ハイスクールD×D 魔械留学のジャークサタン   作:トアルトーリスガリ

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かつて自分の学校が光るおじさんに改造されることを夢見た人々に捧ぐ。


プロローグ

 現世の人口に限界があるように、常世、すなわち死後の世界もまた許容量が存在する。死者の魂を受け入れるのが常世の役割であるが、その広さは無限ではないのだ。ましてや、現世では人が生まれては死ぬことで増減することで人口のバランスを保つことができるものの、常世は現世から死者が送られてくることでその総量が増えはしても減ることはない。地上に生命が誕生して以来、地球よりはるかに広大に創られた常世も、いい加減に魂を受け入れられる限界に達していようとしていた。

 

 この状況を重く見た神々は、解決案の一つとしてある方策を実行し始めた。それは、新たに異界を作り出し、その異界を常世の代わりとして死者の魂を送り出し、そこで新たな生を歩ませることだ。しかし、人の世から幻想と神秘の薄れた時代にあっては、神々もゼロから完全な異界を生み出すことは難しい。そのため、神々は人間たちが生み出した数多の物語を許に異界を形成することにした。物語という一種の幻想を基礎にすれば、かつて夢と現の境が曖昧だった時代には及ばずとも神々も力を行使しやすいためである。

 

 しかし、物語の世界、特に神々が創造主としての力を行使できるほどに幻想が現世と比べて濃いそれらは、往々にして平和とは程遠いものだ。そんな世界で新たな人生を歩めと言われ、受け入れられる者は多くない。そこで、神々は物語の世界へ行く者たちに対して、なんらかの恩恵を与えることにした。それは、ある時はほかの物語で使われる武具や能力であり、ある時は人外の域に達するほどの肉体や頭脳であり、ある時は誰もが心奪われる絶世の美貌であるなど、望む者によって様々だが、何らかの形で通常よりその世界で優位に立ち得るものだ。そして、その恩恵を受けた者たちは、喜び勇んで物語を模した異世界で新しい人生へと足を踏み出すのである。その先がどうなるかは、それこそ人それぞれではあるとしても。

 

 そして、今日もまた新たな死者が、神々の手で物語の世界へ転生する準備を進めていた。

 

「えーと、ではご希望をまとめます。行先は“ハイスクールD×D”の世界、恩恵はベース物語の主人公と同年代に生まれて“白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)”所持者になることと、登場人物というかベース物語の主人公“兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)”からその最大の武器である“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を抜き取り、同じく登場人物でありベース物語において“白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)”本来の所持者である“ヴァーリ・ルシファー”に与える、ですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

 死者を異界へ送る任を担当する白い巻き毛の女神が、死者の希望を復唱し確認を取った。高校生ほどの年齢らしき死者の少年は、それにいやらしい笑みを浮かべて答える。

 

「しかし、随分変わった恩恵を希望されますね? ベース物語と、まるで歴史の進み方が変わりそうですよ、これ」

 

「いいんだよ、変態主人公がハーレムつくる歴史なんかよりも、よっぽどまともな歴史を作ってやるさ」

 

「はあ……ちなみに、ベース物語のライバルの武器を本来と入れ替えたのは何でです?」

 

「決まってるだろ? ただ自分だけ強くなる“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”より、相手を弱くできてしかも自分が相手を弱らせた分強くなれる“白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)”の方が使い勝手はいいし、やっぱり強いライバルがいた方が物語が華々しくなるからな!」

 

「はあ……まあ、解りました。それでは少々お待ちください」

 

 言って、女神は背後に設置された棚へと向かい、「は行」と記された段から“ハイスクールD×D”と銘打ってある試験管立てを取り出す。そこに立てられている、コルク栓で閉じられた無数の細長い試験管、その一本一本が“ハイスクールD×D”という物語を模倣して創造された異界なのである。女神はその内の1本を抜き取ると、人の耳には聞き取れない言語で呪文を唱えた。途端、試験管が仄かに発光し、死者の希望の通りに世界の様相が書き換わったことを告げる。

 

「これで、この世界に貴方の魂が入り込めば、貴方の希望通りの状態で貴方の新しい人生が始まります」

 

「やっとか、待ちくたびれたぜ!」

 

 にやける死者の少年の方へ戻ってくると、女神は手にした試験管の栓を抜いてその口を少年へと向けた。

 

「それでは、貴方の新たな門出に幸多からんことを」

 

「おう、行ってくるぜ!」

 

 言い終わるが早いか、死者は試験管の中へと吸い込まれていき、やがてその身は完全に異界へと消える。それを確認すると、女神は試験管の栓を締め直し、軽く伸びをした。

 

「んー、今回の死者さんは本来の歴史を相当引っ掻き回しそうですね。これは不幸になる人がかなり出ちゃいそうだなー、可哀想に」

 

 他人事のように言いながら女神は試験管を戻すため再び棚の方へと歩み寄る。

 

「あ。もう、誰? は行の段にな行の世界置いたのは」

 

 そして、試験管を挿しこんでいる途中で、“ハイスクールD×D”の試験管立ての隣に“熱血最強ゴウザウラー”の試験管立てが置いてあることに気づいた。

 

「まったく。上の神様にもし今見つかったら、怒られるの今日担当の私になっちゃうじゃないの」

 

 ぼやきながら、女神はその試験管立てをな行の棚に戻そうとした。うっかり、先程の試験管を手に持ったままで。

 

「あ」

 

 そして、さらにうっかり、その“ハイスクールD×D”の世界の試験管を、“熱血最強ゴウザウラー”の世界の試験管の1本とぶつけてしまった。すると、ぶつけられた“ゴウザウラー”の試験管が仄かに光り、その光が“D×D”の試験管に移り込んでいく。

 

「こ、これ!? もしかしてこの世界の要素が何かこっちに移っちゃった!?」

 

 口に出してから、女神は“熱血最強ゴウザウラー”はシリーズ系の物語であることを思い出す。弾かれたようにか行、さ行の段へと目を向けると、同じ“エルドランシリーズ”に属する“絶対無敵ライジンオー”、“元気爆発ガンバルガー”の世界の試験管立てから、1本ずつ光が漏れているのが見て取れた。やはり同じシリーズである“完全勝利ダイテイオー”には変化がないためこの世界からは何も移っていないようだが、3つもの世界から何らかの要素が移ってしまっている時点で大問題である。女神は急ぎ何が移ってしまったのかを確認し、絶句した。

 

 移った要素は、“絶対無敵ライジンオー”からは“破壊帝王ジャークサタン”のクリスタル、“元気爆発ガンバルガー”からは“暗黒魔王ゴクアーク”(最終決戦時)の魔力、“熱血最強ゴウザウラー”からは“機械王エンジン王”の魂の3つだったのである。

 

 それを知った女神は顔面蒼白になる。ジャークサタンとエンジン王はまだいい、こちらも色々危ないかもしれないがゴクアークと比べればまだいい、というよりもゴクアークがまずすぎる。なにせ、ゴクアークは地球をあっさりと粉々にし、水星と金星をガンバルガーへの攻撃のついでで破壊するほどのパワーの持ち主だ。『ハイスクールD×D』もとんでもない能力の持ち主が揃っているが、それでも惑星破壊を片手間でできるゴクアークは規格外の部類だろう。そんな存在の魔力が入り込んでしまうなんて事態、どうなることか想像もつかない。

 

「“ハイスクールD×D”の世界って魔王がいましたよねー、ゴクアークは大魔王だから大のついてるゴクアークの方がやっぱり偉いんですかねー、って違う! 違うでしょ私!」

 

 思わず現実逃避していると、我に返った女神はこの後すべきことを考えた。ヒヤリハット、という言葉がある。重大な事故や災害に発展しかねないミスやハプニングの発見に関する用語であり、今がまさしくそれに該当するだろう。これは、間違いなく上司である神に報告し、指示を仰いでしかるべき状況だ。

 

「よし!」

 

 覚悟を決めた女神は気合を入れなおし、その場を後にする。そして、本日の報告書に「“ハイスクールD×D”に送った死者某氏は有望そうであったため、サービスとして“エルドランシリーズ”の要素を何点か“ハイスクールD×D”に追加するという要望も追加で叶えた」と記述するのだった。

 

 

 

 本来の歴史であれば、その胎児には赤い龍が宿るはずだった。しかし、それは本来の流れを望まぬ者の手で阻まれてしまった。そのため、その子には赤い龍を受け入れるはずだった空白ができてしまう。そこへ、本来別の世界のものだったはずの要素がこの世界へ流れ込んできた時、その空白へと収まってしまった。

 

 5次元の技術で作り出された戦闘ロボット、大魔界の支配者である大魔王、幾多の星々を機械化してきた機械王、三者の力をその身に宿した時、その運命はどのような流れをたどるのか、それを背負うことになった胎児は未だ産まれてすらいない。




~ガンバルガー最終回視聴中~
ゴクアーク「もう容赦はせん! 今すぐに地球を、バラバラにしてくれるわぁっ!」
視聴者「あ、これ途中で阻止されるな」
~約15秒後~
鷹介「ち、地球がバラバラになっちゃったー!」
視聴者「」

2017年02月08日 前書きと後書きの追加、「破壊帝王ジャークサタンの機体」を「“破壊帝王ジャークサタン”のクリスタル」に修正、他微細な修正

2017年02月27日 後書き冒頭に「~ガンバルガー最終回視聴中~」の一文追加、他微細な修正

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