Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

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・絆結の「絆イベント」導入+ダイジェスト予告風。
・第1部終了後、第1.5部開始直前。
・第1部最終章の話も含まれる。
・人王ゲーティアの消え方が原作とは違う。
・原作では不在の面子(ソロモン関係)が結絆のクソチート宝具のおかげで生き残った(重要)
・原作では不在の面子(ソロモン関係)が結絆のクソチート宝具のおかげで生き残った(重要)
・『絆イベント開始直前』の関連作にして続き物。
・絆イベント専用特異点出現。セブンスドラゴン2020シリーズおよびⅢのダンジョンが特異点化する。



幕間の物語1.人と竜の物語/ChRφNiClESeVeN

 2016年、12月25日。

 

 その日はクリスマスであると同時に、人類最後のマスターが世界を救った日だ。「サンタさんからの贈り物が人類の未来というのは気が利いている」等と言ったのは誰だったのだろう。サンタは文字通り、数多の奇跡をカルデアに残された人々へ手渡した。

 世界を救った人類最後のマスター――一色彩羽とカルデアの司令官代理――ロマニ・アーキマンには『愛する伴侶と共に生きる未来』を、マシュ・キリエライトには『敬愛する先輩と一緒に歩める世界』を、戦いの果てに人へと至った嘗ての魔術式――ゲーティアには『人として歩むための権利』を。

 文字通りの大団円。文字通りの奇跡が起こした、誰が見ても文句の付けどころがない結末だった。どこぞの作家は「奇跡の大安売り」やら「誰もが拍手喝采の喜劇」だのと語る程、満ち足りた結末だった。幸せが約束されていると信じて疑わなかった。みながみな、その結末を祝福していた。

 

 だから、誰も気づかなかった。

 愕然とした顔で佇む、3人の意味に。

 

 誰かを探すように彷徨っていた、その視線に。

 

 

***

 

 

 その日、特異点修復に関する記録媒体に、こんな言葉が書き加えられた。

 

 『最終特異点修復完了 未帰還サーヴァント1騎』

 

 しかし、大半の職員や英霊は、この記述が付け加えられた媒体を目にし、首を傾げる。――だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一色彩羽によって召喚され、カルデアのデータベースに記録された英霊は、誰1人欠けずに現界していた。特異点の記録を見返しても、おかしなところなんて存在しない。

 

 

「……ロマニが書き間違えたのかな。あいつ、最近は結構忙しかったし。無理矢理にでも休ませた方が良さそうだ」

 

 

 そう言って、彼女(カレ)――レオナルド・ダ・ヴィンチは躊躇うことなく記述を削除した。

 勿論、これは()()()()の行動だった。当たり前のことを当たり前に行った結果だった。

 件の記録媒体を目にした者たちは、()()()()()この文面を消していく。

 

 当たり前のことを当たり前に行ったに過ぎない彼らは、その()()()()によって傷ついている人間がいることに気づかない。

 それと同時に、この世界が()()()()()()()()と知っている人間は、圧倒的マイノリティ故に、それを口に出すことはできないでいた。

 

 

「……くそ、また消された。今度は……うえええ!? よりにもよって、レオナルドかよぉ……! キミ、散々あの子をダシにしてボクを煽ってた張本人だろうが!!」

 

 

 記録媒体を確認したロマニは噛みつくようにして唸った後、弱々しくため息をついた。

 

 誰も知らないところで、彼は戦いを続けている。滅びの未来を覆した彼が次に挑むのは、何もかもを「なかった」ことにして居なくなった青年の存在証明だった。

 消された記述をもう一度付け加えて、ロマニは目を閉じた。白い制服に身を包んだ青年の背中がちらつく。振り返った青年は、それはそれは幸せそうに笑っていた。

 

 

『おじいさま』

 

 

 人は、誰かを忘れるとき、声から忘れていくのだという。

 ……ああ。こんな自分を祖父と慕ってくれたあの青年は――結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンは、どんな声をしていたのだったか。

 おぼろげになっていく記憶に、ロマニは歯噛みするしかなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 世界は今日も回っている。今日もどこかで、誰かが生まれ、誰かが死んでいくのだろう。人が1人『居なくなった』程度では、世界の歩みが止まるはずもない。

 けれど、その世界の幅が狭まったらどうなるだろう。身近な人だけで構成された世界で人が死ねば、その世界にはもう二度と朝が来なくなる可能性だってある。

 

 それでも世界は止まってくれない。嫌が応でも、人は動かなければならないのだ。動かなければ、守れない。流されて踏みにじられて朽ち果ててしまう。――失ったものを悼むには、人理復元後のゴタゴタというものは忙しすぎた。

 

 人理復元後、各方面のお偉いさんどもが『監査』という名目でカルデアに乗り込んでくることが決まった。特異点修復で手に入れた万能の願望機――7つの聖杯以上に、カルデアは希少な研究サンプルで満ち溢れていたためである。

 平行世界の自分の力を夢幻召喚(インストール)した人類最後のマスター、元・サーヴァントという過去を持つ医療部門最高責任者、サーヴァントとして現界する職員、疑似英霊(デミ・サーヴァント)の後輩、人類悪にして人理焼却術式だった元黒幕。

 勿論、お偉いさんどもの横暴を赦すつもりはない。カルデア職員と彩羽によって召喚された英霊、そうして封印指定確実である当人――彩羽たちは迷わず立ち上がった。守り抜いた世界から、守り抜いた人類から、背中を撃たれる羽目になるのは御免だったからだ。

 

 

「彩羽、いざとなったらロマニ(コイツ)を盾に使いなよ? 性格はアレだけど、それなりの立場と発言力はあるからね」

 

「散々な評価だなぁ!? そこまでボロクソに言わなくてもいいじゃないか!」

 

 

 作戦会議室に響くのは、ダ・ヴィンチの容赦ない発言とロマニの情けない悲鳴であった。以前は特異点攻略のための話し合いが行われていたこの部屋で、今はカルデアに弓引こうと画策する人類を迎え撃つために話し合っている。守り抜いた世界に睨まれるとは、なんと皮肉なことだろう。

 

 司令官代理としてカルデアを率いたロマニは、それを張り倒せるほどの意地と実力の持ち主だ。確かに普段、ダメな大人を突き詰めたような言動を見せることもある。

 けれど、彼の実力は本物だ。「才能がない分努力で補ったという」彼の能力は、孤独に戦い続けていたロマニの頑張りそのものと言えた。

 

 

「曲がりなりにもコイツは嘗ての我が王(ソロモン)だからな。昼行燈のフリをしつつ、相手を追いつめることくらい朝飯前だろう」

 

「なあゲーティア。さりげなくボクの難易度上げるのやめてくれないかな。というか、今お前が食べてるそれボクの羊羹だろ!? 返せ!」

 

「お前の身体は私のものだ。だから、必然的にお前のものは私のものだ。つまり、彩羽は我が運命だ。異論は認めない」

 

「そんな超論法ジャイアニズムがまかり通ってたまるか!」

 

 

 ロマニ怒りの咆哮など気にも留めず――むしろ聞いた瞬間に火がついたらしい――、ゲーティアは羊羹を半ば強引に口の中へと詰め込んだ。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐロマニを横目に、湯呑の緑茶で一気に腹へと流し込む。ごくん、と、大きな音を立てて羊羹を飲み込んだ。

 愕然とするロマニに対し、ゲーティアはこれ以上ないドヤ顔を披露する。それを見ていたマシュが眼を釣り上げた。

 

 

「いい加減にしてください。話が進みません。まだ続けるようでしたら、今度から2人を“穀潰し”って呼びますよ?」

 

「「それは嫌だ」」

 

 

 穀潰しという単語に思うところがあるのか、ロマニとゲーティアはすぐに喧嘩を止めた。「マシュから穀潰し呼ばわりされる」という事象が地雷だった面々(実質一名)が顔を青くして沈黙する。

 

 何名かが噴き出したり、遠い目をしたり、呆れたようにため息をついたりしたが、それもすぐに治まった。

 本題に入ると言わんばかりに、ロマニは咳払いした。そうして、きりりと表情を引き締める。

 

 

「基本はボクが、人理焼却を防いだ“当時の司令官”ということで矢面に立つ。ありとあらゆる厄介事はボクに任せてくれ。何があっても、キミやマシュたちは守ってみせるから」

 

「ありがとう、ロマン。でも大丈夫だよ。『彼女(わたし)』、平行世界では反ムラクモ派議員に容赦なく責め立てられた経験があるし! 最悪ロマンが突破されても、立ち回り方は何とかなりそうだよ。あれ以上にひどい国会答弁なんてないだろうし」

 

「……そ、そうか。夢幻召喚(インストール)はすごいなあ……」

 

 

 変に気を張っているロマニに対し、彩羽は不敵に微笑み返す。ロマニは顔を赤くした後、すぐに燃え尽きたような乾いた笑みを浮かべた。

 彼の左隣に座っていたダ・ヴィンチが腹を抱えて大笑いし、右隣に座っていたゲーティアは可哀想なものを見るような目でロマニを見つめていた。

 そんなとき、彩羽の隣に座っていたマシュが手を挙げた。どうやら意見があるらしい。面々に促されたマシュは、至極真面目な顔で言った。

 

 

「先輩が宝具を開帳してスーパースターになり、ライブを敢行すればすべてがうまくいくと思うのですが」

 

「やめろォ! 時計塔が確実にドルオタ総本山になるだろうが!!」

 

 

 時計塔に縁のある人物に憑依する形で顕現した諸葛孔明が頭を抱えて首を振った。マシュはムッとしたように唇を尖らせる。

 

 

「何を言っているんですか、先輩の総本山はカルデア(ここ)です! 時計塔は最大手支部でしょう?」

 

「なんでもう既に決定事項として語ってるんだよ!? 割と真面目にやめろくださいお願いします!」

 

 

 まともな魔術師の代表者(ウェイバー・ベルベット)が必死になって頭を下げた。半泣きになっているところからして、孔明/ウェイバーにとって、時計塔がドルオタ用グッツで埋め尽くされる光景は恐ろしいようだ。

 不意に、彩羽は司書の勉強をしていた友達の言葉――「図書館にとって恐ろしいことは、蔵書が失われてしまうことだ」――を思い出した。もし、時計塔が魔術師の総本山という役目だけでなく、蔵書の宝庫としての役割を果たしていたら。

 ドルオタにとって、グッズの収納場所を確保することは最優先である。増改築以外でスペースを確保するためには、今あるものを片付けるしかない。それを時計塔に当てはめたら、真っ先に捨てられそう/場所を占めているのは魔術関連の書物だ。

 

 もし、時計塔からやってきたお偉いさんを訓練されたドルオタへ変貌させた場合、時計塔に戻った彼らと時計塔に残っていた魔術師とで聖戦(ジハード)が起きるだろう。

 多くの聖遺物や書物が撤去され、代わりにドルオタグッズによって埋め尽くされるのだ。……考えただけで壮観である。孔明が泣き叫ぶ理由が分かる気がした。

 

 だが、残念ながら、カルデアのサーヴァントの大半がドルオタガチ勢である。もしくは彩羽と共演したいとうずうずしている連中である。機会があれば一緒にデュエットしたい、作詞作曲をしたい、舞台演出に関わりたい、ライブが見たいと思っているサーヴァントばかりだった。

 

 

「ライブとくればアタシの出番よね! 最高のデュエットをしましょう!」

 

「ふふん! ならば余の出番であるな。マスター同伴のボイトレの成果、盛大に披露しようではないか!」

 

「作曲は任せてくれ。最高の音楽をお届けしよう」

 

「詩と舞台演出は是非とも吾輩に! 最高の舞台にしてみせましょう!」

 

「ふはははははは! 興が乗った。特別に、黄金Pと呼ばれる(オレ)のプロデュース力を見せてやろうではないか!」

 

「ファンといえばオタ芸、オタ芸と言えば拙者! デュフフ、応援は完璧ですぞ!!」

 

「俺も!」「私も!」

 

「ウワアアアアアアアアア! もうダメだ、お終いだァァァァァァ! 時計塔がドルオタ最大手支部にィィィィィ!!」

 

 

 予測可能回避不可能。盛り上がる一同によって、ついに諸葛孔明/ウェイバー・ベルベットが絶望に屈した。良心というストッパーは最早何の役にも立たない。

 頭を抱えて途方に暮れるのは彼だけではなかった。緑の弓兵と赤い弓兵が、酷く疲れ切った様子で孔明の肩を叩く。煤けた笑顔からは悲哀が滲んでいた。

 件の赤緑弓兵も、ライブが始まれば全力で声援を贈るファンの1人に成り下がるのだが、彩羽は黙っておくことにした。恐らく孔明も分かっているためだ。

 

 彩羽はロマニの方に向き直る。彼は煤けた笑みを浮かべて喧騒を眺めていた。折角格好良く「ボクが守る」と宣言したと思ったら、最後は結局彩羽が矢面に立つことになったためであろう。しかも、彩羽には多くの英霊たちによるバックアップがある。元魔術王とはいえ、今となってはただの人の子でしかないロマニにとって、この構図は胸に来るものがあったらしい。

 

 

「ロマン」

 

「……何だい?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。いいよね?」

 

 

 「終わったらするって約束していたから」――彩羽の言葉が何を意味しているのか、ロマニは知っている。

 ハッとしたように息を飲んで、ヘタクソな笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「そうだね。()()()()()()()だったからね。……まったくどうして、その張本人は()()()()()()んだろう」

 

「自分のことを棚上げした元魔術王が何か言っているようだな」

 

「……お前、ボクのこと嫌いすぎるだろ」

 

 

 これ以上ないくらい渋い顔をしたゲーティアがぽつりと零す。自分もその片棒を担いでいるのだと自覚しているが故、だろうか。情けない笑みを浮かべていたロマニがムッとしたように眉をひそめた。ゲーティアは鼻で笑い――けれど、表情はどこか影があった――お茶を飲む。

 嘗て『ソロモン』として存在していたこの2人は、お互いに対して容赦がない。特に、ロマニに対するゲーティアの反応が顕著だ。軽口(?)の応酬を繰り返すことで、互いの距離感を図っているのだろう。ハリネズミの親子が自分たちの棘で相手を傷つけることなく触れ合う術を探しているかのように。

 ロマニは『ソロモン』だった頃にはできなかったこと――自身の考えを持ち、それに対して感情を抱き、自分の心を動かし、他者の心へ働きかける――をして、ゲーティアは『魔術式』では成せなかったこと――主であった男がどんな生き方をしていたのかを理解し、自分たちはこれからどんな風に生きていくのかという疑問を抱く――を試みている。

 

 お互いがお互いに、言葉が足らなかった。落ちていく砂を見ていた魔術王が一言「自分には自由がない」と零していたら、王の態度に憤っていた魔術式が「どうして王はそんな風に思うのだろう」と疑問を持っていたら、この物語は別の形で展開していたのかもしれない。

 

 起きてしまったことは変えられない。亡くしたものは多かったけれど、今を引き換えにしてでも取り戻すとは言い切れなかった。

 たった1人の犠牲によって、この世界は成り立っている。この世界からありとあらゆる『自分が存在したという事象』を焼却し、奇跡を起こした青年の背中によって。

 

 

(……それでも、やっぱり、納得はしてない)

 

 

 彼は、この戦いにおける1番の功労者だ。特異点Fで定理復元をすることになったとき、彩羽が初めて呼び出したサーヴァント。彩羽を祖母、ロマニを祖父と慕っていた未来の英霊(サーヴァント)救世主(セイヴァー)――結絆・ヴィラノヴァ・アーキマン。

 

 特異点Fでの召喚からは、結絆はマシュと共にツートップとして双璧を成していた。数多の特異点を駆け抜け、泣いて、笑って、怒って、苦しんで、一緒になって歩んできた仲間だった。

 一色彩羽という人間にとって、かけがえのない日常を彩るに不可欠な存在だった。人理修復が終わって2017年を迎えたとき、彩羽と共に新年の朝焼けを見ていると無邪気に信じられるほどに。

 

 彩羽は目を閉じて、思い返す。

 最後の特異点で、結絆を最後に目にした光景を。

 

 

***

 

 

『――最後に一度くらいは、先輩の役に立ちたかった』

 

 

 人理焼却式の宝具を真正面から受け止めたマシュが、盾だけを残して消滅したときも。

 

 

『さあ――行ってきなさい、彩羽。これがキミとマシュがたどり着いた、ただ1つの旅の終わりだ』

 

 

 ソロモンという英霊、ひいては己の人生すべてを投げ打って、活路を切り開いたロマニが光に溶けていく姿を目の当たりにしたときも。

 

 

『私の死と、お前たちの生。キミが生きてゆく未来と、それが約束された世界に想いを馳せる時間……これが、私がお前たちの世界で()()()、何よりもの証なのだろう』

 

 

 消滅しかけの己を出口へ無理矢理引きずっていこうとした彩羽たちを見て、穏やかに笑ってその手を離したゲーティアの姿が、壊れ逝く宇宙(そら)に落ちていったときも。

 

 結絆は彩羽の隣にいた。隣にいて、いつも助けようとしてくれた。絶望を見せつけられても、彩羽と一緒になって「だからどうした」と噛みついた。

 時折、激しく燃える琥珀の瞳は、どんな絶望を見ても鼻で笑っているように思えた。「この程度で絶望を語るな」と言わんばかりの、眩い光とどす黒い昏さを宿していた。

 ――だけど。彩羽の手から3つの命が一度に零れ落ちたとき、彼の瞳に悲痛な決意が宿った。必死の形相で彩羽の手を掴んで、どこか縋るように、言ったのだ。

 

 

『おばあさま。どうか、願ってください。奇跡が欲しいと、みんなと過ごす当たり前の明日が欲しいと』

 

『どうか手を取って。――……僕を、信じて……!』

 

 

 必死の形相に押されるように、共に戦ってきた彼の姿に促されるように、彩羽は結絆の手を取った。そうして、願った。

 丁度そのタイミングで冠位時空神殿は完全に崩壊し、彩羽と結絆はそれに飲まれるようにして落ちていく。

 

 

「指針にするは星標。今宵、世界を書き換える。……貴女が抱いた願いと想いが、貴女が思い描いた世界の解と未来が、愛する人々と歩む(みち)となりますように。――さあ、宇宙統合す命の祈り()最果てに望むは愛する世界()是は人類の統合者なり()

 

 

 結絆はそう言って、柔らかに笑った。刹那、凄まじい光によって、世界が塗り替えられる。

 

 光が晴れたとき、彩羽は宇宙空間にいた。星屑によって構成された大地には、見覚えのある白い花が咲いていた。

 2020年代に発生した竜戦役を駆け抜けた彩羽は、それがフロワロであると思い至った。

 白い花はあっという間に咲き乱れ、宇宙空間に純白の花畑が広がった。呆気にとられた彩羽は、3か所から湧き上がった素っ頓狂な悲鳴を聞いた。

 

 

「私、生きてる……! っ、先輩!!」

 

 

 マシュがいた。

 

 

「……え? え、えええ? な、なんだこれ!? なんで、どうしてボクは消えてないんだっ!?」

 

 

 ロマニがいた。

 

 

「…………今際に見る幻にしては、随分と都合が良いな。これは」

 

 

 ゲーティアがいた。

 

 彩羽の目の前で燃え尽きた命が、宇宙の花畑に揃っていた。都合のいい幻でもなければ、彩羽の走馬灯でも何でもない。この場にいる4人はみな、()()()()()。根拠は一切説明できなかったけれど、確かに確証があった。

 3人の視線が一点に釘付けになっていたことに気づいて振り返れば、そこには穏やかに笑う結絆がいた。彼を取り囲むように並ぶ7つの光。そのうち2つは、彩羽にとって酷く見覚えのある相手を象っていた。

 

 2020年の東京に来襲し、『彼女(じぶん)』が撃退した金色の真竜――荒神竜ニアラ。2021年の東京に来襲し、『彼女(じぶん)』が打ち取った銀色の真竜――呪神竜フォーマルハウト。彩羽は反射的に身構えたが、光は自分たちに襲い掛かってくることはなかった。

 他の5体は見たことがない。けれど、ニアラやフォーマルハウトと一緒に並んでいるということは、奴らは真竜なのだろうか。そういえば、ニアラやフォーマルハウトが真竜の総称を『セブンスドラゴン』と称していたような気がする。では、ここに並んでいるのが、それか?

 彩羽の問いは紡がれることはなかった。柔らかに笑う結絆の姿に、得体の知れぬ予感を覚えたためだ。ムラクモ13班を率いた一色彩羽の孫は、これからとんでもないことをやらかそうとしている。彩羽やマシュ、ロマニやゲーティアがこの場に集合したのは、()()()()()()()()()()のだ。

 

 結絆は訥々と語り始める。なくしたものをかき集めて、なくさないように抱きかかえるかの如く。

 

 

「僕は一度、奇跡を願い、それを忠実に顕現しました。悲劇の元凶が存在しない世界を願いました。……結果、世界は救われた。代償として、あまりにも多くのことが「なかったこと」にされたんです。僕が帰りたかった場所も、僕のかけがえのない友達も、僕の家族も、みんなみんな「なかった」ことになった。――皮肉なことに、僕は、僕自身が救った世界によって、救われなくなった」

 

 

 若葉を帯びた琥珀の瞳は、眩いばかりの光とどす黒い昏さを宿している。

 数多の希望を、数多の絶望を知り尽くしたと言わんばかりの眼差しだった。

 

 

「でも、残ってた。多くのことは「なかったこと」にされた世界に、僕が望んだ世界のすべてが残されていたんです。それは、たかだか数枚の写真でした。……たかだか数枚の写真に、僕は救われた。僕の旅路は無駄ではなかったと、僕の旅路は間違っていなかったと、僕と僕の大切な人たちが歩んだ軌跡は無意味ではなかったんだと!」

 

 

 それでも、結絆は笑っていた。心底幸せそうに笑っていた。

 結絆に噛みつくように、咎めるように声を荒げたのはロマニだった。

 

 

「座ごと存在を消し去ったボクや、人王として消え去ったはずのゲーティアをもう一度呼び戻すなんて正気じゃない! 結絆。キミは、一体何を対価に払ったんだ!? これからキミは、一体何をするつもりなんだ!?」

 

「――これは、僕が成した偉業ですよ。おじいさま」

 

 

 結絆は笑っていた。それは自身の誇りであり、自身の汚点であると言わんばかりに。

 

 

「人類を救うために7体の真竜を狩り、終いには1個宇宙の因果律をいじって、人類滅亡の未来をその要因ごと『「なかったこと」にした』だけです」

 

「1個宇宙規模の因果律改変だと!? そのようなことを成した人間など()()()()()()()()()!!」

 

「当たり前でしょう? 僕が頑張って「なかったこと」にした滅びの中には、“英雄(ぼく)が存在し、それを成した”という事実も含まれていましたから。()()()()()()()()()()()のは当然のことです」

 

「己の存在、己が関わった事象……それらすべての焼却と引き換えにするつもりだというのか……!?」

 

「まあ、そういうことになりますかね。安いものです。むしろおつりが来過ぎて僕の1人勝ちです」

 

 

 どこか昏い笑みで語る結絆の言葉に、ゲーティアが目を見開いて凍り付く。嘗ての魔神王は、「ばかな」と零すだけで手一杯になっていた。

 それもそうだ。この場に溢れる魔力は、魔神王ゲーティアの作り上げた人理焼却滅式などとは比べ物にならない。極点の流星雨すら足下に及ばないだろう。

 1個宇宙を対象とする奇跡の御業。それを操るのは、彩羽が初めて召喚したサーヴァントであり、救世主(セイヴァー)の名を冠する青年。

 

 己の為した御業は誰にも知られることもなく、その偉業によってすべてを失い、その功績を認めて讃えてくれるものも存在しない。

 けれども彼は、その痛みや悲しみをひっくるめて、それを再現することを選んだ。琥珀の瞳は、彩羽たちに対する深い敬愛が滲みだしていた。

 

 

「願い終えた自分に許されるのは、祈ることだけでした。だから、僕は祈ったんです。『この宇宙(せかい)のどこかに、僕が出会ったすべての人々が幸せになれる世界がありますように』と」

 

「結絆さん……」

 

「祈って祈って祈り続けて、ようやくこの祈りが届いた。あの召喚が、祈り続けた僕に齎された、最大の奇跡だった。僕が僕自身の祈った世界を――おばあさまたちが笑っていられる世界を具現するために、この宝具(ちから)を振るうことができる。……貴女たちの存在を「なかったこと」にしたこの力で、貴女たちを助けられたらって……そう思ったんです」

 

 

 「凶悪な善意の押し付けってヤツですね」なんて、結絆は申し訳なさそうに笑った。魔神王以上に悍ましい理由で、魔神王や魔術王以上の偉業を成そうというのだ。この男は。いいや、既に一度成したのだが。マシュは顔を真っ青にして口を覆う。

 

 

「貴方は、最初から、そのつもりで……」

 

「あははは。本当はもっと早い段階でやりたかったんですけど、霊基再臨が終わったのは最終特異点直前でしたから。――あ、おばあさまを責めるつもりはありませんよ!? 最初からそういうモノだって覚悟はしてましたし! 4段階まで解放されないと、この宝具使えなくて……我ながらポンコツですよね」

 

 

 結絆は笑う。ずっとずっと、笑っている。今から自分が消えるというのに、彼は何の恐れも抱かず笑っている。

 その笑い方は、つい数時間前のロマニと同じだ。カルデアの司令官として「完膚なきまでの勝利を」命じ、彩羽を送り出したときのもの。

 

 

「ねえ、びっくりしました? 凄いでしょう? 僕、おばあさまやおじいさま、おじさまよりも凄いことができたんですよ」

 

「結絆……」

 

「魔術王がやらかした付属効果による永続消滅も、人王の消滅も、盾を操るサーヴァントの消滅も、おばあさまが悲しみに暮れるであろう結末も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()「なかったこと」になるんです。伊達に人類の統合者やってたわけじゃない。クソみたいな欠陥奇跡宝具だって、僕の大事な人たちを笑顔にできるんですよね! 最高の結末じゃあないですか!!」

 

「――ッ、馬鹿! キミは馬鹿だ!! それじゃあ、ボクが、ボクが……ボクは、何のために……!!!」

 

 

 己の決意を粉微塵に叩き折られたロマニがへたり込む。彩羽たちのために、ひいては世界のためにすべてを投げ捨てた男。おそらく彼の決意の中には、『平行世界からやってきた自分の孫に誇れる存在でありたい』という動機もあったはずだ。でなければ、ロマニが結絆の消滅に対してここまで取り乱すことはない。

 悪戯っぽく笑っていた結絆だが、派手に取り乱すロマニの姿が琴線に触れたらしい。バツが悪そうに視線を彷徨わせた後、「ごめんなさい」と謝罪した。悪戯がばれて、それでも笑顔で誤魔化そうとする子どもみたいだ。結絆のそれは、どこか痛々しく感じる。

 

 

「……忘れたくない」

 

「おばあさま?」

 

「忘れたくないよ、結絆のこと。結絆といたこと、結絆がいたこと……何1つとして、忘れたくない。私の大事な仲間を、私の大事な孫を、忘れたくなんかないよ。「なかったこと」になんかされたくないよ!!」

 

「……ありがとう。その言葉だけで充分です」

 

 

 結絆は満足げに笑った。彼はそれ以外の表情を見せない。それ以外に浮かべる表情など思いつかないと言わんばかりに、心底幸せそうな笑みを浮かべている。

 

 

「そういえば、今日はクリスマスですよね。……頑張った人には、プレゼントがもらえるって相場が決まっています。――この奇跡こそが、僕がおばあさまたちに贈るクリスマスプレゼントだ」

 

 

 その言葉を皮切りに、結絆を取り囲んでいた光たちが粒子となって彼の手の中へと納まっていく。膨大な魔力が渦を巻き始める。そうして――次の瞬間、光が爆ぜた。

 何かを言う間もなく。湧き上がった魔力によって、彩羽たちは無理矢理上空へと吹き飛ばされた。花畑の中で微笑む結絆の姿がどんどん遠くなっていく。

 彩羽は必死になって孫の名を呼んだ。その声が届いたかどうかは分からない。分からないが、結絆は幸せそうに目を細めていた。

 

 

「結絆さん!」

 

「くそ! ダメだ、そんなのダメだ――!!」

 

「これ、は……千里眼? ――ッ!? ……あ、ああ、あああああぁぁぁあああああ……っ!!」

 

 

 膨大な光によって飲まれる中で、マシュ、ロマニ、ゲーティアが何かを叫んでいるのが聞こえた。一際視界が白んだ後で、固い床に叩き付けられるような感覚に見舞われる。

 

 恐る恐る目を開ければ、そこはカルデアだった。コフィンから転げ出るような形で、彩羽たちは帰還したらしい。

 カルデアで待機していた人々や英霊たちが大挙して押し寄せ、やんややんやの大喝采である。みんな、誰もが笑顔だ。

 

 

「人理復元と全員帰還を祝して、盛大な宴と行こうか!」

 

「っ、待って。待ってよ。彼が……」

 

「彼? 何を言ってるんだいロマニ? 彩羽も、マシュも、キミも、()()()()()()()じゃないか。……まあ、嘗ての魔神王が人王になってここに来るなんて思わなかったけど」

 

 

 あっけらかんと言い放ったダ・ヴィンチに、ロマニは愕然とした。他の面々も、ダ・ヴィンチの言葉に同意する。「()()()()()()()()()()()、おかしなことを言うな」と。

 結絆とオタ芸で盛り上がっていたティーチも、結絆を構い倒していたダビデやオジマンディアスも、果ては――目の前で結絆の真実を知ったマシュでさえも。

 

 

「何を言っているんですか? 先輩は、特異点Fでは()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ?」

 

 

 彩羽は思わずロマニと顔を見合わせた。同時に、ゲーティアも顔を真っ青にしてこちらを見つめる。

 結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンの存在を記憶しているのは、この3名だけらしい。

 愕然とする自分たちを、職員や英霊たちがきょとんとした顔で見つめていた。――その事実が、胸を抉った。

 

 

◇◇◇

 

 

 お偉いさんたちは滞りなく、立派なドルオタとなって帰還していった。これで、時計塔の魔術師を抑え込むことができるだろう。

 あまりの変貌具合に、多くの英霊が腹を抱えて大笑いしたほどだった。孔明1人だけは顔を覆って泣いていたが。

 

 ステージを終えた彩羽が廊下を歩いていたとき、誰かの話声が聞こえてきた。思わず身を潜めて耳を傾ける。

 

 

「観客席の最前列・ど真ん中は“あの子”の席だったよね。あそこに座るべきは“あの子”以外にいないはずだ。……だが、あそこに座るべき“あの子”は誰だったっけ? ――思い出さなければいけないのに、何もわからないんだ」

 

 

 ダビデがしきりに首をかしげている。眉間の皺は深く刻まれていた。

 

 

「拙者のオタ芸を軽く凌駕していた武士(もののふ)がいたことは確定的に明らか! 拙者と“彼”は、マスターのファンという強固な絆で結ばれていた同志だった……! ……そこまで惚れ込んだ仲間だったはずなのに、何故、その相手のことを思い出せないのか……!? ぐぬぬ……黒ひげ、一生の不覚……!!」

 

 

 ティーチは頭を掻きむしりながら唸っていた。この現状に憤りを感じているらしい。

 

 

「お2人もですか? 私も、なんだか最近“1人足りない”と感じるようになりまして……」

 

「キミもなのかマシュ。私だよ。ロマニをからかったり、発破をかけたりするために相応しいダシがあったはずなのに! この天才ダ・ヴィンチちゃんですら思い出せないなんて、相手は相当な奴じゃないかな……?」

 

「フォウ、フォウフォウフォーウ! ミンナイイカゲンイワカンニキヅケフォーウ!」

 

 

 マシュとダ・ヴィンチが切羽詰った顔で呟いた。前者は深刻そうに、後者は焦りを滲ませた笑みを浮かべている。彼らの話を皮切りにしたかのようにフォウが嘶けば、「実は自分も」と、サーヴァントたちが次々名乗りを上げる。

 この現状に違和感があると、1人足りないと、そんな気配を感じているのだ――それが、一色彩羽にとって、どれ程の希望になっただろうか。世界から消された結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンというサーヴァントの存在は、完全に焼却されたわけじゃない。

 彼の歩んだ軌跡は、確かにこの世界に刻まれている。彩羽は思わず手を握り締めた。不意に、その手に誰かの手が重ねられる。振り返った先には、今にも泣き出してしまいそうなロマニの姿があった。

 

 きせきはここに。希望はここに。

 結んだ縁は、確かに自分たちを繋いでいる。

 

 たとえ、彼が存在したという事象すべてを焼却する宝具でさえも、結んだ絆を絶つことは不可能なのだ。

 

 

「――キミは、諦めてないんだろう?」

 

 

 ロマニの問いに、彩羽は頷いた。

 

 

「あんな悲しい笑顔のままお別れなんて、納得できない。誰が何と言おうが、絶対連れもどすよ」

 

「……うん、そうだ。そうだとも。連れもどして、説教して、それから……いっぱい抱きしめてやらなくちゃ。褒めてやらなくちゃ。結絆はボクの自慢の孫だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルデア全体が救世主(セイヴァー)のサーヴァント/結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンのことを思い出したのは、それから暫く後のことだった。

 結果、「やっぱりアイツはロマニの孫だった」「馬鹿野郎め!」「アイツ絶対連れもどしてやる!」と一致団結するに至る。

 

 

◆◆◆

 

 

「今思えば、救世主(セイヴァー)は度し難い奴だったな。如何なる絶望を見せつけられても、『だからどうした』と言わんばかりに相手を見上げていた。『僕はこれ以上の絶望を知っている。この程度で絶望を語るな』と訴えるように見えたものだ。……いいや、違う。あの眼は、真の絶望を知っている眼だった」

 

 

 そう言ったのは、誰だったのだろう。

 

 

「あの子、平行世界のマスターやDr.ロマンに関する話は沢山していたけれど、あの子自身の偉業については一切語ったことがなかったわよね? 1個宇宙を対象とした宝具を持っているだなんて、あの子は一体何を成してその力を得たのかしら?」

 

 

 そう言ったのは、誰だったのだろう。

 

 

「我々は、結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンの真実を知らねばならない。彼が1個宇宙の因果律を改変してまで「なかったこと」にした偉業と奇跡の真実を。……でなければ、彼を再び召喚()び戻すことは不可能だ」

 

 

 そう言ったのは、誰だったのだろう。

 

 

 たった1人/1騎の大事な仲間/サーヴァントを取り戻すための冠位指定(グランドオーダー)

 手がかりは何もない、絶望的な状況だと言ってもおかしくなかった。

 

 

「――よォ。アンタが、()()()を召喚し直したいとか言ってる奇特な奴か? フヒヒヒヒヒ……」

 

 

 立ち上がってすぐに蹴躓き、悩む彩羽たちの元へ現れたのは――金髪の髪をツインテールに結った、口の悪い少女だった。

 

 彼女は問う。彼が成し得た偉業と奇跡の真実を、彼が駆け抜けた『人と竜の物語』を、絶望の底からの逆転劇を、彼が願い祈った世界の正体を。

 余すことなくすべて紐解く覚悟はあるか――と。その資格があることを証明してみせろと、少女は嗤った。

 

 

「アンタは()()()の御先祖サマなんだろ? ()()()が憧れたおばあサマなら、こんな試験なんざ簡単に越えられるはずだ」

 

 

「――待ってるぜ。ムラクモ13班リーダー、一色彩羽。オマエが()()()のすべてを紐解くのを」

 

 

 少女との邂逅から間髪入れず、新たな特異点が姿を現す。そこは、東京でありながらも、竜以外の命が存在しない異質な世界そのものだった。

 

 

「アルティメット・ワン級の高次元生命体だけしか存在しない東京だなんて……こんな無茶苦茶な特異点は初めてだ。人理修復どころの騒ぎじゃないぞ……!」

 

「……『彼女(わたし)』、この世界のこと知っている。一度、知り合いに導かれて案内されたことがあるんだ」

 

「えええ!?」

 

 

「ここは影の世界。2020年代に現れたすべての帝竜――その幻影が跋扈する世界であり、竜戦役で散った魂がたどり着く中継地点であり、……『彼女(わたし)』が敬愛する“正義の味方”が眠る場所だよ」

 

 

 平行世界の『彼女(じぶん)』の記憶が告げる。自分に与えられた最初の試験が一体なんであるかを、そうして――一終着点に、誰が待っているかを。

 

 汝、竜を狩る者ならば、それを証明せよ。それができなければ、人類の統合者の真相を紐解くに能わず。

 これは、大切な仲間を取り戻すための冠位指定(グランドオーダー)。ひいては、『人と竜の物語』を解き明かすための旅路である。

 

 

 

 

 

「オイ、なんだこのメンバーは!? オマエの旦那と旦那の弟分が来てねーじゃねーか! メンバー組み直して出直してきやがれ!!」

 

「待って! 本当にちょっと待って! ゲーティアは分かるけど、ロマニって戦闘能力皆無のはずじゃあ……」

 

『あ、ごめん。言い忘れてたんだけど、結絆のおかげで“キャスタークラスの英霊並みの戦闘能力も付加されたうえで再構成”されたみたいで……』

 

「……戦えるの?」

 

『…………まあ、うん。少なくとも、孔明やマーリン以上には役に立てるはずだと自負してるよ。ソロモンの頃に比べれば、結構弱体化したけど……』

 

「そういうことは隠さず言ってよ!!」

 

「ヒカクタイショウニサレテディスラレタマーリンザマァフォーウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狩る者選抜試験 C

 叢雲の軌跡 西暦2020年 幻影首都東京・東京都庁

 

 

「なあ、見せてくれよ。お前が、俺の信じた“正義の味方”だって証拠を。――何をすればいいか、お前は分かってるはずだぜ?」

 

「――さあ、俺を殺してくれ。お前が頼りだ、一色彩羽!」

 

 

―― 認めよう。貴方は確かに、()()()()の“正義の味方”だった ――

 

 

 西暦2020年代に発生した第1次竜戦役。その戦いで現れたすべての帝竜・その幻影が、東京都庁を模した世界に現れた。

 試験官は笑う。「この程度の試験を突破できないようじゃ、『救世主(セイヴァー)の真実』を紐解くことは不可能である」と。

 結絆・ヴィラノヴァ・アーキマンの真実を紐解くため、まずは『彼女(じぶん)』の世界で起きた竜戦役の記録を紐解くことになる。

 

 迷宮の最奥にて佇んでいたのは、愛する女を救うために人類を救おうとした、“正義の味方になりたかった男”――人類戦士だった。

 ドラゴンクロニクルを取り込んで人竜へ至った戦士から振るわれる数多の理不尽に、己を止めろという咆哮に、狩る者は応えることはできるのか。

 

 

 

 

 

狩る者選抜試験 B

 黒い葬送花 西暦2021年 幻影首都東京・国会議事堂

 

 

「さあ、嘆け。震えよ。それこそ、遥か高みへと至るエントロピー!」

 

「何故倒れヌ……何故絶望せヌ……! お前たちは、一体何者だ……!? ……理解(わか)らヌ。理解(わか)らヌ……理解(わか)れヌ……!!」

 

 

―― あそこで叫んでいるのは、魔神王だった頃の私だ。ならば、我が運命に勝てぬのは道理であろう ――

 

 

 次の舞台は2021年、第2次竜戦役。その戦いで現れたすべての帝竜・その幻影が、国会議事堂を模した世界に現れた。

 試験官は笑う。「この程度の試験を突破できないようじゃ、『救世主(セイヴァー)の真実』を紐解くことは不可能である」と。

 第1次竜戦役を超える程の絶望を見せつけられても尚、マスターとサーヴァントは足を止めない。何度だって立ち向かうのだ。

 

 迷宮の最奥で待ち構えていたのは、嘗て『一色彩羽』に打たれたはずの第5真竜フォーマルハウト。死と絶望を愛してやまぬ悪食の真竜。

 嘗ての魔神王が否定したかったものの権化が姿を現したとき、千里眼など使わずとも、人王はすぐに奴の末路を鮮明に見出す。

 

 その予測通り、嘗て『一色彩羽』が成した奇跡(ぶたい)の幕が、再び上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 2つの試験を突破した彩羽たちは、ついに結絆の真実を知る権利を経た。

 人と竜の物語は、今、余すことなく解き明かされる。

 

 幻想の世界で辿るのは、ノーデンス13班員として時空を駆け抜けた青年の旅路。

 

 

 

 

人と竜の物語 C

 幻想竜王 1万2000年前 海洋王国アトランティス・封印区レデイン最下層

 

 

「…………クァハ、クァハ。――痴れ者がッ……格の違いが分からんのか! 無意味に、無価値に、皆殺しにしてくれる……!」

 

 

―― 滅びへと向かう海洋帝国。それでも、彼らは最期まで足掻くことを選んだ ――

 

 

 

 

人と竜の物語 B

 幻想暴刀 西暦7000年相当 カザン共和国・古代遺跡レデイン

 

 

「これしきの小細工で……このオレを御せると思うなよ! 家畜がァ!!」

 

 

―― 6番目の真竜が投げかけた言葉は、後に続く悪夢への布石 ――

 

 

 

 

人と竜の物語 A

 幻想火天 西暦7000年相当 学術都市プレロマ・竜殺剣封印区

 

 

「私は第4真竜ヒュプノス。愛と憎しみを糧とし、万物を屠る縛めの真竜なり! ――私を……打ち砕け!!」

 

 

―― ああ、嘗ての戦友(とも)よ。せめてどうか、安らかなる眠りがあらんことを ――

 

 

 

 

人と竜の物語 D

 狩る者とは 西暦2100年 東京・ノーデンス本社/国会議事堂・ムラクモ指令室

 

 

「ねえ、みんな。お花見は好き?」

 

「これが、最後のお仕事……行くよ、13班!」

「覚悟するのです!」

 

「決着をつけましょう。どちらが真の狩る者か、どちらがより強いのか……勝つのは――俺だ!」

 

 

―― 此ノ花咲くとき、最後にして最大の絶望が幕を開ける。これは、残酷なる慈母からの愛。人類への剪定だ ――

 

 

 

 

人と竜の物語 A

 幻想母竜 西暦2100年 東京・千鳥ヶ淵

 

 

「……さあ、私に見せなさい。生命の輝きを、キミの進化を。もうすぐ目覚める終末の真竜――VFDよ!」

 

 

―― 燃え尽きていく命、託されていく想い。それは、牙を向いた第2真竜の思惑すら打ち砕く ――

 

 

 

 

人と竜の物語 EX

 セブンスドラゴン 深淵138 10^8・宇宙統合意志グレイトフルセブンス/VFD

 

 

「種の死滅とは進化の必然。其れが、理。断ち切れるものではない。古い文明の終焉は決まっている。……死だ」

 

 

―― 生き残るのは竜か人か。最後の戦いが、今、幕を開ける。狩る者よ、すべての竜を狩り尽せ ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どうか、()()()の幸福を祈った彼も、幸せになれる可能性がありますように」

 

 

 

 

 

 

 

 すべての物語は紐解かれ、青年との縁は結ばれる。

 

 

「……えーと、その、……ただいま」

 

「――おかえり、結絆」

 

 

 ――こうして、ただ1人のための冠位指定(グランドオーダー)は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 ささやかなカーテンコールが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

カーテンコール E---

 今、運命は手を離れた 境界線/影Ω

 

 

「この子を殺すということは、新しい生命が誕生する可能性を摘み取ることと同義なんだ」

 

「悲劇を未然に防ぐために可能性を摘み取る……それは、絶対解なのかな……?」

 

「――いや、重大な決断をキミたちばかりに託してちゃいけないな。僕にだって曲がりなりにも地球を守ってきた自負がある。戦って、強い方が決断しよう。それでいいかい?」

 

 

―― 可能性を潰すのか、見送るのか。幼き真竜の行く末を、ひいては億兆の未来の行方を決める戦いが幕を開ける ――

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 >>カルデアサーヴァント録、救世主(セイヴァー)【真名:結絆・ヴィラノヴァ・アーキマン】に、新たな情報が追加されました。

 

絆礼装【あなたがいた証】

<イメージイラスト:「結絆を取り囲むようにして、彩羽、ロマニ、ゲーティアが穏やかに笑っている」写真と、「Code:VFDで出会った仲間たちが全員集合している」写真が入った写真立てが、机の上に置かれている>

 

 




やりたいことすべてを詰め込んだ絆クエスト。中身は冒頭+経緯+予告風ダイジェストにしました。実質、サーヴァント2枠固定(キャスターロマン&[クラス未定]ゲーさん)の帝竜&真竜ボスラッシュとなっております。1戦1戦で、固定鯖以外なら好きにチーム交代ができる形式。
難易度の中には「詐欺だろコレ」とツッコミを入れたくなるようなものもあるかもしれませんね。特に、狩る者選抜試験の人類戦士とか、カーテンコールで戦うことになるであろうヒーローとか。どのサーヴァントを絡めても、某大剪定でメンタルをごっそり持っていかれること請け合いです。
ネーミングセンスとキャッチコピーのセンスが壊滅的で申し訳ありません。絆礼装の効果も一切考えていない有様です。拳で殴る系のサーヴァントなので、バスター強化でしょうか? 悩ましい限りです。

……ところで、カルデア勢にとって、2020シリーズ裏ボスやⅢ裏ボスはどんな思いで対峙することになるのでしょう。特に、Ⅲ裏ボスがメンタル的な意味で鬼門になりそうな予感。

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