ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 作:ソードダンサー
ss書き始めて一年かー。
長いなぁ…。最初はすぐにやめるかなって思ってたけどなんやかんやで続いたなぁ
これも皆さまが読んでくださってるというモチベーションがあったから続けられてきたのかもしれません!
でも…作品の感想とか欲しいとは思っちゃいますね(´・ω・`)
ウーーーーン
Jアラートがテレビや夏音たちのスマホから鳴り出し、JAMの一斉攻撃が始まった。通常ならば、頑丈な建物の中に入ったり、避難所に避難するだろう。しかし、ここは絃神島、魔族特区だ。元から、こういった被害が出ることを想定し、建物が作られている。下手に外へ出ると逆に危険だ。まして夏音達がいる建物は南宮那月の所有するマンションなわけで、様々な結界が張られているため、なおさら避難する必要がないのだ。
多くのミサイル群と戦闘機が絃神島に急襲を仕掛けてくる。
「ついに始まりましたか…どうしたのですか?夏音?」
「不安なんです…。火乃香さんが…無事に救助されたって稲垣さんから連絡がありました。でも火乃香さんからは何も…声すら聞けてない…」
「夏音…大丈夫です…火乃香は絶対に私たちを…置いて消えてしまうなんてことありません」
外から迎撃用のミサイルや、爆発音が聞こえる中、マンションの一室は異常に静かな空間だった。まるでこの空間だけが切り取られたかのように。
テレビから緊急特番が組まれ続け、本土の戦闘情報が流れ続けていた。
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扉を開き、中に入るアルマース隊。
中は見事なまでに静かで、白のタイルが張り巡らされ、十字路で形成された空間だった。
前方にはマイクロ波の通路を塞ぐ扉とアーセナルギア最上部に繋がる貨物用のエレベーターだけだった。
「アルス1、ここからは別行動だな」
「あぁ…雷電、気を付けろよ」
「わかっている。お前こそ死ぬなよ」
「2人とも、本当に気をつけてください。あなた方が失敗すれば…わかってますね?」
「あぁ」
「アルス2もいいですよね?」
「司令官からの命令では俺たちもアルス1の援護だったが…これはお前の手でおわらてこそ意味がある…それに、ちょうどお客さんが来たらしい」
左右通路からヘイヴンソルジャーが突入して来た。彼女らは刀を持ちジリジリと迫り寄ってくる。
「2人ともいってください!」
「ここは俺たちで抑えてる!お前らはそれぞれの決着をつけろ!」
「「わかった」」
「行くぞ雷電」
「あぁ」
2人はそれぞれしかるべき場所へと進んでいった。
「さて、大尉」
「あぁ」
「「ここから先に行きたければ俺たちの屍を超えていけ!!」」
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全長およそ30メートル弱、一歩一歩が非常に重く、また体を少しづつ焦がしてゆく。
いくら体は機械だからと言って、生身の部分が無いわけではない。
雷電はその唯一生身の部分がヒリヒリと痛むのを必死にこらえている。
ぼやけた視界を必死にこらしながら、壁から流れる電流に触らぬよう慎重にまっすぐ進んで行く。
足の筋肉はボロボロになり、膝から崩れ落ちて尚、這いつくばって前へ進む。
放漫な人間が見れば今の雷電は無様だ。
1メートルずつゆっくりと前へと進む。
そして無限にも思えた地獄の時間も終わりが見えてくる。
マイクロ波の流れる通路を抜け出したのだ。
体から蒸気が立ち上り、立つことを困難にさせるほど体力を奪っていた。体は急速に冷え、ぼやけた視界がクリアになっていく。
「ハァ…ハァ…。こちら雷電…HQ聞こえるか?」
『こちらHQ、無事にたどり着けたんだな?!』
「…あぁ…もう少しで本体とご対面だ…。目の前にある頑丈な扉を開けてくれないか?」
『わかった…デバイスをパネルにかざせ』
雷電はゆっくりと立ち上がり腕に巻きつけられたデバイスをコントロールパネルにかざした。
ゆっくりと重たい扉が開き、光が漏れ出して行く。
中に入るとそこはまるで墓地のようだった。
一面に紫色のシオンの花が咲き乱れていた。
その中に、規則正しく墓標のように埋まっているスーパーコンピュータとその中央には中枢システムが設置されていた。
ゆっくりとデバイスを中枢システムに近づける。オタコンたちが一斉にキーボードを操作し出すのが音でわかる。インストールがものの数秒で完了し、あとは効果を発揮するだけとなった。
……コツン……コツン……
足音が聞こえてくる。後ろをゆっくりと振り向いた雷電は気配を消していたサイボーグを着込んだ兵士を見る。
体つきや歩き方からして女だった。
その兵士はゆっくりとマスクを外す。
「お前は…誰だ…?」
「酷いね…兄さん…折角一緒になれたのにまた逃げて…私まで忘れちゃうなんて」
「…!」
超高周波ブレードを抜き、女は構える。
雷電もまた刀を抜き構える。
「ねぇ…なんで逃げたの?ジャック?」
「…俺には世界を敵に回した家族よりも共に戦い抜いてきた仲間たちがいる…リズ…」
「妹より仲間なんだ…やっぱり霞が言った通りだった…。私達も貴方達に譲歩することはできない」
「世界を敵に回すならその前に俺の屍を超えていけ」
雷電は自分でも臭いセリフだとは思ったが、このまま奇行に走らせるわけにはいかない。右脚で地面を蹴り、リズの体に刃を突き刺すため、肉薄する。
激しい斬撃を繰り返しては死角をつくように斬り込みを変えて行く。
お互いに激しい攻防が続く。
剣の速さはすでに肉眼では捉えることすら難しくなっていた。しかし雷電とリズにとっては斬撃が速くなればなるほど神経が研ぎ澄まされ、時の流れが、刀と刀がぶつかるたび耳に障る金属音が聞こえなくなってゆく。
どちらともなく、息が上がり、聴覚と視覚が鋭くなり、余計な情報をシャットアウトしてくれる。アドレナリンが大量に放出され、先程まで、マイクロ波のなかを突破してきた人間とは思えないほどの運動能力を見せつける。
そして数刻後、雷電はリズの刀を右腕ごと斬り、その流れで腹部に刀を突き刺し、勝負がついた。
「お…にぃ…ちゃん…」
「リズ…」
「私、淋しかった…。12年前…朝…目がさめると…お兄ちゃんが…何処かへ消え……て…しまったあの朝…」
それは雷電にとって今までずっと閉ざしきっていた過去だった。ジャックとリズが生まれ育った場所は常に内戦が絶えない地域だった。とは言っても彼らの両親は政府軍の重鎮だったため戦時中にもかかわらず、安全な後方で何不自由なく生活することができた。しかし、国連軍とイスラム教過激派の代表、アルカイダ系武装テロ組織イスラム国の進撃が、国連軍の分厚い防御陣地が突破され、彼らの住む首都にまで迫った。
家は砲撃で破壊され、ISの戦闘員が軍人、民間人、老若男女問わず虐殺し尽くした。その被害者の中に彼らの両親がいた。2人は所謂難民になってしまった。食べたいものを食べることができ、やりたいことをすぐに実行できたあの日までの戦争とは程遠い平和な日常があっさりと瓦解し、その日その日の食べるものを確保するのに必死になり、ゴミ溜めを漁り、腐っていようと構わず口にした。夜は体を寄せ合い、寒さをしのぎ、泥水をすすりながら生きていた。
そんなある日の朝だった。
リズが朝目を覚ますと、隣で寝ている兄の姿が見当たらなかった。
兄を見つけるため彼女は必死に周りを探したが、どこにもいなかった。なぜならジャックは、リズが寝静まった後、いつも朝食べる分の食料を調達するため、歩き回っていたから。
しかし、彼は食料を探している最中、国連軍に所属していた稲垣に救出されていたから。
そんな事情も知らずただただ歩き続けた。
そして探すこと5日、元々体力があまりなかったリズはその場に倒れこんで気絶してしまった。そして世界規模の軍事力をつける前のJAMに拾われ、2人は互いに敵同士となってしまった。
「一緒に…わた…し……は…ただ…いっ………しょに…居たかっただけ…。でも…私…これでも…しあ…わ…せ、なんだよ?」
「リズ…」
「おにぃ…ちゃん…の腕の…なか…で、死ぬ…ことが…できる…から」
出血によって顔が青白くなっている。喋るのも辛いというのに、彼女は微笑んだ。
ジャックの頬に、涙が一筋流れ、リズの頬に落ちると同時に、ジャックが握っていたリズの手は力なく落ちた。
_______ありがと、さよなら。先にお父様とお母様のところで、待ってるね_______
そんな声が聞こえてきた気がした。