Fate/GrandOrderとセブンスドラゴンシリーズを混ぜてみた   作:白鷺 葵

16 / 28
【諸注意】
・もしもカドックが契約したのが異星の神ではなく、我が家の統合者(どこぞの宇宙にいる最後の竜にして人類の権化)だったら。
・もしも拗らせる前のカドック主従が、セブンスドラゴンⅢの世界に放り込まれたら。
・EXTELLA形式のように、カドックが「ナナドラⅢを実体験していた記憶と魂」と「1年間意識不明だった本体」に別れたら。
・カドックの回想と独白形式。
・『百花繚乱クロニクルセブン』の世界観に関するネタバレに抵触する可能性がある。あちらの方でも大分バレバレだが、注意してほしい。
・クロスオーバーのバランスはナナドラ>越えられない壁>FGO(重要)。
・クロスオーバーのバランスはナナドラ>越えられない壁>FGO(重要)。
・クロスオーバーのバランスはナナドラ>越えられない壁>FGO(重要)。
・クロスオーバーのバランスはナナドラ>越えられない壁>FGO(重要)。
・真竜がFate関連要素をこき下ろす言動が出てくる(重要)
・真竜がFate関連要素をこき下ろす言動が出てくる(重要)
・真竜がFate関連要素をこき下ろす言動が出てくる(重要)
・セブンスドラゴン無印・2020シリーズ・Ⅲ-code:VFD-の容赦のないネタバレ。
・パワーワードのオンパレード。


“元・人類統合者”カドック・ゼムルプスの災難
人類の権化「大変。お前の肉体、異星の神に持ってかれちゃった」カドック「ちょっと待て」


『……僕とお前の関係は、ライバルみたいなものだろう』

 

『ライバル……ライバル、か。……嬉しいな。俺、ライバルができたの、キミが初めてなんです』

 

『あら、よかったじゃない。カドック。貴方にとっても、“貴方の専門分野以外の方面”でライバルと呼べる相手はユウマが初めてでしょう?』

 

『ちょ、アナ……っ、キャスター! 余計なこと言わなくていいから……!』

 

『ははは。お互いに初めて同士なんですね』

 

『お前も誤解を招く表現をやめろ』

 

『それは失礼。――それじゃあ、これからもお互いに、切磋琢磨し合いましょう。何てったって、俺たちはライバルなんですからね!』

 

 

 僕――カドック・ゼムルプスの言葉に、照れくさそうに笑っていたアイツ。初めてできた人間関係に、嬉しそうに笑っていたアイツ。

 如月優真。作られた命で、英雄になるために生み出された存在で、そのための力を有していた、12歳児の子ども。

 

 僕はどこで間違えたのだろう。拳を戦慄かせながら自問自答する。

 

 

「俺は今……味わったことのない万能感の中にいます。ようやく俺の存在意義を果たすことができる……」

 

「……ユウマ」

 

「あとはキミを殺せば……俺が人類の頂点であることに確信を持てます」

 

 

 得意気に笑うのは同じなのに、その顔つきは全く違う。

 

 そもそも現在のユウマは人間の括りを超えてしまっていた。人として竜を狩りつくさんとしていた僕のライバルは、竜の力を取り込んでいくうちに向こう側へ行ってしまった。この惑星に眠っている第7真竜――人間が最期に辿り着く理の果てに、アイツは立っている。

 この惑星に生きる人類は第2真竜によって引き起こされた剪定によって、僕たち以外の人間が死に絶えている。後は僕らのうちどちらかが生き残り、第2真竜を倒して心臓を手に入れれば、人類は新たなる竜として目覚めるだろう。僕たちはそれに抗うことを選び、ユウマはそれに従うことを選んだ。

 ユウマは叫ぶ。「世界を救うために生まれた自分を必要とせず、真竜を倒していくカドックが羨ましかった。だから許せなかった」と。赤い瞳は訴える。自分にだって世界は救えるのだと、全身全霊を賭けて叫んでいる。この痛々しさを、僕はずっと知っていたのではなかったか。

 

 

(――ああ、そうか)

 

 

 証明したかった。歴史が浅くても、名門一族の出身者じゃなくても、魔術師として凡才であっても――カドック・ゼムルプスでも、世界を救うことができるのだと。

 人理修復を成し得ることで手柄を立てて、僕を愚弄してきた連中を見返してやれるのだと。僕にだって、何かを成し遂げることができるはずなのだと。

 

 得体の知れない“統合者(自称)”の気まぐれのせいで、僕にとって何の関わりのない世界を救う羽目になって。

 元の世界でのしがらみや後ろ盾の一切合切を失って途方に暮れながらも、少しづつ成果を出していって。

 僕の世界では星の具現(アルティメット・ワン)クラスの上位生命体を倒し、周りから“竜を狩る者”として囃し立てられた。

 

 ――僕が有頂天になっていたとき、僕の視界の端で、如月ユウマはどんな顔をしていただろうか。

 

 役目を奪われ、得物を奪われ、賞賛を奪われた彼は。

 どんな気持ちで、僕を見ていたのか。

 

 

(――あいつは、鏡合わせの僕なんだ)

 

『俺、キミにだけは負けたくないんです。キミの前では、キミの“ライバル”として相応しい存在でありたい』

 

 

 僕はどこで間違えたのだろう。僕は何を間違えたのだろう。――“ライバル”とは、こんな関係性で成り立つものではなかったはずなのに。

 

 僕が成すべきだった。僕が彼を、こうなる前に止めなくてはならなかった。なのに、僕はそれを怠ったのだ。周りに褒められたのが嬉しくて、魔術師や家名なんて気にせず対等に付き合ってもらえたのが嬉しくて、賞賛されるのが心地よくて、あの世界で感じてきた怒りや悲しみのことを忘れてしまった。痛かったことを忘れてしまった。

 僕じゃない誰かだったら、止めてやれたのだろうか。こいつが人類の統合者――真竜の片鱗として覚醒する前に、こいつの抱える怒りや悲しみに寄り添えてやれたのだろうか。完璧じゃなくてもよいと言って、手を引いてやれたのだろうか。――僕じゃない誰かだったら、如月ユウマを引き留めるための楔になれたのだろうか。

 時間を巻き戻せるものなら、今すぐに巻き戻したかった。「デートのやり方が分からない」と首をかしげていたユウマに、参考がてらアナスタシアとカドックが一緒に遊んで見せたあの穏やかな時間に戻りたかった。みんなが生きている優しい時間にかえりたかった。もっと一緒に、笑っていたかったのに。

 

 

「決着をつけましょう、マスター。……ユウマは、貴方のライバルなのでしょう?」

 

「――ああ」

 

 

 アナスタシアの言葉に僕は頷き返す。ユウマがたどり着いた答えを肯定することは絶対にできない。彼を止められるのは僕しかいないのだと、僕はそう自負している。

 いいや、自負できるような人間でありたかった。何せ、初めて会ったとき、如月ユウマは圧倒的な実力者だったから。

 

 帝竜に成すすべなく叩きのめされた僕を横目に、そいつを狩った張本人。圧倒的なヒーロー。

 

 憧れと羨望を抱いて彼を見ていた僕だけれど、彼は僕を蔑むようなことは一切言わなかった。自分の実力に誇りは持っているけれど、優秀な魔術師たちと違って驕ることは一切なくて。軍人として常に完璧を求め、完璧な成績を叩きだす、理想を体現したような男だった。羨ましいと思うくらいに。

 裏を返せば、ユウマには凄まじい重圧がのしかかっていたとも言える。彼は生きる殺竜兵器。常に完璧でなければいけなくて、兵器故にスペアも大量に用意されていて、「お前なんていつでも処分できる」と脅されていた。時々何かに怯えるような様子でいたことを知っていたのに、どうして僕はそれを見抜けなかったのか。

 ……もう遅い。何もかもが遅すぎた。僕に示された道はたった2つだけだ。『僕がユウマに勝って第2真竜と戦い、第7真竜との統合を拒否する』か、『ユウマが僕に勝って第2真竜と戦い、第7真竜として目覚める』か。前者は僕がユウマを殺し、後者はユウマに殺される。究極の選択だが、ユウマの為に死んでやるつもりはさらさらない。

 

 

「僕は、僕自身に対して自信が持てなかった。“故郷”ではいつも三流って馬鹿にされてばかりで、相手を見返すことばかり考えていた。僕の“専門分野”絡みで大きな事件が発生して招集された際も、僕はそれを手柄を上げるチャンスだとばかり考えていた」

 

 

 思い出す。コフィンに潜って、野心を滾らせていたあの時のことを。

 この世界に飛ばされる羽目になるなんて、一切予想をしていなかったときのことを。

 

 

「でも、突発的なアクシデントに巻き込まれて身動きが取れなくなった僕は、そのチャンスを失った。あの時はそれを嘆いたけど、期せずしてこの国に足を踏み入れた。“専門分野”で築いた後ろ盾やコネもなくして途方に暮れていた僕の手を引いてくれた人たちがいたんだ」

 

 

 思い出す。銀髪の髪を束ねた青年が、突如『俺は人類の権化だ』と名乗ってきたときのことを。

 

 

「こんな僕を信じて、力を貸してくれた人がいた。手を貸してくれた人がいた。頑張れと激励をしてくれて、任せたと言ってくれた」

 

 

 今だって、那雲ミオは咳き込みながら僕をナビゲートしてくれる。命を燃やしながら、最後まで僕らを導こうとしてくれている。ノイズの向こう側からゼエゼエと荒い呼吸が聞こえてきた。

 今だって、那雲ミキオと渡真利十郎太――ジュリエッタが、ドラゴンクロニクルに仕込みを行ってくれている。7番目の真竜として目覚めるという滅びのシナリオに、僅かな綻びを生じさせるために。

 

 魔術師としての僕は呆れ果てて物も言えない状態だ。効率化もくそもない。

 でも、1人の人間としての僕は、全部を投げうってでも立たなければならないことを知っている。

 泥に塗れようとも構うものか。人間としてのすべてを賭けて、僕はこの剪定場に立つ。

 

 

「だから、負けるわけにはいかない。――これは、僕とお前の証明だ」

 

 

 ――さあ、始めよう。

 

 こんな狂った花畑を抜け出して、真っ青な空の元へ還るために。

 人類の未来は、真竜への進化の否定であることを示すために。

 

 

***

 

 

 始まりは、僕自身でさえ説明できない。

 だって本当に訳が分からなかったから。

 

 

『俺は人類の権化だ』

 

『キミ、どうせ暇なんだろ? その暇な時間を使って、世界を救ってみないか?』

 

 

 自らをそう名乗った銀髪の男によると、僕の本体はテロにあって意識不明の重体になっているそうだ。ここにいる僕は、魂に近い存在らしい。人類の権化曰く「カルデアの所長により、僕を含んだ47人のマスターたちが冷凍保存されている」のだという。

 人理修復という大役を背負ったのは、48番目のマスターだったらしい。48番目は一般人から選ばれた補欠メンバーで、魔術のまの字も知らない奴だ。説明会で眠ってしまい、所長につまみ出された姿しか覚えていない。そんな奴が世界を救う大役を背負い、破竹の勢いで特異点修復を成し得ているという。

 

 その事実に羨望と八つ当たりをしたくなった僕であるが、そんなことをする間もなく、僕は召喚したサーヴァントと共に、奴によって異世界へと放り込まれた。

 

 魔物が跋扈する廃墟の中に投げ出された僕らは、右も左も分からないまま彷徨う羽目になった。こんな僕と一緒に戦ってくれたキャスターのサーヴァント・アナスタシアとは良い関係を築けたと思っている。自他ともに認める最高のパートナーだ。まあ、その話は置いておくとしよう。

 魔物を撃退し、瓦礫の迷路を彷徨い歩いた。程なくして辿り着いた場所が、アメリカから日本の有明に進出してきたばかりの大企業ノーデンス・エンタープライゼスが誇るVRゲーム『セブンスエンカウント』だ。周辺で情報収集を行っていた際、客同士のトラブルに巻き込まれた。

 そこで出会ったミオとアナスタシアが意気投合。彼女たちの勢いに引きずられるような形でセブンスエンカウントへ行った僕らは好成績を叩きだし、その勢いのままノーデンスへスカウトされることとなる。後ろ盾を失い、帰る場所がなかった僕には渡りに船だった。

 

 ノーデンスに所属することとなった僕とアナスタシアは、タイムマシンを使って様々な時代を駆け抜けることになった。1万2000年前の海洋王国アトランティス、5000年後のエデン――どの時代で発生した出来事も、魔術師としての研鑽なんて意味がないのではと呆気にとられることばかり。魔術師としての物差しを投げ捨てなければやってられなかった。

 特に、僕がお世話になっていたアリー・ノーデンス――もとい、第2真竜ノーデンスが行った大剪定とか本当に酷い。僕に対してやたら好意的で、何事に対しても破格の条件だったことに違和感はあった。警戒もしていた。「どうせみんな死ぬから何でもしてあげる」とか、もう人間の尺度でどうにかできるものではなかったのだ。今思えば、躾で人類が滅ぶとか酷いギャグである。

 

 人類第7真竜化計画を頓挫させた僕は、1個宇宙を作って滅亡を回避した。魔術師としての僕がリアクションに困った状態のまま気絶するレベルの偉業である。

 分野で言えば第2魔法が該当するのではなかろうか。僕は創造に関わっただけで、宇宙そのものを運営している訳ではないけれど。

 

 自分の偉業を無に帰すことと同義だと知りながら、僕はそれを成し遂げた。

 

 失くしたものの方が圧倒的に多くて、他の誰かだったらもっとうまくできたのではないかと考えたくなるようなほろ苦い結果だったけれど。

 無意味ではなかったと、無価値なものではなかったと、僕は胸を張って言える。僕は、僕という人間の証明を成し遂げたのだ。

 偉業なんて無くとも、誰の記憶にも残らなくても、僕の中には意味がある。……代わりに、僕は魔術師として随分ポンコツになってしまったが。

 

 

「この旅路は、確かに僕の糧になった。……そのことに関しては、お前に礼を言うべきだと思ってる」

 

 

 「だからありがとう」と言えば、人類の権化は目を丸くした。奴は暫し目を瞬かせた後、とっても優しい目でこちらを見つめる。アナスタシアもくすくす笑っている。……なんだかとっても居たたまれない。

 

 

「まったく素直じゃないんだから。本当、あなたはかわいいひとね」

 

「……も、もういいだろ。やるべきことはやったし、言うべきことは言ったんだ。僕たちを元の世界へ帰してくれ」

 

「その話なんだけど」

 

 

 人類の権化は、あっけらかんとした口調で告げる。

 

 

「大変。お前の肉体、異星の神に持ってかれちゃった」

 

「ちょっと待て」

 

 

 どういうことだ。何が起きてそうなった。

 僕が二の句を紡ぐ前に、人類の権化はすらすらと答える。

 

 現在の僕の状況を“本当の意味で”細かく説明すると、「本体の英霊とサーヴァントとして呼ばれた分霊」の関係性が近いらしい。僕が本体に未帰還の為、僕の本体はこの旅路を把握していないのだ。勿論、僕の本体は未だにコフィンの中で眠ったままである。

 そんな状態である僕の本体と元Aチームの面々に、異星の神が接触してきたらしい。神は元・Aチームの面々の蘇生を条件にして、とある契約を持ち掛けてきたそうだ。魔術師としての色合いが濃かった本体の僕は持ち前の合理主義を発揮し、躊躇うことなく神と契約を交わしたという。

 本体の僕は最悪な形で「自分が1年間意識不明だったこと」や「48番目の補欠によって人理修復が成し遂げられた」ことを知らされた。人類の統合者をやらされる以前の僕がどんな感情を抱き、どんな行動をするかの予測は簡単にできる。――だって、僕の“友達”がそうだったから。

 

 本体よりも先に、規格外の生き物と契約を結んだ経験のある僕は、なんだか嫌な予感がして仕方がなかった。僕の本体は、後々異星の神からヤバイ対価を支払わされそうで怖い。アリー・ノーデンスの朗らかな笑みが頭の中から離れなかった。閑話休題。

 

 異星の神と契約した元Aチームは「クリプター」として行動を開始。手始めに、カドックのサーヴァント・アナスタシアによって人理/カルデアスが凍結させられたという。

 48番目のマスターは一部の職員らと共にカルデアを脱出し、シャドウボーダーと呼ばれる移動拠点で虚数潜航を行ったそうだ。……やけに手際がいい気がする。

 

 

「この調子行くと、シャドウボーダーが最初に辿り着く異聞帯は西暦1500年代のロシアになる。クリプター側の担当者(マスター)はカドック・ゼムルプス、サーヴァントは魔術師(キャスター)・アナスタシア」

 

「僕の本体……!!」

 

 

 権化はご丁寧に、クリプターとして活動中の僕の本体がどんな様子かを見せてくれた。48番目のマスターに対する羨望と嫉妬と理不尽な八つ当たりをこじらせていた本体の姿に、僕が降した“友達”の姿が浮かんでは消える。あの日掴めなかった――掴んだ先から砂と化して消えた“彼”の手の冷たさは、未だに忘れられない。

 

 僕の本体は何も知らない。意識を失っていた1年間、魂となった僕が何をしていたのかを把握していないのだ。それ故に、不健康極まりない顔つきになっている。

 特に、目つきは完全に、剪定の場で殺し合いを演じた“友達”と瓜二つだ。自分は無価値じゃないのだと、必死になって叫んでいる姿が痛々しい。

 アナスタシアは僕の本体を見て何を感じたのだろうか。まるで自分が傷ついたような顔をしたが、その痛みを飲み下すようにして前を向いた。

 

 

「マスターの本体も私と縁があるのね。……色々言いたいことはあるけれど、今は帰ることが先決だわ。お話は、その後にゆっくりすることにしましょう?」

 

「そうだな。まずは、僕の本体にこの証明を届けないと。――あのまま行ったら、取り返しがつかないことになる」

 

 

 僕がそう言うが否や、突如僕の身体に浮遊感が襲い掛かった。何事かと見上げれば、権化は空中で立った姿のまま、にっこり笑って手を振っていた。

 同じである。僕が異世界に放り込まれたときに見た景色だ。アナスタシアもそれに気づいたようで、何かを言おうと口を開いた。――結局なにも紡ぐ間すらなかったけど。

 

 

◆◆

 

 

 息すら凍る極寒の地。どこを見回しても、一面の白が広がる。

 

 

(昔任務で向かった、台場の壱参号氷海を思い出すな……)

 

 

 と言っても、ここには海もなければ建造物もない。台場のアレはランドマークと商業都市が纏めて氷海にされたため、1種のダンジョンと化していた。

 こちらは真っ白な大地が延々と広がるだけで、特に人の気配を感じない。代わりに漂ってくるのは、敵意ある獣のソレだ。

 

 

(武器を持ち、人語を介す狼の群れ……ですか。先程から同じようなものが出ますね)

 

 

 青年は警戒を解くことなく、自分を取り囲む異形たちと対峙する。つい先程仕留めた先兵たちは、白銀の中にその身を横たえていた。

 

 

「――肩慣らしには、丁度いいかな」

 

 

 青年がそう言ったのと、獣たちが一斉に襲い掛かってきたのはほぼ同時。繰り出される連携を、青年は何の苦もなく軽々と躱していく。

 ISDFの軍服をたなびかせながら、青年は迎撃体制へと移行した。徒手と体術を駆使し、1匹1匹、確実に、異形の群れを仕留める。

 圧倒的な力は未だに健在らしい。この力に思うところがないわけではないが、後ろ盾も導すらもない現状では「ないよりあったほうがいい」ものだ。

 

 青年は次々と異形を屠っていく。この生き物たちは、自分が相手取ってきた真竜や、自分が一方的に“友達”と認識している“彼”と比較すると、遥かに対処が楽だ。

 最後の1匹を屠る。ウォーミングアップには丁度良かったかな、なんて考えながら周囲を見回し――人の気配を察知し、身を隠す。ちらりと様子を伺い――青年は目を見開いた。

 

 

「――カドック……!」

 

 

 言いたい言葉が沢山あった。伝えたいことが沢山あった。でも、それを口に出せるような状況ではなかったのだ。

 

 “見覚えのある青年”の横顔は、青年の知っている彼よりも険しかった。自分の価値を必死に叫んで、自分の証明を成そうと死に物狂いになっていた。……とてもじゃあないが、同一人物には思えない。それでも、彼は確かに彼だった。青年は彼を一方的に“友”と思っているからこそ、分かる。

 どうしてかは知らないが、あの“青年”は、彼自身が積み上げてきた旅路の答えをどこかに置き忘れてしまったらしい。落ちぶれてしまったライバルを――自分がすべてを託した狩る者が落ちぶれている姿を、黙って見ていることはできなかったのだ。

 

 

「……俺は、キミの“友達”になれるかな」

 

 

 今度こそ、本当の意味で、友達になれるかな。

 もう一度会えたら、友達に。

 今際の期に抱いた願いを抱えて、前を向く。

 

 一方的な“友達”の姿はなくなっていた。どこかへ転移でもしたのだろう。青年はそう判断付けて、前を向く。

 

 真っ白な大地はどこまでも広がっている。果てなど知らぬと言うかのように。

 何の導もないけれど、それでも歩いていけるだろうか。――彼の人の元へ、辿り着けるだろうか。

 

 




カドックとユウマが似ているなと思った結果誕生した問題作。1作でまとまりきらない(あともう1話くらいかかりそう)なので、シリーズものになりました。
書きたい場面を書き上げたら終わることになりそうです。具体的には愉悦系のヤツ。
魂が本体の元に到達した場合、このカドアナ主従は「自分の手で空想樹を叩き折る」ことくらいやりそうですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。