ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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第三次世界大戦6

___血の匂い

___火薬の匂い

___波の揺れ

___発砲音

この世の地獄がここにはあった。

また1人、血を流し倒れる。仲間はもういない。隣にいるのは、そこに付いてるはずの右腕が無くなり、左手でデザートイーグルを撃つジルと脇腹と右脚から血を流すジークがいた。

火乃香達を先に送り、殿を続けて約10分。楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)から弾薬を回収しながら継戦していた2人だったが、ふとある時、右脚に銃弾を受けたジークが倒れこみ、ブレードを持ったヘイヴンソルジャーの斬り込みから防ぐため、ジルが右腕を犠牲にしながら最深部へ続く扉の方へ逃げていった。

「……すまない…ジル…」

「隊長達はもう到着した頃だろーよ…」

「そうだな…」

「弾は?」

ジルはもう手元に弾は残っていないことを知っていて、ジークに聞いた。

「もう手元に無い…グレネードならある…」

「自爆してでも…足止めするってか?」

「カミカゼ…か……彼らは国に忠を尽くす為に…死んでいったらしい」

ジリジリとヘイヴンソルジャー達が寄ってくる。

「俺たちは…何に忠を尽くしていると思う…?ジル…?」

「さぁ……な…唯、言えるのは……自分だ…」

「自分に忠を尽くす…か…」

「あぁ…」

「ならやることは決まったな」

「やるのか?」

「ここで…何もしなかったら……唯、無惨に殺されるだけだ…なら…同じ命を落とすくらいなら…1人でも…多く道連れにして…隊長達がやりやすいようにしなければ…な…」

「分かった…」

ヘイヴンソルジャーがP90を構えながら、扉へ近づこうとする。人数はざっと8人ほど。

そして、8人のヘイヴンソルジャーが2人の隠れる物陰に足を踏み入れた瞬間、2つの爆発音が、ルームに響いた。

 

 

____________________________

火乃香は今、リフトで最上階に登り、辺りを見回していた。よく晴れた空だ。雲ひとつない…というのは嘘になる。飛行機雲やミサイルによってできた雲が空一面に広がっていた。オレンジ色の西日が甲板最上部を照らし、反射する。

甲板最上部の面積はおよそ60㎡ほど。縦の方が長い。四隅には支柱が立ち、その頂上にはアンテナが伸びていた。

大和とミズーリが両舷に展開し、目下では突入してきた米海兵隊の特殊部隊SEALsとCFFがJAMと銃撃戦を繰り広げていた。

発砲音はよく聞こえない。まるでここだけが時間と空間が切り離されているかのようだった。

_______コツン_____コツン_______

右前方の柱から足音と共に人影が現れた。青いサイボーグに身を包んだ霞___否、蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)だった。

「お前は天童火乃香だ」

「お前が天童霞だ」

どこかで聞いたようなフレーズのやり取りをし、火乃香と霞は互いに睨み合う。

火乃香は左目の痛みを感じ始めていた。

「その傷でよくここまでこようと思ったな。…さて、お前は俺に勝てると思うか?」

「知らないね」

「お前は学習しないな。なぜ俺をそこまで殺そうとする?あの時お前の復讐心を砕いたつもりだ。なぜそこまで執着しようとする」

「………さぁな…でもな…俺はあんたを殺さなくちゃいけないと思っている」

「ほう…それは義務だからか」

「そうだ」

「俺はあの時、復讐のためにお前を殺そうと躍起だっていた。だけど今は違う。殺さなきゃならない、殺さなければならないから殺す。お前があの時真実を暴露した瞬間俺にあった全ての理由が消えた。そして残ったのはただ殺さなければならないという義務に従った感情だけだった」

「つまり?」

「俺は義務に忠を尽くす。何者も寄せ付けず、ただひたすら孤独にあり続けるその義務に忠を尽くす」

「そうか」

「あんたをここで始末する。世界平和とか人類の救済とかそんなもんは後回しだ!今ここでお前の首をそぎ落としてやる!!」

火乃香は刃刀を抜き、霞に肉薄し、霞もまた銀龍を抜き防ぐ。愚直なまでの剣筋だった。一撃一撃が重い。銀色に輝く刀身が夕日を反射し煌めく。

お互い刀に血を刷り込ませ、刀が血を吸い取り、その刀身に宿る力と鋭さが増していく。

鍔迫り合いだけでなく、体術も存分に使い、またハンドガンやグレネードを使いながら戦闘を進めていく。

お互いハンドガンの弾を避けず、手に持つ刀で真っ二つに斬り、グレネードの破片も全て刀で防ぐ。

サイボーグを少しずつ、火乃香は破壊していく。

火乃香にとって3度目の正直だった。肉薄し続けた火乃香は思い立ったかのように後ろへ後退し、ハンドガンを取り出し地面へ向けて引き金を引いた。その瞬間甲高い音と共に霞の持つ銀龍が弾き飛ばされ、隅へと滑るように転がっていく。

「…腕を上げたか」

「違う。俺は迷っていた。だけどそれが今はない」

「なるほど」

霞はサイボーグを脱いだ。下は黒のBDU、上は(ネイキッド)だった。拳を固く握り締め、構えだした。火乃香もまた霞と同じように構える。野戦服ならば火乃香も脱いでいたがスニーキングスーツであったため動きに制限がかからない。

互いの拳が交差し、顔面に強烈なストレートが入る。2人は2、3歩後退し、今度は顳顬にめがけて蹴りを入れるが霞も同じように蹴りを入れてきた為に、互いに蹴りを防いだ状態となる。その後もしばらく同じ様に攻撃を繰り出し、そして近接格闘に持ち込んでいく。

眉間にめがけ掌底をくらわせ、関節を集中的に痛めつけようとする。

2人はがむしゃらだった。格闘の基本なんてものを棄て去りただひたすらに拳をぶつけていく。更に、眼帯の紐が切れ、縦に縫合された瞼が露わになりながらも、火乃香は霞に肉薄する。指の関節が変な方向に折れ、それを無理やり戻す。殴り合って約15分、お互い息を乱しながらそれでも睨みつける。

大和のスピーカーからは降伏勧告が流れる。

あぁ___雷電…やったのか…

火乃香はそう思った。あとは目の前にいる此奴()を殺すだけだった

一旦息を整え、休憩した為に火乃香は冷静さを取り戻した。

第二ラウンドのコングが鳴った。

先ほどとは違い、綺麗な戦闘だった。体術を使いながら攻撃をいなしていく。霞が火乃香を投げ飛ばし、首を絞めてくる。意識が遠のいていく最中、突然視界が開けたと思った次の瞬間には眉間に強烈な痛みが走った。

「気を失っている暇があるのか?!」

霞が初めて声を荒げた。

そこから五分ほど経過し、2人の顔には痣ができ、足を引きずりながらにじり寄っていく。

もう体力の限界はとうに過ぎていた。火乃香は最後の力を振り絞り霞の顔面に拳を叩きつけた。

霞は後ろへ倒れこみ、起き上がってこようとしたが、体がふらつきそのまま力尽きた。

「俺の負けか…」

「あぁ…負けだ」

「なら…勝者が…やるべきことは……ただ一つ…俺を殺せ…。銀龍で…」

火乃香がふらつく体に鞭を打ち端に転がっていた太刀を手にし、ゆっくりと霞の近くへ寄る。

「…火乃香…最後まで兄らしいことをしてやれなかったな…。今になって…ようやく気がついた…俺は……もっと上手く立ち回れたんじゃないか…って…。全ての悪意を……天童家を俺に向け…お前を隠そうとしていた…。だけど…俺が死ねばお前の存在が…露わになる…。そうなれば……どうなるかわからない…。敗者は死をもって闘争の輪から抜けることができる…死をもって救われる…。人を殺すことも無くなる…。だけど…生き残った勝者は…また次の闘争へと身を委ねることになる…永遠に…己が朽ち果てるまで…。この地獄から抜けることができない……。天童家は強い……。お前では…太刀打ちできないかもしれないぞ…」

「それでも俺は義務に忠を誓った」

「お前のその誓いが…身を滅ぼさなければいい…な…っ…そろそろ…時間だ…俺を殺せ!」

ほのかはゆっくりと立ち上がり剣先を心臓部に合わせ、そして、一息に心臓を貫いた。肉を裂き、サクリと手応えを感じた。肉をえぐるような感覚ではない。まるでスポンジケーキにフォークを突き立てたような感触が手に伝わる。絶対に忘れてはいけない感触。絶対に忘れてはいけない感情。

今ここに、10年間追い続けてきた敵が死んだ。そして、仇であると同時に唯一の家族を失ったのだった。

人は生きるたびに何かを失っている。それでも明日へと向かい進む。出会いと別れは同じ数だけ存在する。しかし不幸な兄妹(ジャックとリズ)すれ違った兄弟(霞と火乃香)は失いすぎた。互いに唯一の肉親を失い、後に残ったのは虚無感だけだった。

すれ違い、誰かの助けを拒み続けた結果の先に待ち受けていたのは不器用すぎた別れ。

そして、火乃香はもうすでに涙は枯れている。大切な人のために泣くことすらできなくなっていた。敵であり仇である霞とて、それでも血の繋がった兄であることには変わりない。

枯れ果てた心は永遠と枯れ続け、いずれは崩壊する。泣くことは弱さの象徴の他にも、枯れた心に新たな潤い(感情)を満たすことができる。

この先火乃香はどうなるのか?それは誰にもわからなかった。

薄れゆく意識の中で、最後に火乃香が感じ取ったのはヘリコプターのローター音だった。

 

 

 

 

 

 

__________________________

JAM壊滅から15時間後、火乃香達は先の戦争で戦死した第1特務隊のメンバーの水葬を行なっていた。

ケヴィン・ティラー 最終階級少佐

ジル・コナー 最終階級少佐

ジーク・フロー 最終階級少佐

いずれも二階級特進

 

生存者

天童火乃香 階級中佐

ジャック 階級中佐

クリス・ケイル階級大尉

ケイル大尉は左腕を失いつつも生還し、2人を最後まで支えてきた功績が讃えられ、生存者にして二階級特進を果たした。

「…この戦争で優秀な奴らがみんな死んだ」

「…………あいつらの犠牲があったからこそ俺たちはこうして任務を遂行できた」

「まさに部隊が壊滅してもチームは生き続ける…ですね」

「ジャック、クリス…俺たちはこの傷を負いながら、この傷を抱きながら戦場に出るんだ…」

登る朝日を背に水葬が終わった。

___________________

本部壊滅を知らされないまま侵攻してきたJAMの部隊によって絃神島は陥落寸前に追い込まれていた。

『こちら第三防衛区画!損害拡大!増援を要請する!』

沿岸警備隊(コーストガード)壊滅!特区警備隊(アイランドガード)被害甚大!』

絶望的な情報が耳に入ってくるたびに那月は戦線の立て直しを図ろうとするもジャムの進行が恐ろしく早く、どうにもできない。

絃神島には第四真祖はいるが、彼は学生ましてやその存在自体が秘匿されなければならない為、戦線へ出すことは避けるべきだ。

ヴァトラーに応援を頼むことは絶対にあってはならない。もしヴァトラーに応援を頼めば、さらに被害が拡大する。

島全体を守ることはもう不可能だった。

その為、那月は西とキーストーンゲートの守備に焦点を絞ることにした。

東区に多くの兵器を当てていた為に西と中央の戦力にはミサイルなどの兵器があまり配備されていない状態だった。

どんどん顔色が悪くなってくる那月を尻目に作戦会議は進んでいく。

その時、那月の携帯に電話が鳴った。

那月は一言断ってから会議室を出てその電話に出た。相手は暁古城だった。

『那月ちゃん!俺や姫柊が西区を防衛するから、アイランドガードは中央区と東区を!』

「馬鹿なことを言うな!学生にそんなことをさせられるか!」

『那月ちゃん…俺は火乃香みたいに戦場に身をおきつっ負けた人間じゃない…。だけど!それでも俺は今やらなきゃならないと思っている!この力をただ遊ばせてるだけじゃダメなんだ!』

「お前の正体が、藍葉や暁妹にバレるとしてもか?」

『あぁ!今やらなきゃ後悔する!俺は無力のまま誰かに守ってもらうだけの人生は嫌なんだ!』

那月は考えた。もしこれで古城を出せば、島の防衛は楽になる。しかしそれでいいのか?本当にそれで…。

『頼む_______』

 

西区某所___前方には多くの揚陸艇が西区に向け進行していた。その様子を嘲笑うかのように3人の影が立っていた。

疾く在れ(来やがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城が召喚した黄金の眷獣は、次々と前方に展開する上陸部隊を乗せた船を薙ぎ払っていく。

「なんだ?!」「吸血鬼か?!」「上陸した我々があいつを殺せば上陸を再開できる!」「見たところ素人だ!」

上陸部隊はたった1人の吸血鬼に銃口を構えた。

しかし、その指は引き金を引くことはなく、腕が次々に地面へと落ちていく。

「させません!」

「雪菜が協力するって言うから仕方なく協力してあげてるだけだからね!」

上陸部隊の阻止は獅子王機関の頼れるコンビが処理をしていたのだった。

 

 

________________ヴァンデンバーグ空軍基地地下滑走路

『雪風、ブースター接続』『カタパルトオンライン』『耐熱装甲接続』『ウェポンシステム接続』『高気圧依然として停滞中』『大気圏再突入進路計算終了』『パイロットバイタル正常』『人工電子演算システムTYPE-Xへのデータ入力完了』

『火乃香、もう一度伝える。糸神島は現在陥落寸前であり、第四真祖や現地で待機している獅子王機関などの尽力もあり、最も被害の出ているのは東区だ。よって雪風を東区に投入することとなる。絃神島には最新鋭のロケットブースターを使って宇宙(そら)を渡り移動する。ブースターの切り離しはそれぞれ3箇所。第1ブースターを点火してから約3分で高度1500km地点に到達、その後ブースターを切り離し第2ブースターでマッハ25まで加速しながら約5分間秒水平飛行しその後、冷却システムを起動しながら第3ブースターで大気圏へ再突入。高度33,000フィートで耐熱装甲とブースターを切り離し、空戦に参加することになる。この辺りは雪風が自動でやってくれるからお前は大気圏再突入した後のことと発進さえ意識していればいい』

後ろで機体の最終チェックをする声とともに稲垣の説明が聞こえてきた。火乃香はシステムチェックを済ませながら稲垣の説明を流しながら聞く。

絃神島が壊滅寸前という一報を受け、ロサンゼルスの緊急対策本部から国連軍特殊電子戦の本拠地に指定されたヴァンデンバーグ空軍基地に駐機している雪風の元へと移動し、現在、最新鋭ロケットブースターを用いて宇宙を渡り約9000km離れた絃神島へと移動しようというのだ。

航空機による平均フライト時間はおよそ10時間だがこの方法だと11分ほどで絃神島に到着するということになる。

有人飛行でマッハ25を飛行するなど正気の沙汰ではないと心の中で戦々恐々しながらも平常心を保ち続けなければならなかった。意識が飛ぶかもしれない。そう覚悟しながらOSが立ち上がるのをかくにんしし発進の合図が出るのを待っていた。

『進路クリア、全システムオールグリン、ホノカ・テンドウ、雪風発進どうぞ』

上から順にTHROTTLE、BRAKES、CATAPULTのそれぞれがCLEARの文字に変化し、発進を知らせてくる。

火乃香はブースター点火ボタンを押す。その瞬間今までに感じたことのないほど後ろに引っ張られる感覚が襲ってくる。およそ2キロメートルある地下滑走路はたった10秒足らずで走りきり、大空へと吐き出した。

「雪風ブースター点火を確認。カウント始めます1、2、3」

「風向、風力、気圧、気温それぞれ問題なし」

「ブースター温度上昇中。予定通りです」

「現在雪風高度650km未だ上昇中」

「……176、177、178、179180」

「雪風第一ブースター切り離し…成功。水平飛行に入ります」

「第2ブースター点火を確認」

「速度マッハ18」

次々と雪風の情報が入ってくるのだった。

______________

「くっ…意外ときつい…!意識が飛びそう…」

『耐えてください中佐』

「う…るさ…い…!あとどれくらいで再突入だ…?」

「予定ではあと6分ほどです。現在の速度はマッハ21』

「…やばっ…もう無理…吐きそう…!」

『堪えてください!中佐!』

宇宙(そら)では人間と人工知能によるコミカルな漫才が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー発射まで45時間

ワームクラスター侵食率85%




最後の方はガンダム種死でキラがストライクブースターで宇宙に出て行くところをイメージしました。
最初は色々と計算してやっていたんですけど途中で「あ、これ計算めんどくせぇ。つか俺、文系だし、高校の時は物理を専攻していたわけじゃないし」って事でめんどくさくなってやめました。ですから色々と物理的に無理はありますけどそこは創作物としてみてくれれば幸いです。

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