Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた 作:白鷺 葵
・ぐだ男=47番目:才能ありだが魔術知識が基礎以下な一般人(財閥跡取り)=2020-Ⅱアイドル CV.ボイスタイプT/竹内良太
・ぐだーず=平行世界の自分の力を
・マシュ=ぐだ男のサーヴァント
・サーヴァント“
・救世主A:Ⅲ主人公=サムライ♂Acolor1/職業:ゴッドハンド=ぐだ子+αの関係者
・救世主B:Ⅲ13班員=ゴッドハンド♀Bcolor1/職業:ルーンナイト=ぐだ男+αの関係者
・Ⅲ主人公=
・13班員=セイラエリー・
・すべては人理焼却が悪い(重要)
・すべては人理焼却が悪い(重要)
・キャラクター崩壊(重要)
・キャラクター崩壊(重要)
・尻切れトンボ。
・CP要素は薄らとですがロマニ×ぐだ子、ゲーティア×ぐだ子、ぐだ男×マシュ、ぐだ男×オルガマリー、結絆×セイラエリー。
ほぼ期待されていないマスター候補がどんな英霊を召喚するのか、周りの魔術師たちは興味津々らしい。生粋の魔術師たちは奇異の目で
(それもそうか。俺は先祖が魔術師なだけで魔術なんて殆ど齧ってないし、彩羽に至っては生粋の一般人だ。俺もアイツも、あの人の講義では正々堂々居眠りしてたからな)
律治は苦笑する。ここにいる47名のマスター候補たちは、「不真面目なマスター候補が召喚できる英霊なんてろくでもない」と思っているらしい。スーパーど素人故に部屋を叩きだされた彩羽と交流があるのだから、そんな目で見られても仕方がないことは理解していた。
彼らの意見は否定しない。律治も彩羽も、一般候補枠から引っ張り出されただけの存在だ。どこにでもいる、普通の感性を持った10代の若者である。ひとつ特筆すべきことを挙げるなら、歌と踊りが好きなことくらいだ。律治は『調律』、彩羽が『色彩』というハンドルネームを使い、歌い手として活動している。双方、それなりにファンがいる程度だった。閑話休題。
ガイダンスで聞いたとおりに、律治は英霊召喚の儀を行う。Fateシステムは滞りなく起動し、鮮やかな光を放った。
(正直、人理修復がどんなものなのか、俺には全然わからない。けど、こんな俺でも、できることがあるのなら――)
祈るような気持ちで、呪文を紡ぐ。光が弾けた先にいたのは、黒のメイド服を身に纏った少女だった。艶やかな黒髪のボブカットが風に揺れる。
「なんだあの英霊!? ステータスが軒並み高ランクじゃないか!」
「そんなバカな!? アイツは名門魔術師の血を引いているだけの一般人だろう!?」
「カルデアのマスター候補に選ばれたのだって、アイツの会社が出資してるってのが縁じゃないか! そんな奴が、どうして――!」
「私の方がアイツより優秀なはずなのに……」
「どうして僕のサーヴァントがこんなのなんだよ。僕とあいつのサーヴァントを交換しろよ!」
律治の背後がざわつく。律治個人にはあまり理解できないことであるが、生粋の魔術師からしてみれば、この状況は「あり得ない」ことらしい。しかし、律治からしてみれば、自分が召喚した英霊――人理修復のために力を貸してもらっている相手を蔑む魔術師の思考回路の方が理解できなかった。
魔術師たちの困惑やどよめきなど気にも留めず、少女はゆっくりと瞼を開いた。朝焼けの瞳は真っ直ぐに律治を捉え――次の瞬間、少女は目を真ん丸に見開いた。ひゅっ、と息を飲む音が響く。驚愕の表情を浮かべた少女にその理由を尋ねる前に、少女はぱああと表情を輝かせ――
「――律治おじいさまッ!!」
少女はとんでもない核爆弾を落としながら、律治に抱き付く。背後で魔術師たちが悲鳴を上げていたが、律治にはその全容を察することは不可能だった。
「え、キ、キミは……!?」
「すごーい! 若い頃のおじいさまはこんな感じだったんだ! ……フムフム。結構イケメンだし、おばあさまが色々危惧してた理由が分かる気がするなー」
「おじいさまが近くにいるなら、おばあさまも」と言って、少女は振り返る。彼女の視線の先にいたのは、律治と彩羽を「先輩」と呼んでいたマシュ。
海色の瞳が輝きを増した。マシュはぎくりと肩をすくめる。彼女なりに、嫌な予感を感じ取ったのであろう。次に降ってくるであろう核弾頭は予想可能、けれどそれは回避不可能。
「うわあ、やっぱり! マシュおばあさまだ!」
「!?」
核弾頭はマシュをも巻き込み炸裂した。背後で騒ぐ魔術師たちの狂騒曲をBGMに、少女はマシュの手を取る。
「あ、あの、その……」
「うんうん! 当たり前だけど、マシュおばあさまも若いのね! 印象全然違うし……でも、すごく面影ある!」
「むぎゅう!?」
「マシュおばあさま可愛いー!」
きゃあきゃあ笑う少女は、マシュより頭半分背が高い。少女はマシュをぎゅっと抱きしめると、幸せそうな顔で頬ずりした。完全にやりたい放題である。狂騒曲のBGMが低くなってきたので振り返れば、所長をはじめとした大半の連中が頭を抱えているではないか。
理由は分かる。消えたはずの未来から、この少女――英霊が現れた。しかも、――少女の“自称”ではあるが――マスター候補の子孫で、魔術師曰く「戦闘能力がとんでもない」ときた。発狂するのは当然と言えよう。
とりあえず、少女のクラスや真名に関する情報を手に入れるべきか。マシュを堪能している少女には悪いが、律治は2人の間に割って入る。少女はやや残念そうに抱擁を解き、マシュは安堵のため息を吐いた。
そうして本題に入ろうとして――次の瞬間、少女はオルガマリーを視界に入れた。
途端に、彼女の顔がまた一段と明るくなった。少女はくるりとオルガマリーへ向き直ると、迷うことなく大地を蹴った。
「マリーおばあさま! マリーおばあさまでしょう!?」
「はぁ!? 貴女一体何を……って、きゃあああ!?」
「ずっと会いたかったの! ああ、マリーおばあさま!」
オルガマリーが何かを言う前に、少女は満面の笑みを浮かべて彼女へ抱き付く。その様を見て、律治は家に置いてきたハスキーを連想した。愛犬のゴウタロウは元気にアホな子をしているのだろうか。……それは俗にいう現実逃避と言えるものでしかない。
オルガマリーを抱き上げて――しかもお姫様抱っこだ――くるくるステップを踏む少女を横目に、律治は思案する。
彼女は律治を「おじいさま」と呼び、マシュとオルガマリー双方を見て「おばあさま」と呼んだ。つまり、あの少女は自分たちの子孫であると言えるだろう。
未来の英霊を召喚するケースが存在しないわけではない。オルガマリーの講義曰く、「聖杯戦争でもそのモデルケースが存在した」との記述があるそうだ。
(まさか、俺がそのモデルケースと合致してしまうとはな)
オルガマリーだけでなく、マシュすら片手で抱き上げた少女の姿が視界を横切る。あれは筋力A確実だろう。
「おばあさま軽ーい」と笑いながら、彼女は壇上から飛び降りた。そのまま楽しそうにステップを踏む。
この光景を眺めていたレフ教授の口元がひくついた。自分の意図しないことが起きてしまったと言いたげなその笑い方は、いつぞやの『
レフと初めて顔を合わせたときから、何とも言えぬ嫌な予感を感じていたのだ。嘗て竜戦役を駆け抜けた『
(……気をつけるに越したことはないか)
律治はひっそりため息をつき、サーヴァントへと向き直った。
「こらこら。飛び出しては危険だろ? そろそろ2人を降ろしてあげたらどうだ」
「……分かったわ、おじいさま」
少女は少し不満そうに頬を膨らませたけれど、案外素直に律治の言うことを聞いた。こちらを見上げる金色の瞳には、惜しみない敬愛が滲んでいた。孫が祖父を慕う眼差し。
律治の視界の端で、オルガマリーとマシュがむず痒そうに口元を震わせている姿が目に入った。律治の見間違いでなければ、双方とも顔が淡く染まっているではないか。
……最も、律治も人のことは言えない。自分たちは初対面同然の関係である。だが、未来からやってきた孫による発言によって、否が応でも互いの存在を意識してしまっていた。
この場に漂い始めた空気を振り払うため、律治はわざとらしく咳ばらいした。そうして、自分が召喚したサーヴァントに向き直る。
彼女は律治のことをおじいさまと呼んで慕ってくれているが、ここにいる律治は『
いくら律治が『
「1つ確認しておくことがある。ここにいる俺は、キミが慕っている『
「当たり前じゃない! 私にとっておじいさまは、2020年と2021年に活躍した、憧れのスーパーアイドルなんだから」
魔術師の前で自分の冒険譚を明かすつもりなどさらさら無かった律治は、それをぼかしながら少女に問いかけた。少女は躊躇うことなく答え、律治を見上げる。
東京都庁や国会議事堂で、住民たちが『
それを真正面から受け止めた律治はふっと表情を緩めた。ならば自分も、彼女の担い手に相応しいマスター/尊敬の眼差しに相応しいアイドルでありたい。
互いが互いに決意を持って、2人は握手を交わした。
そうしてふと、律治は思い至る。
「キミのクラスを聞いていなかったな。オルガマリー所長から『真名と宝具の把握は重要だ』と聞いていてね。良ければ教えてもらえないか?」
「はっ!? 私としたことが! おじいさまとおばあさまたちに会えたのが嬉しくて、つい名乗るのを忘れてたわ……」
いけないいけない、と、少女は取り繕うように咳ばらいする。その態度は、完全に先程の律治と瓜二つであった。
ああやっぱりこの子が自分の孫というのは本当なんだな――なんて、律治はぼんやり考える。少女は得意げに笑いながら、己のクラスと真名を告げた。
「サーヴァント、
どたん、と大きな音が鳴った。振り返れば、オルガマリーが腰を抜かしている。彼女にとって救世主《セイヴァー》――セイラエリー・
魔術師は血統および家柄を重視するという。魔術師の中でも名門中の名門と謳われているらしいアニムスフィア家の当主が、名門魔術師の血を引いているだけの一般人と結婚するなんて馬鹿なことがあろうか。いやない。
オルガマリーにとって律治と結婚するなんて事象は、調財閥の御曹司である律治がホームレスと結婚するくらい割に合わないものだ。事実、オルガマリーは「そんなばかな」と頭を抱えて蹲っている。頭からは湯気が立っていた。
対して、マシュは背後で愕然としている。恋に破れたと言わんばかりの表情は、叔父に捨てられた愛人の女性を彷彿とさせた。ややあって、マシュはどうにか平静を取り戻したらしい。悲しそうに俯いて、胸を抑えた。
それを見たレフがおろおろしているのが視界の端によぎる。
我が子から恋愛相談を持ち掛けられて挙動不審になった保護者のようだ。
「……つまり、キミは……セイラは、俺とオルガマリー所長が結婚することによって生まれるのかな?」
「――そのことなんだけど」
律治に問われたセイラエリーは、どこか居心地悪そうに視線を彷徨わせた。しかし、彼女はすぐに律治へ視線を戻す。そうして、困ったような顔で、告げた。
「マシュおばあさまとマリーおばあさま、
「……えっ?」
「私一推しの有力仮設候補が『人理保障が揺らいでしまったため』なんだけど……まったく、犯人には失礼しちゃうわ!」
セイラエリーは眦を釣り上げて口を尖らせる。成程。人理が保証できないという事象がどのようなものか、律治は身をもって理解した。こんな形で理解したくはなかったが。
耳を真っ赤にしていたオルガマリーが弾かれたように顔を上げる。顔色は先程と反して真っ青だ。対して、マシュは希望を見出したかのように目を輝かせていた。
「人理保証が覆されたという一件で被害を受けたのは私だけじゃないわ。結絆――私の恋人も同じような被害にあって、
「Ms.セイヴァー……いいえ、セイラエリー。私も貴女と同意見です。さっさと犯人を見つけて締め上げましょう、今すぐ。所長、レイシフトの許可を」
「当たり前じゃない。これは未来を取り戻す戦い、
拳を振り上げたセイラエリーに続いて、マシュとオルガマリーが立ち上がった。後者の表情は逆光によって伺い知ることはできないが、運良く/悪く2人の表情を知ったレフが「ヒッ!?」と小さな悲鳴を漏らしたあたり、凄まじい形相だったことは明らかである。
アニムスフィア家の誇りだけで奮い立っていたオルガマリーは、今や己の意志で燃え上がっている。どことなく無機質だったマシュが、ありありと感情を発露させている。劇的な変化を目の当たりにして、律治は何とも言えぬ気持ちになった。
未来は未だ不確定。自分が誰と結婚して家族を成すのかなんて、律治は一度も考えたことはない。しかし、セイラエリーという孫の登場によって、それを意識せざるを得なくなった。未来で出会うであろう家族のために――なんて、柄ではないけれど。
律治は決意を新たにして顔を上げた。先程からレフが挙動不審になっているのが妙に気になる。彼は何がしたいのだろう。
セイラエリー、マシュ、オルガマリーが「犯人をどうしてやろうか」を議題にして盛り上がり始めたとき、管制室一帯が轟音と白い光に飲み込まれた。
◆◆◆
管制室に飛び込み、そのままレイシフトが開始されてしまったのは数時間前のことである。壊滅状態の管制室内で無傷の律治とボロボロのマシュやオルガマリーと共に、彩羽はレイシフトに巻き込まれて特異点へ飛ばされた。目覚めた先は燃え盛る街と、徘徊する化け物たち。
何がどうなったかは知らないが無傷だった律治、律治のサーヴァントにして未来の孫であるセイヴァー――セイラエリー、オルガマリー、デミ・サーヴァントとなった後輩のマシュと共に、彩羽は第1特異点の調査を行っている真っ最中である。
特異点Fに飛ばされて早々、彩羽と律治は平行世界の『
ロマニとオルガマリー曰く、
しかも件の魔術礼装は曲者で、使うと災厄を巻き起こすとのこと。件の魔術礼装を使って
彩羽と律治が
火に油を注ぐが如くムラクモ13班の偉業を語るセイラエリーのせいで収拾がつかなくなりかけたが、最終的には律治が諌めてどうにかなった。現在、彩羽たちはマシュが展開したレイポイントで休息中である。
「ここで戦力を増強しましょう。特に、サーヴァントと契約していない彩羽の強化が急務だわ」
ストレスでヒステリーが天元突破寸前なカルデア所長は、どこか血走った眼で彩羽を睨んだ。本来彩羽は戦力にカウントできないポンコツマスター候補である。平行世界の『
それは魔術師の合理的思考回路/臆病な権力者が自分に迫る危機を回避しようと足掻こうと必死になった結果からだ。今、オルガマリーには余裕がない。戦力になるはずのマスター候補たちが全員ノックダウンしてしまい、自身の判断で「無断で冷凍保存処理を施す」ことを選んだことも原因であろう。他に助けを求める相手がいないのだから。
(そう考えると、所長のヒステリーもゲリラ豪雨から夕立くらいに思えてくるかも。まあ、2021年で対峙した反ムラクモ派議員よりはマシか)
嫌味の大半をさらっとスルーし、彩羽は拠点でサーヴァント召喚の儀を行った。呪文を唱えれば、鮮やかな光が炸裂する。
現れたのは、赤銅色の髪に眼鏡をかけ、白い学生服に身を包んだ青年であった。表示されたパラメータを見て彩羽は息を飲む。
律治とオルガマリーが何事かと覗き込み、あるいはロマニが分析し、ぎょっと目を見開いた。
「セイラエリーとほぼ同レベルの霊格ですって!?」
『ま、また!? どうしてキミたちはとんでもないサーヴァントを引き当てるんだ!?』
面々らの悲鳴をBGMにしながら、青年はゆっくりと目を開けた。僅かに緑を帯びた琥珀色。
彼の瞳の色を見て、彩羽はふと思い至る。あの色彩を、自分はどこかで目にしたことがあるような――?
彩羽の疑問が口に出るよりも、青年が彩羽を見てぱああと表情を輝かせるほうが早かった。
「ああ、これが僕の運命なのか……」
「え?」
「僕は、僕自身の運命に感謝します。――会いたかった、おばあさま」
感極まった青年は柔らかに破顔する。その笑い方も、ついさっきどこかで見たような気がした。だが、彩羽の疑問はそこで断ち切られることとなる。――何故なら、青年は彩羽へ核弾頭を打ち込んできたからだ。
おばあさま。文字で言えばたった4文字だけれど、まだ18歳の彩羽からしてみれば非常に胸に突き刺さる言葉であった。自分はまだそんな年齢ではないのにと叫びたくなったが、堪える。未来からも英霊が召喚されるというのは、セイラエリーで証明済みだ。
「結絆! やっぱり、キミも召喚されたんだね」
「当然です。未来がなくなるかもしれない危機ですからね」
「正直ちょっと不安だったんだけど、キミがいるなら何の問題もないね。私とキミが手を組めば、きっと不可能なんてない!」
「僕もですよ、セイラ。一緒に頑張りましょう」
どうやら青年とセイバーは旧知の仲らしい。お互いの真名を呼び合い、幸せそうにお花を咲かせている。いいや、空気がそうなのだ。指先同士を触れ合わせては、頬を染めて2人は会話している。どの意味でかは分からないが、オルガマリーが天を仰いだ。マシュがオロオロと視線を彷徨わせ、律治は成す術なくカップルたちを見守っている。
勤めて冷静になろうとしながら、彩羽は青年に視線を向けた。青年はこちらに気づくと、目をキラキラ輝かせながら彩羽を見つめた。僅かに緑を帯びた琥珀色には、彩羽に対する深い敬愛の念が滲み出ている。まるで、憧れのヒーローを目の当たりにした子どもみたいだ。
「……えーと、貴方は?」
「――はッ!? ……ああ、僕としたことが、自分のクラスを名乗るのを忘れていました」
青年は焦っているのか、あわあわと手をばたつかせた。その拍子に眼鏡がずれてしまい、彼はすぐ眼鏡のブリッジを押し上げる。――この、ぽややんと緩むような空気を、彩羽は感じた覚えがあった。例えば、レイシフトをする以前や、カルデア側から通信が来たときとか。
マシュとオルガマリーも、彼の雰囲気に既視感を抱いたらしい。あと一息でその答えを掴めそうなのにと言いたげに眉間の皺を深くした。なぜか酷くショックを受けた様子のロマニと、蚊帳の外状態で首を傾げるしかない律治は沈黙している。
彩羽に召喚されたことが余程嬉しかったのだろう。青年は満面の笑みを浮かべて、己のクラスを告げた。
「サーヴァント、
力強く微笑むその姿は、いつぞや見た『
この青年は、『
科学的根拠もなければ推論もない。『
沈黙する彩羽の姿を見て、セイヴァーは自分が疑われていると思ったらしい。顔を真っ青にした後、自分の腰に付けたポーチから何かを取り出した。
「あの、簡易的なものでしたら、DNA検査用の道具持ってます。血液検査用の道具もあります。僕のことが信じられないのでしたら、今から検査しましょうか?」
「いいよ。キミのことを信じるから」
今にも泣き出しそうだったセイヴァーの表情がぱああと輝いた。
彩羽に「お前は私の孫じゃない」と否定されることが恐ろしかったらしい。
「……先輩。彼は……味方ですね。まごうことなく」
「マシュの言う通りだわ。このサーヴァントは、貴女を裏切る可能性など万に一つもない。……そう、思えてしまうのよ……」
夢を語るようにほわほわした笑顔を浮かべるサーヴァント・
セイヴァーがあまりにもキラキラした眼差しを向けるものだから、彩羽はなんだか照れ臭くなってきた。それと同時に、一抹の不安がよぎる。
青年がおばあさまと呼ぶ彩羽は、ここにいる彩羽ではない。平行世界で活躍した『
『
「厳密に言うと、私は貴方の知る『
「当たり前じゃないですか。貴女と一緒に戦えることが、僕にとって何よりもの誇りなんです。……僕の方こそ、貴女と肩を並べるに相応しくなれるよう、努力します」
セイヴァーは迷うことなく答えた。琥珀の双瞼は星でも宿したんじゃないかと思われるくらい煌いている。
なんて心強いのだろう。なんて眩しいのだろう。なんて頼もしいのだろう。なんて、尊いのだろう。彩羽は密やかに息を吐く。
……あの眩い光を、浪漫に満ちた輝きを、彩羽はどこかで見たことがあった。勘違いではなく、確証で。
サーヴァントと契約を結んだこと、そしてそのサーヴァントに謀反の気配がないことを確認し、セイヴァーは仲間たちに迎え入れられることとなった。彼は満面の笑みを浮かべて名乗りを上げる。
「不肖、
「うん。宜しくね」
セイヴァー――
彼は彩羽の孫だ。直感に等しいものだが、彼の態度からして間違いではないだろう。そして、彼の名乗った姓はアーキマンだ。
アーキマンという姓には、はっきりと聞き覚えがある。マシュとオルガマリーもすべてを察したようで、通信機に視線を向けた。
――ロマニ・アーキマン。
カルデアが誇る医療部門の責任者にして、オルガマリーの代役としてカルデアで指揮を執る男。
この場に漂い始めた変な空気を肌で感じ取りながら、彩羽は結絆に問いかけた。
「ねえ、結絆くん」
「呼び捨てで構いませんよ、おばあさま」
「分かった。……ねえ、結絆。貴方が知っているわたしの名前、フルネームは?」
「彩羽・アーキマンです。旧姓が一色彩羽でしたよね」
『――……え、ええええええええええッ!? げほっごほっぐはっ』
2発目の核弾頭が、画面の向こうにいるロマニに直撃した。その衝撃で、唾が気管に混入してしまったのだろう。ロマンスの4文字を具現化したような優男が派手に咳き込んだ。色白の肌は真っ赤に染まっていることだろう。対して、顔面蒼白になったのはオルガマリーだった。
「ま、まさか……私の判断で彩羽をロマニの元へ行かせたから……!? そのときに仕込まれたとしか……だからこんなことになったの!? だとしたら、だとしたら、私のせい……!?」
『何言ってるんですか!? 誤解です! 僕は彩羽ちゃんに対して何もしてない! 彼女と一緒にいたとき、僕は説明をしていただけだ!』
「ロマニおじいさま。そのことなんですけど……」
発狂一歩手前のオルガマリーとパニック一歩手前のロマニが一戦交えるかと思われたとき、それを遮るようにして、結絆がおずおずと手を挙げた。
居たたまれなさそうな、居心地悪そうな渋い表情を浮かべて、結絆は口を開く。
「僕、
『……へ?』
「僕にはロマニおじいさまの他に、もう1人おじいさまがいるんです。ゲーティアおじいさまというんですけど……」
そう言って、結絆は鞄から写真立てを取り出した。そこには結絆を囲むようにして2人の男性と彩羽の姿が写されていた。
彩羽の右隣にいる男性はロマニと瓜二つである。但し、つい数時間前に見たロマニとは違い、写真に写る彼は思慮深く穏やかな笑みが印象的であった。
彩羽を挟んで左隣にいたのは、浅黒い肌に淡い金髪の髪を腰まで伸ばした男性であった。鋭い釣り目が特徴的な厳つい顔に反して、彼の眼差しはどこまでも優しい。
結絆は「おじいさま」「おばあさま」と言ったが、そこに映っている女性は20代前半、男性2人は30代前半に見える。……これは一体どういうことだろう。
「彩羽さんや律治おじいさまたちは、フォーマルハウトの瘴気に適応してしまったことが原因で、実質的な不老状態になっていたの。だから人より長生きで、見た目が竜戦役終了当時のままだったわ」
補足を入れたのはセイラエリーだ。彼女も鞄から写真立てを取り出す。そこに写っていたのは、セイラマリー、律治、オルガマリー、マシュ。彼らも20代前半~20代後半の姿のままだ。
写真の中にいる4人は、みんな幸せそうに笑っている。ヒステリー気味なオルガマリーや、どことなくぎこちないマシュからは想像がつかない表情ばかりだ。その自覚があるらしく、オルガマリーとマシュは視線を彷徨わせる。
そういえば、セイラエリーも
こうなってしまった原因は、
……つまり、結絆とセイラエリーにとって、人理修復は「消されてしまった家族の絆を取り戻す」ためのものなのだ。
「僕もセイラも、幼い頃に両親を亡くしましてね。おばあさまたちに育ててもらったようなものなんですよ」
慈しむように写真立てを撫でる結絆とセイラエリーの姿に、酷く胸が締め付けられる。同時に湧き上がってきたのは、彼らにそんな悲しみを強いた元凶への怒りだった。
「……所長」
「何かしら?」
「人理修復、絶対成功させよう」
「言われなくともそのつもりです」
彩羽の言葉に、オルガマリーははっきりと宣言した。
「律治くん」
「分かってる。あの2人には、哀しい顔など似合わない」
彩羽の言葉に、律治は真顔で頷き返した。
「マシュ」
「はい。犯人をぶん殴りに行きましょう」
彩羽の言葉に、マシュは大盾を振りかぶった。
「Dr.ロマン」
『…………分かってるよ。ボクも、やれるだけのことはやらせてもらう』
彩羽の言葉に、ロマニは静かに答えた。
みんな、決意とやる気に満ちている。……当たり前だ。自分を無条件で慕ってくれる相手が悲しんでいるのを、放置しておけるはずがない。
――この決意が、3人とナビゲーター1名、
◆◆◆
――後に。
「ゲーティアおじいさま!? どうしたんですかその恰好!?」
「……は?」
「コイツ、ソロモン王じゃないの!?」
「貴方が人理焼却を引き起こした犯人だったなんて……ッ! 僕のこと、そんなに嫌いだったんですか……!? 僕が孫であることは、そんなに不満だったんですか!? おじいさま!!」
「見損なったわ、ゲーティアさん!」
「え、いや、ちょ、……知らん。知らんぞ、そんな未来!!」
「……もしかして、
「いや違」
『……ゲーティア、お前……』
「そんな憐れんだ目で私を見るな、ロマニ・アーキマン! それ以前に、私と
「
「
「彩羽おばあさまー!」
「律治おじいさまー!」
「律治先輩ー! 彩羽先輩ー! こっち向いてくださーい!!」
「うおおおおおおおおおおおっ、彩羽ぁぁぁぁぁぁ!」
「うおおおおおおおおおおおっ、律治ぅぅぅぅぅぅ!」
「ふむ、流石は我が怨敵だ」
「何しれっと観客席に居座ってんだ
「しかも、法被・団扇・鉢巻の
「お前敵だよな!? ボクたちのこと消そうとしてる敵だよな!?」
「何を言うか。貴様ら等いつでも消せる。だから別に、今、こうしていたところで、人理焼却が成功するという事象に揺らぎはない。今回のこれは単なる戯れだ」
「そのだらしない顔何とかしろよ
「このような神聖な場所で汚い言葉を撒き散らすな。我が怨敵の歌が聞こえん」
――なんてことが発生することを、彼/彼女らは知らない。
「何やってるのセイラエリー! 貴女の帰るべき場所はここよ、カルデアよ!? なんで、なんで足を止めたの!? なんで、なんでそんな顔してるのよ!!」
『死ぬのが、何だって言うのよ……ッ! ……私は、アニムスフィア家先代当主、オルガマリー・アニムスフィア……! ……誇り高き……の……』
「待って! 待ってください、セイラ! 一緒にいろんなものを見に行くって約束したじゃないですか! なのに、なのに――!!」
『…ごめんね、ごめん……セイラ。……もっと、貴女の、力に……』
「座ごと存在を消し去ったボクや、人王として消え去ったはずのゲーティアをもう一度呼び戻すなんて正気じゃない! 結絆。キミたちは、一体何を対価に払ったんだ!?」
『……ははは……キミは、ボクには勿体ないくらい、立派な孫だったよ。……結絆……』
「これ、は……千里眼? ――ッ!? ……あ、ああ、あああああぁぁぁあああああ……っ!!」
『何もかもが信じられないこの世界で、お前たちが幸せでいてくれることが救いだった。……私にとって、何よりもの……。――……結絆、お前は私の……希望だ』
「セイラエリー……!」
『――いってらっしゃい、セイラ』
「結絆……!」
『――いってらっしゃい、結絆』
『――何を言ってるの? おじいさまとおばあさまは、随分昔に亡くなってるわよ?』
「律治おじいさま、マシュおばあさま、マリーおばあさま」
「彩羽おばあさま、ロマニおじいさま、ゲーティアおじいさま」
「「――大好き」」
「セイラ。僕と、
「当たり前だよ。私、キミと一緒にいたい。……キミは?」
「勿論。貴女と一緒なら、何の不足もありませんよ」
「指針にするは星標。今宵、世界を書き換える。……貴女が抱いた願いと想いが、貴女が思い描いた世界の解と未来が、愛する人々と歩む
「――さあ、
――多くのことが「なかったことにされた」はずのその世界には、前の世界で撮った写真が飾られていたという。
『とある英霊のマテリアルより』
後悔はしていないが、戦々恐々とはしている。第4章以降ギャグルート不可避。シリアスは最終決戦専用だと思われます。当初の計画より話の方向性が大分変ってしまった……。
『Romantic color』を下地にしつつ、多方面に発展させた結果がこれ。『Romantic color』のマテリアルに関するネタバレ(特に救世主の宝具効果)らしき描写もありますが、まあ、平行世界ということで。