ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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第三次世界大戦4

18時間後、火乃香を中心に特務隊のメンバーが後部甲板に向け歩いていた。その様子は映画のワンシーンを彷彿とさせるようなものだ。歩けば周りの乗組員達は海軍式の敬礼をし、道を開けた。歩くこと2分程度、後部甲板には4機のオスプレイと6機のカタパルトが装着されていた。作戦決行まで其々に割り振られたポジションで待機していると、彼らの耳小骨に内蔵されたマイクから稲垣総司令の訓示が聞こえてくる。

『10年前に起きた欧州の悪夢から始まり、強大な軍事力を前に我々は幾度となく煮え湯を飲まされつづけた!しかし!各国政府は同胞の平和だけでなく!世界平和を掲げテロに抵抗しようとしている!本作戦は多くの犠牲の上に成り立っている!奴らに核を!衛星を!撃たせてはならない!本作戦の成否は一重に諸君らの勇気ある行動によって決定する!以上を持って訓示とする!』

総司令の力強い訓示によって、彼らの闘志は静かに燃えている。

作戦目標は敵上陸部隊の破壊、システムの破壊、敵総大将天童霞の排除だ。まず第1特務隊がカタパルトで浮上し、防壁を開いたアーセナルギア内部に直接乗り込み、LZを確保、第2特務隊以下はオスプレイでヘリボーン降下を行い、其々の作戦目標を達成するというものだ。

『12時の方向、艦影…アーセナルギアです。距離、25000。第三艦隊及びミズーリ、確認、交戦を開始しています』

『アーセナルギアよりミサイル発射を確認ハープーンです』

『最大戦速、対空、水上戦闘用意。CIC指示の目標』

『All station All SAM』

艦内にけたたましくベルが鳴り響き、鋼鉄の砲塔が旋回しだした。

艦首に設置されているVLSが一斉に火を噴き出し、対艦ミサイルがアーセナルギアへまっすぐと向かって突っ込んで行った。46糎砲の衝撃波から機体を守る為の防壁が後部ハッチに新たに装着されているため、史実ではほとんどその出番がないまま終わってしまったその砲塔は今や惜しげも無く三式弾や徹甲弾が打ち出されている。主砲を発射するたびに、水面が波打ち、船が揺れ、肝が潰れるほどの振動が伝わる。

『距離18000。各員、所定の位置にて待機せよ。第1特務隊はカタパルトに搭乗せよ』

「泣いても笑ってもこれが最後だ。俺たちが失敗すれば全てが火の海になる」

「絶望と仲良くしようじゃないか!気楽さが肝心だぜ隊長さん」

「まぁ初手で盛大にすっ転ぶとか世界の笑い話になるな」

「およ?これ中継してんの?」

「らしいですよ。特殊電子戦が高高度から撮影してるとかなんとかで」

「命知らずだな」

火乃香がいい感じに緊張感を出そうとしてもすぐこれだ。第1特務隊は変り者が多いが、そもそも原因はジルの能天気さ加減なのだ。

しかし、案外これがいいのかもしれない。下手に気を引き締めるよりも上手く動ける。

「かっこ悪いところ見せられませんねぇ。天童少佐?」

「何が言いたい?」

「いや二つほど意味がありまして…俺たちの存在がついに陽の光を浴びるというのにかっこ悪いところを見せることはできない。

あなたはテレビでこの状況を見守っているかもしれないガールフレンドにかっこ悪いところを見せられない」

「…作戦が終了したら覚えておけよケイル少尉」

「……了解です」

『第1特務隊、スタンバイ』

その通信と同時に大和がアーセナルギアに船体を擦り付けながら船尾を潜入ポイントまで近づけて行く。

大きく船体が軋みながら進み続ける。上空では戦闘機がドッグファイトを繰り広げている。周りにはイージス艦がアーセナルギアを囲むように陣形を組み直そうとしている。潜入するにあたり、大和は無防備となる。そこをミズーリが援護する形で砲撃を繰り広げる。

6人がカタパルトにまたがり、ストックを握りしめ体とカタパルトをギリギリまで近づける。

『大和、アーセナルギアに接触を確認。カタパルト異常なし、コース異常なし、戦闘要員異常なし…システム、オールグリーン。第1特務隊、出撃、どうぞ』

「「「「「「第1特務隊、出る」」」」」」

管制から出撃許可が下り、彼らのミッションが始まった。

ストックに付随するレバーを握りしめた瞬間、体が一気に宙に向け押し出され、そして飛んだ。

腰からワイヤーガンを取り出し、手頃な高さの壁にアンカーショットを刺し、船内に潜入した。

内部は完全に迷路になっており、強化兵部隊が出迎えてきた。

「コンタクト!12時軽機6」

「8時アサルト10」

「3時ショット4」

「火乃香どうする」

着てるのほぼ囲まれた状態だった。着地した位置が悪かったのだろう。しかし、この程度の戦力で世界最強と謳われた第1特務隊の足を止めることなどできるはずがなかった。

「俺とアルス2は8時アルス3、5は3時、雷電とアルス4は残りを」

『了解』

其々獲物を取り出し、標的を撃っていく。雷電は刀を抜き軽機関銃を持った部隊を翻弄しながら腕を切り落とし、アルス4の持つサブマシンガンで次々と胴体に風穴を開けていく。

火乃香達も交互にリロードしながら敵を殲滅し、数秒とかからずに追撃部隊を壊滅させた。

「状況報告!」

「12時クリア」「8時クリア」「3時クリア!」

「周囲に脅威なし、アルス2とアルス3、アルス5は対空機関砲の破壊を、残りはLZ周辺の完全制圧と拠点防御だ。其々ブラボーとヤンキーに分ける。小回りのきくアルス4はブラボーチームから通信が入り次第、作戦本部に連絡し、ここを確保し続けてくれ。雷電は6時の方向へ、俺は反対に行く。解散」

大雑把ではあるが的確に火乃香はメンバーに指示を出して行く。

戦場での作戦判断なんてこんなものだ。分隊長が大まかに分隊を分け、大雑把な指示を出し、あとは現場判断。彼らほどになればここまで説明もなくフィーリングだけでなんとかなるが絶対に失敗することの許されない作戦。念の為だ。

そして分隊が其々解散したところで火乃香達も役割に戻る。

コンテナを縦にしたくらいの大きさの壁や水密扉、窪みなど曲がり角が多く、敵と鉢合わせ内容慎重に進んで行く。

閉所戦闘では、障害物を盾に待ち伏せを行なったり出会い頭の白兵戦、更にはスタングレネードやスモークグレネードなどで視界を奪われないよう細心の注意を払いながら進んで行く。

現在火乃香はアサルトライフルを背中に回し、ハンドガンを構えている。入り組んだところではハンドガンの方が制圧力が高い。

約20秒ほどで約3人の敵を倒し周囲を制圧した。

その15秒後に、爆発音とと共にブラボーチームから対空機関砲の破壊を完了したと通信が入り、本部に突入部隊の投入を指示、1分もしないで、分隊と第2特務隊から第5特務隊を乗せたオスプレイがLZに到着し、アーセナル潜入部隊総勢26名が集合した。そのうち先ほど降下した部隊はすぐに上陸部隊を撃破するため、格納庫へ向かい、そしてまた、第1特務隊も、艦首側にある水密扉を開け、その先にあるエレベータでアーセナルギア内部に降りていった。

「意外とサクサク進んでるね〜」

「何か嫌な予感がする…ここまで警備が緩いと…」

「罠…ですか?」

「エレベータ出た瞬間目の前に赤外線が走ってたりして」

クククと笑いをこらえるお気楽なジルを尻目にジークは手に持っているP90を握りしめていた。

目的の階層に到着し、狭い通路では、ケヴィンが前でミニミを構えながら、後ろではクリスが後ろ歩きで周囲を警戒する。

そして歩くこと20メートルほど、あまり代わり映えのない自動ドアを抜けた瞬間部隊は円になり互いに背中を合わせながら部屋の中央へ寄った。

その部屋の中央にはホロググラムで映し出された地球儀とその地球儀を下から上へと階段状になった机と椅子が360度囲い全報告から中央を見落とすように設置され、さらに10メートルほど上には同じように座席が並んでいた。

入ってきた扉から直線に、アーセナルギア最深部につながる道を閉ざす扉が見えた。しかしジークの様子がどこかおかしい。

「…お前達は先に行け…俺はここで足止めをする…!」

急に立ち止まり、最深部へと続く通路の前に立ち、P90を構える。

何事かと5人はジークの方を振り返ると、二階から十数人の兵士が曲芸のように一階に降り立った。

「わー…なんかカエルみたいな動きだなぁ」

楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)か…」

ジルとジークは銃を構えだした。

「ここは押さえておくから早く行け!」

「大丈夫か?」

「あいつらの武装をよく見ろ俺と同じP90を使ってる。弾はあいつらから補給できる」

「…わかった死ぬなよ」

火乃香は先を急ぐことを決断した。

仲間を置いて行くのではないを信じて背中を任せるのだ。

4人(・・)は扉の向こうへと消えて行った。

「…ジル良かったのか?」

「別にー1人だと死体を漁ってる時にここ突破されるだろ?」

「背中は任せられそうだ」

「任せなって!」

2人は壁に隠れつつ頭を出した楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)の頭を撃ち抜いて行ったのだ。

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2人が最深部への唯一と思われる通路を死守している時、4人は異常に長い通路をただひたすら走っていた。

高さ15メートル、幅1メートルほどの金網でできた細い道だけが永遠と続いている。通路のある空間は恐ろしく大きく、幅20メートルほどある。壁の周りには様々な機械やエンジンが規則正しく設置され、機械音と機関音がゴーゴーとうるさくなっていた。

この道を通っている間、今までの出来事がフラッシュバックしてきた。

《こんな嵐の中ハインドを飛ばすなんてバカよね》

メイリンとの初めての通信が、霞のディスりから始まった。

《私の銃弾から12発以上逃れることのできた奴はこの世にいない。私は銃弾の声を聞くことができる。私の名はリボルバーオセロットだ。精々楽しませてくれよ国連の犬め!》

魔族や聖職者、霞を除き純粋な人間でいけば、だが、初めてゲームやアニメで言うボス戦と呼ぶ兵士はいい年した爺さんが厨二病を拗らせていたという非常に残念なものだった。

《来たな!ソードダンサー!ここが貴様の墓場だ!カラスたちが貴様の行動を見ている!荒ぶる大地が貴様を敵とみなしている!俺は執行者だ!異端児は俺が排除してやる!死ねぇ!》

対戦車砲などという便利な道具を持たずグレネードと身一つで戦車と渡り合った。もう一度やって見せろと言われてもおそらく次はできないだろう。

《…君もヲタクかい?》

初めはなんとも頼りなく貧弱な内部協力者だと思った。

しかし、彼の助言と協力がなければREXと対等にやり合う事も出来なかったし、島からの脱出は不可能だった。

《今わかった。誰かを殺す為に潜伏していたんじゃない。殺されるのを待っていたんだ。お前のような男に……お前は英雄だ。私を解放してくれる》

死闘を繰り広げ、過去の呪縛から解放さたいと願う1人の女性を火乃香は叶えた。

《俺があんたらを逃がすために村を焼き払い、本家の目をそらすからその隙に国境を渡りドイツへ逃げろとな…だけど2人は反対した。大切な息子に罪を背をわせることができなかったんだろうよ。だけどなぁ、あいつらの目的はお前だけだったみたいだ。お前の体に流れるその血は世界でも相当純度の高い霊力があるらしいからな。あいつらはそんなお前と逃げる前に持ち出した3本の刀の回収が目的だった。そんなお前を逃がすために俺たちは囮になったってわけだ。親父とお袋を殺すことによってお前が生き残ることは不可能だと錯覚させ、そして犯人である俺は一生逃げ続ける生活をする。全てはお前を生かすためにやったことだ。だが1つだけ誤算があったらしくさっきも言ったがJAMが同時期にテロを起こし、その対象に俺たちの暮らしていた村も含まれていて、俺が奴らに拾われた。これで衣食住と本家に対抗するための力、そして指名手配犯として注目を集めお前を影の中に隠すことができた》

ずっと憎しみ、その首を切ることしか考えていなかった兄が、自分を逃し、生かすために世界の憎しみを背負い、全て敵に回した。唯一の肉親の火乃香ですら裏切って。

《10年前に起きた欧州の悪夢から始まり、強大な軍事力を前に我々は幾度となく煮え湯を飲まされてきた。しかし!各国政府は同胞の平和のみならず!世界平和を掲げ、テロに抵抗しようとしている!本作戦は多くの犠牲の上に成り立っている!奴らに核を!衛星を!撃たせてはならない!本作戦の成否は一重に諸君らの勇気ある行動で決定する!以上を持って訓示とする!》

つい数時間前、大佐の訓示とその横で余裕の表情を見せる仲間たちの光景が何年も昔のように懐かしく脳裏に蘇る。

《ほ、火乃香…俺達は…消耗品だ道具なんだ…政府や組織の消耗品なんだ…。時代に翻弄され、弄ばれ続ける存在だ。人を殺し、泥水をすする様にその日その日を生き続けなければならない…!だけど…それでも俺は…常に誰かのために戦ってきた訳ではない…。どんなに命令されても…必ず自分の意思で戦ってきた…。戦う事から逃げずに向き合ってきた。火乃香…俺にはもう未来はない…だが…お前にはこの先を切り開く力がある…。ダイヤモンドの原石のように…輝く瞬間を待っている。今は泥だらけの只の石ころだ…だけど…絶望するな…お前には未来があるんだから…》

一度失い、そして敵同士で再開した戦友が命を張って守り、そして再び隣で戦う雷電。

たった一週間されど一週間。人生で最も地獄と言われるヘルウィークを超えた濃密な一週間だった。

しかしそれも今日、しかも数時間で終わる。どちらかの死をもって。

死ぬのはJAMか世界か。その戦の火蓋は、アーセナルギア最深部へとつながる最後の障壁となるマイクロ波が放射され続ける通路の入り口があるフロアを開ける最後の扉を開けた瞬間から決定する。

 

 

 

 

 

_____さぁ、始めよう血に塗れた最終決戦(ラストダンス)

 

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー次弾発射まで残り65時間

システムクラッキング50%


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