真剣で弟と認めなさい!?   作:黒瀧汕

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前回のあらすじ

マルさんとお散歩(尾行された)

遊び場を決める(決闘を持ちかける)

道具を使って遊ぶ(死闘)←今ココ


第五話

 「日本に向かう不穏な組織あり直ちに処理せよ」

 

 ドイツが誇る情報網が捉えた一報。普段なら日本に滞在する猟犬達で事に当たるのだが、私は敢えて精鋭の者達を呼んだ。何故こうしたのかは根拠は無い。しかし、私が感じた予感は的中した。初めは機器の故障かと思った。作戦開始から数十分、彼女達の定時報告からまだ討ち取った知らせが来なかったのだ。どうやら、敵は攻撃的な行動をせず、逃げる・回避する動き徹底され、その動きにこちらが乱されている状況らしい。リザからは何回か捕縛報告は上がってるがそれでも全体からすれば微々たる結果だ。事前に軍から送られた資料を見たところ、名も売れてない依頼の内容もそこらの樹木のような働きしかしない弱小組織の筈だった。しかし、私も目標の者を監視して理解した。あの少年は強い。対峙して目を見て改めて思った。鍛錬を積むような人間ではないにしても生まれながら、育ちながらの環境がそうさせたのかは判断し難いがそこらの武道家より強いだろう。ここに来て公私混同させるつもりは無いが私の血はこの時熱を持った。この間止められた川神との死合い、あの時滾らせた猟犬の牙が再び疼く。

 

 ※ ※ ※

 

 「今回の立会いはあたいが担当するぜ猟犬、審査はあくまで公平に行う。邪魔はうちらがさせねえから安心しな」

 

 二人の間にメイド服を着た女性が場を整えた。二人は先程ギャラリー賑わっていた河原の近くである橋の下で対峙していた。既に人集りは霧散しその場にいるのはマルギッテとシルバークロス、そして決闘の審判役を務める九鬼家従者第一位である「忍足あずみ」である。一見、逃げに徹してしまえばそのまま逃亡出来そうな状態だが、周囲1kmに他の従者が配置されそれは叶わないこととなった。

 

 (民間警備会社「アーバレスト」の『シルバークロス』、見た目と九鬼から何も情報があがらない所からとすればそこらのと大差ないガキなんだが……。)

 

 あずみはちらりとマルギッテに対峙してる男を観察する。帽子で顔の殆どは隠されてるが顔立ちが整っているのは確かだった。格好もジャケットにズボン、ジャラジャラとした銀アクセサリーを身に付けており、そこら辺の若者と大差ない。強いて言うならばチャラついていた。しかし、あずみは彼の身につけてる物に目をつけた。あずみや李辺りでなければ見抜けない暗器が幾つか仕込まれていたのだ。

 

 (こいつは訂正だ。もし、猟犬がやられた場合を想定して手配しなければならんな)

 

 あずみの中で男の危険度が上がり警戒対象としてリストアップされる。

 

 「好きにしなさい、私はいつでもいいですよ」

 「これは緊張するなぁ…。(まさか九鬼が来るとは思わなかったが、何もしなければ大丈夫だろう)」

 

 お互い後少しで間合いの距離で対峙し幾通りのシュミレーションを組み立てる。するとマルギッテは構えを解きシルバークロスに向かって口を開く。

 

 「せっかくですから先手を許します。掛かって来なさい」

 「では、遠慮なく」

 

 シルバークロスは足元に転がっていた小石をわざわざ屈んで手に取ると、立ち上がる途中指で弾く。

 

 「ふっ」

 

 目を狙った奇襲は難なく弾くマルギッテだが、視線を戻した時既に間合いの距離にシルバークロスは居た。

 

 「(思った以上に早い!!)トンファーキック!!」

 「よっと」

 

 迫る蹴りを紙一重に躱すと同時にシルバークロスも蹴りを放った。

 

 「ふん、こんな……っ!?」

 

 マルギッテはバックステップで蹴りを避けると腕に痛みが走る。痛む場所を見るとそこには一筋の切り傷が生まれていた。

 

 (今のは完全に避けた筈なのにこれは一体……。)

 

 マルギッテはシルバークロスの足を見て理解する。

 

 「ちっ、仕込み靴か!!」

 

 シルバークロスの靴から3cm程の鋭利な仕込みナイフが伸びていた。先程わざと目の前で石を拾ったのは不意打ちだけではなく、靴に仕込んでいたナイフを出しやすくする細工を施すためでもあったのだ。

 

 「ふっ!!」

 

 そこからマルギッテは足技とナイフの攻撃を弾く合間にトンファーを捩じ込んだ。苛烈になるマルギッテの攻めには短期決戦の意が込められていた。

 

 (下見、立ち振る舞い、予め仕込まれた暗器からしてこの少年は慎重な人物なのだろう。先程のナイフに毒を仕込んでいた可能性が高い。ならば、攻めは最初から全力で!!)

 

 様々な技と経験のやり取りが数分続き、激しさ増す闘いと共に刻一刻と戦況が傾き始めた。如何に裏仕事を実力で捌き生きてきた人間であろうとも、日々苛烈を極める戦いをくぐり抜けた百戦錬磨の手練であるマルギッテには届かなかった。傾き始めた状況にシルバークロスはマルギッテとの距離を離すが、相手はその隙を見逃すことはなく肉薄し追い込む。

 

 「くっ」

 「これで終わりです!!」

 

 僅かにバランスを崩した瞬間に最高のタイミングから放たれるトドメの一撃を刺そうとした刹那、猟犬の勘がその手を止めた。次の瞬間にその勘が正しい事が証明される。

 

 「……まさか、あの場面で手を止めるとは思いませんでしたよ」

 

 微かに声音から動揺を含ませ語るシルバークロスの右手には今まで意識してなかった腰のウォレットチェーンが握られていた。もしもマルギッテの手がそのまま出していたら今頃チェーンに絡まれ腕を捻れ切られていたかもしれない。そう考えたると男を改めて手練であると再認識せざる得なかった。

 

 「これを初見で見破った人は貴方が初めてですよ猟犬」

 「……大層な事を言いますね。しかし、それは初めて見た者にしか通用しませんよシルバークロス。露見してからは無意味だと知りなさい!」

 

 再び肉薄するマルギッテだがシルバークロスは張り付いた笑みを崩さない。瞬間、マルギッテの左死角から高速でチェーンが絡みに迫る。

 

 「なっ、くぅ!!」

 

 予想外な技のキレにマルギッテは舌を巻く。眼帯で視界が狭まれてることもあってか、幾ら注意深く観察し弾いても本命となる攻撃には届かず逆に攻め立てられる。何度目かの攻防を重ねるとマルギッテは距離を大きくとり、構えを解いた。

 

 「なるほど、確かに実力は身に付いているようですね。いいでしょう、貴方に敬意を表して全力で相手します。」

 

 するとマルギッテは自身の眼帯を引きちぎると陰に隠れていたルビーの瞳が開かれる。シルバークロスはマルギッテの雰囲気の変貌に警戒、チェーンを一本の棒状に組み立て臨戦態勢になる。次の瞬間、腹部から強烈な痛みを感じた。

 

 「ぐぶぉ!!」

 

 肋骨の軋みと胃液がごぽりと反転する音を感じながら後ろに僅かでも衝撃を流し派手に転がった。

 

 「がはっ、ぐぉ、ごほっ」

 

 吐き出す衝動を堪えながら視線は敵を睨みつけ現状理解した情報を整理する。マルギッテは先程シルバークロスがいた場から動かずただ黙ってこちらを見つめていた。

 

 「立て、闘え。最後まで足掻いて見せなさい」

 「は、はは、無茶言ってくれます……よっ!!!」

 

 よろめきながら立ち上がると次にシルバークロスが攻勢に出た。緩急とフェイントを織り交ぜ、時折体術や再び棒を解きチェーンによる波状を放つ。しかし、双眸を揃えたマルギッテには攻撃の半分は避け半分はいなしダメージを弱らせていた。着実に封じられる攻撃に焦るとチェーンを組み立て、棒による渾身の一撃で仕留める構えになる。それをマルギッテは構え迎え撃つ姿勢をとる。

 勝負は一瞬、全身の力を使ってた放つ上段からの叩き込みはマルギッテの堅牢なトンファーにより守られ、がら空きとなる腹部に強烈な連打からの全身攻撃を食らわせられる。猛烈な攻撃にとうとう身体と精神が耐えきれなくなりシルバークロスの意識は途切れた。

 

 ※ ※ ※

 

 「ふん。」

 

 勝ち誇るでもなくマルギッテは気を失う男を見下した。

 

 「(駆け引きや闘いのセンスと言ったものは文句無く良いものを持ってますが、思考の誘導や偽装、鍛練などはまだまだですね)……ふふ」

 

 マルギッテは今までの闘いを通しシルバークロスという人間を知りその中に潜む可能性に思わず口角が上がる。

 

 (彼を育てればどこまで化かせられるか、それはそれで面白そうではありますね)

 「おう、何だかご機嫌良いじゃねえか猟犬の。そんなにこいつが気に入ったのか」

 「そうですね。闘ってみたところ、彼には可能性は大いに秘められてます。それを自分が育て鍛え上げるのは大変面白そうです。」

 (……こいつは面白いものを見たぜ)

 

 普段男の話など気配すら感じられないマルギッテがまるで自分の弟を評価するような口調になっていたのだ。あずみは今後マルギッテをからかう材料としてその様子を眺めた。

 

 「それではこの男は私が引き取ります」

 「ああ、良いぜ。こちらも後の事は……」

 

 ぱさっ

 

 マルギッテが男を担ぐと今まで大部分が隠れていたシルバークロスの全貌が露わになる。

 

 「……なん、だと」

 「あずみ?」

 

 驚愕に固まるあずみの反応にマルギッテは疑問を抱いた。

 

 「なっ!?」

 

 それにつられシルバークロスの顔を見てマルギッテも思わず硬直した。白銀の髪に女性寄りでやや幼気残る顔立ち、男女どちらが見ても見蕩れるであろうその美貌を濁らせる顔の傷と額に刻まれた十時傷(・・・・・・・・)

 

 「……猟犬、話が変わった。そいつは九鬼が引き取る」

 

 さっきまでの砕けた雰囲気が一変しあずみの声に重みが乗る。マルギッテもあずみの雰囲気を察し男を渡した。

 

 「いいでしょう。ですが、もしものことがあったら今回の件について彼と話し合いさせて下さい」

 「いいぜ、追々連絡する」

 

 この事態の急変に川神の日常がまた一つ慌ただしい要素が加わった。




ストック切れたから少し更新待たせるかも……。

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