Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

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・ぐだ子≒セブンスドラゴン2020-Ⅱリーダー/アイドル(≒なのは「転生ではない」ため。近々その理由が明かされる予定)
・ぐだ子のイメージCV.セブンスドラゴン2020-ⅡボイスタイプF/水樹奈々
・ロマぐだ♀要素あり


プロローグ.はじまりの少女/Beginning

 ――いつも、同じ夢を見る。

 

 空を覆う竜の群れ。踏みにじられていく人々の命。大地に咲き誇るのは、赤い葬送花。

 

 誰かを守るために命を燃やした人がいた。生きるために命を燃やした人がいた。圧倒的な絶望に阻まれても尚、歩みを止めなかった人々がいた。

 2度にわたって襲来した外宇宙生命体・ドラゴン。その頂点とも言える真竜を討つため、星の祈りによって選び出された“竜を狩る者”が戦場を翔る。

 その中に、『彼女(じぶん)』はいた。夕焼け色の髪をリボンで束ね、オレンジを基調にした煌びやかな衣装に身を包んだ『彼女(じぶん)』は、メガホン片手に指示を飛ばす。

 

 

「攻撃パラメーター、アップ! 一気に攻めるよ!」

 

 

 攻撃に特化した陣形を組む。仲間たちは任せろと言わんばかりに駆け出した。自分の隣にいたバンダナの青年も、現実を書き換えることで仲間を援護する。

 誰も彼もが不適な笑みを浮かべ、自分たちの道を阻む竜へと得物を振るう。刀を持った学ランの青年が最大威力の秘奥義を叩きこみ、スーツ姿の女性が二丁拳銃を乱射した。

 筋肉隆々の男性は、組織の長からの承認を経て、バンカーを竜へと叩き込む。追い打ちと言わんばかりに、現代に再誕した古代種族――ルシェの青年が炎と冷気を撃ち放った。

 

 勿論、地球を襲撃してきたドラゴンの中で、首謀者兼頂点に位置する黒幕は健在。だが、荘厳に輝く銀の体躯には無数の傷が刻み込まれていた。文字通りの死に体と言えよう。

 

 

「オノレ……! 小癪ナ家畜風情ガ!」

 

 

 怒り狂った銀の竜が吐き出したのは、色とりどりに輝く息吹(ブレス)だ。戦い始めた当初は広範囲を焼き払う威力を誇っていた息吹(それ)は、今ではまばらな光が降り注ぐ程度である。着弾した際の爆発も小規模であるし、何より簡単に回避することができた。

 これが、『彼女(じぶん)』たちを追いつめた竜の総大将――真竜なのか。死と絶望を愛し、その調味料(スパイス)によって人類を喰らい尽くそうとした呪神竜フォーマルハウト。奴の終わりは、刻々と近付いてきている。

 

 

「今だリーダー、竜殺剣を!」

 

「任せて! ――何もかもを、終わらせる!」

 

 

 仲間の合図を聞いて、『彼女(じぶん)』は“それ”を構えた。

 

 青く輝く美しい剣。

 一撃必殺、一回限りの最終兵器が、満を持しての登場だ。

 

 その剣は、星と人類の祈りと願いによって作り上げられた最終決戦兵装。「竜を狩る」というたった1つの目的のために鍛え抜かれたそれは、ドラゴンという概念をもつすべての存在を屠るという、絶対的な力を有している。剣を扱う条件は剣技の腕ではない。竜を狩りつくすという強い意志を持ち、人を守りたいという強い願いと祈りを抱く者を担い手として選ぶ。

 現代に再臨した最終兵器が選んだのは、剣術を修めた青年でもなければ、銃や短剣の扱いに長けた女性でもない。筋肉隆々の男でもなく、PCに精通する青年でもなければ、人類の勝利のために産み落とされたルシェ族の青年でもない。――歌うことが好きで、「歌によって誰かを元気にできたらいい」というささやかな願いを持って、ひっそりとネットの界隈で歌い続けていた、しがない歌い手である『彼女(じぶん)』だった。

 

 

「マダ終ワラヌ……マダ終ワレヌ!!」

 

 

 フォーマルハウトは気づいている。竜殺剣が、己にとって最大の天敵であることを。この剣で斬られれば、一巻の終わりであることを。だから、全力で止めようとしているのだ。

 『彼女(じぶん)』は走る。馬鹿みたいに、何の策も考えず、此度の竜戦役における最大の怨敵へと。フォーマルハウトの吐き出したブレスを竜殺剣で無効化し、尻尾による薙ぎ払いをいなし、『彼女(じぶん)』は思い切り竜殺剣を振り下ろした。

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

 

 果たして、竜殺剣による一撃は、フォーマルハウトにしかと叩き込まれた。人類に死と絶望を振りまいた真竜は、断末魔の悲鳴を上げて結晶化していく。

 

 

「そんな……バカな……」

 

 

 自身が愛した死と絶望に彩られ、人類によって狩られたとき、奴は何を思ったのだろう。その問いは、永遠に明かされることはない。呟くように零した否定を最期に、結晶化したフォーマルハウトは砕け散った。

 『彼女(じぶん)』が大地に着地したのと、役目を終えた竜殺剣が淡い光と共に砕け去ったのは同時だ。それが意味していることは、ただ1つ。一色(イッシキ)彩羽(アヤハ)に課された使命は、完全に果たされたということだ。

 

 

『真竜反応消失! やったぞ13班、オレたちの勝ちだ!』

 

 

 通信機越しから聞こえてきたミロクの言葉を皮切りに、背後から喝采が響いた。誰も彼もが通信を入れてくる。

 真竜を倒した『彼女(じぶん)』や13班の健闘を讃える言葉やパーティの準備をしているから早く帰って来いと急かす言葉が飛び交う中で、

 

 

『彩羽ちゃん! それに、他のみんなも! よくやったよ! ――って、痛い痛い! ミロク、割り込んだのは謝るから機嫌を直してよ!』

 

 

 一番声を聴きたいと思っていた相手が、やっと通話権利を得たらしい。しかも、13班専属ナビから奪い取るような形でだ。『彼女(じぶん)』は込み上げてくる笑いを抑えることができなかった。

 

 

「Dr.■■■。お願いがあるんだけど」

 

『ボクに叶えられる範囲なら何でもいいよ』

 

「――今すぐ議事堂へ帰って『ただいま』と言うから、『おかえり』って出迎えて欲しいんだ」

 

 

 背後のざわめきに色めきが足されたような気がする。雑音の中に紛れるようにして、誰かがDrを茶化しているようだ。

 周囲からヘタレなお花畑の烙印を押されている彼は反論しようと試みたようだが、結局どうにもならなかったらしい。

 

 

『分かった。総長たちと一緒に待ってるよ』

 

 

 Drは咳ばらいして、二つ返事で頷いてくれた。そして、彼の後に通信権を得たムラクモ総長による『議事堂へ帰っておいで』という言葉で締めくくられる。それに従い、『彼女(じぶん)』たちは駆け出した。

 

 

***

 

 

 隣を見れば戦場を共に駆け抜けた仲間がいて、振り返れば自分を支えてくれた仲間たちがいた。みんな、満面の笑みを浮かべている。

 守りたかったのは、彼らの笑顔だ。彼らと一緒に生きていく未来だ。みんなが待っていてくれる、この世界だ。

 そして何より、彩羽を待ってくれている男性(ひと)がいる。――だから、戦い抜くことができたのだ。

 

 議事堂へ戻れば、案の定、住人たちが待ち構えていた。警備員、自衛隊、ムラクモ構成員、医療関係者、政治家一同、SKY、SECT11、一般人――老若男女で大挙した面々からの拍手喝采を受けながら、指令室へ足を踏み入れる。自分たちの姿を視界に納めるや否や、ナビゲーターが飛び込んできた。

 抱き付く2人の頭を撫でていたら、杖をつく音が近づいてくる。顔を上げると、『彼女(じぶん)』が一番会いたかった人――Drが、不自由なムラクモ総長を支えながら、『彼女(じぶん)』の元へ歩み寄ってくるところだった。

 

 朝焼けの空を思わせるような髪をポニーテールに束ね、一目見て医療従事者だと分かる白衣と白手袋を身に着けた青年は、『彼女(じぶん)』にへにゃりと笑いかける。若葉を思わせるような透き通った瞳は、嬉しそうに細められた。『彼女(じぶん)』もまた、微笑み返す。

 

 

「――ただいま、■■■!」

 

「――おかえり、彩羽!」

 

 

 彼が二の句を継ぐ前に、『彼女(じぶん)』は彼に抱き付いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(……また、同じ夢を見てたなぁ)

 

 

 欠伸をかみ殺しながら、一色(イッシキ)彩羽(アヤハ)は無機質な廊下を歩いていた。自分に割り振られた部屋は、管制室から一番遠い場所にある。といっても、管制室と自室の距離は5分程度で行き来できる場所にあるらしい。この情報を齎してくれたのは、彩羽のことを「先輩」と呼ぶマシュであった。

 彩羽が自室へ向かっているのは、自分の直属上司となったオルガマリー・アニムスフィアの命令のせいである。説明会でうっかり寝落ちした現場をオルガマリーに発見され、怒髪天となった彼女から公衆の面前で激しく叱責された挙句、自室待機を言い渡されたためだ。

 うっかり寝落ちしたことは彩羽が悪い。非は素直に認めよう。だがしかし、1人が犯した小さなミスを公衆の面前で盛大に糾弾するのはやりすぎではなかろうか。恐らく、今後も何かある度に、公衆の面前で一色彩羽の不出来具合を挙げ連ね責めるのであろう。「お前は反ムラクモ派の政治家か」という罵倒を飲み込むのは大変だった。

 

 

「労基に相談したら一発アウト判定貰いそうな職場だよね、フィニス・カルデア(ここ)……。まあ、あの夢に出てくる特務機関(ムラクモ)とどっこいどっこいだけど」

 

「フォウ?」

 

「ああ、何でもないよ。私だけの秘密だから」

 

 

 いつも見る夢での光景を思い返し、彩羽はひっそり苦笑した。小首を傾げたフォウの頭を撫でてやる。フォウは不満そうに一鳴きしたが、それ以上追及することはなかった。

 

 前者も後者も、人類が切羽詰っているのは一緒だ。ただ、前者――人理保証機関フィニス・カルデアが立ち向かう危機は表立って出てきておらず、後者――特務機関ムラクモが立ち向かう危機は誰が見ても人類終焉一歩手前な世紀末であるという違いがあった。

 『過去の改変による未来の消失』を食い止めるのがカルデアの仕事だと所長は語っていた。彩羽が夢で見るムラクモ機関は、本来はマモノ退治を筆頭とした国の裏仕事を引き受ける組織だった。最も、後者は『人類を捕食する外宇宙の来訪者(ドラゴン)来襲』によって、東京に跋扈する捕食者(ドラゴン)を倒すために活動することになるのだが。

 

 

(重力が反転した東京都庁、樹海広がる繁花街と化した渋谷、電車で造られた天球技アートが目立つ池袋、文字通りのリアル四谷怪談と化した四ツ谷、辺り一面の砂丘とドラゴン製造プラントのある国分寺、洞窟と化した東京地下道、南極や北極なんて目じゃない氷海と化したお台場、虹色の茨で覆われた東京丸の内駅、超強酸性雨が降り注ぐ大瀑布六本木、地下遺跡と化した東京メトロ、サイコホラーひしめく摩天楼と化した首都高を攻略しろと言われたのに比べれば、所長のヒステリーは一過性のゲリラ豪雨みたいなものだし)

 

 

 こんな危険地帯を攻略するために強行軍を組んでいたのは夢の中の出来事だし、本人が耳にしたら怒髪天になりそうな内容ではあるが、事実は事実だ。

 あの夢を体験す()るようになってから、大抵のことは「夢の中の強行軍よりマシ」だと流せるようになってしまった。年齢の割には妙に場慣れしている節があるとはよく言われる。

 このことは誰にも話していない。この夢のような冒険譚は、彩羽の中に留め、大事にしていくべきだと思ったのだ。誰も知らない物語を、1人でひっそりと紐解く――彩羽の趣味の1つだった。

 

 

「48番……ここだね」

 

 

 自分の番号が書かれた部屋の扉を見つけ、足を止める。マシュの言葉通り、一色彩羽の自室に辿り着いたのは7分程だった。2分程オーバーしたのは、彩羽が長考していたためであろう。彩羽は何の気なしに部屋に足を踏み入れた。途端、

 

 

「はーい、入ってまー――って、うえええええええ!? 誰だキミは!?」

 

 

 彩羽の自室であるはずの部屋に、先客がいた。朝焼けの空を思わせるような髪をポニーテールに束ね、一目見て医療従事者だと分かる白衣と白手袋を身に着けた青年。

 青年の姿に酷く既視感を覚えたのは何故だろう。彩羽はどこかで、彼とよくにた青年を()()()()()()()()()()()()()()()()()()気がした。彩羽は目を丸くして呆ける。

 

 青年は間抜けな悲鳴を上げた。彼の手に握られていた細いフォークには、歯型のついた厚切りの栗羊羹が突き刺さっている。テーブルには切り分けられた栗羊羹が並んでいた。

 何故、彩羽に宛がわれた部屋に他人――しかも異性がいるのだろうか。彩羽は慌てて部屋番号を確認したが、番号は48番だ。何度見直してみても変わらない。

 じゃあ、何故彼はここにいるんだろう。異性の部屋で羊羹を食べるだなんて、この青年は何を考えているんだ。まさか、この人にはそういう趣味が――!?

 

 

「ここはボクのサボリ場だぞ! 誰のことわりがあって入ってくるんだい!?」

 

「さ、サボリ場って……」

 

 

 答えは、目の前にいる青年が自ら明かしてくれた。あまりにもくだらない理由に、彩羽は思わず脱力する。

 

 

「なーんだ。わたしが部屋を間違えたわけでも、貴方が『異性の部屋に無許可で侵入し、そこで羊羹を食べる』という奇特な趣味を持っているわけでもないんだね」

 

「ボクにそんな趣味ないからね!? “女の子の部屋に無許可で侵入する”ってだけで既にハードル高すぎるよ! 道義的な意味でも常識的な意味でもムリだから! ボクはチキンハートなんだぞぅ!!」

 

 

 青年は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしながら拳を振り上げ訴えた。ハの字に曲がった眉毛に、若葉色の瞳がジワリと滲む。彩羽の発言が余程胸に堪えたらしい。

 成程。この青年、良識ある人物のようだ。彩羽は青年に謝罪した後、ここが自分の部屋であることを告げる。すると、青年は何とも言えない顔をしてため息をついた。

 まるで「ついにこのときが来てしまったか」とでも言わんばかりな形相だったが、彼はすぐにへにゃりとした笑みを浮かべる。――ああ、やはり、既視感がぬぐえない。

 

 

「いやあ、はじめまして。予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。何故かみんなからはDr.ロマンと略されているんだ」

 

「ロマン?」

 

「うん。理由は分からないけど言いやすいし、キミも遠慮なくロマンと呼んでいいとも」

 

「ロマン……そうだ。ちょっと待ってて」

 

 

 彩羽はポケットから手帳とペンを取り出した。テレビの特集で、「外国人には漢字がウケる」という話を耳にしたことがあったためだ。インタビューを受けた面々の中には「自分の名前に当て字をしてほしい」という外国人もいたか。

 ロマニの場合、「ろまに」の音に漢字を当てるのは至難の業であるが、愛称のロマンならピッタリの漢字がある。実際、その表記で「ろまん」と読み、同じ意味を指す漢字だ。彩羽は手帳にその単語を書き、ロマニに示した。

 

 

「ロマンは漢字でこう書くんだ。意味は英語のRomanceなんだよ」

 

「ボクの愛称って漢字を当てられるのかい!? ……うわぁ……字面からしてロマンティックだなぁ。ますますロマンという言葉が好きになったよ」

 

「……ねえロマン。ロマンというあだ名は、本当に周りから呼ばれてる愛称なの? 私には、貴方が自ら『ロマンと呼んでほしい』と触れ回っているようにしか思えなくなったんだけど」

 

「…………。……じ、実際、ロマンって響きはいいよね。格好良いし、どことなく甘くていい加減な感じがするし」

 

 

 彩羽の問いかけを封殺し、ロマニは独り納得する。あの間は一体何だったのか。

 

 今の会話を引き金にして、彩羽の中にあった既視感が強くなった。脳裏にフラッシュバックするのは、何度も見続けてきた冒険譚(ゆめ)――人と竜の物語。

 いつも『彼女(じぶん)』を「いってらっしゃい」と見送り、「おかえり」と迎えてくれた青年の姿を思い出す。彼は『彼女(じぶん)』のことを支え、見守ってくれた。

 

 

『ボクの愛称は、漢字では“浪漫(こう)”書くんだね。……うん、文字からしてロマンが溢れてくるなあ』

 

『個人的に、浪漫という字面や名前の響きからして、ロマニは甘い味や香りを纏っていそうな感じがするね』

 

『ん゛ん゛っ!? み、三十路に足突っ込んだおじさんから甘い匂いが漂ってきたり、実際に甘い味だったりしたら、大問題になりそうな気がするぞぅ!?』

 

 

 ――ころころ表情を変える青年の名前は何と言っただろう。彼の愛称は、なんと言ったろう。

 

 

(――ああ、そうだ)

 

 

 彼の名前はロマニ・アーキマン、愛称はロマン。今ここにいる彼と、夢の中で出会った青年は、すべてにおいて瓜二つの同姓同名だった。

 すべてのピースが綺麗に嵌ったとき、彩羽の心から湧き上がってきたのは喜びであった。あの夢の欠片が、この出会いに繋がっている――密やかな歓喜が胸を震わす。

 出会ったばかりのロマニにそれを見せるつもりはない。一色彩羽が抱え続けることになるであろう、ささやかで甘やかな秘密だ。彩羽は思わずくすりと笑う。

 

 幸いなことに、ロマニは彩羽が何を思ったかなんて気づいていない。今ここにいる彼との関係がどんなものになるかは分からないが、この出会いは良いものであったと彩羽は確信した。

 願わくば、彼にとっても、一色彩羽という人間との出会いを「良いものであった」と思ってもらえたらいい。ロマニが小首を傾げたのが見えて、彩羽は満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

「よろしく、Dr.ロマン」

 

 

***

 

 

 それから彩羽とロマニは、ちょっとしたおしゃべりに花を咲かせていた。ロマニが彩羽の部屋でサボっていた経緯――双方ともに『所長からの雷を喰らい、待機命令を出された』という理由だ――にシンパシーを抱いたり、カルデアのマスターとして必要最低限の常識をレクチャーしてもらったり、あとは彩羽がカルデアに呼び出された経緯だったり、重要なことから他愛ない話をしていたときだ。

 暫く会話を楽しんでいたとき、不意に、ロマニが彩羽の顔をじっと見つめてきた。彼は眉間にしわを刻み、顎に手を当てて小さく唸る。一体どうしたんだろう? 彩羽がそれを問うより先に、ロマニが口を開く方が早かった。

 

 

「キミの声、どこかで聞き覚えがあるような気がするなあ」

 

 

 先程までの能天気な横顔は鳴りを潜め、彼は真剣な面持ちになる。真剣になっている理由は割と酷いが、その横顔はとても端正であった。彩羽はひっそりため息をついて見入る。見るだけならタダだろう。

 暫し唸っていた彼の翡翠が、ぐりんとこちらに向いた。彩羽は思わずびくりと肩をすくめる。それを見たロマニも連鎖反応的に肩をすくませた。

 

 

「あ、ごめんね。驚かせちゃって」

 

「ううん。……こっちこそ、ジロジロ見ちゃってごめんなさい」

 

 

 途端にオロオロしだすロマニの様子に、彩羽もつられるような形でオロオロと応対する。これじゃあまるでミラーコントだ。お互いに咳ばらいし、話題を戻す。

 さて、小話の話題は『彩羽の声をロマニが聞き覚えがある』という点だ。彩羽はロマニと初対面である。そして、ロマニの方が一方的に、彩羽の声に対して既視感を抱いている様子だった。その理由を、ロマニ自身はよく分かっていないらしい。

 暫し考えて、ふと、彩羽は1つの可能性に行きついた。彩羽は、不特定多数に己の声を晒している。主にインターネットの『歌ってみた』動画で、だ。

 

 

(……もしかして)

 

 

 浮かんだ仮説を証明するために、彩羽は口を開く。口ずさんだのは、少し古い曲だ。人工音声がカバーしたオリジナルソング。

 その始まりの部分を歌えば、ロマニが弾かれたように彩羽の方を向いた。歌声がロマニの中にある既視感とぴったり嵌ったのだろう。「ああ!」と彼は声を上げた。

 

 

「もしかして、キミ、歌い手の『色彩』かい!?」

 

「う、うん。一応、インターネットに『歌ってみた』動画投稿してるけど……」

 

「どおりで聞き覚えがある声だなって思ったんだ! あんなに素敵な歌声の子はどんな子だろうって思ってたんだけど、まさか本人に会えるなんてびっくりだよ! よければ握手してもらえないかな?」

 

「喜んで! わたし、ファンの人と握手するの初めてなんだ」

 

「そうなのかい? いやあ、なんかうれしいなあ」

 

 

 自分よりも2回り近く年上の男が、目を輝かせて彩羽に握手を迫ってくるなんて驚きだ。しかも、彼は彩羽の歌声を素敵だと思っていてくれたらしい。それが嬉しくて、彩羽は思わずはにかんだ。真正面からそれを見たロマンはほんの一瞬目を見張った後、口元を抑えてうんうん頷く。そうして、タブレットを引っ張り出してきた。

 

 

「『マギ☆マリ』のブログに、キミがアップロードした動画が紹介されていたんだ。ほら、これ」

 

 

 ロマニはタブレットを指示す。画面に表示されているのは、巷で有名なネットアイドル『マギ☆マリ』だ。彼女のブログを見ると、時折、動画を張り付けている記事が見受けられる。

 動画はすべて『色彩』の「歌ってみた」シリーズだ。彩羽がカルデア召集のために活動休止発表をした日付には、『非常に残念だわ。大変だと思うけど、お仕事頑張ってね!』という記述があった。

 

 

「あの人、よく動画にコメントを残していく常連さんなんだ。ちょくちょく交流もしてるんだよ。ある日突然、彼女の方から私の動画を宣伝するようになって、それから交流が始まったの。……でも、『マギ☆マリ』はどうして私を見出したんだろ……?」

 

「うーん……。『マギ☆マリ』は気まぐれなところがあるからなー。彼女のブログから分析したボクの見解を述べるとすると――」

 

 

 『マギ☆マリ』の行動真理について真面目に考察しようとしたロマニだったが、彼の言葉は端末の呼び出し音によって遮られた。連絡の主はレフ・ライノールで、どうやらレイシフト関連でロマニの呼び出し要請が入ったらしい。

 

 

『急いでくれ。今、医務室だろ? そこからなら2分で到着できるはずだ』

 

「……ここ、私の部屋だ(医務室じゃない)よね?」

 

「……それは言わないでほしい……ここからじゃ5分はかかるぞ……」

 

 

 うええ、と小声で呻きながら、ロマニは時計を確認した。苦い表情をしているあたり、この呼び出しに遅刻すると碌な目に合わないと察知している様子だった。遅刻の罰はオルガマリーの説教(短時間)で済めば御の字だろう。最悪の場合、公衆の面前で公開処刑されるのもあるかもしれない。

 

 要らない子扱いしといて馬車馬の如く使いっぱしりにするという光景を見て連想するのは、ムラクモ13班を糾弾してきた議員の姿だ。彼は意気揚々と13班を糾弾しようとしたが、娘が攫われたという一報を聞くや否や、13班に娘の救助を依頼してきたのである。娘を助けたい一心で、件の議員は怨敵に頭を下げたのだ。彼は相当切羽詰っていたのだろう。

 親が『彼女(じぶん)』たちを背後から狙い撃ちする人物だからといって、子どもを見殺しにしていい理由にならない。何より、13班の面々は人の命を見捨てておけるような奴は1人もいないのだ。だから、二つ返事で助けに向かった。紆余曲折の末に救出は成功したが、件の議員は「誘拐の一件を利用して13班(じぶんたち)を失脚させてやる」と言った。

 因みにこの誘拐騒動、『実は娘とその恋人による狂言誘拐で、“反ムラクモ派筆頭の父親やその他の議員を黙らせつつ、13班の活躍と素晴らしさを知らしめるため”に計画された』ものだった。後に娘は親ムラクモ派議員のエースとして政界に進出し、父親の政治生命(いきのね)絶っ(とめ)たというオチがつく。意気揚々と「怨敵を討ち果たした」と報告を受けたとき、『彼女(じぶん)』は何とも言えない気持ちになったものだ。

 

 しかし、件の娘さんとは違い、ロマニには反骨精神の「は」の字も見えない。だが、ただ流されているのとは少し違う気がする。

 一番近い比喩を挙げるとするならば、柳に風だろうか。柳は風に弄ばれているように見えて、実際は風をうまい具合に受け流す柔軟さとしたたかさを持っている植物だ。

 

 

(『隙だらけのように見えて、実は隙が無い』みたいな感じかなぁ)

 

「まあ、少しくらいの遅刻は許されるよね。Aチームは問題ないようだし」

 

 

 先程まで苦い表情をしていたというのに、次の瞬間には完全に開き直っている。やはり、彼を言い表す表現に柳を連想したのは間違っていないようだ。彩羽はひっそり確信する。そんな自分を横目に、ロマニはのんびりと立ち上がった。

 しかし、言葉に反して、彼は管制室に行こうとしなかった。ロマニは能天気に笑いながら話を続ける。レフ・ライノールの功績、カルデアへの協力者、協力者から提供された技術によって作られたスパコン一式の説明を行う彼の様子に違和感を覚えたが、どうしてか、それを口に出すことはできなかった。周囲に花をまき散らすレベルの笑みを浮かべたロマニを目にした途端、何もかもが吹っ飛んでしまったためである。

 

 

「お喋りにつき合ってくれてありがとう、彩羽ちゃん」

 

「こちらこそ。Drとのお喋り、とても楽しかった。また時間ができたら、こんな風に話したいな」

 

「うん、分かった。落ち着いたら医務室を訪ねに来てくれ。今度は美味しいケーキをご馳走するよ」

 

「じゃあ、わたしの方も何か差し入れを持ってくるよ。こう見えても、お菓子作りは得意なんだ」

 

「本当かい? 次は豪勢になりそうだね。ボクの方も楽しみにしているよ」

 

 

 そう言って、ロマニが部屋を出ようとした時だった。

 

 突如、部屋全体が真っ暗になる。いや、真っ暗になったのは部屋だけではない。半開きになった扉の向こうも、灯りが一切ないのだ。

 一体何が起こったのだろう。それを問う間もなく、施設全体に派手な爆発音と警報音が鳴り響いた!!

 

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、および中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第2ゲートから退避してください。繰り返します。……』

 

 

 脳裏をよぎったのは、『彼女(じぶん)』の記憶(ゆめ)。毎度毎度、ナビゲーターのミロクや新総長キリノの切羽詰った声が、『彼女(じぶん)』たちに異常事態を教えてくれていた。その経験則も相まって、ただの凡人でしかない彩羽でも、今起きている異常事態がどれだけ悪いのかを弾き出せる。

 経験則が指し示したのは、真竜フォーマルハウトが議事堂に襲来したときのことだ。人類最後の拠点を黒いフロワロで覆いつくされたときの悪夢と絶望は、『彼女(じぶん)』を通じて体感していた。いそげ、いそげと、身体の奥底から警笛の音が響いてくる。

 その横で、ロマニがモニターに指示を出す。彼の指示を忠実に実行したモニターが映し出したのは、燃え盛る炎に包まれた管制室だった。ウォークライやトリニトロの炎に比べれば遥かに“大したことない”が、あそこにいる魔術師たちの肉体能力は『彼女(じぶん)』の言うB級またはC級能力者(いっぱんじん)である。彩羽も同じB級またはC級能力者(いっぱんじん)だ。

 

 ……では、一般人はあの炎の中で大丈夫だろうか? ――考えるまでもない。答えはNoだ。

 

 あそこには、沢山の魔術師がいた。レイシフトおよび先遣隊(Aチーム)として派遣される魔術師として、彩羽のことを「先輩」と呼んだ少女――マシュもいた。

 人類の希望として、正義の味方から地球を託された者として、多くの人々を救出してきた『彼女(じぶん)』は叫ぶ。“管制室へ向かえ”――と。

 

 

「……っ!」

 

「フォウ!」

 

「あ、彩羽!?」

 

 

 考える間もなく、彩羽は走り出していた。ほぼ同時にフォウが駆け出して隣に並び、一歩遅れてロマニが後を追う。

 

 

「まさか、キミは管制室に行くつもりなのか!?」

 

「当たり前だよ! あそこには、マシュを含んだ多くの魔術師やカルデアの職員が集中していたんだ! 急がないと、生存者の救出に間に合わない!」

 

「でも、キミは……」

 

「人手は多い方がいいはずだよ! 1人ですることには限界があるんだから!」

 

「そりゃあそうだけど……ああもう、言い争ってる時間も惜しい! 隔壁が閉鎖する前に戻るんだぞ!」

 

「分かった! ロマンも無理しないでね!」

 

「まさかキミからそんな風に気遣われるなんて思わなかったなッ!」

 

 

 廊下を全力疾走する。5分程度の道のりだと言うのに、管制室までの距離がやけに遠く感じた。もどかしさに歯を食いしばって足を動かし続け、ようやく扉が見えてきた。

 躊躇うことなく手をかけ、半ばこじ開けるようにして扉を開く。そこには、モニターで見た通りの地獄が広がっていた。

 燃え盛る炎、崩れた瓦礫。赤と黒の中で、人の手足や頭が紛れ込んでいる。数多の死体を目の当たりにしてきた『彼女(じぶん)』の知識が、もう手遅れだと告げていた。

 

 無事なのは、目の前に鎮座するマシン――カルデアスのみ。

 

 医者であるロマニも『彼女(じぶん)』と同じ結論に至ったようだ。沈痛な面持ちを浮かべていた彼は、すぐに顔を上げて周囲を見回した。

 鋭い若葉色は、地獄絵図にも等しい現状を的確に分析している。ややあって、ロマニは険しい顔をして見解を述べた。

 

 

「ここが爆発の起点だろう。これは事故じゃない、人為的な破壊工作だ」

 

「人為的って……テロ?」

 

「おそらくは。マスターたちや職員が一同に会する場所はここしかないからね、……想定する限り、最悪な状況だと言えるだろう」

 

 

 想定する限りで最悪な状況。……やはり、先程連想した“人類最後の拠点に真竜来襲”並みに危機的状況だった。彩羽は歯噛みし――ふと、思い至る。ロマニが言った“人為的な破壊工作”という言葉に、妙な引っ掛かりを感じたためだ。

 『彼女(じぶん)』は、この違和感の理由を知っている。その違和感を見過ごしたせいで起きた地獄を知っている。……人類でありながら、己の欲望を叶えるために人類を裏切った人類(おんな)がいたことを、知っている。

 

 

「……ねえ、ドクター。このプロジェクトは、人理を――人類の未来を守るために計画されたんだよね?」

 

「ああ」

 

「ということは、人類がこのプロジェクトに反対するメリットはないから、テロを起こす意味もない。人類を救うための計画を阻むってことは、犯人は“()()()()()()()()()()()()()()()”ってこと?」

 

 

 彩羽がそう口にしたとき、ロマニは一瞬目を見開いた。「まさか」と紡いだ彼の声が、ほんのわずかに戦慄く。

 

 

「だが、一体何のために――」

 

『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに異常があります。職員は手動で切り替えてください』

 

 

 ざりざりとノイズが混じったアナウンスが鳴り響く。途切れ途切れになりながらも、アナウンスは隔壁が閉じるまでの残り時間と職員の避難を呼びかけていた。

 それを耳にしたロマニは顎に手を当てて考え込む。時間にしてほんの数秒で、彼は自分が何をすべきなのかを見極めたらしい。若葉色の瞳には強い決意が宿る。

 

 

「ボクは地下の発電所に行く。カルデアの火を止めるわけにはいかない」

 

「ロマン……」

 

「キミは急いで来た道を戻るんだ。まだギリギリで間に合う。いいな、寄り道はするんじゃないぞ! 外に出て、外部からの救助を待つんだ! いいな!?」

 

 

 一方的に言いつけて、ロマニは踵を返して駆け出した。あまりの気迫に気圧されてしまい、彩羽は何も言えぬまま彼の背中を見送る。次に響いたのは、レイシフトの準備を進めるアナウンスだった。

 座標は西暦2004年の1月30日。場所は日本の冬木市だ。爆発の起点に鎮座していたというのに、カルデアの象徴は粛々と己の役目をこなしていく。目の前の地獄など、取るに足らない些末事だと言わんばかりにだ。

 

 その言い方が人類の裏切り者と非常によく似ているせいか、意味なくむかっ腹が立つ。彼女がまだ人類だったとき、作戦協力者であった自衛隊を「捨て駒」にして池袋を攻略しようとした。「才能ない者(ぼんじん)才能ある者(狩る者)のために死ね」とまで言い放った。

 彼女の尺度で繰り広げられた強行軍のせいで、多くの自衛隊隊員が犠牲になった。頼りになる上官も命を落とした。勝利のためなら犠牲はやむなしという理論は分かるが、犠牲を最小限で済ませる努力はすべきだったのではないかと『彼女(じぶん)』は憤る。

 ロマニは寄り道するなと言っていたが、『彼女(じぶん)』の記録と体験を有する彩羽に、さっさと逃げ帰ると言う選択肢はない。寄り道しなければ救えなかった命の数を、『彼女(じぶん)』はよく知っている。ロマニには悪いが、彼の言いつけは破らせてもらうとしよう。

 

 彩羽は周囲を確認する。そして――炎の向こう、瓦礫の山の中に、見覚えのある少女の姿を発見した。

 

 

「マシュ!」

 

 

 後輩の姿を確認するや否や、彩羽はマシュの元へと駆け寄った。額を切ったのか、顔に一筋の血が流れている。下半身は瓦礫に押しつぶされていた。助けたとしても、障害が残ることは確実だろう。

 だから何だ。『彼女(じぶん)』も彩羽も、医学的優先順位(トリアージ)なんぞ知ったこっちゃない。今、自分の目の前で燃え尽きようとしている命を見捨てることなど言語道断。彩羽は何度もマシュに呼び掛けた。

 

 呼びかけが聞こえたのか、マシュの瞼が小さく震えた。意識が戻ったらしく、虚ろな青紫が彩羽を映す。

 

 

「マシュ、今助けるから!」

 

「……いい、です。……もう、助かりません、から」

 

「そんなのやってみなければ分からないよ! たとえ貴女が諦めたとしても、わたしは絶対に諦めない!!」

 

「先輩……」

 

 

 このまま死ぬ気全開の後輩を叱咤し、彩羽は瓦礫をどけていく。しかし悲しいがな、『彼女(あっち)』程ではない自分の筋力では、マシュの下半身を押し潰す瓦礫をどかすのは到底不可能だった。そもそも、不可能だったとしても“マシュを見捨てて逃げる”なんて選択肢自体存在しない。

 非力ながらも瓦礫撤去に奮闘していたとき、目の前にあるカルデアスに光が灯った。天球技に色がつく。未来が見えない灰色が、宇宙番組の太陽よろしく真っ赤に燃えていた。旭かな異常事態である。間髪入れずアナウンスが鳴り響いた。

 人類の存在が確認できない、人類の生存は保証できない、人類の未来は保証できない――文字通り、アナウンスも観測機も狂ったらしい。マシュは真っ赤になったカルデアスを茫然と眺めていたが、何かに気づいたようだ。緩慢な動作で首を動かした。

 

 時間切れ(タイムオーバー)。アナウンスは、中央管制室の隔壁が閉じたことを淡々と告げる。

 ……これで、彩羽は管制室から出られない。ついでに、ロマニからの説教から逃げることもできなくなった。

 

 

「あはは。2人一緒だね」

 

「…………」

 

1()()()()()()って、幸せなことだと思うんだ。……だから、うん。一緒だから、なんとかなるよ」

 

「……ふふ。先輩、やっぱり……変わってますね」

 

 

 ここでようやく、マシュが微笑んだ。彩羽も頷き、微笑み返す。

 

 

『レイシフト、定員に、達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号48、一色彩羽を、マスターとして、再設定します』

 

 

 無機質なアナウンスがやけに遠い。燃え盛る炎が爆ぜる音も、機械の駆動音も、もう何もかもがどうでもよかった。だが、そう思っていたのは彩羽だけで、このアナウンスは意外と重要な意味があったらしい。

 『霊子変換を開始します』――そのアナウンスが響いた途端、彩羽とマシュの体が光り輝き始めた。自身の存在がどんどん希薄になっていくような感覚。マシュは怯えるように身じろぎした後、彩羽を見上げた。せんぱい、と、弱々しく言葉を紡ぐ。

 

 

「手を、握ってもらって、いいですか?」

 

「お安い御用だよ。……何なら、ついでにお話のサービスも付けようか?」

 

「……おなはし……?」

 

「うん。わたししか知らない、『彼女(あのひと)』たちのお話だよ。特別に、マシュには話してあげる」

 

 

 こてんと首を傾げたマシュの手を握りながら、彩羽は笑った。

 「この話をするのはマシュが初めてだ」と言えば、マシュは目を丸くした後、嬉しそうに破顔する。

 ……まるで、寝る前に絵本の読み聞かせをせがむ子どものようだ。

 

 

『レイシフト開始まで、3』

 

「……是非、きかせてください」

 

『2』

 

「それは、どのようなお話、なのですか?」

 

『1』

 

 

 マシュの問いに対し、彩羽は密やかな笑みを浮かべて、言った。

 

 

「一言で言うなら――人と竜の物語、だよ」

 

 

『――全行程、完了(クリア)。ファーストオーダー、実証を、開始、します』

 

 

 




ついにやった。反省も後悔もしていないが、戦々恐々とはしている。
活動報告でネタやアドバイス等を募集しております。興味がありましたら是非。
みなさまの意見を参考にすることで、新しいお話が増えるかもしれません。Fate側優勢の話を書く参考にしたいので。

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