Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・Pixivに掲載された『最後の竜とカバリスト小話2』内にある『実はまだ終わってない』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9726225#5)を掲載。
・前提:アヴィケブロン×立香/立香×アヴィケブロン
・内容は同一だが、詳細設定が以下のように簡略化+設定が追加されている。
・この世界線のぐだ子=藤丸立香=別の宇宙における人類の統合者≒この作品における統合者の同位体。
・統合者がカルデアにて人理修復を始める以前の出来事。
・アポ時空で酷い世界線があった模様。
・理不尽系ギャグ(重要)
・理不尽系ギャグ(重要)
・理不尽系ギャグ(重要)
・キャラクター崩壊注意(重要)
・キャラクター崩壊注意(重要)
・キャラクター崩壊注意(重要)
・2020シリーズのとある戦利品が出演。
・Ⅲのネタバレ注意。


外伝:統合者の同位体「エグい」

 第7真竜が目を覚ますと、古い生命と宇宙は消滅すると言われている。7番目の真竜は1番目の竜へとスライドし、命の種を蒔くために旅立っていくそうだ。

 古い命と宇宙が消し飛ぶのは、7番目の真竜が目覚め、新たな1番目になったことを示す息吹であり祝福である――とは、アリー・ノーデンス/第2真竜ノーデンスの話しだった。

 進化の理を否定し、7番目に至らず竜のいない宇宙(せかい)を生み出した藤丸立香には、1個宇宙が崩壊するということがどれ程のモノかは把握していない。

 

 ここで唐突だが、話題を変えよう。

 

 

「『原初の巨人(アダム)』の炉心に、9999無量大数以上の宇宙を喰らった人類の統合者を使ったらどうなると思う?」

 

「!?!?!!?」

 

 

 何となく思い浮かんだ問いをアヴィケブロンに放り投げてみたら、彼が生成していた小型ゴーレムが突如爆発した。ゴーレムマスターが術式を間違えるとは珍しい現象である。

 更に「まず第1候補は“『原初の巨人(アダム)』が膨大なエントロピーに耐え切れず自壊し、過剰なエントロピーが溢れ暴走。複数の宇宙ごと地球消滅”」と分析したのがまずかったらしい。

 立香は興味本位で話題を振ったのだが、アヴィケブロンの動揺っぷりは明らかにおかしい。立香の言葉から何か連想し、酷く狼狽した様子だ。――しかも、すっごくヤバイ何かを。

 

 

「……あ、アヴィケブロン?」

 

「ごめんなさい! すいませんでした! 赦してください!!」

 

 

 丸めていた背をびしっと伸ばし、アヴィケブロンはマナーモードになりながら謝罪の言葉を繰り返した。彼の性格が崩壊する寸前である。マジヤバイ。

 

 

「二度とやりません! 本当にごめんなさい! すいませんでした! 赦して、赦してください……!!」

 

「ちょ、落ち着いて。私が悪かったから」

 

 

 何度も謝り倒すアヴィケブロンを宥めすかせて、どれだけの時間が経過したのか。過呼吸一歩手前のアヴィケブロンだったが、どうにか落ち着いてきたようだ。過呼吸でパニックになったことによる疲労が原因なのか、まだ息が荒い。スキルとしての保持はしていないが、元々病弱気味だった影響もあるのだろう。

 サーヴァントになったおかげで身体能力は常人より強化されているものの、やはり辛そうだ。興味本位で話題に挙げるべき内容ではなかったのかもしれない。炉心関係の話題になると――話しの発展のさせ方によっては表情を曇らせていたが――分析することに関しては普通にしていたから大丈夫だとばかり思っていた。どうやら立香側の慢心だったらしい。

 

 アヴィケブロンの呼吸がゼイゼイからふうふうに落ち着いたのは、時計の針が半周した頃だった。身体の小刻みな震えも治まったらしい。

 縋りつくものがあったら楽だろうと思って手渡した夢喰いの枕はぎゅうぎゅうに潰れている。枕に意識があったら「ピィィィィィ」と断末魔の悲鳴を上げていそうだ。

 ……まあ、夢喰いの枕の元ネタになった帝竜が犯した所業からして、“断末魔を上げる”程度で済ませることは生ぬるいように思うのだが。閑話休題。

 

 

「落ち着いた?」

 

「ああ……」

 

「……ごめん。過呼吸起こして発狂するくらいトラウマになってるなんて思わなくて……迂闊だった」

 

「……いや……」

 

 

 抱き潰す寸前だった夢喰いの枕から、拘束を緩めていく。アヴィケブロンは大きく息を吐き出し、恐る恐る立香を見上げた。

 

 何か話題を切り出そうとしているようだが、話の内容が非常に言いにくいことらしい。

 立香はアヴィケブロンが言葉を紡ぐまで、根気よく待つ。むやみに遮るのは悪手だ。

 

 

「……僕が、聖杯大戦と呼ばれる形式の聖杯戦争に呼ばれていたことは、既にキミへ話していたな」

 

 

 暫くの沈黙が続いた後、アヴィケブロンはぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。立香も是と答えて頷き返す。

 

 聖杯大戦というのは、本来行われる聖杯戦争とはルールが違う。本来の聖杯戦争が7騎のサーヴァントと7人のマスターによるコンビで駆け抜ける個人競技系バトルロワイヤルならば、聖杯大戦は団体戦系バトロワ風チェスゲームだ。ユグドミレニアという魔術師一門と魔術協会による巨大2陣営による、7人7騎×2による駆け引き戦。

 アヴィケブロンは聖杯大戦に参加していたサーヴァントで、ユグドミレニアという魔術一門――所謂“黒の陣営”の魔術師(キャスター)として召喚されていたらしい。そこで彼は紆余曲折あって、自分のマスターを宝具の炉心にするという業を背負うこととなった。その罪は今でも、彼の霊基に刻みつけられている。

 彼は途中で敗退したため結末を見届けることはできなかったらしいが、あの後何があったかは薄らと察している様子だった。アヴィケブロン本人は一切名言していないようだが、以前立香が夢で呼び出された聖杯大戦の再現体(敵・味方双方)の記録を多少なりとも有している気配が伺える。

 

 ……まあ、ジークのことに言及しているあたり、十中八九黒だろうが。閑話休題。

 

 

「英霊の座には時間という概念がない。それ故、サーヴァントとして呼び出された時点で本体が体験していなかったことでも、本体が聖杯戦争の記録を増やせば、召喚された後のサーヴァントが有する記録に影響を与えることもある」

 

「そうなんだ。それで?」

 

「……聖杯大戦の記録は、“マスターを炉心にした世界の聖杯大戦”だけではなかったんだ」

 

 

 ――それはつまり、アヴィケブロンが罪を犯さずに済んだ世界線が存在しているということだ。彼が今でも抱えて引きずる業と傷が存在しない世界がある。

 今の彼の姿を知っている身としては、それが良いことなのか悪いことなのかは分からない。内心複雑な気持ちになりながら、立香は話の続きを待つ。

 

 

「その聖杯大戦で、僕は自分のマスターを炉心にすることはなかった。……自分のマスターや、炉心候補として定めていた魔術師よりも、凄まじい魔力を有している存在を見つけたためだ」

 

 

 夢喰いの枕をぐにぐにといじりながら、アヴィケブロンは話を続ける。心なしか、枕から「ピギィィィ」という悲鳴が聞こえてきたような気がした。

 

 

「“彼”は、僕たちの工房に突然現れた。魔術のことも聖杯戦争のことも知らぬ一般人だったが、魔術師であれば、誰がどう見ても規格外であると一瞬で理解できるような存在だった。――丁度僕たちは、『原初の巨人(アダム)』に使うための炉心を欲していた。……故に、“彼”の存在は渡りに船だった。理想を叶えるために必要不可欠な存在だと思ったんだ」

 

「……その様子だと、容赦なく炉心に使ったんだね?」

 

「…………うん」

 

 

 やや躊躇った後、アヴィケブロンはこっくりと頷き返した。

 目的の為なら手段を厭わない魔術師としての価値観が、その選択を選ばせた。

 

 

「炉心にされる寸前、“彼”は言ったんだ。つい先程、キミが述べた言葉を。『“9999無量大数以上の宇宙を喰らった人類の統合者”が持つエントロピーが、そんな土くれごときで制御できるはずがない。制御不可能になった過剰なエントロピーが暴走し、周辺の宇宙ごと地球を吹き飛ばすぞ。それでもいいのか? お前は責任とれるのか?』と」

 

「……初めて聞いたとき、どう思った?」

 

「意味が分からないと思った。同時に、死にたくない一心で叫んだデタラメだ、とも。だから僕たちは躊躇わなかったんだ。そして――キミや“彼”が言った通りになった」

 

 

 再びアヴィケブロンは夢喰いの枕をぎゅうぎゅうに抱きしめる。心なしか、彼の身体が小刻みに震えはじめた。

 

 

「“彼”は僕らが犯した所業を、自分のエントロピーを使って『なかったこと』にした上で、僕らに懇切丁寧に解説してくれた。周辺の宇宙の滅びと一緒に、数十億人の人類が一瞬で死に絶えた映像も見せながら」

 

「エグい」

 

「懇切丁寧な解説を終えた“彼”は、僕らに問うてきたんだ。『そこの無責任な魔術師ども。何か言うことは?』と」

 

「……成程、把握できたよ。それであの台詞に繋がるのね」

 

 

 我が同位体ながら、相当エグい所業だ。多分この個体のCVは杉田(2020シリーズ仕様)だろう。

 しかし、CV杉田(2020シリーズ)仕様の同位体は山ほどいる。どいつが犯人かの目星を付けることは非常に困難だった。

 受難にあえぐ民を救うはずのゴーレムが人類ごと民を殲滅した図は、アヴィケブロンに凄まじいトラウマを残したらしい。

 

 

「“彼”のヤバさを否応にも体感した僕たち主従は、何とかして“彼”を聖杯大戦から遠ざけようとした。魔術師が彼を見たら最後、僕らと同じ轍を踏むだろう。数十億の人類ごと、複数の宇宙を巻き込んで、地球が滅亡する。そんなの、魔術師側も望むことじゃない」

 

「“彼”が封印指定されるとは思わなかったの?」

 

「『封印指定しようとした魔術師を、この宇宙から消し去ることくらい余裕だ』と言って、懇切丁寧に実演して見せてくれた。プロセスの手順も映像と解説付きで」

 

「エグい」

 

 

 最早やりたい放題である。魔術師の精神をごりごりと削りながら、同位体は外典の世界をうろついていたようだ。

 アヴィケブロンも「マジでエグかった」と頷く。身体の震えが悪化していた。

 

 

「話を戻そう。僕たち主従は“彼”を聖杯大戦から遠ざけようとしたんだ。だが、同じ黒陣営に所属していた魔術師が、偶然“彼”の存在を掴んでしまった」

 

「あっ」

 

 

 立香は察した。もうオチが見える。

 

 

「僕たちは止めようとしたんだ。“彼”も、僕たちに言った言葉を魔術師に主張した。……やめろって言ったんだ。やめろって言ったんだよ、僕たちは」

 

「でも魔術師はアヴィケブロンや同位体の意見を無視。同位体は魔術儀式の生贄にされた、と」

 

「ああ。――そうしてまた、地球は滅んだ」

 

「だろうね」

 

 

 枕を手放し頭を抱えたアヴィケブロンに、立香は同意した。

 

 件の魔術師もアヴィケブロン主従同様、同位体からしこたま説教されたらしい。懇切丁寧な解説と映像をがっつり見せられたという。

 結果、件の魔術師主従も「ごめんなさい! すいませんでした! 赦してください!」と叫んで誠心誠意謝罪し続けるだけの存在に成り果てたそうだ。

 

 

「だが、過ちは断ち切られることはない。……終わらなかった。終わらなかったんだ。暫くの間、ずっと」

 

「……まさか」

 

「世界が『なかったこと』にされる度、何も知らない同陣営の魔術師が“彼”に目を付けた」

 

 

 やめろって言ったんだよ、と、アヴィケブロンは力なく呟く。これで7個+αの宇宙が吹き飛んだ計算になった。

 ……まあ、最も、9999無量大数以上の銀河分のエントロピーを有する第7真竜にしてみれば、7個宇宙程度ならまだ軽いのかもしれない。

 悲劇は終わったかに思われた。悲劇を終わらせられると信じていた――アヴィケブロンは酷く疲れ切った様子でため息をつく。

 

 

「僕たち黒の陣営が『何としても“彼”を聖杯大戦から遠ざけよう』と一致団結した次の世界で、今度は赤の陣営の英霊や魔術師が“彼”に興味を持った」

 

 

「あっ」

 

 

 立香は察した。もうオチが見える。

 

 

「今度は赤の陣営が、『7個とその他付随する宇宙を滅ぼし、“彼”に謝り倒す』番だった。双方の参加者が共に『何としても“彼”を聖杯大戦から遠ざけよう』と決意した次の世界で、ついに両陣営の総大将に“彼”の存在がバレた」

 

「ああ……!」

 

 

 酷い。酷すぎる。

 もう何もかもが酷すぎる。

 約束された結末は目の前にあった。

 

 

「両陣営の総大将は、“彼”を生贄にして、自分の望みを叶えようとしたんだ。――結果はお察しの通りだが、総大将のときは更に酷いことになった」

 

「何があったの?」

 

「懇切丁寧に説明する“彼”の隣に、女性が現れた。……彼女は総大将を激しく詰り、『これだから剪定の場に出る資格のない粗大ゴミどもは』と吐き捨てた。何故総大将や僕たちが粗大ゴミ扱いされるのかの理由や宇宙の理含めて、懇切丁寧に説明しながら」

 

「まさかの社長出張講座!」

 

 

 第2真竜が直々に、下位生物たちに講義をしてくれるなんて。ゴミを見るような冷徹な目で語る姿が容易に思い浮かぶあたり、立香もアリーの尺度に毒された感がある。紆余曲折あったが、アリー・ノーデンスもまた、藤丸立香にとっては友人と呼べる相手であった。閑話休題。

 

 アリーの怒りは収まらず、彼女が暴れた余波のせいで聖杯大戦どころではなくなったらしい。聖杯大戦は無期限に中止され、立香の同位体やアリーの御機嫌取りに奔走する羽目になったという。最終的に聖杯は使用不可能となり、魔術一門と魔術協会による聖杯奪取の顛末は「極点の捕食者を怒らせるな」という意味不明な結末を迎えたらしい。

 件の世界で行われた聖杯大戦の資料は大半が改竄され、第2真竜の余波――人類と真竜たちによる聖杯戦争、もとい第2真竜ノーデンスによる『第7真竜作成計画』の真似事が実施され、また人類大剪定からなる宇宙再編が行われた――に関する記述の大部分が削除されたという。そりゃあそうだ。そんなもの、魔術師が発狂するだけじゃ済まない。

 

 

「――だから、立香。その話題は、もう言わないでくれると助かる。……マスターを炉心にして殺したのとは別方向で、よくない」

 

「……うん、わかった。ごめん、もう二度と言わない」

 

 

 涙声になって震えるアヴィケブロンに謝罪しながら、立香は彼の背中を撫でた。

 最早トラウマやPTSDの類である。心が擦り切れる系の周回プレイは辛いものだ。

 この記録を得て以降、アヴィケブロンは「出力が異常なモノには手を出さない」ことを徹底しているという。

 

 

(……私を唯一無二の相手と見定めたことに関しては、どうなんだろう)

 

 

 ふと、立香はそんなことを思った。

 しかし、思いとどまる。

 

 ――今の状態の彼にそれを突きつけることは、酷なことだと思ったためだ。

 

 

実はまだ終わってない




pixivにUPした後、思うところがあって、こちらにも掲載するに至った超弩級の問題作。「統合者のエグさを補完できるのではないか」と思案した結果です。話の内容は外典ですが、時間軸がFGOなのでこちらに追加しました。
元々は冒頭の『9999無量大数以上の宇宙を喰らったエントロピーを有する人類の統合者を、アヴィケブロンの宝具の炉心に使ったらどうなるのか』というネタから派生しました。私はこのお話で提示した通りの顛末になると思っていますが、実際のところはどうなんでしょう?
オチはアヴィケブロン×ぐだ子/ぐだ子×アヴィケブロンという関係と、この世界における藤丸立香=人類の統合者=アヴィケブロンの言っていた「出力が異常なモノ」扱いされる存在という設定。これは酷い。

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