで彩羽たちを見つめるロマニと目が合った。彼は罰が悪そうに視線を逸らす。ロマニは小さくかぶりを振って、ヘイズへと向き直った。
早速、自己強化スキルを大盤振る舞いする。高まる魔力の気配を感じ取ったのか、ヘイズが笑い出した。己の望む武器が開帳される――その喜びのためらしい。
「ハハハ、ハハハハハハ! 感じる、感じるぞ……エントロピーの高まりを! ――なら、オレも、敬意を示そうじゃないか」
がちゃり、と、音が響く。バランスを保つための小刻みな運動を止めて、ヘイズは大きく開脚した。普段はバランスを崩して倒れこんでしまうのだが、奴は倒れない。見れば、体の隅々まで強化が行き届いている。あの大砲を使うための自己補強だ。
背中に背負っていた千人砲の発射口が光を放ち始めた。今まで沈黙を保っていた巨大砲台が唸り始める。
エネルギーの収束音が何か――人の悲鳴に聞こえたのは気のせいだろうか。
「この兵器は、エデンの家畜どもが生み出したモノだ。我ら真竜を討つため、ヒュプノスの食い残しが憎しみによって造り上げた
「なんだって!?」
千人の命を弾丸として打ち出す――字面だけでも悍ましい兵器である。しかも、それを開発したのが、『
2021年のときは無茶苦茶な強行軍を組み、そうせざるを得ない己に罪悪感を抱いていた。最期は『
竜に対する憎しみの権化。けれど、それは、愛する者たちを傷つける敵対者に対する怒り故のものだ。エメルの憎しみ、その本質は、相手への惜しみない愛情だった。
そんな彼女が、どんな思いで千人砲を造り上げたのだろう。どんな思いで、愛する命たちを弾丸にする兵器を設計したのだろう。
エメルの歩みを何も知らない『
――少なくとも、今、ヘイズによって使われるためではなかったことは確かだ。
「皮肉なモノだ! 奴の持つ竜への憎しみ、そして、千人砲の弾丸となって死んだ家畜どもの命が、貴様らを殺すのだから!!」
「――ならば尚更、それを悪用させるわけにはいかないね」
エメルを侮辱し嗤い続けるヘイズを睨みつけ、彩羽はメガホンを手に取った。それを見た面々は驚いたように目を丸くした後、不敵に微笑む。
彩羽が仲間たちに指示を出したのと、ヘイズの千人砲がチャージを終えたのはほぼ同時。ばちり、と、千人砲の光が小さく爆ぜた。風が唸る。
「攻撃パラメーター、アップ! 宝具開帳!」
「興が乗った。その意気に免じて、宝物庫の鍵を開けてやろう」
「それも……いいね」
彩羽の援護を受けたギルガメッシュとエルキドゥが顔を見合わせて頷いた。
流石は最古の英雄王とその親友。数多の冒険を乗り越えてきたのは伊達ではない。
文字通りのツーカー。2人は躊躇いなく、ヘイズの攻撃とほぼ同時に、己の宝具を開帳した。
「千の賤しき命を束ね、竜を討とうなど、浅はかな夢よォ!」
「裁きの時だ。世界を割くは我が乖離剣」
「呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は」
「愚かな
「受けよ! ――“
「故に――“
撃ち放たれた千人砲と、ギルガメッシュとエルキドゥの宝具がぶつかり合う。“
サウザントキャノンの威力をあっさりと超えて、2つのエヌマ・エリシュはヘイズを穿つ。だが、サウザントキャノンを放つための自己補強のためか、ヘイズは踏みとどまっていた。奴は宝具のエネルギーで傷つきながらも、エルキドゥの蒐集を諦めていない。鎖の一端を無理矢理絡めてつかみ取ると、ぐいぐい自分の方向に引き寄せる。
それを察知したのだろう。ギルガメッシュが宝物庫から鎖を展開した。神聖が高い者には高い束縛力を発揮する天の鎖。高位生命体/真竜を神――所謂『神聖持ち』と定義したらしい。ヘイズに対しても高い効果を発揮した。親友と同じ名を冠する鎖は、容赦なくヘイズを縛り上げていく。勿論、ヘイズはそれを蒐集しようともがいた。
自身の体が限界を迎えつつあることに、この真竜は気づいているのだろうか。
頭上に刺さった竜殺剣が、放つ光を強くしているのがその証拠だ。
「ヒャッハハアアアア! もっと、もっと寄越せ、家畜ども! 全部オレのものにするんだァァァァァ!!」
「――それじゃあ、お言葉に甘えて」
吹き荒れる風に紛れた声を、真竜ヘイズは聞き取れなかったらしい。奴の眼差しはエヌマ・エリシュのエネルギーに釘付けである。膨大なエントロピーを有する武器に目がないのが災いした。エヌマ・エリシュの巻き起こす威力と破壊音に紛れて、声の主が宝具を開帳していたことなど気づかない。
ヘー。
ダレット。
ギメル。
ベート。
アレフ。
「――“
投石器を用いて射出された石が、無防備となったヘイズの急所に直撃する。巨人ゴリアテを一撃で昏倒させた逸話を持つこの宝具は、4発までが寛容を意味し、5発目は必ず対象者の急所に直撃するようにできていた。
宝具なのは投石器であり、そこから射出される弾丸は“そこらへんに転がっているただの石ころを変質させた”ものだ。故に、無制限に補充が可能。この場に石が転がってさえいれば、弾切れとは一切無縁なのである。
ヘイズ本人は何が起きたかすらわかるまい。刹那、奴の身体は限界を迎えたようだ。断末魔の悲鳴を上げることも叶わず――いや、自身がそんな状況に追い込まれていたことすら理解できぬまま、全身武器庫は崩れ落ちた。フロワロの花が弾け飛び、奴の身体は呆気なく消滅する。
武器を愛し、数多の星を喰らいながら、自身の身体に取り込み続けた蒐集家。英霊の持つ宝具までもを蒐集しようとした第6真竜の息の根を止めたのは、彼が蒐集したくなる高名な武器ではなく――どこにでも転がっているような、何の変哲もない石ころであった。
その有様は、『人類を家畜と嘲笑い、凄まじい破壊力を振るいながらも、自分が見下していた人類によって打ち倒された』という末路を辿った真竜そのものとよく似通っている。驕り高ぶることが真竜の業だと言うのならば、最年少の真竜は“己の業”によって滅んだのである。
こんなに長くなってしまうなんて予想外でした。エデンの愉快な3人組との会話にヘイズ絡みの無印ネタを投入したせいか、3人の愉快な会話を掘り下げたせいか……。ヘイズ戦で選出した面々は以下の通り。
・エルキドゥ(神の造った武器⇒ヘイズの蒐集対象)
・弓ギル(自分の蒐集物と友達を蒐集対象にされてブチ切れる)
・酒呑童子(蒐集家繋がり)
・ダビデ(宝具の弾丸は“ただの石ころ”を変質させたもの⇒「ただの石ころで止めを刺される」のは、ヘイズにとって一番屈辱なのではないか?)
M95マスクさまの案で提示された山の翁を不採用にしたのは、「何の変哲もないただの剣」というご意見を発展させた結果、「ダビデの宝具=弾丸の材料は“ただの石ころ”⇒「ただの石ころで止めを刺される」のは、ヘイズにとって一番屈辱なのではないか?」という結論に辿り着いたためです。ご期待に応えられずに申し訳ありません。
最近の悩みは『東京のトラウマ中ボス2連戦で誰を選出するか』。受付嬢の双子にはエルキドゥ、統合者候補にはアステリオス&エウリュアレやメデューサあたりが妥当かなと思っているのですが、他にいい案があるのではないかと思ってしまうのです。
でも、東京中ボス2連戦って、ロマン・ゲーさん・マシュにすごい勢いで突き刺さって来そうですよね。特に後者は「12歳の生きる対竜兵器。自身の存在意義&承認欲求のために頑張った結果、多くの努力が無に帰す。ライバルからの『要らない命なんて存在しない。お前は大事な仲間だ』という言葉が唯一の救いだった」なんて人生歩んだ男ですし。
彼の最期の言葉は、どんな気持ちで言ったんだろう。13班たちのやろうとしていることを理解していた⇒13班が竜の居ない世界を作ろうとしていたことを察していた場合、「また会えたら友達になりたい」という言葉は相当重い意味になりますよね。……まあ、「主人公の友人や自分の上官を手にかけたのだから因果応報である」と言われたら仕方ないですけど。
最近好きで聞いている『命にふさわしい』(歌:amazarashi)が、受付嬢の双子と統合者候補のテーマソングに聞こえてきて仕方ないんですよね。この歌は『NieR:Automata』というゲームのテーマソングで、登場人物が全員アンドロイド兵器なんです。それ故、なんだか親和性が高く感じるという。背景が一緒だからだと思われます。