ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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前回までのあらすじ
突如CFFと敵対する国際テロ組織『JAM』によって太平洋上に浮かぶ島で蜂起が起きた。彼らは人質として国防省付属機関先進研究局(DARPA)局長ドナルドアンダーソン、アームズテック社社長ケネス・ベイカー両名を人質にし、24時間以内に国連軍に対しワームホールドライバーの制御システムを要求。もし要求が飲めなかった場合人質に名の殺害と新型核弾頭の発射をすると警告した。
この事件に対応するため国連軍特殊部隊『COMBAT FAIRY FORCE』
第一特務隊所属南宮火乃香を投入。
途中基地で幽閉されながらも新型核弾頭の情報を提供した開発チーフであるハル・エメリッヒとの接触やこの武装蜂起における幹部クラスであるリボルバーオセロット、バルカンレイヴン、スナイパーウルフや五年前に失踪した雷電との戦闘を潜り抜けた。しかしスナイパーウルフによる罠によって火乃香は一度敵の手に落ち、拷問を受け目を失った。
その後独房を脱出し、新型核弾頭が保管されていると言われている地下整備基地へ向かうためヘリポートへ向かう。そこでハインドに乗ったバルカンレイヴンを撃破し、平原へ向かうも火乃香を罠に嵌めたスナイパーウルフの狙撃に合うのであった。


孤島の武装蜂起篇Secondmission2

『人は戦場でも愛が芽生えると思う?』

たった1人の男が持ったその疑問。そしてその男のうちに秘めるその想いがなんなのか。それを知りたいが故の質問だった。そして今火乃香はそんな彼が一方的に愛する女性を殺そうとしている。そしてまた彼女も火乃香を殺そうとしている。

とにかく急いで移動しなければただの的になってしまうので急いで岩陰に隠れた。

風が強いなかここまで正確に狙撃してくるということは相当の腕がなければ難しい。

火乃香も狙撃に自信がないわけではない。むしろ得意な方だ。しかし、度重なる生死の境目を彷徨う激闘を何度も行なっていたことと拷問による体力の消耗によって精神的にも肉体的にも緊張が高まり腕が震え、狙いが定まらない。

それに加えて狙撃をするにはいささか無理がある場所にいる。

しかしそれでも全く引き金を引くことができないという状況ではない。スコープを覗けば反対側ウルフが居る場所を見ることができるし、偶にウルフが移動するところを見ることもできる。

もっといい狙撃ポイントはある。

だが、その場所からうごけないよう、ウルフはある一定のラインを引き、圧力をかけている。正確には圧力をかけていると感じるのだ。

試しにギリギリまで前に行こうという自殺と同レベルの行為はしたくないので大人しく今いるポイントで狙撃を続ける。

ウルフがレーザーポイントを使い、絶対に外さないとメッセージを送ってくる。

スコープ越しに目があった。

火乃香とウルフは同時に引き金を引く。高速で飛び出した2発の弾丸は丁度2人の距離の中間地点で甲高い音と火花を散らしぶつかった。

玉と玉の衝突が起きたのだ。

ウルフは依然として伏せ撃ち姿勢(ブローン・ポジション)でこちらを狙っている。岩陰から身を乗り出し、スネークとウルフが再び同時に引き金を引いた。気のせいだろうか、耳元でうるさく鳴っていた風の音と嵐が止み、ウルフの持つライフルから放たれた弾丸の軌跡がゆっくりと見えた。右回転をしがらみ火乃香の左頬を掠め、地面に着弾した。そしてスコープ越しにはウルフが胸を苦しそうに押さえている。押さえているその手からは赤い液体が垂れていた。

火乃香は奇妙な感覚に陥った。依然として強風が火乃香を煽るがそれとは比べ物にならないほどの感覚だ。時間が引き延ばされる。そんな奇妙な感覚に身を委ねながら自然と体が倒れこむウルフの元へ近づいていく。

オタコンが息を切らせながら走ってきたのを横目で見る。

「そんな…どうして…」

膝から崩れ落ち泣いていた。

とうとう火乃香がウルフの側に立った時世界は静まり返った。

「私は、ずっと待っていた」

先程まで荒れていた空が今は静寂を貫いていた。狼の遠吠えが聞こえる。まるでここが戦場であるということを忘れてしまうほど幻想的な景色だった。

「私はスナイパーだ。待つのが任務。微動だにせず、ただひたすら」

彼女は月を見ていた。彼女の体の一部だったライフルはその手から離れた。

「肺をやられた。もう助からない。お前ならわかるな?楽にしてくれないか」

ウルフが咳き込むのが聞こえる。早く彼女のところに行かなければ。焦り、躓き、そして無力を味わう。自分を責め、呪い、そして泣く。涙を流す。けれどもウルフのハンカチを使わなかった。彼女の子のハンカチはもっと尊いもののためにある気がしたからだ。

「私はクルドだ。ずっと落ち着けるところを探してきた」

「私は戦場で生まれた 育ったのも戦場だ 銃声や怒号―― 悲鳴が私の子守歌だった 

来る日も来る日も狩りたてられ 憑かれたように戦う それが私の日課だった… 

朝 目覚めると 仲間や家族の死体が累々と横たわっていた 私達は朝日を見ながら… 今日の命を祈った 

政治や歴史は 単に私達をなぶるだけの存在でしかなかった そんな時 あの人が現れた 

あの人―― 英雄サラディンが助けてくれた」

ポツポツと今にも消え入りそうな小さな声が途切れ途切れに聞こえる。

「英雄サラディン…霞か…」

「私はスナイパーになった。身を隠し、スコープから世界を傍観する立場になった。戦場を内からではなく、そとから客観的に観る立場に。私はそうやって、戦場の外から殺戮をーこのおほかな歴史を観てきた。私は世の中に復讐する為にこの部隊、この蹶起に参加した。しかし私は、(ウルフ)としての誇りを失ってしまった。復讐の念が、身も心も私を変えてしまった。今の私は(ドッグ)同然…」

ウルフは泣いていた。火乃香は彼女の涙をそっと拭きながら話始めた。

(ウルフ)は高潔な生き物だ。(ドッグ)とは違う。俺の住んでいる日本やイヌイットでは昔から狼と共存し、そして彼らを神のように崇めていた。俺たちのような傭兵なんかは戦争の犬(dog of war)と呼ばれている。確かに俺たちは消耗品だ。しかしお前は違う。(ウルフ)だ。(dog)ではない」

「お前は、誰なの?もしかして、サラディン?」

「お前は逃げも隠れもしなかった。やろうと思えば一方的に殺せたにも関わらず」

「例え任務でも…あなたみたいな未来ある子供を一方的に殺したくはない…」

「安心しろ、ウルフらしく、気高く死ねる」

「今わかった。誰かを殺す為に潜伏していたんじゃない。殺されるのを待っていたんだ。お前のような男に……お前は英雄だ。私を解放してくれる」

2人の会話を聞きながらオタコンは考えていた。なぜ彼女に惹かれたのか。2人のように明日の命をも知れない過酷な環境にいたわけでもない。でも僕の運命は、自分でどうしようもないあらかじめ定められた呪いがかけられていた。それが勝手に見出した僕とウルフの共通点だった。

火乃香がソーコムをウルフの胸にそっと照準を合わせている。

「どうしてなんだ」

オタコンはステルス迷彩を脱ぎ捨て実体化した。

「愛していた」

オタコンは呟いた。その声はウルフに届いているのかわからない。

「銃を、私の近くに…」

オタコンがPSG1を手に取りウルフに渡す。

「銃は私の一部なの」

ウルフが微笑んだ。最初で最後にオタコンへ向けられた表情だった。

その表情はどこか儚げでそして残酷なまでに美しかった。

「みんな、いるわね。さあ、英雄(ヒーロー)、私を解放して」

優しい風と共に狼の遠吠えが聞こえてきた。

火乃香の指がトリガーを引き絞った。

バン!

1発の銃声と排出された空薬莢が宙を舞った。

 

 

 

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「アルマース1、戦場でも愛は享受できるって言ったよね。僕は何もできなかった」

オタコンはウルフにハンカチを返した。これは彼女が持つべき高貴なハンカチだからだ。

「地下整備基地に潜入する。時間がない」

「わかってる」

「自分の身は自分で守れ。誰も信用するな。メタルギアの破壊に失敗すれば、空爆を受けるはずだ」

「無線機は手放さない。君を追跡している」

「いつでも逃げていい残りの人生好きなように生きろ」

「アルマース1!」

オタコンは叫んだ

「彼女は何のために闘ったのかな?僕は何のために!アルマース1は何のために!」

オタコンの涙はすでに枯れていた。そして火乃香は歩みを止め振り返った

「生きて会えたら答えを教えてやる!」

だから死ぬなよ。隠されたメッセージも一緒に送った。

オタコンは少し考え込むそぶりをした後に無邪気に笑い、叫んだ。

「わかった!ほの時までに僕も答えを探しておくよ!」

だから生きて必ず再開しよう。隠されたメッセージへの返答が帰ってきた気がした。

そして2人はそれぞれ反対の向きに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

タイムリミットまで残り12時間30分




後半はほとんど使い回しました。手抜きという方もいらっしゃると思いますが自分的にこのシーンはMGS1の中で1番の名シーンであり、話を変えるなんてことができませんでした。私はこのシーンで何度泣かされたことか。

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