ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 作:ソードダンサー
水をかけられ、深い沼の底にあった意識が急激に戻される。
暗い部屋だった。コンクリートの壁と鉄の重たい扉が固く閉ざされていた。近くには竃が設置され、赤く輝いた竃の中には鉄棒が何本か刺さっていた。
スナイパーウルフとの戦闘後にそのまま進もうとしたところ奴に嵌められたことを思い出した。顔についた引っかき傷が若干痛む。
見張りに2人補助に5人、大男が1人。そして5人が囲っている台の上には剃刀やナイフ、針、鞭、他にも怪しい薬やノコギリのようなもの、ハサミが置いてあった。
徐に、兵士が火乃香の左肩から真っ直ぐ左脇の下まで剃刀を使い切っていく。
「ッッッッ!」
それからは針で上腕筋や右肩といった急所ではない場所をを刺され、背中には何十回と鞭で打たれ皮膚がめくれていない部分を探す方が苦労するほどだった。
「…刀使い…お前は敗者だ…この記念すべき日に一生残るプレゼント欲しいと思わないか?」
レイヴンが邪悪な笑みを浮かべる。思えばこの島自体、核廃棄処理施設といってはいるものの施設自体は米軍が管理している。ここは政府に見放された島だ。キューバにある米軍キャンプ同様、この島ではアメリカの法律が適用されない土地だ。だったら様々な拷問器具が置いてあるのも頷ける。
火乃香は痛みで逆に冷静に判断できるようになっていた。
だが一生残るプレゼント…そう考えた瞬間、竃に刺さっていた鉄棒が抜かれた。
「!」
何かの柄になっている真っ赤に燃えた…鉄板…紛れも無い焼印だ。
「敗者の烙印を今からつけてやる…味わえよ」
右肩に真っ赤に燃える鉄板を押し付けられた。
「ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
熱いを通り越して痛い。腕がめくれるように熱い。涙を流すことすらできない…声にならない悲鳴が部屋の中に響く。
レイヴンはどことなく興奮している。右腕が震え、力なく首が沈む。右肩には髑髏の背後に二本の剣がクロスして刺さっている模様が見えた。
そして訳の分からぬ薬を刺され、火乃香は意識を失った。
「!」
鳩尾辺りに鋭い痛みが走り、呼吸がままならなくなる。
暗い。そして苦しい。周りが見えないが、自分はまだ上半身裸体で両手首を上から鎖で吊るされ拘束されているようだ。先ほどと変わった点といえば顔に麻袋か何かで覆われ、水をかけられたのか呼吸するたびに、布が顔にひっつく程度だろう。
「ウォラ!」
殴られる今の火乃香は文字通りサンドバッグである。様々な痛みが火乃香を襲う。
「刀使い…これは拷問では無い…スポーツだ!気持ちがいいものだ…。しかし不思議なものだなぁ!お前を殴るたびにまるでワーグナーのワルキューレの騎行を聞いているかのような錯覚に陥る!」
「!」
ジャラジャラと自分を拘束する鎖が鳴り、火乃香は脱力している。もし鎖で拘束されていなければすぐに倒れてしまうほどだ。
全身に痣ができ、血が流れている。傷のないところなんてどこにもないほどに。
「レイヴン、時間がないんだ早くしろ」
「ボス!まぁもう少し楽しませてくださいよ」
「何を行っているんだレイヴン?次は私がやるんだ…殺したら呪ってやるぞ」
ボスーそう聞こえた瞬間残された力を振り絞り、横目で睨みつける。
この武装蜂起の主犯格であり、火乃香の敵でもある天童霞だ。
それにオセロットもいる。
「火乃香…喋る気になったか?」
「テメェに…喋ること…なんざ…ねぇ…よ」
「まだ言うのか?!」
「グッ!」
強烈な右ストレートが火乃香の脇腹を抉ってくる。
「レイヴン!まぁまて…いいか火乃香…素直に喋るんだ。CFFの持つ切り札…ワームホールドライバーを…あれの制御コードを手に入れなければならないんだ」
「そんな…もん…しらねぇし……初めて聞いたな………」
ボロボロになった火乃香を憐れみの目で見続ける霞は踵を返し、部屋から退出しようとした。
「少し待ってくださいボス」
オセロットが部屋を出ようとしていた霞に制止をかける。
「あなたの今回の戦闘員の配置について余りにも消極的すぎる…忍者の件や我々の配置に悪意が感じます!もしやと思うが…あなたが密告者なのでは?」
「何を言っている?」
オセロットが今まで抱いていた疑問を投げつける。確かに、レイヴンやオセロット、ハインドDやM1戦車を1箇所に集中して配置し、火乃香を迎え撃てば簡単に殺すことができた…筈だ。なのにそれをやらなかった。だからこそ、霞が裏で糸を引いていたと考えたのだろう。
「証拠がありませんボス。自分が無実だと証明したければ…」
「目だ」
野太い声が発せられた。今まで散々火乃香を苛めていたレイヴンだった。
「目は兵士にとって生命そのもの…それを奪えれば…無実を信じよう」
「わかった」
ゆっくりと霞は火乃香の元へ歩く。コツンコツンと一歩一歩踏み出す音が無音の空間の中で鳴り響く。
火乃香の目の前でナイフを抜いた。ゆっくり顔をあげる。痛みで火乃香の顎が痙攣しているためガチガチと歯が鳴る。
ナイフの先端を左目にゆっくり合わせる。
「_____________________!」
霞が火乃香の目にナイフを突き刺した。火乃香は叫んだ。声にならないほどだ。痛む。目が圧迫され左目が熱くなり、そしてヌルヌルとした液体が頬を伝う。ゆっくりとナイフが抜かれた。右目は光を視認できるが、左目は闇だ。鋭い痛み以外何も感じない。
未だ無事な右目から見える光景は下にボタボタと落ちる自分の血と、涙で歪んだ地面だけだった。
「これで十分か?」
「え、えぇ…」
「衛兵…奴の左目の止血と包帯を巻いとけそのまま死んでもらっては困るからな」
火乃香が気絶しそうになるたびに水をかけていた兵士に霞がそう命じ、もう2人ほど人員を呼び、両手を縛っていた鎖を外し火乃香を独房に放り込んだ。
________________________________________
火乃香が拷問を受けている間ディスカバリーは阿鼻叫喚の嵐だった。
火乃香の痛みは全てナノマシンを介して数値化されている。
火乃香が受けていた電気責めや水責め、鞭打ちなどの様々な痛みが生と死の境目ギリギリを狙われていた。
背中には赤い線が無数に走っていて、胴体は青く変色までしている部分もある。
凄まじい拷問になんとか耐え抜いてはいた。
「酷すぎる…」
モニターからは火乃香の苦痛で歪んだ声が聞こえてくる。
少しでも痛みを和らげるため、ナノマシンでホルモンの分泌を促そうとしたナオミ・ハンターだが、稲垣隼人に止められた。
「なぜ止めるんですか?!」
「奴らは火乃香の様子を見ながら死ぬギリギリを狙って痛めつけたているんだ!もしここで痛みをかき消してしまったら、殺されてしまう!それに火乃香も伊達にアルマース隊の隊長をやっているわけじゃない!今は…信じるしかない」
彼の言う通りだった。痛みを無視できるようになっても結局は体に負担がかかっているのは変わりない。相手が行き過ぎた先に殺すのは目に見えている。
『ワームホールドライバーを…あれの制御コードを手に入れなければならない…』
モニターから火乃香への尋問内容が聞こえて来た。
ワームホールドライバー…機密の多い
そもそも、CFFでの機密情報の扱いは現場にいる隊員を始めオペレーターを始めとする後方支援…果は数時間前に火乃香がボヤいていた通り、特務隊の連中や国連安保理常任理事国に出席する各国代表ですら知らない。全てを知っているのは総司令官である稲垣隼人ただ1人。
そして、モニターに映されている心拍数が一気に跳ね上がる。
不穏な会話が聞こえ、次の瞬間今まで聞いた悲鳴の中で最も激しく、苦痛に歪んだ声が聞こえてきた。
そして、一気に静まり返り、ズルズルと引きずられる音が聞こえていた。
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「グッ!」
「そこでおとなしく寝てろ!」
白い部屋で研究室を印象付けさせる部屋に放り込まれた。
部屋は防弾ガラスで脱出は不可能に近い。唯一の脱出口となるのは今は固く閉ざされた鉄扉ただ一つ。
部屋には壁から備え付けられただけのベットと丸見えなトイレのみ。とりあえずベッドに腰掛けることにした。
横を見ると先程まで拷問わ受けていた部屋が見える。
左目は乱雑に止血され、包帯が適当に巻かれているだけだった。
最低限の治療はしてくれたらしい。左目はいまだにじくじくと鈍い痛みが続き、鞭で打たれた背中には無数の細い線に位置する部分が鋭い痛みが脳を刺激する。
通信がきた。
『アルマース1!大丈夫か?』
「この状態で大丈夫か?って言ってるお前の頭が大丈夫か?左目をやられた…」
『アルマース1デキセドリンは要るかしら?』
「有難いが気持ちだけ受け取っておく…制欲を持て余すからな…」
『あら、ごめんなさい』
可笑しそうに笑うナオミに釣られ、火乃香も笑いだす。デキセドリンなんていう薬物に手を出さなくとも痛みを紛らわす方法はいくらでもある。
「そうだな…痛みを紛らわすために話を聞いてくれる?」
『えぇ、いいわよ』
「話といっても懺悔に近いけどね…あれは今から5年前かな…」
『火乃香…あのことを話すのか?』
「大佐…俺はもう平気だ」
『そうか…』
ゆっくり語り出した…
タイムリミットまで残り13時間30分
ちょっと今回は追憶編の休息です。
それとこれから投稿ペースが落ちてくると思います…テストや文化系サークルの展示会とか体育会系のサークルの練習とかゼミのプレゼン発表とかとかそれにあと2ヶ月くらいで後期試験があるから惚れに向けての勉強も始めなあかんくなりまして…かなりリアルが忙しくなりはじめてます。ご迷惑をお掛けしますがなるべく半月に1話ずつのペースで投稿できたらなと思ってます。ではまた!