Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

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・一部のキャラ崩壊注意。
・超威力の地雷要素あり。ヒントは下記。ロマニの精神がマッハになる模様。
・サーヴァント“救世主(セイヴァー)”登場。救世主=Ⅲ主人公=サムライ♂color1=ぐだ子+αの関係者
・Ⅲ主人公=結絆(ユウキ)・ヴィラノヴァ・■■■■■(ファミリーネームは作中で判明)/イメージCV.セブンスドラゴンⅢ男性G(島崎信長)


序章-2.調査は道連れ、超弩級/Raid

 特異点F――日本海に面した地方都市・冬木市は、2004年に発生した聖杯戦争の舞台だ。魔術師たちは人知れず英霊を召喚し、人知れず戦い、剣の英霊(セイバー)陣営の勝利という形で戦いに幕を引いた。カルデアの英霊召喚システム・フェイトは、このとき発生した聖杯戦争の召喚システムを元にしているという。

 この戦争に、オルガマリーの父親にして前所長だった人物も参戦していたらしい。そして、完成したシステムを用い、カルデアは英霊召喚の儀を行った。成功例は3体とのことだが、オルガマリーは2体しか見たことがないそうだ。

 

 彼女が知っているのは、自分が所長になった後に召喚された2体のみ。1体がマシュと融合した英霊、もう1体がレオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

 

「レオナルド・ダ・ヴィンチって、モナ・リザの?」

 

「ええ。あのサーヴァントは超弩級の変人なの。なんてったって、本来の姿じゃなくて――」

 

 

 オルガマリーの愚痴めいた説明は、最後まで紡がれることはなかった。特異点調査をしていた彩羽たちの前に、敵が出現したためである。

 現れたのはガイコツだ。奴らは弓を装備している。英霊のクラス分類に当てはめれば弓兵(アーチャー)だろうか。

 顔を真っ青にしたオルガマリーは、半ば引き気味になりながら彩羽とマシュに迎撃要請を出す。彩羽とマシュは頷き、オルガマリーの前に躍り出た。

 

 

「討たれる前に討つよ! ――捕まえた!」

 

「感謝します、マスター。――せぇぇぇい!」

 

 

 彩羽は早さ特化の陣形を組む。一時的に俊敏を強化されたマシュは、あっという間にガイコツへと肉薄した。彩羽の目論見通り、ガイコツが弓に矢をつがえるより早く、マシュの大盾が振り下ろされる。ガイコツはいとも簡単にへし折られ、粉々に砕け散った。

 相方がやられたことに怯んだガイコツだが、奴はすぐ弓を構えた。照準は大盾を持つマシュではなく、煌びやかな格好をした彩羽である。慌ててマシュが彩羽の元に駆け出すが、どう考えても間に合わない。

 

 

「先輩!」

 

「彩羽!」

 

 

 マシュとオルガマリーの切羽詰った声が酷く遠かった。

 彩羽は迷うことなく力を行使する。刹那、この場一帯にドライアイスが立ち込めた。

 

 ガイコツはぎょっとしたように身をすくませる。相手側からだと、彩羽の姿は非常に確認しづらくなったであろう。それでも矢を撃ち放ったのは、弓兵としての矜持があったためだろうか。

 

 何であれ、ガイコツの目論見は外れた。こちらに飛んで来た矢を、彩羽は何の苦もなく避ける。

 勢いそのままステップを踏んで、反撃体制へと移行した。

 

 

「魂の叫び!」

 

 

 音波を真正面から喰らったガイコツは吹っ飛び、瓦礫に叩き付けられる。それでも奴は立ち上がって反撃しようとした。勿論、そんな暇など与えはしない。

 彩羽は即座に素早さ特化の陣を組む。一時的に敏腕を強化されたマシュが、彩羽に矢を放とうとしたガイコツの前に躍り出た。彼女が構えた大盾が矢を弾く。

 勢いそのまま、マシュが大盾を叩きつけた。ばきんと高い音を立てて、ガイコツは倒れこむ。奴の体はあっという間に砂と化し、夜闇へと消え去った。

 

 

「ふう、戦闘終了です。今回も何とかなりましたね」

 

「マシュがいてくれたおかげだよ。わたし1人だったら、何もできずにやられちゃってただろうし。ありがとう」

 

「いいえ。先輩の援護があったからです」

 

 

 彩羽はマシュとハイタッチした。ぱちん、と、乾いた音が鳴り響く。意気揚々としている彩羽と違って、オルガマリーの表情はどこか深刻そうだった。

 

 

「……ねえ、貴女たち。もしかして、宝具が使えないの?」

 

「宝具?」

 

 

 オルガマリーの言葉に彩羽は首を傾げた。隣にいたマシュは表情を曇らせる。自分たちの――特に彩羽の反応を見たオルガマリーは、これ見よがしにため息をついて説明を始めた。

 

 英霊には宝具と呼ばれる武装を所持しているという。英霊の業績や顕現されたクラスによって、その数や威力はまちまちだ。どれもこれも、英霊が生前に築き上げた伝説の象徴であり、奇跡そのもの。成り立ちは、所持していた武具から生き様まで何でもござれだという。

 大半の宝具は「宝具の真名を解放する」ことで力を発揮するが、自身の伝説を現すヒント/答えを晒すことに繋がるため、相手に自分の弱点を晒してしまうというデメリットがあるそうだ。しかも、奇跡の顕現にはそれ相応の対価――俗にいう魔力が必要らしい。普段は温存し、ここぞというときに使うのが定石とのこと。

 ただ、宝具には「真名解放により効果を得る」タイプもあれば、「常時発動している」タイプもあるという。……成程。マスターの常識として、“召喚された英霊の宝具はきちんと確認しておく”必要がありそうだ。

 

 「サーヴァントの力を宿した彩羽と、デミ・サーヴァントとして力を得たマシュにも、正規サーヴァントと同じ宝具があるはずだ」とオルガマリーは言う。

 しかし、マシュは自分に宿った力がどの英霊のものなのか理解していない。だから真名解放によって宝具を発動させることができず、できたとしても本物並みの出力ではないという。

 

 

「マシュは事情があるから仕方がないとして、一番の問題は貴女よ、彩羽! 平行世界の『彼女(じぶん)』の力を夢幻召喚(インストール)したのに、自分の宝具も発動できないなんて!!」

 

「うーん……」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。ただ、この方法で出す“あの技”が、オルガマリーの言う宝具にカテゴライズされるものなのか否か、彩羽には判断がつかないのだ。

 『彼女(じぶん)』の冒険譚(せかい)では「奥義」、「秘奥義」と呼ばれていた技である。前者は自己強化一辺倒、後者は仲間に攻撃指示を出すオーダー系の極致ともいえる効果を持つ。

 

 

(……そもそも、メンタルが非常にガタガタであるオルガマリー所長が、アレを見ても耐えられるんだろうか)

 

 

 どこからともなくステージが現れて、アイドルが踊り狂って華麗なフィニッシュを決める――『一色彩羽(かのじょ)』の世界では誰1人としてツッコミを入れなかった超現象だ。一般人である彩羽も唖然としたけれど、生粋の魔術師であるオルガマリーはどう反応するだろう?

 彩羽は魔術に関しててんで無知である。特異点Fを進軍しながら、オルガマリーやマシュらから手ほどきを受けている真っ最中だ。『彼女(じぶん)』から祈りを託された現象を夢幻召喚(インストール)という魔術に当てはめて阿鼻叫喚と化したオルガマリーが、また発狂してしまいそうで困る。

 

 

「ああもう、これだから一般人は……!」

 

「そうだね。いっそ、貴女の養分にされる方が役に立てるかもしれない」

 

「そこまでは言ってないでしょう!? “人類の裏切り者(日傘ナツメ)”を引き合いに出すのはやめて頂戴!」

 

 

 オルガマリーは顔を真っ青にして首を振った。彼女は「力なき者は喰らわれて当然。だから私のために死ね!」と主張できるような極悪非道ではない。同時に、人の死を踏み台に出来る程、肝が据わっていないのだ。最後の一線で踏み止まれるというのも立派な強さである。

 例え足を止めた理由が自己利益のためだったとしても、足を止めようと決断したこと自体が立派なことだ。進む強さも大事だけれど、立ち止まる強さも、踏み越えないと選択できる強さも必要だと彩羽は思う。それを教えてくれたのは『彼女(じぶん)』の旅路(じんせい)であった。

 

 雑談もそこそこに、特異点Fの調査を進める。

 

 見渡す限り火の海で、人の姿は一切確認できない。生きている人間の気配はおろか、()()()()()()()()()すら見つからないのだ。

 これほどまでの被害なら、瓦礫の間から手足が見えたり、呻き声が聞こえたり、何かが燃える臭いがしてもおかしくない。その痕跡すら、感じない。

 2020年代の東京でさえ多種多様の死体が転がっていたというのに――あまり嬉しくない『彼女(じぶん)』の経験則が、現状を異常であると訴えている。

 

 

『所長の独り言が始まっちゃったか。こうなると長いから、ちょっと休憩したらいいんじゃないかな? 幸い、辺りも安全みたいだし』

 

「Drに賛成です。先輩、レーション食べますか?」

 

「あ、ありがとう、いただくよ」

 

 

 とりあえず、今は体を休めるべきだろう。ナビゲーターのロマニとマシュに従うような形で、彩羽は適当な場所に腰かけた。

 

 

***

 

 

「もう完全にサーヴァントとしてやっていけるわね、マシュ。彩羽もサポート役として様になってきたみたいだし。ここの程度も知れたんだもの、もう怖いものはないんじゃない?」

 

 

 敵が砂と化して消えていくのを確認し終えたオルガマリーが振り返る。金色の瞳は爛々と輝いているように思う。彼女もまた、本来の調子が出てきたらしい。

 もう何度目の襲撃だろう。マシュとのコンビネーション――専ら、彩羽は援護ばかりだが――で敵を撃退するのにも慣れてきたところだ。

 戦闘を続けていくうちに、確かに彩羽もマシュも戦い方を覚えてきたように思う。だが、戦いに慣れたからと言って、戦闘が怖くない訳ではないのだ。

 

 

「それは……どうでしょうか。どんなにうまく武器を使えても、戦闘そのものは……」

 

「戦いに慣れたとしても、やっぱり怖いものは怖いよ。わたしもそうだし」

 

 

 マシュに続くようにして、彩羽は肩をすくめて首を振った。それを聞いたオルガマリーが目を丸くする。

 

 

「……怖い? マシュとは違って、平行世界の『彼女(あなた)』の記憶、経験、力を手に入れた貴女が? 『彼女(あなた)』は英雄なんでしょう?」

 

「『一色彩羽(かのじょ)』だって人間なんだよ。痛み、恐怖、悲しみ、やりきれない憤りに苦しんだことは何度だってある。でも、それらを全部認めて、受け入れて、その上で“抱えて走り抜く”と決めた。一周回った開き直りってヤツで、走って行けたに過ぎないんだ」

 

 

 脳裏に浮かんだのは、異界化した東京。地獄と化した迷宮で、『彼女(じぶん)』は数多の理不尽と向き合わなければならなかった。人が目の前で死んでいく地獄を、ただ見ていることしかできなかった。救えた命よりも、取りこぼした命の方が多かったかもしれない。

 帝竜たちの仕掛けてくる嫌がらせに煮え湯を飲まされたことがある。音で死体を操るロア=ア=ルア、他者を錯乱させる鱗粉をばら撒いて同士討ちを誘発したスリーピーホロウ、超強酸性雨を降らせてきたオケアノス、精神攻撃を繰り出してきたインソムニア。

 真竜たちによって汚された命があった。『彼女(じぶん)』たち人類を家畜呼ばわりしただけでなく、『彼女(じぶん)』たちの目の前でタケハヤを消し飛ばした第3真竜ニアラ。司令官キリノの技術者生命を奪い、エメルを含んだ決死隊の面々を死に至らしめた黒いフロワロをばら撒いた第5真竜フォーマルハウト。

 

 馬鹿みたいな難易度のミッションに挑むのは当たり前で。

 逃げるなんて選択肢、はなから選ぶことは不可能だ。

 

 ――でも。

 

 

「痛いと叫んで何が悪い。怖いと叫んで何が悪い。足がすくんで何が悪い。逃げ出したくなって何が悪い。泥まみれになることの何が悪い。遠回りすることの何が悪い。心が折れてしまうことの何が悪い。助けを求めて何が悪い。間違って何が悪い」

 

 

 彩羽はまっすぐ、オルガマリーを見返す。オルガマリーは大きく目を見開き、息を飲む。それを見た彩羽は、柔らかに笑った。

 

 

「わたしはそれを認める。その弱さを肯定する。その上で、最後は『前に進む』ことを選んだに過ぎないんだよ」

 

「……貴女みたいな人が、今まで“ただの一般人”としてやってこれたこと自体が不思議だわ。いや、貴女のような人だからこそ――」

 

『――お取込み中悪いけど、話は後! 3人とも、今すぐそこから逃げるんだ!!』

 

 

 彩羽とオルガマリーの間に割って入ったのはロマニだ。彼曰く、まだ敵性反応が残っていたらしい。しかもそれは、サーヴァントと同格だというのだ。

 彼がそう言い終わる前に、彩羽たちの前に黒い影が現れる。体の輪郭が薄らぼんやり残る靄でありながらも、迸る殺気は間違いなく強敵であった。

 

 

『彩羽、マシュ! サーヴァント戦は、キミたちにはまだ早い……!』

 

「そんなこと言っても逃げられないわよ!? 2人とも、戦いなさい! マシュは同じサーヴァント同士だし、彩羽は援護が得意なんでしょう!? 何とかしなさいよ!!」

 

 

 すっかり冷静さを欠いたオルガマリーがヒステリックに叫び散らす。彩羽は小さくため息をついた。オルガマリーを責める気持ちがないわけではないが、弱さを吐き出していいと言ったのは自分である。言い出しっぺである以上、責任は取らねばなるまい。

 マシュに視線を向ければ、彼女は不安を滲ませながらも頷き返した。溢れる弱さを抱えながら、恐怖で軋む四肢を引きずりながら、それでも戦うことを選んだのは彩羽たちなのだ。――すべては、『生きたい』という願いのために。

 『彼女(じぶん)』の経験則が指し示したのは、選抜試験で遭遇した最初の帝竜ウォークライ/キリノたちを助けるために乗り込んだスカイタワーで遭遇したフォーマルハウトの紋章だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――だから、どうした。

 

 地獄など、何度も駆け抜けている。這い上がって、屠って、勝利を勝ち取ってきた。

 変わらない。『彼女(じぶん)』と何ら変わらないじゃないか。

 

 

「――最高のステージを、披露しなくちゃ」

 

 

 ぽつりと彩羽は口にした。それを皮切りに、身体の奥底から力が湧き上がる感覚に見舞われる。――マナを解き放つことで、一時的に身体能力を上昇させるこの現象を、『彼女(じぶん)』はエグゾーストと呼んでいた。

 周りの声が非常に遠い。代わりに、誰かの気配を酷く身近に感じ取る。見上げれば、『一色彩羽(かのじょ)』が満面の笑みを浮かべてこちらに語り掛けてきた。その言葉の意味を、彩羽は正しく理解する。彼女の標に従って、彩羽は力を解放した。

 

 

「正念場よ……!」

 

 

 世界が塗り替えられる。燃え盛る大地は、スポットライトに照らされたステージへとかき消された。スピーカーが唸り、アップテンポな音楽を響かせる。

 

 

「恥も外聞も捨てて、踊るんだ!」

 

 

 険しい顔など必要ない。羞恥心や躊躇いなど必要ない。アイドルに求められるのは、人々を笑顔にする程の輝く笑顔だ。ステージをやり遂げるためのプロ意識と根性だ。

 嘗てのスーパーアイドル・モモちゃんから受け継いだ歌とダンスを、全身全霊をかけて披露する。曲調と相まって激しく動くのだ、汗が滴るのも当然だろう。

 ライブはフィナーレ。舞い散るラメ、降り注ぐ金銀のテープ。――彩羽は満面の笑みを浮かべて、『彼女(あのひと)』から譲り受けた宝具の真名を解放した。

 

 

「何億の星が崩れ壊れ消え去っても、この歌声は()り止まず! 響け! ――“麗しき竜狩り歌姫の絢爛舞踏(トウキョウアリーナ2020)”!!」

 

 

 真名解放と同時に、彩羽は決めポーズでライブを〆た。どこからか『「うおおおおおおおおおおおおおッ! 彩羽ァァァァァァァァ!」』と絶叫するロマニとオルガマリー、「最高です先輩! これがアイドル……スーパースター……!!」と感極まったマシュ、「「ウオオオオオオオオオオオオッ!」」「嬢ちゃあああああああああああああん!」と吼える男性3人の喝采と歓声が聞こえてきたような気がした。

 

 

「良くやった、私……」

 

 

 そのままステージから飛び降り、地面に着地する。ライブステージは溶けるように消え去り、燃え盛る冬木の街が戻ってきた。

 彩羽は薄らぼんやりとした影のサーヴァント――ライダーと対峙した。敵はびくりと身をすくませる。まるで、芸能界の大御所を目にした新人みたいだ。

 

 ……いや、その表現は間違っていないのだろう。今の彩羽は“どこにでもいるアイドル”ではない。アイドルの中でもトップに君臨する一握りの存在――所謂『スーパースター』と呼ばれる大御所だ。スーパースターという称号に相応しく、体中から凄まじい力が溢れてくる。

 

 

「一緒に畳みかけるよ、マシュ! ――活路を開いて!」

 

「お任せください!」

 

 

 彩羽の指令(オーダー)を受けたマシュが走る。彩羽の音波攻撃によって足止めされたライダーに、マシュが容赦なく大盾で殴りつけた。

 攻撃はそれだけではない。彩羽の指令(オーダー)スキルとは無関係に、彩羽が指示を出す。マシュは大盾で攻撃を仕掛けた。

 ライダーだって負けていない。反撃するため、どこからともなく短剣を取り出す。それを容赦なく投擲してきた。マシュは難なく大盾で短剣を弾き返す。

 

 次にライダーが狙ったのは彩羽だった。彩羽はドライアイスを展開しつつ、ダンスのステップを駆使して短剣を回避する。掠り傷すら負っていない。それを目の当たりにしたライダーは困惑していた。

 

 勿論、その隙を逃す程、彩羽は能天気ではない。

 勢いそのまま、次の攻撃へと移行した。

 

 

「ゲージ・オーバー!」

 

 

 足元に展開したメガホンが、大音量で歌声を響かせる。それは音波となってライダーに襲い掛かった。文字通りの波状攻撃に、ライダーは手を止めてしまう。

 

 彩羽は迷うことなく、再びマシュへ指令(オーダー)を出した。勢いそのまま、ライダーに攻撃を仕掛ける。音波と盾によって殴られながらも、ライダーは反撃を試みた。今度は短剣ではなく鎖が襲い掛かってきた。

 マシュは大盾を駆使して鎖を弾き飛ばし、彩羽はダンスのステップで鎖を躱す。その度、周囲からは割れんばかりの喝采が響き渡った。勿論、彩羽も笑みを絶やすことなくライダーへ挑む。そんな自分に影響されたのか、マシュも不敵に笑っていた。

 

 それを目の当たりにしたライダーが攻撃を仕掛けてきた。鎖と短剣が四方八方から襲い掛かる。

 

 マシュとライダーが切り結び、彩羽がライダーの攻撃を悉く回避した。回避すれば即座に指令(オーダー)や歌を繰り出し、ライダーへダメージを蓄積させていく。

 徐々にだが、戦況が彩羽たちに傾く。それに比例して、辺り一面から喝采が響いた。ファンの歓声を力に変えて、スーパースターは全身全霊を賭け戦場(ステージ)を彩る。

 スペック的に優勢だったはずのライダーがくらりと傾いた。心なしか、輪郭が揺らいだように見える。あと一押しだ、と、『彼女(じぶん)』の経験則が訴えた。

 

 

「攻撃パラメーター、アップ! ――マシュ、とどめは任せるよ!」

 

「任されました! ――せやぁッ!」

 

 

 彩羽のバックアップを受けたマシュが大盾を振るい、ライダーを殴り飛ばした。吹き飛ばされて地面に叩き付けられたライダーが、黄金の粒子になって弾けるように消えてしまう。

 それと同時に、彩羽の纏っていたスーパースターの風格も溶けるように消え去った。魔法が溶けて残ったのは、どこにでもいるちっぽけなアイドル1人だ。

 

 彩羽とマシュは肩で息をしながら顔を見合わせた。今更になって、凄まじい疲労感に見舞われる。同時に湧き上がってきたのは達成感だ。

 

 

「やったね、マシュ!」

 

「はい! 先輩の宝具のおかげです……!」

 

 

 彩羽とマシュは満面の笑みを浮かべてハイタッチを交わした。それを皮切りに、この戦いを見守っていた面々の声が響き渡った。

 

 

『凄い! 凄いよ彩羽ちゃん! ボク、あんなに心が揺さぶられるようなライブ、人生で初めて見た!!』

 

「ちょっとロマニ、なんて格好してるのよ!? 法被と団扇に鉢巻装備だなんて、どこのアイドルオタク!?」

 

「フォウ、フォウフォーウ!」

 

『あれぇぇ!? なんでボクこんな格好してるんだ!?』

 

「……イヤ、貴殿モ人ノコト言エナイノデハ?」

 

『所長、どうしたんだいその恰好!?』

 

「きゃああああああ!? わ、私、いつの間に!?」

 

「面白イ、面白イ、面白イ! コレガ『らいぶ』トイウモノカ! 戦イ以外デ心ガ踊ッタノハ久方ブリダ……」

 

「いやー、最高のライブだったぜ! 嬢ちゃん、アンコール!」

 

「ヒッキーダカラナマライブミレナイマーリンザマァフォーウ!」

 

「コイツ喋ったぞ!?」

 

 

 ワイワイと盛り上がる面々を見返し――彩羽はふと違和感を覚えた。

 

 この場で拍手喝采をしていた面々が1人残らず法被・団扇・鉢巻を身に纏っていることは大した問題ではない。問題は、この場にいる人数だ。

 増えている。明らかに増えている。追加された人員は3人。先程のライダーと同じ黒い影が2名に、青い髪に赤い瞳の白人男性の1名だ。

 

 

「……盛り上がっているところ、悪いんだけど」

 

『「「「「「?」」」」」』

 

「……そこの御三方は、どちらさまですか?」

 

『「「「あっ」」」』

「「アッ」」

「フォーウ……」

 

 

 

 この後すぐに、黒い影が敵サーヴァントであることが発覚。青い髪の青年――キャスター/クー・フーリンと共にこれを撃破するに至る。

 

 彩羽の宝具が何であるかを整理してみたところ、魔術師の間では固有結界と呼ばれるものに属していることが発覚し、もれなくオルガマリーが発狂した。

 

 

◇◇◇

 

 

 敵サーヴァントを撃破し、共に戦ってくれたクー・フーリン曰く、

 

 

そっちのお嬢ちゃん(一色彩羽)が魅せてくれたライブと、お嬢ちゃんたち(一色彩羽とマシュ・キリエライト)が見せてくれた番狂わせに免じて、彩羽(アンタ)と仮契約してやるよ」

 

 

 とのことらしい。利害関係の一致や本人の希望をくんで、彩羽たちはキャスター/クー・フーリンを調査メンバーに加えて先に進んでいる。

 冬木大橋を渡る道すがら、唯一この街の聖杯戦争で生き残った彼から事情を聴きだす。クー・フーリンは深々と息を吐いた。

 

 

「聖杯戦争はある夜を境にして一変しちまったんだ」

 

 

 クー・フーリンはそう言って、苦虫を嚙み潰した顔のまま、燃え盛る街を見つめていた。赤い瞳には何が映し出されているのだろう。守ることができなかった己のマスターか、それとも、冬木がこうなる以前の風景――穏やかに紡がれていたはずの日常だったのか。それを察することは不可能だった。

 

 

「経緯は俺にも分からねぇ。街は炎に包まれ、人間は()()()()()()()いなくなり、残ったのはサーヴァントだけだった」

 

「誰かが何かをした結果、()()()()()()()()()()()()()()()ってこと?」

 

「だろうな。本来、魔力を供給するマスターがいなくなっちまうと、俺たちも消滅しちまうのがルールなんだ。マスターの魔力がサーヴァントを現世に留める鎖みたいなモンだからな。……だが、不思議なことに、幾ら時間が過ぎようとも、俺たちが消える気配はなかった。マスターどころか、()()()()()()が不在の状態で聖杯戦争を行うなんざ、正気の沙汰じゃねぇ」

 

 

 彩羽の問いに答えたクー・フーリンは深々と息を吐いた。狂った聖杯戦争の中で、唯一彼だけが正常な判断を有している。それ故の苦悩もあったのか。

 誰1人“人類の居ない世界”に取り残されたサーヴァントたちは、何を思って現界し続けていたのだろう。赤く燃える街を眺め続けていたのだろう。

 眉間の皺を深くしたクー・フーリンは、乱暴な手つきで自分の頭を掻いた。現状に至るまでのプロセスを思い出していたのであろうか?

 

 

「どうしようかと考えあぐねていたとき、真っ先に動いたのはセイバーの奴だった。奴さんは聖杯戦争を再開させると、水を得た魚のように暴れ回りやがってな。俺以外のサーヴァントを全部倒しちまったよ。倒された奴らは1人残らず泥に汚染され、あのザマさ。そうして奴らは、ボウフラみたいに湧き上がってきたバケモノどもと一緒に、何かを探し始めたんだ」

 

「そういえば、あのサーヴァントたちは聖杯戦争をしようとしていたわね。『サーヴァントをすべて倒さなければならない』だの、『マシュを襲ったのもその一環』だの言っていたし。……この街で行われた聖杯戦争も、7騎の英霊と7人の魔術師によるバトルロワイヤル形式だった。聖杯戦争が行われた場合、必然的に『最後の1組になるまで戦い続ける』ことになる。……まさか、あのサーヴァントたちは“聖杯戦争を終わらせる”ために動いてたってこと?」

 

「それなら、アサシンやランサー、ライダーの行動原理――私を狙った理由に説明がつきます。……アレだけ発狂していたのに、きちんと覚えていたんですね。所長」

 

『「あ、あはは……」』

 

 

 クー・フーリンとオルガマリーの考察に耳を傾けつつ、マシュはぼそりと呟いた。

 淡々とした呟きに、思わず彩羽はロマニと一緒になって乾いた笑いを漏らした。

 

 幸か不幸か、自分たちの呟きは熟考し始めたオルガマリーに聞こえることはなかった。閑話休題。

 

 

『――さて、今ボクたちが戦ったのはライダー、ランサー、アサシンの3体。唯一正気を保っているキャスターを除くと、この街で現界しているサーヴァントはセイバーとアーチャーになるのか……。そして、確実な意味で生き残っているのはセイバー。つまり、“キャスターが生き残った状態でセイバーを倒せ”ば、この特異点の異変も……』

 

「この世界が元に戻るかは知らないが、少なくとも聖杯戦争は終わる。そこの軟弱男の予測通りだ。……俺がランサーとして召喚されていりゃあ、セイバーを一刺しで仕留めてやったんだが……」

 

 

 ふむ、と、仲間たちがみんなそれぞれ考え込む。話し合いの結果、「冬木市の特異点=大聖杯と仮定し、それが安置されている場所へ向かう」方針で一致した。

 

 その前に、激化するであろう戦いに備えるため、マシュが宝具を使えるようにするために特訓することになったが、割愛する。結果的に、マシュは宝具を解放できるようになった。真名を解放することはできなかったが、充分な力を発揮して彩羽たちを守ってくれたのだ。

 名前があると楽だというオルガマリーの意見に従い、マシュの宝具の仮名は“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス) ”となった。戦力強化は喜ばしい。……とは言っても、だ。この特異点で出会ったクー・フーリンの協力があるが、ここは異形が闊歩する魔窟のような場所だ。

 

 タケハヤが封印されていた世界に湧くドラゴン超会議程ではないものの、戦力的に厳しいことは変わりない。

 キャスターだって「味方は1人でも多い方がいい」と言っていたし、自分たちだって戦力が欲しい。

 戦いがひと段落したのを確認し、彩羽はオルガマリーにお伺いを立てる。

 

 

「所長。一同の更なる安全確保と戦力拡充を兼ねて、もう1体くらいサーヴァントを召喚したいんだ。構わないかな?」

 

「……いいでしょう。許可します」

 

 

 上司からの言質は取った。早速レイポイントを設置し、所長のレクチャーを受けながら英霊召喚を行う。

 

 オルガマリーから教わった通りに呪文を唱える。青い粒子が渦を巻き、召喚陣が赤く光り出した。立ち上る魔力が弾けるような感覚の後、魔力の風が一気に吹き荒れた。思わず両手で顔を庇う。

 やがて風は止み、赤い光が急速に消えていく。代わりに点滅するのは青い燐光だ。相当量の光が発生していることは、目を閉じていても明らかだった。瞼の奥を焼き尽くさんと言わんばかりの輝きも落ち着いてきたので、彩羽はゆっくりを目を開ける。

 そこにいたのは1人の青年だった。赤銅色の髪に眼鏡をかけ、白い学生服に身を包んでいる。身に纏っている学生服はただの学生服ではない。この格好で戦闘することを視野に入れた戦闘用の装備も施されていた。

 

 青年はゆっくりと目を開ける。開かれた双瞼は、僅かに緑を帯びた琥珀色だ。

 青年は少し眠そうに目を瞬かせ――彩羽の姿を視界に入れるや否や、ぱああと表情を輝かせた。

 

 

「ああ、これが僕の運命なのか……」

 

「え?」

 

「僕は、僕自身の運命に感謝します。――会いたかった、おばあさま」

 

 

 感極まった青年は柔らかに破顔する。その笑い方も、ついさっき――強いて言うなら、レイシフトをする羽目になる直前に、どこかで見たような気がした。

 

 だが、彩羽の疑問はそこで断ち切られることとなる。――何故なら、青年は彩羽へ核弾頭を打ち込んできたからだ。

 おばあさま。文字で言えばたった5文字だけれど、まだ18歳の彩羽からしてみれば非常に胸に突き刺さる言葉であった。

 自分はまだそんな年齢ではないのにと叫びたくなったが、堪える。勤めて冷静になろうとしながら、彩羽はオルガマリーの方へ向き直った。

 

 

「所長」

 

「……な、なに?」

 

「英霊って、未来の存在も呼べるの?」

 

「……呼べないことは、ないけど」

 

 

 オルガマリーの答えを聞いた彩羽は、ゆっくりと青年へ視線を戻す。青年は目をキラキラ輝かせ、彩羽を見つめていた。

 僅かに緑を帯びた琥珀色には、彩羽に対する深い敬愛の念が滲み出ている。まるで、憧れのヒーローを目の当たりにした子どもみたいだ。

 

 

「……えーと、貴方は?」

 

「――はッ!? ……ああ、僕としたことが、自分のクラスを名乗るのを忘れていました」

 

 

 青年は焦っているのか、あわあわと手をばたつかせた。その拍子に眼鏡がずれてしまい、彼はすぐ眼鏡のブリッジを押し上げる。――この、ぽややんと緩むような空気を、彩羽は感じた覚えがあった。例えば、レイシフトをする以前や、カルデア側から通信が来たときとか。

 マシュとオルガマリーも、彼の雰囲気に既視感を抱いたらしい。あと一息でその答えを掴めそうなのにと言いたげに眉間の皺を深くした。なぜか酷くショックを受けた様子のロマニと、蚊帳の外状態で首を傾げるしかないクー・フーリンは沈黙している。

 彩羽に召喚されたことが余程嬉しかったのだろう。青年は満面の笑みを浮かべて、己のクラスを告げた。

 

 

「サーヴァント、救世主(セイヴァー)。貴女からの呼び声に応じ、ここに馳せ参じました。2020年代の英雄……特に、ムラクモ13班を率いた部隊長と謳われた彩羽おばあさまと共に戦えること、一生の誉に思います!」

 

 

 力強く微笑むその姿は、いつぞや見た『彼女(じぶん)』の笑みと瓜二つである。ああ、と、彩羽は納得した。納得せざるを得なかった。

 この青年は、『彼女(じぶん)』の想いを受け継ぐ後継者だ。琥珀色の双瞼に宿る輝きが、揺らがぬその眼差しが、深い敬愛の情が、そう示している。

 科学的根拠もなければ推論もない。『彼女(じぶん)』の中にある“何か”が、そう強く訴えてきたのだ。過程をすっ飛ばして、答えに辿り着いた。

 

 沈黙する彩羽の姿を見て、セイヴァーは自分が疑われていると思ったらしい。顔を真っ青にした後、自分の腰に付けたポーチから何かを取り出した。

 

 

「あの、簡易的なものでしたら、DNA検査用の道具持ってます。血液検査用の道具もあります。僕のことが信じられないのでしたら、今から検査しましょうか?」

 

「いいよ。キミのことを信じるから」

 

 

 今にも泣き出しそうだったセイヴァーの表情がぱああと輝いた。

 彩羽に「お前は私の孫じゃない」と否定されることが恐ろしかったらしい。

 

 

「……先輩。彼は……味方ですね。まごうことなく」

 

「マシュの言う通りだわ。このサーヴァントは、貴女を裏切る可能性など万に一つもない。……そう、思えてしまうのよ……」

 

 

 夢を語るようにほわほわした笑顔を浮かべるサーヴァント・救世主(セイヴァー)に、マシュとオルガマリーは乾いた笑みを浮かべた。

 その背後で、クー・フーリンは在りし日のことを思い出したのか、「……もしかしたら、お前もアイツみたいに……」と呟きながら遠くを見る。

 

 セイヴァーがあまりにもキラキラした眼差しを向けるものだから、彩羽はなんだか照れ臭くなってきた。それと同時に、一抹の不安がよぎる。

 

 青年がおばあさまと呼ぶ彩羽は、ここにいる彩羽ではない。平行世界で活躍した『一色彩羽(かのじょ)』だ。

 『彼女(じぶん)』から力と記憶、経験を受け渡されたと言えど、『彼女(じぶん)』と自分はイコールで結べるようなものではなかった。

 

 

「厳密に言うと、私は貴方の知る『一色彩羽(おばあさま)』とは、ちょっと違うよ。……それでも、一緒に戦ってくれる?」

 

「当たり前じゃないですか。貴女と一緒に戦えることが、僕にとって何よりもの誇りなんです。……僕の方こそ、貴女と肩を並べるに相応しくなれるよう、努力します」

 

 

 セイヴァーは迷うことなく答えた。琥珀の双瞼は星でも宿したんじゃないかと思われるくらい煌いている。

 なんて心強いのだろう。なんて眩しいのだろう。なんて頼もしいのだろう。なんて、尊いのだろう。彩羽は密やかに息を吐く。

 ……あの眩い光を、浪漫に満ちた輝きを、彩羽はどこかで見たことがあった。勘違いではなく、確証で。

 

 サーヴァントと契約を結んだこと、そしてそのサーヴァントに謀反の気配がないことを確認し、セイヴァーは仲間たちに迎え入れられることとなった。彼は満面の笑みを浮かべて名乗りを上げる。

 

 

「不肖、結絆(ユウキ)・ヴィラノヴァ・()()()()()。全身全霊を賭けて、彩羽おばあさまと、ひいては人理修復のために尽力します。不束者ですが、どうかよろしくお願いしますね」

 

「うん。宜しくね」

 

 

 セイヴァー――結絆(ユウキ)・ヴィラノヴァ・アーキマンと、彩羽は握手を交わした。――そうしてふと、思い至る。

 彼は彩羽の孫だ。直感に等しいものだが、彼の態度からして間違いではないだろう。そして、彼の名乗った姓はアーキマンだ。

 アーキマンという姓には、はっきりと聞き覚えがある。マシュとオルガマリーもすべてを察したようで、通信機に視線を向けた。

 

 ――ロマニ・アーキマン。

 

 カルデアが誇る医療部門の責任者にして、オルガマリーの代役としてカルデアで指揮を執る男。

 この場に漂い始めた変な空気を肌で感じ取りながら、彩羽は結絆に問いかけた。

 

 

「ねえ、結絆くん」

 

「呼び捨てで構いませんよ、おばあさま」

 

「分かった。……ねえ、結絆。貴方が知っているわたしの名前、フルネームは?」

 

「彩羽・アーキマンです。旧姓が一色彩羽でしたよね」

 

『――……え、ええええええええええッ!? げほっごほっぐはっ』

 

 

 2発目の核弾頭が、画面の向こうにいるロマニに直撃した。その衝撃で、唾が気管に混入してしまったのだろう。ロマンスの4文字を具現化したような優男が派手に咳き込んだ。色白の肌は真っ赤に染まっていることだろう。対して、顔面蒼白になったのはオルガマリーだった。

 

 

「ま、まさか……私の判断で彩羽をロマニの元へ行かせたから……!? そのときに仕込まれたとしか……だからこんなことになったの!? だとしたら、だとしたら、私のせい……!?」

 

『何言ってるんですか!? 誤解です! 僕は彩羽ちゃんに対して何もしてない! 彼女と一緒にいたとき、僕は説明をしていただけだ!』

 

「これからするんだと思いますよ。でなければ、僕が生まれるはずがありませんからね!」

 

「おお、いいねいいねェ! 軟弱男だとばかり思ってたが、オマエさんもヤるときはヤるんだな!」

 

「ロマニィィィィィ!!」

 

 

 何をどう取ったのか、目から光を失ったオルガマリーが咆哮した。怒鳴り散らす彼女からは、人理修復開始前のヒステリックさとは違うものを感じる。予測不可能な事態に対応できず、パニックになっているのだ。結果、ロマニに責任の大部分を向けることになっているだけで。

 ロマニが形成不利に傾いたのは、いい笑顔で親指を立てた結絆と彼に便乗してロマニを茶化したクー・フーリンのせいである。勿論、自分が不利になるだけの状況に甘んじるつもりはないようだ。ロマニは必死に反論を試みる。

 

 

『落ち着いて所長! 2017年以降の未来は未確定だから、彼の言った通りになるとは限らな――』

 

「……おじいさまは、僕が生まれない方が良かったんですか……!?」

 

『そ、そんなことない! そんなことないよ! だから泣かないで! ――う、うわああああああああああああああああああッ! 罪悪感が半端ない!』

 

 

 人は、自分を無条件に慕う人間を無碍にできるだろうか。いいや無理である。見覚えのある色の瞳に涙の幕をたたえる結絆()の様子には、ロマニも太刀打ちできなかったようだ。結果、それが己を更に不利な状況に陥れる羽目になる。

 背後からオルガマリーの罵詈雑言とロマニの頼りない声が響き、ぽろぽろ涙を零す結絆をクー・フーリンが宥めつつ、マシュはロマニに対して冷ややかな眼差しを向けていた。人理修復なんて言葉、この面子の頭の中からログアウトしているに違いない。

 状況を考える。ロマニの冤罪を晴らすには、彩羽は力不足だ。怒鳴り散らすオルガマリーは彩羽の意見に耳を貸せるような余裕があるとは思えない。彼女の中では『彩羽=ロマニに“自主規制”された被害者』という思考回路に捕らわれている様子だった。

 

 正直な話、先程のクー・フーリンのように遠くを見ていたい。だが、ぽろぽろ涙を流す自分のサーヴァントを放置するというのも気が引ける。クー・フーリンやマシュに宥められて落ち着いたようだが、萎れた花のように元気がなかった。その姿を見ていると、なんだか胸が痛くなってくる。

 

 

「だ、大丈夫だよ。わたし、キミに会えて、とっても嬉しいから!」

 

「……本当ですか?」

 

「うん! キミがここに来てくれたおかげで、わたし、人理修復頑張ろうって思えた。こんな素敵な孫がいるんだもん、ここで燻ってられないよね!」

 

「おばあさま……!」

 

 

 彩羽の言葉を聞いた青年は感極まったように声を震わせた。彼はごしごしと乱暴に涙をぬぐうと、すぐにはにかんだように笑う。

 その笑い方は、ロマニのへにゃりとした笑顔と、彩羽の満面の笑みを足して割ったようなものであった。

 

 




盛大な地雷をばら撒きましたが、このお話のストックはここまでとなっています。後はダイジェスト形式や日常ネタ、もしくは派生系の話がUPされると思われます。……もしかしたら、この続きがUPされるかもしれません。
アイドルの宝具、漢字を考えた結果あんなところに落ち着きました。もっと良い案がありましたら、活動報告にアドバイスして頂けると助かります。ネーミングセンスはどこに行けば手に入るんでしょう(遠い目)
オリ鯖のⅢ主人公=結絆くんは祖父母大好きリスペクトな天使。Ⅲの時間軸では、「祖父のような医者になるために勉強中で、ノーデンスの医療部門に就職するため活動していた」模様。ひたすらにいい子。ただ、祖父がロマンだから……(目逸らし)
一応彼もチート鯖に君臨する存在ではありますが、その分デメリットが高めな感じにしようかなと画策中。本編シナリオでのイベント専用宝具とか――(このコメントはナガミミ様に「願えェェェェ!」されました)

ひと段落したので、次は2人に関連するマトリクスを纏めようかと思案中です。宝具に付ける竜殺剣の名前、どうしようかなあ……。

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