ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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孤島の武装蜂起決着後篇

REXが大きく吠えた。

火乃香はあまりの大きさに平衡感覚を失いそうになる。

未だによく分からない。先ほどの話は火乃香を惑わせる為に霞が蒔いた小さな種だと信じたいが、嘘をついている様子がなかった。

人間という生き物は常に何処かしらサインを発している。それはどんなに鍛え抜かれた歴戦の兵士だろうと、表面上は隠せても小さなサインは隠すことはできない。霞が話していた時、注意深く、慎重に観察していたが何処にもそういった様子が見当たらなかった。

___お前を逃がすために両親を殺した__

未だに深く心に突き刺さるその言葉。

だが今は自分の命をチップとして掛けた死のルーレット(デスゲーム)をプレイしている最中だ。余計な疑問や感情が数刻後には冷たい死体となっている。

全神経を集中させる。

レックスの機銃が火乃香を襲う。火乃香はギリギリ機銃を避けながら走り、物陰に隠れる。

オタコンが言っていたREXの弱点であるレドームを確認した。

レドームは目標を探すように左右へ動いている。あそこにスティンガーさえ叩き込めれば…。

火乃香の今の手持ちの武装といえば、ソーコムとM4カービンライフル、チャフグレネードが1つとグレネードが1つだ。

鉄の塊と対峙するにはあまりにも貧弱な武装だった。

それに先程から続く機銃の掃射で身動きが取れない状況だった。

このままでは八方塞がり。そのうちこちらが消耗し殺されてしまう。

絶体絶命のピンチかと思えたその瞬間だった。

「情けないぞ、アルマース1…いや火乃香」

機械の音声だったが、それでもわかった。全身強化骨格に身を包み、刀を持ち、背中には2発のスティンガーを担いだ男。

「雷電!」

「全く…俺がいない間にずいぶん腑抜けたものだ…。先程はすまなかったな」

「先程?」

「研究室での殴り合いだ…」

「気にしていない…だが…本当に雷電…なのか?」

「あぁ…待たせたな…。REX(あいつ)をスクラップにするんだろう?」

「あぁ…あれを開発した研究者の話によれば、REX全身は核でも壊れないらしい…けどレドームだけは唯一弱点でそこを破壊すればコックピットが開く。そこにスティンガーを叩き込めばいいと言っていた」

「チャフはあるな?なら俺が囮になろう。ディープスロートからの最後のプレゼントだ!」

雷電がスティンガーを置き、物陰から飛び出した。足元には火花が散っていた。機銃とREX本体が雷電の方へ向いたその隙に火乃香はチャフを撒き、スティンガーの照準をレドームへ合わせた。

チャフの効力が切れるまで約3秒。

沈黙の時間だった。

チャフの効果が切れる。スティンガーが目標をロックオンし、電子音の甲高い音が鳴り響く。

ゆっくりと引き金に指をかけそしてREXが背中に搭載した小型ミサイルを発射するためにかがんだ瞬間、火乃香の持つスティンガーが火を吹いた。

弾道はまっすぐ目標を追いかける。そして、レドームに直撃した。

大きく火花と爆音を鳴らしながらコックピットが力なく開いた。

中に乗っていた霞は頭を振りながら火乃香を睨みつける。

「火乃香アァァァァァァァァァ!」

「霞ィィィィィィィィィィィィィ!」

2人の怒号が格納庫内に響く。雷電は立ち止まり2人をじっと見ていた。観察者として。

そして火乃香と霞は互いに銃口を突きつけた。

火乃香はスティンガーを霞はガバメントを。

先に引き金を引いたのは火乃香だった。

まっすぐ弾道がREXのコックピットに直撃する瞬間コックピットをとっさに上へあげたため爆破から難を逃れた。

REXは制御システムにダメージをくらい、倒れ込んだ。コックピットからボロボロになった霞が吐き出され、ふらふらになりながら格納庫の出口へと走った。

火乃香も爆風をもろに浴び、うまく立てなくなっていた。全身に鞭を打ち、痛む身体をなんとか歩かせようと踏ん張りながらも、戦闘の連続で疲労がピークに達していたために何度も転ぶ。

そして何度目か数えるのがバカらしくなるほど転倒し、立ち上がろうとした瞬間右肩に違和感を覚えた。

「アルマース1大丈夫かい?!」

「オ、オタコン…」

オタコンが肩を持ってくれた。

雷電も近くにより、左肩を持つ。

「き、君は!な、何の用だ?!」

いきなり現れた雷電を見てオタコンは若干怯えていた。それもそうだろう。何せオタコンは雷電に殺されかけたのだから。

「オタコン…こいつは…今は大丈夫だ…それより霞を追わなきゃ」

「そ、そうだね」

格納庫横にある駐車場に向かい、一台のジープに乗り込みエンジンをかけた。

座席は運転席にオタコン助手席に火乃香、後部座席に雷電という位置関係だ。

霞が検問を突破したのだろう所々車で跳ねられた兵士がいた。

運転すること約5分。ついに出口の光が見えた。

朝日が昇り始めていた。

そして、その朝日をバックに巨大な影…潜水艦アーセナルギアが停泊していた。

霞は既に潜水艦の甲板に乗り込んでいた。

腕を組み、こちらを見下している。

「残念だったな兄弟!貴様は今日この俺を殺し損ねた!それにワームホールドライバーとステレス核弾頭という切り札を手に入れた!核弾頭はニューヨクへ…記念すべきワームホールドライバーによる攻撃は…絃神島だ!だか喜べ!その前に貴様を殺してやる!火乃香ぁ!」

「やめろおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!」

ワームホールドライバーと核弾頭。世界を揺るがす力を秘めた二枚の切り札をJAMに奪われ、さらに満身創痍の火乃香は霞とアーセナルギアを仕留めることなどできない。

アーセナルギアが島に向かい前進してくる。

地面がえぐれ火乃香達に近づいてくる。

オタコンは基地に向かって走った。火乃香はその場に座り込み、最後の瞬間を待った。

ここで死ぬのか…アーセナルギアがほのかに近づいてくる。1m、50cmこのまま押しつぶされる。目を固く瞑り、最後の時を待つ。しかし火乃香まで残り30cmのところで、アーセナルギアは………止まった。

いつまでたっても潰される気配がないことに疑問を持ち、目を開ける。アーセナルギアが目の前で止まっていたのだ。

下を見ると雷電がアーセノルギアを止めていた。

「ちっ!死に損ないが!いつまでその強化骨格が保つか見ものだな!」

「ほ、火乃香…俺達は…消耗品だ道具なんだ…政府や組織の消耗品なんだ…。時代に翻弄され、弄ばれ続ける存在だ。人を殺し、泥水をすする様にその日その日を生き続けなければならない…!だけど…それでも俺は…常に誰かのために戦ってきた訳ではない…。どんなに命令されても…必ず自分の意思で戦ってきた…。戦う事から逃げずに向き合ってきた。火乃香…俺にはもう未来はない…だが…お前にはこの先を切り開く力がある…。ダイヤモンドの原石のように…輝く瞬間を待っている。今は泥だらけの只の石ころだ…だけど…絶望するな…お前には未来があるんだから…」

強化骨格から火花が散り、限界を超えているのは誰にだってわかる。

雷電は懺悔に近い告白をする。

火乃香や雷電の様な傭兵は誰かの道具であることに間違いはない。その中で自分の意思で人を殺す者と時代に翻弄され流されて人を殺す者両者がいる。

雷電は常に自分の意思で人を殺してきた。ただの道具でありながら、その罪を背負っている。彼の(ダイヤモンド)は本物だった。

火乃香とて、自分の意思で戦ってこなかった訳ではない。しかし、忠を尽くす相手が変わり続けていた。

雷電は己に忠を誓い、火乃香は任務に忠を誓っていた。

この世に絶対敵などいない。存在するのは時代によって変わり続ける相対敵しかいない。

火乃香は泥にまみれた猟犬と同等の存在でしかなかった。今までずっとそう感じ、傭兵は皆そういう者だと思っていた。しかしそれは間違いだった。

雷電は泥塗れの猟犬ではなく、誇り高き(ウルフ)と同じ側の人間だった。

火乃香が殺した彼女も己に忠を尽くし、任務を全うしていた。

ー生きたいーこの一瞬で火乃香はそう感じた。

アーセナルギアの出力が上がる。

雷電の苦痛に満ちた声が聞こえてくる。

逃げなければ…今すぐ逃げなければならない。最後の力を振り絞りゆっくりと立ち上がろうとした。

そして、立ち上がろうとした瞬間、無線機から人の声がした。

『戦闘用意』

無線機越しから水上戦闘を開始するベルが聞こえてきた。

『46糎主砲1番2番3番徹甲弾装填、VLS1〜15ハープーン装填』

『目標補足、アーセナルギア、主砲射角調整』

『TDS指示の目標』

『1番砲塔撃て!』

無線機から砲撃の合図がした数秒後アーセナルギア右舷に巨大な水柱が3本そびえ立った。至近弾だった。その後砲弾が飛んできた方向から高速で飛翔する飛行物体ハープーンがアーセナルギアに向け真っ直ぐ突っ込んできた。

アーセナルギアは、迎撃用艦対空ミサイルを発射し、ハープーン15発全弾撃破した。

そして徐々にアーセナルギアへ攻撃を仕掛けた存在が浮かび上がってきた。海にそびえ立つかのように高い艦橋。鋼鉄の46糎三連砲(・・・・・・)を搭載した戦艦が存在していた。

「くそ!大和だと…?!あれは第二次大戦で沈んだんじゃないのか…?!まさか…!くっ!稲垣め!あいつ化石を発掘してきやがった!」

戦艦大和。大日本帝国が総力を挙げ、国の威信をかけ建造された艦隊決戦の切り札として、また、大艦巨砲主義の象徴。

第二次大戦末期、沖縄特攻に向かう最中、敵の激しい空襲を受け、沈没した船。戦艦大和のもう一つの特徴ともいうべき高射砲などは全て排除されている。恐らく、高射砲の代わりに、ミサイル発射装置とCIWSを取り付け、索敵能力を上げるためのレーダー機器を取り付け、近代化改修を済ませたのだろう。

戦艦の近代化はミズーリが実際に行なっているため、設計や、構造などは容易に立てることができたはずだ。

アーセナルギアは水中へ逃げ、島に残ったのはボロボロになった雷電と地面にヘタリ込むオタコン、そして仰向けになり横たわる火乃香の3人だった。

ヘリの音が聞こえてくる。

こうして、JAMによる孤島の武装蜂起は幕を閉じた。

CFFの敗北として、そして、これから始まる一週間は彼らにとって人生で最も長い一週間になるだろう。

長かった1日はその前触れでしかなかった。

 




と、取り敢えず前半戦終了です…。
次からは火乃香を少し休ませます。
今年はこれで投稿が終了になるかもしれませんねぇ…キリがいいですし。
次話は来年に投稿させていただきます!とは言っても1月には期末試験があるんでその対策に追われるため、来月もビミョーですね。
投稿に関する情報は後で書いておきます。
では皆さん少々早いですが、良いお年を!!!

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