ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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第三次世界大戦3

第3ブリーフィングルーム。

そこそこ大きな会議室だ。収容人数はざっと100人ほど。そのうち約半分程度しか席が埋まっていなかった。殆どが特務隊だ。特務隊はそれぞれの分隊毎に着席していた。第1特務隊は雷電を含め現在6人。一個分隊に5人ずつの特務隊としては異常だ。そんな彼らはスクリーンの真ん中2列を陣取り一列開けてそれぞれの分隊のメンバーが座っていた。天井からプロジェクターがぶら下がっており、スクリーンに映像が映し出される。その横に彼らの指揮官である稲垣隼人が立っていた。

「第三艦隊、本隊、先遣隊がそれぞれ交戦を開始したという情報がリンク16経由でこちらに伝達された。JAMはまだ西海岸に上陸していない」

「たいさーしつもーん」

ジル・コナー。階級は中尉コードネームはアルマース5。普段は飄々としているが彼も特務隊の端くれなだけあって狙撃の腕だけでいけば世界で3本の指に入るぐらいの腕前で、それはどんな不安定な場所でどんなに小さな的でも中央をきっちり撃ち抜くほどだ。

「なんだコナー中尉」

「持ってどれくらいなの?」

「まだわからない。一応こちらの艦艇を一隻派遣しているし、第6特務隊から10隊を寄越したから暫くは持つだろう」

「稲垣、俺は最近のことはよくわからないが、この船といい派遣した船…ミズーリだったか?あれの他に海上戦力はあるのか?」

「悪いがまともにアーセナルと殺り合う戦力は大和(これ)ミズーリ(あれ)しかない」

「空母や潜水艦はどうなんだ?この下で潜ってるだろ?」

「天童少佐忘れてもらっては困るがあの二隻はアメリカからレンタルしているから純粋にうちの戦力としては数えられない」

「つまり海上戦力は大和とミズーリ、航空戦力は電子戦隊だけだと?それに対して奴らはアーセナルギアだとかよくわからんどでかい要塞と何万といる歩兵戦力に戦車やうちの保有する異次元航空機よりもさらに高性能な航空戦力を何機も保有していると?極め付けに核兵器とワームホールドライバー…これではまるでワニに兎が挑むようなものだ」

「冷静な解説ありがとーティラー大尉」

「おちゃらけた口を聞いていられるのも今のうちだコナー中尉」

「あんたはいつもいつも頭が硬いんだよ!もっと楽観的にいこーや!」

冷静な戦力分析を行ったのは脳筋とバカばかりの第一特務隊唯一の頭脳ケヴィン・ティラー大尉だった。ジルや火乃香のように見た目ひょろひょろもやし小僧とは違い、絵に描いたようなこれぞ特殊部隊!これぞ傭兵!兵士!というレベルの筋肉マッチョな男だが、この部隊のメンバーは皆どこかで踏み外したのか、こういったいかにも脳筋そうな人に限って部隊の頭脳と言うべきポジションについている。

彼の説明からわかるように火乃香は意外にも頭より体の方が先に動く脳筋タイプだ。決してバカというわけではないのだが、卓越した戦闘技術(バトルセンス)と未来予知や霊視に等しいレベルの直感で戦う為、脳筋の部類に入ってしまうのだ。もし、火乃香に感覚ではなく頭を使って戦うように指導若しくは矯正していれば天童霞に負けることはなかった。

「その辺でやめてくださいよコナー中尉、ティラー大尉。天童少佐も何か言ってくださいよ」

「お前らいい加減にしろ話が進まない。俺たちには時間が限られておるんだ。ケイル少尉が困っているぞ」

「へいへい」

「さて、話を進めるぞ。諸君らに課せられた任務は3つ。一つアーセナルギア内部に潜入し、システムを破壊すること。一つ上陸部隊の戦力をできる限り削ぐこと。一つ敵の大将。天童霞の排除だ。天童霞の排除およびシステム破壊はエメリッヒ博士と第一特務隊に任せるとして、残りの任務は第2から第5特務隊に任せる」

「本当に俺たちだけで天童霞を殺るんですか?天童少佐ですら勝ててないんですけど」

「その為のチームだフロー中尉」

「わかりました」

ジーク・フロー中尉は火乃香と同じく絃神島で活動していた諜報だ。絃神島で火乃香が敵の戦力を把握し武器弾薬を惜しげもなく使えていたのは全て彼のバックアップがあってこそだったりする。

天童火乃香、雷電、ジル・コナー、ケヴィン・ティラー、クリス・ケイル、ジーク・フロー。この6人が世界最強の分隊、第一特務隊アルマース隊のメンバーだ。

「次は実質的な話に移っていく。ここからはメイ・リンとエメリッヒ博士に解説をしてもらおう」

「分かったわ。オタコン説明お願い」

「OK。アーセナルギアの内部構造について、まずはこれを見てくれ」

映し出されたのはアーセナルギア全体の区画だった。各ブロックごとに水密区画が設けられ、非常に入り組んだ構造となっていた。

「アーセナルギアの中心部はここ。そしてこの通路を進んだ先にJAMの中枢を司る端末が置いてある。そこで戦場にいる兵士の体内ナノマシンの管理制御や兵器を取り扱っていて、その中に核発射権限がある」

「てことはそこにワームクラスターをぶち込めばJAMは崩壊したと同然って事?」

「その通り。君たちが戦闘時いつも腕につけている端末型の時計を中枢システムに近づけるだけで良い。ただ問題はこの端末にたどり着くまでなんだ」

困ったように頬を掻きながらPCを操作するオタコンに会議室はざわついた。

「端末にたどり着く前に、マイクロ波が放射している部屋を突破しなきゃいけないんだ…」

「マイクロ波か…随分と厄介だな」

「人間の丸焼きができちまうな」

「ブラックジョークを言うな…稲垣、ワームクラスターに関しては俺がやろう。今の俺は機械でできている」

「分かった。メインシステム破壊は雷電に任せよう。異論はないな?」

その後はアーセナルギアに潜入する為の段取りなどを確認しただけだった。

「では我々も18時間後、船尾メインブリッジに集合だ。以上、解散」

ブリーフィングに参加したメンバーは静かに席を立ち、各々作戦の準備に取り掛かった。

レーションを食べて腹を満たすものもいれば睡眠を取る者や神に祈りを捧げる健気な信徒など実に多種多様な過ごし方をしていた。

勿論、火乃香も作戦参加にあたり武器の選択を行なっていた。

火乃香が装備する武器はHK416D、HK45、そして夏音を助けた時に折れた黒鋼と白鋼を一本の刀に打ち直した火乃香の新しい刀、牙刀だ。一つ一つ丁寧に装備のチェックをしているとノックが二回鳴った。

「どうぞ」

「邪魔するよ。火乃香…本当に出て大丈夫なのか?」

「あぁ…やっぱあんたも寝ていろと言うのかケヴィン」

「いや、ただ叶瀬さんや殿下、南宮さんに一本連絡は入れないのかと思ってだな…」

「じゃあ電話してなんて言えばいい?君の元へ必ず帰ってくる!か?それとも心配するな!君達を置いて死んでしまうことはありえない!か?」

「そこまでは言っていない」

「いや言ってるね。死ぬかもしれないのにそんな適当なことを無責任に言い放つことはできない…俺が死んだらそれまで。みんなには悪いが俺の死を受け入れて未来を生きてくれってところだ」

火乃香は死亡フラグを盛大に建設するつもりなんて毛頭ない。とでもいいそうな勢いでケヴィンの提案を却下し、作業に没頭した。

無責任なことは言えない。

戦場に立つ者はいつ死ぬかわからない。ほんの数刻先は闇なのだ。さっきまで見ていた人間からほんの一瞬手元に目線を落としてもう一度そいつを見ると手足や首から上が吹っ飛んでいたりするなんてザラにあることだ。

小説や映画みたいにうまく自分だけが危機を脱し、愛する者の元へ戻れるなんてことは現実世界では起こりえない。映画のように情熱的な戦闘シーンで壮大なBGMが流れることもなければ、弾が自分から逸れていくこともない。戦場という大きなフィールドを見渡せば、映画のようなワンシーンなんてただの歴史(風景)の一部分にしか過ぎない。『戦争はヒーローごっこじゃない』

オタコンが熱く語っていた人気ロボットアニメシリーズのとあるパイロットのセリフだ。戦争に悪もなければ正義もない。あるのは殺伐とした自然の絶対的な掟である弱肉強食だけ。お互いのイデオロギーがぶつかり合い、そして死んでいく。ただそれだけのこと。それ以上もそれ以下でもない。だから火乃香はしっている。行きて帰ってくるなんて絶対的な保証はどこにもないことを、その気になれば物語の進行を大きく変えられてしまうこともある。いつ火乃香(主人公)(作者)に殺されるかわからない。戦場はそれだけ気まぐれなのだから。

「そうか…」

「あぁ」

ケヴィンは部屋から出ていき、火乃香は再び牙刀の手入れに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『CNNのスタジオからお送りさせていただきます!現在西海岸では大規模な戦闘が行われています。民間人の避難は完全に終了しているため民間人の犠牲はありません!しかし、既にアメリカ軍、国連軍、JAM共に多数の戦死者が出ており、第三艦隊所属艦艇のうち二隻が沈められています!」

『もしJAMが日本に攻撃を仕掛けてきたらどれほど持ちこたえることができるのでしょうか?』

『恐らく1日は耐えられるでしょうが、それ以降はなんとも…』

『憲法9条にあるように我が国に交戦権はありません!この侵略も不当な行為ではありますが、他国からの侵略ではなくテロ組織による都市破壊です!まずは刑法に照らし合わせ機動隊を出動させ…』

『この攻撃能力からして、いち組織の範囲を大きく上回っています。よってテロ組織としてではなく、他国からの侵略と解釈するのがこの場合はーー』

テレビではコメンテーターと専門家が未だにくだらない議論を展開し、次にテレビに映ったのは国会前でプラカードを持った民衆が戦争反対!と平和ボケした運動が繰り広げられ、平和ボケした民衆全員で手を繋ぎ国会の周囲を囲む人の輪なるものを展開している。

国会中継では自衛隊による今回の独断行動は憲法に違反するとか森友加計学園の忖度について立憲民主党を中心とした左寄りの野党が政府、与党に対し厳しい追及と無駄な議論の展開をして、首相や防衛大臣を悩ませていた。

国家非常事態宣言が発令し、予算の解放を決断しようにも、野党側から議事妨害を行うなど、国民の命より自分達の支持率確保を優先させる行動をとり続けていた。

「不思議ですね、有事の際に、同じ国なのにここまで対応に差が出てくるなんて」

「こんな事をしている場合ではないのに…」

「彼らは現状を正しく理解できていないと思われます」

南宮邸では3人の少女がテレビから流れるニュースを見ていた。

JAMの侵攻によって厳戒令が絃神島全体に発令され、学校は全て臨時休校になり、交通機関も停止し、普段多くの乗用車が行き交い、多くの人々が乗り降りするモノレールの存在はなくなり、その代わり特区警備隊(アイランドガード)の戦闘車輌が道路を埋め尽くしていた。

絃神島の周辺空域、海域を航行していた旅客機や貨物船を全て収容し、タンカーの集積が行われる港は現在、軍港として機能し、空港は全てのフライトを停止させ、航空戦力の本拠地として機能していた。

また、この家の主人たる南宮那月は防衛作戦の指揮に当たっていた。

本土では事の重大さがわからずに騒ぎ立てているのに対し、絃神島は徹底して交戦準備に取り掛かっている。一体何がこの差を作っているのか?それは絃神島が特別な存在であり、また与えられた権限が強く、乗り越えてきた修羅場の違いだろう。

『速報です!国連軍の別働隊が主力部隊と合流しました!映像を回します!』

電子戦から送られてきた映像がテレビ画面から流れている。

巨大な潜水艦を囲むようにイージス艦が並び、空に無数の航空機がドッグファイトを繰り広げていた。

アーセナルギア周囲に二つの異常な影が見えていた。

『最新情報です!現在西海岸には第三艦隊の他にハワイで記念艦として停泊していたはずの戦艦ミズーリと大戦中に沈んだと思われていた戦艦大和が、艦砲射撃を繰り広げています!』

まるで地獄絵図だった。

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー次弾発射まで残り85時間

システムクラッキング35%




久しぶりにアスタルテとか夏音とかラ・フォリアのセリフを書こうとしたらセリフがおかしなことになってしまったorz
本当はもう少し書こうと思ってたんですけどあまりにも酷すぎたため諦めました。
前半は第一特務隊のメンバーの紹介が目的です。
後半は聞き覚えのある政党や政治的問題を出しましたが、これはフィクションです。念の為に言っておきます!これはフィクションですから?!
とまぁこれは置いておいて、ニュースや国会の下りは実際にアメリカが某北半島と戦争をすることになって日本でも戦の火蓋が切られた場合国内はこうなるんじゃないかな〜っていう予想の元で執筆して見ました。
現実問題として、たった今開戦した場合、国内は避難とかの混乱ではなく国民は自衛隊反対のデモを、国会では与党のスキャンダル暴露や上げ足を取って早急に決定しなければいけない事案をグダグダと長引かせるような気がしてなりませんね(´・ω・`)

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