真剣で弟と認めなさい!?   作:黒瀧汕

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大変長ごう時を待たせました。


第十一話

 川神学園。武道を志す者や人脈の拡大を目的とする者が集まる学舎。この学園ならではのシステムが存在し、敢えて格差を作り切磋琢磨とお互いの競い合いを推奨する学校である。そのとある一室で厳格な雰囲気漂わせる一人の老獪が一枚の書類に視線を落としていた。読み進めること数分、書類の内容読み終えると老獪はゆっくりと息を吐く。

 

 「どうかなされましたカ、総代?」

 

 老獪が息を吐くタイミングで丁度入室してきた緑のジャージ姿の中国人「ルー・イー」が老獪の様子の変化に声を掛ける。

 

 「何、そこまでの話じゃあ……いや、これはこれで問題かもしれんな」

 

 あまり見ない老獪の含んだ言葉にルーは警戒した。彼の目の前にいる老獪こそ武の頂きとして名を馳せ、世界に影響を及ぼす程の人物である「川神鉄心」である。そんな人物が一枚の紙に書かれているプロフィールに唸る姿など滅多に見られない。ルーは鉄心が眺める紙を横から覗き読み進めた。

 

 「九鬼、傑將……年は今年で17歳で九鬼家本部に在住となると英雄くんの親戚でしょうカ。この子のどこが問題なのです?」

 

 何気ないルーからの指摘に鉄心は少しの間を置き言葉の訂正した。

 

 「……弟じゃよ。幼い頃事故で行方不明だったらしいが、最近見つかったそうじゃ」

 「なんと……」

 

 驚愕するルーの反応を他所に鉄心は引き出しから数枚の書類取り出す。それは川神学園へ途中編入する為に行われた筆記試験結果であった。ルーはそれを受け取ると傑將が解いた試験内容を読み流す。次第にルーは傑將という人物像を頭の中で構築しながら理解する。

 

 「……編入試験は申し分なし。海外に居たのでしょうカ、日本の歴史や国語は怪しそうですがその分理数系の点数は高い成果を出してます。性格判定も特に問題らしい部分は見当たりませんネ」

 

 素直に思ったことを口にしたルーであるが反対に鉄心の表情は重かった。それは彼を編入するきっかけとなる二人の人物だ。現在九鬼財閥を文字通り引っ張ってる当主の「九鬼 帝」、九鬼家に仕え戦闘でも業務でもあらゆる場面で活躍される特殊な従者、通称:従者部隊といわれる1000人で構成された部隊。その中ので永久欠番とされる序列第0位に位置する鉄心の元ライバルであった九鬼家を影で支える絶対的存在「ヒューム・ヘルシング」である。以前、鉄心は滅多な事では会うことのない帝とヒュームの2人から傑將の編入を直々に打診されたのだ。

 最初は鉄心も疑問を抱いたが編入を持ちかけた2人の何とも言えぬ雰囲気に当てられ承諾した。昔から面識かる鉄心からしても2人の姿は初めて見たものだった。

 

 「…………。」

 

 「総代?」

 

 「おお、すまんのう。して、何の話じゃったか?」

 

 「しっかりしてください、彼の編入日が未だ決定されてないのは何故なのです?」

 

 ルーが一通り書類に目を通した上で最も疑問に思う点、それは彼が手にしてる紙に書かれてる成績は既に結界が出て終わってる物なのだ。にも関わらずこの数日間誰1人として編入されていなかった。すると鉄心もルーと同じ困った表情を浮かべた。

 

 「実は、彼の編入試験にもう1項目追加するよう九鬼の連中に頼まれてのう。3日後に行われる『川上大戦』をその試験に組み込みたいようじゃ」

 

 「それは大丈夫なのですか、今回こちらに大戦を挑んできたのは西の名門『天神館』ですよ」

 

『天神館』……武の頂きと言われる川神鉄心の一番弟子である「鍋島 正」が校長を務める名門校である。川神学園のシステムを導入しており、こちらでもお互いの競い合いが推奨され高い成績を叩き出している。

 

 「ある程度条件は下げるつもりじゃが、最低でもここの入門生くらいはクリアして貰う」

 

 鉄心とルーの2人が普段構えてるのは武の総本山とも言える「川神院」である。世界レベルに厳しいとされるこの狭い門は多くの希望者を弾き一握りだけ生き残った。護身用に学ぶコースもあるが正式な川神院に潜るとなると最低限の基礎と才能、精神が求められる。

 そんなレベルの試験を鉄心は傑將に要求するつもりのようだ。

 

 「……ですが総代、いくら入門生レベルでも毎年100人以上は脱落します。彼にそれほどの実力があるのですカ?」

 

 ルーの指摘に鉄心は普通に答えた。

 

 「彼のことは一度視たが、まあ大丈夫じゃろ」

 「そんな無責任な…」

 

 若干の呆れるルーだがその心には確信が持てた、何故ならあの武の頂きと呼ばれる川神鉄心が『視た』上でそう判断したのだ。ルーから見ても鉄心の見抜く力は相当な実力を持つものでなければ隠す事など出来ないのだから。

 

 「ま、彼女達(・・・)もこの日に来るのじゃからそこまで考えんでもええじゃろ」

 「彼女達と言うと九鬼の子達ですネ」

 「紹介も彼らと一緒にすれば馴染みも早くなるじゃろうしの」

 

 ちらりと鉄心は部屋の中にある重厚な金庫に目を向けた。その中には重要書類と機密とされる物が色々と入っており、これから来る九鬼の子達のプロフィールもそこに含まれていた。

 

(さて、今年は忙しくなりそうじゃ)

 

 これから訪れる目まぐるしい未来を幻視しながら鉄心は子供たちの成長に期待と不安を膨らませた。




次からは東西交流戦だけど書く量多そう!!

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