Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

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・セブンスドラゴンⅢ世界にFate/GOキャラ(ぐだ子、ロマニ、ゲーティア)がいる。
・結絆の辿った『セブンスドラゴンⅢ』+絆クエスト進行中のダイジェスト風味。
・フレーバーとしてノーデンス13班が登場。外見とCV、職業は以下の通り。
 尚、『百花繚乱クロニクルセブン』のゲストキャラが2名ほど出張。
 久世(クゼ) 夜羽(ヨルハ)=ゴッドハンド♀B-Collar3/CV.女性I=井上麻里奈:双剣サムライ
 佐久間(サクマ) 征志郎(セイシロウ)デュエリストA♂-Collar1/CV男性Q=山下大輝:エージェント
 オルガ・ベルフェクス=ルーンナイト♀A-Collar3/CV.女性M=斎賀みつき :ルーンナイト
 メイユ・クリュティエ=フォーチュナー♂A-Collar2/CV.男性D=浪川大輔:フォーチュナー
 ユリノア・セイラム=フォーチュナー♀B-Collar2/CV.女性P=豊崎愛生:デュエリスト
・登場するサーヴァントの人選は趣味。
・第3真竜のみ。
・第3真竜ニアラの「真竜メテオ」を宝具演出風にしてみた。但し名前はそのまま。

【参考・参照】
『命にふさわしい』(歌:amazarashi)
拙作感想欄および活動報告への書き込み(Gen-Gさま、M95マスクさま、アイディアありがとうございました)



幕間の物語3.軌跡-古の海洋王国/Farthest end

「よう、待ってたぜ!」

 

 

 未来のエンタメ企業であるノーデンス・エンタープライゼスの入り口にいたのは、金髪の髪をツインテールに結った少女だった。

 可愛らしい見た目であるにも関わらず、口が悪い。初めて出会ったとき――カルデアに来訪したときと何も変わっていなかった。

 彼女はニヤニヤ笑いながら彩羽たちを凝視する。幾何かの間をおいて、少女は満足げに頷いた。

 

 

「フヒヒヒヒ……。オマエら、その様子だと、2020年代の竜戦役を“()()()()”きたんだな。感心感心」

 

「そろそろ教えてもらえないかな。――キミは一体、何者なんだい?」

 

 

 楽しそうに笑う少女に対し、ロマニが真顔のまま問いかける。無表情一歩手前の無機質な若葉色を真正面からぶつけられても、少女は動じない。ただ、何やら疲れた様子でため息をつく。そうして、己の歩んできた軌跡を思い出すようにして言葉を紡いだ。

 

 

「オレ様は元々、『生きたい』という願いの集合体――その残りカスみたいなモンだった」

 

「……一種の概念、あるいはヒュプノスみたいな存在か。けど、どうして過去形なんだい?」

 

「――それもこれも、オマエの孫のせいだぞ!」

 

 

 数秒前まで不敵に笑っていた少女が、いきなり怒鳴った。

 色白の肌は真っ赤に染まり、深緑の瞳は薄らと涙を湛える。

 

 

「ふざけんなよ、ロマニ・アーキマン! オマエの孫が、結絆が、ドサクサに紛れて『願った』から! こんな、こんな姿になったんじゃねーかよォォォォ!」

 

 

 「テメェは自分の孫にどんな教育をしたんだァァァァァァ!!?」と喚き散らしながら、少女はロマニにアッパーカットを叩きこんだ。

 不意打ち同然の一撃と耐久Eは伊達ではない。混乱の極みに叩き落とされたロマニは、「おぐぅ!?」という奇妙な悲鳴を上げて宙を舞うので精一杯だった。

 羞恥によって我を失った少女が次の標的に選んだのはゲーティアだ。呆気にとられるゲーティアの胸倉を掴んで、がんがん揺さぶりながら罵詈雑言を叩きつける。

 

 

「テメェもだ、ゲーティア! アイツの趣味形成にこんな影響を与えられそうなのはオマエぐらいなモンだろう! どうしてくれる、どうしてくれる!!」

 

「いや、趣味形成と言われてもだな……。もしお前の言葉が正しいとして、お前のどこに我が運命やマシュ・キリエライトの要素が――」

 

「――うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 理解が追い付かない脈絡によって、理不尽に詰められる――2020年代の物語で数多の理不尽を「識った」ゲーティアでも、少女の振りかざす理不尽(いかり)は予測も回避もできなかったようだ。

 

 散々喚き散らした後、少女はようやく平静を取り戻したらしい。

 放心したゲーティアの胸倉を乱暴に離し、深々とため息をついた。

 

 

「……まあ、茶番はこれくらいにして、だ。今のオマエらなら、()()()の物語を余すとこなく紐解けるだろう。あとは、オマエらにその覚悟があるか否かだ」

 

「――そんなの、決まってる」

 

 

 意地の悪い笑みを浮かべた少女に対し、彩羽は迷うことなく頷き返した。

 

 彩羽だけではない。マシュも、ロマニも、ゲーティアも、カルデアで出番を待つサーヴァントたちも、大事な仲間を取り戻すために戦うと決めている。その為に、『人と竜の物語』を紐解いてきたのだ。

 寂しそうに笑った結絆の姿がちらつく。彼1人の不在(ぎせい)によって成り立つ世界のどこがハッピーエンドだと言うのだろう? こんなふざけたバッドエンドを受け入れるつもりはない。彩羽は幸せな結末を手にするために頑張ってきたのだから。

 

 人理のすべてを修正したら、彩羽の知る日常が戻ってくると信じていた。その日常の中に、マシュがいて、ロマニがいて、『みんな』がいるカルデアの日常も組み込まれるのだと信じていた。

 当たり前だが、カルデアの『みんな』の中には結絆も含まれている。彩羽とロマニを慕う孫が、祖父譲りのふわふわした笑顔を湛えてカルデア中を駆け回っていると、自分たちは信じていたのに。

 結絆には裏切りのつもりなど微塵もないだろう。凶悪すぎる程純粋な善意と、かすかに滲む痛みと悲しみから成したことだ。彼の出した答えを否定するつもりはない。その答えを受けたうえで、彩羽たちは答えを出したのだから。

 

 

「――結絆は、バカだ」

 

 

 噛みしめるようにして、少女は呟く。

 

 

「どうしようもないお人好しで、筋金入りの良い子ちゃんで、寂しがり屋で――その癖、聖人君子を拗らせたような奴だった。……愛すべきバカ野郎だ」

 

「貴女……」

 

「少しくらい報われてほしいと()()()も、バチは当たらないだろ?」

 

 

 溢れんばかりの慈愛に満ちた深緑の瞳と穏やかに微笑むその姿に、彩羽とマシュは思わず息を飲んだ。

 結絆が何かを願ったことで、この少女は救われたのだろう。だから今度は、自分が結絆のために何かを願おうとしている――そんな気がした。

 「この話は終わりだ」と言わんばかりに、少女は咳払いする。そうして、彩羽たちの背中をぐいぐい押した。

 

 

「この扉を開ければ、結絆の辿った旅路のお目見えだ。各時代に語り部がいるから、まずは奴らの話を聞けばいい」

 

「時代? それはどういう――」

 

 

 ゲーティアが少女に問いかける間もなく、彩羽たちはノーデンスの中に押し込まれる。案の定、世界は暗転した。

 

 幾何の沈黙の後、どこからか水が流れ落ちる音が聞こえてきた。瞼を叩くのは、蒼を帯びた優しい光。恐る恐る目を開ければ、そこは美しい水の都であった。

 見上げれば、美しい回廊が幾重にも重なるようにして浮いている。回廊の層が天へ続く光景は、後にも先にも見たことがない。

 

 

『これは……言葉を失うくらい美しい街並みだね。構造も、原理も、私たちの知っている常識からは考えられない。現代の最先端科学や魔術の粋を結集しても、この街を再現するのは不可能だ』

 

「1万2000年前――神代以前に栄えた海洋王国アトランティス。……マリナの件で話を聞いたときはどれ程のものかと思っていたが……」

 

「……驚いたよ。生前の()や英雄王よりも遥か古の時代に、これ程までの文明を有した国があったなんて」

 

 

 カルデアに留守番していたダ・ヴィンチが感嘆の息を吐く。それは、現物を目の当たりにしているゲーティアやロマニたちも同じだった。特にロマニは、ソロモンとしての側面でも感服している様子だった。

 彩羽とマシュも感心し、街並みを見回す。どこもかしこも透き通った青い光を帯びており、母なる海を身近に感じる。こんなにも美しい水の都を目の当たりにしたのは初めてだ。月並みな感想――「綺麗」という言葉以外、何も出てこない。

 

 

「――よぉ。アンタたちが、結絆の御先祖様ってヤツか?」

 

 

 不意に聞こえてきた青年の声に振り返る。青を基調とした民族衣装に身を包んだルシェの青年と、控えめながらも繊細な技巧が施された装飾を身に纏ったルシェの少女がこちらに歩み寄って来た。

 少女の姿に、彩羽はマリナの面影を見た。恐らく、マシュやロマニたち、他のサーヴァントの何名かも、少女とマリナの面影が似通っていることに気づいたであろう。それを知ってか知らずか、少女は微笑む。

 マリナは古の時代に栄えたアトランティス王国、最期の女王の記憶と力を有したルシェだった。彼女の経緯を改めてなぞり終えたのと、ルシェの少女が己の名を名乗ったのはほぼ同時。

 

 

「――私はウラニア。ウラニア・テ・クアンブル。この海洋王国アトランティスの、最後の女王です」

 

 

◇◇◇

 

 

 上へ上へと連なる高層都市は、青い光と澄み切った水、美しい回廊によって構成されていた。浪漫溢れる荘厳な街並みは、都と言うに相応しい外観であろう。

 だが、それを踏み躙るかのように、赤い葬送花が至る所に咲き乱れている。街の一部は破壊されているようで、瓦礫で道が塞がれている区画もあった。

 

 ――ここは1万2000年前に栄えた海洋王国アトランティス。人間がこの惑星(ほし)の覇権を握る以前に栄えたルシェ族によって建国され、ニアラによって滅ぼされる運命にある。

 

 民の顔に生気はない。みな、絶望のせいで目の光を失っていた。穏やかそうに見える井戸端会議も、着々と死へ向かう己の命に対する悲壮感が滲んでいる。

 破壊された街並みもそうだが、一番胸に突き刺さってきたのは、すべてを諦めてしまった住民たちの姿であった。

 

 

「酷いな、ここ。ドラゴンの奴、絶対許せない」

 

 

 心居られた住人と破壊され尽くした街並みを目の当たりにして、征志郎が怒りを燃やす。

 過去に、無力さに打ちひしがれたことのある少年は、この理不尽を許せるはずがない。

 もしこの場にドラゴンが現れたら、わき目もふらず攻撃を仕掛けそうだった。

 

 憤る自分たちの姿をちらちら見ていた住人たちは、不審者を見るような眼差しで結絆たちを見つめる。目に光を宿す者に対して、強い排他的意識がある様子だった。

 

 結絆たちが滅びゆく海洋王国アトランティスに足を踏み入れたのは、当時降臨した真竜ニアラ――片翼を失っていない全盛期だ――の検体を入手するためだ。

 アトランティスの首都アトランティカは、貴族や比較的裕福な市民が暮らしている。兵士も見回りを行っているらしいが、彼らの目も濁っているように見えた。

 

 

「止まれ! 異邦人がこの国に何の用だ!?」

 

「僕たちはニアラを狩りに来たんです。話を聞かせてもらえませんか?」

 

「ハッ。何を言うと思えば……貴様らのような夢想家(はんぎゃくしゃ)を野放しにするわけにはいかないな」

 

「どこの誰かは知らないが、お前たちみなフカの餌にしてやる!」

 

 

 結絆が事実を述べただけで襲い掛かられるのだ。華やかな首都を警備する兵士たちだが、その性根は完全に腐りきっていた。彼らの実力も「精々良くてB級能力者である」とは、ナビゲーター役を務めるナガミミのコメントである。

 

 何の苦もなく兵士たちを撃退した結絆たちは、自分たちの考えがアトランティスの民には到底受け入れられぬことだと自覚する。

 異邦人という意味でも、異端者という意味でも、彼らは歓迎されぬ“()()()()”でしかなかった。

 

 

「余所者である私たちはあまり歓迎されていないようですね。特に、ニアラと戦おうとする人間に対して厳しいように思います」

 

「とりあえず、情報を集めましょう。それがなければ、今後の指針すら決められません」

 

 

 今回の目的が「ドラゴン検体の収集」だったとしても、今後の指針となり得るであろう情報収集は大事だ。住人たちから煙たがれながらも、結絆たちは彼らに声をかけてみる。

 兵士たちと一戦交えて彼らを倒したのが影響しているのか、結絆たちに武器を振りかざすような者たちはいない。無駄な争いを避けたい結絆たちにとっては幸運だったろう。

 アトランティカの住人も「こちらが殴りかからなければ害はない」と学んだのだろう。お互い、「不利益を被ることは避けたい」という利害が一致した様子だった。

 

 首都に跋扈するドラゴンたちを倒し、道中で出会った避難民を上司――ジュリエッタに内緒で救出しながら、結絆たちはアトランティカを進んでゆく。

 

 

『この反応……まさか、オリハルコンか!? ……オイ、結絆。詳しく分析したいから、アレに近づいてみてくれないか?』

 

「無礼者。貴様ら異邦人から見ればこれは単なるオリハルコンだろうが、我々にとっては尊きアトランティスの魂。触れれば、命は無きものと思え」

 

 

 アトランティカの祭壇には巨大なオリハルコンが鎮座していた。

 そこに現れたのは、ルシェ族の高官と兵士たち。

 

 そして――

 

 

「おやめなさい、タリエリ」

 

 

 ここで出会ったルシェたちが着ていた洋服よりも上質で、控えめながらも繊細な技巧が施された装飾を身に纏った少女――アトランティス最後の女王、ウラニアとの邂逅だった。

 

 

***

 

 

「全盛期のニアラを倒すためには、現在の戦力じゃ厳しい。だから竜殺剣が必要なんだ」

 

「今回の目的は、竜殺剣の材料になるオリハルコンの収集と、竜殺剣を鍛える力を持った鍛冶師を探すことよ」

 

 

 次に足を踏み入れたのは、アトランティスの最下層区クラディオン。ISDFの面々を加えて、ノーデンス13班は過去へ飛んだ。

 天然の洞窟を進む中で、面々は無残に殺された雑魚竜の死体を発見する。ヨリトモ曰く、「この奥には統率された兵士たちがいる」とのことらしい。

 真正面から敵を打ち倒すことを選んだ面々は、警戒しつつ洞窟の先へと向かった。予期した通り、自分たちを迎え撃とうと襲い掛かる影があった。

 

 

「――これで引かなきゃ、死ぬぞ」

 

 

 マナを纏わせた青い短剣を振りかざし、結絆たちへ襲い掛かってきたルシェの青年エーグル。クラディオンの自警団を纏めるリーダーだ。

 

 彼は嘗て、親衛隊の分隊長を務める程の実力者であった。ニアラ討伐隊の一員として、先王と共に戦場へと出向いていた兵士の1人でもある。そんな彼が最下層でレジスタンスの真似事をしていたのは、上層区域に住まう貴族たちと袂を分かったためだ。

 先王の遺言――いずれ、ニアラを討つ勇者がアトランティスに訪れるだろうから、そのときに竜殺剣を託してほしい――を無視し、ニアラと相打ちになろうとする摂政タリエリに反発したエーグルは、志を共にする者たちと籠城戦を繰り広げていたのである。

 

 Code:VFD成就のため、真竜ニアラを倒すため、ノーデンス13班とISDFの面々はクラディオン奪還を計画する。目的は鍛冶場を陣取る帝竜メイヘムの撃破だ。

 

 

「なら、こいつらを連れてけ。自警団の中でも精鋭中の精鋭だから、足を引っ張るようなことはない。ここの地の利に詳しい奴らがいれば、攻略しやすくなるはずだ」

 

 

 勇んで出かけようとする結絆たちを引き留めたエーグルは、自警団の仲間を連れて行くようにと声をかけた。

 

 

「私はオルガ・ベルフェクス。アトランティスの騎士だ。宜しく頼む」

 

 

 粛々と名乗ったルシェ族の騎士――オルガ・ベルフェクスは、綺麗な45度でお辞儀をした。男勝りの口調は、騎士として前線に立ち、様々な修羅場を潜り抜けてきた証なのだろう。

 

 

「陸の民のみなさん、初めまして。私はユリノア・セイラムと申します。共にニアラを倒しましょう」

 

 

 たおやかに微笑むのはルシェ族の神官――ユリノア・セイラム。アトランティスでは異端とされる召喚術を操る術師であるが故に、本来の身分をはく奪され、大戦以前から下層区に軟禁されていたという。

 

 

「オルガが行くと言うならば、彼女の夫となる私も共に往こう! ――ああ、名乗るのが遅れたね。私はメイユ。メイユ・クリュティエ。アトランティスの占星術師であり、オルガを愛してやまない男さ」

 

 

 気障ったらしく微笑むのはルシェ族の神官――メイユ・クリュティエである。これだけであれば、彼の第一印象は「気障な奴」で済んだのだろう。……頭に女性用の洋服(恐らくオルガのものだ)を被り、目を血走らせ、鼻血を垂らしていなければ。

 

 エーグルによって推挙された2人と自己申告してきた1人――計3人の仲間を加えて、ノーデンス13班は鍛冶場の奪還に挑む。最奥に陣取っていたメイヘムを打倒した彼らを見て、クラディオンの人々は結絆たちへの協力を申し出た。

 彼らのツテを借りるような形で、13班は最上層であるベルグ海洋神殿へ足を踏み入れる。ニアラ来襲以前は13もあった海洋宮、最後の1つ――そこに、竜殺剣を鍛えられる唯一の存在、ウラニア女王がいる。

 結絆たちはタリエリに門前払いされても諦めなかった。抜け道から海洋宮殿に踏み込んだ彼らは、エーグルたちの案内に従って、ウラニアの居る渦潮の間に辿り着く。エーグルの予測通り、最後の女王はその部屋で葛藤していた。

 

 玉砕作戦は、王族の力でオリハルコンを自爆させる。

 己の力で、己の愛する国と民を殺すのだ。葛藤しないはずがない。

 

 

「頼む、ウラニア。俺たちに協力してくれ! ニアラを倒すために、アトランティスを救うために、お前の力が必要なんだ!」

 

「私……私は――」

 

 

 ――そうして、王女は決意する。

 

 

「……タリエリ。私も貴方も、父上の死と共にすべての希望を失っていました。そして、その失意のまま、玉砕こそが最良の道と信じ、今日まで進んできました」

 

「ええ、そうです」

 

「ですが、この者たちは違う。この絶望さえも超えようとしている。そこに、微かな希望があるのならば……私は、それを信じたい」

 

「このような異国の者の提案にすべてを賭けるというのですか!? そんなことは認められ――」

 

「タリエリ、未熟であってもこの国の王は私なのです。そして、光の射す方へ民を導くのは王の責務です。アトランティス最後の王、ウラニア・テ・クアンブルの名において、私はこの者たちに竜殺剣を――アトランティスの命運を託します!」

 

 

 それが、王としての資質を開花させた女王が下した“最初の命令”だった。摂政のタリエリは目を見張った後、恭しく跪く。父代わりとしてではなく、彼女に仕える摂政として。

 クラディオンに赴いたウラニアは、集落に残っていた鍛冶師や鍛冶師見習いたちと共に、竜殺剣を鍛え直す。――蒼く輝くそれは、剣というより槍の形状に近かった。

 

 ウラニアから託された竜殺剣を携えて、結絆たちはベルグ海洋宮殿の地下――レデインへと足を踏み入れる。アトランティスの聖域と言われる最奥地には、全盛期のニアラが我が物顔で鎮座していた。

 

 人類を家畜呼ばわりし、下等生物だと侮って憚らぬニアラと対峙する結絆たち。

 結絆は何を思ったのか――ニアラを見上げて、たった一言。

 

 

「悪趣味な金色ですね」

 

 

 一瞬の沈黙。そして――増大する殺気。

 

 

「痴れ者がッ……格の違いが分からんのか! 無意味に、無価値に、皆殺しにしてくれる……!」

 

 

 第3真竜ニアラとの戦い、その幕が上がる。

 

 

◇◇◇

 

 

「――そうして、長い死闘の後で。結絆は竜殺剣でニアラを討ち倒したのです」

 

 

 アトランティス最後の女王ウラニアは、そう言って物語を締めくくった。

 

 長い回廊を進み、洞窟を進み、崩れた神殿を進み、彩羽たちは大きな扉の前へと辿り着く。蒼く輝く幻想的な海洋宮殿、その奥地から漂うのは――真竜の気配だ。

 ウラニアと騎士エーグルは足を止める。彼らの佇む場所の眼前に、サーヴァントの入れ替え専用のレイポイントが存在しているらしい。

 彼女らの導きに従い、マシュが盾によってサークルを設置する。青い光をそのままに、眼前には管制室で待機中のサーヴァントたちの顔が映し出された。

 

 

「この先に待ち構えているのは第3真竜ニアラ。アンタたちの時代である2020年に来襲したときとは違って、左翼が健在な全盛期だ」

 

「命を踏み躙れば踏み躙る程、ニアラは本領を発揮します。圧倒的な力で蹂躙することこそ、第3真竜の戦い方。……ですが、私たちは信じています。貴女たちなら――結絆が憧れた英雄である彩羽なら、必ず打ち倒すことができると」

 

「……分かりました。女王ウラニアに騎士エーグル。必ず、ニアラを倒して見せます」

 

「当然だね。『一色彩羽(かのじょ)』とタケハヤの分も熨斗を付けて、リベンジマッチに行ってくるよ」

 

 

 エーグルとウラニアは力強く笑った。その眼差しは、嘗て『彼女(じぶん)』や彩羽を送り出した総司令官たちのものと同じだ。託された想いを、自分は背負っている。

 彩羽とマシュは頷き、仲間たちと顔を見合わせた。――そうして、大きな扉を睨む。実際に睨むのは、この扉の向こう側にいるであろう第3真竜ニアラだ。

 

 負けるつもりは毛頭ない。だからこそ、ニアラに挑む面々の選出に最善を尽くしたいのだ。

 

 ロマニとゲーティアが固定されている以外は、メインとサブに誰を選出してもいい――『人と竜の物語』を紐解くための冠位指定(グランドオーダー)、その条件を思い出す。

 2020年代竜戦役の章だけでもみな散々な目にあっている。数多の理不尽を「識り」、それを実際の戦闘を介して肌で感じ、阿鼻叫喚になりながらも突き進んできた。

 己の偉業に関して何も語らなかった孫・結絆の背中が浮かんでは消える。その真実を紐解き、彼をもう一度呼び戻すと決めたのは彩羽たちだ。足を止めるわけにはいかない。

 

 

「みんな、忘れないで。――誰が選ばれても、誰が選ばれなくても、この戦いに“不必要な存在はいない”。カルデアで待機している面々も、特異点で真竜と直接対決する面々も、内容は違えども戦いに参加してるんだってことを」

 

『……愚問だね、彩羽。カルデアにいる英霊や職員たちも、真竜たちと戦うことになるであろう英霊たちも、ちゃんと分かっているさ!』

 

「――うん、ありがとう!」

 

 

 不敵に笑うダ・ヴィンチの宣言に続くようにして、他の英霊たちも返事を返す。誰も彼もがやる気に満ちている。彩羽が呼び出せば、彼らはすぐに呼び出しに応じるだろう。

 たとえ戦いの場に選ばれなかったとしても、彼らはカルデアで戦いを見守り、彩羽たちの勝利を願う/祈るに違いない。その想いが、“狩る者”――ひいては人類にとっての力になるのだ。

 

 ニアラと戦う仲間を選び、彩羽はエーグルとウラニアに向き直った。2人は小さく頷く。

 

 

「オレたちが案内できるのはここまでだ。だけど、アンタたちはオレらの案内がなくても大丈夫だろ? あんなの前菜みたいなモンだから、さらっと行って来い!」

 

「2020年の英雄と、未来の地球を翔る英霊たちよ。貴女たちがいてくれて、貴女たちと出会うことができて、本当に良かった。――どうか、ご武運を」

 

 

 亡国の女王と騎士の激励を受けて、彩羽たちはレデインの大門に手をかけた。扉は仰々しく軋んだ音を立てて、ゆっくりと開かれる。

 そこは、大広間だった。最奥には巨大な星晶石――オリハルコンが神々しい輝きを放っている。蒼く透き通った光は、彩羽たちを歓迎するかのように優しく瞬く。

 だが、命を守る蒼い光で満ちているべき部屋には、明らかに場違いな金色が鎮座していた。絢爛豪華と栄華を極めたようなその体躯が、悠々と佇む。

 

 

「あれが、全盛期の第3真竜か……。()()()凄いな」

 

「確かに。()()()()()真竜たるに相応しい佇まいだ」

 

 

 ぼそり、と、ロマニとゲーティアが呟く。2020年の『人と竜の物語』を紐解いた時点で、自分たちは相当な理不尽を目の当たりにしてきたのだ。

 確かに彩羽たちの眼前にいるのは真竜ニアラ。文字通りの強敵だけれど、()()()()()()()()()()()のニアラに気圧されるなんてことはまずあり得ない。

 

 他の面々も同じなようで、彼らはみな平然とニアラを見上げる。誰の目にも闘志が燃え滾っていた。負けるつもりなど毛頭ない。彩羽は迷うことなく一歩踏み出す。

 

 一歩、一歩、踏みしめるようにして足を踏み出す。程なくして、彩羽たちがニアラと対峙した。

 彩羽たちとは少し遅れて、ニアラがゆっくりと首を動かす。奴もまた、彩羽たちを認識したらしい。

 値踏みするように目を細めた後、「クァハクァハ」と小さく笑った。

 

 

「懲りずに喰われに来たか、家畜風情が」

 

「それはこっちの台詞だよ。――ここで会ったが100年目、ってヤツだね。真竜ニアラ」

 

「何を言っているのか分からんな。どこで恨みを買ったのか、てんで見当がつかぬ。我には家畜の区別など出来ぬからなァ」

 

 

 ニアラは笑う。この状態が愉快で仕方がないのだと言わんばかりに。一部、煽りへの耐性が低い面々の眉間に皺が寄ったが、取り乱すようなことはなかった。奴の軽口に乗る必要は皆無のためだ。

 

 煽られたなら煽り返すまで。他者を蔑み煽るのが大好きな金ぴか竜であるが、奴もまた煽りへの耐性が低い。

 それは、アトランティスの語り部たちが教えてくれた/嘗ての結絆が証明してくれたことだった。

 

 

「まあ、それはボクらもそうさ。お前のような前菜(オードブル)程度に、いちいち耳を貸す必要もない」

 

「何度も出てきて恥ずかしくないのか」

 

「学習能力の低さが露呈しています。いい加減帰ってください。呼んでませんので」

 

「本当、何度見ても悪趣味な金色だね。上品な金色コーデを着こなす、カルデアに顕現した王さま一同を見習いなよ」

 

 

 ロマニが真顔で肩をすくめ、ゲーティアは至極真面目にニアラに問いかけ、マシュは養豚場の豚を見るような目でニアラを見上げ、彩羽は不敵に笑う。

 それを聞いたニアラは一瞬動きを止めて沈黙したが、地の底から轟くような唸り声を上げた。

 間髪入れず殺気が増大する。彩羽たちが得物を構えたのと、第3真竜が怒りをあらわにしたのはほぼ同時だった。

 

 

「…………クァハ、クァハ。――痴れ者がッ……格の違いが分からんのか! 無意味に、無価値に、皆殺しにしてくれる……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

人と竜の物語 C

 幻想竜王 1万2000年前 海洋王国アトランティス・封印区レデイン最下層

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色の暴威が牙を向いて襲い掛かる。大きく開いたニアラの口を縫い付けるように、虚空から様々な武器が射出された。そのうちの複数がニアラの牙を阻む。

 

 

「フハハ、どうした真竜!? 大きな口を叩いた割に、まったくもって大したこと無いではないか。喚き吼えるだけでなく、何かして見せよ!」

 

 

 外套をはためかせて高笑いするのはギルガメッシュだ。此度の現界は凄まじい力を振るう英雄王/弓兵(アーチャー)としてではなく、ウルクの民を導く賢王/魔術師(キャスター)としての参戦である。好みと性格のベクトルがニアラと非常に似通っていたためか、彼は奴に対して強い同族嫌悪をあらわにしていた。

 多くの者を雑種と呼ぶギルガメッシュであるが、彼自身が家畜と呼ばれた経験は(おそらく)皆無であろう。しかし、冥界より帰還した偉大な賢王もまた、真竜ニアラにとっては等しく家畜にすぎない。奴を追いつめた2020年の『彼女(じぶん)』のことですら「家畜の中でも特に美味しそうなヤツ」程度の認識しかないのだ。

 「キャスタークラスは戦いにくい」とは本人の自己申告である。人理焼却の黒幕への当てつけで始めた“魔術師ごっこ”を、もう人理焼却と一切関係ない現状で敢行したのは――アトランティス最後の女王ウラニアに対して、何か思うところがあったのかもしれない。本人はきっと何も言わないだろうし、彩羽もほじくり返すつもりはないが。

 

 

「おのれ……! この家畜如きがァ!!」

 

「言ったな? ――来るがよい下郎。今なら勝ち目があるかもだぞ?」

 

 

 怒髪天の怒りを滲ませながらも、ギルガメッシュは不遜に笑った。

 頭に血が上ったニアラはギルガメッシュの挑発に乗ったようで、大きく息を吸い込み始める。

 

 それを確認した彩羽は一気に駆け出した。ドライアイスをばら撒きつつ、メガホンを構えて大地を蹴る。

 

 

「てやあっ! ――距離を取って!」

 

「ぐゥ!? ウ、おおおおおォォ!」

 

 

 近距離からの絶叫。金切り声に等しい音波攻撃を喰らったニアラであるが、奴は無理矢理にでも攻撃しようと試みる。

 しかし、ニアラは見当違いの方向にブレスを撃ち放った。その一撃はギルガメッシュを吹き飛ばすこともなければ、彩羽たちを傷つけることもない。

 彩羽の攻撃によって、ニアラの視界が潰されてしまったために起きた珍事。下準備としてばら撒いておいたドライアイスとの相乗効果もあるのだろう。

 

 視界が潰されても耳は聞こえるようで、奴はギルガメッシュの大爆笑をしっかり聞き取ったようだ。「おのれおのれ」等と叫びながら、あちこちへと攻撃を繰り出す。あまりにもハチャメチャな方向に攻撃するため、マシュが盾を構えて受け止める必要もなかった。

 

 

「……何やってるんだろうね、あれ」

 

「ニアラの独壇場ではあるな」

 

「確かに。()()()()()()()()()()ってのが滑稽だ」

 

 

 ロマニはげんなりとした表情を浮かべながら、1人芝居よろしく明後日の方向に突っ込んでいくニアラの背中へ魔術を放った。爆ぜた光が背に直撃し、盛大に体が傾く。ロマニの言葉に同意したゲーティアもまた、真顔のまま手をかざす。次の瞬間、ニアラを閉じ込めるように光の檻が顕現し、爆ぜると同時に奴を虚無へと引きずり込んだ。

 悲鳴を上げるニアラを包み込むようにして、爆炎から発生したと思しき黒い霧が立ち込める。手ごたえを感じたゲーティアが静かに笑い――次の瞬間、彼はロマニに突き飛ばされていた。ゲーティアがロマニに文句をぶつけるより、吹き荒れる黒い霧を真正面から喰らったロマニが苦しそうに呻きながら膝をつく方が早い。ロマニは舌打ちしながらニアラを睨む。

 

 黒い霧を爆ぜさせ、左翼で吹き払ったニアラは咆哮した。

 奴は未だ健在。あの黒い霧は爆炎ではなく、ニアラの瘴気を含んだものだった。

 風と共に黒い炎が炸裂し、彩羽たちの肌を焼く。

 

 

「ッ……回復が賢明ね」

 

 

 彩羽は癒しの歌を歌う。戦場では場違いのバラードが響き渡り、仲間たちの傷を治していく。

 回復量は微々たるものだが、何もしないよりは充分意味があった。

 

 ニアラが双瞼に映し出すのは次なる標的。選ばれたのは――瘴気を帯びた睨みを真正面から喰らったため、身動きが取れないロマニ。

 

 

「消え失せろ、家畜がァ!!」

 

 

 最早「人間であれば何でもいい」と言わんばかりに、ニアラは大きく息を吸い込む。

 彼がつい先程まで怒りをぶつけていた相手であるギルガメッシュなど眼中にない。

 奴がロマニを標的にしたのは、ただ単に「自分の視界に入った人間だった」ためであろう。

 

 

「……アイツ、本当に人間の見分けついてない……!」

 

「ッ、マシュ!」

 

「――お任せを!」

 

 

 彩羽の指示を受けたマシュは、即座に宝具を展開した。ニアラがロマニとその周囲にいたサーヴァント目がけて撃ち放ったブレスを、マシュの盾が受け止める。

 

 折れぬ意志による精神の守り。彼女の想いは、ニアラのブレスを真正面から受け止めた。

 レデインの最下層自体を吹き飛ばしかねない熱量を喰らっても尚、マシュと彼女の盾は揺らがない。

 

 

「く……! こんなもの、こんなもの……――タケハヤ先輩の突撃に比べればァ!!」

 

 

 先の物語で紐解き、相対峙した人類戦士との死闘を思い出すようにして、マシュは叫んだ。彼女は人類悪の宝具だけでなく、問答無用で四肢を吹き飛ばすレベルの一撃――タケハヤの突撃を宝具/キャメロットの城塞で防ぎ切ったという実績がある。

 一部のサーヴァントが「頭がおかしい」だの「キチガイ」だのと称した人類戦士タケハヤの理不尽っぷり。あの経験は無意味どころか、結絆の物語を紐解くことに一役買っている。世の中、何がどう繋がっているのか分かったものではない。

 嘗て人類戦士タケハヤを宇宙(そら)の藻屑へと追いやったニアラのブレスは、人類戦士の攻撃を受け止め切った円卓の盾を揺らがせるには至らなかった。マシュは大きく息を吐いてニアラを睨む。まだ闘志は折れていない。

 

 いつまでも倒れようとしない彩羽たちに対して、ニアラは怒りを露わにする。

 高位生命体である真竜が、下位生命体(かちく)である人類に押されている――その事実を認められないのだ。

 

 「おのれおのれ」等と喚き散らすニアラを見て、ギルガメッシュは鼻で笑った。憐れみを込めて、嗤った。

 

 

「真竜。貴様……意外と可哀想だな」

 

「黙れ! 下等生物たる家畜が、我を嗤うなァァァァァァ!!」

 

 

 ニアラが吼える。それは、レデイン全体を揺らがす程のものだった。轟音と殺気がびりびりと響き、彩羽たちの肌に突き刺さってくる。

 奴が背負った黄金の輪が急速に回転した。あの輪を起点にして、莫大な魔力――否、エントロピーが収束しているのだろう。

 

 

(――おそらく、次の攻撃が、ニアラにとっての全力……!)

 

 

 2020年の竜戦役で『一色彩羽(かのじょ)』たちへ牙を向いた、ニアラの必殺技を放つための予備動作だ。相手が全力で来るのなら、迎え撃つこちらも全力でなければなるまい。態度はアレだが、奴の破壊力は折り紙付きだ。

 彩羽はメガホンを構えた。『一色彩羽(かのじょ)』から託された祈りの具現、彩羽に夢幻召喚(インストール)された宝具を開帳する。瞬く間にレデインは煌びやかなコンサート会場へと姿を変えた。

 

 

「最後のステージ……!」

 

 

 今回開帳する宝具は、自己強化一辺倒の“麗しき竜狩り歌姫の絢爛舞踏(トウキョウアリーナ2020)”ではない。

 

 

「華麗に美しく、花のように舞い散って! これで終幕よ」

 

 

 指令(オーダー)スキルの極致であるもう1つの宝具。

 2020年を駆け抜けたアイドルの、秘奥義。

 

 

「何千の意志が、幾億の願いが、この歌声を響かせる! さあ、共に行こう! ――“麗しき竜狩り歌姫の絢爛舞踏(トウキョウアリーナ2020)(きわめ)”」

 

 

 彩羽がステージから飛び降りたのと、コンサート会場がレデインの最下層へと戻ったのと、ニアラのエネルギー充填が終わったのはほぼ同時。

 ニアラが空へと飛びあがり、彩羽がメガホンを構えて仲間たちを扇動する。それを受けた面々が、次々と動き始めた。

 

 

「進化の極北、神の力! 思い知れ、家畜ども!」

 

「我が声を聞け! 全砲門、開錠!」

 

 

 いの1番に宝具の開帳を宣言したのはギルガメッシュである。自身の宝物庫にある財を装填して撃ち放たれる、人類最古の壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 それは、宝具の担い手たるギルガメッシュだけでなく、彼と共に神代を生きたウルクの民の総力が結集されている。その所以は、攻撃手――撃ち手がウルクの民だからだ。

 ギルガメッシュが直接攻撃する宝具ではない。彼の指示を受けたウルクの兵士たちが弩を引き、敵に遠距離爆撃を行うのだ。故に、ギルガメッシュの宣言は、民への指示そのもの。

 

 エントロピーによって形成された輪をくぐりながら、ニアラが彩羽たちへ突撃する。

 ギルガメッシュは不敵に笑い、奴を迎え撃った。

 

 

「我は第3真竜ニアラ。絢爛豪華な黄金文明と、圧倒的な殺戮によって極北へと至りし竜!」

「矢を構えよ、(オレ)が許す! 至高の財を以ってウルクの守りを見せるがいい!」

 

「嘆け、喚け、朽ち果てろ! ――真竜メテオ!」

「大地を濡らすは我が決意! ――“王の号砲(メラム・ディンギル)”!」

 

 

 膨大なエントロピーを纏って流星同然に突っ込んできたニアラに、ギルガメッシュの号令に従って、ウルクの守りを顕現した爆撃が撃ち放たれる。

 普段とは違い、放たれた宝具はそのままニアラに射出されていた。黄金の弾丸は、ニアラが纏うエントロピー――光の輪を、1つ、また1つと砕いていく。

 結果的に、“王の号砲(メラム・ディンギル)”はニアラの突撃を相殺するには敵わなかったが、ニアラの必殺技が本来持ちうる破壊力の大部分を削り取った。

 

 

「真名、開帳──私は、災厄の席に立つ」

 

 

 更にダメ押しと言わんばかりに飛び出したのは、カルデア最強の防御力を誇る盾兵(シールダー)マシュ・キリエライトだ。

 

 

「それは全ての(きず)、全ての怨恨を癒す我らが故郷。顕現せよ! “いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)”!!」

 

 

 マシュはギルガメッシュと入れ替わるように躍り出ると、再び盾を構えた。再びキャメロットの城塞が顕現し、ニアラの突撃とぶつかり合う。

 だが、ニアラの突撃はキャメロットの城塞を揺らがすことはない。むしろ逆に、キャメロットの城塞によって弾き飛ばされる始末である。

 

 ニアラは呻きながらも、空中で体勢を立て直す。奴は大きく口を開き、ブレスを放とうと息を吸い込んだ。膨大なエントロピーを発生させるため、背中の輪が回転し始める。

 

 だが、突如背中の輪は回転を止めた。――いいや、()()()()()()()()()。膨大なエネルギーを生み出し行使する御業は、解釈の仕方によっては、魔術師にとっての神秘の行使/魔術の行使と()()になる。

 解釈を強引に当てはめたものであるが、一度でもそう「みなされて」しまえばイコールと結び付けられる。解釈とは本当に便利だ――彩羽と同じことを考えているのだろう。下手人のロマニがひっそりと苦笑していた。

 ……いくら彼の宝具が“結絆によって「ソロモンのモノと方向性が変えられた」”とはいえど、()()は彩羽に当時の喪失を思い出させる。こちらの視線に気づいたのか、ロマニはちらりと視線を向けてきた。大丈夫だと言うかのように、若葉の瞳は細められる。

 

 

「人外に効くかどうかはさっぱり自信がなかったけど、魔術と神秘の行使の解釈が結びつけば、意外と何とかなるみたいだね。……これも、結絆の置き土産かな?」

 

 

 宝具を発動したロマニはへらりと笑った。同時にニアラの呻き声が響く。いつの間にか、ニアラは苦しそうにのたうち回っていた。

 

 

「貴様ァ、一体何をした!?」

 

「いや、特に何も。ボクはただ、オマエに訣別(わかれ)(うた)を贈っただけだよ」

 

 

 場違いな笑みを浮かべるロマニに対し、ニアラは攻撃しようと右翼を向ける。僅かなエネルギーを無理矢理収束させ、奴は攻撃を撃ち放つ。

 だが、その一撃はロマニを穿つことはない。彼の前に躍り出たゲーティアが、宝具を撃ち放ったためだ。嘗ての人王が彩羽に挑んだ際、命を燃やしながら放った攻撃。

 人間の意地は、真竜の右翼を派手に穿った。威力は大したこと無いかもしれない。けれど、奴らが蔑む下等生物の意志が、高次元生命体としての驕りにヒビを入れた。

 

 生きることへの歓びが、死の権化とも言える真竜を追いつめている。先程の借りは返したと言わんばかりに、ゲーティアは不敵に笑い返した。

 ――そして、この戦いに参戦していた最後のサーヴァントが走り出す。背後から馬の蹄が響き渡った。ニアラがそれに気づき、音の出どころへ向き直る。

 

 

「――聖槍、抜錨」

 

「なッ――!?」

 

 

 ニアラの目が大きく見開かれる。「あ、あ、あ」と、奴は何かに怯えるような声を上げた。

 

 紫の双瞼は、聖槍を抜いて迫る英霊を全く見ていない。第3真竜が見ているのは、この地で自分を屠った竜殺剣の担い手の姿だ。蒼く輝く槍のような形状の剣を振るう、結絆・ヴィラノヴァ・アーキマン。

 アトランティスに光を齎した英雄/結絆が振るった竜殺剣と、今、宝具開帳を宣言した英霊が持つ聖槍(えもの)はよく似ている。――……流石に、竜殺剣にはビーム攻撃など不可能だが。

 

 

「最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!」

 

 

 サーヴァントの愛馬ドゥン・スタリオンが大地を蹴る。愛馬に跨ったサーヴァント共々、彼女たちは天空へと飛びあがった。

 ニアラを見下せる程の高高度。赤い外套を翻し、青のドレスに身を包んだブリテンの王は槍を構えた。

 彼女の得物は、目を焼き尽くさんばかりの輝きを放っている。星の輝きをたたえて輝く、最果ての柱───聖槍ロンゴミニアド。

 

 古の時代に栄えた海洋王国アトランティスは、本来、青い海と蒼い星晶石の光で満たされた麗しき楽園であった。この国は、最果てでなくとも輝く世界そのものであった。アトランティスの民は、その美しさを誇りに思っていた。

 

 美しい王国を踏みにじったのはニアラである。麗しき海洋王国を破壊し、惨たらしい滅びを彩った。――その最果てが、赤い葬送花に覆われた瓦礫の街。

 聖槍の所有者たる王は、最果ての美しさを知っていた。同時に、最果てでなくとも美しい世界が存在()ることも知っていた。

 

 ――故に、ブリテンの王は、金色の竜を許さない。それらを容赦なく破壊し、最果てさえも汚した真竜を。

 

 

「来るな、来るなァァァァァァァ!!」

 

「美しき世界を踏み躙った報いを受けろ、真竜ニアラ! ――“最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)”!」

 

 

 真名を解放し、此度の戦場で槍兵(ランサー)として現界したアルトリア・ペンドラゴンと愛馬ドゥン・スタリオンが高高度から突撃する。

 鮮やかな金色の光となった聖槍は、悲鳴を上げるニアラを貫き、穿ち、――断末魔の悲鳴ごと、完膚なきまでに()()()()()()

 

 

 




真竜ラッシュ突入の導入部とアトランティス編が思った以上に長くなってしまいました。ニアラ戦で活躍させたいと思って選出したのは以下の通り。
・マシュ(前話を踏まえたうえで、タケハヤとニアラを比較させたかった)
・術ギル(国を守るために立った古の女王に思うところがあった+宝具台詞「ウルクの守り」云々+ニアラを煽ってほしいという書き手の願望)
・槍トリア(最果ての美しさ、および世界の美しさを知っている⇒双方を踏み躙ったニアラを見たら激怒するだろう+超威力の槍をアトランティス竜殺剣に見立てたかった)
Gen-Gさまの案で提示されたイシュタルを不採用にしたのは、「ニアラを煽る役目にギルガメッシュを宛がう(=ニアラ戦の最優先事項)」というスタンスを崩したくなかったのと、書き手の限界があったためです。ご期待に応えられず申し訳ありません。
M95マスクさまの案で提示されたオジマンディアスを不採用にしたのは、前話加筆修正分で追加された帝竜戦ダイジェストで既に2回程出演してしまった(ヒッキーオーバーキル&地下遺跡を見た建築王ラムセス2世)のと、書き手の限界があったためです。ご期待に応えられずに申し訳ありません。

蛇足
・ロマニの宝具⇒名称未設定:敵に高確率で行動不能orスタン付与+全デバフ付与&宝具チャージリセット+自身含んだ敵味方の宝具封印&自身に攻撃関連のデバフ発生(デメリット)
・ゲーティアの宝具⇒主よ、生命の歓びよ:敵全体に複数連続(3~5)回の大ダメージ攻撃+敵に行動不能orスタン付与(100%)

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